博 士 ( 農 学 ) 櫻 井 政 昭
学 位 論 文 題 名
微 生 物 の 生 産 す る 新 規 抗 癌 物 質 お よ び 抗 ア レ ル ギ ー 物 質 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要旨
微生物二次代謝産物は医薬品の探索源として重要であり、これまでに高脂血症治療薬プラバスタチ ン、免疫抑制剤サイクロスポリン、糖尿病治療薬アクラボス、抗肥満薬オルリスタッ卜などが開発さ れ、臨床で使用されている。これまでに同定された微生物の割合は、自然界に存在が予想される全体 から比較すると放線菌で約10%、糸状菌で約5%に過ぎないと推測されている。微生物は、今だ分離 されていない菌株が多数存在し、新規化合物の探索源として興味深い。一方、近年のアッセイロボッ トによる自動化と反応系の微量化によって、アッセイの高速化と効率化、いわゆるハイスループッ卜 スクリーニング技術が進展し、一日あたり数千から数万個の化合物の生物活性測定が可能となった。
そこで、筆者は新規メカニズムに基づく抗癌剤およびアレルギー性疾患治療剤を、微生物二次代謝産 物からハイスループットスクリーニング技術を利用して探索した。
拭疸剖Q擁塞
現在、臨床で用いられている抗癌剤の多くは、細胞毒性を指標にしたスクリーニングから見出され たものである。これらは正常細胞ーも作用を示すため、副作用が大きな問題.となっている。そのため、
癌細胞特異的に作用する薬剤の研究が活発に進められており、近年、慢性骨髄性白血病治療薬である BCRーABLチロチンキナーゼ阻害剤グりベックや肺癌治療薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬イレ ッサといったシグナル伝達を選択的に阻害する分子標的薬剤が上市するようになってきた。そこで、
筆者は、細胞増殖と分化に関わる癌細胞に特異的な遺伝子の転写調飾物質に作用する癌細胞選択的な 抗癌剤の探索を試みた。ルシフェラーゼアッセイでSV40プロモーターを活性化する微生物二次代謝 産物を探索した結果、未同定糸状菌TC1630株の培養液からTMC−205を見出した。各種機器分析の結 果、TMC―205は3―methyl−1,3ーbutadienyl基を有する新規インドールアルカロイドであった。TMC‑205 は0.1M〜l00 pt.Mの範囲で濃度依存的にルシフェラーゼ活性の増強を示した。また、試験したすべ てのヒ卜およびマウス癌細胞株に対し、IC50が50 ht.M〜200刪と中程度の細胞障害活性を示した。作 用メカニズムの解析を行った結果、TMC−205はSV40プロモーターとSV40エンハンサーのいずれをも 有するベクターを用いた場合には濃度依存的にルシフェラーゼ増強活性を示したが、SV40エンハン サーがなく、SV40プロモーターのみを有するべクターを用いた場合には全くルシフェラーゼ増強活 性を示さなかった。svー40エンハンサーには癌細胞増殖抑制に関わる転写因子AP―1,sp―1の結合部 位が存在することが明らかになっている。したがって、TMC―205の作用点はSV40エンハンサー部位 に結合するこれら転写因子に関連があることが示唆された。
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アレルギー性疾皇塗癧劃堕援塞
気管支喘息、ア卜ピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患治療薬としてステロイ ドが汎用されている。ステロイド系薬剤は、非常に強カな抗アレルギー作用を示すが、種々の副作用 があるために、非ステロイド´陸の薬剤開発が期待されている。筆者は、非ステロイド性アレルギー疾 患治療 薬の標 的分子と して免疫 細胞のT細胞から産生されるサイトカインであるInterleukin―4 (IL―4)とInterleukin―5(ILー5)に注目した。
IL―4は 、抗 体 産 生細 胞 で あるB細 胞 内シ グ ナ ルを 介 し 、ア レ ル ギー 性 疾 患の 発 病に 関わる ImmunogloblinE(IgE)の産生に重要な役割を果たす。筆者はILー4のシグナルを抑制する物質の探索 を目的 として 、IL−4シグナル 伝達経 路の転写因子であるSignal transducer and activator of transcription6(STAT6)の認識配列をもつルシフェラーゼベクターを作製し、IL−4依存的なルシフ ェラーゼ発現を抑制する物質のスクリーニングを実施した。その結果、糸状菌3菌株から活性化合物 を単離し、その構造を各種機器分析により決定した。Aspergillus nigar var niger TC 1629株から は新規naphtoI−pyrone系化合物TMC―256A1,Cl、Acremonium kiliense TC 1730株からは既知化合物 pramanicinの新規アナログTMCー260、Phoma sp. TC 1674株からは新規dibenzo―pyran系化合物TMCー264 を見出した。これら4化合物はIL−4依存的なルシフェラーゼ活性を選択的に阻害し、さらにヒ卜由 来のB細胞株 であるDND39細胞 におい て、IgE産生に必須である内因性のgermlineC8遺伝子の発現 を抑制した。TMC−264の作用ヌカニズムを解析した結果、TMCー264はSTAT6のりン酸化およびりン酸 化STAT6とSTAT6認識配列との結合を選択的に阻害することが明らかとなった。TMC―264と同様の炭 素骨格を有する既知化合物としてAlternariolが存在するが、この化合物がIL―4シグナル伝達阻害 作用を示さないことから、C―4位の酸化とCー2位ーの塩素付加がTMC―264のIL―4シグナル伝達阻害 活性に関与していると予想される。低分子のStat6リン酸化阻害物質としてStrictininの報告があ るが、その阻害作用は50 ‑‑‑100洲と非常に弱いのに対し、TMC―264はIC50が1.6川と強い活性を示 した。TMC―264は、今後のIL−4をターゲットとした抗アレルギー疾患治療薬開発に有用な化合物と して期待される。
IL−5は気道局所ーの好酸球浸潤および好酸球の活性化や寿命延長を引き起こし、気管支喘息発症 に関与する重要な因子である。筆者はILー5による好酸球の寿命延長を抑制する化合物を微生物二次 代謝産物から探索した。スクリーニング方法としては、モルモットから調製した好酸球を用い、IL―5 添加に よる細 胞生存期間の延長に対する微生物二次代謝産物の影響を調ぺた。その結果、糸状菌 Aspergillus ustus TC 1118株の培養液からTMCー120A,B,Cを見出した。TMC―120A,B,Cは各種 機器分析の結果、天然物としては初めて見出されたfuro[3,2‑h] isoquinolineタイプの新規イソキ ノリンアルカロイドであることが判明した。TMCー120BはIC50が2.OyMと最も強く寿命延長抑制活性 を抑制した。各種誘導体を合成して構造活性相関を調べたところ、囁ケ不飽和ケトンが活性に重要 であることが示唆された。TMC―120Bは、細胞障害活性を示さなかったことから、選択的に好酸球内 のIL―5シ グ ナ ル 伝 達 経 路 を阻 害 し 、好 酸 球 寿命 延 長 抑制 作 用 を示 す こ と が推 測 さ れた 。
以上のように、筆者は本研究で微生物二次代謝産物からユニークな生物活性を有する新規化合物を 各種スクリーニング系によって見出した。これらの発見は今後の抗癌剤、アレルギー性疾患治療剤の 開発研究に役立っものと思われる。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 横田 篤 副査 教授 川端 潤 副査 教授 生方 信
学 位 論 文 題 名
微生物の生産する新規抗癌物質および 抗アレルギー物質に関する研究
本 論文 は, 和文 111 , 図58 ,表 25 , 3 章か らな り, 参考 論文 7 編が 添え られ てい る.
微生物二次代謝産物は医薬品の探索源として重要であり、これまでに高脂血症治療薬 プラ バス タチ ン、 免疫 抑制剤 サイ クロ スポ リン 、糖 尿病治療薬アクラポス、抗肥満薬 オル リス タッ トな どが 開発さ れ、 臨床 で使 用さ れて いる。微生物は、今だ分離されて いな い菌 株が 多数 存在 し、新 規化 合物 の探 索源 とし て興味深い。一方、近年のアッセ イロ ボッ 卜に よる 自動 化と反 応系 の微 量化 によ って 、アッセイの高速化と効率化、い わゆ るハ イス ルー プッ トスク リー ニン グ技 術が 進展 し、一目あたり数千から数万個の 化合 物の 生物 活性 測定 が可能 とな った 。そ こで 、筆 者は新規メカニズムに基づく抗癌 剤お よび アレ ルギ ー性 疾患治 療剤 を、 微生 物二 次代 謝産物からハイスループットスク リーニング技術を利用して探索した。
抗疸劃Q 擁塞
現在、臨床で用いられている抗癌剤の多くは、細胞毒性を指標にしたスクリーニング から 見出 され たも ので ある。 これ らは 正常 細胞 へも 作用を示すため、副作用が大きな 問題 とな って いる 。そ こで、 筆者 は、 細胞 増殖 と分 化に関わる癌細胞に特異的な遺伝 子の 転写 調節 物質 に作 用する 癌細 胞選 択的 な抗 癌剤 の探索を試みた。ルシフェラーゼ アッ セイ でSV40 プ ロモ ーター を活 性化 する 微生 物二 次代謝産物を探索した結果、未同 定 糸 状 菌 TC1630 株 の 培 養 液 か ら 新規 イン ドー ルア ルカロ イド TMC ー205 を見 出し た。
さら にTMC −205 は 試験 したす べて のヒ トお よび マウ ス癌 細胞 株に 対し 、IC50 が 50 yM
〜200 yM と中程度の細胞増殖抑制活性を示した。作用メカニズムの解析を行った結果、
TMC −205 の作用点は癌細胞増殖抑制に関わる転写因子AP −1 ,Sp ―1 の結合部位が存在す るSV40 エンハンサー部位に関連があることが示唆された。
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ステロイド系薬剤は、非常に強カな抗アレルギー作用を示すが、種々の副作用がある ため に、 非ス テロ イド 性の薬 剤開 発が 期待 され てい る。筆者は、非ステロイド性アレ
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ル ギー 疾 患 治療 薬 の標 的 分 子と して免 疫細胞の T 細胞から 産生され るサイト カインで あるInterleukin ―4(IL‑4) とInterleukin −5(IL‑5) に注目した。
IL‑4 は 、 抗 体産 生 細 胞で あ る B 細胞 内 シ グナ ル を介 し 、 アレ ル ギ ー性 疾 患の 発 病 に 関わる ImmunogloblinE(IgE) の産生に 重要な役 割を果た す。筆者はIL‑4 のシグナルを抑 制 す る 物 質 の 探 索 を 目 的 と し て 、 IL‑4 シグ ナ ル伝 達 経 路の 転 写 因子 で ある Signal transducer and activator of transcription6(STAT6) の認識配列をもっルシフェラーゼベクタ ーを作 製し、 IL ・ 4 依存的な ルシフェ ラーゼ発現 を抑制す る物質のスクリーニングを実 施した。その結果、Aspergillus nigar var niger TC 1629 株からは新規naphto ーY ―pyrone 系化 合物 TMC‑256 、 Acremonium kiliense TC 1730 株からは既知化合物 pramanicin の新規アナ ロ グ TMC‑260 、 Phoma sp. TC 1674 株 からは新 規 dibenzo‑pyran 系化合 物TMC − 264 を見 出 し た 。こ れ ら 化合 物 は ヒト 由 来の B 細 胞 株 であ る DND39 細 胞に お いて 、 IgE 産生 に 必須で ある内因 性の germline Ce 遺伝 子の発現 を抑制した 。 TMC − 264 の作用メカニズム を 解 析 し た 結 果 、 TMC − 264 は STAT6 の り ン 酸 化 お よ び り ン 酸 化 STA6 と STA1 ℃ 認 識 配 列との結 合を選択 的に阻害 することが 明らかと なった。 TMC − 264 は、今 後のIL14 を タ ーゲ ッ ト とし た 抗ア レ ル ギー 疾 患治 療 薬 開発 に 有用 な 化 合物と して期待 される。
IL15 は 気道局所 への好酸 球浸潤お よぴ好酸球 の活性化 や寿命延 長を引き 起こし、 気 管支喘 息発症に 関与する 重要な因 子である。 そこで筆 者は IL ・ 5 による好酸球の寿命延 長を抑制する化合物を微生物二次代謝産物から探索した。その結果、糸状菌 A 甲 ergf 〃 Hs MJ 鍬 sTC1118 株 の 培 養液 か ら 新規 イ ソキ ノ リ ンア ル カロ イ ド TMC − 120 を見 出 し た。
TMC ‐ 120 は、 細胞障害 活性を示 さなかっ たことから 、選択的に好酸球内の IL ー5 シグナ ル 伝 達 経 路 を 阻 害 し 、 好 酸 球 寿 命 延 長 抑 制 作 用 を 示 す こ と が 推 測 さ れ た 。
以上のよ うに本研 究は,抗癌 ,抗アレ ルギー薬 の開発に 重要な知 見を提供 するもの である. 特に新し いアッセイ 系を開発 し,ハイ スループ ットのス クリーニ ングを実施 して多数 の新規化 合物を含む 微生物代 謝産物を 見いだし たことは ,微生物 学的にも天 然 物 化 学 的 に も 大 変 意 義 あ る 学 術 的 基 礎 知 見 を 提 供 し て い る . よって審 査員一同 は,櫻井政 昭が博士 (農学) の学位を 受けるに 十分な資 格を有す るものと 認めた.
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