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わが国における「瓜 2 っ妄想」の精神病理学的研究

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(1)

弘 前 医 学

37:814‑832,1985

わが国におけ る 「瓜

2

っ妄想」の精神病理学的研究

′ 」 \ 泉 明

抄録 対象は, 「 瓜

2

つ妄想」を呈 した本邦での報告例1

7

例 に, 自験例

4

例 をつけ加 えた21 例である.

その中, 1

6

例は分裂病,

2

例 は急性妄想状態で,パ ラフレニー,単純ヘルパ ス脳炎,診断不明の ものな ど がそれぞれ

1

例ずつである.

症例の女性優位性

(21

例中1

4

例)が注 目され るが, 男性例

(7

例) も増加 してお り, 特異な傾 向 とは見な し得 ない.

不安 ・恐怖 に対す る基本姿勢は, 洋 の東西 を問わず不変であるが, ヨーロ ッパ人 の分析的思考 に対比 され る 日本人 の 自他未分離の全体的思考形態が,or

iginalと密接な関係を持つ姓名を有 し,originalと同一 の空

間か らその分身 として患者 の妄想世界に出現す る,本邦例 に特異的な

sosieの様相に 投影 され て い る. 普

た,当妄想の発現機序 を, 「唇気楼」の よ うに変質 した

original

か ら発散 され る異和感 に対す る心 理 的 解 決法 の

1

つ としての,患者に よる

「originalのsosie命名作用」である ことが提唱 された.

弘前医学

37:814‑832,1985 Key words:sosie

Capgras'syndrome

delusion offamily nagation

double

AIcmena'scomplex

PSYCHOPATHOLOGICAIJSTUI)Y ON nILI.USION OF I)OUBLES"

(CAPGRAS'SYNI)ROME) IN JAPANESE CASES

AKIRA KoIZUMI

AbstTaCt2l casesofHillusion ofdoubles" were reported,adding4personalcasestothe17al readyreported.

16 Cases ofthe21wereschizophrenias,2wereacutedelusionalstates,onewasparaphrenia

,

onewassupposedtobeherpessimplexencephalitisand thelastonewasnotdefined.

Thepredominanceofwomen amongJapanesecases(14of21)wastobenoted,butthiscould notberegardedasageneraltendency,because ofan increaseofreportson malecasesin recent years.

A

n xiety and fearwere common toallpeople,butthemodeofexpressionwasinfluencedby culture. The Japanese way ofnon‑distinction between selfand other,differentfrom anEuropean analyticone,reflected on theexpression ofsosieinJapanesecases,wherethedoublewasderived from thesameenvironmentastheoriginalandappearedin thepatient'sworldofdelusionbearing anamecloselyrelated totheoriginal'sname.

Sosie‑naming oftheoriginalwasproposed asanexplanation forthepathogenesisofthisde‑

lusion. Thiswasasolutionattemptedbypatientsfacing thestrangeatmosphereemanatedfrom themirage‑likealtered origina

l .

HirosakiMed.J.37:814‑832,1985

弘前大学医学部 神 経 精 神 科 ( 主任 佐藤時治郎

教授)

昭和

60

3

月3

0

日受付

DepartmentofNeuropsychiatry,HirosakiUni versitySchoolofMedicine (Director:Prof.T.

SATO),Hirosaki,Japan

Receivedforpublication,March.30,1985

(2)

昭和

60

10

月 弘前 医学

37

4

.

は じ め に

不意 に,予期 しない場所 で,知人 に出会 っ た時,我 々の心 の中に, どの よ うな感情 が湧 き上 が るであろ うか ?出会 いの瞬間,様 々な 感情 が,相手 との交 わ りの歴史 の中で延 り, それが空発的 であ るだけに,我 々は,ただそ の 「出会 い」 に圧倒 され,その感情 を客観 的 に見つ め,制御す ることが, しば ら くで きな か ら一定の時 間が経 ち, 相手 との心的距離が 定 ま り, 関係が再構成 され る と始 めて,我 々 は ある対人的構 えを取 りえるよ うにな り,一 応 の精神的安定 をそ こに兄 い 出 す よ うに な

る.

その場合, もし出会 った相手が,我 々の予 期す る人 と違 って,その人 に 「よ く似た赤 の 他人」 で あ った とす るな らは,我 々の こ うし た体験 も, また,お のず と違 った ものになる であろ う.出会 った相手が,その人 に 「瓜

2

っ」 であるのに,その人 ではない 「他人 の空 似」 である ことが分 った時,我 々は,それ な りにその人 との新 たな心理的距離 を取 り, あ る時 は安堵 し, また ある時 は,怒 り,嘆 くか も知れ ない. しか し, その人 に対す る投影的 感情が次第 に薄れ る と,我 々は,ひたす ら, その外観 のあま りの 「 類 似」 に今度 は驚ろ く ことになる.

この よ うに, 「瓜

2

つ の人」 に出会 う体験 は,我 々の 日常生活 の対人 場 面 に お い て は

「驚異的」出来事 の

1

つ とな る.昔か ら幾多 の人 々が 印象深 くかか る体験 を観察 して きた ことが知 られ てい るが, この 「 瓜

2

つ の人」

に出会 う体験 が,精神疾患患者 におい て起 こ った場合, それ は どの よ うな具現 の仕方 をす るので あろ うか ?以下,順次 ,症 例に即 しな が ら, この間題 を検討 してみたい.

Ⅰ Ⅰ . 文 献 の 概 観

「瓜

2

つ の人」が,精神 医学 の文献 に最初 に登場す るのは,≪s

osie

≫ ( 瓜

2

つ の人) と

「 瓜

2

つ妄想」 の精神病理学的研 究

815

い う単語 を,その国語 の中に有す る フランス においてである. 既 に,

1893

年 の

V,M AG‑

NAN,1909

年 の

P.S丘RIEUX

,I

.CAPGRAS

,

1913

年 の

R. BESSI

RE

の 報 告 の 中 に,

3 1 )

≪sosie

≫ とい う言葉が姿 を 現 し て い る. し か し,精神 医学 に お い て,≪s

osie

参 とい う 言葉 が症候学的 に明確 な形 で登場 す るのは,

1923

年 の

J.CAPGRAS

と J

.REBOULLA

C‑

HAUX

に よる慢性 系統妄想病 の‑女性患者 の 2 )

症例報告 に よる.症例M天人 は, 自分 の天, 子供 たち,それ に彼女 自身 が, そ れ ぞ れ の

<;sosie

≫ に よ り絶 えず置換 され,それが次第 に身 の回 りの人 たち,通行人 ,パ リ市民全体 へ と遠心的 に広が ってゆ く迫真的 な妄想展開 を示 したが, これが, フランスの精神科医の 興味 を著 し く喚起 し,それ以後,幾多 の症 例 報告が行 われ た. そ し て

,1929

年 J

.L主ヽ,Y‑

3 6 )

vALENSI

に よ り, J

.CAPGRAS

らの報告 し た既知 の人 が未知 の<s

osie

参 に よ って 置 換

され る現象が

Capgras

症候群」 と命 名 さ れ,以降,

Capgras症候群」 の報

1 3 , 17 , 4 例 は, 5 )

フランス以外 の地 に も及 び,英語 圏, イタ リ 5 , 1 2 )

ア語 圏 で活発 に研究 され るに至 った.

しか し,疾病分類学 に重点 の置かれ てい る ドイツ精神 医学 の影響 の色濃 いわが国の精神 医学界 では, この現象は長 い 間注 目され る こ

とが なか った .わが国で

Capgras

症候群 が公 げに紹 介 されたのは遅 い時期 で あ り 2 8 )

,1960

年 の加藤 , 笠原 らの報告が最初 である.その後 ,

JO)

4 1 )

1964

年,

1967

年 と,荻野,大原 らが頚告 を行 ' 1 9

)

L i ヰ )

ってい る

.1968

年 の木村 ら

,1971

年 の高 柳に 2 0 )

よる本症候群 の紹 介を 経 て,

1973

年 に 原 ら

が,わが国で初 めて詳 細 な症例報告 を行 って

い る. これ は J .

CÅpGlAS

らの原著 論 文 発

表 に遅れ る こと半世紀 で ある. これ以降,本

症候群 の存在は, 少 しずつ,わが 国の精神 科

医に も知 られ るよ うにな り,現在 まで,著者

の知 る限 りでは

,26

例 の症 例が報告 されてい

る.その うち,症例 の詳細 を 知 り得 る も の

は,既 に著 者が報告 した

3

例 を含 む

17

例 であ

る.今回, これ に新 たな

4

症例 を加 え,総計

(3)

618

1

齢 年

例 症

October,1985 HirosakiMed..37(4)

結 婚状況

? 鵬 棚 絹 謂 鵬 篭 欄 讃 讃 諾 噸 相 場 噸 絹

地 雄 雄 諾 荒 地 雄 雌 雄 雌 雄 雌 諾 雌 雄 荒 地

● ● ● ■ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ■ ● ● ■ ̲ ● 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 婚 嬉 婚 嬉 嬉 婚 婚 婦 婚 婚 椿 姫 嬉 婚 婚 婚 婚 嬉 椿 姫 婚 既 既 未 既 未 既 既 寡 未 来 未 来 未 未 来 未 来 既 未 既 未

精神分裂病 精神分裂病妄想型

?

精神分裂病圏内の疾患 精神分裂病緊張型 精神分裂病 精神分裂病妄想型

疑 炎 脳 」 態 態 ス ニ 状 状 病 病 病 病 病 病 ペ 病 病 病 病 レ 想 想 裂 裂 裂 裂 裂 裂 ル 裂 裂 裂 裂 フ 妄 妄 分 分 分 分 分 分 へ 分 分 分 分 ラ 性 性 神 神 神 神 神 神 耗 神 神 神 神 バ 急 急 精 精 精 精 精 精 単 精 精 精 精

21

例について精神病理学的 な検討 を加 えた.

わが国に お い て

Capgras症 候 群 あ る い は

「 瓜

2

つ妄想」 として報告 された これ らの症 例 を,本症候群 の発祥地 フ ラ ン ス の 症 例 と 比較検討す ることに よ り, わ が 国 に お け る

Capgras症候群 の臨床 的特徴 をsosieの症候

学的動勢 の中に探 り,かつ,その発現機制 に つ いて も若干 の考察 を試 みてみた.

なお,本論文 の標題 を

Capgras

症候群」

としないで, 「瓜

2

つ妄想」 としたのは,級 述す るよ うに,わが国の症例 では, フランス 語 圏の論文 に現れ る よ うな≪s

osie

≫ とは 異 な る, 日本的解釈 に よる 「 瓜

2

つの人」が登 場す るか らである.

.

症 例 の 概 観

わが国で これ まで

Capgras

症候群」 ある いは 「瓜

2

つ妄想」 として 報 告 され た

21

例 を,性,年齢,結婚状況,診断名な どの項 目 に分けて分類 したのが表 1である.

わが国の全症例 中,女性例 は1

4

例,男性例 は

7

例 ある. この ことか ら女性例 は男性例 の

2

倍 を 占め る程 の圧倒的出現頻度 を有 してい

3 9 ) 4 3 ) ることが知 られ る.西丸, 高 橋 らの 報 告 以

藤 ら 川 井 九 九 本 村 椿 橋 田 田 田 泉 泉 泉 岡 泉 泉 泉 泉 加 原 平 今 西 西 榎 花 高 高 西 西 酉 小 小 小 富 小 小 小 小 ら 甑 iB斯 iBa 謝 ら ら ら ら ら ら 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年

960973977mg;

CD

met197997997997998298298598598598111111111111111111111

莱,少 しずつ男性症例 も知 られ るよ うにな っ てきてい るが,著者 の 自験例

7

例 で も

3

例が 男性例 である. したが って,本症候群が女性 特有の もので あるとい う従来 の知見は修正 さ

3 7 )

れなければな らない.西 田 らも英語圏の症例 と本邦 の症例 とを合わせた31 例 の報告 で,女 性例が1

6

例,男性例が1

5

例で性差 はない, と 述べてい る.

本症候群 の発現年齢 は,1

3

歳か ら

65

歳 まで と広範囲にわた るが,

1

0歳代が

3

名,20 歳代 が

7

名,30 歳代が

4

名,40 歳代が

2

名,50 歳 代が

3

名,60 歳代 が

1

名 とな ってい る.残 り の 1例は,年齢不詳 である.発現年齢 は,20 歳代 に ピークが あ り,続 いて30 歳代,

1

0歳代

と続 いてい る

.1

0歳代 の症例 の うちの

1

名は

19

歳 なので, これを20 歳代 に含 めれば,20 歳

代 の発現頻度 は さらに増大す る.男性例

7

において,その出現傾 向を見 ると

,10

歳代が

1

名,20 歳代が

2

名,30 歳代が 1名,40 歳代

1

名,50 歳代が

2

名 と,その年齢 ピークの

特徴は不 明瞭 である. しか し, 女 性 例

14

( 内,

1

例 は年齢不詳) においては,1

0

歳代

2

名(内,

1

例が1

9

歳)

,20

歳代が

5

名,30

歳代が

3

名,40 歳代が

1

名,50 歳代

,60

歳代

(4)

昭和

60

10

月 弘前医学

37

4

がそれぞれ

1

名で

,20

歳代

,30

歳代 に集 中 し てお り,本症状発現 の年齢 ピークが,男性例 に比 して明瞭 である.

続 いて,本症候群 を示す基礎疾患を概観す る と,単純ヘルペ ス脳炎疑診 とい った器質性 精神障害例 ( 症例1

7)

を除けは,ほ とん どが 精神分裂病 あるいはそれに類似 した妄想産出 型 の内因性精神病 である. この ことは, フラ ンス語圏や英語圏の症例 と比較 してみて も共 通 であ り,本症候群が

20

歳代

,30

歳代 に多発 す るのは, これ らの年齢層において,精神分 裂病 の妄想産出が もっとも活発 である, とい

う事 由に よる と思われ る. 3 7 )

欧米 では,

M ARTIMOR

らの アル コール 中

25)

毒症,

HUGONENO

の脳炎 後 パ ー キ ン ソ ン 4 8 )

柄,

M ..W ESTON

らの頭部外傷 後 遺 症,

21)

G.G.HAY

らの偽 甲状腺機能低下症 な どの 症例 のほか, 自鹸例

1

1 例 中に頭部外傷

1

例, 痩撃大発作型 てんかんの

1

例を認 めたギ リシ

6 )

アの

G.N.CHRISTODOULOU

な どの器質性 病変の報告例が あるが,わが国ではい まだ, 症例1

7

の単純 ヘルペス脳炎疑診例以外 に,脳 器質性疾患 に よる症例 は兄 い 出 され て い な い

Ⅴ.

自験例の呈示

症例

18. T.K.

男 性,

53

歳. 精 神 分 裂 柄.秋 田県生.

3

人 同胞 の

3

番 目.父親 は教 負.寺 の養子 とな り,現在は僧侶.終戦直前 に師範学校 を卒業 し一時教師 を勤めたが,そ の後,会社勤 めに切 り換 えた.職場 での恋愛 が実 らず,それが誘因 とな り発 病.

29

歳 の 時,

A

市 の精神病院 に入院.電撃療法

(E.S.

T.)

を受けた.

41

歳 の時,一児 を抱 えた女性 と結婚 したが,その後 も精神病 院‑ の入退院 を繰 り返 し,現在

5

回 目の入院 中. 自己像幻 視,他者 の二重身幻視 のほか,活発 な空想的 内容 の幻覚妄想体験 を有 してい る.51 歳 の

7

月,著者が面接 した時 に, 自分 の体験 につい て次 の よ うに語 った. 「この ところ母親 の面 会がない. 自分はかつて,京都の一条院に,

「 瓜

2

つ妄想」の精神病理学的研究

817

天上 の世界 にいた頃か らの育 ての親 であった

『アイ母 さん』 と一緒 に住 んでいたが,

A

市 の狭い家 に引 っ越 して か らは, 『ア イ 母 さ ん』は,女学校時代 の 同 教 生 で 『ア イ 母 さ ん』 に姿 の よく似 てい る ( ●●●●●●●● 傍 点 :著 者. 以 下,個 々の註 は省略 . )『ツ タ さ ん と入 れ 替 り,彼女 の方は, どこかに姿 を隠 して しまっ た. この

2

人 は よ く似 てい るので,周囲では 誰 も気がつ く人 はいなか った し,私が見て も その違 いは分 らなか った. 『ア イ 母 さ ん』

は, 『ツタ さん』 に,私 についての細かい こ とを教 えていたので,私 に つ い て の こ とな ら, 『アイ母 さん』 と同 じ位知 ってい る. こ の 『ツタ さん』が現れた時 ( 註 :幻視像 であ る),両 眉毛 の上 あた りに

2

つ の奇 妙 な物 が 付 いていたので, この人 は 『アイ母 さん』 で はない, とい うことが分 った.霊通波 ( 註 : 物理的幻覚) で聞いた ところ, この人 は 『ッ クさん』であることが分 った. この人 には,

『アイ母 さん』 の持 っていた優 しさの よ うな ●●●

ものが欠けていたのでおか しい と思 って い た. しか し,今では,その 『ッタさん』 も消 えて しまった. 『アイ母 さん』 は,

A

市 の ど こかにいて, 自分は,その居場所 を知 ってい るが,そ こは連絡 のつけ られない所 である.

教師を していた養父 ( 註 :実際は実父) 『 真 三』 は,僧侶の 『 景信』 と入れ替 った.彼 ら が入れ香 ったのは,私が小学生 の時 の ことで ある. このため 『兵三』は亡 くな り, 『ァイ 母 さん』 は怒 って 『景信』 を地方 の小学校に 左遷 させて しまった.彼 らの姿 ・形は よ く似 ● ●●●●●

てい るので見分 ける ことは難 しいが,区別す ●●●

ることはで きる.父 の 『真三』 は, 自分が誤 訳 して も笑わないが, 『 景信』 の方 は,誤訳 す る と笑 う. 『真≡』 は愛情家 であ り, しか ●●●

も名前が良い. この病 院の院長先生 は亡 くな ●●

った. また,副院長先生 に も

5

か月位前か ら 会 っていない. 2, 3か月前 に副院長先生 に 似 た人が来たが, ゴツイ感 じで, とっさに別 ●●● ●● ● 人 だ とい うことが 分 った. 『 赤 垣 さ ち お』

( 名前 は, ど うい う字 で書 くのか分 らない)

(5)

818

′ 」 \ 泉

とい う人 で副院長 に似 よ う と した 偽 者 で あ り, この ことは皆に知れ渡 ってい る. ( 著者 に対 して) 先生 は,本当に

K

先生か

?A

中学 校 を終 り,

A

師範 を出た同級生 の

K

先生 では ないか

.

」 また, 『ツタ さん』 の ほ か に 「名 前 が分 らないが, K 町 に い る 『異 な る人』

は, 『アイ母 さん』 の顔 に 似 よ う と し て い る. しか し, その 2人 には細か い ところで異 な る点が ある. それは,分 ってい るけれ ど教 え られ ない.言 えば, テ レビの 『ソ ック リさ ん』 にな りたが るので言 うことが で きない.

『異 な る人』 は,愛情がな く, また意地悪 で ●●●●●

あ る と言 う. また,患者 の創作 した架空 の子 供 『ム ネち ゃん』 に似 よ うとす る狸 が顔 に付 ● ● ●●●●●

いて困 る」 と訴 える . 「 狐 や狸が人 に化 け る ことが ある.人が 現 れ る と ( 註 :幻視像), それが人 なのか狐 や狸 が化 けた ものなのか区 別す る必要が出て くる.その区別は,語挙 や 剣道 のや り方 を知 ってい るか を問いか け, ち ゃん と答 え られれ ば人, そ うでなければ狐 や 狸 が化 けた もの」 と説 明す る. この面接時, 患者 の母親 は,脳血栓 のため既 に死亡 してい たが, その ことは患者 には 知 ら さ れ て お ら ず,患者 は,現在 も病 院内で母親 の幻視像 と 共 に毎 日を送 ってい る.

症例

19.T.S.

男 性

.34

歳. 精 神 分 裂 病.

5

人 同胞 中の

4

番 目,青森県 の農家 に生 れ る. 中学校卒業後,外国 航 路 の 船 員 を 7 午, そ の後, 十ラ ックの運転手 な どさまざま な職業 を転 々 とした.昭和 53 年 1 0月交通事故 で子供 をはねて死亡 させ たため, 1年 間,刑 務所 に服役 した.そ こで精神病患者 と診 断 さ れ るに及んで, 昭和55年

2

月,

H

市 の精神病 院 に第

1

回 目の入院 とな った.以来,精神病 院 の入退院 を繰 り返 してお り,昭和56 年

12

4日, 同棲 中の女性 に刃物 で襲 いかか り,仙

台 中央警察署 に保護 され,宮城県立精神病 院 に措置入 院 とな った.郷里 の病 院に移 りたい とい う患者 の希望 で昭和

57

1

7

日,弘前 大学 医学部神経精神科 に転 院 した. 2 回 目の 当科入 院 であるが,入 院時 には,幻聴,体感

October,1985 HirosakiMed.J.37(4)

幻覚,被影響体験,人物誤認 な どが執劫 に訴 え られ ていた.前主治 医の入 院病歴記載か ら

「昭和

55

1

月に出所 してか ら兄弟 を見て も 額は兄弟 の顔 だが, 中身は 兄 弟 で な い よ う だ. どこか違 う.家 に帰 って もよその人 はか

りだ」 と患者が述べ ていた ことが分 った.入 院当初,主治 医で ある著者 に 「 知 らない女 の 声が 聞 こえて来 て 『世の中に変装 とい うもの が あ り,人 の顔が変 え られ る』 と言 って い る」 と訴 えた. また,光 る大小 のタ コの よ う な形 を した 「イ ンヴ ェーダ ー」が見 え, これ が上 の方か ら落 ちて来 て患者 の腹 の中に入 っ た り,苗 を飛 んだ りして患者 を操 ってい る, と述べた.そのほか,病棟 には,患者 に混 じ って ロボ ッ 十がい る.それが本物 の人 間か ロ ポ ッ 十か を見分 けなければ な らな くな るが, それは彼 らの 「 歩 き方」 で分 る とい う.本物 は静か に歩 くが, ロボ ッ 十は歩 く時,バ クバ ク と,だ らしな くス リッパ で音 を立 てて歩 く とい う

.3

月には, 「皮膚 科外来 で世話 にな っ た皮膚科 の看護婦 さんが精神 科に もず っとい たので別 の人 だ とい うことが分 って きた.彼 女たちは双子 で ある」 と言い出 し,彼女 たち

うな じ

の違 い としては,皮膚科の看護婦 は,髪 を項 の ところで束ねてい るのに,精神科 の看護婦 はそ うでない. また, 「日本 に ロボ ッ 十をつ くる会社 が ある」 とい うことを教 えて くれた 声が あ ったが,具 体的にそれが どこにあ るの か,製造 され た ロボ ッ 十が ど うな ってい るの か につ いては分 らない とい う.

4

月 下 旬 に は, 今 まで面会 に来 ていた長兄 を 「あれは兄 さんではな くて,東京 で付 き合 っていた極道 の阿部が 『化けて来 た』 のだ と女 の声が教 え て くれ た」 と言 い,気味悪 そ うな額 をす る.

「あの人 は面会 に来 て くれ ない し,外泊 もさ せ て くれないので本当のお 兄 ち ゃん で は な い.極道 の阿部 の化 けた兄 と本当 の兄 は,顔 ● と姿が似 てい るので区別が で きない.ただ, ●●●●●●●

本当の兄 は ギタ ーが弾 け るけれ ど,偽者 の兄 は, ギタ ーが弾 けない ( 幻聴 に よ る 判 断).

この前 に来 たのは ギタ ーが 弾 け な か っ た の

(6)

昭和

60

1

0月 弘前 医学

37

4

で,お兄 ち ゃんではない.化 け る人 は, ドロ ン ドロンと化 け るのだ そ うだ」 と言 う. ま た,

5

月上旬 には外出 したついでに長兄 の家 に立 ち寄 り 「イ ンヴ ェ‑ダ ーが来 てい る.俺 とお前 の 『出』 ( 註 :出生 の こと) は別 だ.

俺 の親 は,お前 の とは別 だ」 と口走 り,

5

月 下旬 には著 者 に 「 昨 日面会 に来 たのは兄 さん ではな くて,極道 が ドロン ( 化 けた とい う意 咲) した ものだ.先生 に電話 しないでや って 来 た ところがおか しい.変だ と思 っていた ら 声 が聞 こえて来 て,阿部 はずいぶん前か ら生 きていて も う1

00

歳以上 にはな ってい る. こ の ことは, 『 上 の世界』 ( 註 :先祖 の住む世 罪) で も問題 にな ってい る.看護婦 の中に も 阿部 が変装 させ てい る女性 がい る」 と言 う.

その後 も, この よ うな, 患 者 の 「 瓜

2つ 妄

想」 は持続 し,

1

0月上 旬 には, 回盲部 の体感 幻 覚,言語性精神運動幻覚,女性 の幻声 な ど が強 ま り, 「兄 さん とは ど うも何かずれ る. ●●●

だか ら兄 さんではない.顔 は 同 じだけ ど中身 は ロボ ッ トだ . /」 と叫 び,帰宅時,長兄,母 な どを偽者 だ と言 って殴 りかか り,長兄 の懇 請に よ り, 同 じ

H

市 内に ある某精神病 院に, 当科入 院1 1か 月 日で転 院 した.

症例

20.M .S.

男 性 ,

46

歳 . 精 神 分 裂 病 .秋 田県

S

町生れ

,4

人 同胞 の

2

番 目.昭和

53

3

月,

A

市 の某精神病 院 に入 院 中に,汰 の よ うに著 者 に語 って くれた. 「昭和47 年, 静 岡の造船所 に勤 めていた時, 2人 の子供 が 秋 田か ら迎 えに来 たので静 岡駅か ら汽車 に乗 った. しば ら くす る と汽車 は絶壁 に さしかか ったが, その時,奇跡 が起 こ り,絶壁か ら汽 茸 が飛 び上 り,空 を飛 ぶ 『宇宙列車』 にな っ た. ガ ッタ ンゴ ッ トンとい う音 が して列車 が レールの上 に乗 った と思 った ら黒磯 だ った.

8

5

日には

S

町 の 自宅 にいて母が 自分 を待 っていたので驚 ろいた. 自宅 に着 いてか ら

10

日間位, 目を醒 ます と毎 日,別 の星 ( 地球) にいた. 自分 は遠 い ところ に あ る地 球 に 生 れ,そ こで成長 し,結婚 し,子供 も生 んだ.

そ こは,展 は 日光 の照 る ところだ ったが,毎

「 瓜

2

つ妄想」の精神病理学的研究

819

日毎 日変わ る地球 は,石油 ランプが ともって い る星,真 っ暗 な星,草 ばか り生 えてい る何 もない星, 『 かたわ星』 な どで あ っ た. ま た,遠 い地球 では, カル ビーの 『カ ッパ エ ビ セ ン』 に

110gと書 いて あ ったが, 今い る地

球 では

105g+5g

と書 いて あ る. 入 院 し て か ら 『 っ るさん』 ( 註 :実母 の こと) が

3

人 来 た.最初 の

1

回は,背 の 小 さ い 『つ る さ ん』,次 の

1

回は,背 の高 い 『っ るさん』, そ れか らは,背 の中位 の 『っ るさん』 で,背丈 は違 うけれ ど皆 同 じ人 だ. 『っ るさん』が来 る とやは り嬉 しい,着 てい る物 は,いつ も違 ラ. また,背 の小 さい 『 っ るさん』 は,背 の 高 い 『っ るさん』 を知 ら な い, と言 っ て い る.

「S

町 に は 自分 に似 てい る人 が数人 い ●●●●●

る. ち ょっ と変 わ った人 と瓜 ●●●●●●●●●

2

●●●● つ の人 がい る が,瓜 ●●●●●

2

つ の人 の方が圧倒的 に多い. 自分 の 生 れた地球 と今の地球 とでは,地 名は同 じだ が,形 や高 さ,地形 や道路 が違 う.遠 い地球 にいた石原裕次郎 には乱闘場面 が あ ったが今

らん ぐい

はな く, 目つ きが違 う.昔 の裕次郎 には乱杭 は

歯が あ ったが今はない, また テ レビを見てい た ら,私 の好 きな美空 ひば りさんが

3

人 出て きた. 『目の優 しいひば りさん』,『髪 の毛 の うすいひば りさん』,『黒 い きれいな髪 のひば りさん』 とい う風 に,容貌 は違 うが,皆 『ひ ば りさん』 で皆好 きだ.他の人 たち も 『ひば りさんだ . /』 と言 っていた. 」 「鏡 を見 る と, 若い時 の 自分 に似 て 来 た」 と言 う. ま た,

「以前, 『あなたは予 言者 にな る ことがで き る』 と人 に言われ た ことが あるが, な らな く て よか った」 と語 ったが,

3

年後 に著 者が彼 に再会 した時 には,昭和

53

年 に語 った ことを 全 く忘れ てお り, ただ無為呆然 と自閉的世界 に閉 じこも り,著 者 の質 問に対 して も全 く無 関心 の ま ゝであ った

.

症例

21.Y.S.

女 性 ,

24

歳. 精 神 分 裂

柄 .青森県

K

町 に生れ る.

6

人 同 胞 の 第

1

千. 中学校卒業後,東京 や神奈川 な どの紡織

工場 に出稼 ぎに行 ったが, どこ もあま り長続

きしなか った.昭和47 年

6月,19

歳 の時, 自

(7)

820

小 泉

症例 対象

1. 夫

2.

3.

4.

5.

6.

妻 ( 医師 ?)

7.

8.

長男

9.

父母

10.

父母,同胞達

ll.

父母,一時的 に弟,

祖父

12.

弟 ( 唯一の肉親)

13.

母,弟,院長,香 護婦 の一部,世界 ( 景色,建物等)

14.

父母,弟,祖母

15.

16.

患者 自身

17.

母 ( 一時的に医師, 看護婦 ?)

18.

母,父,副院長,

架空の ( 子供)

19.

長兄,母 長兄の家族, 他息,看護婦

20.

母,地球 自体

患者 自身

2

1. 患者 自身

5

?

1

回 目

:1

2

回 目 :複数

7, 8

人 1人

1

人以上 と思われ る

2

多数

October,1985 HirosakiMed.

.

3 7

(4)

2

「瓜

2

つの人」

(sosie)

の症候学的側面

名 称,機 能

1

人ずつ

1

人ずつ 各 々数人

(

父10

回,母

2‑ 3

回)

?

?

多数 ( いつ も違 う人)

1

2

?

母は複数,父,副院長は 各 々

1

人ずつ.子供は複数

数人

母は

3

人,地球 は複数, 自分 は数人

1

主人 と同 じ顔,同 じ姿の男たち (と

5

度結婚 した)

妹の夫 出入 りしてい る人 夫の友人 夫が以前世話を していた人 ニセ者

1回 目 :私のお母 さんの友人で一緒 に芸者を していた人

2

回 目 :近所 の人 ( 朝鮮人,美容師) 替え玉 ( 主人 に最 も似ているが性格が違 う) 兄 さんの母 さんで私 に とっての育 ての親一 一お母 さん

(M.M

さん) に瓜二つ‑

そ っ くりの替え玉が ソ連か ら送 りこまれ る.

1)相原薫 (

実在 しない人物)

2)

久輪井弘先生 ( 実在 しない人物)

〔1)は2)の身替わ り〕

タケノ リ,ヤスノ リ, ヨI yノ 1 ) ( 長男 の名 : タケオ) 同 じ顔で クケオのふ りを している.

シ ル 「ツコ」‑ ナ性交に よる子供,

「シ′ヨ」 シ′ ル→人工受精 による子供,

「ニ」 i /ル

‑ 2

番 目の子供 警察のまわ しもの 刑事

替え玉 ( 何か陰謀 めいた理 由で送 って くる組 織が ある. )

だれか 偽者

別の人物 だれか 宇宙人か何か

別の人 ( 無名):何かの組織が あるのであろ ラ,

母親 に化けた幽霊

東京 の女の子,私 ( 青森 の女の子) お母 さんの姿を した別の人

父其三に 「景信」が入れかわる. アイ母 さん に女学校時代の友人 ツタさんが入れかわる.

その他 「 異なる人」たちが アイ母 さんの 「ソ ック リさん」にな りたが る.副院長に赤垣 き ちおが入れかわる.子供たちにタヌキが入れ かわる.

ッ ト,塩道 の阿部 の化けた ものあるいは 化け させた もの.双子 の看護婦

母は背たけの各 々違 うツルさん.地球は各 々 違 う地球. 自分 については瓜

2

つの人たち, ち ょっと変わ った人た ち

K 子 ( 他息の名前)

(8)

昭和

60

10

月 弘前医学

37

4

自身の

sosie

(且uto‑sosie)

元の人

(original)

sosie

の変換方法

(自己受容感あり. ) ( 自 分 の魂が別の所

で , 自分 の体 を操 縦 し てい る . )

+

± ( 患者も誰かに変装

する. )

+

(3

人の他人を背負

っている. ) ( ただ し,複雑な自

己像幻視あり. )

+

+

(自己像幻視あり. ) 不明 不明

1 回目 :不明 2 回目 :整形手術 不明

不明

入院の頃す り替わった.

入れ替わる

( マ リア様の声で分かる) 入れ替わる

変装( 母親はかつらで変装) 変装

変装または整形手術 入れ替わった 変装

型をかぶって変装 面をかぶって変装 入れ替わる.

不明

入れ替わる ( 父,母).

狸が化ける ( 子供).

変装あるいは化ける 不明

入れ替わる.

「 瓜

2

つ妄想」の精神病理学的研究

821

宅 に戻 って来 たが,気分 の高揚 ,易感性,独 語 な どが あ ったため, A 市 の某精神病 院 に 1 回 目の入 院 とな った.著者 が最初 に面 接 した のは, 昭和52年 6月 で, 3度 目の入 院の時 で あ った.入 院前夜, 「自分が 自分 を見つ め, 話 しか けて来 た」 とい う,幻聴 を伴 う自己像 幻 視が訴 え られ, しき りに鏡 を見て 「自分 の 顔 が別人 の よ うに思 え る」 とい う 「対 鏡 症 状 」 も

1

年程 前か ら観 察 され た. この時 ,忠 者 は次 の よ うに語 っ て い る . 「私 は

2

人 い る. 1 人 が本当 の Y 子 ( 患者 の名前), も う 1 人 が K 子 だ.私

(Y

子) は,入 院す る前 に

K

子 と入れ替 った

.Y

子 は,小 さい時 に

K

子 に あや して もらい,遊 んで もらった こ とが あ る

.Y

子 と

K

子 は ソ ック リだ. ところが,

Y

子 は

1m 67‑8cm

だ ったのに,

K

子 に な っ た ので

1m55cm

に縮 ま って しま った

.Y

子 は

18

歳 だが,

K

子 にな ったので

36

歳 だ

.Y

子 は大学 院卒 で専 門は, は っき りしないが, フ ランス語 , ドイ ツ語 ,朝 鮮語 を話 し,小 さい 頃, フランスや ア メ リカに い た こ とが あ る が,

K

子 は 中学 を出ただ けだ

.Y

子 には体 の 負傷 が なか ったのに

K

子 にな った ので,親 指 の付根 に傷跡 , また,左 の大腿 の内側 に注射 の跡 が で き, そ こが 引 っ込 ん で し ま っ た」

「本物 の

Y

子 は, あ る男 の子 の こ とをあ ま り 好 きではないが,偽 者 の

Y

子 ( つ ま り

K

子) は,彼 を熱愛 し,恋愛 関係 を持 った ことが あ った.今,私 は,記憶 を取 り戻 したい

.Y

子 の記憶が欲 しい

.Y

子 の体 に

K

子が い る.私 の住 んでいた場所 ,働 いていた場所 を探 して 欲 しい」 と述 べ た. そのほか に も 「弟 は,実 は,私 の双子 の兄 で あ る」 と語 るが, この こ とにつ いては,深 く追求 され る ことを避 けて い る風 で あ った.入 院病 歴 には, この 「瓜

2

つ妄想 」が, そ の後 , さ らに

1

年 間程継続 し ていた と記載 され てい る.

Ⅴ.

症 例 の 分 析

2

は,各症例 につ い ての 「 瓜

2

つ の人 」

( 以後

sosie

と表記す る) の症 候 学 的 側 面

(9)

822

小 泉

3 sosie

と元の人

(original)の違い

October,1985 HirosakiMed.∫.37(4)

症例

1

不明

2

不明

3 1

回 目入院の頃 :お母 さん

(orignal)

と小母さん

(sosie)は背丈が似ているので勘違い した.

2

回 目入院の頃 :首筋の ところが違 う. どこか違 う.

4 天 (original)は東京の医者で優 しい人.私によく似ている所がある. 違いは, 私にしか分か

らず,性格 と,抱 き上げて くれる感 じと体臭でわかる.

5

違いは直感で分か った.ニセの母さんは,私 より,兄さんに似ていてち ょっと馬鹿だ.そ して 育ての親である.本当の母さんは, もっと頭がいい.

6 声の感 じがち ょっと違 う.

7

天 と相原さん (

1

番 目の

sosie)の違いは,感 じです ぐわかる.

8

私には.違 うのがわかる.

9 sosieは,自分を とらえに来ている.そ して,その機会を窺 っている.

10

父親 :微妙に雰囲気が違 う.母親 :何 とな く態度がおか しい.同胞たち :刑事のよ うになる.

11

父 :や さしくていい人たったのに,口やかましく冷たい人に変わった.背の高 さ,爪の形 も微 妙にちが う.父母 とも :雰囲気が何 とな く違 う.

12

弟 :顔, とくに横顔が どこか違 う.左塀のホクロも以前にはなか った. どことな く親切 さが違 う. こまやかな ところがな くなった.

13

母 :前はや さしか ったのに,急に男のよ うに荒 々しくなった.頭に以前にはない イボのよ うな ものがある.看護婦の一部 :美 しす ぎる.不 自然な感 じがする.

14

態度が不 自然,本当の両親は, もっと強 く,愛情深い.

15

不明

1 6 東京の女の子 と,青森の女の子は,体の中で‑か所だけ違いがあるが,それは言えない.

17

私のいやがることばか り言 う.恐ろしい 目になった.時 々お母さんでな くなる.

18

母 :両 まゆ毛の辺あた りに

2

つの奇妙なものがついていた.や さしさが欠けていた.父 :誤訳 するとす ぐ笑 う ( 本物は愛情家である). 副院長 :ゴツィ, 子供 :語学や剣道がで きなければ 狐や狸である.

19

長兄 :どこか違 う,ギターをひけない.先生に電話をしないで病院に来た.

他息 :バクバクとだ らしな く歩 くロボット

20

母 :背の高 さが違 う. 自分 :瓜二つの人たち とち ょっと変わ った人

21

自分 :身長のちがい と,左大腿内側の注射の痕な ど

を, そ れ ぞれ , そ の対 象 , 数 , 名称 と機 能 , 4 7 )

自身 の

sosie

(こ こで は

,JVI

丘 に な ら って

≪autsosie

≫ と表 記 ) の有 無

,sosie

と元 の 人 ( 以 後

originalと表 記 す る) の 入 れ 替 り

方 につ い て, 患 者 の陳述 を基 に ま とめ た もの で あ る. 表

3

は, それ ぞれ の 症 例 に お け る

sosie

originalの相違 点 , 表4

で は, 「 瓜

2

つ 妄 想 」 の 出現 期 間 と随伴 症 状 を各 々抜 き 出 した もので あ る.

まず表

2よ りsosieの症 候 学 的動 勢 , 特 質

を眺 め て み た い.

sosie

の対 象 は, 既 婚 者 で は, 症 例

18

(白 鹸 例 ) を除 い て はす べ て配 偶 者 ,子 供 で は両 釈 , 母親 , 兄 弟 , また寡 婦 で は 同居 して い る 長 男 が 選 ば れ る とい う風 に, 患 者 の身 近 か に い て, 患 者 に と っで 情感 的 に最 も大 きな役 割 を果 して い る対 象 で あ る こ とが 注 目され る.

1 0 )

フ ラ ンス語 圏 の症 例 と比 べ て も, これ は変 わ らない. また症 例

13

では対 象 が 母 ,弟 の ほか に病 院長 , 一部 の看 護 婦 , それ に テ ー プ レ コ ーダ ーのね じ, 景 色 , 世 界 まで に拡 が り, 症 例 1 8 (自鹸 例) では, 母, 父 の ほか 副 院長 , 架 空 の子 供 に まで, また症 例

19

(白験 例 ) で は長 兄 の ほか , 病 院 内 の 他 患 た ち, 症 例

20

(自験 例) で は, 母 の ほか , 地 球 全 体 に まで

対 象 が 拡 が って い る. これ も,s

osie

の 対 象

が まず 身 近 か な家 族 か ら始 ま り, 一応 ,妄 想

の舞 台設 定 が整 ってか ら除 々 に周 囲 に拡散 し

て行 く際 ,妄 想 対 象 として 取 り入 れ ら れ た

もの の よ うに もみ え る. さ ら に 患 者 白 身 が

sosieの対 象 と して選 ばれ た例 は , 症 例7

,

14,16,20,21

で あ り, そ の うち症 例

16,21

は, 対 象 が 患 者 のみ で あ り, 症 例

7,20

は,

対 象 が 身 近 か な人 で あ る と共 に患 者 自身 も置

(10)

昭和

60

10

月 弘前医学

37

4

症例 期 間

「 瓜 2 つ妄想」の精神病理学的研究 823

4

『 瓜

2

つ妄想』の出現期 間 と他 の随伴症状

1. 不明

2.

1

8

か月

3. 1

回 目入院 :約1 1 か月 2 回 目入院 : 3 か月以上

4.

4

か 月

5. 4

回の病相期 の うち各 々 約1 0か月

6.

不明

7. 2

年以上

8. 3

年以上

9.

父 :約半月

母 :父におけるよりも3日 長い

10.

2

週間

ll. 4, 5

年以上

12. 1

回 目入院の頃 :約

2

年 2 回 目入院の頃 :約 9か月

13. 4

か月以上

14.

約1 0日

15.

不 明

16. 5

17.

20

日間

18.

半年以上

19. 3

年以上

20.

2

,

3

2

1. 約

1

他 の 随 伴 症 状 嫉妬妄想 被害妄想

子供たちの家庭教師 に対す る恋愛感情表現 ( 被愛妄想)弟や妹の否認 幻聴 死んだ父親 を生 きてい る と思 う.

独語 誇大妄想 被毒妄想 色情的言辞 後 に滅裂思考 げん奇症状 第

1

回 目 :異常行動 母親 に対す る暴力 幻聴

2

回 目 :不明

身体異和感 音響音声幻聴 幻臭 バ レイ ドリア 易興奮性 自己変 容感 離人体験 被害関係念慮 注察念慮

非現実感 離人感 不安感情 異常行動 妄想気分 兄に対す る近親 相姦的感情 滅裂言語 カク レフo y‑ 反響症状

被害関係妄想 迫害妄想 独語 幻聴 テ レパ シー体験 誇大妄想 無為 自閉傾 向

幻聴 性的被害妄想 妊娠妄想 妄想気分 妄想着想 妄想知覚 関係妄想 被愛妄想 ( 天 の替玉に対す る)

空想的対話 ( 独語) 言語新作 異常行動 幻聴 (?) 非現実感 離人感 罪責感 恐怖感 ( 再発 の時)妄想気分

孤立感 離人症 提案念慮 罪責感 被害妄想,追跡妄想

抑 うつ 幻覚 妄想 弟 に対する罪責感 妄想気分 幻聴 被害関係妄想 作為体験 幻聴 既知体験 被害関係妄想 不安 無為 空笑

幻聴 世界没落体験 嫉妬妄想 被毒妄想 被害関係妄想 思考奪取 影響妄想 精神運動興奮 自己臭妄想 妄想気分

幻聴 誇大妄想 血統妄想 幻聴 自己重複体験 疎遠感情

幻聴 テレパ シー体験 自己像幻視 他者 の二重身幻視 迫害妄想 誇大妄想

幻聴 体感幻覚 内的対話 ときに幻視 対鋲症状

対岸症状 自己像幻視 幻聴 独語

き換 え られ て い る. 症 例

14

は , 家 族 に変 装 し て来 る人 た ち が い る ほ か , 患 者 自身 も他 人 に 変 装 す る もの で あ る.

次 に

,sosie

の 数 に つ い て 検 討 し て み る.

2

か ら分 る よ うに , 不 明 の もの が

4

例 程 あ るが , 自身 の み の

sosie

の 出 現 す る症 例

16

,

21

を 除 く と複 数 の

sosie

の 登 場 す る症 例 が

11

,sosie

1

人 しか 出 現 しな い症 例 が

5

例 あ った ( 症 例 1 8で は , あ る対 象 に お い て は 単 数 , 他 の 対 象 に お い て は 複 数 で あ った の で, 集 計 の 中 に は 入 れ なか った ). こ れ か ら,

2

倍 の症 例 に お い て

sosie

が 複 数 で あ る こ とが 認 め られ る. ま た , 表

4

か ら, 慢 性 化 して い る症 例 で は

,S()sie

は複 数 で あ るが , 急 性 期

症 例 で は 単 数 で あ る こ とが 分 る. 症 例

9, 10

で は , 妄 想 は , そ れ ぞ れ , 約 半 月 あ るい は約

2

週 間 で 消 失 す る とい う急 性 例 で あ り, 妄 想 そ の もの が 成 熟 , 体 系 化 し な か っ た た め,

sosie

が 複 数 化 し な か っ た も の と 考 え ら れ る. 一 方 , 多 数 で あ る と 見 倣 さ れ る

sosie

は , そ れ ぞ れ , 同 じ蘇 , 同 じ姿 を して は い る

もの の, 同 じ

sosie

な の か , また 違 った もの

な の か とい う疑 問 が 生 ず る. 症 例

1

の 「主 人

と同 じ藻 , 同 じ姿 を した 男 た ち と 5 度 結 婚 し

た 」, 症 例

6

の 「妻 とそ っ く りの 替 玉 が ソ 連

か ら送 り込 まれ る」, 症 例 11の 「父 母 の 交 替

は 何 度 も生 じ‑‑・ ・ 両 親 を送 って くる組 織 が あ

る の で は な い か 」 と述 べ られ て い るが , こ こ

(11)

824 小 泉

ではまだ

sosie

たちの異 同は不 明である. し か し,症例

8

の 「同 じ顔だけ ど人 は入れ替 り 立 ち替 り違 ってい る」,症例

20

の 「背 の小 さい

『っ るさん』,背 の高 い 『 つ るさん』,背 の中 位 の 『っ るさん』が来 る」 とい う表現か ら, これ らの症例 では,それぞれ の

sosie

は, 皆 違 ってい ることがわか る.症例

1

1の 「今の両 親 は, これ まで替わ った親 の中で最 も良い」

とい うところか ら,それ ぞれ 異 な った

sosie

の中で も,患者が

sosie

を選 り好みす ること が あるとい うことも分 る. この 点 に つ い て

1 0 )

は, フランスで も

J.

CoURNUT が既 に指摘 してい る.

フランスの

sosie

の特徴 の

1

つ である 「多

47

)

数性

」multiplicit

畠は,以上 の こ とか ら,わ が 国の

sosie

において も認 め られ ることにな るが, 「 無名性」につ いては ど うであろ うか

?フランス語 の 原 義 か ら見 れ ば

,sosie

original

との間では,血縁 関係 も交友関係 も ない.赤 の他人 である 「 他人 の空似」が原義 に近 い. この点 に留意 して,わが国におけ る

sosie

の名前,その機能 につ いて見て行 くと, 症例

2

では 「 妹 の夫,夫 の友人,夫が以前世 話 していた人 」 ,症例

3

では,

1

回 目入 院 時 は 「お母 さんの友人 で一緒 に芸者 を していた 人, よその小母 さん」 , 2回 目入 院 時 は 「 近 所 の人 で朝鮮人,美容士」 ,症 例

5

で は 「 兄 さんの母 さん,私 に とっての育 て の 親 」 ,症 例

7

では,現存 しないが患者 の身近か にい る 人 の名前 を多少変形 して 「 夫 の従弟 で福岡で 英語教師 を してい る相原薫 さんが ( 夫 と)見 合 の時 に入れ替 ったが, この人 は 自衛隊 のお 医者 さんの久輪井弘先生 の身替 り」 とい う具 合 に,夫 に対す る

2

人 の

sosie

を創造 してい る.症例

18

(自鹸例) で は, 「ア イ 母 さ ん は,女学校時代 の同級生 のツタさん と入れ替 ったが, この人 は, アイ母 さんか ら聞いて, 私 につ いての ことな ら, アイ母 さん と同 じ位 知 ってい る.父 の真三は,僧侶の景信 と入れ 替 った. このため,真三は亡 くな り, アイ母 さんは怒 って,景信 を地方 の小学校 に左遷 し

October,1985 HirosakiMed..37(4)

た」 とい う風 に,本邦 の 症 例 に お い て は,

sosie

は,何 らかの形 で

original

と 「 近 い関 係」 にある.そ して,お互 いに連絡 を取 り合 った りして,患者 の細か い ことまで知 ってい るので

,sosie

形成 の説明概念 と して 3 8 )

origi nal

の 「分

割」

磯制

splitting

が想 定 され 得

る. また

,sosie

,original

の住む 生 活 空 間に同居 し,そ こか ら患者 の妄想世界 に立 ち 現れ る. フランス語 の

sosie

は 元 来

,origi nal

とは赤 の他人 であるか ら, その出生, 由 来 は不 明であ り,従 って

,original

と同一の 生 活空間か ら出現す る ものではない.わが国 の報告 において も,例 えは症例

1

,

6

,

8

,

l

l

,13,14,15,17

な どがその例 であるが, 大勢 を占め るまでには至 っていない. また症 例

2

の 「 近所 の人 たちが整形手術 を したのか も知れ ない」, 症例

9

の 「父や母は, 実 は 警 察 の廻 し者が変装 してい る」 ,症 例

10

の 「お 母 さん と同 じ顔 を してい るが変装を してい る だけ」,症例

1

1の 「 両親 は変装 して い るか 整 形手術 に よって姿かたちをそ っくりに変 えた 替玉」

,症例13

の 「宇宙人が母に変 装 して い る」 ,症例

14

の 「 型 をかぶ った変装」 ,症例

15

の 「母親 に化けたお面 をかぶ った 幽 霊 」 ,症 例

18

(自験例) の 「 狸が ムネち ゃんに似 よ う

とす る,狐や狸 が人 に化け ることが ある,異 なる人 は, アイ母 さんの顔 に似 よ うとす る」, 症例

19

(自験例) の 「 兄 さんに極道 の阿部が 化けて来 た,看護婦 の中に も極道 の阿部が変 装 させた女性が い る」 と述べ てい る ところか らみて,本邦 の症例 では,か な りの頻度 で, お面やかつ ら (あるいは 不 明 の 変 装 技 術) をつけて変装 した り,手術 を 受 け た り し て

original

に姿 ・形 を似 せ よ うとした り,民話 にあるよ うな狐や狸が

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に化け るな ど の手段が見 られ る点が注 目され る.

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は 元来,変装 した り,化 けた り,手術 を受けた り

しな くて も

,original

に似 てい る生身の人 間 で あるか ら,これ らは本来 の意味 では

,sosie

とは言 えないで あろ う.症例 1の 「 主人 と同

じ顔, 同 じ姿を した男たち」 , 症例

4

の 「 替

参照

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