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〈別の世界〉を切り出す記憶像 1

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Academic year: 2022

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(1)︿別の世界﹀を切り出す記憶像. L. −ムージル﹃静かなヴェローニカの誘惑﹂. 1. について. 岡. 田. 素. 之. だが︑ここで述べられたような体験は︑単に稀であるばかりか︑. その作家の根底を規定する類いの体験のはずであり︑必ずしも短篇. 小説という形式に限られるとは考えにくい︒少なくともムージルは︑. 世界が不意に深まり︑ものの見方が逆転するところに顕れる独特な. ︸. ムージルは短篇小説について独特な見解を抱いていた︒それは一. 境位を︑小説形式にとどまらず︑文芸ジャンルの違いを超えて探索. の主著と口される﹃特性のない男﹄は︑その外形から判断すれば大. 九一四年にローベルト・ヴァルザー︑カフカその他を評した彼の時. これによれば︑優れた短鳩小説は有能な作家がただ例外的に書く. 長篇小説と呼ぶほかないが︑この長篇作品でも︑いたるところに類. しつづけた作家であった︒きわめて膨大な︑だが未完に終わった彼. ことのできるもので︑そこには︑︿永きにわたりすべてを丸ごと吸い. 似の体験が顔をのぞかせている︒. ン. もっとも︑ムージルがそのあたりの事惰に無自覚だったわけでは. ー. の︑範囲を区切られた精神的刺激V︑さらに一言えば︿震櫨﹀ないし. ない︒ここで短篇小説に求められたものは︑彼が文学の格好な典型. マ. ︿運命の摂理﹀が関与している︒︿このひとつの体験のなかで世界が. とみなしたこの形式に対する︿極端な要求﹀にすぎないと一応は断 ︑. 不意に深まり︑あるいは彼のものの見方が逆転する︒このひとつの. ︑. られる︒それでも︑この︿素早く手をのばして掴める形式﹀に︿文 ︑. 実例に触れて彼は︑すべてが本当はどうなのかを口の当たりにする ︑. 学の強烈な印象の多くが由来していること﹀に注目すべきだという︒. ︑. 思いがする︒これが短篇小説の体験なのだ︒このような体験は稀有. 八七. 断片のかたちでスケッチされた長篇小説︑あるいは本質だけが仕上. また短篇小説といえども︑︿それらはしばしば︑小さな長篇小説とか︑. ︿別の世界﹀を切り出す記憶像. とになる﹀^HHしき蜆一︒. 一1︺. であり︑この体験を何度も呼び起こそうとする者は︑白分を欺くこ. ロ. こむ精神的刺激﹀に依拠する長篇小説と異なり︑作家を襲うく突然. 評文がその一端を語っている︒. ノ. 1.

(2) 八八. ヴェレとロマーンをめぐる︑内容と形式の一致を規定する文芸学上. 実的な因果関係の効力に無効宣言を言い渡したところで︑何事かを. と心理的過程の叙述から解放し︑所詮は逃れられないにしても︑現. 一見病的で︑倒錯した主題が扱われるぱかりか︑物語を外的出来事. の規範にこだわることなく︑短篇小説には︿眼られた空間に必要な. 物語ろうとする果敢な試みであったともいえる^月−竃9︒その結. ^2一. げられたある種の草稿だったりする﹀︒そして最後にムージルは︑ノ. ものを収めるという強制のほかに︑いかなる原理も︑このジャンル. 果︑通常の読者は︑名づけがたいものが不意に姿を現しては消えて. ^3一. の統一的な形式上の特微を条件づけるものはない﹀とまで述べる. 末の悪い印象を抱くことになる︒いわば読者には︑既知の現実観が. ゆく霧と露のなかを歩くような︑全体が見渡しがたい︑はなはだ始. れは一転して何とも鷹揚な︑物語をその長短だけで区別する定義に. ひとたび捨象されて︑登場人物の揺れ動く感情と思考の連なりから. ︵HH一崖3︶︒つい直前に掲げられたいささか高尚な要求に比べれば︑こ. ほかならない︒しかし︑所期の主張に反して彼があえてこのような. むろん︑このような作者の意図または願望は︑ムージルも後年認. 新たな現実を発見することが求められている︒. 既成美学に支配された文芸市場に対して擁護する︑一般的な前提を. めるように︵戸鵠9︑それ白体かなり一方的なもので︑実際の作品. 屈折した述べ方をするのは︑ヴァルザーやカフカの散文の独自性を. 示唆するとともに︑その一方で︑一九一一年に出版された自分の短 ︺. から容易に了解できるというわけにはゆかない︒そこで作者自身︑. ^. 一九二二年一月に匿名で発表して︑篇中の語り手にいわばこの作品. いう︑ユーモアと藷譲の入り混じったメニッポスふうのエッセイを. この短篇集をめぐって﹃ローベルト・ムージルの著作について﹄と. 篇集﹃合二の不評に対する自己弁護の思いが密かに混在している からでもある︒. 実際︑これから直接扱う﹃静かなヴェローニカの誘惑﹄と︑そし てもう一篇の﹃愛の完成﹄︑これら二篇を収めた﹃合二は︑ムージ. る危険を賠してまで集中して書かれた作品であったが︵戸⑩害︶︑読. ばかりか︑そのことば遣いに見られる絶対的で定義しがたいまでに. ︿芸術作品の人間的内容を理解するとは︑明白な理念内容に対して. の読み方を指南させている︒. 者に容易に受け容れられる性格のものではなかった︒彼が一躍成功. 完結した着想の数々︑作中人物たちが放つほのかな輝き︑沈黙やあ. ルの証言に従えば︑二年半の歳月を費やし︑しかも精神的破滅に陥. した作家として認められた処女作﹃生徒テルレスの惑乱﹄︵一九〇六. らゆる再現不可能なものに対してもまた︑感情と思考からなる連鎖. 漸近線的に解体することによってのみ︑われわれは作品に秘められ. の無眼に折れ曲がった多角形を描きこむことなのです︒このように. 年一が一応伝統的な外的物語性を具えていたのと異なり︑二作口の. ﹃合二は︑いかにもあのく短篇小説の体験Vに即した︿極端な要 求﹀を真っ向から実現しようとする類いのものであった︒そこでは.

(3) ルは︑彼の創作原理のもとにある︿感情と悟性が相互に融合した﹀. しずめ作品の壊死を日指すとでも言うところだろう︒しかしムージ. 作品の弁証法的な死u復活を求めた批評家ベンヤミンならば︑さ. 分けもつかない声が︑まるで二条の光線のように放たれ︑互いに絡. 二っの︑ふだんはどこでも日々の喧騒の呆けた混沌からほとんど見. でないのかもしれない︒だがもしかすると︑どこかこの世に︑この. 隠す暇とてなかったものが︑垣間見える︒もしかすると事実はそう. 立ちあがる女の声は︑まるでぺージが按配するかのごとく︑ものや. ︵HH﹂8o︶状態に向かって作品を微細に解体する作業そのものが︑. みあう点があるのかもしれない︑どこかには︒もしかするとこの点. た心的活力源を持続的に白分たちの精神に同化するのですが︑この. 作品の理解に導くと説くのであり︑﹃合こが文体的・内容的にいか. を見つけ出そうとすべきなのかもしれないが︑それが近くにあるこ. わらかく寛やかな︑間延びした男の声︑この枝分かれして声にもな. に輸郭の捉えがたい作品であるにしても︑そこには伝統的物語の常. とは︑まだ耳には聴こえぬものの︑早くも遠くの閉じられた舞台の. 解体が芸術作品の人間的目標であり︑その可能性の如何が芸術作品. 道を超えて読者に挑戦する独特な論理がある︒むろん作品は一個の. 幕の重々しくぼんやりと波打つ嚢に浮き出て見える音楽の動きのよ. らぬ声にとり巻かれており︑その男の声のあいだからは︑声が覆い. 完結した表現であり︑それを超えたものを求めるための単なる契機. うに︑ここではただ心の動揺を介して気づかれるばかりなのだ︒も. の判断基準なのです﹀︵戸Ho8︶︒. や口実ではないが︑﹃合一﹄の場合︑その表現が指し示すものを具体. しかするとこの二つの声は︑やがて互いに駆け寄り結びつき︑その. にして当惑を禁じ得ないだろう︒これだけの短い範囲に︿もしかす. ^5︺. に即して探索することが︑同時に作品を作品たらしめる条件になる︒. 病と衰弱から癒えて澄明で白昼のように確かなもの︑直立したもの. に変わるのではあるまいかV︵HH㌧虞︶︒. ﹃静かなヴェローニカの誘惑﹄一以下﹃ヴェローニカ﹄と略記一は︑. ると﹀︵<一①=9o葦一という︑語り手の現実性に対する不確実感を表. 読者はたぶん︑この具象というより抽象的比瞼に満ちた文章を前. 章番号のない︑長短異なる七つの章から成り立っている︒次に挙げ. す話法詞が五回も使用されているが︑果たしてここでは誰が語って. いるのか︒﹃合二の発表直後に書かれたフランツ・ブライ宛ての書. るのは︑その冒頭の章全体である︒. ︿どこかで二つの声が聴こえるはずだ︒もしかするとその声は︑た. 簡によれば︑︿観. 八九. 点は作者のうちにも作中人物のうちにもない︒. だ日記の紙のうえに沈黙したまま相並び交差するように横たわって. 作者はけっして観点などではない︒この二篇の物語には遠近法的な. ﹄小ワン・ト・ウユ. いるのかもしれない︒暗く低い︑だが不意に跳ね起き自分の周りに ︿別の世界﹀を切り出す記憶像.

(4) か︿ぺージ﹀とは︑いったい何なのか︒それに何よりも1あとの. かも聴覚が視覚に変わる共感覚的あり方でも︒だが︑︿日記の紙﹀と. 的にしか存在し得ない消尽点を希求しているようにも思われる︑し. すら相並び交差しながら︑いまだ予感のようにしか︑あるいは否定. じこめられた定かならぬ感情の音声的なく心的構成要素Vが︑ひた. だとすれば︑ここではそれぞれの声の持ち主である一組の男女に閉. あるいは普迎以上の構成要素とでもいえるかもしれないV一巾﹄ご︒. 圏が自分の内部に眼定された登場人物たちの心的構成要素なのです︒. ︿比瞼︑形象︑文体を口述するのは作者ではなく︑これらはその感情. 中心点はないのです﹀一貝ooo︒一という︒あるいはこうも述べられる︒. ヨハネスに似た若い聖職者が登場しており︑ここでもまた性的なも. 婚適齢期もすぎて世間的交わりを厭う内向的な女主人公と︑のちの. が︑最終稿と同名の表魎で︑すでにヴェローニカという︑二八歳の︑結. そのあとの二番日のテクストはやはり一九〇八年以前の断章である. というような場面で終わるらしい︑全体の切れ切れの断片群である︒. 女は彼のことを⁝⁝獣のように︑聖なる獣のように感じた﹀︵丙〇一寓︶. 官能的な触れ合いがあるようだが︑やがてある中尉に犯される︒︿彼. 悪霊の働きとみなしている︒若い神父らしき者とのあいだに暖昧な. 見る幻視の能力を具えていると同時に︑自分の内部でうずく性欲を. ティルデという一九歳の女性が主人公になるらしい︒彼女は天使を. ︿悪霊Vという表趣が見られるいくつかの断片がある︒ここではマ. 九〇. 章を読めばヴェローニカとヨハネスだということが推測できるにし. のと聖なるものとの葛藤が灰めかされる︒が︑さらにそれを越えて. デーモー. ても1この声だけの男女は何者なのか︒. かわるような記憶﹀︵HHし曽︶という︑その後のテクストに引き継が. ︿没個性的なもの﹀︵月曽㎝︶とか︿ある大切な忘れられた事柄にか. の作品には︑﹃愛の完成﹄の場合と異なり︑最終稿を含めて五篇のテ. れる重要な語句がすでに現れていて︑文章的にもそのまま最終稿で. これらの問いには︑作品の成立事情が多分にかかわっている︒こ. クストが遺されており︑今日では容易にその発展を追うことがで. 使われている部分が少なくない︒. ネスとヴェローニカがそれぞれ綴る日記として構成されていて︑い. れた︑同名の表題をもつ四番目の未完テクストであり︑それはヨハ. れた短篇としてフランツ・ブライの主宰する個人雑誌に一九〇八年. は草稿ではなく︑﹃魔法にかけられた屋敷﹄という表題で一応完成さ. しかしながら︑三番目の稿はいささか様子を異にしている︒それ. 一6︺. きる︒右の冒頭の章に直接関連しているのは︑一九一〇年に試みら. ま触れた章は︑ほとんど同じかたちでその冒頭部に使われていたも. アと変えられており︑その内容と文章は一層決定稿に近づいてはい. に発表された作品である︒表魍のほか女主人公の名がヴィクトーリ. 簡単に﹃ヴェローニカ﹄テクストの成立史をたどっておけぱ︑最. ても︑その形式はこれまで述べてきた基本的発想から見れば後退し. のであった︒. 初に一九〇八年以前に書かれたと想定されるく守護天使vとか.

(5) い破って顕れる︑語り手とは無縁の幻想的な描出が中心になる︒ど. 枠物語の形式で書かれている︒しかしこの枠物語では︑その枠を喰. 公の住む陰気な屋敷で経験した出来事をあとから物語る︑いわゆる. 駐屯地の宿として提供された︑奇妙に内向的でどこか淫蕩な女主人. ている︒つまり︑全体は中尉のデメーター・ノヂが短期間滞在する. 別の世界を切り出すことが︑彼の本来の狙いであった︒そこで彼が. 手法を逆手に取って︑そこから眼前の固定した秩序に還元できない. 説を書こうとしたわけではあるまい︒精神分析という吸血鬼退治の. な内容にかかわりながらも︑秘められた因果物語である精神分析小. 分析の影響を被っていた痕跡を示している︒ただし︑彼はそのよう. までの硬直した世界が溶解し︑屋内の物たちが変容して生気を帯び. る男が自殺行におもむく︒彼の死を確信することで︑彼女にはこれ. うより︑この作品でも︑内的な世界が深まり転倒した位相に顕現す. 単にもう一篇の新たに書かれた﹃愛の完成﹄と釣り合いを取るとい. ら翌年にかけて︑四稿目の日記体の試みを経て書き直した作業は︑. ﹃魔法にかけられた屋敷﹄を︑短篇集﹃合このために一九一〇年か. た幻想空間が生まれ︑何か別の世界が幻視されるようになり︑彼女. うやらヴィクトーリアに結婚申し込みを拒絶されたためらしく︑あ. は男と︿神秘的な精神的合一﹀︵HHし臼一を体験するように思う︒そ. る︑あの外的・心理的事件展開を拒む名状しがたい体験を︑いかに ^呂︺ 極隈まで追求するかという難問に応えることが課題であった︒. のような一夜が明けると︑不意に︑死んだはずの男から手紙が届き︑. そこには白殺の断念が菩かれている︒すると彼女はもう以前の自分 に戻れなくなり︑獣のような錯乱状態に陥り︑その間出張していた. 作品の成立過程に寄り遣したせいで冒頭の章を等閑にしてきたが︑. 中尉が帰ってくると︑淫らな性的関係に溺れるようになる︒. これは﹃ヴェローニカ﹄の決定稿に比べれば︑はるかに輪郭明瞭. ヨハネスのことばが最初に聴かれる︑次に挙げる二番目の章の最初. ︿︽回転するものよ!V︒のちになり︑まるで細糸のような見えない. で読みやすく︑珍事を語るという︑一般的な短篇小説の基準から見. 常な行動と幻想に走る一人のヒステリー女の症例として︑フロイト. 確かさで張りつめた幻想と︑日頃慣れ親しんだ現実との︑そのいず. の一文と併せて吟味する必要があるだろう︒. /ブロイアー共著の﹃ヒステリー研究﹄︵一八九五年︶の一鯖のよう. れを取るかを迫られた恐ろしい決断の日々︑あの捉え難いものをこ. れば成功しているだろう︒また︑これは性的抑圧に苦しめられて異. に読むことができるし︑その記憶の特性はフロイトの隠蔽記憶に手. の現実に引きこもうと努めた絶望的な最後の営み︑1だがやがて. ^7−. 本を取ったような気味もあり︑ゲシュタルト心理学やマッハ哲学で. それを断念して︑まるで雑然と積み重ねられた暖かい羽毛に埋もれ. 九一. 修練を積んでいたムージルも︑処女作当時からかなりの程度に精神 ︿別の世界Vを切り出す記憶像.

(6) 九二. いのだがVと哀願する︒事実︑彼は同じ屋敷に住むヴェローニカと. ればそれが白分の外部にあって︑︿あなたは神だ︑と言えれば有り難. ヨハネスの内部で滋く始末に負えない感情として存在し︑彼はでき. ︿回転するもの﹀萬邑ω竃序ω一という謎めいた何ものかは︑いま. ているのかもしれない︒さらに物語がたえず曲折して反復され円を. 物にして始まる物語の一部が︑この個所で事後的に要約して語られ. もそうだとはかぎらず︑これからヨハネスとヴェローニカを主要人. 直に考えれば物語の時間的発端にある前提部といえようが︑必ずし. 初に述べられたヨハネスの怖ろしい︿それらの日々﹀とは︑ごく素. と︑死という非存在の領域にあるものとが︑一応想定できるが︑先. 階段を交差的に昇り降りし︑あるいは互いに擦れちがうおり︑︿二人. 描くのであれば︑作品冒頭の短い一章は︑直線的時間の展開とは別. るように素朴に生けるもののなかへと身を投げ出してしまったそれ. が感じている暖昧なものをはっきり捉える最初の試み﹀として︿神﹀. 途に︑﹃ヴェローニカ﹄という作品を︑水平軸と垂直軸が形づくる細. 取りしていえば︑作品はそれらの二極の中心に触れながらも︑どち. と言ってみるが︑︿彼がそれを口に出すと︑価値のない概念となって. 胞核の状態で予め呈示していると考えることができる︒つまり︑作. らの日々に︑彼はあの何ものかに向かって︑ひとりの人間に語りか. しまい︑自分が思っていることを少しも表していなかった﹀臼一冨㎝一︒. 品の最後でも︑作中人物たちは安定した︿白昼のように確かなもの﹀. らにも回収されぬまま渦巻状の文様を描くのである︒したがって最. これはホフマンスタールのチャンドス体験にも似ており︑またムー. など容易に見出せないのだから︒. けるかのように呼びかけたのだった﹀︵HH﹂虞︶︒. ジルの処女作の主人公が抱く︿惑乱﹀の内容でもある︒この回転す. ところで︑この作品が︑近世ヨーロッパ以降の︑いわゆる神の視. ^g︺. るものはひとたび言語その他によって外在化しようとすると︑たち. ︑. 点を人間が獲得した遠近法的な空間観を排除したところで︑室内楽. ︑. まち意味を失ってしまうが︑しかし︑この名づけがたいものが﹃ヴェ. ︑. のように成り立つことを作者が庶幾しているにせよ︑全体から事件 ︑. ローニカ﹄という作品の奥底にあり︑あたかも作品全体もまたその. 展開のようなものがまったく窺われないわけでもない︒すでに﹃魔. ︑. 周りを回転しているかのような印象がある︒ヨハネスがヴェローニ. 法にかけられた屋敷﹄の概要に触れた以上︑その改作である﹃ヴェ. は︑これには全体を緑取る枠構造がない点であり︑登場人物に関し. ﹃ヴェローニカ﹄が﹃魔法にかけられた屋敷﹄と決定的に異なるの. も︑読者の経済には資するだろう︒. ローニカ﹄の概要に触れておくことは︑作者の意図に反するにして. ︑. カに向かって︑︿その周りが廻れる中心点を不意にきみに教えてくれ. る︑渦巻きのなかの小石のようなVもの︑そしてそのような漠と予. 感されるアルキメデスの点を手がかりに二人の新生を始める計画を 語ると︑彼女は突然︑むしろ彼が死んでくれることを願う︵月N8︶. −ということは︑この観点ならぬ中心点は存在の領域にあるもの.

(7) 念したヨハネスが最後に戻ってくるらしいこと︑また︑屋敷に現在. ローニカがヨハネスの帰りを待ち受けている︵H−曽ω︶ことである︒. ても︑︿この地方の最も古い一族v︵月Noo︶に属しているヴェロー. 背景には︑ムージルの作品の大多数にモデルがあるように︑彼が一. さらに決定稿が﹃魔法にかけられた屋敷﹄と大きく印象を異にする. いるデメーターと性的関係を結ぶような出来事は起こらず︑ヴェ. 九〇六年に識り合い︑﹃合二の完成直後に結婚したマルタを中心と. のは︑すでに述べたように︑全体の輪郭が暖昧になり︑巨細な渦を. ニカ︑ヨハネス︑デメーターの三人が葛藤関係をもつ︒この三人の. する同年輩の従兄弟たちがモデルだったようだが︑それは差し当た. 随所で巻いてゆるやかに反復展開していることである︒. 8べ︶から始まるらしい︒そのあと彼女はこの性格薄弱なヨハネスと. も薄笑いを浮かべたことを︑ヴェローニカが思い出した時点︵月. ネスがあるときこの屋敷に戻ってきて︑デメーターに殴られながら. メーターが時おり出入りしている︒どうやら主要な出来事は︑ヨハ. 軟弱なヨハネスと︑軍人になろうとしたことのある粗暴で好色なデ. 主人公に当たり︑そこには聖職者になろうとしたことのある臆病で. 場がある古い屋敷に︑実際には登場しない老齢の伯母と一緒に住む. ニカが︑他の草稿と同じく︑外界から完全に切りはなされた︑養鶏. とある︒そして神を求めるヨハネスにはむろん︑キリストの使徒ヨ. 彼女の名を口にすると︑︿その名に付着する汗を感じた﹀︵月8ω︶. く胃巴8畠︵真実の像一に由来する︒作中でも︑ヨハネスが時おり. 聖女の名である︒その名はキリストの顔が写った聖顔布︑すなわち. うキリストに手巾を差し出して︑その顔の血と汗を拭ったとされる. ことである︒いうまでもなくヴェローニカは︑ゴルゴタの丘に向か. うに︑この作品で神話的・伝承的素材が意味ありげに使われている. れたが︑より重要なのは︑登場人物の名前から直ちに推測されるよ. いまこの作品にムージルの身辺に見られたモデルがあった点に触. 一10一. り副次的な知識である︒二十代後半の暗い官能性を秘めたヴェロー. ならば一緒に生活ができるかもしれないと一時期妄想に耽ったり︑. ハネや洗礼者ヨハネが重なり合うばかりか︑彼の帰還は一種の復活. われたままである︒そしてヨハネスが結婚を迫ると︑彼女は結局拒. た記憶﹀︵HH﹄8︶が戻ってこないかぎり︑彼女には真の全体感は失. 記憶が思い出された﹀︵HHしoo︒一りする︒ただし︿この最も忘却され. デメーターは粗野であるばかりか︑大地的・動物的であり︑性差を. ここで両性具有者に対するムージルの関心に立ちいる余裕はないが︑. 女神デメテルであり︑冥界に誘拐されたペルセポネの母親である︒. を意味する︒他方︑デメーターの名はギリシア神語の大地と豊饒の. ^H︺. さらにその期待とともに︿ただひとつの記憶を除いて他のあらゆる. 絶して︑︿ひょっとしてあなたが死んでくれるのならば⁝⁝V︵戸. 超えてヴェローニカという冥界の娘ペルセポネを求めている︒これ. アンドロギュ■ス. N8︶という︑例のことばをつぶやく︒その後の経過は﹃魔法にかけ. ら三者の名にはそれぞれの仕方で秘儀宗教に関連する要素が窺える︒. 九一一一. ^12︺. られた屋敷﹄と大筋において変わらない︒ただ違うのは︑自殺を断 く別の世界Vを切り出す記憶像.

(8) 文学であれ︑少なくともその表魍だけは既知のものであったはずで. 範囲ではフロベールの戯曲形式の作品に窮まるに違いない︒ムージ ^H︺ ルがフロベールに直接触れた時期は遅かったにしても︑絵両であれ. るまで幻想両家たちの格好の両趣として彩しく描かれたが︑文学の. 画の分野では北方ルネサンス期から二〇世紀のルドンやダリにいた. 瞭である︒もっとも︑砂漠の隠者く聖アントニウスVの誘惑は︑絵. だったのと同じく︑﹃聖アントニウスの誘惑﹄がもとにあることは明. テルレスの惑乱﹄がゲーテの﹃青年ヴェールターの悩み﹄のもじり. さらにその表魎の﹃静かなヴェローニカの誘惑﹄は︑処女作﹃生徒. 白分は司祭になりたいと語った昔日の話題に転じて︑︿その時わたし. る一方︑かつてヨハネスがデメーターに臆病者と潮笑されたあと︑. び出してくる︑あの雄鶏のようなものに違いない﹀一HHし竃一と述べ. 彼もまた︿恐ろしい︑広大な空虚さに生きていて不意にそこから飛. 自分を獣のように力づくで押し拉ごうとしたデメーターに言及して︑. 何度も繰り返される無意味な動作に彼女は惹きつけられる︒彼女は. り落ちてきて︑不意にあらゆる昂奮から解放される﹀︑そんな何度も. そこでは一羽の雄鶏が雌鶏を求めて︿何とも言いがたく無頓着に滑. と並んで窓から養鶏場を眺めていたときのことを話す場面である︒. 動物の具体例が最初に現れるのは︑ヴェローニカが︑デメーター. 九四. ある︒︿静かなヴェローニカ﹀は︑魔法にかけられた屋敷に囚われ︑. いう︒さらにデメーターに殴られたヨハネスの印象について︑︿まっ. は突然︑デメーターではなく︑あなたこそ動物だということがわかっ. いま指摘したような名前がはらむ聖性は︑漠然とある方向を指し. たく没個性的で︑何か裸の暖かな穏和さを除いてすっかり剥き出し. 孤立した隠遁生活のなかで悪霊の誘惑にもかかわらず天使を見る聖. 示しているにすぎないが︑これらの神話的・伝承的要素を現代生活. になったように思われたV︵戸H8︶︑あるいは︿どんな人閲もそれほ. た−⁝﹀︑そして自分は︿とても幸福な気持になった﹀膏﹂⑩O︒一と. のなかに取りこむことによって︑﹃ヴェローニカ﹄が︑﹃愛の完成﹄. ど没個性的にはなれない︑なれるのは動物だけだろう﹀︵戸N8一と. ヴェ ロ ー ニ カ に 等 しい︒. に比べて一屑奥深い作品になっていることは否定しがたい︒. もつけ加える︒. ここで触れられる動物の現象形態はさまざまで︑︿威嚇する醜悪. いうことばが実に彩しく使われている︒むろん人間に関してもこの. この作品では︑巨大な犬から風にいたるまで︿動物/獣﹀︵■胃︶と. る近代的自我とそれを支える世界が早くも胡乱になってしまった境. ばと関係づける︒これはムージルの基本語のひとつであり︑いわゆ. スに重ねて肯定的に捉えたく没個性的V︵冒葛易9=nこということ. さ﹀︵月昌蜆︶を伴う場合もあるが︑ヴェローニカは︑それをヨハネ. ことばは等しく使われる︒.

(9) ⁝⁝﹀菖L昌一と述べる︒. に向って︑︿あなたが時おり神と呼んでいるのは︑そんなあり方かも. 願望の対象として表象される︒ヴェローニカはこの状態をヨハネス. 眼に向かって閉かれ︑個体同士を分かつ鋭い輪郭の溶解した状態が︑. なもの﹀を徹底したところに現れる︑個体意識の鎧を脱ぎ去り︑無. れぞれ位相を違えて当てはまる︒そして彼女には︑この︿没個性的. 容詞は︑ヨハネスだけでなく︑ヴェローニカとデメーターにも︑そ. いまだ現実を忌避するだけにとどまるが︑それでも没個性的なる形. のない男Vが出現するだろう︒﹃ヴェローニカ﹄の登場人物たちは︑. 性を帯びて成長すれば︑諦特性の形骸化した現実に対決するく特性. 特性のない︿心的構成要素﹀が前無に現れてくる︒この要素が積極. いまや仮面を脱いだ没個性的なもの︑言い換えれば︑非人格的な︑. するペルソナに由来する︿個性的﹀という近代の識標に代わって︑. 位が︑彼の出発点であった事情と密接に関係している︒仮面を意味. いう本来の物語は︑いまから始まるのである︒したがって︑︿現実の. のの具体化に導く一種の触媒であり︵↓HL緕︶︑﹃ヴェローニカ﹄と︒. できるかもしれない︒だが︑これは獣姦というより︑没個性的なも. の物語が成就したことで︑差し当たり問魎の落着を仮構することが. れを忌まわしい心的外傷とみなし︑想起によって再構成される欲動. もしこのヴェローニカの記憶を精神分析の類型で捉えるならば︑そ. の寡婦の話が︑いささか淫らがましく灰めかされていた︵HHし8︶︒. 作品のこれより前の部分にも︑二頭の大きな犬と暮らしている農家. にまつわる獣姦を暗示するものがそれに当たると解してよいだろう︒. 味の語句が何度か繰り返されるが︑一応︑このセントバーナード犬. た﹀︵HH﹄O㎝︶︒テクストには︑思い出せないひとつの記憶という意. 感じながらも︑︿彼女の内部で何かが熱く身を屈してゆくのであっ. ると︿まるで彼女自身も獣であるかのように﹀痒れ︑おぞましさを. あるとき犬が陰茎を不意に伸ばすと同時に︑彼女を舌でなめた︒す. ︑. ︑. ︑. ︑. ヨハネス体験﹀︵HHL8︶という︿何か別のもののための口実﹀を得. ︑. この没個性的な宥和状態のイメージは︑たとえば万物が照応する. ︑. て想起されたこの最も深い記憶もまた︑ある別の次元を切り出す契. ︑. 庭固として言及されるとともに︵戸N09︑あるいは鳥の叫び声に喚. ︑. 機であった︒そこでこの記憶については︑︿意識のすぐ下を流れる︑. ︑. 起されて想起されるさまざまな感情や記憶にも通じている︒そして. ︑. ある大切な忘れられた事柄の記憶のように︑やがて現れるに違いな ︑. 彼女が思い出せないことに苦しんでいたく﹇取も忘却された記憶Vも︑. た言い方で述べられ︑いわゆる記憶の再生そのものを必ずしも直接. い何か驚くべきもの﹀︵HHしOべー傍点は筆者︶と︑微妙に二重化し. ︑. 女時代に経験した二頭のセントバーナード犬の記憶であった︒その. 指しているわけではなかった︒彼女が求めるものは︑過去の記憶と. ヨハネスが死出の旅路につく間際に不惹に甦る︒それは一四歳の少. 記述は失われた人類の黄金時代に似ており︑小山のように大きな犬. 重なり平行しながらも︑同時にく彼女の前で初めて形づくられるべ. 九五. は白然の豊かな景観をすべて具えた巨人のように思われた︒しかし︑ ︿別の世界﹀を切り出す記憶像.

(10) たあとのヴェローニカは︑翌日の晩になると︑半信半疑ながらも︑. 九六. きある意味のなか﹀︵HHし富︶に顕現するのである︒ヨハネスとの別. は部屋中の灯をともしてその真ん中にヨハネスの写真を前にして坐. 彼はもう自殺を決行したはずだと思う︒そして夜が訪れると︑彼女. ︿もしかすると1−由分のなかに独り剥き出しになったこの突然. る︒するとまたもや彼女には現実のヨハネスは問題ではなくなり︑. 離に触れてヴェローニカが抱く感情の変容はこう菩かれている︒. の記憶は1−白分白身で理解することのできるものでは少しもなく︑. ないことによってのみ︑現れ出る何かなのだと感じ取った︒という. ものになる道を閉ざし︑まるで異物のように外に転がり落ちるしか. のれを閉ざして自分のなかに隠れ︑将来なり得たかもしれない別の. 空虚な空間は消えて︑奇妙な関係をはらんで緊迫していた︒家財遭. と広がり出てしまったことであった︒/彼女と物たちを隔てていた. がすでに変わってしまい︑夢と覚醒のあいだにある見知らぬ領域へ. ︿彼女が不意に感じ取ったのは︑自分を取り巻くものに対する感情. 不思議な空間の変容が起こる︒. のも︑すでに彼女のヨハネスに対する感情は沈んで流れ出し始めて. 具はそのあるべき場所から動かすことができないかのように腰を据. −あるとき大きな不安のために完成を妨げられて−硬直してお. いたからだ︑−解き放たれた広い大量の流れとなって︑長いこと. 出 て︑ヨハネスに対 す る 感 情 を 引 き さ ら っ て ゆ き ︑. り閉じこもっていた︒にもかかわらず︑物たちは時おりまたもやヴェ. 自足し︑彼女から離れ︑握りしめた拳のように白分のうちにしっか. 白分自身にすっかり. えていた︑. に彼女のうちに剥き出しになった彼方から︑光の輝きがひろびろと. ローニカの内部にあるようでもあり︑まるで眼をもつかのように︑. 卓も︑戸棚も︑壁の時計も. 死んで力なくその手中に囚われていたものが︑彼女のなかから逆り. 円蓋をつくり高まっていった︑柱もないのにせり上がってゆく何か. ヴェローニカと空間を仕切るガラス板のように置かれた空間から彼. も呼ぶべきかもしれない︒このほとんど記憶と忘却が交差して溶け. た未聞の状態である︒あるいは︑いまだ存在しないものの記憶とで. いた可能性としての︿別のもの﹀が現実の裂け日から不意に出現し. このきらめき輝くものは過去の記憶ではなく︑記憶に阻止されて. 意に静かに炎をゆらめかせるローソクの灯る空間のように物たちの. ヴェローニカを取り囲んで高まり中空になり︑まるで彼女自身が不. て絶え間なくこの法外な力が物たちから流れ出て︑瞬閥の感情が. うにして物たちは︑高みに向かって円蓋をなし富薩をつくり︑そし. めに︑ひたすらこの晩を待っていたかのように立っていた︒そのよ. その代わり. が︑何か果てしなく高められたものが︑そして何か夢の網の目によっ. 女を眺めるのだった︒そして物たちは︑長年自分自身に立ち返るた. あうような︑ムージルの基本語でいえばく別の状態Vが︑円蓋状の. 周りに立っているかのようであった﹀︵月昌e︒. えんがい. て脈絡の失われたようにきらめき輝くものが﹀︵戸昌9︒. 別の空間となり︑彼女を包んで高まってゆく︒そしてヨハネスが去っ.

(11) 円蓋をせり上げる奇妙な空間も消えてゆく︒また︑ヨハネスの死も. ︿まるで彼ら二人のあいだを分かつ最後の境界も開かれてゆくよ. 動物と彼女との境界が廃棄されたばかりか︑いまや物象と彼女の. た空間のなかに﹀いるのだと感じる︒しかもこの空閥を満たすもの. うに思われた︒彼女は淫蕩な穏和さと法外な近さを感じた︒身体の. ますます疑わしく思われ︑彼との関係も遠ざかってゆくが︑しかし. は︑︿口覚めた魂﹀と呼ばれる︒魂をもたない︿子供たちと死者た. 近さというより魂の近さであった︒まるで彼の眼から自分自身を眺. 境界も透明になり︑時間は空問化され︑︿夢と覚醒のあいだにある見. ち﹀は︑︿夢にそのかたちを与える︑割り抜かれて空虚な容器になっ. め︑そして触れ合うたびに彼を感じるばかりでなく︑自分に関する. 具体的な翔として彼の存在が希薄になればなるほど彼女は次のよう. た現実のようなものだV︵HHし旨一とされるが︑そのような現実に穿. 彼の感情をも.また名状しがたいやり方で感じるかのようであり︑そ. 知らぬ領域Vが現在を宰領している︒そしてヴェローニカは︑自殺. たれた容器・空間を満たすのは︑たとえばヨハネスが神と呼ぶくあ. れは彼女には神秘的な精神的合一のように思われた︒彼女は時おり. に感じる︒. の別の感情V︵戸曽9︑つまり夢を見ることで逆説的に現実から日. こう考えた︒彼は守護天使なのだ︑と︒彼はやってきて︑自分がそ. したはずのヨハネスも︑いまでは︿この種の現実のなかに︑変化し. 覚めた魂である︒その夢は覚醒の手前の領域で︿変化した空間の感. の姿を認めると去っていったが︑しかしこれからは︑いつでも自分. ︑. 情﹀として生きている︒ヴェローニカもまたその種の夢を見ること. のかたわらにいるだろう⁝⁝V^戸SO︶︒. ︑. があったが︑醒めたあとの意識の背後に一筋の裂け目を通してひろ. ないしく精神Vの謂いであると同時に創造行為の源泉である︒そし. われる︒この感情と思考の結合が︑一般にムージルの考える︿魂﹀. 感情と思考の結合に関する記憶が見えてくるようにV︵HHL旨︷・︶思. る︒これら一連の変化した感情はヴェローニカの幸福感であり勝利. 別の世界︑あるいはただひとつの哀しみ﹀︵戸曽9の存在を感じ収. ばその合一を可能にする︿もうひとつの世界︑何か脇に逸れたもの︑. その背後からほのかに顕れる︿神秘的な精神的合一﹀を︑換言すれ. 彼女は現実の秩序が融解した︑孤独な感情と思考の営みのなかで︑. て彼女はあの大切な忘れられた事柄を︑感情と思考が夢のように絡. であるが︑ただしこれもまた夢と覚醒のあいだを往還する須史の間. い空間を感じ︑そこからく長い年月のあとで︑隠されたままだった. まった状態として︑現実的な記憶の桂措から︑もしくは記憶への還. の出来事にすぎない︒実際︑ヨハネスは彼女の予感通り自殺はせず︑. 日常的世界に回帰して︑デメーターを含めた隠微な緊張関係も再度. ^H︺. 元か ら 救 い 出 そ う と す る の で あ る ︒. むろん︑このような感情の状態は長つづきするものではない︒ロー. もとの状態に戻るらしい︒彼女のくあの夜の記憶Vがもたらした幸. 九七. ソクの灯が消え︑夜が明けるにつれて︑あの生気を帯びた物たちが ︿別の世界﹀を切り出す記憶像.

(12) 福感はまたもや過去の手に委ねられる︒それでもその歓びの影が︑. 九八. ︿ひとは誰でもたったひとりで身に起こる出来事と向い合ってい. 窓のない四つの壁の内側のように黙って閉じこめられながら向い. なければならないのだろう︒しかも同時に︑ひとつの空間をつくる. う短篇小説の体験と同じように︑その記憶を何度も呼び起こそうと. 合っていなければならないのだろう︒その空間のなかではあらゆる. ︿いま彼女の生きる現実のうえを覆って﹀︵HHし曽︶いる︒作者のい. する者は︑白分を欺くことになる︒. ことが実際に起こるかもしれないが︑まるで思考のなかだけで起こ. るように一方の空間から他方の空間へ移っていくことはない⁝⁝V. もつぱらヴェローニカの内部で行われる︿心的構成要素﹀の深化. 若干の研究者が指摘するように︑ライプニッツのモナド論に似てい. このような発想は︑ムージルが童識していたか否かは別にして︑. ︵HHLOH︶︒. と浮上の物語であるこの作品には︑いわば深海に潜る者の窒息感が. る︒︿モナドには︑そこを通って何かが出入りできるような窓はない﹀. 一肺一. 微かに付着している︒水平的時間の展開はたえず垂直的な運動が切. 体は︑一瞬結ばれては︿点滴となって落下する忘却﹀︵HHし缶一のよ. 一 ︺ が住む︿球体﹀一穴長①一一になるはずである︒むろんこの特権的な球. がる変容した空閉であり︑これが完成して閉じられれば目覚めた魂. 動詞に代表されるように︑現実に中空を穿ち︑円蓋をなしてせり上. まに変化して使われる考α5雪︵円蓋にする/弩薩をつくる︶という. に現れる感情の反転は独特な上昇形態を描く︒それは作中でさまざ. 下りの原理を予め想定せずとも︑他のモナドを表象し︵冨肩①急鼻雪︶︑. 惑わしてきたようだが︑モナドの本来的特性は︑︿予定調和Vなる天. 生動し合う関係にある︒︿窓のない﹀どいう比瞼は多くの哲学史家を. ツによれば︑それらはともに宇府を形成し︑相互に調和し︑無眼に. さらに最高の理性的精神である榔にいたる階層があり︑ライプニッ. 物から︑記憶・感情・注意を伴う動物的魂︑人間の理性的魂︵精神一︑. ただし︑モナドにも﹃ヴェローニカ﹄で触れられたような︑単なる. ︵吻ごとは︑﹃モナドロジー﹄中の掃もよく知られたことばであった︒. うに維持することが難しいが︑﹃ヴェローニカ﹄には︑たとえ不完全. また自己を表現する︵艘員ぎg一ことにより︑単一でありながら無. 断し暖昧な円を描き反復される一方︑その下降運動の窮まるところ. ながらも球となり円を描く比瞼的表現が︑実にさまざまなかたちで. 眼に多を含むことが可能である︒. 物たちにいたるまで︑かれらはモナドの住人に似ている︒ムージル. ﹃ヴェローニカ﹄でも︑三人の登場人物を初め︑さまざまな動物や. 一〃︺. 見られる︒それは輝かしく変容した空間ばかりか︑ヴェローニカの ことばに従えば︑人びとは日常的にも蝸牛のようにおのれの空間に 閉ざ さ れ て い る ︒.

(13) 分けるのは︑前者の発想には一種の楽天主義が全体を覆っているの. 欲求が顕著に窺える︒しかし︑ライプニッツとムージルを決定的に. に閉ざされたモナドが︑相互に絡み合い︑反援し合い︑浸透し合う. がライプニッツの影響を受けたと考えたくなるほど︑そこでは自己. まれている︒. リーノが補遺に廻した次のような文章が︑草稿本文の続きに組みこ. びき合う︒だが︑その後編纂された全集版︵一九七八年︶では︑コ. この部分は﹃ヴェローニカ﹄最終稿の冒頭部分とある程度までひ. それは近代以前の一七世紀と︑近代に連続する二〇世紀との違いだ. 而上学的前提が︑とうの昔に危殆に瀕しているという事態である︒. だけだったかのように︑記憶が彼女の内部に立ち昇ってくる−そ. じ取る. ものとして捉える︒1彼女はある男と営む生がもたらす事態を感. ︿そして彼女はこのゲシュタルト性質︵Ω鶉邑ε冨巨邑を特別な. といえば言える︒だが︑﹃ヴェローニカ﹄を初めとして︑ムージルの. してこの既知感︵急泣︹昌昌①︶が︑事態をますます強化して実在す. に対して︑後者には他者の表象と自己の表現を同時に可能にする形. 諦作品にモナド論的な様相を与えている直接の原因は︑むしろ彼が. る何ものかに変えるーそしてこの抽象的な︑ほとんど信じがたい. 一. 一. そしてこれらすべてがただ彼女の気持をほどこうとした. 工ーレンフェルスやホルンボステルを初めとする︑ベルリンの学生. 事態は︑現実の浮彫を手にいれる. そしてこの事態に照らされた. 時代以来の師友から受けたゲシュタルト心理学の影響に拠ると考え. ように︑彼女は白分と牧師との関係にもこの浮彫の介在を見る. 一㎎一. のの前に立ち塞がる抵抗物だと感じる︒彼女は敵意を︑また性に従. 彼女は不意に彼を︑本来ならば自分のために生まれるはずだったも. るべきだろうーむろん作品は心理学の絵解きなどではないにして も︒. ムージル研究者コリーノが最初に発表した﹃ヴェローニカ﹄第二. 的な合一が︑そして武装を解いた柔らかな驚きが訪れるのは︑生成. そして早くもまた半ばヴェールに覆わ. ︿彼女は−まるで来し方を振り返るように︑自分の生とこの別の. を望まれたものがもはや生成しないにもかかわらず︑それが美しく. 属する女の苦境を感じる. 生とが互いに並んでいるありさまを見たが︑この両方の生から︑第. 魅惑的であるからだー﹀︵HHL竃︶︒. 草稿の最後では︑彼女が自分の魂と他者の魂を不意に結びつける何. 三のものが︑より豊かなものが出来ているかのように思われた︑ま. れて︑もとの状態に後戻りする営みのように︑蝸牛の憧れが︑神秘. るで実際には存在しないが︑それでも二つの音で出来たひとつの呼. この一節の表現はかなり生硬ではあるが︑﹃ヴェローニカ﹄の核心 一20一 にあるものを簡潔に示唆している︒まず︑ゲシュタルト性質とは︑. ものかを感じ収る様 子 が ︑ こ う 述 べ ら れ て い た ︒. び声のように︑あるいは二本の角材が十字架の沈黙に変わるように. ムージルがあるエッセイで行った説明によれば︑たとえば複数の音. 九九. 存在するものが﹀一穴〇一8\HHL竃一︒. ︿別の世界Vを切り出す記憶像.

(14) することで創出されるゲシュタルトが︑それら諦要素の総和を超え. 符からなるメロディーのように︑感覚的に与えられた諦要素を構成. の契機をなすものは︑ゲシュタルト生成の円環構造を説く神経医学. されるかという契機︑つまりゲシュタルト形成とゲシュタルト喪失. 一〇〇. て新たな全体性としての精神的表現を生みだす性質のことである. 一η一. 者V・フォン・ヴァイツゼッカーによれば︑生の経験主体が担う知. たはずの合一のイメージは︑いまでは彼女が単なる女として男に従. を帯びてしまうかのように彼女には思われる︒可能性として生まれ. れることで︑いま創出されたばかりのゲシュタルトが直ちに現実性. 憶である︿既知感﹀︑ベルクソン流にいえば︿現在の回想﹀として顕. 態Vつまり当時の一般的な結婚生活に通じる︒それは一種の偽の記. なもの﹀に当たり︑さらに進んではくある男と営む生がもたらす事. てヴェローニカにとって︑生成の期待とその現実化に対する敵意と. の関係にあり︑その二重性において相互に補完し合っている︒そし. 逆の現象が起こる︒この場合︑図形Aと図形Bは相互に︿地﹀とく図v. 突然変化が生じ︑新しい図形が不意に現れてきたり︑あるいはその. る判じ絵を考えてみればよい︒ある図形をしばらく眺めていると︑. 例を挙げれば︑見方に応じてAの姿に見えたりBの姿に見えたりす. した点に踏みいる余裕はないが︑ムージルに戻って︑ごく卑近な実. 覚と運動の絡み合いの状態に依拠するといわれる︒ここでは︑こう. 属する不可能性に変わってしまう︒そこで彼女はふたたびもとの状. が瞬時に転換する状態︑すなわち現実と非現実の狭間に結ばれる変. ︵HHL曽C〇一︒ここでのそれは︑引用にある︿第三のもの﹀︑︿より豊か. 態に戻ろうとするが︑その移行の瞬間に︑未成の魅力が新たなゲシュ. 容の相こそが重要である︒それを文体の次元で見れば︑たとえば皇①. ︵⁝⁝のように︶︑とωOσ︵あたかも⁝⁝のごとく一などの接続詞の. タルトとして形成される︒. 要するに︑ゲシュタルト形成は︑さまざまな要素が特別な性質を. 覚対象の関係性︑あるいは︿知覚対象の場﹀において形成されるの. ろう︒それは空虚な真空地帯に形成されるのではなく︑実際には知. る円蓋や富薩の例のように中空になったはるかに立体的な姿で出現. は単に平面の次元に現れる判じ絵ばかりではない︒それはせり上が. そして﹃ヴェローニカ﹄の場合︑その︿地﹀と︿図﹀の比瞼構造. 頻用が示しているように︑ここではおもに直瞼とはいえ︑二重化さ. 一刀一 であり︑一般に︑このく図Vが出現する場は︿地﹀とも呼ばれている︒. するばかりか︑何よりも︿ある大切な忘れられた事柄の記憶のよう. もつ全体としての図形を創り出すばかりでなく︑このく図Vがどの. そしてつねに明瞭な︿図﹀でありつづける完結充足した強いゲシュ. に﹀という表現に見られるごとく︑記憶ないし回想がつねに一方の. れた表現である比瞼表現の氾濫につながる︒. タルトがあるばかりではない︒︿地﹀と︿図﹀はそれぞれ可変函数の. 忘却と二重像を結ぶゲシュタルトとして捉えられている︒夢と覚醒. ような場に成立するかという点をも併せて考えなければならないだ. 関係にあり︑どのゲシュタルトが︿図﹀もしくはく地Vとして構成.

(15) と同じく︑回想と忘却はたえず交差し円を描きながら︑そこから単. ︑. ︑. なる回想でも忘却でもない︿何か驚くべきもの﹀︑つまり現実の背後 にひそむく別の世界Vが︑︿あの別の感情Vが︑束の脚に切り出され. ては消えてゆく︒この作品では︑もっぱら感情ということばが前面 に出ているが︑︿感情と思考の結合Vという定式に倣えば︑ヴェロー. ニカの感情には︑その背後に秘められた思考ないし悟性の力もまた. ゲシュタルト的函数関係をなして働いている︒さらにその感情と悟 性が結びつくところに顕れる精神の輝きも︑記憶が未来に向かって. 呼び起こし︑だが強固な︿図﹀として現実の位相に固定化される寸 前に︑それはふたたび忘却の手に委ねられる︒言い換えれば︑作者 が短鯖小説について述べたくひとつの体験のなかで世界が不意に深. まり︑あるいは彼のものの見方が逆転するVという︑まさに一回的 なゲシュタルト的体験が︑この作品では同時に作品の主題を形成し ているのである︒. ちなみに﹃特性のない男﹄では︑﹃ヴェローニカ﹄と同じく︑︿忘. れられはしたが︑ことのほか重要な︑ある少佐夫人との出来事﹀ ︿ζOF嵩9として描かれたく別の状態Vが作品全体の隠れた原動. 力になるが︑その回想と忘却も︑厳密な思考を奉じる主人公ウルリ ヒが作品の後半で︑過去の記憶に囚われた︿忘れられた妹﹀アガー テと再会することによって︑かれらの聖なる会話が導く千年王国の イメージのもとに神秘的な比瞼表現の批界を閉示する︒その意味で︑ ムージルの初期作品に属する一連の﹃ヴェローニカ﹄テクストは︑ ︿別の世界﹀を切り出す記憶像. ﹃特性のない男﹄の最も早い雛型と呼ぶことができるだろう︒. ムージルからの引川に︷たっては以下のテクストを使い︑木文巾に略サ. むろん︑これはムージルのひとつの考え方にすぎず︑別のところでは︑長. ムージルの場合︑之oく①=oと睾N筆一⁝血qの区別はとくにない︒. たとえぱ一九一四年川〃十一□付の﹃ベルリーナー・べールゼンnクー. 注^M︺を参舳︒. これらのテクストを初めて州らかにしたのが注^1︶のカール・コリー. 一〇一. 填茱理したものとして︑幸昌穴〇三おg§;ぎ邑眈も討奉蔓§㌔︸§6§﹃. ノの研究篶であり︑その後︑五鮎のテクストすべてを成←v㎜にまとめ︑納. 一6一. ^5︶. b〜ミ①二:§9箒註s⁝一宛m三︺艮おoooo1ω一ミoによる一︒. いようにと忠缶している豪彗一〇〇ユ;一お9ミニ︑婁ミト軸eS−§ミ一春ミ〜. で不純な︑梅に閉ざされた劣川気Vであリ︑泄映を愛する読者は近づかな. リエ﹂にJ.E.Pの一肯朽で篶かれた批計では︑この作品の内谷はく柄的. 一4一. 一3一. てはならないV︵−HL200一と述べる︒. 肺と幻︑筍をはっきリ区別して︑︿知.肺小説が切り取られた長鯖小説であっ. 一2一. F①=く冨宗勺o︹ぎ︶を参酌した︒. 那訳^⁝〃波文昧︶と雲⁝暑而旨o8罧gの仏訓ミo涼為ミミ婁呂ζ宗き︹富. 記︺︒なお︑﹃舳かなヴェローニガの誘惑﹂の引川に際しては︑市淋山★の. きSミミ書曇§.葦募o㌔§・き冬き軸1ζ冒︸昌−蟹・σ⁝巴⑩さ一穴Oと略. おoo−冨と略記︺︑穴彗一〇〇ユ昌一おo箒ニミ竃詩一一§ミ⁝ミζ⁝6S−.一婁⁝SS−. と略記一︑声⁝妻鳶﹄§−§恥訂・姜凄緊:︒目き︒;﹃象窒=葵. ぎog昌ミ毫︶才o冨房珀①泊g①コくo目>庄o罵勾ユ急し︸趾コ﹂pカ①一﹃一一︺o斤−oぎ︹↓H\HH. き§ミO§§ミ迂ミ︸夢彗S§﹂き巨§−葦︑キ日と略記︺︑−ヵ.奉一. §2亀と略記一︑望﹂;;彗⁝竃§・ぎ§ぎ︑§p壱ぎ曇§㌔き. 胴品g雪く冒>ま罵軍一急一寄一ま具−彗ooθp−bミー︑§§o㌔⁝Φ尊濤婁o︑一♀. と頁数を略記する︒刃.ζ.一Ω雨雪ミ§芝膏︸春﹃ぎミ㎏b§ミs㌻烹﹃昌叩−. 一1︺. 註.

(16) 邑ミS二 ・;=募畠.一内ミ=・キ〜⁝ξ冬・︸㌧ゴ︑き鶉姜=蛯⁝.ω一﹂轟冨ユお竃があ. る︒ 一7一 フロイトとの閉係は︑Oo﹃︐〇一あ9ミ.−ミ;募︒春ミ9︐S=δ︷.二︑.ω﹄ミR. を参㎜コまた︑﹃ヴェローニカ﹄の柿榊分析的榊秋は︑とくにラカン派に依 拠した︑g害=昌口︐胴而﹃一bs.きミ㌔蔓2ミ§ミ︷−§.Qo巨−s;︑篶︑一高弓阜︑Hミ︑−. ミ;;こ⁝〜ミ等︸︸・Oミミミ姜募.軍団コζ冒;≧二①O.Oを初めいくつかの試み. が行われているが︑その深川心理的解秋の︺険的な乎つきの而n止︑・がどれ ほどこの作^にふ〃︑・わしいものか︑箏仔には疑閉が弧る︒ ^8一 本仙では文休的側㎜に触れる余裕はないが︑この点は旨﹁鷺コω︹一旨o=宗︑ 工−茗Q−︑=h弓oニユ︑︸・ξミ皇︹︑﹂︑−N篶あoe〜︑.−﹄さ;旦餉㌧さ↓.︑〜ミ〜Q=ミQs=HコH力oコ與一①. ω.N0o寓−. E・パノフスキー﹃︿象微形式vとしての遮近法﹄木川元.監洲︑哲箏篶. く︒己ξ宗ぎ邑一痔し一きoミき姜1g⁝㎝茎一嚢婁参岬︒ ^9一. Oo﹃ぎonあo庁ミベーさ富二坊;春︸.〜hミざ−=6S−... 〃 ︑ 一 九 九 一 二 年 ︑六川π一を参岬︒ ^m︺. デメーターの紀に閑しては︑峯昌宍〇一−おき§.;−毒豪もざ春竃=︹︑一⁝δ. 一u一 詳しくは︑=彗ωΩ9擾雰Rお9§−;〜邑1ζ冒9雪冨蟹一ω1お市︷.を参岬︒ ^12一. ︹§・助ミぎ;ぎ−9一〜ぎ︑︒ω■−留︹の一︑江一5一を参焔︒なお︑デメテル/ペルセ. ポネは︑エレウシスの秘帳を椛成する一一枇にして一体の女榊である︒ 少なくともこの作品が篶かれたころまでムージルはフロベールを知らな. かったという一戸竃9︒. 一13一. 一M一 ムージルは﹃合一﹄に閉するある木完エッセイのい則で︿魂は感仙と悟. 阯が腹雛に絡み合ったものである︒どのような絡み介いかは︑心理学が扱 う⁝⁝胆だ︒しかしこの細み介わせで狢雌の要素が悟仙にある点を思い遮い. してはならない﹀昌Lω冨一とκく︒つまり︑悟竹が感仙を晦食するとこ. κを迦して一甘したものがあり︑このように悟竹と感情が絡み合う創遣の. ろに魂ないし柿榊が理れる;HLo昌こというムージルのヤ張は︑彼の化︑. 宍長匹という巾〃の使川は﹃ヴェローニカ﹄では仰かだが︑﹃愛の完成﹄. 伽域をく理惟巾心的ではないV一三〇〜■冨ユOご一伽域と呼ぶ︒. 一15一. では如︐⁝川する︒. 一〇一一. 皇内﹁ご=ミ==〜o餉り︑〜︹︸︑=昌=一二;一︑︑由ミごミ賞︑︹さ︑Q^︑︑ミニ︑3﹄コ⁝刃oσ①﹃一ζ=蜆=H. 一16一〇〇ユ昌一きSベミ姜一一=寿・きξ⁝§・ミ︑−竃85豪﹃言巨塞一⁝〇一. 二︑〜=〜s=6o=.﹃﹃凹コ斤εユ凹\ンニ︸亭=o二−o斤ω巨一﹃斤凹ヨo︺Ho⑩o.ω.N0二︒ての他キ︑. ﹄の閉. 参⁝⁝︒むろんここで︑ムージルn身がのちに一一︑︑H及するプラトンの球休人㎜. 一. のことも考えるべきかもしれないが︑それはむしろ﹃特性のない. 胆であり︑ここではあえて似わない︒. このあたリの記述は下村丈太郎﹃ライプニッツ研究﹄一下甘火太郎著作集. 7︑みすず仰.〃︑一九八九乍一一几六頁その他に拠るが︑たとえば9=窃. 一17一. ライプニッツとパロック﹂乍蜥椰一沢︑河⁝川苫.〃析祉︑一九几八年一. U92N凧卜︑ミトトΣ9一汀︑こ︑ぎ;ミミ一巾凹ユ叩δoooo^ジル・ドゥルーズ﹃奨. は︑拠窓のモナドにこだわり︑モナドの帷造を窓のない二僻と窓や入□の. ムージルのゲシュタルト心理.箏︑一ソ谷に閉しては︑ω=三與−o畠︹︹三一b言. ある一附からなる家のように考える︒ 一18一. b︑︸.内甘.ニミ=餉餉︹津︑︑Ω︑急oミミミさ︑︑〜︑^=︷︑︹ミ;;ぺ︸︑沖. カ〇一⁝ベミ;募.巾o∋一巾而﹃=コgo﹂8oo︑とくに﹁ヴェローニカ﹂については. Ω︑gs篶︑呵︑﹄U⁝︹㌔二=一︑Q. これは元来︑旨艘o窃冨一δ畠=冨訂巨一−oo⑩9の著考工−レンフェルスの. 原⊥又のママ︒. ω一ミ⊥oooを参榊︒. ︵㎎︶. 一20一. 川諦である︒. 一九五一年一一P・ギヨーム﹃ゲシタルト心理学﹄一八木. このあたりの記述は︑W・ケェーラー﹃心理学における力学︑肌﹂一柵.艮守. 次洲︑⁝^波篶店︑. 一九八O年︶一=①ユ︺o口﹁言N①斥\一≦一7匹ヨ巳o竺σo﹃一〇︑︑急^ミ.. 一21一. ︸児秋︑川.^波巾.H﹂川︑. ウ7イツゼノカー﹃ケシュタルトクライス. 知犯と辿動の人㎜一7﹄木. も餉史︹㌔δδQ膏一Ω竃oミoミ︑⁝ミー︑﹁芦辻眈﹂∪饅﹃ヨ㎝冨集−竃①に︹ハう︒. 一22一. 付敏∴浜小淑彦洲︑みすず苫︑〃︑一九七五年︑川∵∵□一︑一.

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参照

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