船舶の法的諸問題
志津田氏治
1 . ま え カ ず き
海上航行の用具としての船舶は,多数の人命・財産の安全と密接不可離な 関係にあること,また運送用具としての価値の高価性などから,海上航行法 と海上取引法の両分野より特殊な法規制を受けている。例えば,前者の場合 には,船舶および船舶に託されている多数の人命財貨の安全確保という公共 的要請のもとに,船舶安全法(昭和8年法11号)による構造設備規制が重視さ れる。のみならず船舶の中でも,外航船舶の場合には,領土ではないのが,
あたかも浮動領土(floatingterritory)の言葉で表現されるように,船舶国籍(船 籍)が必然的に要求されてくる。ここに船舶法(明治32年法46号)による監督規 制が重要となる。しかしながら,その反面では,海上取引法の領域でも,船 舶の登記制度の利用による権利関係の公示(商法687条参照),運送用具として の船舶の確定(商法769条1号参照)などの上からも,船舶規制が必要で、ある。
このように現代の船舶は,公私法両規制の連結点にあって,実に複雑多様 な法律問題を提起している。本稿は,その解決の一里塚として,若干の立法 的な提言をしてみたい。
2. 船舶の登記・登録一元論
海事公法(海事行政法)的には,船舶の国籍を証明するという観点から, ま た海事私法(海商法)的には,船舶の所有権・抵当権を公示するという要請よ り,船舶の公示制度つまり船舶の名称,その他船舶の同一性の判断に役立つ 事項を,一定の公簿に記載するといつことが,いずれの海商諸国家でも望まれ てきた。これが,いわゆる船舶の登記・登録の制度にはかならない。このよ
うな制度は,沿革的にはイギリスの1651年の航海条例(NavigationAct)に端を 発し,海商諸国家がこれを踏襲したものと解されている(石井照久「海商法」
105頁)。しかし,同じ公示制度をとるとはいえ,公法的な目的をもっ登録と,
また私法的な目的をもっ登記は,互いに法規制の面で交錯しているだけに,
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各国の海事立法の領域で注目すべき相違性をもたらしていることが,夙に指 摘されてきている。すなわち,いまこれを法制度的に類型化してみると, (A)イ
ギリス・アメリカのょっに公法目的を主とする登録制度に登記制度を一元化 するもの, (B)船舶の国籍と無関係に純私法的な登記制度によるもの, (C)フ ランスのように登記および登録の二元主義を認めるなどがこれである(南正彦
「船自自法解説J61頁)。わが国は,フランス法主義を採用して,登記および登録
(1)
の二元主義を認める(C)の態度をとっている。中華民国海商法も,わが国に倣 い(3)の態度に傾くものである。これに対してフィリピンでは,わが国や中華 民国と異なり,イギリス・アメリカが採用する登記および登録の一元主義を 踏襲している。
注(1)船舶登録制度(shipregistry system)は, 自国船概念を規定する上で重要な役割を 演じている。すなわち,海運政策の直接の目標は,自国海運の維持増強にある。そこ で,自国船と外国船とを識別することによって,国家による保護・助成の在り方を異 にしている。詳細は,田中誠二「船舶の国籍に就てJ(海商法の諸問題所収) 1頁以下,
志津田氏治「堪航能力と海事法の研究J143頁以下,西島弥太郎「海商法J15頁以下。
ところで,わが国は,上述のようにイギリス・アメリカと異り,船舶法5 条で登記と登録とを区別している。すなわち船舶所有者は,私法的にその所 有権の所在を明確にするために,船舶登記規則34条によって,船籍港を管轄 する法務局の船舶登記簿になされなければならない(商法686条1項)。この船舶 登記は,不動産登記または商業登記と同じように私法関係に属するが,船 舶の権利状態を公示する点では商業登記と相違し,むしろ不動産登記に類似 するものといえよへ 0(1)
しかしながら,不動産登記と達っところは,以下のょっな諸点にある。 1 つは,船舶所有権の登記が強制的であること(商法686条1項・船舶法 5条), 2 つは,総トン数20トン未満または端舟その他櫓擢をもって運転する舟につい ては登記を認めないことにしている(商法686条2項)。そのほかに船舶管理人の 登記を伴うこと(商法699条3項),あるいは登記とともに船舶国籍証書にこれ を記載しなければ,船舶所有権移転の対抗力を生じないことにしているなど
である。(商法687条) もっとも船舶登記をなすには,その前提として,船舶の 名称と船籍港とを定めて積量測度をうけなければならない(船舶法4条・ 7条)。
船舶登記については,現在もっぱら船舶法,船舶登記規則にゆだねられて いるが, I日商法の825条では,ロエスレル商法草案の889条の規定を承継して,
以下のように定めている。すなわち「総テ日本船舶ハ航海ノ用ニ供スル以前 ニ法律、命令ニ従ヒ職権アル者ノ測度ヲ受ク可シ、若シ其積量15噸以上ナル トキハ管海官庁ヨリ船籍証書ヲ受ケタル後船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ於テ船 舶登記簿ニ登記ヲ受ク可シ」とするほかに, 833条 に い た る ま で か な り 詳 細 な規定をなしている(ロエスレル氏寄稿「商法草案J21頁参照)。ところで, この15
トンという登記船舶の限界は,イギリスの商船条例 (1854年)の19条に,ある いはまた1873年のドイツ法律の1条に倣ったものであることを,ロエスレル が指摘していることも注目すべきであろう。そこでわが国では, 20トン未満 の船舶で,漁船,総トン数5トン未満の船舶を除いたものは,知事の発給す る船籍栗の受有を要求されている( ,‑小型船舶の船籍,積量の iJl1岐に関する政令」
昭和28年政令259号,従来の船鑑札規則は廃止)。そうしてわが国の船舶は,上記の ような手続を一応完了すれば,さらに船籍港を管轄する管海官庁(戦前はi宣伝 省itlt事部,戦後は運輸省船舶局)にそなえた船舶原籍に法定事項を登録して,船 舶国籍証書または仮証書を請受けなければ,日本国旗の掲揚または航行その 他日本船舶としての特権を行使することをえない(船舶法6条)。従って,この 船舶登録は,行政上の管理および取締のためのものであって,登記と異なり 公法的な意味をもっている。このようにわが国では,船舶登記が司法官庁で ある法務局に,登録は行政官庁である運輸省の船舶局にまたはその地方部局 である海運局てコそれぞれ担当するといっ二元主義にたっている。このこと は,最近世界の有力海運国が,船舶の登記と登録とを同一官庁ことに管海官 庁で行なっている立法例と比較して格段の差異がある。そこで,これを改正 して, 一元的に立法化すべきであるという有力学説がある。その学説の恨 拠は, (1)登記登録の二元的存在は,船舶所有権の移転に手続上不便で、あるこ と, (2)管轄官庁の相異は,いろいろの誤謬を生じるおそれがあること, (3)船 舶登記事項には船舶についての専門的な知識を必要とするところからも,信=
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海官庁で所管する方が有利で、あること, (4)無 体 財 産 権 の 得 喪 変 更 は 行 政 官 庁 で管掌していること, (5)外 国 の 立 法 例 で は 船 舶 の 登 記 事 務 は 管 海 官 庁 で な さ れ て い る 場 合 が 多 い こ と な ど が 指 摘 さ れ て い る 。
かくして,この一元化の傾向は, 1888年のブリュッセルの国際海法会議におい て , 登 記 登 録 統 一 法 論 が 議 論 さ れ た こ と も あ っ た が , 今 日 ま で , 未 だ 実 現 さ
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れ て い な い 。 し か し な が ら , こ の ょ っ な 統 一 論 に 反 対 す る 有 力 な 見 解 が あ る こ と も め を ひ く 。 す な わ ち , そ れ に よ る と 「 両 者 は す で に 性 質 目 的 を 異 に す る外,ーは当事者処分主義(例えは、船舶n貸借,抵当委付の登記の如き)他は職権 調 査 主 義 を 基 調 と す べ き 登 記 と 登 録 と を さ ら で だ に 負 担 加 重 の 管 海 官 庁 に 専 行 せ し む る こ と は , 実 践 上 決 し て 当 時 者 の 便 益 を 助 長 す る 所 以 で は な い 。 そ の 実 績 は す で に フ ラ ン ス の 登 録 制 度 に 於 け る 抵 当 権 登 記 の 分 化 ( 1885年海事抵 当法1914年改正6条),登録一元主義の独逸に聴く実践上の不結果(Wustendorfer,
(3)
HB. 133f.)が之を証して余りある」と。しかし,理論的には,たとえそうで あ っ て も , 英 米 法 系 で は 実 践 上 か な り の 成 績 を 収 め て い る こ と か ら 考 え て も , 登 記 登 録 統 一 論 の 制 度 化 が 望 ま し い 。 と く に , 最 近 に お け る 英 米 法 化 的 趨 勢 は , こ れ を 積 極 的 に 裏 づ け る も の で あ り , そ う し て ま た , フ ラ ン ス を 除 い た イ ギ リ ス ・ ア メ リ カ ・ ド イ ツ ・ ソ 連 ・ オ ラ ン ダ な ど の 主 要 海 運 国 が , 登 記 登 録 一 元 制 度 を 採 用 し て い る こ と も 参 考 に 値 し よ う 。 た だ , こ こ で 留 意 し て お き た い こ と は , 最 近 問 題 と な っ て い る 登 録 税 の 節 減 と い っ 経 済 的 要 請 か ら の み , 一 元 論 を 提 唱 す る も の で は な い と い う こ と で あ る 。
注(1)石井照久「船舶登記J(岩波法律学辞典3巻)1614頁,森清「船舶登記論J(法学新報 43巻7号)1頁以下,船舶登記は,手続的に私的自治の原則のもとに,当事者の申請 によって,なされることを原則とする。これには,特権賦与とし、う沿革上の理由とと もに,船舶自体が不動産と異なり,所在をつねに変転するところから,その権利関係 を明瞭化するということが,最大の理由となっている。「船舶年鑑J(昭和30年111頁, 住田正一「船舶登記J(海事大辞書中巻)1454頁.Wustendorfer, HB. 122f 148.
(2) 小町谷掠三「海商法J (上)63頁。
(3) 竹井簾「海商法J75頁,石井照久「海商法J107頁。
3. 船舶の擬人法性論
船舶は一つの物であって,権利の客体をなすものであるが,人と類似の取 り扱いをうけることがある。たとえば国籍(船籍)を有し(船舶法1条),名稿 を有し(船舶法7条・ 8条),船籍港を有する(船舶法7条)ようなことである。
また,同一船主に属するこ船舶聞においてなされる海難救助については,海
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事法上は二人格者があるように取り扱われることがある。 ドイツならびにフ ランスの学説・判例の大多数は,これを肯定している。海難救助条約の5条 も明文をもってこれを認める。すなわち「報酬は同ーの所有者に属する船舶 聞に救援救助ありたる場合においてもこれを支払ふべきものとすJ (大正3年
条約2号)とする。 ドイツ商法743条ならぴに中華民国商法144条は,これに同 調している。ことに,中華民国商法の場合には「同一所有者に属する船舶聞 の救助もしくは救援にも報酬を請求することを得」とする。わが国では明文 はないが,海運実務の上では,救助船の船主は,被救助船の荷主に対して,
傭船契約書または船荷証券中に挿入された「同一船主に属する船舶が救助を すれば,あたかも他人所属の船舶がなしたと同ーの計算でこれをする」旨の 条項を理由に,これを肯定するのが通説である(田中誠二前拘539頁,石井照久 前掲345頁)。なお,通説の根拠としては,以下の諸点にある。すなわち, (a)各 船舶の乗組員は, 自己の乗り組まない船舶ならびに積荷に対して,救助の義 務がないこと, (b)各船舶の乗組員は,海難救助料請求権の主体となるもので あるから,この権利を否認すべき理由がないこと, (C)救助料は,保険填補の 範囲に属することなどを理由としている。
ところて三船舶を法人視する思想、は,かつて中世でもみうけられた。たと えば,コンソラート・デル・マーレ(Consolatodel mare)は「船舶が支払をな し雇入をなし運送貨を受取る」などの文字を使用していたのがこれであろっ。
他方,アメリカ,イギリスでは,大陸法系の諸国と異なって,船舶を理解し ていることを注目すべきである。(2)すなわち,船舶は一例の人格を有するものI ~ ~ / j '
と考えられているところから,船舶の債権者は,船舶所有者または船舶111昔
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人を直接の相手としないてコ船舶それ自体を相手とする独特の訴訟方式が認 められている。これがいわゆる物上訴訟,あるいは対物訴訟(actionin rem)
といわれるものであるが,それは大体つぎのような考え方にたっている。い まアメリカの海法学者G.L. Canfieldによれば r株式会社があたかもその 構成員である株主より完全に分離して一つの独立した法人格を所有すると同 様に,船舶もまたその所有者の人格から完全に分離した法的人格を有する」
(3)
ものとされている。このように,すくなくとも株式会社と船舶とを同一視す る見解は, 19世紀から20世紀にかけて台頭したところの,いわば船舶は権利 主体であると同時に権利の容体であるとする学説や,船舶は,法人ではない が,権利主体制を有すると解る学説などに,かなり強く影響をうけていた ようである。ところが,近時のアメリカでは,このような見解はみかけない それで船舶に対するこのような訴訟も,たんに債権者の便宜的な手段として 法が擬制したものにすぎないと解されている。そうして, とくにこの訴訟方 式によるときは,船舶債権者は,その責任者が誰であるかを間わないてコ直 ちに船舶を差押え,判決が確定すると,その船舶を売却処分して弁済をうけ る利便を有するのである。だから判例上でも,たとえばスタンダード・オイ ル会社対合衆国事件において,船舶は水先人(pilot)の僻怠に対して責任があ
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るとか(standardoil Co・v. U. S.,),もしも船舶が法律に違反して航行したとき には,差押えおよび、刑罰が科されるというように,船舶自体が契約当事者と なり,不法行為者となることを判示している(Geneva,(ccA2).187 Fed. 115.)。 さらに破産法上では,破産者として取り扱われる場合もある。また船舶が独立 の人格をもっところから,船舶の代理人は同時に船舶所有者の代理人となる ことを禁じていることも,けだし当然のことであろっ(Tuckerv. Alexandro・ ff ,183 U.S. 424.438.)。以上の諸点からも窺えるように,アメリカ法上におけ る船舶の擬人的な取り扱いはイギリス法上よりも一層強度であるといえよっ
(5)
(同説,田中誠二前掲155頁)。さらにこの点で,竹井教授の所説を引用してみ たい。すなわち「イキ、リス法においては,アメリカ法におけると異なり,物 そのものの責任という理論よりは,船主を法廷にでるように強制する手段と して考えられている。このような相違に対応し,上記の場合イギリス法におい
ては,船舶に対する訴えの結果,不足額があるときには,その不足額につき対 人判決を許し,被告はその判決に一般的に服するが,アメリカ法においては The res is the real contractor or offender, and出eowner' s intere‑ st is incidental" の原 ~IJ が確立し,船舶自体が真の被告と目され,したがっ て船舶所有者はactlOnIn remにおける不足額については,その判決に一般 的に服するものではないとされているJ(石井前掲94頁引用)。かくてこの限り では,イギリス・アメリカ法においては,船舶が多かれ少なかれ訴訟当事者 のように取り扱われているのである。なお興味をひくのは,船荷証券統一条 約4条・船主責任制限統一条約6条などにも,運送品の損害に対する責任を 明示するにさいして r海上運送人または船舶は…」と定め船舶をあたかも 人格者のように表現していることであろう。しかしながら,ただわが国の商 法ならびにドイツ法の解釈としては,英米法のょっに,船舶の権利の主体で ある法人とみる考え方は適当というべきでない。そのことは,船荷証券統一 条約を採用する国際海上物品運送法が,責任の主体として運送人は・""J~し ていることからも明白であるう。船舶はやはり一個の「物」としてみるべき であろう。けれども一面において,船舶債権者が船舶に対して強制執行を行
うにあたり,真の船舶所有者の帰属が不明な場合には,一応船舶所有者のい かんを問わず,船舶それ自体を差押えておくことも必要で、あろう。とりわけ 船舶金融の特異性(船舶の価格は,海運市況の変動に随伴し,なお船価の評価にも高
度の専門的知識を必要とするほか,強制執行にさいしての船加の換価処分も容易ではない) を考慮するとき一考に値しよう。
注(1) Kennedy, The Law of civil salvage, 1959. P.76.
姉妹船間の救助にも,救助料を認めることについては,極々の見解があるo ある学説 は,救助者と被救助者間に「当座組合関係」が成立していることを理由とする。しか し,外交会議では,各船舶が独立の海産を構成することを有力な棋拠としている。詳 細は,加藤正治「船舶の法律上の地位J(海法研究2巻)524頁,なお,石井教授によ れば各船舶は一団として一個の人格者のように,その間に救助の関係が成立しう べししかも救助の効果は船主問にとどまらず,船只および荷主も,これに関連し直 接に救助料請求の権利・義務の主体となるからであるJ(iitrtD345頁引用)と解してい
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る。鈴木竹雄・石井照久「中華民国海商法J(下)232頁,ベルギーi/JJ商法260条,オラ ンダ商法566条,ソヴィエトi/JJ法167条,ことにフランスでは1916年法5条でも明示し ていたが,最近フランス海商法典第2章海難救助の部分で「同一船舶所有者の船舶聞 の救助についても報酬請求権は存在するJ(13条)旨を定めている。西島弥太郎「フ ランス海商法典J(近代法学19巻2号)258頁。小町谷操三「海難救助法論J(要義下巻3) 94頁,西島弥太郎「海商法J163頁,戸田修三「海商法J239頁,戸田修三・西島梅治 編「保険・海商法J296頁。
(2) 志津田氏治「アメリカ船舶法制の一考察(大分大学経済論集八巻3号)4頁以下,小 島孝「アメリカにおける対物訴訟についてJ(彦根論叢70号一72号)参照。
(3) Canfield & Darzell, The Law of the Sea P.5.
(4) Standard oil Co. v. U. S.(Dc‑Ala). 27 Fed (2d) 370. Hughes, Handbook of Admiralty Law. 1920. PP. 400‑402., British Shipping Laws, 1; Price The Law of Maritime Liens, 1940, P. 3.
(5) 元来,船舶を法人視する考え方は,船舶所有者の有限責任を船舶の責任と考えたこ と(1日商法690条1項),あるいは同一船舶所有者に属する両船問に救助料請求権が成 立するから,船舶をもって報酬をうける主体として把握することができることなど,
いわば法律関係を説明する便宜上の手段として比口氏的に登場してきたものであると指 摘されている。詳細は,戸目前掲19頁,石井前拍93頁。
4. 便宜置籍船の問題
海運の自由性と国際性を最も典型的に反映している問題として,便宜置籍 船(flagof convenience)の存在が注目される。現在では,リベリアが世界第ーの 船籍国となっており,パナマ,シンカ、.ポール,キプロス,パミューダなども 便宜置籍船を受け入れている(1)ところが近時,このような便宜置籍船(flag
of convenience)をめぐる問題は[""海の多国籍企業」の問題として,各方面に さまざまな波紋を投げ、かけている。便宜置籍船の経済上の優位性は,先進海 運国の競争性と成長性を阻害するものであるが,また最近では,低賃金船員=
便宜船員 (crewsof convenience)の雇用によって,国際競争力の強化を指向す る傾向にあるが,このような現象をどのような形で受けとめていくか,実に 深刻な問題である。ここでは,海の多国籍企業としての便宜置籍船の問題を,
若干考察してみたい。
注(I) 1958年の公海条約は,その第5条で船舶とその登録国との間には「真正な関係」
(genuine link)がなければならないという一般原則を定めている。けれども,ここで いう「真正な関係」の意味は明瞭ではない。いえることは,①船舶とその去録固との 間に真正な関係が存在しないばかりではなし②置籍船に対して,登録固め管轄権お よび規制jが効果的に実施されていない状態にある関係を,便宜置籍として理解してよ いだろう。詳細は,織田政夫「便宜置籍船と世界海運市場J23頁,石井照久「海商法J 98頁o
ここでいう,便宜置籍国とは, リベリア,パナマ,シンガポール(三大使立 置籍国)などのように,この国に船舶の登録をすれば,船舶に課税される税金 が安しその上乗組員の資格,労働条件などの規則が厳格で、ない国のことで あるo このように,便宜置籍の目的は,本来的には「税金天国J(tax heave n)
として,課税上の有利さを利用することにあったが,最近では,発展途上国 における低賃金船員の雇用によって,国際競争力の強化を促進する傾向にあ る。とくにアメリカなどでは,船員費が高く, しかも,アメリカ商船法(Me‑
rchant Shipping Act)で,泊国船員の配来が義務づけられているために,タン カーなどの船舶は,その大部分が便宜置籍船であるO 現にアメリカでは,ア メリカ国籍船よりも,アメリカ船の便宜置籍船がtはるかに多いことが指摘 されている。このように,便宜置籍化を進めている国は,アメリカだけでは ない。わが国の海運界でも、船員費が高く,外国船との国際競争力に欠けて いるために,仕組自白((日本の船主が,長期間傭船する目的で, 日本の造船所の船台を 外国船主に斡旋し,有利な輸銀融資を利用して建造させた船舶)として便宜置籍船を利 用している。わが国の海運業界で運航している船腹は,その半数が約日本船 で,残りが外国船であるが,この外国船の大半が便宜置籍船で,しかもこの 便宜置籍船による貨物の積取比率は, 日本船よりも高いといわれている。こ のことからもわかるように,今日では,わが国の海運界のみならず産業界に
とって,便宜置籍船は必要不可欠の存在になっているのである。(1)
では,このような便宜置籍船の仕組みはどうなっているのだろうか。多様
(2)
な諸形態がみられるが,最も一般的な方法は,便宜置籍国に登録をする場合
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当該船舶の所有者となる形式上の船会社(現地法人の子会社)を登録国に設立 して行うことである。もちろん,一部の便宜置籍国(リベリア)では,外国船主 所有のまま船舶を直接登録することを認めているが, しかしながら,大多数 の便宜置籍船は,子会社の設立による現地法人所有の形式をとっていること が指摘されている。このことからも明らかであるように,便宜置籍船の場合 には r形式上の船主」と「実質上の支配船主」という二種類の船主が同時 に存在していることである。しかも,前者の形式上の船主には, 日常の経営 管理業務をなんら行っていない,いわゆる「ペーパー・カンパニー」と実際 に経営管理業務にたずさわっている「経営管理船主」と分けることができるO
そして,実質的な支配船主は,ペーパー・カンパニーを通じて,直接的に運 航を管理支配したり,また経営管理船主を通して,間接ながら運航の管理支 配を行っているのである。いずれにせよ便宜置籍船は,実質的支配船主のも とにおかれていることを注目すべきであろっ。ここに,従来の船舶登録によ る船舶のあり方に疑問が生じてくる。すなわち,海の多国籍企業である便宜 置籍船の場合に,従来の船舶所有者主義を基準として,国籍を付与すること の是非である。少なくとも会社所有の便宜置籍船の国籍認定にあたっては,
会社支配の実質的状況つまり株式保有率や指揮命令系統の所在いかんを十分 考慮して判断することが望ましいように思う。とりわけ,登録国が,船舶を 管理し,国際的条約や法令等を強制する力や機関も有せず,実質的な支配船 主を管理する意思も能力もない,状態のもとではなおさらであろう。もとも
と,便宜置籍船をめぐる問題は,便宜置籍固と登録船舶との間に「真正な関 係」が存在しないことから生じたものであり,今後この関係をどのように理 解していくかが問題である。そのためには,船舶国籍の形式性と実質性との 関連で,実質的支配船主の法律上の地位を吟味してみる必要があろう。いう までもなく,船舶国籍は ,i4li事国際私法の上で,準拠法の決定基準として重 要な役割を果しているが,この旗国法主義のもとに,船舶登録国(船舶国籍国) 法をもって準拠法とする考え方は,便宜置籍船の場合にも妥当するものであ ろうか。そこには,これからの解決すべき大きな課題があるように,思われる。
(3) 注(1) ITFでは,便宜置籍船について船が伝統的海運国と考えられない国の旗を拍げ,
船舶の所有権や管理が,掲げられている旗の固とは別のところにある場合」としてい る。詳細は,木畑公一「便宜置籍荷台一海の多国籍企業一j 5頁 同「マルシップと便 立置籍船j 1頁以下。
(2) 便宜置籍船の法律的な仕組みとして,船舶登録の便立を提供する国を「便宜置籍国」
そこで登録された船舶を「便宜置籍船j,この船舶のもつ船籍を「便宜船籍j,またこ の船舶が掲揚している旗を「便宜国旗j,そしてこの船舶の実質的所有者を「便宜船主」
ど日子んでいる。
(3) 便宜置籍船の問題解決のためには,航海の安全,船員の労働条件の改善,世界海運 界 の 不 公 正 競 争 方 法 除 去 の た め に , 国 際 管 理 機 関 の 充 実 が 望 ま れ る 。 詳 細 は , 山 内惟介「国際私法におけるホ便宜置籍wの問題」法学新報82巻6・7号)3頁以下。
織田政夫「便宜置籍船と世界海運甫場j167頁。
5. 結 び
以上きわめて概略ながら, (i)手続上船舶の登記と登録とを一元的にすべきで あるか, (ii)船舶の擬人法的な処理の実益はどこにあるか, i(ii)国籍付与に伴う 便宜置籍船の法規制の在り方など問題となるべき点を若干指摘してみたい。
今後さらにこの方両の分析検討を試みたいと思っている。