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海法の政治性の一考察

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海法の政治性の一考察

志 津 田 氏 治

1 海事法と海運政策

 一国の海運政策(Schiffahrtspolitik)と,それを法的に実現保障する海事法(Seefec ht, Maritime Law)とは,きわめて密接な関係にあるといえる。一般的に海運政策とい

うときは,「ある国の自国海運に対する政策を意味する。」ものとされている。従って政策 の主体は,国家であり,客体は自国の海運であるということになる。この意味において,

海運政策は,国家政策であって,国家統制(State control)であるといえよう。しかも,

この海運政策のなかには,諸種の政策を含んでし}る。そこで海運政策を広く解釈すると,

国家が国民経済的な利益を標準として,航海の自由と秩序を維持し,海運に関する権利義 務の法律関係を明確ならしめるために,及び必要に応じて航海企業の発達を保護助長する ための消極積極の施策であるとされている。従って,このなかには航海企業に対する規整        (註)

の面と,あいならんで航海企業に対する保護助成の側面とがあることが明らかとされてい る。尤も狭い意味で海運政策というときは,自国の航海企業の発達を助成するための施策 を指すことが多い(航海企業に対する直接的保護奨励策として,各種の奨励法および補助法の存在が ある。前者の場合に,航海奨励金・造船奨励金などがその典型であり,後者の場合には各種の航路画嚢 などがる。また他方血痕的保護奨励策としては,多様であるが,沿岸貿易の制限,自国海運の公課その 他の負担の軽減,海事金融,保険上の便宜の提供などが・その適例である)。

 (註) 海運政策は,狭い意味では「航海業発展に資するの手段として,船舶及び航海業に関する政   策」をいい広い意味では「海事に関する一般的国家の施設および方策」をいうものとされている。

  坂本陶一氏「海運」(交通論第一巻)793頁。石津教授は「国家権力に拠る海上運送に対るす一   切の施設」を海運政策として理解されている(海運経済研究237頁参照)。、ところで広義の海運   策を類型化すると,(1船舶に関する政策がある。これには船舶の所有つまり国籍を中心とする政   策が含まれ,「船舶法」 (明32・法46)がこれを実現する。(2)つぎに海員に関する政策があり,

   これは海員の保護を主眼とするものであって,「船員法」 (昭22・法100)がこれを実現する。

  (3)それから船舶の海上航行に関する政策があり,これを法的に保障するものとして「海上衝突三法」

   (昭28・法151),「回船安全法」 (昭8法11)などがみられる。(4)また航海業に関する政策と    しては,一連の海運補助立法がある(佐波教授は海運の保護助成を,法制による特権ふよという   仕組つまり外国船排除あるいは外国船差別の直接方法と,金銭給付による補助つまり関接的方法   があることを指摘されている。「海蓮理論体系」236頁参照)。なお海法教科書のなかで,海事法    と海事政策との関連を指摘されるものとしては,松波仁一郎博士の「日本海商法」 (20頁参照)

   がある。

(2)

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 ところで,これらの海運政策と海事法との関係が問題となる。一般的に海事法と称する ときは,海事公法つま・り海事行政法 (Seevervaltungsrecht)と海事私法とに分けること を通常とするが(リオンカンは海事国際法をも含めて,海事法を三分説に体系化する)すくなくと も,これらの海事法のなかには,海運政策の面で捉えた二つの面,すなわち一つは,船舶 および航海に対する規整の面(海商法はこの点が強い)と,航海企業の助成の面(海事行政 法に強い)が出ていることに注意すべきである。尤も,本来的に営利法を中心とする海商法 のなかにも,航海企業の規整の面だけではなしに,その保護助成の影響を強くうけている ことも注目すべきであろう。ここに,海商法の政治性乃至は国家性ということを充分考慮 すべきである。

 皿 海商法の政治性

 海事法の一部門を占める海商法を実質的に理解する場合には,これを海商(Seehandel)

      (註)

に関する私法法規の総体であるということがである。ところで商法の本質を「企業」に捉 えるとすれば,海商法の実質的な概念は、航海企業に対する私法法規の総体であるといえ る。ところが,これを法典に即してみると,そこに物品旅客運送を中核として,船舶・船 員・海損・海難救助・海上保険などに関する事項を含めている。従って,これを要約する

と,海上運送企業を中心に,規整された私法の総体であるということになる。尤も過去に おいては,海商法の体系化について「人の法」 (船主・船員),「物の法」 (船舶・積荷)・

「債権の法」 (海上運送契約), 「契約外責任の法」 (共同海損・船舶二二・海難救助)として 理解する見解(Wagner, Pappenheim, Brandis)もあれば,あるいは海商法を「発航港

の法律関係」, 「航海中の法律関係」, 「到達港の法律関係」の三段階に区分し動的発展 的に捉える見解もみられた(Sieveking)。しかし,このように海商法の中心概念を,航 海企業に求めながら,企業構造の航海法にまで発展させたことについては「W stend6rfer のすぐれた功績を注目すべきである。

 (註) 海事法または海法というときは「海事に関する法規の全体である」とされ「海事」とは,海     上を航行する船舶に関連する法律関係を指すものである」とされている6(鳥賀陽然良博士は,

    「海法は通常海上運送契約を以て,其の枢要なる中心と為し,之に関連して生ずる幾多の派生     的法規を総称する。」またそこでは港湾行政に関する法規も包含させている。 「海商法論」1     頁参照)。この海事法のなかでも,国家が公安の維持者として,行政的視野より,交通の安全     ・旅客・積荷および乗組員の安全保持を期する一二の法規を,海事行政法といい,「船舶法⊥

    「船舶安全法」,「船舶職員法」,「海上衝突予防法」等がある。この海事法の学問的成立の     可能性については否定的な見解が多い(たとえば小町谷博士は,海法なる部門なしとされ,さ     らに続けて,海に関する法規を海法と総称し海商法をその一部に収容せんとする者があるけれ     ども,これ分類癖の現れ以外に何等の意義もないものであるとされている。詳細は「海商法要義」

    上巻2頁。さらにまた鈴木教授は,海ないし船舶の航行に関する一切の法規を集め,これを海

    法と総称する者がある。しかし,かような意味における海法は,統一的理念を欠き,単に海に

    関する種々雑多な法規をよせ集めたものにすぎないから,独立の法部門をなすものとは認めが

(3)

海法の政治性の一老察 151     たい。とされている。「商行為法・海商法・保険法」400頁)。なお外国では,海商法のことを    便宜上海法ということもある。W茸stend6rfer, Das Seeschiffartsrecht, S・2・

 これらの海商法は,その法性よりみれば,企業取引法の一部(若干の例はあるが)をなす ものであって,陸上運送と同性質のものであるが,しかし陸上運送とは異り可成り顕著な 政治性を指摘することができる6この点に関しては既に竹井教授が,その著海商法のなか で強調されている。

 およそ商法一般にいわれていることであるが,19世紀初頭にパルドウシユー(Pardessus)

が,海商法の不動性(1 immuabilite)ということを指摘したことがある。これは,民法 がその性格上,歴史的,社会的,政治的諸要因によって,諸種の影響をうけるのに対して,

商法は「社会の混乱の渦中において,不動である。」という傾向を示めしたものに外ならな い。これは,商法それ自体が,営利的技術法であり,企業それ自体の生活秩序について,

最少限必要な個体の利益を調整することを目的とする法であるために,政治的事情なり思 想および国家の具体的な経済政策によって左右されることの少いことを意味するものであ る。だとえば積荷に関する規定などは,きわめて技術的なものであり,政治的変動とは,

(註)

およそ関係のないものである。従って海商法の内容は時代の流れにもかかわらず大なる変 化をみないのである。パルドウシユーが「三十世紀の後といえども,航海交通の初日の姿 において顕示する」といっているのは甚だ意味深いものがある。わが国では西島弥太郎博 士も,その著海商法において,海法は一貫した理念をもって,今日に至っているというこ

とを史実によって確認できるものとされている(1頁参照)。

(註) W茸stend6rferの見解によれば,彼は海商法の性質を「保守性」として捉え,海商法の性質は    コンパスや蒸汽船の発明にかかわらず,航海企業の経営そのものに大きな変化をあたえなかっ    たように,立法の上でも海商法は遅れた発達を見せているという(lm Ehrenbergs,HB.S・9)。

   石井教授も「ここに所謂不動性とは違った意味に於て,即ち各国海商法典が最近まで保守的な    態度を固執していたという沿革的事実を示す意味に於て海商法に不動性という不名誉な烙印を    捺し得ぬでもない。」(海商法概論20頁引用)とされている。

 尤も,このような不動性ということは,絶対的なものではなく,相対的にその影響をう けている。すなわち沿革的にみても,株式会社機関の法的分化,および権限の配分につい ては,当初三権分立およびデモクラシーの政治的原理が影響をあたえたのであり,近時ま たドイツにおける株式会社法の基調ををなしているものは,指導者原理という独裁的な政 治思想である。このような法現象は,海商法の領域でも捉えることができよう。たとえば 船舶の国籍なり船長の船舶権力に政治的色彩をみることができ,また最近の立法であるソ 連海法にも,国家の綱領実現の態度があらわれているのが,その適例であろう。

 とくに海商法の規i整対象である航海企業は,一国の産業経済の基礎をなすものであり,

また国際政治の上からも,海上航権の維持に寄与している企業であるために現在の海商国

は,あらゆる制度立法を尽して,その維持に努力しているものである。そのことは反面海

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152

商法の学説にも影響をあたえ,航海企業の維持ということが,海商法の特殊性のなかで取 り上げられている。すなわち鳥賀陽博士は,その特殊性の一要素として「船舶保護の必要 なること」をあげられ,「船舶に登録め制を設け,船舶の国籍に重要なる法律的効果を結

びつけ, D員たるにも一定の資格条件を定むると同時に,船員の保護に関し,特別なる規 定を溶くるが如きは,其の最高の目的を達する手段である。更に海上損害に対する責任の 魑大なる点よりして,一方面総ては船舶利用者の有限責任なる制度を採用し,同じく有限 責任なるも,社員又は組合員の有限責任とその立法精神を異にし,他方に於ては船舶債権 者に特殊の効力を有する先取特権を与ふるの制度を設けて保護の道を講じたるは皆出れい 一に船舶其のものを保護するの精神を貫徹したものである。」(海商法心心引用)とされて

る。また竹井教授も航海企業のもつ豪家的社会的な意義に着目して,「企業保護」という 面を海商法の一特殊性のなかに指摘されている(海商濁9頁)。

 このような観点から,わが国の海商法典でも,航海企業の責任制限を始め,発航準備後 の船舶差押の禁止,船舶共有の持分譲渡による外資化の予防措置など実に多様な機構を用 意している。

(1)船舶の差押・仮差押あ禁止条項

 わが商法め六八九条も,便宜上船舶の差押および仮差押について,一つの例外をおいて いる。すなわち発航の準備を終った船舶に対しては,差押,仮差押ができないことを規定

 (註)

している。わが商法は,ドイツ商法(く82条)に従ったものであるが,フランス商法(2/5条)

も差押の禁止を認めている。両者間には,多少の差異があるが,大陸法系の諸国において は,デ般にこの原則が確認されている。 これに反して,イギリス。アメリカ法においては 全く否認されており,,むしろ明文をもって船舶の差押を認めるものである。

 ところで,中国の海商法では,大陸法の立場に従い,その六条において「船舶ノ差押及 ヒ仮差押ハ船長力i発航許可書ヲ受取リタル時ヨリ航海完了ノ時マテ之ヲ為スコトヲ得ス。

但航行ヲ可能ナラシムルタメニ生シタル債務二藍テ炉心ノ限りニ在ラス」と定め,日本商 法と類似した態度をとっている。 この条項を認めた立法上の趣旨は,以下のような諸点に ある。まず第一一に現今のように発展した航海企業のもとでは,当該船舶に関する利害関係 者は,きわめて多様であり,既に発航準備完了の船舶を,差押えるということは船主。荷 主および一般旅客などの利益に多大の影響を及ぼすものであるから,・船舶債権者の権利を 制限しようとしたものである。ここに航海企業の社会的な意義を認めることができよう

(このことは海上運送法の一条でも確認される)。つぎに,第二の点としては,発航の準備には,

多大の時間を要するものであり,その終了前に差押・仮差押をすう余裕があるにもかかわ らず,これを怠った点で,いわば債権者の旧記ということを理由としているようである。

ところが最近では,船舶金融の特異性つまり抵当物件である船舶の価格の変動性,船舶先 取特権の法的存在,海難危険率の諸点を理由に,船舶金融債権者の保護という観点から,

この条項の廃止を主張する見解もみられる。 (石井教授「発航準備を終へたる船舶の差押」法学

(5)

海法の政治性の一考察      153 協会雑誌51巻11号)。

  (註) この689条の規定は,ピザの都市法なり,コンソラートデノしマレーの,いわゆる古き地中海     の海法として発達したものである。コンソラートデルマレーによれば,「船融が出港しようと     するときで,債権者はだまっていて,今やまさに船舶が出航しようとするときに,それを差押     えるζとは船船所有者に対し及び旅客荷主に対しきわめて悪い行為である」という意味のこと     を述べている。西島博士前掲書28頁参照。ドイツ商法では「強制執行による船舶の強制競売!ま,

    その船舶の出港準備が完了(発航準備完了)したときは,これを行うことはできない。発航準     備の完了した船舶は仮差押をすることもできない」ものと定めている。ソ連海法240条でも,

    航海を完了しない船舶については,当該航海に関しない債権により,差押えることができない     旨を定めている。鳥賀陽博士前掲書124頁。

 要するに,この条項は,一言にして要約すれば,船舶所有者の債権者の利益を保護する か,それともその航海の旅客,荷主および船舶自体の利益を保護すべきかの,いわゆる利 益衡量の結果,その均衡を保つ一分岐点として理解することができよう。いま,こめ条項 を中心に,日本法と中国法とを比較検討してみよう(詳細は鈴木・石井教授共著「中華民国海商

法」 (上)参照)。

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

適用される船舶の範 囲

外国船に適用の有無

発航準備の時期

差押禁止の継続期間

立 法 形 式

中国海商法(6条)

河川を航行する内水船にも 適用される(本法に於テ船 舶と称するは,海上及び海 上と相通じて海船の行駿に 供し得へき水上を航行する 船舶をいう。1条)

外国船にも適用される 具体的に船長が発航許可書 を得た時と明示する 航海完了の時までと明定す

総則の章においている

日本海商法(689条)

内水船には適用がない

外国船にも適用される

抽象的に発航準備を終りたる時と明 面する。

明定しない

『(開講藝瀬頭

船舶所有に関する規定中におかれそ

いる。

       1

(2)船籍維持の条項

 日本の国籍を有する船舶は,幾多の重要な意義と特権とを有するものであるから,その 国籍の維持についても,海商法のみならず一般海事法は,積極消極の努力をしている。一 般に日本船舶は,つぎのようなときに,その国籍を喪失するものとされている。すなわち

(1)日本船舶の所有権もしくはその共有特分が,譲渡または相続などの事由により外国人に

移転したとき。(2)日本船舶の所有会社または法人の役員が,その持分を外国へ移転したと

(6)

町54

きなどである。しかし,このような国籍の喪失は,船舶所有者の利害に関係があるだけで はなく,ひいては自国海運の発展にも影響するどころが大きい。そこでまず昭和二十四年 の海上運送法(法187)では,日本の国籍を所有する船舶を,外国人に譲渡または貸渡をす るには,運輸大臣の許可を必要とされている(44条の3)。この運輸大臣の許可には一定の 制限があることを注意すべきである(運輸大臣は,前項の許可の申請が,その許可によって船腹の 供給が需要に対し著しく不足ならず,且つ海運の振興に著しく支障を及ぼすことにならない限り,これ を許可しなければならない)。 なお本条の違反には罰則(10万内以下の罰金)も用意されている

(47条あ 2)。従って船籍の維持ということは,平常時においても,何等かの形式で,自国 船舶の外国人への譲渡を制限することがありうる。パッペンハイムは,この現象を捉えて,

「政治的,経済的鎖国主義の私法的表現である」としている (Pappenheim, Handbuch

des Seerecht, Bd互.S。84.)。

 (註) 船舶国籍の移転は,重要な意味をもっているために,海商国は船舶政策のなかで,これを取     り上げている。過去フランスでは,1793年法で,フランス船舶の全部・一部を外国人に譲渡す     ることを禁止している。その後1818年法では,これを廃止し自由譲渡を認めている。現在ドイ     ツ・フランス等の諸国では,殆んど外国人の取得を制限しないで,自由譲渡を認めている。と     ころが,この政策も,戦争期になるど,海運の国防的重要性という視野からプ統制をうけるよ     うになる。たとえば,第一次大戦のとき,ドイツはイギリス・フランスに倣って,自国の商船    隊を保持するために,1914年に商船(製造中のものを含む)の譲渡制限を定めている。わが国    でも,大正六年の九月に「戦時海運管理令」(勅171)の緊急勅令を制定して,船舶の外国輸出    を禁止している(1条・2条)。その後第二次大戦になると,イギリスでは1939年8月,商船    条例第1条にもとづいて,商船局布告をだして,イギリス人たると外国人たるとを問わず,商    務高の許可なくして,イギリス船(カナダ・オーストラリア・ニュージーランド等置籍船)の    譲渡,イギリス船舶株の譲渡,抵当権の設定をなすことを禁止している。わが国も,昭和一二    年の九月に「臨時船舶管理法」(法13)を定めている。そこでは,日本船船を,日本船舶を所    有しえない者,すなわち外国人等に譲渡し,貸渡し(期間傭船を含む)・担保に供し・また事    実上の引渡をなすことを禁止する態度をとっている。詳細は石井教授「海運統制法論」8頁  そこで,わが国の海商法でも,船籍維持のために特別規定をおいている。まず第一に,

船舶共有者の持分の移転または,その国籍喪失によって,・船舶が日本の国籍を喪失すべき 場合においては,(船舶法1五)他の共有者は,相当の代価をもって,その持分を買取り,

またはその競売を裁判所に請求することができる(商7021)。また第二に,社員の持分の移 転によって,会社の所有に属する船舶が,日本の国籍を喪失すべき場合においては(船舶法

1皿),合名会社にありては,他の社員,合資会社にあっては,他の無限責任社員が,相

当の代価をもって,その持分を買取ることができる旨を明示している(商702∬)。従って

竹井教授は,この点を「商法は,ここに商法中稀に見る契約締結強制を以て船舶の国籍を

維持せむとしたものである」(海商法76頁引用)と指摘されているσ ところで商法(b認める

(7)

海法の政治性の一考察 155 この買取請求権は,当事者の一方的意思表示により効力を生ずづき形成権であり, この請 求権行使の時期は,必ずしも持分譲渡行為前と限る必要はない。その後においても,可能 であろう(竹井教授は,その譲渡が,他の共有者または会社に対抗力を生じない間,共有者の国籍喪 失の場合であれば,その手続完了前と解釈されている)。

 ところで株式会社にありては,これに関する規定がなく,学説ではつぎのように,その 理由を説明している。すなわち「株式会社にあっては,その取締役全員が日本人であれば 足り,且取締役は株主総会の選任するところに係り,取締役がその株式全部を外国人に移 転しても,それは其者が取締役たる地位を喪失する原因とこそなれ,その移転をうけた外 国人は,取締役となることなく,また取締役が国籍を喪失した場合には,これを解任すれ ば足りるから,特に株式の買取請求権を認めなかったのである」(小町谷博士「海商法要義」

上巻62頁・同説馬場正利「商法体系」海商編104頁)としている。

 中国の海商法でも,一四条で「船舶共有権ノー部分ノ売却ニヨリテ該船舶力中国ノ国籍 ヲ喪失スヘキトキハ共有者全員ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス」と明示している。いまこれを,

       巳

日本法との関連で比較してみよう。尤も,この条項の趣旨は,日本法と同じである。すな わち中国海商法三条二項によれば,中国船舶の所有者は,中国人民たることを要するため に,共有者の一人が外国人となれば,船舶は中国の国籍を喪失するほかはないが,それで は,国家の保護をうける特権を喪失し,他の共有者の利益にも著しい影響を及ぼすに至る ことを顧慮したものに斜ならない。いま中国法と日本法とを比較してみよう。

 (1)中国法では,共有者全体の同意がない限り譲渡を無効としているが,日本法では,

  他の共有者が相当の代価をもって買取り,またはその競売を裁判所に請求できるもの   として,中国法14条1項の方法に類似している (ドイツ。オランダ法でも無効として   いる。ドイツ商法503条では「船舶持分の譲渡は,それがドイツ国の国旗掲揚権を喪失   することとなる場合には,他のすべての船舶共有者の同意ある場合に限り,行うこと   ができる」旨を定めている。、従って,他の共有者全部の同意が譲渡成立の一要件とな   っていることを注意すべきである。)

 (2)中国法では,単に持分の意売却より,船舶が国籍を喪失すべき場含を規定している   が,日本法では,ひろく持分の移転により船引が国籍を喪失によりて・船舶が国籍を   喪失すべき場合をも周到に定めている(売却と中国法は規定するが,その中に贈与,

  相続が含まれるか疑義を残している)。

 (3) 日本法では,社員の持分の移転,国籍喪失によりて会社所有の船舶が・国籍を喪失.

  する場合の対策をも規定しているが,中国法ではこれに関する規定がない。

 (註) 竹井教授は「海運会祉の最も多くは,株式会社なるに,之には国籍回持の規定を抱棄せるは

   明らかに其欠点であり,実践的価値は甚だ乏しいといわねばならぬ。少くともそこに新しき考

   慮に出つる改正立法を必要とする」 (海商法76頁)ことを強調している。また有力説も,株式

   会社に関して,全く定款の自治のみにまつべきではなく,何等かの制限態様を見出すことを指

   制している。W臼stend6fer・HB S・115・加藤博士「海商法誰義」112頁。

(8)

156

(3)船主の責任制限条項

 船主は,原則として企業上の債務について,無限責任を負担するものであるが,航海企 業を沿革上あるいは育成発展の方策として,一定の場合に,その無限責任を制限しようと する傾向にあることは,各海商国法の一致するところである。わが国も,商法六九〇条で        (註)

これを認めている。すなわち「船舶所有者ハ船長二二法定ノ権限内二於テ為シタル行為又 ハ其他ノ船員力其職務ヲ行フニ当リ他人二加ヘタル損害二付テハ航海ノ終二於テ船舶,運 送賃及ヒ船舶所有者ゐ其船舶二付キ有スル損害賠償又ハ報酬ノ請求権ヲ債権者二委付シテ 面責ヲ免ルルコトヲ得」と定めている。このような責任制限の方法は,中国海商法の22条 乃至26条にも詳細な規定をおいている。とくに,その23条ではつぎのようなことを明示する。

 船舶所有者力左ノ事項二付テ負担スル責任ハ其回ノ航海二心ケル船舶ノ価値,運送賃及  ヒ其他ノ附属費ヲ以テ限トス

  1 船長・船員・水先人其他船舶二服スルー切ノ人員が業務ノ執行ニヨリテ第三者二    加ヘタル損害ノ賠償      。

2 3 4 5 6 7 8 9

船長二交付シタル運送品追網其他船内ノー切ノ財産物品力受ケタル損害ノ賠償 船荷証券ニヨリテ生シタル債務

契約の履行中二犯シタル航海上ノ過失ノ賠償

船舶力海港,倉庫及ヒ航路ノ工作物二加ヘタル損害ヲ修理スヘキ義務 沈没船懸口漂流物ノ除去二関スル義務

救援救助ノ報酬

共同海損中船舶所有者ノ分担スヘキ部分

船長力船籍港外二於テ其職権ヲ以テ船舶ヲ保存シ又ハ航海ヲ継続スル現実ノ必要    上船シタル行為取皿契約ヨリ生シタル債務ニシテ其必要力発航ノ時ノ準備ノ不足,「

   船具ノ欠陥民国設備ノ疏漏ニヨリテ生シタルモノニ非サルモノ

 ところで,中国法は日本法と異り1924年の航海船舶所有者の責任制限に付ての若干の規 定の統一条約を,モデルとしているもので,委付主義を採用していない。およそ,船主責 任の制限形態に関しては,各国ともに立法主義が甚しく岐れており,漸く1924年に統一条 約が成立しているが,中国法がこの線にそうて立法化されていることは注目に値いする

(尤も統デ条約と中国法とは若干相異している面もある。すなわち中国法が船価責任主義をとるのに対 して,統一条約は金額責任主義を加味している。また中国法では,統一条約と異り,人的損害に対して 何等の考慮を払っていない)。

元来この制度そのものは,正義とか自然法に根ざすものではなく,もっぱら社会経済的要求 にもとつくものであるので,その理論的基礎も,その時代,思想または国策どともに流動し発 展している。今日でもその制度的根拠を解明する学説は多様であるが,航海企業の国家的保 護に求めるのが有力である。この根拠に立ってのみ,船主の船荷証券責任の有限性も理解で

きるのであり,海商法の一般私法ことに陸商法に対する独自性の説明も可能となるのである。

(9)

海法の政治性の一考察 157

(註) ソ連海法では,船舶利用者は無限責任を負担すべきを原則をとし,一定の債権については,

  例外として有限責任を認める(175条)。烏賀陽博士前掲書131頁。

申 国 海 商 法

(1)船価責任主義

(2)有限責任をうけるべき債務の範囲につい   て,詳密かつ具体的な規定をおく

(3)水先人その他船舶に服務する一切の人員   として,解釈上の疑義をなくしている

(4)航海上の過失と商業上の過失とを区別   し,前者の賠償について責任制限を認め   ている

日 本 海 商 法

(1)委付主義

(2)船長の法定権限内において為した行為ま   たはその他の船員がその職務を行うに当   り,他人にあたえる損害と抽象的である

(3)船長その他の船員を掲ぐるのみである

(4)過失を区別していない

 皿 船籍立法の政治性

 海運政策の直接の目標は,自国海運の維持増強にある。そこで,これを法制度的に基礎 づけたものが「船舶登録制度」(Ship registry system)1こ露ならない。およそ船舶が,

      (註)

一国に帰属する状態を「船籍」または「船舶の国籍」と称しているが1各海商甲は,船舶 の登録という手続をとることによって,自国船と外国船を識別することにし,自国の船舶 に対して諸種の有利な特権つまり乳沿岸航行の独占権・各種の補助金の支給・関税の免除と 軽減等をあたえている。わが国でも,あたかも国民分限が国籍法に定められているように,

船舶についても「船舶法」(明32,法46)があって,これを規整している。

 (註), イギリスでは古くから海商国として,船舶登録制度を認めている。1660年チヤールスニ世の     航海条例(Navigation Act)をその噛失とするようである。しかし,この条例では,イギリ     ス人所有の外国船舶は,登録を要する旨を定めているに過ぎない。その後ウィリアム三世のと     き,イギリス本国(植民地を含む)で製造され,且つ本国と植民地間の貿易に使用する目的で     イギリス人の所有する船舶は登録をなすことを定めている。その後ジョージ三世・四世の頃に     も,比較的詳細な規定を定めているが,イギリスにおいて現行登録法の基礎が形成されたのは     ビクトリア女王の頃である・といわれている。すなわち1885年の商船条例(The Merchant ShiP・

    ping Act,57。58, Victoria act)がこれである。

 このように,船舶登録制度は,自国船概念を規定するうえにおいて,重要な役割を演じ ているが,如何なる船船舶をもって,自国船とするかは,つまり船舶に対して国籍をあた

える各国の方針は,自国海運業発達の度合と,国情の如何によって異ってくるものである

(詳細は田中誠二博士「船舶の国籍に就て」(海商法上の諸問題所収)。従来諸国の海事法上で認め られているものに,製造地主義,船舶乗組員主義,船舶所有者主義の3主義をあぐること ができる。船舶国籍法の創始とされている1651年のイギリスの航海条例は,』 d商主義のも

とにおいて,船舶の所有(Property)と製造地(Origin),海員(Seaman)との三要件

(10)

158

を採用したが,現在の各海商国の態度は,いつれかの点で緩和をみている実情である。

 ところで,第一の製造地主義は,船舶が自国において製造され,また,その材料の産出 地が,自国である場合にのみ,船舶の国籍をあたえようとするものであって,主として自 国造船業の発達を奨励し,自国海運の恒久的基礎を確立しようとするために,採用される

ものに外ならない。この主義は,排外思想の強い段階にみられるもので,たとえば1763年 のフランスの航海条例は,これによったものである。またアメリカでも,1789年の最初の 船舶登録法で既に建造主義を採用していたことがある。しかし今日では,この主義を採用 している国は,殆んどみかけない。むしろ現今では,外国建造船に対して自国の国籍を自 由に許可する,いわゆる「自由船政策」(Free Ship Policy)をとる国が大半である(イ ギリス・ドイツ・スペイン・ポルトガル等)。尤も近時においては,自国造船を奨励するという 意味から,自国建造の船舶に対して,特別の保護をあたえるということはありうる。

すなわち航海補助金を支給せられる船舶は,原則として日本製造の船舶に限られるとする       (註)

ような場合がこれである。

 (註) 日本では明治29年の3月に「航海奨励法」(法馬),「造船奨励法」(法16)を制定して,

   航海造船業の積極的な保護助成を企図したのであるが,とくに,この航海奨励法のなかには,

   外国建造船に対しても(船令5年以下のもの)内国建造船と同様に奨励金を受ける資格があた    えられていた。そこで建造費の低簾で,しかも技術的に優秀な外国造船所へ発註する蝉声が生    じてきたために明治32年の3月に法律96号で航海奨励法を改正している (明治32年10月1日    以降帝国船籍に登録する外国建造の船舶には,麦給すべき航海奨励金の半額を支給するという    項目を押入している)。このことは,明治42年の「遠洋航路補助法」(法15)でも踏襲され,

   内国建造主義の方針を確立している。このことは1896年,1900年のイタリア法,1893年および    1902年のフランス法でも,航海奨励金の支給にさいして,外国建造船を排除していることも注    目される。

 つぎに第二の主義は,少くとも一定数の自国民の乗組員が存在しなければならないとす る主義である。船長なり乗組員の地位が高く,これに絶対の権限をあたえていた段階にお いては,乗組員の国籍を標準として,船舶の国籍を定める必要があったが,今日では最早 その必要性も減退し,これのみを要件とする国は殆んどない。たゴ後述するように,自国 船であるためには,乗組員の幾部分かが自国民でなければならないとする主義があるのみ

である。

 最後に第三の主義が,現在各海商国においておこなわれている。蓋し船舶の所有者が,

船舶の運命を決めるものであるから,これによって国籍を決定することが最も妥当なもの

といえる。尤も,この主義によるものといえども,その立法的態様は区々であり,たと

えば船舶所有権の一部が自国民に属するとともに,船員の一定数が自国民である船舶を自

国船とする主義(フランス・イタリー・オーストリー),船舶所有権の全部が自国民に属する

ζともに,船員の一定数が自国民である船舶を自国船とする主義,(アメリカ)船舶所有権の

(11)

海法の政治性の一考察 159 一部が自国民に属する船舶を自国船とする主義(ベルギー・オランダ),.船舶所有権の全部 が自国民に属する船舶を自国船とする主義(ドイツ.スペイン.ノルウェー)など多様である が,わが国では,船舶法の一条でこれを明示している。なおイギリスでも,外国入を船員 どして雇入れることを制限しているために(1919・外国入,制限法),この主義に属するもの

と解されでいる(商船法1条)。

 (註) Temperleys Merchant ShipPing Act,1954. P.3

尤も以上のことは,船舶所有者が自然人の場合であるが,船舶が法人に属するときは,

法曽設立の準拠となる法令,住所または本店の所在地,役員の国籍および出資者の国籍の 基準がある。まずこれには,自国の法令により設立され,かつ住所または本店の所在地を 自国内に有する法人を,自国民とする主義(イギリス・フランス)自国内に住所を有しかつ 法人を構成する出資者が二定数自国民である法人を自国民とする主義(ノルウェー),自国

の法令により設立され,役員が一定数自国民をもって構成され,かつ出資者が一定の範囲に おいて自国民である法人を自国民とする主義(アメリカ)それから自国の領域内に住所を有 し,かつそめ役員の全部または一部が自国民でもって,構成される法人を自国民とする主 義がある。ドイツ・ Cタリー・オランダを始めわが国もこの主義に属する。

       (註1)

 ところで東南アジアことに南ヴェトナムでは,海運の領域においても,積極的に国民化 法運動つまり民:族経済確立のための立法運動を展開している。すなわち1956年の四月,海 上運送法を改めて,船舶の国有化とその保有船舶の増強を図り,ヴェトナム海運資本の確 立を急いでいる。そこにおける海上運送法改正の要旨としては,つぎのようなものがある。

(1)船舶所有者はすくなくとも,その半数がヴェトナム人に属すること (2)船舶会社にあっ ては,その本社がヴェトナムにあり,その社長はヴェトナム人とする。また経営者の過半 数は,ヴ』トナム人とする。(3)資本金のすくなくとも50パーセントは,ヴェトナム人の所 属とする。(4)船長。高級海員はヴェトナム人とする。このように,南ヴェトナムの国籍ふ よの態度は,非常に厳格であり,とくに資本的割合によって,その標準を決めていること       (註2)

は異色である。

(註1) 法人所有の場合に,その社員乃至株主までも,自国民であることを要求する主義をとる国も    あるが,外資利用の観点からすれば,自国海運業の発達を阻止する虞れも少くない。かってア    ルゼンチンのごときは,外国資本の移入を奨励し,船舶所有者,乗組員の如何を問わないで,

   国籍をあたえるという寛大な態度をとったこともある。石津教授前掲書36頁,また最近では,

   船籍を外国におき,経費の節約を図り,また営業上の制約を免れるための便宜置怪船(Flags    ofρonvence)の問題が盛んに論議されている(1957年海事年鑑202頁)。

(註2) タイの海上運送法(1938年)でも,海運会社の資本金の70%所有されること。また取締役の

   過半数がタイ人であることを要求している。またインド政府も,194了年以降細0年間にわたり

   ・1ンド海運について①海運会社の株式および社債は,すくなくとも75パーセントがインド人に

   よって所有されるζと,②海運会社の取締役の全員がインド人でなければならないとレてい

(12)

160

    る。これに海運部門における外国資本ことにイギリス資本の導入を予防することを主眼として    いる。

 中国でも日本の船舶と同様に「船舶法」(民国19年12月4日公布20年7月1日施行)があって 船舶に関する行政的規定の総則的規定を収容しており,五章に分れている。第一章通則は,

中国船舶の特権。船舶航行の条件・国旗掲揚の条件。船舶の標示・船舶書類・船名等に関 する定めをなし規定の実質は日本法に徹っている。

 しかし中国法では船舶の国籍に関する規定を,海商法中(3条)においているが,日本法 では,これを海商の中にではなく,船舶法の第一条に,これを明示している。また諸国法        (註)

も,これを特別法中に規定している場合が甚だ多い(たとえばドイツは商船国旗法中にこれを 定めている)。船舶の国籍の問題は,海上航行法とりわけ海商法のうえでも重要な意義を有す るものであるが,しかしこの問題は,公法上・国際法上の関係において頗る重要性をもつ

ものであり,自国の国籍を有する船舶を国家の直接の保護と監督とのもとにおくことをこ の法の目的とするものである。従って中国において,船舶の私法関係を定める海商法以外 に特別法として船舶法を定めている限りにおいては, 日本法と同様にこれを船舶法中に収 めることが妥当ではないかと考える。そのほかにも中国の海商法を概観してみると,海商 法の四条(船舶内に備置の文書),五条(国籍証書の携行)なども, もっぱら公法的意義を有 す:るもので船舶法中に移行することを適当としよう。このように中国法は,まだまだ公法,

私法の分化がはっきりせず,その意味において理論的精緻を欠いているものといえよう

(鈴木・石井教授「中華民国海商法」上30頁参照)。

 つぎに日本法と中国法との立法例を比較してみよう。中国海商法三条自体は・日本船舶 法一条の主義を踏襲している。すなわち,(1)中国官署の所有スルモノ・これは日本船舶法 の一条一項一号に該当するものである。ただ日本船舶法が「官庁又ハ公署ノ所有二属スル 船舶」となしているもので,その立法趣旨においては変りがない。従って同国の船舶登記 法の七条乃至八条では「官署又は自治団体」 という語句を使用しているので解釈としても 官署の中には公署も含むと理解せざるをえない。

 (2)中国人民ノ所有スルモノ。これは日本船舶法一条二項の二号に該当するものである。

何人が中国人であるかは,国籍法(民国18年2日公布》の定めるところによる。この条項は 中国に国籍を有しない自然人は,中国船舶を所有することの資格を有しないことを宣明し たものである。而して多数者が,船舶を所有する場合には,船舶所有者の全部が中国人民 であることを要し,共有者(わ一人でも,中国人民でない者があれば中国船舶たるととをえ ないのであるq4条皿項)。

 (3)中国の法律ニョリテ設立セラレ,中国内二本店ヲ有スル左ノ各会社(公司)ノ所有ス ルモノ

 甲ρ合名会社ハ其社員ノ全員が中国人ナルモノ 乙・合資会社又は株式合資会社ハ其無

限責任社員ノ全員が中国人ナルモノ〜 丙・株式会社ハ其取締役ノ三分ノニ以上が中国人

(13)

海法の政治性の一考察 161 ニシテ且其資本ノ三分ノニ以上が中国人ノ所有ニ三富ルモノ

 これは船舶を所有しうる会社の資格を定めているもので,合名会社と合資会社に関する 限りにおいて,わが国法と同一である。ただ株式会社は,わが国と異った態度をとってい る。すなわち,日本法で取締役の全員が,日本国民であることを要するにかかわらず,中 国法ではその三分の二以上をもって足りるとしていることである。また日本法では,資本 を分割した株式が日本国民に所有するか否を問わないが,中国法ではその三分の二以上が 中国人の所有に専属することを要するの点で異る。ところで日本法では,第四号として,・

会社以外の法人について日本に主たる事務所を有すること,およびその代表者の全員が日 本国民であることを掲げているが,中国法ではこのような規定は存在しない。立法上も疑 点を残しているといえよう。しかし中国法を通観して一応いえることは,全体において所 有者主義を貫徹していて船員の国籍なり製造地の如何を問題にしていないことであろう。

(註) 旧商法典(明23法23号)の第二編中船舶の章では,船舶の国籍,国旗に関すること,積量の   測度,登録および船舶国籍証書に関する,いわば海事行政的な規走がその大半を占めていたが   これらの事項は,特別法に編入することが適当であるとして,現行商法典の制定に際して除外   されたのである。旧商法典824条では「日本人民ノ所:有二専属シ又聞日本二主部ル営業所ヲ有   シ且日本ノ裁判権二服従スル会社,其他ノ法人ニシテ合名平等二在テハ総社員,合資会社二在   テハ少クトモ社員ノ半数,株式会社二在テハ取締役ノ総員,其他ノ法人二軍テハ代表者ノ総員   力日本人民ナルモノノ所有二専属スル商船其他ノ海船ハ日本ノ船舶ニシテ日本ノ国旗ヲ掲クル   権利ヲ有スル」と定めている。しかし,今日でも,海商法最中に船舶国籍に関する規定をして   いるものにオランダ商法,ソ連の海法がある。

 VI旧海員立法の政治性

 海員の欠乏あるいは国家的保護を必要とする国では,特定の割合以上が自国人民である ことを要求している。たとえばフランスのような海員の欠乏したところでは,職員および 海員の四分の三をもって,自国人民たることを要求している。またアメリカのように労賃 が高いために外国人にその地位を奪われる虞れのあるところでは,1915年に海員法(Seam ens act)を改正し,下級海員の四分の三は,高級海員の命令を理解するに足る語学能力 を有すべきことを要求したのである。これは東洋海員を排斥したものに外ならない。また       (註)

オーストラリアの海員法でも,外国人海員の使用について同じような制限をしている。す

なわち,その47条の1項では「海員はその職務の遂行にあってなされだ命令を理解するに

十分な英語の知識を有していると,監督官が認めない限り契約書に署名することを許され

ない」ものとしている。また皿項でも「船長または船舶所有者は前項の英語の知識を有し

ない海員を雇入れてはならない」と定めている。さらにオーストラリア法では,外国人海

員をどうレても使用するときは,監督官に対して?その国籍を証明するに十分な証明害を

(14)

462

掲示しなければならないとしている。このように命令を理解するに足る十分な語学知識を 有していることを,海員雇入の前提条件としていることは,結局において船舶秩序の維持

というよりも,むしろ外国人海員の排除に重点をおいているように思われる。従って,

これらの国の海員法にありては,「国家性」なり「政治性」の要求が強くあらわれている といえよう。

わが国の船員法には,このような条項はみかけないが,しかし海員制度の沿革よりみて,

外国人海員が日本人海員を事実上i排除していたことがある。すなわち明治初年の段階では,

西洋形船の船長,機関長の要職は,殆んど外国人海員によって占められていた実情であった。

① 表

甲種及仮免状受有者

Ii

乙種及仮免状受有者 船  長 一・:二運転 手・機関手 計

日本人陣焔本人1外臥躰人1連人

明治11年112157h51641271121

15年133h・7レ981184i 231291 2・年174レ8913671311侶115・・

25年11761256【64gl 43・18251686

船  長 一・ご:運転 手・機関手 計

日溜外臥曲人幽畑本人魂人

2914152112ilo81137 32312143013219841425

35gl 21105113・118811532 415121148213・【27221718

 ①の表からみても分るように,明治前半の遠洋航路に従事する船長その他の重要な職務 執行者は,ことごとく外国人に隷属し,日本人は小形船に限られていたのである。これは 当時の海員技術が後進的であり,外人船長を必要としたのであるが,もう一つの経済的理 由として,海上保険会社自体が外人船長を要求していたこともみのがすべきではない。こ のような現象は水先人の場合にあてはまる。すなわち明治十年頃の日本人水先人一名に対

して外国人は14名という優勢を示めしていたのでがる。

②表      このような海技の後進性という立場を認識して,当

明治  10年  13年  16年  20年  25年  29年

内国人

1 3 5 4 9 9

外国人 14 18 朽 12 17 19

合 計 15 21 20 16 26 28

通じて,あるいは諸国の手段をもって,海技の近代化を促進したのである。

人海員が航洋船の運航技術に対する主導権の完全な把握は,

なかった9

時の商船規則でも「免許を受候上外国人を雇い船中

使役の儀四苦候事」のいわゆる外国人使用の許可主

義を定めている。またその後明治九年の三菱会社に

対する命令書(3条)15年の共同通輸会社に対する

命令書(13条),18年の日本郵船会社に対する命令

書(27条)のなかにも,それぞれ外国人海員の使用

を制限的に許レていたのである。そこで明治政府は

海技の後進性をとりもどすために免状規則の改正を

      もとより日本

      明治末年にまたなければなら

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