氏 名・(本籍) 石
いし
河
かわ
軌
のり
久
ひさ
(秋田県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 855 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 26 年 3 月 22 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名 Salinomycin sensitizes melanoma spheroids containing slow-cycling cells to the effects of arsenic trioxide
(サリノマイシン細胞周期の遅い細胞を含むメラノーマ・スフェロイドの三酸化 ヒ素に対する効果を鋭敏化する)
論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 羽 渕 友 則
(副査) 教授 南 谷 佳 弘 教授 柴 田 浩 行 教授 前 沢 千 早(岩手医科大学)
Akita University
学 位 論 文 内 容 要 旨
Salinomycin sensitizes melanoma spheroids containing slow -cycling cells to the effects of arsenic trioxide
( サ リ ノ マ イ シ ン は 細 胞 周 期 の 遅 い 細 胞 を 含 む メ ラ ノ ー マ ・ ス フ ェ ロ イ ド の 三 酸 化 ヒ 素 に 対 す る 効 果 を 鋭 敏 化 す る )
申 請 者 氏 名 石 河 軌 久
研 究 目 的
化 学 療 法 後 の 再 発 は 癌 に よ る 死 亡 の 主 要 な 原 因 で あ る 。 皮 膚 悪 性 腫 瘍 で あ る メ ラ ノ ー マ に 対 す る 化 学 療 法 は こ れ ま で 、 米 国 F D A が 唯 一 認 可 し た ダ カ ル バ ジ ン で す ら 有 意 に 生 存 率 を 上 げ る に 至 っ て お ら ず 、 多 剤 併 用 化 学 療 法 に お い て も 臨 床 試 験 で 有 効 性 が 検 証 さ れ た も の は な い 。 伝 統 的 な 化 学 療 法 は 細 胞 周 期 の 早 い 細 胞 に 作 用 し て き た が 、 細 胞 周 期 の 遅 い 細 胞 ( ス ロ ー サ イ ク リ ン グ 細 胞 ) は そ れ ら の 薬 剤 に 抵 抗 性 を 示 し 、 腫 瘍 の 再 発 機 構 の 重 要 な 要 因 と な っ て い る こ と が 示 唆 さ れ て き た 。 本 研 究 で は 、 将 来 的 に 、 メ ラ ノ ー マ に 対 す る よ り 強 固 で 長 期 的 に 使 用 で き る 標 的 治 療 を 可 能 に す る た め に 、 3 次 元 構 造 を 持 つ 球 体 状 の メ ラ ノ ー マ 細 胞 群
( メ ラ ノ ー マ ・ ス フ ェ ロ イ ド ) の 特 性 評 価 を 行 い 、 ス ロ ー サ イ ク リ ン グ 細 胞 を 含 む 細 胞 集 団 を 標 的 と し た 新 た な 化 学 療 法 の 選 択 肢 を 検 討 し た 。
研 究 方 法
生 体 の メ ラ ノ ー マ 腫 瘍 塊 に 類 似 し た 性 質 を 有 す る 細 胞 群 を 得 る た め 、 寒 天 で コ ー ト し た 細 胞 培 養 皿 を 用 い 、 B27 サ プ リ メ ン ト , LIF,DIF,bFGF な ど の 増 殖 因 子 を 添 加 し た DMEM/F12 培 地 中 で 、 培 養 メ ラ ノ ー マ 細 胞 株 B16-BL6 を 3 日 間 培 養 し 、 trypsin-EDTA 処 理 後 、 同 じ 培 養 条 件 で さ ら に 3 日 間 培 養 す る こ と に よ り 、 メ ラ ノ ー マ ・ ス フ ェ ロ イ ド を 作 成 し 、 単 層 培 養 し た 細 胞 と の 特 性 を 比 較 し た 。 ま ず 、 ク ロ ー ン 原 性 の 性 質 を 持 つ 細 胞 を 同 定 す る た め 、 自 己 複 製 能 ア ッ セ イ を 用 い て 、 単 一 細 胞 よ り 増 殖 す る 細 胞 数 を 定 量 し た 。 次 い で 、 ス ロ ー サ イ ク リ ン グ 細 胞 を 同 定 す る た め 、ブ ロ モ デ オ キ シ ウ リ ジ ン( BrdU)を 添 加 し 7 日 間 培 養 後 、BrdU を 含 ま な い 培 養 条 件 で さ ら に 6 日 間 培 養 し 、 BrdU 標 識 保 持 細 胞 を 免 疫 染 色 に よ り 同 定 し た 。さ ら に 、化 学 療 法 に 対 す る 耐 性 を 比 較 す る た め 、Alamar-blue ア ッ セ イ を 用 い て 、 ド キ ソ ル ビ シ ン 添 加 後 の 細 胞 生 存 率 を 定 量 し た 。 ま た 、 ド キ ソ ル ビ シ ン に よ る 細 胞 死 の 機 序 を 解 明 す る た め 、TUNEL 法( ApopTag®キ ッ ト )を 用 い て 、ア ポ ト ー シ ス に 陥 っ た 細 胞 数 を 検 出 し た 。 最 後 に 、 メ ラ ノ ー マ に 対 す る 新 規 治 療 法 を 開 発
す る た め 、 ス フ ェ ロ イ ド に 対 し サ リ ノ マ イ シ ン あ る い は 三 酸 化 ヒ 素 を 単 剤 な い し 併 用 投 与 し 、 細 胞 生 存 率 を Alamar-blue ア ッ セ イ を 用 い て 定 量 し た 。
研 究 成 績
( 1 ) ス フ ェ ロ イ ド の 作 成
3 次 元 培 養 法 に よ り メ ラ ノ ー マ 細 胞 株 B16-BL6 を 3 日 間 培 養 し 、 球 体 状 の 構 造 を 持 つ 細 胞 集 団 が 形 成 さ れ た 。 trypsin-EDTA 処 理 後 、 同 じ 培 養 条 件 で さ ら に 3 日 間 培 養 す る こ と に よ り 、 よ り 密 な 構 造 を 持 つ 細 胞 集 団 が 得 ら れ た 。
( 2 ) 自 己 複 製 能 ア ッ セ イ
自 己 複 製 能 ア ッ セ イ に よ り 自 己 再 生 能 力 を 評 価 し た と こ ろ 、 単 層 培 養 細 胞 と 比 較 し て 、 ス フ ェ ロ イ ド 中 に ク ロ ー ン 原 性 の 性 質 を 持 つ 細 胞 が 多 く 存 在 し て い た 。
( 3 ) ス ロ ー サ イ ク リ ン グ 細 胞 の 同 定
BrdU 保 持 能 よ り 細 胞 周 期 の 遅 い 細 胞 を 同 定 し た と こ ろ 、 単 層 培 養 細 胞 と 比 較 し て 、ス フ ェ ロ イ ド 中 に BrdU を 保 持 し た ス ロ ー サ イ ク リ ン グ 細 胞 が 多 く 含 ま れ て い た 。
( 4 ) 化 学 療 法 に 対 す る 抵 抗 性
各 濃 度 の ド キ ソ ル ビ シ ン を 添 加 し た 細 胞 の 生 存 率 を 比 較 し た と こ ろ 、 単 層 培 養 細 胞 と 比 較 し て 、 ス フ ェ ロ イ ド 中 に ド キ ソ ル ビ シ ン に 対 し 抵 抗 性 を 有 す る 細 胞 が 多 く 含 ま れ て い た 。 こ の 結 果 を 反 映 し て 、 単 層 培 養 細 胞 と 比 較 し て 、 ス フ ェ ロ イ ド 中 に は ド キ ソ ル ビ シ ン に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 に 抵 抗 性 を 有 す る 細 胞 が 多 く 含 ま れ て い た 。
( 5 ) サ リ ノ マ イ シ ン と 三 酸 化 ヒ 素 の 併 用 効 果
サ リ ノ マ イ シ ン あ る い は 三 酸 化 ヒ 素 を 単 剤 で 投 与 し た 場 合 と 比 較 し て 、 併 用 し て 投 与 し た 方 が 、 ス フ ェ ロ イ ド 細 胞 の 生 存 率 が 顕 著 に 減 少 し た 。
結 論
メ ラ ノ ー マ ・ ス フ ェ ロ イ ド は 、 単 層 培 養 細 胞 と 比 較 し て 、 ス ロ ー サ イ ク リ ン グ 細 胞 を 多 く 含 み 、 ま た 既 存 の 化 学 療 法 剤 で あ る ド キ ソ ル ビ シ ン に 対 し よ り 抵 抗 性 を 有 す る こ と よ り 、 生 体 の メ ラ ノ ー マ 腫 瘍 塊 に 類 似 し た 性 質 を 有 し て い る こ と が 実 証 さ れ た 。 こ の 結 果 は 、 メ ラ ノ ー マ に 対 す る 新 規 治 療 法 を 開 発 す る 際 に 、 単 層 培 養 細 胞 と 比 較 し て 、 メ ラ ノ ー マ ・ ス フ ェ ロ イ ド が よ り 有 益 な 情 報 を も た ら す 可 能 性 を 示 唆 す る も の で あ る 。 さ ら に 、 こ の 手 法 を 用 い た 生 体 に 近 い 条 件 に お い て も 、 サ リ ノ マ イ シ ン と 三 酸 化 ヒ 素 の 併 用 に よ り 、 高 い 抗 腫 瘍 効 果 が 得 ら れ た こ と は 注 目 に 値 す る 。
Akita University
学位論文 (博士 -甲)審査結果 の要 旨
主査: 羽渕 友則 申請者:石河 軌久
論文題名:Salinomysin sensitizes melanoma spheroids containing slow-cycling
cells to the effects of arsenic trioxide
(サリノマイシンは細胞周期の遅い細胞を含むメラノーマ・スフェロイドの三酸化ヒ素に対 する効果を鋭敏化する)
要旨
化学療法後の再発はメラノーマを初めとした癌による死亡の主要な原因である。伝統的な 化学療法は細胞周期の早い細胞に作用してきたが、細胞周期の遅い細胞(細胞周期遅延型 細胞)は化学療法に抵抗性を示し、再発の重要な要因となっていることが示唆されてきた。本 研究では、将来的に、メラノーマに対するより長期的に強固な効果のある標的治療を可能に するために、3次元構造を持つ球体状のメラノーマ細胞の特性評価を行い、細胞周期遅延型 細胞を含む細胞集団を標的とした新たな化学療法の可能性を検討した。
結果として、申請はメラノーマ細胞の球体状細胞集団(スフェロイド)の安定した樹立を確立 した。このスフェロイド系を用いて、申請者は、 (1) 自己複製能アッセイにより単層培養細胞と 比較して、スフェロイド中にクローン原性の性質を持つ細胞が多く存在すること、 (2) BrdU保 持能解析より、単層培養細胞と比較して、スフェロイド中に BrdU を保持した細胞周期遅延型 細胞が多く含まれていること、 (3) 単層培養細胞と比較して、スフェロイド中にドキソルビシン に対し抵抗性を有する細胞が多く含まれ、ドキソルビシンによるアポトーシス誘導に抵抗性を 有する細胞が多く含まれていること、 (4) サリノマイシンあるいは三酸化ヒ素を単剤で投与し た場合と比較して、併用して投与した方が、スフェロイド細胞の生存率が顕著に減少すること、
を示した。
メラノーマ細胞のスフェロイドは、単層培養細胞と比較して、細胞周期遅延型細胞を多く含み、
また化学療法剤であるドキソルビシンに対しより抵抗性を有することより、生体のメラノーマ腫 瘍塊に類似した性質を有していることが示唆された。メラノーマに対する新規治療法を開発す る際に、単層培養細胞と比較して、スフェロイドがより有益な情報をもたらす可能性を示唆する。
実際に、このモデル条件下で、サリノマイシンと三酸化ヒ素の併用により、相乗効果が示された ことは興味深い。
Akita University
1)斬新さ
腫瘍細胞のスフェロイドは、生体の腫瘍塊に近い性質をもつことに着目し、これを新規治療 法を探索するin vitroモデルとして用いることができるという仮説の下に、モデルの確立と生物 学的特徴を解析するとともに、実験的治療法を検証した点が斬新である。
すなわち、単層培養と比較して、メラノーマ細胞のスフェロイドは、細胞周期の遅い細胞の 割合が高く、クローン原性の性質を有し、化学療法に抵抗性がある、などを示した。さらに申請 者が、この実験系を用いて、三酸化二ヒ素とサリノマイシンの併用投与による相乗的な抗腫瘍 効果を明解に示したことは注目に値する。
2)重要性
メラノーマ患者の予後は非常に悪く、予後延長や完治を目指せる化学療法や分子標的療法 が無いのが現状である。申請者は、メラノーマ細胞のスフェロイドは、生体の腫瘍塊に近い性 質をもつこと、これを新規治療法探索のin vitroモデルとして用いることができることなどを示し、
そのモデルの確立と生物学的特徴を解析するとともに、実験的治療法を検証した。したがって、
本研究は新規治療戦略の創生に大きく寄与するものと期待される。
生体の腫瘍塊に近い性質をもつメラノーマ細胞のスフェロイドを用いて、三酸化二ヒ素とサリ ノマイシンの併用投与が、治療抵抗性のメラノーマに対する新たな化学療法となる可能性を見 出した。この結果は、メラノーマに対する新規標的治療を模索する上で端緒となる重要な成果 であると考えられ、その重要性は大きいものがある。
3)研究方法の正確性
本研究は、スフェロイド培養と確立、細胞生物学的解析法、BrdU 標識細胞解析、TUNEL法、
治療薬投与による細胞生存率解析など、分子細胞生物学的な基本的手法の標準法に準じて 行われており、正確性や妥当性に問題は無いと判断される。
4)表現の明瞭さ
抄録、背景、対象と方法、結果、考察、結論、表、図など簡潔で明瞭に記載されている。さら に、すでに学術雑誌に英文論文として掲載受理されており、学位論文として校正、表現など問 題ない。
以上のことより、本論文は学位を授与するに十分値する内容と判定された。