氏 名・(本籍) 山
やま
田
だ
由
ゆ
美
み
(秋田県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 856 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 26 年 3 月 22 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名 Functional Roles of TGF-β1 in intestinal epithelial cells through Smad-dependent and Non-Smad pathways
(小腸粘膜上皮細胞における Smad 依存性経路,非依存性経路を介した TGF-β1 の役割)
論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 山 本 雄 造
(副査) 教授 河 谷 正 仁 特任教授 本 山 悟
学 位 論 文 内 容 要 旨
Functional roles of TGF-1 in intestinal epithelial cells through Smad-dependent and non-Smad pathways
(小腸粘膜上皮細胞における
Smad依存性経路, 非依存性経路を介した
TGF-1の役 割)
山 田 由 美
研 究 目 的
Transforming growth factor-1(TGF-1)は成長因子の一つで,
消化管にも発現しており, 腸粘膜 の治癒過程において重要な役割を担い, 腸管上皮細胞の機能を制御していると考えられている。
しかし
TGF-1の小腸粘膜上皮における分子レベルの働きについてはいまだ明らかにされていな
い点が多い。今回われわれは小腸粘膜上皮細胞における
TGF-1の役割とそのシグナル伝達につ いて検討することを目的として研究を行った。
研 究 方 法
ラットの小腸粘膜上皮細胞株
IEC-6細胞およびアデノウィルス発現ベクター(AdLacZ,
AdSmad2, AdSmad3, AdDNSmad2/3), siRNA,
マウスの小腸切片を用いて以下の検討を行った。
1) TGF-1/Smad
シグナル伝達因子の発現, および機能的シグナル伝達経路の確認 (RT-PCR,
Western Blotting, ELISA,免疫細胞染色)。2) 増殖に及ぼすTGF-1の効果, およびそのシグナ
ル伝達経路(BrdU の取り込み)。3) 分化に及ぼす
TGF-1効果, およびそのシグナル伝達経路
(Quantitative real-time PCR)。4) Smad2, 3の小腸粘膜における局在(免疫組織化学) 。5)
Smad7の発現に及ぼす
TGF-1の効果, およびそのシグナル伝達経路(Quantitative real-time
PCR)。(遺伝子組み換え実験は承認を得ている(第
b-1-2313号) ) 。
研 究 成 績
1) IEC-6
細胞は恒常的に
TGF-1を産生し, 分泌した。
IEC-6細胞内には
Smadシグナル伝達 経路が存在し, TGF-
1の存在下にそのシグナルが活性化されることを確認した。
2) TGF-1
は濃度依存性に
IEC-6細胞の増殖を抑制した。アデノウィルス発現ベクターを用い て
Smad3経路のみを復元すると細胞増殖抑制効果が再現され, siRNA を用いて
Smad3経 路を遮断したときには細胞増殖が抑制されなかった。
3) TGF-1
は濃度依存性に
IEC-6細胞の分化マーカーである
Acsl5 mRNAの発現を促進した。
アデノウィルス発現ベクターを用いて
Smad2経路を強発現すると
Acsl5 mRNAの発現が 増強され, siRNA を用いて
Smad2経路を遮断すると
Acsl5 mRNAの発現が抑制された。
4)
小腸粘膜において
Smad2は
villiに, Smad3 は
cryptに主に局在していた。
5) TGF-1
は濃度依存性に抑制性
Smadである
Smad7の発現を増強した。アデノウィルス発 現ベクターを用いて
TGF-1/Smadシグナル経路を遮断したが, Smad7 の発現に影響を及 ぼさなかった。Smad シグナル経路以外の経路についても
MAPK経路, PI3K 経路の各種
inhibitorを用いて検討したが, これらの経路は
Smad7の発現に影響を及ぼさなかった。
結 論
今回我々は, IEC-6 細胞が
TGF-1を産生・分泌し, 機能的な
TGF-1/Smadシグナル経路を有 していることを明らかにした。アデノウィルス発現ベクターを用いて
Smad3経路のみを復元し たときに
IEC-6の増殖が抑制され, siRNA を用いて
Smad3経路を減弱させたときに増殖が抑制 されなかったことから, TGF-
1は
IEC-6の細胞増殖を
Smad3依存性に抑制していると考えられ る。 一方, TGF-
1は分化マーカーである
Acsl5 mRNAの発現を
Smad2強発現のときに増強させ,
siRNA Smad2において減弱させたことから, TGF-
1は細胞分化を
Smad2依存性に促進してい ると考えられた。Smad7 mRNA の発現は
TGF-1の濃度依存性に増加したが, その制御は
TGF-1/Smadシグナル経路に非依存性と考えられた。ほかにも
MAPK,PI3K等の経路も検討し たがいずれも影響を及ぼしておらず, どのような経路が関与しているかは今回明らかにすること ができなかった。
Activin Aは
TGF-スーパーファミリーの一つであり,その伝達経路は
TGF-1と同じく
Smad依存性、非依存性に制御されている。
Activin Aも腸管上皮の細胞増殖と分化を制
御しており, また実験的腸炎や炎症性腸疾患, さらには大腸がんでその発現が増強していること
が知られている。TGF-
1と
Activin Aはともに
Smad依存性経路において共通の分子を利用し
ており, 腸管上皮細胞におけるホメオスターシスにおいて
TGF-1や
Activin Aのシグナルがどの
ように寄与しているか, 分子レベルで解明する研究は, 腸管粘膜損傷・治癒の仕組みの解明につな
がる。NSAIDs 起因性腸炎や炎症性腸疾患の治療の基礎となると考えられ, 今後その新しい治療
の発展に寄与していきたい。
学位(博士—甲)論文審査結果の要旨
主 査: 山 本 雄 造
申請者: 山 田 由 美
論 文 題 名 :
Functional roles of TGF-β1 in intestinal epithelial cells through Smad-dependent and non-Smad pathways
(小腸粘膜上皮細胞における
Smad依存性経路、非依存性経路を介した
TGF-β1
の役割)
要旨
著者の研究は、論文内容要旨に示すように、TGF-
β1が小腸粘膜上皮細胞にも発現してお り、
TGF-β1/Smadシグナル経路が腸管上皮細胞の増殖および分化の制御において機能的な 役割を演じていることを解明したものである。研究はラットの小腸粘膜上皮細胞株および
Smad2, Smad3のアデノウイルス発現ベクターや
siRNAを用いて、シグナル経路を特異的 に活性化させたり、遮断したりすることにより、細胞の増殖や分化のマーカーがどのように 変化するのかを
RT-PCR、
WesternBlotting
、
ELISA、免疫細胞染色手法を駆使して検討 したものである。また、Smad2、Smad3 の小腸粘膜における発現局在を免疫組織化学的に 同定し、小腸粘膜の再生・増殖との関連も検討した。さらに、
Smad2、
Smad3といった受 容体制御型
(R-)Smadに対する
negative feedback制御因子である抑制性(I-)
Smadである
Smad7の発現も検討し、それが、小腸では
TGF-β1/Smadシグナル非依存性であることを も証明した。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明瞭さは以下のとおりである。
1)
斬新さ
TGF-β1
が消化管にも発現しており、腸管上皮細胞の機能を制御しているらしいことは知
られており、
TGF-β関連シグナルの異常が発癌や炎症性腸疾患のような難治性の病態形成に
関与しているのではないかと推測されているが、下流の
Smadシグナルのそれぞれがどの
ような制御にかかわっているのかはこれまで不明であった。また、Smad2 と
Smad3はと
R-Smad Smad2
ルに
Smad3が
TGF-βのシグナルにより重要であるとされているものの、それぞれの機能の 違いについては詳しい解明が進んでおらず、
Smad 2/3として扱われてきた。本研究の斬新 性は
TGF-β1による腸管上皮細胞の機能を制御において、Smad3 が細胞増殖を抑制し、
Smad2
が細胞分化を促進するという異なる役割分担していることを初めて見出した。さら
に
I-Smad(Smad7)の発現がTGF- β1濃度依存性に増加し, それが
Smad非依存性に制御 されることも示し、
negative feedback機構の存在も明らかにした。また、
Smad2と
Smad3の発現がそれぞれ
villiと
cryptに局在することを解明し、小腸粘膜の再生・新陳代謝にお ける上皮細胞の増殖と分化の連動を分子レベルで示したところにも斬新性がある。
2)
重要性
炎症性腸疾患の罹患患者数は増加の一途にあり、その治療、並びに寛解維持において腸管 粘膜損傷の治癒過程の解明は極めて重要な課題である。本研究において、腸管上皮の増殖と 分化の制御機構が分子レベルで解明されたことは、これらの難治性疾患に対する今後の創薬 を新しい観点から考えるうえで極めて重要であると考えられる。
3)
研究方法の正確性
TGF-β1
シグナル経路の活性化において生じる下流の現象の解析において、生じた現象の 同定やアデノウイルス発現ベクターを使用した強制発現による表実験だけでなく、各過程に おいて、siRNA や
dominant negativeを駆使して特異的シグナルの抑制下における裏実験 を行い、他の因子によるエピフェノミノンでないことを確認している。また、それぞれの因 子の発現においても定量を行い、統計的に評価し、客観的で正確な研究手法をとっている。
4)