子どもにおける同一・差異関係の学習(?)
著者 杉村 健
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 30
号 1
ページ 191‑213
発行年 1981‑11‑25
その他のタイトル Learning of Identity‑Difference Relation in Children (?)
URL http://hdl.handle.net/10105/2655
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1981
子どもにおける同一・差異関係の学習(II)
杉 村 健 (奈良教育大学心理学教室)
(昭和56年4月1日受理)
先の研究(杉村、 1980)では、同異関係を研究するために用いられている種々の課題について 述べ、これまでに提唱された同異学習の理論やモデルを紹介した。そのあとで、 (a)発達的研究、
(b)刺激と課題の要因、 (C)前訓練と教示の効果という分野に分けて、実験的研究の現状と問題点杏 明らかにし、今後の研究の方向を示唆した。本研究では、そのときに取り上げることができなか った研究を、 (a)同異学習の転移、 (b)学習過程の分析、 (C)言語反応の検討という分野に分けて述べ ることにする。
同異学習の転移
先に述べた前訓練の効果を調べる研究では、同異課題とは異なる課題で訓練したあとで同異課 題を学習させ、その成績を問題にした。転移という用語を用いていえば、前訓練の効果を調べる 研究は、ある課題の学習から同異学習‑の転移を扱っていることになる。ここで取り上げる同異 学習の転移は、同異課題の学習からある課題(多くは同異課題)の学習への転移を扱っている。
この種の研究では、原学習で習得された同異関係が一般性をもつものかどうか、また、同異学習 の過程ないし成分がどのようなものであるかが問題にされている。
同異関係の一般性 1つの課題で学習された同異関係が確実なものであって一般性をもつな らば、続く同異課題の学習に転移するはずである House (1964)は、小さな家具や玩具からな る2位置の2刺激継時逆転課題を、平均MA3 :ll(3 : 0‑5 : 0)で平均IQ38(23‑60)の 精神遅滞児に学習させ、続いて、異なる家具や玩具からなる2位置の2刺激ランダム逆転課題で 転移を行った。転移における最初の5試行中の正答率は81%という高率であったので, House は、原学習において特定刺激への反応が学習されたのではなく、 ABBのときはA、 BAAのと
きはBというように、特異刺激を手がかりとする特異関係が学習されたと解釈した。しかし、こ の実験には原学習を行わない統制群を設けていないので、転移効果の有無について確かなことは いえない。
Scott (1973a)は、10セットの家具や玩具からなる3位置の非反復課題を学習させたあとで、新 しい5セットからなる同様な課題で転移を行った。転移における試行中の正反応数は、 3歳2か 月児(2:6‑3:6)3.8、 4歳1か月児(3:7‑4:6)3.6、 4歳11か月児(4:7‑5 : 6) 3.3であり、また、 5試行中4試行以上の正反応をした者は同じ順に、 64%、 64%、 39%
であった。なお、原学習の基準達成者は同じ順に92%、 85%、 92%であった。さらに Scott (1973 b)は、動物、乗物など6つのカテゴリーに属する48セットの絵からなる位置の非反復課 題を学習させてから、新しい12セットからなる同様の課題で転移を行った。その結果、転移にお ける12試行中の正反応数は、 3歳児(平均3 : 5) 10.0、 4歳児(平均4 : 5) n.6であり、ま
FUJI
た、 11試行以上の正反応をした者は50%と94%、原学習の基準達成者は63%と100%であった。
ところで、従来の発達研究における特異課題の学習者は、 3歳児10%、4歳児27%であり、 5 歳児でもやっと50%を超す程度であり(杉村, 1980)、これは、 Kendler and Kendler (1962) やWhite (1965)の発達理論を裏づけるものと解釈された。これに対して上述の研究では、 3、
4歳児でも原学習の達成者がかなり多かったので、 Scottは、発達理論家が仮定したよりも年少 の幼児で、媒介的ないし認知的行動が可能であると主張した。
ここで注目すべきことは、従来の発達研究(たとえば、 Ellis & Sloan, 1959; Gollin& Shirk, 1966; Lipsitt & Serunian, 1963; Pennら, 1969)においては、色や形の視覚刺激からなる 2刺激ないし3刺激の反復(ランダム逆転)課題が用いられたのに対して、 Scottの研究では事 物や絵事例からなる非反復(非逆転)課題が用いられたことである。これに関連して、 Scott and House (1978)は4歳児を用い、絵事例からなる非反復課題の学習が反復課題よりも容易 であることを示した。しかし、年少児でも非反復課題の学習が可能であったことを、ただちに、
媒介的ないし認知的行動ができるという証拠とみなしてもよいであろうか。特定刺激が反復提示 されない非反復課題では、特定刺激への不適当反応に対して間欠強化(Harlow, 1958)が与えら れないし、また、特定刺激に関する仮説(Small, 1970)に固執する可能性が全くないので、年少 児でも比較的容易に学習ができたのであろう。
さらに、同じように同異関係の学習といっても、反復課題と非反復課題ではその内実が異なっ ていると考えられる。前者では、学習試行を通じて特定刺激が特異刺激になったり同一刺激にな ったりするので、一貫して特異刺激に反応するためには、試行内の関係だけでなく試行間の関係 も認識できなくてはならない。このような確固とした関係の学習は、 Gollin and Saravo(1971) のいう言語・概念的操作を必要とし、 White (1965)のいう認知的水準によって特徴づけられる であろう。これに対して、非反復課題では特定刺激が反復提示されないので、前後の試行とは無 関係に、各試行内で知覚的に目立つような刺激を選択しても学習が可能である。このような関係 であれば、年少児であっても比較的容易に学習できるであろう。
Scott (1973 a,1973 b)の研究の転移に関しては、 House (1964)と同様に統制群を設けていな いので、転移効果の有無を査定することができない。さらに、原学習と転移がともに同種の材料 からなる非反復課題であったので、原学習において習得された同異関係の一般性を査定している とはいえない。関係の一般性を確かめるためには、事例刺激から視覚刺激‑転移するとか、非反 復課題からランダム逆転課題に転移するという試みが必要である。この点については次に紹介す る研究が参考になる。
Saravo and Gollin (1969)は異なる事物(junk)からなる11セットの3位置非反復課題を4 歳児に学習させ、そのあとで新しい10セットからなる非反復課題か、あるいは2刺激ランダム逆 転課題で転移を行った。その結果、転移における15試行中の誤反応数は、非反復課題4.38、ラン
ダム逆転課題7.12であったので、この年齢の幼児によって習得された同異関係の一般性は乏しい とみなされた Gollin and Schadler (1972)は、さまざまな条件下で色の3刺激ランダム逆転 課題を学習させたあとで、まず、形の非反復課題を3セット行い、次いで、その最後のセットを 用いて6試行のランダム逆転課題を学習させた。非反復課題において3試行正答した者は、 54‑
59か月児82%、 48‑53か月児44%、 42‑47か月児50%であり、ランダム逆転課題において5試 行以上の正答をした者は、同じ順に79%、 61%、 19%であった。この結果について Gollin and Schadlerは、 54‑59か月児は刺激次元が変わっても適用できるような、刺激文脈に依存しない
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一般的な特異関係を習得したのに対して、 42‑47か月児は逆転課題で特に悪いので、次元に結び ついた知覚的な特異関係を習得したと考え、彼らの認知様式変化説(Gollin & Saravo, 1971)に 一致すると解釈した。
先に述べたScott (1973 a, 1973 b)の主張は、学習様式の発達的変化を仮定しない連鎖注意 モデル(House, 1964; Houseら, 1974)に基づくものであった。しかし、 Gollinand Schadler (1972)の研究は、たとえ原学習で年齢差がなくても、転移の成績は年齢と課題に応じて明らか に異なることを示した。このことは、同じように原学習を行っていても、習得された同異関係の 内実が年少児と年長児では異なることを示唆する。したがって、年齢×転移課題という実験計画 を用いることによって、年齢に依存した同異関係の内実をとらえることができる。なお、異なる 観点からの研究ではあるが、年齢×転移課題の交互作用が兄い出されている(Sa ら, 1970;
Sugimura, 1978)c
最後に、 3位置の非反復課題において、同一・差異関係から同一・類似関係、そして類似・差 異関係に転移した研究を紹介しよう。 Scott (1970)は5歳児に、 15セットのマンガの人物からな る同一・差異課題(ABB)を学習させ、そのあとで新しい10セットの同一・差異課題を与え、
さらに、ポ‑ズが異なる2つの同一人物と1つの異なるものからなる10セットの類似・差異課題 (CiCaD)を学習させた。その結果、 2つの転移課題ともに85%の者が直ちに学習できること を兄い出した Scott(1977)は4歳児(4 : 0‑5 : 3)に、 6つのカテゴリーに属する事例の 絵からなる60セットの同一・差異課題を学習させたあとで、同一人物であるがポーズが異なる30 セットの同一・類似課題(dCiCa)を与え、さらに、 10セットの類似・差異課題(C1C2D またはEIE2D)を学習させた。転移における正答率は同一・類似課題90.5^、類似・差異課題 90%であり、統制群の正答率は同じ順に53%と40%であった。
このような結果から Scottは、 4歳児によって学習された同異関係は刺激文脈から離れた一 般性をもつと主張したが、先に述べたGollin and Schadler (1972)の結果では、 4歳児はむし ろ文脈に結びついた一般性の乏しい解決をしていた。しかし、両者の研究は事例刺激と視覚刺激、
非反復課題と反復(逆転)課題というように、刺激と課題で異なっている点に注目しなくてはな らない。一般的にいって、非反復課題の学習の方が反復課題より容易であり、したがって転移の 成績もよくなるのは当然のことである。また、事例刺激で習得された関係と視覚刺激で習得され た関係とでは、その内実が異なっているかもしれない。いずれにしても、 1つの実験結果に基づ いて結論を出すのは危険であり、その前に多くの条件分析的な研究が必要である。
次元とルールの移行 2選択弁別課題においては、言語媒介説(Kendler & Kendler, 1962) と観察反応説(Zeaman & House, 1963)をめぐって、 1960年代から70年代にかけて多くの研究 が行われた。弁別学習の成分として、前者は次元に対する言語的な反応を仮定し、後者は次元に 対する注意(観察反応)を仮定した。それぞれの理論を立証するために、転移の一種である逆転 (次元内)移行と非逆転(次元外)移行の成績が比較されてきた。同異課題についても移行の研 究が行われてきたが、 2選択弁別課題の場合よりもはるかに少ない。しかも、そのうちの多くは 原学習で習得された同異関係が一般性をもつかどうかを査定するために、色(形)課題から形 (色)課題へというような、次元外移行だけを扱ってきた(たとえば、 Gollin & Schadler,1972;
House, 1964; Levin & Maurer, 1969)c そのために、次元内移行と次元外移行の成績を比較し た研究は、次に紹介するようにわずかしかない。
Brown (1971)は平均MA 7歳、平均CA16歳の精神薄弱者を用いて、 1次元特異課題と2次
元特異課題における次元内移行と次元外移行の比較を行った。 1次元課題は色か形だけからなり 2次元課題は不適切次元に3つの刺激価をもつ色と形からなっていた。後者で色が適切な課題の 例は赤い三角、青い四角、青い円であった。移行における正反応率はどの群も著しく高かったの で、反応潜時が分析された。全体として2次元課題の反応潜時が長かったが、特に次元外移行に おいて両課題の差が大きいことが兄い出された。
より組織的な研究を行ったのはBrown (1970)であり、年齢、過剰訓練および次元偏好性の 移行学習に及ぼす効果が検討された。被験者には幼稚園児(平均5 : 9)と2年生(平均7 :il) が用いられた。まず、色と形への偏好性が調べられ、そのあとで偏好次元を適切次元とする条件 と不適切次元とする条件の下で、 2位置の2次元(色と形)特異課題が与えられた。基準群の者 は連続6回正反応の基準に達すると、次元内移行か次元外移行が与えられ、過剰訓練群の者はさ らに50試行訓練してから移行が与えられた。移行における主な結果は、年齢×訓練量×移行型の 有意な交互作用が得られたことであった。すなわち、幼稚園児では基準群、過剰訓練群ともに次 元内移行が有利であり、過剰訓練によって次元内移行がわずかに速く、次元外移行はわずかに遅 くなった。これに対して2年生では、基準群では次元内移行が有利であるが、過剰訓練によって 次元外移行が著しく速くなり、次元内移行とまったく変わりがなくなった。
以上の結果について、 Brown は次のような考察を行った。次元内移行が次元外移行よりも速 いという観察反応説(Zeaman & House, 1963)からの予想は、幼稚園児では支持されたが2年 生では支持されなかった。 2年生の結果を説明するために、 House (1964)が示唆した適切次元 への注意と特異関係‑の注意という2つの注意(観察反応)を仮定した。原課題を学習するのに
は、基準群の者も過剰訓練群の者もともに、上述の2つの注意を必要とするが、基準訓練の場合 には次元への注意の方が強いと仮定されるので、次元内移行よりも次元外移行が遅くなった。一 方、過剰訓練によって特異関係‑の注意が強められて漸近線に達すると、それがどんな特異課題
にでも転移すると仮定し、さらに特異関係への注意が漸近線に達する過剰訓練の量は、発達や知 能によって異なると仮定した。
このような仮定の下に、過剰訓練中の成績を分析してみると、幼児では訓練を通じて多くの誤 反応が生じており、これは特異関係への注意が不十分であったことを示すと考えた。そのため、
過剰訓練後でも次元への注意が優勢であって、次元内移行が次元外移行よりも速かった。これに 対して、 2年生では過剰訓練の終りにはほとんど誤反応がなく、特異関係への注意が強くなって いたために、次元外移行も次元内移行と同様に容易になったと推測した。しかし、特異関係への 注意が漸近線に達しても、次元‑の注意が存在しているならば、やはり次元内移行が次元外移行 よりも容易になるはずである。そこで、 2年生において過剰訓練後に2つの移行が同じ成績にな ったことを説明するためには、次元への注意を犠牲にして特異関係への注意が強められたと仮定 しなくてはならない。すなわち、過剰訓練によって特異関係への注意が漸近線に達すると、 2つ の注意が生起する順序が運転して、最初に特異関係を発見し次に適切次元に注目するようになる と仮定した。このように考えることにより、 2年生における過剰訓練後の成績を説明したのであ る。
以上が Brown による考察の要点である。ここで注意すべきことは、 House (1964)および House ら(1974)の連鎖注意モデルでは、同異学習の過程が適切次元への注意‑→同異関係 への注意という順序を仮定しているのに対して、その逆の順序を示唆したことである。この考え を発展させたのが、 Bowers (1976)のルールモデルであり、その実験結果については後に述べ
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ることにする。
次に丸野(1978、 1979)は、知覚的属性と概念的属性に基づく特異学習の転移について研究し た。知覚的属性に基づく課題の1例は、大きい車、小さい自転車(+)、大きい猫のセットと、
小さい犬、大きい猪(+)、小さい自転車のセットからなり、概念的属性に基づく課題の1例は 小さい猫、大きい自転車(+)、大きい犬のセットと、小さい車、小さい猫(+)、大きい自転車 のセットからなっていた。原課題で用いられた知覚的属性は大きい形と小さい形、概念的属性は 乗物と動物であり、転移課題では丸い形と長い形、果物と楽器であった。最初の研究(丸野, 1978)では5歳児(平均5 : 6)が用いられ、次の研究(Maruno, 1979)では4歳児(平均
4 : 6)と6歳児(平均6 : 6)が用いられた.原学習では、知覚的属性か概念的属性に基づく 3位置特異課題が30試行与えられ、続く転移では、原学習と同じ属性(知覚一知覚、概念一概念) か異なる属性(知覚一概念、概念一知覚)に基づく課題が30試行与えられた。
3つの年齢に共通する結果は、原学習も転移もともに、特に試行の初期では、概念的属性に基 づく特異課題の方が知覚的属性に基づく特異課題よりも成績がよいことであった。つまり、概念 課題から概念課題への転移と知覚課題から概念課題への転移が、他の2つの転移に比べてよい成 績を示した。知覚一概念転移がよかったことについてMaruno (1979)は、知覚的な特異ルール
を抽出する傾向が弱いために、優勢な概念的特異ルールの抽出に移行したと考えた。しかし、概 念一概念転移に比べて知覚一知覚転移が著しく劣ることは、同じように知覚的属性といっても、
"大‑小"に比べて"丸い‑長い''方が、子どもにとって抽出困難な属性であったことを示唆 する。同異学習において、知覚的ルール(関係)と概念的ルール(関係)を取り上げたのは新し い試みであるが、この種の研究では、転移課題そのものの困難度を査定する統制群が必要であろ う。
以上に述べた研究では、原課題と転移課題の両方で同異関係という同じ解決のルールを学習さ せており、移行が行われるのは解決ルールが適用される刺激次元や属性であった。これに対して 次元や属性の代りに解決のルールについて移行することも可能である0
Brown and Scott(1972)は、 3歳児(3 : 0‑3 :io)と4歳児(4 :2‑5 : 2)を用い て、大きさ関係の学習と同異関係の学習における移行を研究した。大きさ課題では、異なる大き さ(大、中、小)の同じ事物を示す絵が1枚のカードに貼ってあり、すべてのカードに異なる絵 を用いた。どのカ‑ドも中間大の絵を中央に置き、左右にある大きい絵か小さい絵を正刺激にし た。同異課題ではすべてのカードに中間大の大きさの絵を用い、同一刺激の1つを中央に置いて 左右にある同一または特異な絵を正刺激とした(2位置非反復課題)。大きさ課題では中央刺激 よりも大きいものを正刺激とし、同異課題では中央刺激と同じものを正刺激として、 "大きい'' または"同じ"という関係(ルール)を学習させた。転移においては、 "小さい"または"異な る"という関係を学習させた。転移の主な結果は、大きい‑小さい、同じ‑異なるというような 1つの関係概念の中での移行の方が、大きい‑異なる、同じ‑小さいというような、異なる関係 概念への移行よりもすぐれていることであった。
この研究は、刺激次元や属性における移行ではなくて、解決のル‑ルにおける移行を扱ってい る点で興味深い。次元内移行が次元外移行よりも速いというよく知られている現象は、弁別学習 や同異学習の過程において、適切次元への注意が存在することを示すものと解釈されてきた。こ のような推論の仕方を、同じ解決ルール内での移行が異なる解決ルール‑の移行よりも速いとい う結果に当てはめてみると、大きさ学習や同異学習の過程において、大きさ関係や同異関係‑の
注意が存在し、それぞれの解決のルールが習得されていると解釈できる。
Bowers (1976)は小学4、 5年生(9 : 0‑12: 2)を用いて、次元の移行とルールの移行を 組み合わせた実験を行った。弁別課題は白い円、青い星形、オレンジの四角というように、色と 形が異なる3刺激からなり、色または形次元での特定刺激が正刺激であった。特異課題は3位置 の3刺激ランダム課題で、色が適切な場合は、青い四角、青い星形、白い円というように、不適 切な3つの形があり、形が適切な場合は不適切な3つの色があった。このような弁別課題と特異 課題のそれぞれを原学習と転移に用い、解決のルール(課題)が同じか変わるか、適切次元が同 じか変わるかによって、 4つの転移条件を作った。転移に要した試行数は、原学習と転移でルI ルも次元も同じ条件が0.40、ル‑ルが同じで次元が変わる条件が5.13、ルールが変わり次元が同 じ条件が8.54、ルールも次元も変わる条件が10.75であった.
ルールも次元も同じ条件が最も速くて両方が変わる条件が最も遅いというのは当然の結果であ るが、 Bowersは、第2の次元変化条件と第3のルール変化条件の違いに注目した。すなわち、
ルール変化よりも次元変化における転移が有利であったという結果に基づき、先に述べたBro¥
(1970)の考えを発展させてルールモデルを提唱した。このモデルによれば、課題解決の過程に おいて、被験者はまず解決のルールを選択し、そのあとでルールを通用する次元に注意すると仮 定する。これは連鎖注意モデル(House, 1964; House ら, 1974)とは逆の順序を仮定するもの
である。その詳細については先の研究(杉村, 1980)で紹介したので、ここでは省略する。
島(1980)は平均6 : 0の幼児(5 : 7 : 6)を用いて、標本比較課題でルールと次元の 移行を問題にした.形課題には緑色の円と正方形かピンクのT字形と星形が用いられ、色課題に は赤と青の十字形か茶色と黄色の逆三角形が用いられた。学習させるルールは標本と比較刺激と の一致関係か不一致関係であり、ルール変化というのは一致関係から不一致関係へ、またはその 逆の変化であった。転移において、 0または1試行で学習基準に達した者はルールも次元も同じ 条件が100%、ルールが同じで次元が変わる条件が72.2%、ルールが変わり次元が同じ条件が 33.3^、ルールも次元も変わる条件が33.3^であり、第2と第3の条件の間に有意差があった。
Bowers (1976)の研究とは、ルールの内容も用いた課題も異なっているが、次元変化条件とルー ル変化条件の結果が類似しているので、この結果はルールモデルを支持するものと解釈された。
上述の2つの研究のように、次元移行とルール移行の成績を比較することは、連鎖注意モデル (House, 1964; House ら, 1974)とル‑ルモデル(Bowers, 1976)で仮定されている同異学習 の2つの成分、すなわち次元学習とルール(関係)学習を検討する手段として有効であると考え られる。しかし、ルール変化よりも次元変化における転移の方が有利であったという結果から、
次元学習‑関係学習を仮定する連鎖注意モデルが否定されて、ルール学習一次元学習を仮定する ルールモデルが支持されると結論を下すことはできない。この結果を素朴に解釈すれば、転移の 直前の原学習においてルール学習の方が次元学習よりも優勢であったことを示しているのであっ て、 Bowers (1976)が仮定したように、それが次元とルールの処理系列の相違ないし2つの学 習の順序の相違であると解釈することには、問題があるように思える0
どちらのモデルが正しいかを検討することは興味あるテーマであろうが、次元移行とルール移 行の手法を用いて、次元学習とルール学習の成立過程を分析することもまた、理論的に重要な研 究であるといえる。学習のある段階では次元学習が優勢であるかもしれないし、別の段階ではル ール学習が優勢であるかもしれない。また、両者が同等であるかもしれない。このような問題を 種々のルールや次元について検討する必要がある。
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最後に、次元とルール(関係)の概念について考察しておく。連鎖注意モデル(House, 1964;
House ら, 1974)では、次元‑の注意とか関係‑の注意というように、いずれも"注意"な いし観察反応としてとらえている。ルールモデル(Bowers, 1976)では、ルールについては"選 釈"という用語を用いているが、やはり注意と類似した概念であると考えられる。このように2
つのモデルでは、次元とルール(関係)が注意という知覚的水準でとらえられている。これに対 して情報処理モデル(Fellows, 1968)では、次元‑の注意に相当するものを刺激処理と名づけ、
関係への注意やル‑ル選択に相当するものを比較・反応方略と名づけている。また、素朴に考え ても、色や形の次元に注意することと、同異関係を抽出し解決のルールを発見することは異なる 水準であり、それに必要な能力も異なるであろう。したがって、次元学習は知覚的水準として、
ルール学習は認知的ないし概念的水準としてとらえるのが妥当であると考えられる。
学習過程の分析
学習研究においては、学習基準の達成までに要した試行数、学習完成者の割合、一定試行内の 正反応数(または誤反応数)などが、学習の測度として用いられてきた。これらは、学習過程で はなく学習の結果に関する情報であるといえる。しかしながら、学習のメカニズムをより明らか にするためには、被験者が学習の過程においてどのような仮説を立て、どんな解決を試みたかと いうことを分析する必要がある。これは学習過程に関する情報であるといえる。 2選択弁別学習
においては、選択反応に基づく blank trials法と言語反応に基づくintrotacts法が考案され、
課題解決の方略(仮説)を分析する有効な方法として利用されてきた(Phillips & Levine, 1975)(
しかし、現在のところ同異学習においては、それらに対応する方法を用いた研究は行われていな い。以下では、同異学習における学習過程を知るために、第1試行の反応、反応系列および逆向 学習曲線に関する研究について紹介する。
第1試行の反応 2選択弁別課題においては、第1試行で正刺激を選択した幼児は負刺激を 選択した者に比べて、弁別学習を速く完成することが示されている(Sugimura & Yasuhara, 1979)c このことは同異課題についても当てはまると考えられる。たとえば、特異課題において 第1試行で特異刺激が選択されて強化が与えられるならば、その後の試行において特異刺激を選 択する傾向があり、したがって学習が速く完成されるであろう。一般的にいって、第1試行での 選択は被験者の刺激偏好性を反映しているので、その選択反応が強化されるか強化されないかは その後の学習に大きな影響を与える。
Gollinら(1967)は3色からなるランダム逆転課題で、同一刺激の数が2つの標準的課題と、
4つの課題(ただし、特異刺激は中央の3つの位置に提示)について、第1試行と第2試行の選 択反応を分析した。第1試行における特異刺激の選択率は、両課題ともに就学前児(2 :ll‑4 :7)53%、幼稚園児(5: 1‑6:8)65%、 2年生(6:8‑8:9)90%であり、年齢と ともに有意に上昇した。特異刺激を選択する期待値は課題4が20%、課題2が33%であるので、
課題4の方が特異刺激への偏好性が大きいといえる。課題2で特異刺激を選んだ就学前児と幼稚 園児のうち66%の者は、第2試行において第1試行と同じ位置の刺激、すなわち同一刺激を選択 したが、課題4では17%の者だけがそのような選択を示した。このことから、学習試行の初期に おいて幼児が示す反応は、同一刺激が多い課題では特異刺激に基づいており、同一刺激が少ない ときには位置に基づいていることが示唆された。
崎田(1980)は幼稚園児(5 : 2‑6 : 2)を用いて、色課題で第1試行における特異刺激の 選択率は、同一刺激が2の課題で56.3^、 5の課題では62.5%であり、有意差がないことを示し
た。しかし期待値との差は前者が23.0%、後者が45.8%であって、同一刺激が多いほど特異刺激 が選択されやすかった。この実験では冗長的特異課題が用いられたが、その学習に要した試行数 は課題2が5.7、課題5が1.7であって、後者の方が明らかに速く学習され、第1試行の選択率と 対応するものであった。
Brown and Lloyd (1971)によれば、色、絵、図形の3課題をこみにしたとき、第1試行にお ける特異刺激の選択率は、 3歳児(平均 5) 6. 、 4歳児(平均4:6)19%、 5歳児(辛 均5.*5)12%、 6歳児(平均616)56%、 7歳児(平均7:7)75^であった。これに対応 する特異学習の完成者は、同じ順に0%、 19%、 56%、 63%、 75%であり、 5歳児以外では2つ の値がほぼ同じであった Brown(1969)は平均7歳1か月児(6 : 4‑7 : 9)を用いて、 1 次元課題(色か形)の特異刺激選択率が60%、 2次元課題(色と形)では20%であることを示し
た。これに対応する基準までに要した試行数は、 12.6と25.6であった。
以上の結果から、第1試行における特異刺激の選択率は年齢、同一刺激数、刺激次元数によっ て影響されることがわかる。年齢については、 Gollinら(1967)の就学前児に比べてBrownand Lloyd (1971)の4、 5歳児がかなり低くなっているという違いはあるが、第1試行における特 異刺激の選択率は年齢とともに増加している。また、同一刺激数が多い場合と次元数が少ない場 合に高い率になっている。第1試行における特異刺激の選択率と特異学習に要した試行数や学習 完成者の割合との問には、大まかな対応関係は認められるが、もっと厳密な両者の比較が必要で ある Gollinら(1967)が行ったような第1試行と第2試行の分析も、学習の初期における被敬 者の反応方略を知るのに役立つと考えられる。
島(1980)は標本比較課題(1次元)の第1試行において、標本と同じ刺激が選択されるか異 なる刺激が選択されるかを調べた。色課題と形課題をこみにしたときの特異(不一致)刺激の選 択率は、 4歳児(平均4:9)31%、 5歳児(平均5 :9)34%、 6歳児(平均6:ID32%で いずれも50%よりも低率であり、年齢差はほとんどなかった。これは、年齢とともに特異刺激の 選択率が増加した特異課題の場合(Brown & Lloyd, 1971; Gollin ら, 1967)とは異なる結果で あった。従来の研究では、水平配列課題(特異課題を含む)と標本比較課題がともに、同異関係 の学習を問題にしているということで、同じものとして扱われてきたが、少なくとも第1試行に おける選択反応からみると、 2つの課題における被験者の方略は異なっていることが示唆される。
水平課題において1つを選択するように教示された場合には、年少児は"同じもの"という仮説 を立てるが、年長になるにつれて"違うもの"という仮説を立てるようになる。これに対して、
標本比較課題において2つの比較刺激のうち1つを選択するように教示された場合には、年少児 も年長児もともに、標本と"同じもの"という仮説をたてやすい。
島(1980)の実験では、一致学習に要した試行数は4歳児20.6、 5歳児12.2、 6歳児9.0であ り、また、不一致学習に要した試行数は同じ順に29.9、 17.0、 13.7であった。全体として一致学 習が容易であり、これは第1試行で同一刺激の選択率が多かったことと対応する.しかし、年齢 が増すにつれて一致学習も不一致学習もともに容易になったことは、第1試行における刺激の選 択とその後の学習とが、特に年少児においては直接に結びついていないことを示唆する。この点 についてはさらに詳細な検討が必要である。なお、 Gollin ら(1967)は、特異刺激が注意喚起機 能をもつために特異学習が促進されることを示唆したが、この考えは標本比較課題には当てはま
子どもにおける同一・差異関係の学習(Ⅱ) i(U!
らない。
反応系列 第1試行だけでなく、何試行かにわたる反応系列を分析することによって、被験 者がどのような仮説(方略)に基づいて反応しているかを知ることができる。 2選択弁別課題に
おける反応系列の分析は、最初はサルの学習過程における誤り要因を同定するために行われた (Harlow, 1950)。その後、弁別学習において被験者が示す仮説行動を調べるために、反応系列 の分析が行われるようになった Harlow の考えを受け継いだLevine (1959)は、 3試行の反 応系列において次の9つの可能な仮説を分類し、その後の研究の基礎を作った。 ①位置偏好、 ② 位置交替、 ③刺激偏好、 ④刺激交替、 ⑤位置の得‑停留・失一移動(win‑stay, lose‑shift)、 ⑥位 置の失一停留・得一移動、 ⑦刺激の得一停留・失一移動または問題解決2 (学習が少なくとも第
2試行で示される)、 ⑧問題解決3 (学習が第3試行で初めて示される)、 ⑨ランダムな反応。
特異課題については、 Moon and Harlow (1955)がサルを用いて分析し、誤り要因として対 象(刺激)移動、報酬対象の固執、無報酬対象の固執などを兄い出した。子どもについては Hill (1965a, 1965b)が最初に試みた。上述の Levine の分類を参考にして、偏好(固執)、
交替、得一停留・失一移動、得一移動・失一停留の4つについて分析した。反応系列を調べて、
試行の70%以上が上の4つのどれか1つに当てはまるとき、その被験者は一貫した方略を示した とみなされた。高さ、色、形が冗長な2刺激(高い灰色のU字形と低いピンクの半円)からなる 2位置のランダム逆転課題が用いられた。最初の研究(1965a)では6歳児について、次の研究
(1965b)では4歳児と6歳児について分析したが、特に明確な結論は得られなかった。
Saravo and Gollin (1969)は4歳児と6歳児に、 3位置の2刺激(事物)ランダム逆転課題 と非反復課題を15試行ずつ与え、その間に示された非解決反応を分析した。この実験では同一被 験者に2つの課題を続けて与えたが、ここでは最初に与えられた課題の結果のみを取り上げた。
逆転課題における対象固執と対象の得一停留・失一移動、および2つの課題における位置固執と 位置の得一停留・失一移動のすべてについて、 6歳児よりも4歳児の反応数が多かった。その中 でも位置の得一停留・失一移動における年齢差が最も大きかった。また、全体的にみて固執反応 の方が得一停留・失一移動反応よりも多く、両者の差は6歳児の位置に関して最も大きかった。
Croll (1970)は平均56.5か月(4 : 3)の幼児を用い、 3位置の2刺激ランダム逆転 課題における反応方略を6試行ごとのブロックについて、次の7つに分類した。特異反応、刺激 固執、位置固執、刺激交番、位置回転(右一中一左またはその逆)、位置の得一停留・失一移動、
刺激の得一停留・失一移動。大きさ(大、小)、形(円、四角)、明暗(白、黒)のいずれか1つ からなる課題、 2つの次元が冗長な刺激(例:白い円と黒い四角)からなる課題、および3つの 次元が冗長な刺激からなる課題が用いられた。これらをこみにしたとき、刺激固執を示す者が12 ブロックを通じて60人中27.8名であって最も多く、次に特異反応を示す者が6.1名で、他の方略 を示す者はわずかであった。なお、最終ブロックでは刺激固執28名、特異反応8名であった。こ のように、 4、 5歳児で特異学習が困難なのは、主として特定刺激への固執反応によるものであ
った。特異学習が困難な原因についてCrollは、誤方略を排棄して新しい方略がテストされない ためか、または特異方略が方略の階層で低い水準にあってテストされないためであると考えた。
そして、特異学習を促進するのには(a)誤方略の生起を最少限にすること、 (b)試行の初期において 特異方略が利用される確率を高めることが必要とされ、たとえば、試行の初期で強制的に特異刺 激を選択させる方法が示唆された。
最後に、丸野(1978)は5歳児を用いて、先に述べた概念的特異課題と知覚的特異課題におけ
る反応方略を、 Croll (1970)と同じ仕方で同定した。ただし、 1ブロック5試行とし、その中で 3試行以上について被験者が用いた方略を、そのブロックで優勢な方略と判定した。原学習では 課題差があまりなく、第1ブロックでは特異方略の次に位置交替が多く、ブロックが増すにつれ て特異方略は増加し、他の方略が減少した。転移では、最初の2ブロックにおいて特異方略の出 現率に条件差がみられた。第1ブロックについてみると、知覚一概念転移80%、概念一概念転移 70%、概念一知覚転移60%、知覚一知覚転移35%であり、最後の転移条件では65%の者が特異方 略以外の方略を用いていた。次に、初期の試行において特異方略を用いなかった者について、特 異方略を利用し始める直前の試行ブロックにおける方略を調べた。出現率が多いものをあげてみ ると、原学習では刺激固執42%、位置交替23%、刺激交替17%であり、転移では上の3つの方略 のいずれも24%、位置固執が15%であった。
以上の研究からもわかるように、誤り要因を分析するという立場から、被験者が学習過程にお いて採用する仮説を分析するという立場へと、研究のねらいが変化してきたが、この種の研究は 学習過程に関して有益な情報を提供している。同異関係の学習過程をさらに明確にするためには 年齢による変化を調べるだけでなく、刺激や課題、前訓練や教示などが、方略にどのような影響 をもつかを検討する必要がある。さらに、これまで兄い出されてきたもの以外の方略はないのか、
また、被験者自身が本当に何を手がかりとして学習しているかということも、問題にしなくては ならない。そのためには、これまでの分析方法に加えてblank trials法を考案したり、単に選択 反応だけでなく言語反応についても詳細に分析する必要がある。言語反応の分析はmtrotacts法
と関係するものであり、これについては次節で述べることにする。
逆向学習曲線 問題解決における試行鍍誤説と洞察説の論争は、弁別学習における連続説と 非連続説に受け継がれ、その後は学習過程が漸増型か急激型かという研究に発展した。学習過程
が漸増的か急激的かは、逆向学習曲線を描くことによって知ることができる。これは、各被験者 が学習基準に達成した試行からさかのぼって各試行の正誤の反応を調べ、群としての正反応(誤 反応)率を描いたものである。基準達成試行までの正反応が徐々に増加していれば漸増的であり、
直前までほぼ期待値(2選択なら50%)に近い値ならば急激的であると判定される。
Hill (1965a)は6歳児について、高い灰色のU字形と低いピンクの半円からなる2位置ラン ダム逆転課題の逆向学習曲線を措いた。学習基準達成までの試行数(20以下、 20‑40、 40‑60 など)によって被験者を分けてみると、速学習者(40試行以下)の学習曲線は急上昇を示し、遅 学習者の場合は2つの部分があることが分かった。 1つばチャンス・レベルの部分であって、こ の長さは基準達成試行数にほぼ比例しており、もう1つは急上昇する部分であった。この結果に ついて、被験者が問題解決を促進する一貫した反応傾向を形成し、それを適切な手がかりに適用 するときに急激な解決が生じるが、反応傾向が不適切な手がかりに通用されている限りは、成績
はチャンス・レベルのままであると解釈した。
Levin and Maurer (1969)は平均71.6か月(5 : 5‑6 : 5)の幼児について、図形の標本 比較課題における一致反応の逆向学習曲線を調べた。学習基準達成までに4試行以上を要した者 16名の解決前の正答率はチャンス・レベルの近辺にあり、また、解決前における正反応または誤 反応の連の長さを調べてみると、ほとんどが1か2であった。解決直前の4試行について、 16名 車11名が組織的な反応をしており、そのうち6名が位置交番、 2名がその他の位置反応、 3名が 刺激偏好を示した。以上の結果から、一致課題の解決はチャンスから完全な解決へと急激に移行 し、解決前は主として位置仮説を採用していると結論した。
子どもにおける同一・差異関係の学習(n)
201
Scott (1964)はMA4‑6歳の精神遅滞児に、 2位置の2刺激(図形)課題を学習させ、一 致反応も特異反応も類似した逆向学習曲線を描くことを兄い出した。しかし、この場合は試行ご とではなく、 1日につき40試行について正答率で示したものであった。島(1980)は、標本比較 課題における一致反応と不一致反応の学習過程を比較した。年齢(4‑6歳)および課題(色と 形)をこみにして、解決前の5試行について逆向学習曲線を描くと、一致反応も不一致反応もと もに正答率は50%から60%の間にあった。また、ルールを変化させた転移においては、一致一不 一致転移の場合は52%から70%に、不一致一一致転移の場合は59%から79%に上昇した。この
ように一致課題と不一致課題はよく似た学習過程をたどるが、原学習は急激的であるのに対して、
転移ではむしろ漸増的な傾向を示したO後者ではルールの変化に気づけば急激的な解決が生じる と考えられるが、この年齢の子どもでは原学習のルールに固執するために、徐々に正反応が増加 したものと考えられた。
以上の諸研究から、水平配列課題も標本比較課題もともに、逆向学習曲線によって判定する限 りは急激的な学習過程を示した。ただし、標本比較課題の転移については漸増的な傾向が認めら れた。しかしながら、逆向学習曲線は全体としての正答率(誤答率)を示すものであるので、各 被験者の学習過程が急激的かまたは漸増的であることを意味するものではない。それ故、このよ
うな方法よりも個人ごとに反応系列を分析して、急激的か漸増的かを判定する方がよいかもしれ ない Osier and Five! (1961)は概念学習の過程を分析して、基準達成まで徐々に正反応が増 加する者と、基準達成の直前で急激に増加する者がいることを兄い出した。同異学習においても
このような分析が可能である。
言語反応の検討
記憶の研究においては言語反応を求める場合が多いが、同異課題を学習させるのには提示され た刺激に対して指示または選択反応を求める。一般に幼児の学習研究においては、非言語的な選 択反応に基づいて、学習が成立して課題が解決されたと判定され、言語反応は軽視されてきた。
普通は学習完成後に内省報告という形で言語反応が求められ、それはあくまでも補助的な資料と して報告されるにすぎなかった。したがって、選択反応と言語反応のずれがあれば、選択反応の 方が優先されてきた。本研究では、同異学習の過程を明らかにするためには、言語反応にも選択 反応と同等の価値を与え、その内容を詳細に分析する必要があるという立場から、関連する従来 の研究について述べることにする。
選択反応と言語反応のずれ 選択反応が言語反応によって媒介されると仮定する言語媒介説 (Kendler & Kendler, 1962, 1968)は、解決のルールについて正しい言語反応ができると予想 し、言語媒介を仮定しない注意説(Zeaman & House, 1963)は、そのような言語反応を予想し ない。これらの理論とは別に、同異関係が言語的、概念的な水準で学習されるものであるならば 解決のル‑ルが言語的に正しく述べられない限り、本当の意味での同異学習ができたとはいえな いと考えることもできる。
Scott (1964)はMA4‑6歳の精神遅滞児に、 2位置の2刺激課題を学習させたあとで、課題 に用いられた2つのセット(AAB, ABB)を提示し、実験者が中央の刺激を指さしながら、
"どちらがこれと同じか"、 "どちらがこれと違うか"という質問をしたO 同一学習と特異学習 の成績はほぼ同じであったが、同一学習で"同じ"の正答率は92%、 "違う"の正答率は36%で
あり、特異学習では86%と33%であった。また、学習完成者では"同じ"が95%、"違う"が45
%であり、学習末完成者では同じ順に92%と23%であった。この研究は実際の言語反応を求めた ものではないが、選択反応による成績と言語的知識との間にかなりのずれが見られ、また言語的 知識によって学習完成者と末完成者が区別できなかった。これらの結果は注意説(Zeaman &
House, 1963)を支持するものと解釈された。
選択反応を測度としたときには学習が完成したとみられる者でも、解決ルールに関する言語反 応が伴わない者がいることは、その後のいくつかの研究によって兄い出されている Saravoand Gollin (1969)は4歳児と6歳児に、事物(junk)の非反復課題(15試行)から2刺激ランダ ム逆転課題(15試行)への転移か、あるいはその道の転移を行った。そのあとで、 "キャンデ‑
(報酬)があるところを、どのようにして知ったか。それはいっもどこにあったが'と質問した。
その結果、 6歳児では53%が解決のル‑ルを述べることができ、 4歳児ではわずかに2名であっ た。言語反応ができなかった6歳児でも特異課題が解決できたことから、言語能力は課題解決の 必要条件ではないと結論した。
Brown and Lloyd (1971)は特異学習について、選択反応による道具的基準と言語反応による 言語的基準の達成率を発達的に検討した。幾何図形、色、または事例の絵からなる3位置の3刺 激ランダム逆転課題を用い、連続6回正反応の道具的基準に達したあとで、次のような言語的基 準の査定をした。 3つの同じ刺激(車、車、車)または異なる刺激(赤、青、黄)を提示して反 応を求め、被験者が解決できないと言ったり、または1つの刺激を選択し続けた場合に、実験者 がその理由をたずねた。どちらにおいても、特異性の理解を示す言語反応を示したならば、言語 基準を達成したとみなした。 2つの基準の達成者は年齢(3歳‑7歳)とともに増加したが、道 具的基準では5歳で、言語的基準では6歳で大部分の者が基準に達したので、 2つの基準の問に 約1年のずれがあった。
Scott (1973a)は3、 4歳児に、家具や玩具からなる3位置非反復課題を学習させ、ついで新 しいセットでの転移を行ったあとで、"キャンデー(報酬)がかくされていたところをどうして 知ったか"と質問した。転移が完成して関係概念を習得したとみなせる3歳児7名と4歳児7名 のうち、正しい言語反応ができたのはそれぞれ1名だけであった。このことから、特異概念の言 語化が解決に対する必要条件ではないと主張した。 Scott ら(1978)は3‑5歳児に、絵を用い た2種類の標本比較課題を学習させてから、条件的課題に転移し、そのあとで言語反応を求めた。
この研究でも、解決ルールの言語化に基づいて学習者と末学習者を区別することができなかった。
また、 Brown and Scott (1972)は3、 4歳児を用いて、同一課題から特異課題または小課題へ へ、大課題から特異課題または小課題へ転移した。学習基準に達したあとで、 "どれが賞を得た もの(winner)であったか"、 "これはなぜ賞を得たものでTilかったが'などと質問し、適当な答 えが出るまでか、または拒否するまで質問を続けた。特異課題で正しい解決ルールを言えた者は
3歳児29.7%、 4歳児45%であり、大きさの課題では81%と91%であった。
以上のような結果に基づいてHouse ら(1974)は、解決ルールの言語化は解決の必要条件で はなく、言語ラベルの利用は同異課題の学習において本質的な要因ではないとし、言語媒介説 (Kendler & Kendler, 1962, 1968)に対して否定的な結論を下した。この結論は正しいかもし れないが、次のような立場をとることも可能である。一般的にいって媒介説の立場では、言語反 応は独立変数(刺激)と依存変数(選択反応)の間に介在する仲介変数であると仮定されている。
この仮定が正しいならば、選択反応に言語反応が伴わないという現象は、 Houseら(1974)のよ
子どもにおける同一・差異関係の学習(n) 203
うな結論をもたらすであろう。しかしながら、言語反応も選択反応と同様に依存変数の1つであ ると考えることができる。従来の研究では、学習基準に達したあとで選択理由を言わせているの で、その理由によって選択反応が媒介されていると考えられがちであった。しかし、後に述べる ように、各試行について選択反応とともに言語反応を行わせることもできる。この場合の言語反 応は明らかに依存変数であるといえる。
選択反応と言語反応のくいちがいについては、幼児は内省能力が乏しいので選択反応の方が正 しく、言語反応は信用できないという考えが強かった。このような言語反応に価値をおかない考 え方は、幼児の学習研究が動物実験から発展したこと、および行動主義の影響によるものであろ う。しかし今後の研究においては、言語反応にも選択反応と同等の価値をおき、言語反応から推 測される学習過程と選択反応から推測される学習過程を独立に分析したり、あるいは相互に関連 させて検討することが大切である。弁別学習の方略分析においては、選択反応に基づく blank trials 法と言語反応に基づくintrotacts 法が用いられており(Philips & Levine, 1975)、最 近では幼児についてもintrotacts法が可能であることが示されている(Cantor & Spiker, 1978;
Spiker & Cantor, 1977)。このような研究からみても、幼児の学習研究において言語反応が重視 されるようになってきたといえる。
言語反応の内容 言語反応を依存変数として取り扱い、その内容を分析することによって同 異学習の過程や方略をより明確にすることができる Gollinら(1967)は幼稚園児と2年生につ いて、言語反応を詳細に分析した。 3色からなる3位置ランダム逆転課題で、同一刺激が2つの 課題を連続して学習させる場合と、それが4から2‑変わる場合を作り、最後に"どれが正しい 塞(刺激)であるかをどのようにして知ったか"と質問した。その結果、幼稚園児の大部分は
"いっも1つのもの"というように数だけを言うか、または"2つか同じ色で1つちがう色"と いうように数と同一・差異の両方を言い、2年生の大部分は、 "色がちがう"というように同一・
差異の概念だけを言った。そして、幼稚園児は2年生に比べて数だけの言語化が多かった。この ことからGollin らは、選択反応では同じであっても、幼稚園児と2年生とでは異なる方略を採 用していることを示唆した。
先に述べたSaravo and Gollin (1969)は、通常の言語反応を求めたあとで、課題に用いなか った2つの異なる刺激を机の上に置き、その1つと同じ刺激を手に持ち、それと"同じものけ、
"違うもの"、 "同じでないもの"を机上の2刺激について指摘させた。 6歳児はほとんど完全に正 しく指摘できたが、 4歳児は6歳児に比べて"同じでないもの"と"違うもの:'の成績が悪かっ た。また、道具的基準と言語的基準を比較したBrown and Lloyd (1971)は、言語反応の内容 を分析して次の結果を得た。 2つの同一刺激を指さして"これら2つば同じ"という反応を示し た者は、 4、 5歳児75%、 6歳児42%、 7歳児8%であり、特異刺激を指さして"これが違う"
という反応をした者は、同じ臓に0%、 37%、68%であった。これは、 4歳児で"違うもの"の 成績が惑いという Saravo and Gollin (1969)と一致しており、選択反応でみた場合には同じよ うに特異学習が完成していても、言語反応は年齢が増すにつれて"同じ"から"違う"へと変化 している。この変化は、 Gollin ら(1967)が示唆したように、特異学習における方略が年齢によ って異なることを示すものである。
Small (1970)は幼稚園児と1年生を用いて、適切次元(色)の刺激値が2と4の3位置ラン ダム逆転課題を学習させ、そのあとで…ゲームの秘密"について言わせた。大部分の者は…違っ た色のもの"とか"一致しなかったもの"と言い、 "特異(odd)なもの"ということばを用いた
者は1人もいなかった。これは、特異ということばが子どもにとってなじみがないことによるの かもしれない。この研究では言語反応を求める具体的な教示が示されていないが、学習基準に達 した者はすべて正しい言語反応をしたと報告されている点で、従来の多くの研究とは異なってい る。その原因は明らかでないが、従来の研究よりも学習基準が厳格であったこと(連続12回正反 応)や、従来の研究のように転移を行っていないことがあげられる。また、解決ルールが言える かどうかは、それを求める方法にも依存していると考えられる。
言語反応を求める方法について、 Blank (1975)は次のような興味ある研究を行った。 3 : 5 から4 : 6の幼児に2選択弁別課題を10回申9回正反応まで学習させ、そのあとで、弁別刺激を 呈示するか呈示しないか、 "which"で質問するか"how"と"why"で質問するかを組み合わせ て4群を作った。その結果、刺激を呈示せずに"which one had the candy?"と質問した場合 には62.5^の者が、さらに"tell me which one"とつけ加えると81.3%の者が正しい言語反応 をした。これに対して、刺激を呈示せずに"How did you know which one had the candy?"
と質問した場合には0%、そして"Why did you pick the one youdid?"とつけ加えたときで さえも18.8%にすぎなかった。なお、刺激を呈示した場合には"which"質問でもわずか6.3%で あった。以上のように、言語反応を多く引き出すのには、刺激を呈示せずに"which"質問をす ればよいことを示した。この結果がそのまま同異学習に当てはまらないかもしれないが、これま で紹介してきた研究の多くは、 "how"または"why"質問を用いている点に留意しなくてはなら ない。
井原(1980a)は、 5、 6歳児の特異学習における言語反応が、質問の仕方によってどのよう に異なるかを調べた。 3色または3形からなる1次元の3位置ランダム逆転課題か、 3色3形か らなる2次元課題を、連続10回正反応の基準まで学習させたあとで、次の2つの仕方で言語反応 を求めた。 ①刺激カードを呈示せずに"なにが当たり(正答)だったか話してちょうだい"0 ② 最終試行に用いた刺激カードを呈示して、 "どれが当たりだったの。 (被験者が特異刺激を指さし たら)どうしてこれが当たりだったか話してちょうだい"。 このようにして得られた言語反応は 連鎖注意モデル(House ら、 1974)とル‑ルモデル(Bowers, 1976)によって仮定されている
2種の注意の過程を考慮して、次のように分類された。 ①次元に関するもの:色、赤と青と黄、
形、四角と三角と丸など。 ②関係に関するもの:違う、仲間はずれ、これは同じでこれは違う、
1つだけ、 2つばはずれ、これとこれは2つでこれは1つなど。 ③次元+関係に関するもの(2 次元課題のみ) :違う色(形)、仲間はずれの色(形)、これとこれは同じ色(形)でこれは違う 色(形)、この色(形) 1つだけ、丸と丸が2つで四角が1つなど。④その他:無答、わからな い、どうしてもなど。
1次元課題においては、 1回目の質問で次元50.0%、関係33.3^、その他16.7%であり、 2回 目では同じ順に0%、 83.3%、 16.7%であった。 2次元課題においては、 1回日の質問で次元 35.7%、関係7.1%、次元と関係28、8%、その他28.5%であり、 2回目では同じ順に7.1%、 50.0
%、 35.9%、7.1%であった。 2つの課題ともに、刺激がないとき(1回目)には次元が関係よ りも多いが、刺激を呈示したとき(2回目)には関係の方が多くなり、質問の仕方によって言語 反応の内容が変化した。従来の研究においては、この研究でいう関係および次元+関係の反応が 正しいものとされてきたが、質問の仕方によってはその割合はかなり変動する。たとえば、 2次 元課題において関係および次元+関係の出現率をみると、 1回目は35.9%にすぎないが2回目 では85.9%に増加した.刺激呈示については Blank (1975)と逆の結果が得られたが、今後の