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組織行動と個人的システム : 「仕事への動機づけ 」理論に関する考察

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(1)

組織行動と個人的システム : 「仕事への動機づけ

」理論に関する考察

その他のタイトル Organizational Behavior and the Individual System : Comparative Inquiry about Work Motivation Theories

著者 岡田 至雄

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 15

号 2

ページ 163‑193

発行年 1984‑03‑28

URL http://hdl.handle.net/10112/00022760

(2)

‑ ‑ 「 仕 事 へ の 動 機 づ け 」 理 論 に 関 す る 考 察 ―

岡 田 至

は し が き

組織行動を分析・理解・予測・コントロールするために,「組織の要求→組織行動→組織の目 標達成」という因果の中で,重要な理論的含蓄を内蔵したモデルが,企業の基幹的プロセス・条 件の推移や,全体社会の経済的・政治的・イデオロギー的・文化的環境の変化と連動しつつ,多 角的に模索されてきた。概括的にみれば,組織行動は,組織の内体系と外体系による二元的影警 を受けながら,ダイナミックに形成され,展開される。なかでも,組織の内体系を閉鎖系として 便宜上考えた場合,それを構成する個人的システム,組織構造システム,社会集団的システム の三体系が,組織行動の重要な作用要因となることは明白である。

本稿は,特に,組織行動と個人的システムとの絡みを,仕事への動機づけ

(workmotivation) 

という観点から,多発する理論モデルの検討を通じて,解明することを狙っている。ここで仕事

(work)

とは,課業

(task),

役割

(role),

責 任

(responsibility),

義務

(obligation),

誘因

(incentive), 

報 酬

(rewards),

権限

(authority)

などの属性が複合的に統合された生産活動 の単位を指し,組織の究極的目標を達成するために,組織成員に個別に配分される活動内容を意 味している。一般に,企業における組織行動は,組織行動としての仕事を組織成員が的確かつ能 率的に遂行するための真正要因を「行動には動機がある」という最簡命題に基づいて,多角的に 研究されてきた。人間を仕事に駆り立てる心理学的力,とりわけ動因・要求・衝動・願望などの 複合形態である動機づけについての理解を深め,その生成過程を究明し,動機づけに影響を及ぽ す真正要因を解明することによって,組織行動と個人的システムの最適均衡を達成するという実 践的課題が,これらの研究の根底には絶えず内在してきた。しかし,結果的にみれば,これらの 研究成果は,行動を単一の因果関係によって説明することの難しさを浮彫りにし,特定の状況の 中で行動の過程に介在する作用要因や容疑要因の多様性,「動機づけ→組織行動」の状況規定性

・環境随伴性と灰色説明要因の雑多性,さらに緩和効果要因の多元的介在 などを白日のもとに 曝すことになり,動機づけのメカニズムやフ゜ロセスの多元的輻射性を鮮明化すると同時に,組織 行動に対するアプローチの奥深さと難解さを示唆することに帰着した。しかし,ここで重要なこ

‑163‑

(3)

関西大学「社会学部紀要』第15巻第2

とは,組織行動を解明するにあたって,絶対不可避の分析局面の一つが,組織成員の動機づけ問 題であるという事実である。この紛れもない事実を碇泊点として,本論文は,組織行動への動機 づけのメカニズムやプロセスについて,現在までに展開されてきた諸種の理論に遡求しながら,

その問題点を吟味することを意図している。

1. 

動 機 づ け 問 題 に 対 す る 分 析 視 点

技術革新と高度工業化,経営の合理化,組織の官僚制化,労使関係の民主化・協調化,産業民

主主義の進展,加えて労働者の生活文化•生活構造の変貌などが始動要因となって,企業におけ

る人間の問題が重大関心事として表面化してきたのが,

1960

年代初期である。その意味ではハー バート,

(T.T. Herbert)の「1960

年代は, 組織状況の中での人間の行動

(humanbehavior  in organized settings)に関する研究と理論が新時代に突入した」!)という指摘も頷ける。最小 費用•最大利益という鉄理を実現するために,経営工学や生産工学の鋭知を集約し,仕事の合理

化を徹底的に推進した結果が,意外にも重要な人間的変数の看過・無視と,必ずしも有効な組織 システムとして作動しないという予期せざる逆機能現象を招き,改めて組織の指導原理となる合 理性の本性が問題とされることになった。換言すれば,細分化され,断片化され,巧みに工学的 に設計された能率的であるはずの仕事に,人間性が欠落し,仕事をする人間に関する仮想的理念 が不合理で,非論理的であったことに対する反動が

1960

年代に急騰したというわけである。この ような動向の中で, 「仕事への動機づけ」に関心が向けられ,実践的課題解決という含みをもち つつ,人間科学的に有効な理論モデルヘの模索が本格化してきた。

仕事への動機づけに関する理論は,その発想あるいは着眼点の相異により,内容モデルとプロ セスモデルの二方向に分岐して展開された

2)

。 内容モデルとは,人を仕事に駆り立てるものは何 かを決定しようと試み,いわば,人間のニード・動因・願望の内容を確定し,それらを序列化す るという方法で動機づけ問題に迫る立場を総称している

3)

。 したがって,このモデルは人間の満 足源や目標のタイプとの関係で仕事への動機づけを解明することになる。他方,プロセスモデル とは,動機づけに当って入り込んでくる変数,およびその変数間にどのような関係があるのかと いった問題に関心を払い,動機づけの力学的な心理的メカニズムにスボットを当てる立場を指 す

4)

。 内容モデルが,仕事に動機づけるものを確定しようとしているのに対し,プロセスモデル .  .  .  .  .  . 

は,動機づけのプロセスと構造を解明することを目指している。その意味で,前者は過度の一般 化がなされるという雉点はあるものの,企業における動機づけ問題の解決に実践的に適用できる モデルとしての性格を持つのに対し,後者は動機づけの複雑さを理解し,分析するモデルとして は卓越しているものの,動機づけ問題を実践的に解決するという点では,難解であまり速効薬的

1) T. T. Herbert, Dimensions of Organizational Behavior, 1981, p.  20.  2) F.  Luthans, Organizational Behavior, 1981, p. 176. 

3) ibid., p. 177.  4) ibid., p. 186. 

‑164‑

(4)

に有効性を期待できるモデルではない。

両者の特徴を概括すれば,まず内容モデルに共通する点は

( 1 )   すべての従業員は同質

(alike)であり,ある程度同一の誘因によって動機づけられる。

( 2 )   すべての状況は一様

(alike)

であって,経営者が策定する動機問題の戦略の的確性は,そ れが適用される状況の特殊性とは無関係である。

( 3 )   従業員の動機づけ問題を解決するための唯一最善策

(onebest way)

が存在する。

という仮想命題を,程度の差こそあれ,モデル構築の礎石にしていることである。

他方,プロセスモデルは

( 1 )   行動は,個人の心理学的力

(forces)と環境的力の組み合せによって複合的に決定される。

( 2 )   人間は,組織内での自己の行動についての意思決定をする。その際,決定は成員としての 行動

(membershipbehavior)

と仕事遂行努力

(effort)

の二つのカテゴリーに左右され る 。

( 3 )   人間は,各自,相異なるニード,願望,目標をもっている。すべての人間が同一の報酬に 対して等価の値ぶみをするわけではない。

( 4 )   人間は,特定の行動が自己の望む報酬にどの程度結びつくかについての認知(期待)をベ ースにして,諸種の行動代替案の中から特定の行動を選択する。

という仮想命題に基づいて動機づけのプロセスの解明に当る

5)

すなわち,内容モデルは,個人差や状況の差に係わりなく,単純明晰な解決策が実在するとい う前提に立って,動機づけの決定因子を確定すべく企図するのに対し,プロセスモデルは,この 内容モデルの非現実性・不毛性を鋭く批判しつつ,個人差や状況の多様性を是認した上で,動機 づけの状況規定性や環境随伴性を強調し,柔軟性のある解決策を想定する。したがって,マクロ にみれば,前者は短期的な動機戦略として速効的効用を望む場合には有効であるが,長期的見通

しのもとに動機問題に取り組もうとする場合にはその有効性に疑義が生じる。一方,後者は動機 づけのプロセスを現実型としてダイナミックに把握するためには有効であるが,反面,実践的戦 略という点から評価するとそれには不向きという誹を免れえない。

2. 

内 容 モ デ ル の 概 観 と 展 開

内容モデルは,人間は何のために働くのかという問題に対する解答を暗示している。このモデ ルの類例として,科学的管理,人間関係論, リーダーシップ論,欲求階層論,二要因理論,目標

管理などは素より,最近になって話題を集めている J•E 構想 (Job Enrichment Plan)

を枚 挙できるが,これらは動機づけ問題に対する実践的解決法を示唆し,各々,独自の労働者観に基 づいて構築されている。以下,具体的に内容モデルの代表例について,その概略を吟味・検討し

5) J. R. Hackman, E. E. Lawler Ill L. W. Porter (eds), Perspectives on Behavior in Organi

zation,  1977,  pp. 2638. 

‑165‑

(5)

関西大学「社会学部紀要」第15巻第2

てみよう。

(a) 

テーラー・モデル

テーラー

(F.W. Taylor)

の科学的管理

(scientificmanagement)6>

は ,

1930

年代前半のわ が国の産業合理化運動において,中枢的役割を演じてきた。その特質は,高賃金と低労務費の同 時的実現を目指して,生産・作業過程を生産工学的に合理化し,生産活動の構成要素である人間

・組織・機械・技術の完全なる融和を促進する経営工学的組織化を模索した点にある。科学的管 理は,最善の管理形態の理念的礎石として高賃金と低労務費の同時実現を提唱し,この目的を達 成するための一般原則およびその具体的手段を吟味することを目指した

7)

。 そして,高賃金と 低労務費を兼備する管理とは

(a)

多めの日課割当

(alarge daily task)  (b)

作業条件の標準化

(standard conditions) (c)

成功に対して高い報酬を支払う

(highpay for success) (d)

失敗 に対して損失を負担さす

(lossin  case of  failure)  (e)

課業は最も優秀な労働者でなくては達 成できないくらい難しいものでなくてはならない という

5

原則によって達成される

8)

とテーラ ーは推断し,この原則を実現するために,時間ー動作研究,差別出来高給,職能的第一線監督者 制度,標準化といった具体的施策を考案したわけである。テーラー流に評言すれば,科学的管理 は「経営・管理の目的は労使双方に恒久的な繁栄をもたらすことにある」

9)

という鉄則を遵守する 管理方式であり,そのために最大の能率と最高の生産性を至上目標とした管理機構についてのモ デルに他ならない。

このモデルの底意には,高い生産性→高い利益→高い賃金→労働者の満足→高い能率への動機 づけ→高い生産性→……という循環回路に対する絶対的確信が見受けられる。一般的通念からみ れば,高い生産性を実現するための組織構造上の要件(とりわけ仕事・職務・課業の非人格化・

部品化・非個性化)と,仕事への積極的動機づけを誘発する内容要因との間には克服しがたい対 立がある。しかし,科学的管理が措定する人間像は, ( 1 ) 私利私欲に敏感な経済的人間 ( 2 )   人 間は怠け癖をもち,仕事に専心没頭するというよりは,適度に息抜きをしながら仕事をする と いう骨子で固められているために, これとの絡みで,金銭的報酬の如何によって人は仕事に最 大限の努力を払い,仕事への動機づけは高い賃金に依存するという指導原理が演繹され,高い生 産性と仕事への積極的な動機づけとの間に生じる矛盾や障害は払拭されることになる。テーラー が,労働者の満足や幸福はもとより,仕事への動機づけに対する意義ある真正要因とみなしたも のは経済的報酬のみであったから,循環回路は差別出来高給

(differentiatepiece rate system) 

を導入することで,形式的には円滑に作動することになる。したがって,もしここで仮定された 真正要因が,単なる容疑要因の一つに過ぎないということになれば,この回路は完全に短絡し,

6) F. W. Taylor, Shop Management, 1903.  7) ibid.,  p. 22. 

8) ibid.,  p. 63. 

9) F. W. Taylor, The Principles of Scientific Management, 1911, p. 9. 

‑166‑

(6)

作動停止するわけである。この回路の中で,検討課題となる回線は, ( 1 ) 高い賃金→労働者の満 足→積極的動機づけのラインと ( 2 )   積極的動機づけ→高い生産性のフィード・フォワード・ラ イン の妥当性である。

科学的管理の真価を吟味するに当っては,その発生基盤を見逃がしてはならない。テーラーが 科学的管理論を公表したのは,ローントリー

CB.S. Rowntree)

が「貧困:市民生活の研究」

1901

年)で絶対的窮乏を問題にし,いわゆる「貧乏線」が社会的関心を集めていた時代である。一方

に大量失業が慢性化し,他方では貧窮に悩む大量の労働者が低賃金と低劣な労働条件の下で働く という情勢の中で,貧困が社会的に必然化していた時期なのである。このような背景との絡みで,

テーラーの「動機づけ」回線を見る時,その妥当性は十分に容認できる。つまり,当時は,金銭 的誘因が,動機づけに対する最優先作用要因であり,主導的役割を果したものと推断できよう。

しかし,この回線を高度工業化社会に適用するとなると,多くの疑義が出てくることは否めない。

次にフィード・フォワード

(feedforward)

回線については(内容モデル全般の問題点であ るが)「ニードの充足」が「生産性向上」に一次的に連動するという構図,いわゆる

PetMilk

キ ャンペーンの真理性・正当性が問われよう。「PetMilkは満足している乳牛からとったものだ から,良い牛乳なのだ」

(PetMilk

社の宣伝クレーム)という発想,すなわち「満足している労 働者は,能率的で生産的なのだ」という命題の有効性が問題なのである。この点については,あ る種のニードの充足は動機づけに有効であり,生産性向上にも有効であるが,この構図があらゆ る状況,あらゆる人間に普遍的に通用するものではないという通説もある。しかし,科学的管理 の回路は, 「高い生産性」を始発点に置き, これを基軸にしてすべての企業行動の分析を科学的 に行うという戦略であるから, 「満足が達成を生む」というよりも「達成が満足を産む」という 考え方が,その底意には見受けられる。その意味では人間関係論の動機づけモデルとは対照的で ある。

( b )   人間関係論モデル

メーヨー

(E.Mayo)

を中心とするハーバード大学の研究員グループによるホーソン実験

(Hawthorne experiment)は

1940

年代以降の動機づけ理論および実践に重大な役割を演じ,

10)

企業経営に「人間関係」

CH.R)

というコトバを定着させることになった。

H.R

と モ ラ ー ル

(morale)

という戦略概念に支えられた人間関係論

(HumanRelations Approach)

は ,

1930

年代に登場し,わが国でも

1950

年代に関心を呼び,

1950

年代の後半にかけて企業の人事管理担当 者を悩殺し,大流行したが,

1960

年代になってその効果が疑われ,後半には一時の勢いも衰退し ていった。しかし,このモデルの与えたインパクトは強く,その後も有力な動機づけ戦略の一翼 を荷いつつ,現在でもなお躍動している。

10) E. Mayo, The Human problems of an Industrial Civilization,  1933.  The Social Problems of an Industial Civilization,  1945. 

F. 

J .  

Rothlisberger W. J. Dickson, Management and the Worker, 1947. 

‑167‑

(7)

関西大学『社会学部紀要」第15巻第2

人間関係論は, 数多くの実証的研究(有名なホーソン実験, その他にも織物工場の離職の研 究,軍需工場の欠勤闘争の研究,飛行機工場の労働移動の研究,など)に基づいて,組織行動を 規定するメカニズムとして, 技術的環境

(technicalorganization), 

個人的システム, フォー マル組織,インフォーマル組織の

4

要因のダイナミックな相互関係を指摘した

11)

のであるが,特 に,仕事への動機づけやモラール形成に人間的欲求や人間の情緒的・非合理的側面の果す役割の 重要性を実証的に解明したことが衆目を集めることとなった。すなわち,組織内の従業員は,自 己の立場との関係で自己を評価すると同時に,他の従業員によって評価される。また,従業員は,

自己の立場(境遇)や自己の置かれている状況がどの程度自己の願望や野望を充足できるかによ って,その立場や状況を評価するが,この評価のプロセスには仕事内容や経済的・社会的欲求の みならず,同僚・上役・経営者との人間関係が介在し,インフォーマル組織の信念体系である情 感の論理

(logicof sentiments)

が重要な役割を演じることを究明した

12)

。その際,企業を幻 惑したのは,労働者の非経済的・社会的・感情的ニードの充足→高い生産性→高い利益という因 果構図の下にインフォーマル組織の果す役割を重視・強調したこと,つまり,職場集団に発生し ていた

4

つの掟

(informalnorm)13l

が,能率とコストの論理に逆行する遮断機能を演じていた という事実から,生産性の向上に集団的圧力が,あるいはインフォーマル組織が重大な影響力を もつと結論づけた点にある。しかし,この証例から「人間関係やインフォーマル組織こそ生産性 向上や仕事への積極的な動機づけの決め手である」という警旬を演繹するには無理がある。人間 関係のレベルでの遮断機の開閉と生産性・動機づけとの間に直線的因果を想定することは難しい。

このレベルでの遮断機の開閉は,ハーズバーグの衛生要因にインパクトを与えるわけで,積極的 な動機づけに向けての開門に係わる。その意味で,人間関係やインフォーマルグループを好転さ せることは,戟極的な動機づけに向けて発進するための発射台の一部が完成したことを示唆する に過ぎない。人間関係論学派は,従来の機械論的人間観を排撃する上で重要な役割を演じたが,

仕事への積極的動機づけを専ら人間関係やインフォーマルグループに焦点を当てて考え,それが あくまでも仕事や職務を中心にして考究されるべきことを看過したために

14),

その囚果構図は,

出発点において重大な誤ちを犯し,結果的に知的貧困さ

(intellectualaridity)

を内蔵した新し い発想

(novelty)

という皮肉で酷評されるに及んだ

15)

。 しかし,仕事への動機づけや組織行動 のメカニズムを社会的・心理的人間観にもとづいて解明することの必要性を精緻な実証的研究に よって立証したことは,不朽の功績として評価すべきであろう。

11) F. J. Rothlisberger & W. J. Dickson, op.  cit.,  pp. 553562.  12) ibid.,  pp. 586587. 

13) ibid.,  p. 522. 

4

つの掟とは

(1)

賃率破り

(ratebuster)

はいけない

(2)サボリ屋(chiseler)

もいけない

(3)

告げロ 野郎

(squealer)

はいけない

(4)

よそよそしく振舞ったり, おせっかいをやいたりし てはならない

(Youshould not attempt to maintain social  distance or act offi. cious.)

というものである。

14) P. F. Drucker, The Practice of  Management, 1954, 

現代経営研究会訳

136137

頁 。

15)同書 130131

頁 。

‑168‑

(8)

( c )   リッカート・モデル

人間関係的環境の中で,特にリーダーシップに注目した内容モデルがリッカート

(R.Likert) 

を中心とするミシガン大学グループによって提起された。かれらは,第一線監督者

(foreman)

のリーダーシップ→従業員のモラール→職場の生産性 を関数的関係として捕え,比較データ法 を駆使した逆因果的アプローチによってその実態を調査した結果,生産性の高い職場の監督者は 従業員中心型のリーダーシップ・スタイルを採り,支持的関係の原則を厳守しているという経験 命題を突き留めた。つまり,従業員のニード,態度,期待,価値などに鋭敏な感受性をもち,部 下に対して人間的配慮を欠かさないリーダーが,組織目標の達成に意欲的な部下を育成するとい うわけである

16)

。ただし, リッカートは,リーダーシップが相対性のプロセスであり,あらゆる 状況に普逼妥当するリーダーの心理的特性や客観的基準は存在しえないという観点に立脚し,部 下が受けとめる上役に対する認知・評価を重視する。したがって,リーダーシップ・プロセスに ついての定石を理念的にではなくて実証的に提起したわけで,その根底には交換理論的発想が見 受けられるし,フィドラー

(F.Fiedler)の状況随伴モデル (contingencymodel)

にも一脈通

じている

17)

高い業績目標に指向した効率的な集団を組織するために,かれの発見した経験命題を具体化し た組織パターンが, リーダーを連結ヒ゜ンとする重複的集団方式

18>(linking pin model)

である。

支持的関係の原則を保つためには,組織目的とメンバーのニードとの間に矛盾・対立があっては ならない。そのためにメンバーの動機力を重視しつつ,組織と個人の調和と統合を個人の態度・

動機づけレベルで完成することの必然性を強調する視座に立って,メンバー間の相互作用・相互 影響過程の円滑化・効率化を目指す最適組織モデルとして,重複的集団方式を提唱した。この構 図と併行して,リッカートは,組織行動を理解する上での媒介変数の重要性を透視している。っ まり,組織行動を理解・分析する上で,個性, 認知(知覚),認知的方向づけ,期待,態度,動 機力といったメンバーの心理的メカニズムの解明が不可欠であり,この領域の解明なくして有効 な組織活動を望むことは不可能であると考え,媒介変数の果す役割を重視したのである

19)

。リッ カートの動機づけモデルは,内容モデルというよりもプロセスモデルに近い特徴をもっている。

リッカート理論の枠組は,組織成員の潜在的努力を完全活用する道順として,重複的集団方式→

支持的関係・従業員中心型リーダーシップ→帰属意識・忠誠心の確保とモラール高揚→潜在的可 能性の効率的利用→生産性という関係図式を基調としつつ,メンバー間の効果的な相互作用・相 互影響のパターンが,仕事への動機づけの決め手になるという前提に立って構築されている。た だ,協同志向的な態度を従業員に醸成するためには,主要な動機づけ要因(すなわち経済動機,

16) R. Likert, New Patterns of Management, 1961.  The Human Organization, 1967. 

17) F.  E. Fiedler, A Theory of Leadership Effectiveness, 1976.  18) R. Likert, op. cit., 1961, p. 105. 

19) R. Likert, op. cit., 1967, pp. 2629. 

‑169‑

(9)

関西大学「社会学部紀要」第15巻第2

安定動機,自我動機,創造動機)を効果的に活用することが必定という互恵的相互影響仮説が論 旨としては推量できるが,元来,動機づけそのものに分析のメスを入れたものではないので,ぃ わば交換理論的視点に立って,主要な動機の充足が組織目標や仕事に対する動機づけに重要であ るという構図を提示したという段階にある。この点について,かなり克明に詳説したのがマスロ ー・モデルである。

( d )   マスロー・モデル

普通,仕事への動機づけに関する理論を検討する楊合,最初に登場するのが,マスロー

(A.H. Maslow)

の「欲求階層理論」

(hierarchyof needs theory)

である

20)

。その意味では,主要な 動機づけ理論

(majormotivation theory)

の中で,内容モデルとしての代表格がこのマスロー 理論であるということにもなる。そして,科学的管理,人間関係論, リーダーシップ論などに比 べて,一般に動機づけモデルとして広範に論究され,その評価も高い。

マスローは行動を予測する分析視点を行動そのものの最終結果,すなわち個人のニードの充足 に設定する。マスローは,「充足されていないニードが,そのニードを充足するための努力(行為)

を引きつける磁場を作出し,一旦ニードが充足されるとその磁力は消磁し,充足されたニードは もはや行動の効果的な動機要因とはならない」という基本的命題と 人間のニードは心理的成長 に伴って, 生理的ニード

(physiologicalneeds) →安定•

安全のニード

(safety or  security  needs)

→所属と愛情のニード

(socialor belongingness needs,  love needs)

→尊敬のニード

(esteem or ego needs)

→自己実現のニード

(selfactualizationneeds)

という

5

段階の方向進 化をなすとする欲求階層論 とを基軸にして,自己実現的経営モデルという理念型を策定した

21)

本来,欲求階層論は,パーソナリティの説明理論として唱導されたもので,仕事への動機づけを 分析するためのものではない。この考え方が,企業行動に適用できる有効な動機づけモデルとし 評価されだしたのは, マグレガー

(D.McGregor)

の「企業の人間的側面」の中で注目さてれ たことに由来する。マスロー自身が企業の行動の分析に関心を示すのは

1960

年代に入ってからで あり, その成果が「優精神的経営」

(EupsychianManagement 1965)

として結実する。この 中では,人間のニードの頂点

(culmination)

に位座する自己実現ニードを希求する人間が創造 する文化の下で,創造的活動に自己を専心没入するように動機づけられた人間が生産活動に従事 する社会,すなわち,まさにユートビア的な社会が模索された。この社会は,尊敬のニードにい たる下位欲求がすべて充足され,自我の実体化と個性的成長を目指す自己実現ニードの完済に駆 り立てられる至高人間が棲息する社会であり,そこで展開される労働の構図は,当時の社会的背 景からみればあまりにも現実離れのものであり,実践的な動機戦略に直接活用されるには高遠す

20) A.H. Maslow, "A theory of human motivation", Psychological Review, July, 1943, pp. 370396.  Motivation and Personality, 1954. 

21) A. H. Maslow, Eupsychian Management, 1965. 

‑170‑

(10)

ぎた。それよりもむしろ, 「欲求一動機づけ」に関する命題と欲求階層説の着想に注目は集中し た。特に,先進工業社会の動機づけ問題の焦点が, 1970年代に入って第3段階までのニードの推 定充足率が70%を超えるという実態に随伴して,一気に自己実現ニードの充足に向けられる事態 になるまでは,優精神的マネジメントという発想は幻想に近かった。しかし,仕事が生きがいの 対象とみなされ, 自己実現ニードが仕事の動機づけの標的とみなされる傾向を強めるにつれて,

マスロー・モデルは現実味を帯びてくる。自尊心の体得と自我の公的承認によって他者との相対 的序列を確認し,そのことで自己の重要性と価値を内的・公的に認知する自我ニードや,個人の 潜在的能力を十分に発揮し, 自己の可能性に挑戦し, 自己の理念的理想像に自己を実体化せんと する自己実現ニードの充足を仕事空間で達成しようとする風潮が蔓延・定着・強化するにつれ て,事態は急転したわけである。

仕事への動機づけの実相を理解しようとする場合,各成員の組織や仕事へのかかわり方が異な っている以上,各成員の動機の相異について可能なかぎり配慮しながら現実に即してその説明モ デルを精級化しなければならない。マスロー・モデルは,動機づけの基底にある多様なニードを ただ漫然と枚挙したのではない。多様なニードを理念的に範型化し,それを5段階に序列化し,

動機づけ問題をシステム的に解明しようとつとめた。しかし,ニードと動機づけとの関係に関す る基本的命題については,マスロー自身も,その後「成長に動機づけられた個人の自己実現欲求 を充足することは,実際にはこの欲求を減退させるというよりもむしろ増幅する」あるいは「よ り高いレベルのニードは,それより低いレベルのニードが充足された後にのみ発生するのではな くて,低いレベルのニードが長期に亘って剥奪されたり,抑制された時にも発生する」と一部修 正し,人間の行動が多元的に動機づけられることを示唆するにいたった22)。一般に説明モデルと いうものは,現象がどのような要因で構成され,各要因がどのように相関し,どのように機能す るかを最簡表現したものである。事象が複雑で不可解とみなされる場合には,必ず,その複雑さ と不可解さを透視する手段つまりモデルが必要となる。その意味で,モデルは事象を簡略化した 場合の理解の様式に他ならない。このような観点からマスロー・モデルを吟味する時,理念型と 経験法則との中間にある有効なモデルとしての要件を具備しているといえよう。そのために,完 全な実証的裏付けという点では疑義があるものの,動機づけ問題を理解する上での有効モデルと して高く評価され,実践面で活用されてきた。動機づけ問題にとって実践的に重要なことは,動 機づけのプロセスやメカニズムについての真因を見極めるというよりむしろ,研究者がそれをど う認知するかという点にある。つまり,選択的認知(selectiveperception)の問題が鍵となる。

人間の行動の複雑さや予測困難性は,それが物理的・政治的・経済的・文化的環境の中で, これ らの環境に随伴して状況規定的に生起することに起因している。したがって,普遍的な真実をそ こから抽象することがどれだけ意義深いかは疑問である。動機づけ問題の場合にも,絶対に正し い説明モデルであるとか,絶対に間違った説明モデルであるといった二者択一的評価は不可能に

22)F.Luthans,op.cit.,pp. 179‑180

−171−

(11)

関西大学『社会学部紀要』第15巻第2号

近い。多くのモデルは, ドラッカー流に言えば23) 「まあまあ正しい」と「多分間違っている」と の間の尺度間に布置される程度差から成り,多くは特定の状況や環境の相違を反映しているがゆ えに,その正邪を一義的に判定することは極めて難しい。しかし,単一の最善モデルの発見が不 可能に近いとしても,相競合するモデル間の優劣について吟味し,その妥当性や有効性を経験則 に照らして査定することは不可能ではない。その点では,マスロー・モデルは,前三者に比べて 卓抜していると評価してよかろう。なぜならば,動機づけ問題が生じる特異な環境と状況を射程 に入れて, この問題に対する解決策に欲求階層論を符合させ,利用しうる指針を具体的に提起し,

かつ前三者にみられる単純な特異の二変量モデルよりもニードの常態と動機づけの因果を多分正 しく説明しうる確率が高いと見込まれるからである。特に環境随伴的な動機づけメカニズムに対 処しうる「まあまあ正しい」内容モデルであり,少くとも実践的に有益な問題解決策に演用しう るモデルであるといえよう。

(e) ハーズバーグ・モデル

ハーズバーグ(F・Herzberg)は,マスローの欲求階層論を発展させて,仕事の動機づけに関す る二要因理論(twofactortheoryordualfactortheory)を提示した24)。いかなる仕事もいろ いろな属性や特色を内蔵している。これらの属性や特色の中で,仕事に対する満足一不満足,あ るいは動機づけに重要なインパクトとなる要因はなにか。この問題に対して,仕事に満足を与え る要因(satis6ers)は仕事の内容(jobcontent)や義務(duties)に関連し, 仕事に不満を与 える要因(dissatisfiers)は仕事の文脈や環境(contextandsettingofjob)に関連していること を,仕事の満足一不満足に付随する要因を報告させる方法(incident‑tellingmethods)を用い てかれは突き留めた。ここで注目すべきことは,仕事の満足と仕事の不満足は連続する尺度上の 両極に位置づけられる対時概念ではなくて,両者は全く別の尺度を形成する二元的な類型概念で あることを示唆した点にある25)。つまり,仕事の満足要因→内容要因→動機要因(motivators)と いうカテゴリーと,仕事の不満要因→文脈要因→衛生要因(hygieneormaintenancefactors) というカテゴリーを峻別し,両者が不連続の尺度を形成すること,その場合,両者の関係は後者 の尺度はそれ自身では仕事への積極的な動機づけの機能を果さず,動機づけのための離陸点を保 障するに過ぎず, この離陸点が前者の尺度の始発点への貫通侵入路でもあり,要は,前者の尺度 のみが人間を仕事に動機づけるとみなす。両要因の具体的内容は表1の如くである26)。

この中で不満要因は,仕事をする場合の最低不可欠の条件であり,仕事への積極的動機には直 接寄与しない。つまり, この不満要因が充足されることは,積極的動機づけへの基盤が整備され

23)B.Heirs&G.P.Pehrson,TheMindoftheOrganization, 1977,大森彌訳, 46頁。

24)F.Herzberg,B.Mausuer,&B.B.Snyderman,TheMotivationtoWork.1959.

F.Herzberg,WorkandtheNatureofMan@ 1966.

25)F.Herzberg,"Themotivation‑hygineconceptandproblemsofmanpower'',PersonnelAdmi nistration, Jan‑Feb, 1964.pp. 3‑7.

26)F・Herzberg,op.cit., 1966,pp. 193‑198.

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(12)

満足要因

(Satisfiers)

達成

(Achievement) 承 認 (Recognition)

表 1 満足要因と不満要因

不満要因

(Dissatisfiers) 

会社の方針・管理方式

(Company policy & management) 

成長・進歩向上の可能性

(Possibilityof  growth) 

昇進 (Advancement)

監督技術

(SupervisionTechnical)

上役との人間関係

仕事の内容

(Workitself)  責任(Responsibility)

(Relationship with supervisor) 

作業条件

(Workconditions)  給 与(Salary)

同僚との人間関係

(Relationshipwith peers) 

個人的生活

(Personallife) 

部下との人間関係

(Relationship with subordinate) 

地位・待遇

(Status)

仕事の安定性

(Jobsecurity) 

たことを意味し,いわば健康であるという状態に達したことを示す。それに対して満足要因は動 機づけに有効な影響力をもち,不満要因が解消された時点で作動する動機要因である。不満要因 は,動機要因が円滑に作動するための必要かつ十分条件に係わる保障要因で,仕事への積極的動 づ機けを可能にする周辺的,環境的条件の整備に係わる要因である。その意味で,仕事の動機づ けに対して予防的・環境的性質をもち,そのゆえに衛生要因あるいは保障要因と呼ばれる。した がって,この衛生要因が不満ではないという状態に達した時,仕事への積極的動機づけへの離陸 が形式上可能になり,理論的には,仕事への動機づけの始発点でスタンバイ状態に入ったことにな る。つまり,健康である状態から,ウォーミングアップ状態に移行できたわけである。比喩的に 言えば,学習用家具が整備され,空調も行き届き,学習用図書も完備した個室で勉強する子供は,

学習意欲のある子供か,という問いに対して,ハーズバーグは二要因理論の見地から否と答えた のである。この回答は,衛生要因のレベルアップに関心を集中させていた企業の多くに,重要な ミスを犯していたことを示唆した。衛生要因は,不満を解消し,病的状態に陥るのを予防する機 能しか演じえず,積極的動機が崩芽するための土壌づくりに貢献するに過ぎない。仕事に満足を 与え,積極的な動機づけを喚起し,旺盛なモラールを鼓舞する要因は,この衛生要因とは全く異 質であり,仕事そのものに内蔵された諸要素すなわち満足要因(表

1

参照)によって構成され,

一言でいえば職務の充実

(jobenrichment)

に直結する要因である。すなわち,マスローの指摘 した高次のニード,特に自己実現欲求に対応し, 「成長と進歩向上の可能性」要因に符合する仕 事のデザインが,動機づけ問題の鍵とされる。そして,そのための具体的解決策として,満足要 因として枚挙されたもの(表

1

参照)を仕事にうまく組み込んだ垂直的職務負荷

(verticalloa ding of job factors)

による職務充実構想を提起した。垂直的職務負荷による仕事のデザインは,

従来の仕事の拡大

(jobenlargement)

や仕事のローテーション

(jobrotation)

に見られる水 平的職務負荷

(horizontalloading)構想による職務充実計画とは異なり,次のような原則によ

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参照

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