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彦根論叢 2015 spring / No.403

228

新刊紹介

過去約

2

年間に発行された書籍の中から時事的で 話題性があり内容豊かなものを会員のご要望に応 えながら編集部が選択して紹介いたします。

『神、 さもなくば残念。』

小森健太朗著|作品社 2013年、375pp.

『英会話不要論』

行方昭夫著|文春新書 2014年、190pp.

意外だと思う人が多いかもしれないが、マンガや アニメの批評には幅広い分野の教養が必要であ る。一例を挙げれば、庵野秀明監督の『トップをね らえ!』を論評するには、特殊・一般相対性理論の 基礎知識と、哲学・法学などで議論される「カルネ アデスの板」問題の知識が最低限必要となる。その ためか、近年、様々な分野の論者によるマンガ・アニ メ批評が多くなってきているものの、どうしても一面 的な分析になってしまうきらいがある。その中にあっ て、小森氏は本書で、専門のミステリー論はもちろん、 哲学・論理学を中心に幅広い視点で

2000

年以降 多くのアニメ作品を多角的・有機的に分析している。 ハイデッガーの真理論からの『ストライクウィッチー ズ』論や、エラリイ・クイーンと『攻殻機動隊』との比 較論考など、興味深い論考が収められているが、特 に「ラッセルのパラドックス」とウスペンスキー思想 を用いた『魔法少女まどか☆マギカ』分析はかなり説 得力がある。マンガ・アニメはやっとアカデミックな 研究もされるようになってきたとはいえ、まだまだ数 が少ない。本書はその稀有な一冊と言える。 評/『彦根論叢』編集委員/出原健一

英語担当教員であれば修業時代に、行方氏の著 書で英語を緻密に読むことの大切さを教わった者も 多いだろう。氏は近年でも英文精読に関する著書を 出版されているが、本書のような英語教育論に特化 したものは評者の知る限り初めてである。

タイトルを見ると「英会話など不要だ」と説いてい る本に思えてしまうが、実はそうではない。外国語学 習として、英会話だけ勉強していては駄目で、いわゆ る

4

技能万遍なく学習しなくてはかない

いうある意味至極当然なことを主張している。しかし、 残念なことに現在の日本ではこれが「当然」とは受け とめられなくなってきている。訳読や文法中心の授 業が「悪」とされ、コミュニケーション重視の授業へ の移行が様々な方面から学校教育に求められてい るが、本書ではいわゆる「昔ながらの英語教育」がい かに効率的で、英会話習得の近道であるかを多くの 事例を挙げて(特に第

1

)説明している

本書と同趣旨の主張は、例えば大津由紀雄他『英 語教育、迫り来る破綻』(

2013

年、ひつじ書房)など

でも述べられている。現在はグローバルの時代と言 われているようだが、これらの本を読むことで、「何故 外国語を学ぶのか」ということを各人が考えるきっか けになるであろう。

評/『彦根論叢』編集委員/出原健一

(2)

新刊紹介

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NO ヘイト 出版の製造者責任を考える』

ヘイトスピーチと排外主義に加担しない 出版関係者の会編|ころから 2014年、142pp.

最近は書店に行くと、「嫌韓本」や「嫌中本」と呼 ばれる本が目につきます。それら本たちの、罵倒と憎 悪の表現を競うようなタイトルを見るたびに、暗い気 分にさせられます。この『

NO

ヘイト!』でもじられ

ていますが、書店はさまざまな思想や信条による出版 物が公平に並び、あらゆる人々がそれらを自由に手 に取って読めるという、いわば公共的な空間です。し かし現在の書店には、中国や韓国の人々をはじめ、 あるエスニック・グループに属する人々や、在日外国 人の人々などを敵視し威嚇する内容の出版物が大 量に、しかも平然と並んでいます。書店が特定の人々 を排斥するような、内向きに閉じた空間となるとした ら、それはこの国の出版・言論文化の自滅を意味す るのではないでしょうか?

さらに本書では、この問題は昨今のヘイトスピー チやヘイトデモともつながっていると指摘します。ヘ イトスピーチとは、国籍・民族・宗教などを理由に「自 分たちとは違う人々」を設定して、その人々に対する 差別の感情や敵意を暴力的な形で表現し、周囲を 巻き込んで煽動することです。「嫌韓本」「嫌中本」は そうした感情を活字化し、広く流通させ増幅すること で、さらに新たな差別を生みだしかねません。

今から約

90

年前、

1923

9

1

関東大震災 発生した後には、「朝鮮人差別」の感情に基づくデマ が飛び交い、多くの朝鮮人が殺されました。中国人や、 間違えられた日本人、活動家なども犠牲となっていま す。ヘイトスピーチや「ヘイト本」が野放しとなってい る現在は、当時と同じような危険をはらんでいる、い わば「

8

31

世界」となっているのかもしれません。

なお、諸外国にあっては、ヘイトスピーチは「人種 差別禁止法」ないし「ヘイトスピーチ規制」による規 制の対象となっています。ところが日本には、「人種

差別禁止法」も「ヘイトスピーチ規制」もありません。 この状況は、日本政府が人種差別撤廃条約

4

条(

a

と(

b

留保していることとも関連しています(本書

では、こうした問題についても詳しく論じられていま す)。国連の人種差別撤廃委員会は、

2001

年・

2010

年・

2014

、日本政府同条項留保撤回して

ヘイトスピーチを処罰するように勧告しています。こ れら再三の勧告のほか、国連の自由権規約委員会 の最終見解(

2014

年)によっても同様のことをめら

れているのですが、今のところ日本政府は無視し続 けています。

この『

NO

ヘイト!』、出版世界人々

が、自分たちの「製造者責任」を考えるところから 生まれた本です。「『表現の自由』という先人の遺産 にあぐらをかいて粗悪なヘイト本を量産することは、

『公共の福祉』に資するだろうか」─巻末の一節です が、我々も「自由」の名のもとに思考停止に陥ってい ないかどうか、考える必要があります。

評/附属史料館専任教員/青柳周一

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彦根論叢 2015 spring / No.403

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『歴史を繰り返すな』

坂野潤治、山口二郎著|岩波書店 2014年、147pp.

『法学入門

─「児童虐待と法」から「こども法」へ

大村敦志著|羽鳥書店 2012年、120pp.

本書には、日本近代政治史研究者の坂野潤治氏 と、政治学・行政学研究者の山口二郎氏が、

2012

年と

14

った対談内容められています 坂野氏はあとがきで「人文社会科学は趣味の世 界ではない」「自分の学問を、少しでも今の日本の政 治社会の改良に役立てたい」と述べています。こうし た意識を共有する二人のベテラン研究者は、戦後の

「自由」「平和」「平等」が安倍政権のもとで危機を迎 える現状を厳しく批判していますが、議論の中では あくまでリアリズムが重視されます。

例えば、本書では「日中友好」の大切さが繰り返し 説かれますが、それは単なる理想論ではなく、日露 戦争以降の

1905

からの日中関係、現在日本 取り巻く国際環境(山口氏によれば、いまや日本は世 界の中で「孤立主義の道を歩んでいる」とされます) の分析から導かれています。

また、戦前には

1925

男子普通選挙制導入

され、政治的な民主化がある程度達成された後、む しろ社会は目標を失って混迷したと論じた上で、そ れと

2009

民主党による政権交代達成時熱狂、

そしてその後に社会を覆った目標喪失感とは重なり 合うとも指摘されます。

1925

年以降混迷期

たのは、坂野氏によればファシズムでした。では、現 在の日本に訪れつつあるものは何か─それについて は本書をお読み下さい。

「歴史は繰り返す」などと嘆いてみせるだけで済ま せるのではなく、「繰り返すな」と批判精神を持って、 状況と取り組むことが大事なのかもしれません。 評/附属史料館専任教員/青柳周一

本書は、民法学者による「破格の」法学入門書で ある。テーマ選択においても構成においても破格だ が、いずれも工夫されており、接しやすく且つ高度に 啓蒙的である。

出発点としてのテーマは「児童虐待」である。入門 書としては応用的と思われるが、様々な意味を有し ている。まず、(

i

)社会問題として認識されており

かつ(

ii

読者として想定される「高校卒業したば

かりの人々」にとり身近である。また、(

iii

)領域横断 的である。そして(、

iv

経済観点からだけでは 尽くせない、こども、女性、高齢者・障がい者等のマ イノリティに目を向けるという、また個人・社会・国家 の関係を論ずるという、著者の問題意識(大村敦志

『「民法

0

1

2

3

条」

<

>

きるルールみすず 書房・

2007

年等参照)っているこのテーマ 選択が、破格の構成を可能にしている。

その構成だが、児童虐待の現状把握から出発し て、入門書としては細か目に現行法制が説明され、そ こから法の体系や、法の解釈、立法者の役割等々、

「法学」的な要素が無理なく解説されていく。その上 で、視野を広げて、「こども」という観点から、法と国 家の役割と「私」「私たち」(個人と社会)の位置づけ を再確認し、それをもとに、既存の様々な制度や解 釈論・立法論を再編成する枠組みとして「こども法」

の構想の提示がなされていく。全体をとおして、法学 が自己完結的な学術領域であるより、様々な知と実 践に対して開かれ、社会に対して開かれた領域であ ることが語られている。

初学者はもちろん、法律に習熟した者にとっても、 眼を開かされる一冊である。

評/社会システム学科教員/須永知彦

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