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セレン欠乏をきたした腹膜透析患者の1例

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Academic year: 2021

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症例報告

土谷 千子 東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科  〒 105 8461 東京都港区西新橋 3 25 8 Yukiko Tsuchiya Tel: 03 3433 1111 Fax: 03 3433 4297

〔受付日:2020 年 8 月 27 日,受理日:2021 年 3 月 18 日〕

セレン欠乏をきたした腹膜透析患者の 1 例

東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科 キーワード:セレン欠乏,腹膜透析,中心静脈栄養 〈要旨〉 症例はループス腎炎による慢性腎不全で透析歴 28 年の 53 歳女性.腹痛主訴に受診し,感染性腸炎から Peritoneal dialysis(PD)腹膜炎となり入院となった.絶飲食の上,中心静脈栄養を開始した.第 17 病日から筋肉痛が出現 し,微量元素減少症を疑い,血中セレンを測定したところ 5(正常値 10.6∼17.4)μg/dL と低値を認めた.経口摂 取を開始,セレン含有栄養補助食品を併用し,再度血中セレンを測定したところ 11.7μg/dL と症状の改善とともに 血中セレン濃度の改善を認めた.セレンは必須微量元素で,通常の食生活上は欠乏をきたしにくいが,透析患者は たんぱく質の摂取制限があり,血清セレン濃度が低い傾向があると報告がある.また当院で使用できる total paren-teral nutirition(TPN)用微量元素製剤にはセレンが含まれておらず,本症例は 3 週間の TPN 中に欠乏をきたした と考えられた.透析患者で比較的長期の TPN を必要とする際,治療に難渋する貧血や筋肉痛などの症状に対してセ レン欠乏を考慮する必要がある.

A case of selenium deficiency in peritoneal dialysis patient

Yukiko Tsuchiya, Nanae Matsuo, Makoto Sagasaki, Maiko Furuya, Yukio Maruyama,

Ichiro Ookido, Takashi Yokoo

Division of Nephrology and Hypertension, Department of Internal Medicine, The Jikei University School of Medicine Keywords: selenium deficiency, peritoneal dialysis, parenteral nutrition

〈Abstract〉

The patient was a 53 year old female, who had undergone dialysis treatment for chronic renal failure caused by lupus nephritis for 28 years. She visited our hospital with a chief complaint of a stomachache. She developed peritoneal dialysis peritonitis due to infectious enteritis and was admitted to our hospital. Total parenteral nutri-tion (TPN) was initiated, and the patient was not allowed to eat or drink. On the 17th day of hospitalizanutri-tion, the patient started to experience melalgia. We suspected a microelement deficiency and measured her serum sele-nium level. It was found to be low (5 μg/dL; normal level: 10.6 17.4 μg/dL). On the 21st day of hospitalization, she was able to resume food and drink intake with selenium supplementation. Her serum selenium level was measured again. It had increased to 11.7 μg/dL, and her limb pain had reduced. Selenium is an essential micro-element, and selenium deficiency is rare among individuals with normal eating habits. Serum selenium levels tend to be lower in dialysis patients due to their limited protein intake. In addition, selenium was not included in the microelement preparation used for the TPN. The patient s selenium deficiency may have occurred during the third week of TPN. When refractory anemia and muscle aches are found in a dialysis patient requiring long term TPN treatment, it is necessary to consider selenium deficiency.

土 谷 千 子  松 尾 七 重  嵯峨崎  誠  古谷 麻衣子

丸 山 之 雄  大城戸 一郎  横 尾  隆

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緒  言

セレンは抗酸化作用に関与するグルタチオンペルオ キシダーゼ(GSH PX)活性の必須構成要素であり, 心血管系疾患やさまざまな悪性腫瘍に対する予防効果 が注目されている.これまで透析患者において健常者 と比較し,血清セレン濃度は低下していることが報告 されている1).また,現在市販されている経腸栄養製 剤,中心静脈栄養製剤においてセレンを含有していな い製剤もあり,長期間にわたる経腸栄養療法,経静脈 栄養療法ではセレン欠乏が合併する可能性がある.セ レン欠乏により爪の白色化,四肢の筋肉痛や筋力低 下,心筋障害に伴う心不全などの症状を呈する.今回, われわれは腹膜透析(peritoneal dialysis: PD)患者に 対する経静脈栄養中に四肢の筋肉痛で発症したセレン 欠乏症の 1 例を経験したため報告する.

Ⅰ.症  例

患者:53 歳,女性. 主訴:左下腹部痛,嘔気. 既往歴:全身性エリテマトーデス,ネフローゼ症候 群(18 歳),ループス腎炎/慢性腎臓病(25 歳時に透析 導入),閉塞性動脈硬化症,骨髄炎(52 歳),筋肉内血 腫(53 歳),甲状腺機能低下症,2 型糖尿病,高血圧 症,抗リン脂質抗体症候群,PD 腹膜炎. 内服薬:プレドニゾロン(5)1T/1x,ワーファリン (1)1T/1x,ランソプラゾール(15)1T/1x,レボチ ロキシンナトリウム水和物(50)2T/1x,レボチロキ シンナトリウム水和物(25)1T/1x,塩化カリウム (600)2T/2x,アゼルニジピン(16)1T/1x,クエン 酸第一鉄 Na(50)1T/1x,ビルダグリプチン(50) 1T/1x,トコフェロール酢酸エステル(200)2C/2x, ウルソデオキシコール酸(100)2T/2x,メコバラミン (500)2T/2x,葉酸(5)2T/2x,クエン酸第二鉄水和 物(250)5T/3x,ポラプレジンク(75)2T/2x,バル サルタン(80)1T/1x,センノシド(12)2T/1x. 生活歴:喫煙歴なし,飲酒歴なし. 家族歴:父:糖尿病,母:糖尿病,原発不明癌で死 亡,弟:糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析を 施行している. アレルギー歴:タゾバクタムナトリウム・ピペラシ リン水和物,クラリスロマイシン錠. 現病歴:X 36 年に全身性エリテマトーデスを発症 し,ネフローゼ症候群を呈し,X 34 年に他院でループ ス腎炎Ⅳ型の診断に至った.ステロイドパルス療法を 施行したが,徐々に腎機能低下を認め,X−28 年に血 液透析(hemodialysis: HD)を導入した.X 26 年に PD に変更し,X 20 年頃より無尿となった.X−12 年 より当科外来フォローとなっていた.X−10 年 2 月よ り PD+HD 併用療法を行ったが,抗リン脂質抗体症候 群に伴うシャント閉塞を繰り返し,HD 継続が困難と なったため X 10 年 6 月より PD 単独療法を開始した. 以降,外来で定期的に施行した腹膜平衡試験では 0.5∼ 0.6(Low Average)で経過していた. 今回,X 年 3 月朝から嘔気,右側腹部痛が出現し救 急要請となった.腹部単純 CT 検査にて下行結腸に腸 管浮腫を,採血検査にて炎症反応上昇を認め,感染性 腸炎の診断にて当科入院とした. 入院時現症: 身長 167 cm,体重 53.1 kg,BMI 19.03 kg/m2.意識 清明,体温 37.4 度,心拍数 90/分 整,血圧 162/76 mmHg.頭部:眼瞼結膜軽度貧血所見あり,眼球結膜 黄染なし.明らかな脳神経所見の異常を認めない.頸 部:リンパ節や甲状腺の腫大は認めない.胸部:呼吸 音は清で異常心音・心雑音を認めない.腹部:平坦で 軟,左側腹部に圧痛を認めるが,反跳痛や筋性防御は 認めない,腫瘤を触知しない,グル音亢進減弱なし, テンコフカテーテル出口部の感染兆候なし.四肢:四 肢に明らかな麻痺なし,右第 5 趾は切断後,右第 4 趾に 潰瘍を認める.明らかな関節痛や筋肉痛は認めないが, 潰瘍部の疼痛を認める.爪の色調に明らかな変化なし. PD 排液は明らかな混濁なし,軽度軟便を呈している. 血液検査所見: 第 1 病日:WBC 10,600 /μL,RBC 326 万/μL,Hb 9.6 g/dL,Ht 31.7%,PLT 39.4 万 /μL,PT 20%,PT INR 2.9,APTT 51.1 sec,AST 14 U/L,ALT 16 U/ L,LDH 342 U/L,T Bil 0.3 mg/dL,ALP 279 U/L, γ GTP 25 U/L,CK 52 U/L,TP 5.3 g/dL,Alb 2.2

g/dL,UN 28 mg/dL,Cr 7.72 mg/dL,UA 6.1 mg/ dL,Na 142 mmol/L,K 3.0 mmol/L,Cl 100 mmol/ L,Ca 7.0 mg/dL,IP 3.5 mg/dL,CRP 3.97 mg/dL. 第 20 病日:Zn 130 μg/dL,Cu 57 μg/dL,Se 5.5 μ g/dL. 第 25 病日:TSH 0.01 μIU/mL,FT3 2.25 pg/mL, FT4 2.15 ng/mL,C3 116 mg/dL,C4 24 mg/dL, CH50 33.0 U/mL,抗 ds DNA 10 未満. 第 27 病日:抗 RNP 抗体 陰性,抗 Sm 抗体 陰性, 抗 Scl 70 陰性,抗 Jo 1 抗体 陰性,セントロメア抗体 陰性. 腹膜透析排液(第 1 病日):白血球数 0 /μL.

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心電図検査:正常洞調律,正軸,ST 変化なし,陰 性 T 波なし,Block なし. 胸部 X 線検査:CTR 47%,両側肺野に明らかな異常 所見を認めない.肺野に明らかな異常所見を認めない. 胸腹部単純 CT 検査:左側腹部に小腸の壁肥厚およ び腸間膜脂肪織濃度上昇,腹膜肥厚を認める. PD 治療内容: 日中:2.25%ブドウ糖 PD 液 1,000 mL ×2(13∼17 時,17∼21 時).APD: 2.25%ブドウ糖 PD 液 1,400 mL ×4 サイクル total 5,600 mL(21∼7 時). 臨床経過(図 1):感染性腸炎の診断にて入院とし, 絶食,セフメタゾール 1g×1 回/日にて加療開始とし た.第 5 病日に腹痛増強あり,PD 排液検査を施行し たところ,PD 排液中の白血球数 9,200 /μL(好中球 81.6%)と上昇を認め PD 腹膜炎の診断となった.セ フメタゾールにて炎症反応の改善認めず,同日よりメ ロペネム水和物注射用 0.5 g×1 回/日,腹腔内トブラマ イシン投与に治療変更とした.腸炎症状も改善せず, 絶食の継続が必要であったため第 6 病日より TPN を 開始した.第 7 病日には PD 排液中の白血球の陰性化 を確認した.第 17 病日頃より四肢の左右対称性,近位 筋優位の筋肉痛を認めた.腹痛に対しトラマドールを 使用していたが,筋肉痛には効果がなく,フェンタニ ル 0.01 γの併用を開始した.筋肉痛の原因検索として 関節リウマチ,リウマチ性多発筋痛症などの膠原病も 疑い抗体を測定も陰性,微量元素を測定したところ, 血中セレンは 5(正常値 10.6∼17.4)μg/dL と低値を 認めた.セレン欠乏精査で施行した甲状腺の採血では 以前と比較し明らかな FT3 低値や,第 22 病日の CK は 14 U/L であり CK 上昇や心電図変化を認めなかっ た.第 25 病日の胸部 X 線では心拡大は認めなかった. 血清亜鉛,銅値は正常であった.腸炎の改善を認めた ため,第 20 病日よりセレン 86 μg/day の経口補助食 品(リーナレン 250 mLⓇ,ブイ・クレス 125 mg)を 開始した.筋肉痛は速やかに改善を認め,第 22 病日に フェンタニルを中止した. 第 27 病日から食事も開始し,TPN 終了とした.食 事開始後もセレン補充のため経口補助食品は併用し た.第 33 病日にはトラマドールも中止可能となった. その後,症状改善後の第68病日に再度血中セレンを 測定したところ 11.7 μg/dL と血中セレン濃度の改善 を認めた.

Ⅱ.考  察

セレンは原子番号 34 番,原子量 78.96 の原子であ り,銅や亜鉛などと同様に必須微量元素である.生体 内においては主にたんぱく質に組み込まれ,セレノプ ロテインは25種類が発見されており,グルタチオンペ ルオキシダーゼ(GPX),チオレドキシン還元酵素 251 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 1 6 11 16 21 26 31 36 41 46 51 56 61 66 71 血清Alb (mg/dL) トラマドール塩酸塩 25 mg 50 mg 100 mg プレガバリン25 mg 経腸栄養剤 Se 86 μg 第10病日 四肢疼痛出現 第20病日 Se 5.5 μg/dL 第68病日 Se 11.7 μg/dL 第7病日 TPN開始 ブプレノルフィン 第22病日 筋肉痛改善 第27病日 経口摂取開始,TPN終了 病日 図 1 入院後経過

(4)

(Txnrd),ヨードチロニン脱ヨウ素化酵素(DIO),セ レノプロテイン(SelH W),セレノリン酸合成酵素 2 (SPS2)の 5 つのタイプに分類される2).この GSH Px はビタミン E と共同で過酸化水素や遊離酸素基の free radical の分解を触媒し,細胞膜をその障害から保護し ている.したがって,セレンの欠乏下では free radical により細胞膜が障害され,さまざまな症状を呈すると 考えられている.食品中にはセレシステイン(SeC)や セレノメチオニン(SeM)などのセレノプロテインの 状態で多く含まれ,摂取されたセレンの約 90%が消化 管で吸収される.魚介系を中心とする動物性たんぱく 質に多く含まれており,通常の食生活においては,セ レン欠乏症を呈することはほとんどないとされている. セレン欠乏症は,拡張型心筋症を引き起こす中国の 風土病である Keshan disease が有名で3),土壌中のセ レン含有量が少ない地域性によるセレン欠乏症である ことが証明されている.中心静脈栄養におけるセレン 欠乏症としては,1979 年に Rij らが筋肉痛,筋脱力を きたした症例4)を最初に報告し,以来本邦でも報告例 が散見されている. セレン欠乏症を起こすリスク因子としては,セレン を含まない経腸栄養や経静脈栄養を行っている,透析 患者,拡張性心筋症,心因性食思不振症,C 型肝炎, 肝硬変があげられ,血中濃度は 8∼25 μg/dL で至適血 中濃度が狭いため中毒にも注意が必要である.経腸栄 養もしくは経静脈栄養を行っている患者には 1 か月か ら数か月に一度のモニタリングを推奨している. 長期経静脈栄養患者の約 62%において全血中のセ レン値は低値であったものの,そのほとんどが臨床症 状を認めなかったという報告もあるが,セレン欠乏症 は表 1 の診断基準に示すように本症例のような筋肉痛 の症状以外にも爪白色化などの爪・皮膚病変,心筋症, 虚血性心疾患などの心筋障害,大球性貧血などの症状 を示す.本症例の主症状である筋肉痛はセレン欠乏に 伴い酸化ストレスが増大することによって NF κB が 活性化され,これを介して炎症反応が惹起されること により発症すると考えられている1).セレン過剰とな ると,嘔気,嘔吐,腹痛,吐血,急性腎不全,胃炎, 洞頻脈,尿細管壊死,高ビリルビン血症,心電図異常 が報告されており,セレン投与の場合は,定期的に血 清セレン値を測定し,過剰にならないように注意が必 要である. 透析療法中の腎不全患者ではたんぱく質制限などの 食事制限,吸収低下,消費亢進,透析排液中への排出 により,セレンが低下すると考えられている5).HD 患 者においては,HD 前後で血清セレン濃度に有意差は 認められず,透析時間やダイアライザー膜による影響 を受けないと報告されている6,7).一方 PD 患者にお いては,1989 年に平田ら8)や,2010 年に Maryam ら が血清セレンを含む微量元素の血中濃度を検討してお り,コントロール群(非透析患者)に比較し,透析患 者群において有意に血清セレン濃度の低下を認め,さ らに HD 患者群に比して,PD 患者群で有意に血清セ レン濃度が低値であったと報告された.これは PD 患 者の方が自尿が多いためセレンの尿中排泄が有意に多 く,また経腹膜からのたんぱく結合微量元素の喪失が 表 1 セレン欠乏症の診断基準 1.下記の症状/検査所見のうち 1 項目以上を満たす 1)爪・皮膚:爪白色化・爪変形,皮膚炎,脱毛・毛髪の変色 2)心筋障害:心筋症,虚血性心疾患,不整脈,頻脈 3)筋症状:下肢の筋肉痛,筋力低下,歩行困難 4)血液症状:赤血球の大球性変化,大球性貧血 5)検査所見:T3低値,AST・ALT 上昇,CPK 上昇 6)心電図変化:ST 低下,T 波陰転化 2.上記症状の原因となる他の疾患が否定される 3.血清セレン値 年齢 血清セレン値(μg/dL) 0∼5 歳 ≦6.0 6∼14 歳 ≦7.0 15∼18 歳 ≦8.0 19 歳∼ ≦10.0 4.セレンを補充することにより症状が改善する Definite(確定診断):上記項目の 1.2.3.4 をすべて満たすもの. Probable:セレン補充前に 1.2.3 を満たすもの.セレン補充治療の適応となる. (文献 1 より引用)

(5)

多いなどの理由が考えられている9).本邦での PD 患 者でのセレン欠乏の報告は 2001 年に望月らが硬化性 被囊性腹膜炎の治療中にセレン欠乏に起因すると思わ れる拡張型心筋症を発症した 1 例を報告している.こ の症例では,心不全症状が出現,血清セレン値 2.5 μ g/dL 未満によりセレン欠乏による拡張型心筋症と診 断され,その後セレン投与により心不全症状,左室駆 出率の改善を認めたと報告している10) TPN 使用下でのセレン欠乏症の報告は,発症まで の期間が 1 か月から 14 年と TPN 施行期間の長さに比 例していないため,複数の要因が関与していると考え る11∼15).本症例は,その後の聞き取りで,入院前の 1∼ 2 か月間の食生活が菓子パンなど中心で,動物性たん ぱく質摂取が非常に少ない状況であったことが判明 し,すでに入院時の体内セレンは減少傾向であったこ とが推測された.約10日間という他の報告より比較的 短期間の絶飲食・TPN で,症候性セレン欠乏をきたし たと考えられた. 成人のセレン必要量は 1 日 65∼224 μg であり,低セ レン血症をきたすと治療には 100∼500 μg/day を経 静脈もしくは経口投与が必要であると言われている. 補充療法にはセレン 20 μg/125 mL を含有するテゾンⓇ や 50 μg/125 mL を含有するブイ・クレスⓇやアルジ ネードⓇを用いる.また,注射製剤は 2019 年 6 月に国 内初のセレン注射製剤として亜セレン酸ナトリウム (アセレンド注Ⓡ)が厚生労働省より製造販売の承認を 受けた. 本症例はアセレンド注Ⓡ発売前であり,セレン補充 目的に経腸栄養補助食品としてブイ・クレスⓇを使用し た.ブイ・クレスⓇは 125 mL 中にセレン 50 μg を含 有しており,リーナレン MPⓇと併せ(125 mg 中にセ レン 18 μg 含有),経腸栄養のみで計 86 μg/day のセ レンを補充した.食事開始後も計 100 μg/day 以上の セレン摂取に努め,速やかな臨床症状の改善を認めた.

結  語

腹膜透析患者に対する経静脈栄養中に筋肉痛を発症 し,精査の結果セレン欠乏症の診断に至った 1 例を経 験した.末期腎不全患者においては,たんぱく質摂取 制限などのさまざまな理由にてセレン欠乏となりやす いことが知られており,とくに PD 患者において,HD 患者よりも血中セレンの低下が起こりやすく,より注 意が必要と考えられる. 本症例の要旨は,第 64 回日本透析医学会学術集会・総会 (2019 年 6 月,横浜)で発表した. 利益相反:本症例報告については,開示すべきものなし. 文献 1) 児玉浩子,朝桐公男,恵谷ゆり,他.セレン欠乏症の 診療指針2018.日本臨床栄養学会雑誌2018; 40: 239 83.

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参照

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