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スポーツ組織研究の動向と展望 -組織論的研究を中心に-

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Ⅰ.緒  言

スポーツ組織研究の動向と展望

一組織論的研究を中心に-武 隈   晃*

(1994年10月17日 受理)

Recent Research Trends on Sport Organizations: From the Viewpoint of Organizational Theory

Akira TAKEKUMA 「スポーツ組織」とは,スポーツに関わる特定の目的を達成するために,意図的に調整された諸 活動に関する協働システムである。したがって広義にはスポーツ活動を成立させる活動単位(典型 的には地域のスポーツクラブ)にもスポーツ組織の名辞を与えることができる。 佐伯1987 によれば,スポーツ組織は,いくつかの視点で分類されるという。組織化の程度と 安定度に注目すればサークル,クラブ,団体に区分され,後者において組織化の程度は高まる。ま た,活動の性格上の違いからアマチュアの組織とプロフェッショナルの組織に分けられるとしてい る。アマチュア組織は組織基盤によって競技種目の組織と地域の組織(競技種目を越えた総合的な 組織)に分かれ,それぞれが市町村や郡,都道府県,ブロック,全国,国際組織へと層化され統合 されるものが多い。プロフェッショナル組織の中心はプロスポーツの興行権をもつ興行組織であ る注1)。 一方,伊藤1987 は,アマチュアスポーツ団体をスポーツクラブなどの「単位団体」, 「競技団 体(各種競技別に組織されるスポーツ団体)」, 「地域的統括団体(日本の都道府県体育協会やスポー ツ先進国にみられる州スポーツ連盟など)」, 「国内統括団体」, 「国際統括団体」に区分している。 また,法的性格からみれば法人格をもつ団体と非法人の任意団体に大別できるとしている。 これらの他,スポーツに関わる主に「サービス財」による営利を目的とする「営利法人」もスポー ツ組織(厳密にはスポーツ経営組織)の性格をもっている。一般に「商業(民間営利)スポーツ施 設」と呼ばれるものに代表され,日本においてはこの10年余りの間に急増した。 本稿においてはスポーツ活動の「場」となるスポーツ集団を統括する権限と義務をもつ上位組織 *鹿児島大学教育学部保健体育科

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66 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第46巻 としてのスポーツ団体を「スポーツ組織」と規定する。かかる意味におけるスポーツ組織は,一般 に明確な統制機構を有し,地位と役割のシステムに基づいて諸活動が展開される。 さて,日本におけるスポーツ組織の研究は極めて低調であるといわざるを得ない。特に,実証的 (経験的)研究は欧米に比べて著しく立ち遅れている。それは,スポーツ組織を実証的に分析する ための概念的枠組みが準備されてこなかったことだけによるのではなく,研究対象として大方の関 心を集めてこなかったことによるものと考えられる。 前者に関しては,組織研究そのものを学問の成立基盤とするいわゆる「組織論」が,主に企業を フィールドとして発展し,そのため,競技団体のように一般にボランティアによって活動が維持さ れ,しかも共通の職場空間を持たないような非営利組織の分析に耐えるような枠組みを提示してこ なか79たことが指摘できる。後者に関しては,一部を除いて日本のスポーツ組織が組織としての体 裁を整えたのが欧米に比べて遅れ,主に戟後以降であり,それ故,研究上固有の認識対象として意 識されてこなかったことと関係している。 しかしながら今日,日本におけるいわゆる「行うスポーツ」の質的変容や「見るスポーツ」の発 展は各種スポーツ組織に対する社会的要請の変化をもたらし,そのことがスポーツ組織の理論的あ るいは実証的研究の必要性を顕在化させているとみることに誤りはないであろう。 本稿では,スポーツ組織に関する内外の研究のうち,主に組織論的なアプローチに基づく文献を レビューし,スポーツ組織研究の視座について検討する。なお,いわゆるマクロ組織論の範噂とし て理解される社会学(厳密には組織社会学)的なアプローチについてもレビューの対象とした。 さらに,それらに基づいて,スポーツ組織研究の可能性や展望について論述する。

Ⅱ.欧米(特に北米)を中心としたスポーツ組織研究

スポーツ組織に関する理論的研究は,主にスポーツ社会学の分野において一定の成果をおさめて いる。特に早くからスポーツ組織の成熟化が進んだ英国,旧西ドイツ,米国,カナダ等において注 目すべき研究成果があげられている。 一方,これに加えて,北米スポーツマネジメント学会の発足にともない,その機関誌Journalof Sport Managementが1987年に創刊され,マネジメント経営学の色彩の強い組織論的研究がここ 数年,数多く報告されるに至っている。 (1)組織構造論を中心とした研究 組織構造とは,狭義には組織における分業や権限関係の安定的パターンを意味するが,広義には 組織活動の実行の枠組みを作り出す組織の持続的特性と定義される。 Williams&Jackson 1981は,ボランタリスポーツ組織(欧米では高度に制度化されたプロ フェッショナルスポーツ組織に対して,任意の自発的なスポーツ組織をボランタリないしアマチュ

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アスポーツ組織と称しており,以下,本稿ではボランタリ組織と呼ぶことにする)の公式および非 公式構造を分析している。また, Williams (1981)は,ボランタリ組織の構造と構成員の組織-の参与について考察している。 Slack 1985 はカナダのボランタリ組織の官僚制組織化の過程, および組織形態と官僚主義化について検証し,その特徴について考察した。 Haggerty (1988)は サイバネティクスの立場から,組織コントロールと情報システムの設計について論じている。さら に, Jackson 1987 はスポーツ組織の構造を公式関係とコミュニケーションを鍵概念として検討 している。組織の専門化,標準化,集権化の三つの次元によって,アマチュアスポーツ組織の構造 を分類したKikulis 1989 の研究は,オーソドックスな組織変数による構造分析であり,組織過 程(後述)との関連においてカナダ国内スポーツ組織の構造特性を記述したMorrow (1992)と ともに最近の組織研究の一般的なスタイルをスポーツ組織研究に導入したものとして注目される。 (2)組織過程論を中心とした研究 組織過程とは組織における行為の継続的・相互依存的連続と定義され,組織の動態的側面を照射 する。 スポーツ組織に関する組織過程研究の中心は,組織リーダーの行動に焦点を当てたものにあると いえよう。 それらの中で,スポーツ組織研究に成熟したリーダーシップ論の導入を図ったChelladurai (1980),スポーツ組織におけるリーダーシップ研究を包括的にレビューし,そのほとんどが LBDQやLPCなど標準化された測定尺度を用い,大学(間)スポーツ組織を対象に行われている ことを報告したPaton 1987)の報告は特筆すべきであろう。また,アマチュアスポーツ組織に おいて,管理者の意思決定や行動がパーソナルスタイルに規定されることを明らかにしたOlafson & Hastings (1988),リーダー行動が組織風土と大学対抗競技コーチの職務満足に及ぼす影響につ いて分析し, 「構造づくり」よりも「配慮」行動が強い影響力をもつことを兄いだしたSnyder 19.90 ,有効な競技組織が,部下との対人関係よりも目標や課題達成に傾倒したリーダーを有して いることを明らかにしたBranch (1990 の研究は,質問紙調査による実証的なリーダー行動論と して整理することができる。最近では, Kjeldsen (1992)がスポーツ組織における道徳的行動を 椎持するために,管理者は教師,管理者,法律家の機能を担う必要性があることを強調し, Cleav (1993 が職務特性モデルによって大学の体育およびスポーツにおける管理者の職務特性を検討し た結果,諸現象を説明するために職務特性モデルは有効であるものの,管理者の成長への満足と自 律性の関連性について,モデルから予測される結果が得られなかったことを報告している。また, Soucie (1994)が状況的リーダーシップ,カリスマ的リーダーシップ,変革的リーダーシップな どの新しいリーダーシップ理論を用いて,スポーツ組織における有効なリーダーの行動と態度を演 禅的に洞察している。 これらはスポーツ組織におけるリーダー研究の新たな方向性を示唆するものと考えられるが,分

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68 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第46巻(1995 析の対象がいずれも国レベルのボランタリ組織や大学スポーツ組織(競技局)など,構造化と標準 化が比較的進展した組織である。したがってそれらの次元において未成熟な組織に関して,かかる アプローチやそれに基づく分析結果が妥当する保障はない。 一方,それ以外の組織過程変数に着目した研究としては,パワーと統制の概念を用いてアマチュ アスポーツ組織を事例的に検討し,個人間の相互作用が交換的に行われているが,バランスを欠い ていることを指摘するPitter 1990 の報告が注目される程度であり,コミュニケーションや意思 決定など組織論的に重要視される変数に関する研究は低調である。 (3)組織有効性を中心とした研究 組織有効性とは,組織が期待する成果を評価するための基準となる概念である。一般に組織目標 の達成度に関わる側面を意味するゴールモデルとシステムの維持や稼働状況に関わる側面を意味す るシステムモデルが想定される。 スポーツ組織の有効性を構成する諸変数を明らかにしたFrisby (1986),スポーツ組織の多次元 的有効性モデルを提起したChelladurai 1987 は組織有効性論に基づいた研究の萌芽と位置づけ ることができよう。 Chelladurai 1991はその後,国内スポーツ組織の組織有効性の測定方法に ついて論及L Orders&Chelladurai (1994)は国内スポーツ組織のプロダクトである競技者の 支援プログラムの有効性について考察している。一方,システムモデルに準拠した研究は稀薄であ り,わずかに組織行動論の立場から企業フィットネスにおける管理者の職務満足を検討した Koehler 1988 の研究が目につく程度である。ミクロ組織論として総括される組織構成員の職務 満足やモティベーションに着目した「組織行動」研究については今後の課題といわざるを得ない。 (4)戦略論およびマーケテイング論に関する研究 戟略論は組織による対環境の決定ルールを体系化する枠組みであり,マーケテイング論は組織と そのプロダクトたる諸事業を享受する者との間の望ましい関係づくりを通して,両者の満足を高め るための活動を組織化する枠組みを意味する。非営利組織においてそのような理念を問題とし,理 論的なアプローチが成されるようになったのはごく最近のことであり,したがって,この種の研究 は散見されるにすぎない。 Rail 1988 はアマチュアスポーツ組織の分析に戦略分析モデルが有効であることを示している。 Thibaultetal. 1993 はカナダ国内スポーツ組織の分析に戦略論を用い,その構成次元にしたがっ て組織戟略のタイプを示すことによって,非営利組織を戦略論によって分析するための枠組みを示 した。さらに戟略論のモデルを適用し,二つの戦略次元の組み合わせからなる四つの戦略のタイプ が,非営利スポーツ組織を記述する際に有用であることを明らかにしている(Thibaultet alH 1994。 スポーツマーケテイングがすべてのスポーツ組織において必要とされることを指摘し,その方法

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について論じてたHuggins (1992)の研究は,今後の実証的な研究によって開花することが期待 される。 (5)その他の注目される研究 戦後における英国柔道の組織的,文化論的変革について,柔道の国際化やトレーニング方法の合 理化という文脈において説明したGoodger&Goodger (1980),資源依存論,制度理論,組織文 化論,変革型リーダーなどの概念枠組みによってカナダ国内スポーツ組織の変革を分析したSlack & Hinings (1992)は,ともに組織の変革(organizational change)について論及した数少ない 研究である。 Heinemann&Horch (1982 はマクロ組織論の立場から, Slack (1986)はケース研究の手法 を用いて,それぞれスポーツ組織の包括的な検討を試みている。 また, Williams&Jackson (1981はボランタリスポーツ組織におけるボランティアの参与の しかたについて,彼等の目的や動機に論及することによって検討しているのに対して, Slack(1991はボランタリスポーツ組織に専門職を雇用することが組織の構造やシステムにどの ような影響をもたらすか,すなわち専門職が組織開発や組織変革に及ぼす影響について検討した。 スポーツ組織の機能と組織構成員の社会的行動について論じたPawlak (1981),アマチュアス ポーツ組織における財政の実態について報告したKoch 1985 はスポーツ組織研究の課題を提起 している。

Ⅲ.日本のスポーツ組織研究

先に述べたように日本のスポーツ組織研究は低調であり,方法論的にみても欧米のそれとかなり スタイルを異にしている。特に,組織そのものを直後の研究対象とする「組織論」的研究はほとん ど手つかずの状態である。しかしながら,若干の成果も報告されており,ここではそれらについて レビューする。 (1)歴史社会学的な研究 わが国にスポーツ組織が発生し,発展する過程を歴史社会学的観点から詳細に検討した日下 (1985, 1988),プロ野球組織を中心にその成立過程を記述した菊(1992)は,それぞれ異なるスポー ツ組織を対象としているが,歴史社会学の綿密なアプローチを採用し,スポーツ組織の発生から, それが成熟化する過程を丹念に追っている。 (2)経営組織論的研究 八代他(1993),山下1994 は前者が地域スポーツ経営,後者が民間のスポーツクラブを対象

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70 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第46巻(1995) としており,組織としての特徴が大いに異なる経営主体を題材としている。しかし,いずれも組織 間関係論という経営組織論の新しい枠組みを援用している点で共通している。個体組織を問題とす るのではなく,組織間の関係にスポーツ組織研究の地平を切り開いたという意味において注目され る。さらに山下(1994 はスポーツ・イノベーションの概念によってスポーツ経営組織の変革行動 について論及している。 (3)地域スポーツの組織に関する研究 岡部1985)はコミュニティ・スポーツ組織を社会体育行政との関連において事例的に考察し, 阿保(1986)は地域スポーツクラブの連合組織に関して考察している。また,稲田・刈谷1986 の報告は,運動者団体の実態に関わるものである。

Ⅳ.研究動向の分析と展望

これまでの文献レビューから明らかなように,欧米と日本のスポーツ組織研究の蓄積にはかなり 落差があり,しかも対象とする組織の性質や分析の中核として捉える組織現象にも大きな違いがあ る。 日本におけるスポーツ組織研究は,歴史社会学的研究,組織間関係論の枠組みを駆使した研究な ど,その方法論に特徴があり,オーソドックスな組織論研究はほとんどみられない。そのことは研 究対象の多くが地域のスポーツ組織という,構造化や標準化が十分に進展していない組織を対象と していることと関連している。 翻って,多様なスポーツ組織の中で,これまで日本の競技スポーツにおける活動の枠組みづくり に関して,強い影響力を及ぼしてきたのはいわゆる競技団体であった。また,それらは組織活動の しくみをつくりだす構造や過程に関して,一定の構造化や標準化が保障されている。したがって経 験的なレベルで実証的な研究を行うための対象としてそれらを認識することが可能である。国内レ ベルおよび都道府県レベルの競技団体の分析,特に組織論的アプローチによる研究を日本における スポーツ組織研究の課題として設定する必要があろう。 ′次に,欧米のスポーツ組織研究の動向について分析を試みる。そこでまず,その準拠枠となるス ポーツ組織における統合的モデルを提示することにしよう(図1参照)。 環境特性とは組織の境界に存在し,組織現象のあらゆる側面に直接,間接に影響を及ぼす要素の 総体である。このうち,特に組織の目標設定やその達成に直接的,あるいは潜在的に関係したり, それを制約したりする環境特性を示す「課題環境」が最も重要である。組織の理念・目標,経営戟 略,経営資源は一般にコンテクストと呼ばれ,環境と組織の間に存在し,組織に一定の影響を及ぼ す要素である。組織特性は,基本的にコンテクストにしたがってデザインされる。組織特性はマク ロレベルの組織構造,ミクロレベルの個人特性(属性),両者にとってはメゾスコピックなレベル

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組織特性 マクロレベル (組織の持続的特性と してのしくみ) 環 境 特 性 (広義)組織構造 組織活動の実行の枠組 を作り出す組織の持続 的特性 (狭義)組織構造 分業や権限関係の安 定的パターン 組  織  有  効  性 メゾレベル (組織の動態的側面) 組織過程 行為の継続的・相互依 存的連続 (コミュニケーション・ 意思決定・リーダーシッ プetc.) 組織活動特性注1 ) ex.)知識共有・暖 昧性モデル 管理者行動注2) ミクロレベル (組織における個人) 個人特性 人的資源論的 人間行動論 人間関係論的 人間行動論 ex.)欲求満足 理念・目標 経営戟略 経営資源 組織変化(変革),組織活性化 組織のプロダクト ス ポー ツ 事業 関連的スポーツ事業 事業の改善 注1)ここに位置づけたのは,マクロとミクロを統合する中間領域を形成する可能性をもつからである。また, 組織における個人行動と区別するために「組織活動」概念を用いた 注2)これもマクロ・ミクロの中間領域を形成する可能性をもつ 図1 スポーツ組織における統合的組織モデル で存在する組織過程からなり,それらの相互作用によって組織のプロダクトたるスポーツ事業と関 連的スポーツ事業を生み出す。システムとしての組織特性と組織のプロダクトを成果という次元か ら捉えるのが組織有効性であり,それは環境認知やコンテクストにフィードバックされる。加えて, このモデルには組織やプロダクトの改善や変革を意味する組織変化や事業改善の要素も組み込んで いる。 かかるモデルにしたがってスポーツ組織研究の動向を分析すれば,以下のように整理することが できる。      .

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72 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第46巻(1995) 組織構造に関する研究は比較的積極的に行われているとみることができよう。しかしスポーツ組 織における構造変数の分析を進め,他の組織との比較などによって,スポーツ組織の構造特性につ いてさらに解明する必要があろう。また,それ以上に組織の「見えない構造」といわれる組織風土 や組織文化,あるいはそれらに方向性を与える組織学習特性の検討が今後必要である。もっともそ のような組織変数の分析は規模や組織化の程度に関して一定の条件が満たされているという前提が 暗黙裡に求められており,研究対象となるスポーツ組織は比較的大規模なものに限定されよう。 組織過程に関わる研究は先に指摘にしたようにリーダーシップ変数に集中している。しかし,フォ ロワーに対する対面的な影響行動のみを対象とすることは,リーダー行動の一部を分析するに過ぎ ないことを意味する。したがって対面的影響行動を越える概念枠組みが求められることになる。 方,それ以外の組織過程変数の分析は低調である。特にコミュニケーション,意思決定,コンフリ クト解消,パワーなどの諸変数は,組織成果に大きな影響力を及ぼすことが知られており,その部 分にアプローチすることが求められる。 組織有効性に関する研究は,比較的積極的に行われているとみることができよう。それらの多く はいわゆるゴールモデルに依拠したものであり,システムの維持に関わる諸変数,すなわち組織構 成員の満足や疎外,あるいは同一化などの次元に関わる研究が要請される。また,ゴールモデルに よる研究も,評価基準となる目標設定は,組織の性格やタイプに応じて設定される必要があり,か なり綿密な検討に基づいた測定尺度の開発が求められる。 ミクロの組織行動(組織における人間行動)に関わる研究は,ミクロ組織論における中心的課題 であるが,スポーツ組織における組織行動研究は脆弱である。特に,ボランタ、リ組織における組織 行動研究は企業組織等における分析枠組みをそのまま援用する訳にはいかないので,スポーツ組織 の特徴を視野に入れた組織行動研究が新たな課題として設定されることになる。 コンテクストに関する研究は戟略研究に注目されるものが散見されるが,経営資源論に関わる研 究は手つかずの状態であり,今後の取り組みが期待される領域といえよう。また,経営理念の研究 は一般組織研究においてもその困難さが指摘されているが,スポーツ組織に対する社会的要請の変 化にも目を向けながら検討することが必要であろう。 組織成員による組織活動の蓄積は,言うなれば組織の財産として組織に蓄えられることになる。 これが実際の組織の活動に生かされなければ組織の余剰蓄積として止まるにすぎない。しかし,そ れを人的経営資源として活用することを前提とするならば,組織活動の新たな局面を展開する要因 となる可能性をもつ。また,組織活動を経験することによる組織成員の欲求水準の上昇もこれと同 -I じような効力をもっている。これに組織が環境の変動につき動かされるという性質を勘案したなら ば,組織研究の一領域として組織変化の問題を位置づけることは必然といえよう。 組織変革,組織成長などの名辞が与えられるこれらの現象を引き起こすスポーツ組織の特性につ いても研究対象として認識する必要があろう。こうした研究は未だ緒についたに過ぎないが,武隈 (1993),山下(1994)は,そのような立場における研究の可能性を示唆している。

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以上の論議からスポーツ組織研究における緊要な課題として以下の4点をあげ,まとめに代えた い。 ①リーダーシップ論を越えた管理者の行動研究 スポーツ組織における管理者の行動はフォロワーに向けた下方向の影響行動に限定されない。組 織の上層部に向けた行動(上方影響力),組織外部に向けた行動(対外的活動),経営諸資源(特に 情報資源,財務的資源,スポーツ施設などの物的資源)に関わる,あるいはそれを獲得し,処理す るための行動,等々は組織の有効性に極めて大きな影響力をもつものと考えられる。したがって, たとえば管理者行動(managerial behavior)論などに依拠した研究が必要であろう。 ②ミクロ組織論としての組織行動研究 特に,スポーツ組織に多くみられるボランタリ組織における組織成員の行動原理や行動特性につ いては,一般組織論で展開される組織行動論で説明できないものがあると予想される。組織成員の 心理的・情緒的なつながりにも目を向けながら実証的に検討することが肝要であろう。 ③組織有効性研究 先に指摘したように,まずはそれぞれのスポーツ組織に固有の測定尺度を開発することが重要で ある。当然のことながら,これと関連して,スポーツ組織の経営理念や目標および経営戦略に関す る洞察が求められることになる。 ④組織変化の理論的・実証的研究 スポーツ組織における組織変化(organizational change)を説明する理論モデルを構築した後, 変化のプロセスを分析する実証的な研究に取り組む必要がある。 スポーツの高度化と大衆化は,結果的にそれを推持・発展させるための統制機構を有するスポー ツ組織への関心を呼ぶことになる。また,スポーツの産業化はスポーツ組織の制度や体質の変貌を 要請する。スポーツ組織の機能や有効性に迫る研究需要の増大は,そうした状況が生み出す必然と いえよう。 注 注1)ただし今日では,たとえば日本におけるサッカーのJリーグゲームに関して,都道府県サッカー協会 (佐伯の分類によればアマチュアの組織)がその興行に関わっているという事実をみても,アマチュアと プロフェッショナルという二分法では説明できない現象が起こっている。少なくとも組織活動の現象面で みる限り,アマとプロという境界線は引きにくい状況が到来している。 文   献 1 )阿保雅行(1986)地域スポーツクラブの連合組織に関する一考察.東京外国語大学論集 36-: 169-193.

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