弘
法
大
師
の
諸
開
題
等
に
散
見
す
る
釈
論
の
思
想
小
田
慈
舟
一 序 言 弘 法 大 師 の 教 義 に は 釈 摩 詞 術 論 が 極 め て 重 大 で あ る。 特 に 顕 密 二 教 の 優 劣 浅 深 を 判 ず る 上 に こ の 論 は 重 要 な 資 料 と な つ て い る。 私 は 今 秋 高 野 山 大 学 で 開 か れ た 日 本 密 教 学 会 で ﹃ 釈 摩 詞 術 論 と 弘 法 大 師 の 教 学 ﹂ と 題 し て 講 演 し、 更 に そ れ を 敷 術 し て 一 文 を 艸 し、 学 会 へ 提 出 し て 置 い た。 何 れ 報 告 書 に 掲 載 さ れ る こ と と 思 ふ が、 紙 数 の 制 限 に よ つ て、 諸 開 題 等 に 顕 は れ た 思 想 に つ い て は 僅 か 二 三 の も の に ふ れ た の み で あ つ た。 今 こ れ を 補 充 す る 意 味 で、 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想 に つ い て、 一 々 に 文 章 を 掲 げ て こ れ を 詳 述 し、 大 師 の 思 想 に 於 け る 釈 論 の 影 響 を 示 す こ と に し た。 両 論 文 を 併 読 し て い た だ き た い。 大 師 の 諸 開 題 は そ の 真 撰 と 見 ら れ る も の 二 十 種、 こ れ に 真 実 経 文 句、 法 華 経 釈 の 如 き、 開 題 に 準 ず る も の 五 種 を 合 せ、 二 十 五 篇 を 弘 法 大 師 全 集 第 四 に 収 め、 真 偽 未 決 の も の 数 篇 を 巻 第 十 一 に の せ て い る。 今 は 真 偽 未 決 の も の に は ふ れ な い。 諸 開 題 は 多 く は 短 篇 で あ る が、 大 日 経、 金 剛 頂 経、 理 趣 経 の 三 本 の 密 教 の 根 本 聖 典 と、 顕 経 の 中 の 法 華 経、 寂 勝 王 経、 金 剛 般 若 経 に 関 す る 大 師 の 見 解 を 知 る 上 に 極 め て 重 要 な 書 で あ り、 大 師 の 教 学 を 研 究 す る 上 に は 無 視 で き な い 文 献 で あ る。 こ の 重 要 な 諸 開 題 の 中、 大 日 経 開 題 (今 釈 此 経 本 )、 理 趣 経 開 題 ( 将 釈 此 経 本 )、 仁 王 経 開 題、 一 切 経 開 題 を 除 く 十 六 篇 の 開 題 と 法 華 経 釈 と に 釈 論 の 思 想 と 関 連 す る 文 章 三 十 三 を 検 出 し た。 ま た 性 霊 集 に 八 文、 三 昧 耶 戒 序、 秘 密 三 昧 耶 仏 戒 儀、 平 城 天 皇 灌 頂 文 の 三 書 か ら 七 文、 付 法 伝、 即 身 成 仏 義、 声 字 実 相 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想密 教 文 化 義、 畔 字 義 か ら 七 文 を 得 た。 こ の 外 秘 蔵 記、 十 住 心 論 第 九、 秘 蔵 宝 鍮 下、 弁 顕 密 二 教 論 上 に 関 連 の 文 章 を 見 る が、 秘 蔵 記 等 に つ い て は 既 に 日 本 密 教 学 会 へ 提 出 し た 論 文 で 述 べ て い る か ら、 今 は 諸 開 題 か ら 件 字 義 ま で の 諸 文 に つ い て 述 べ る こ と に す る。 弘 法 大 師 の 教 学 と 釈 摩 詞 術 論 と の 関 係 に つ い て は、 故 森 田 竜 偲 教 授 の 名 著 ﹃ 釈 摩 訂 術 論 之 研 究 ﹄ と ﹃ 秘 密 仏 教 の 研 究 ﹄ と に、 広 く 大 師 の 著 作 か ら 関 運 文 章 を 検 出 し て 論 述 せ ら れ た。 先 生 の 検 出 は 極 め て 詳 密、 こ れ に 加 へ 得 る も の は 僅 で あ つ た。 従 つ て こ の 論 文 が 先 生 の 著 作 に 負 ふ 所 大 な る こ と を 前 以 つ て 記 し て 置 く。 二 大 日 経 の 開 題 に つ い て 釈 論 の 思 想 に ふ れ た 大 日 経 開 題 は 六 本 あ る。 全 集 所 載 の 順 に よ つ て、 こ の 六 本 の 開 題 の 文 に つ い て 述 べ る こ と に す る。 一、 大 日 経 開 題 ( 法 界 浄 心 本 ) に 云 は く。 夫 れ 法 界 の 浄 心 は 十 地 を 超 え て 以 て 絶 々 た り。 一 如 の 本 覚 は 三 身 を 孕 ん で 離 々 た り。 況 ん や 復 曼 茶 ( 大 疏 宥 快 砂 第 三 八 に は 羅 の 一 字 を 補 ふ ) の 性 仏 は 円 々 の 又 の 円、 大 我 の 真 言 は 本 有 の 又 の 本 な り。 風 水 の 竜 其 の 波 瀾 を 動 ず る こ と を 得 ず。 業 転 の 霧 其 の 赫 日 を 蔽 す こ と 能 は ず。 恒 沙 の 春 属 は と こ し え 鎮 に 自 心 の 宮 に 住 し、 無 尽 の 荘 厳 は 本 初 の 殿 に 優 遊 す。 文 ( 全 集 和 四・ 一、 洋 一 ・ 六 三 三。 大 日 経 開 題 隆 崇 頂 本 和 四 ・ 三 六、 洋 一 ・ 六 六 八 に 同 一 文 あ り。 ) こ の 文 中 の 法 界 浄 心、 一 如 本 覚、 円 々 之 又 円、 本 有 之 又 本 等 の 句 は 釈 論 の 文 に よ つ た も の で、 こ の 一 文 が 釈 論 の 思 想 に よ つ て 述 べ た も の で あ る こ と は 明 で あ る。 宥 快 師 の 開 題 砂 に こ の 文 に つ い て 古 徳 の 釈 を 三 義 あ げ て い る。 一 は 三 門 分 別 の 意 に よ つ て 真 生 二 門 の 因 分 に 対 し て 不 二 の 果 分 を 示 す と 云 ふ。 即 ち ﹃ 法 界 浄 心 ﹄ 等 は 生 滅 門 に よ り、 一 如 本 覚 等 は 真 如 門 に よ り、 ﹃ 況 ん や 復 ﹄ 等 は 不 二 門 に よ る 釈 と 見 る の で あ る。 二 は 三 門 倶 密 の 義 に よ つ て 真 言 密 教 の 深 旨 を 示 す と す る。 二 門 分 別 の 場 合 は 真 如 門 は 密 に 属 す る が、 今 は 更 に 開 会 の 義 を 以 て 生 滅 門 に も 秘 密 の 義 を 見 る の で あ る。 三 に 今 文 は 大 日 経 の 三 部 の 徳 を 示 す と す る。 即 ち ﹃ 法 界 浄 心 ﹄ は 蓮 華 清 浄 の 理、 ﹃ 一 如 本 覚 ﹄ は 金 剛 部 円 明 の 智、 ﹃ 曼 茶 性 仏 ﹄ は 仏 部 総 徳 を 示 す と 見 る の で あ る。 こ の 三 義 の 中 初 義 は 顕 密 対 弁 の 立 場 か ら 述 べ、 後 の 二 義 は 自 宗 不 共 ( 独 特 ) の 釈 で あ る。 こ の 三 義 は 共 に 道 理 が あ り、 三 義 相 待 つ て、 文 の 深 意 を 汲 む こ と が で き る。 ま た 宥 快 師 の 梵 網 経 開 題 砂 に、 釈 論 に 説 く 真
如 生 滅 不 二 の 三 門 は 秘 密 を 示 す 所 の 不 二 門 か ら 真 生 二 門 を 開 く の で あ る か ら、 本 よ り 末 を 照 す 時 は 三 門 皆 秘 密 で あ り、 末 よ り 本 に 至 る 次 第 階 級 を 説 け ば、 真 生 二 門 は 顕 乗 の 分 斉、 不 二 門 の み 独 り 秘 密 で あ る と 説 く か ら、 こ れ に よ つ て 第 二 の 三 門 倶 密 の 義 を 意 得 た ら よ い。 文 の 中 の ﹃ 十 地 ﹄ は 顕 教 に 立 て る 十 地 の 菩 薩 の 位 階 を 指 す。 ﹃ 円 々 の 又 の 円 ﹄ は 至 極 円 満 の 義 を 示 す 文 で あ る が、 ま た 円 々 は 金 胎 両 部、 又 の 円 は 両 部 不 二 を 示 し て い る。 教 王 経 開 題 及 び 梵 網 経 開 題 等 に ﹃ 髪 円 性 海 ﹄ と 云 ひ、 法 華 経 開 題 に ﹃ 重 円 性 海 ﹄ と 説 く は、 こ れ に 準 じ て 意 得 た ら よ い。 ﹃ 風 水 の 竜 ﹄ は 釈 論 第 二 に 説 く 出 生 風 水 竜 王 の こ と で 生 滅 所 入 の 一 心 を 指 す。 釈 論 第 二 に 所 入 一 心 の 十 名 を 明 す と き、 第 三 に 出 生 竜 王 の 名 を あ げ、 真 如 所 入 の 一 心 を 出 生 光 明 竜 王、 生 滅 所 入 の 一 心 を 出 生 風 水 竜 王 と 名 く る こ と を 説 き、 前 者 は 純 浄 の 本 法 を 体 と し、 後 者 は 染 浄 二 法 を 体 と す る こ と を 明 す。 今 文 に ﹃ 風 水 の 竜 は 其 の 波 瀾 を 動 ず る こ と を 得 ず ﹄ 等 と 説 く は、 染 法 の 妄 風 と 浄 法 の 真 水 と を 併 せ 生 ず る 所 の 生 滅 所 入 の 三 自 一 心 の 竜 王 は、 因 分 で あ る か ら 果 海 に 游 泳 す る こ と は で き な い こ と を 明 に し た も の で あ る。 染 法 の 妄 風 と 云 ふ は 根 本 無 明 と 生 住 異 滅 の 四 相 で あ る。 四 相 は 開 け ば 業 転 現 の 三 細 と、 智 相 ・ 相 続 ・ 執 取 ・ 計 名 ・ 起 業 ・ 果 法 の 九 法 と な る。 そ の 中 の 業 相 は、 根 本 無 明 が 本 覚 の 真 心 を 薫 ず る 時、 真 心 が 初 め て 微 細 の 動 揺 を 生 ず る 位 で あ る。 転 相 は 業 相 が 一 転 し て 能 縁 の 見 分 と な る 位 で あ る。 開 題 の 文 に ﹃ 業 転 の 霧 ﹄ 等 と 釈 す る は こ の 業 転 二 相 を あ げ て そ の 他 の 七 相 を こ れ に 含 ま し め、 生 滅 門 の 一 切 染 法 は 不 二 一 心 の 日 光 を 遮 蔽 し 得 な い こ と を 述 べ た の で あ る。 二、 同 本 に 云 は く。 神 変 と は 測 ら れ ざ る を 神 と 日 ひ、 常 に 異 る を 変 と 名 く。 即 ち 是 れ 心 の 業 用 な り。 始 終 知 り 難 し。 三 種 の 凡 夫 識 知 す る こ と 能 は ず 十 地 の 聖 者 も 未 だ 其 の 辺 を 知 ら ず、 唯 し 仏 の み 能 く 知 り 能 く 作 す。 故 に 大 神 変 と 日 ふ。 此 の 神 変 無 量 無 辺 な り、 大 に 分 つ て 四 と 為 す。 一 に は 下 転 神 変、 二 に は 上 転 神 変、 三 に は 亦 上 亦 下、 四 に は 非 上 非 下 な り。 下 転 と は 本 覚 の 神 心 よ り 随 縁 流 転 し て 六 道 の 神 変 を 作 す。 又 声 聞 縁 覚 等 も 分 に 神 通 変 化 を 作 す。 並 に 是 れ 迷 少 の 神 変 な り。 法 仏 の 如 来 大 悲 大 定 よ り 能 く 難 思 の 事 業 を 作 し て 聾 蟄 の 耳 目 を 驚 ( 一 に 警 に 作 る ) 覚 し た ま ふ。 是 の 如 く 等 の 事 は 下 転 神 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 変 な り。 上 転 神 変 と は、 若 し 衆 生 有 り て 菩 提 心 を 発 し、 自 乗 の 教 理 を 修 行 し、 昇 進 し て 本 覚 の 一 心 を 証 す れ ば、 則 ち 能 く 迷 識 の 神 心 を 転 変 し て 自 乗 の 覚 智 を 証 得 し、 一 切 の 難 思 の 妙 業 心 に 随 つ て 能 く 作 す。 即 ち 是 れ 上 転 神 変 な り。 亦 上 亦 下 と は、 法 界 の 身 雲 恒 沙 の 性 徳 形 と し て 形 な ら ず と い ふ こ と 無 く 像 と し て 像 な ら ず と い ふ こ と 無 し。 一 切 の 形 像 を 以 て 一 切 の 法 性 塔 と 為 す。 是 れ 則 ち 上 に 臨 む れ ば 則 ち 下、 下 に 臨 む れ ば 則 ち 上 な り。 並 に 皆 四 種 身 を 具 し て 大 神 通 を 起 す。 故 に 亦 上 亦 下 神 変 と 云 ふ。 非 上 非 下 神 変 と は 非 有 為 非 無 為 の 一 心 の 本 法 と 及 び 不 二 が 中 の 不 二 の 本 法 と は、 諸 の 戯 論 を 越 え て 諸 の 相 待 を 絶 す。 難 思 の 本、 変 化 の 源 な り。 故 に 非 上 非 下, 神 変 と 云 ふ。 文 ( 和 四・ 五、 洋 一. 六 三 七。 大 日 経 開 題 関 以 受 自 楽 本 和 四 ・ 五 四、 洋 一 ・ 六 八 六 に 同 文 あ り。 ま た 大 日 経 開 題 隆 崇 頂 本、 和 四 ・ 三 九、 洋 一 ・ 六 七 一 に 四 種 神 変 の 名 を 出 す が、 そ の 釈 は 略 し て い る。 ) 神 変 に 四 義 を 明 す こ と は、 釈 論 に 直 接 こ れ を 説 い て い な い が、 釈 論 第 六 に 変 の 功 徳 に 上 流 転 変 と 下 流 転 変 と の 二 義 を 説 く を 典 拠 と し て 案 出 せ ら れ た 義 と 思 は れ る。 上 流 下 流 の 二 転 変 に つ い て、 釈 論 末 師 の 中 の 通 法 大 師 法 悟 は、 賛 玄 疏 に、 上 流 は 仏 果 に 約 し、 下 流 は 因 位 に 約 し、 一 本 覚 が 因 果 凡 聖 に 亘 つ て 随 縁 し 転 変 す る 義 で あ る と 説 き、 慈 行 大 師 志 福 は 通 玄 砂 に、 上 流 下 流 の 二 転 変 は 染 浄 本 覚 が 具 す る 所 の 上 下 二 転 の 義 で あ る と 云 ふ。 無 際 大 師 普 観 の 記 も 亦 同 様 の 義 を 述 べ て い る。 こ の 説 は 一 往 は 本 覚 は 下 転、 始 覚 は 上 転 な る も、 実 は 二 覚 各 々 二 転 を 具 し、 今 は 本 覚 の 二 転 を 明 す と い ふ 意 で あ る。 四 種 神 変 の 中 の 下 転 神 変 に つ き、 文 に 凡 夫 の 神 変 と 二 乗 の 神 変 と 法 仏 の 神 変 と の 三 種 を 示 し て い る。 そ の 中 凡 夫 の 神 変 と は、 本 覚 が 随 縁 下 転 し て 無 量 の 染 法 を 現 じ、 六 趣 生 死 の 境 と 転 変 す る を 云 ひ、 二 乗 の 神 変 と は 六 神 通 に よ つ て 十 八 変 化 を 示 す 等 を 云 ひ、 法 仏 の 神 変 は 神 力 加 持 三 昧 に 住 し て 身 語 意 の 三 密 無 尽 荘 厳 蔵 無 量 の 三 身 を 奮 迅 示 現 す る を 云 ふ。 こ の 三 種 の 神 変 の 中 の 前 二 は 所 対 の 迷 少 の 神 変、 第 三 は 絶 待 の 大 神 変 で あ る。 第 二 の 上 転 神 変 は 修 生 上 転 の 神 変 で あ る。 法 仏 は 本 有 本 覚 の 体 で あ る と 同 時 に、 上 転 修 生 の 義 が あ る か ら、 因 行 果 の 三 句 の 次 第 を 経 て 大 覚 位 に 至 る と き に、 八 万 四 千 の 煩 悩 を 転 じ て 八 万 四 千 の 仏 徳 と な ら し め、 自 由 自 在 に 神 変 を 生 ず る。 こ れ が 即 ち 上 転 神 変 の 義 で あ る。
第 三 の 亦 上 亦 下 神 変 と は、 上 下 二 転 の 神 変 を 兼 ね 具 ふ る 義 で あ る。 法 界 の 諸 法 は 六 大 法 性 塔 婆 で あ る か ら 一 々 に 亦 上 亦 下 の 神 変 を 具 し て い る。 し か も こ の 神 変 は 法 仏 の 神 変 に 帰 す る。 第 四 の 非 上 非 下 神 変 と は、 非 有 為 非 無 為 の 生 滅 所 入 の 一 心 と、 不 二 一 心 と は 前 の 三 種 神 変 を 生 ず る 本 源 な る も、 こ の 二 種 の 一 心 は 法 仏 の 一 心 で あ る こ と を 示 す。 こ れ 開 会 の 義 を 以 て 生 滅 門 を 不 二 と 面 列 に 置 く 義 で あ る。 三、 大 日 経 開 題 (衆 生 狂 迷 本 ) に 云 は く。 心 王 の 大 日 は 三 身 を 孕 ん で 円 々 の 又 の 円、 心 数 の 曼 茶 は 十 と こ し え 地 を 超 え て 以 て 本 有 の 又 の 本 な り。 恒 沙 の 春 属 は 鎮 に 自 心 の 宮 に 住 し、 無 尽 の 荘 厳 常 に 本 初 の 殿 に 遊 ぶ。 文 (和 四 ・ 一 二、 洋 一 ・ 六 四 四 ) こ の 文 の 意 は 一 の ﹃ 夫 れ 法 界 の 浄 心 ﹄ 等 の 文 と 同 様 に 意 得 た ら よ い。 ﹃ 円 々 の 又 の 円 ﹄ は 教 王 経 開 題 に 双 円 性 海 と 説 く に 同 じ く、 釈 論 の 性 徳 円 満 海、 円 々 海 徳 の こ と で あ る。 ﹃ 本 有 の 又 の 本 ﹄ は 本 有 の 性 徳 を 示 す 句 で あ る が、 又 の 本 と い ふ こ と に よ つ て 意 を 強 め た の で あ る。 四、 大 日 経 開 題 ( 大 毘 盧 遮 那 成 仏 神 変 加 持 経 本 ) に 云 は く。 謂 は ゆ る 大 と は、 人 中 の 大、 法 中 の 大、 教 中 の 大、 義 中 の 大、 躰 中 の 大、 相 中 の 大、 用 中 の 大、 乗 中 の 大、 因 中 の 大、 行 中 の 大、 果 中 の 大、 入 中 の 大、 理 中 の 大、 智 中 の 大、 定 中 の 大 な り。 是 の 如 く 十 仏 刹 塵 の 大 を 具 す。 此 の 大 は 則 ち 絶 待 常 住 不 二 の 大 な り。 是 れ 相 待 無 常 の 大 に は 非 ず。 遍 照 を 以 て 讐 と 為 し、 帝 網 に 寄 せ て 喩 を 顕 は す。 文 ( 和 四 ・ 二 八、 洋 一 ・ 六 ○ ) 大 日 経 題 の 大 の 字 に つ い て 十 五 義 を 以 て 釈 し て い る が、 こ れ は 釈 論 の 思 考 法 を と り 入 れ て 大 の 意 義 を 各 方 面 か ら 追 求 し て 考 へ た 釈 で あ る。 後 に 掲 げ る 大 日 経 開 題 三 密 法 輪 本 に 釈 す る 大 の 十 三 義 と 対 照 し て 見 れ ば、 こ の 見 解 が 誤 で な い こ と を 知 る で あ ろ う。 ま た 大 日 経 第 一 に 広 大 金 剛 法 界 宮 の 句 を 釈 す る と き、 ﹃ 大 と は 謂 は く 辺 際 無 き が 故 に ﹄ と 説 き 大 日 経 略 開 題 に こ の 意 を 受 け て ﹃ 大 と は 謂 は く 無 辺 際 の 義 な り ﹄ と 釈 せ る ( 和 四・ 二 一、 洋 一・ 六 五 三 ) を 比 較 し て 見 た ら よ い。 五、 大 日 経 開 題 (隆 崇 頂 不 見 本 ) に 云 は く。 又 測 ら れ ざ る を 神 と 日 ひ、 常 に 異 る を 変 と 名 く。 此 の 神 変 無 量 な り、 大 に 分 つ て 四 と 為 す。 一 に は 下 転 神 変、 二 に は 上 転 神 変、 三 に は 亦 上 亦 下 神 変、 四 に は 非 上 非 下 神 変 な り。 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 悸 化 具 に は 疏 に 説 く が 如 し、 繁 に 依 つ て 記 せ ず。 文 ( 和 四 ・ 三 九、 洋 一 ・ 六 七 一 ) 四 種 神 変 の 義 は 上 に 述 べ た か ら、 今 は 釈 を 略 す る。 六、 大 目 経 開 題 ( 三 密 法 輪 本 ) に 云 は く。 謂 は く 大 と は 一 に は 躰 大、 二 に は 相 大、 三 に は 用 大、 四 に は 果 大、 五 に は 因 大、 六 に は 智 大、 七 に は 教 大、 八 に は 義 大、 九 に は 境 大、 十 に は 業 大、 十 一 に は 寂 大、 十 二 に は 勝 大、 十 三 に は 遍 大 等 な り。 謂 は く 躰 大 と は 若 し は 相 若 し は 用 真 如 の 性 と と も に 而 も 常 遍 広 博 な る こ と 猶 し 虚 空 の 如 く な る が 故 に。 二 に 相 大 と は 恒 沙 の 身 密 不 可 思 議 に し て、 互 相 即 入 し、 微 細 重 々 無 尽 な る が 故 に。 用 大 と は 業 用 周 普 し て 躰 の 如 く 遍 ず る が 故 に。 無 間 無 断 に し て 方 便 を 行 ず る が 故 に。 謂 は ゆ る 神 変 加 持 是 れ な り。 果 大 と は 謂 は く 智 断 依 正 法 界 に 普 周 す る が 故 に。 即 ち 謂 は く 大 毘 盧 等 な り。 因 大 と い ふ は 謂 は く 浄 菩 提 心 を 発 し 三 密 供 養 の 行 を 行 じ、 五 字 身 を 厳 り、 三 句 業 と 為 す が 故 に、 畔 字 即 ち 是 れ な り。 教 大 と は 謂 は く 三 密 所 現 の 一 色 一 声 等 法 界 に 遍 満 し て 本 不 生 を 詮 す。 三 時 を 超 え た る 如 来 の 日 時 に 常 恒 に 演 説 す る が 故 に。 義 大 と い ふ は 謂 は く、 所 詮 の 観 照 門 な り、 の 声 宇 含 苞 せ ず と い ふ こ と 無 き が 故 に、 阿 字 よ り 賀 字 に 至 る ま で 是 れ な り。 境 大 と い ふ は 能 所 詮 の 法 普 ね く 無 尽 の 衆 生 を 摂 し て 化 境 と 為 る が 故 に。 十 最 大 と い ふ は、 一 に は 超 過 最。 二 乗 地 を 遠 離 す る が 故 に。 二 に は 出 離 最。 三 界 の 城 を 離 る る が 故 に。 三 に は 対 治 最。 頓 に 四 住 地 を 断 ず る 故 に。 四 に は 厭 患 寂。 五 蒲 の 聚 落 を 過 ぐ る が 故 に。 五 に は 離 愛 最。 永 く 六 道 の 岐 を 別 る る が 故 に。 六 に は 威 徳 最。 七 悪 軍 を 退 す る が 故 に。 七 に は 兵 衆 最。 皆 八 邪 林 を 尽 す が 故 に。 入 に は 智 慧 劒 敢。 九 結 科 を 決 断 す る が 故 に。 九 に は 解 脱 寂。 十 纒 縄 を 断 除 す る が 故 に。 十 に は 勇 猛 寂。 九 十 六 種 の 外 道 を 催 伏 す る が 故 に。 経 に は 十 種 の 第 一 と 云 ふ。 十 勝 大 と い ふ は、 一 に は 力 勝。 十 力 を 具 足 す る が 故 に。 二 に は 無 畏 勝。 四 無 畏 を 具 足 す る が 故 に。 三 に は 不 共 勝。 十 八 不 共 法 を 具 足 す る が 故 に。 四 に は 道 品 勝。 三 十 七 道 品 を 具 足 す る が 故 に。 五 に は 変 化 勝。 百 千 種 の 変 化 を 具 足 す る が 故 に。 六 に は 言 音 勝。 八 十 八 の 梵 音 を 具 足 す る が 故 に。 七 に は 七 厳 勝。 三 十 二 種 の 丈 夫 の 相 を 具 足 す る が 故 に。 八 に は 吉 祥 勝。 境 界 と 作 る に 随 つ て 功 徳 を 出 生 し 増 長 す る が 故 に。 九 に は 難 得 勝。 三 界 の 中 に 独 尊 一 の 故 に。 十 に は 住 処 勝。 所 居 の 宮
殿 無 辺 広 博 な る が 故 に。 経 に は 十 種 の 殊 勝 と 云 ふ。 十 業 大 と い ふ は、 一 に は 自 然 業。 所 作 自 在 の 故 に。 二 に は 平 等 業。 教 化 利 益 差 別 無 き が 故 に。 三 に は 相 応 業。 機 に 随 つ て 出 現 す る が 故 に。 四 に は 具 足 業。 福 智 二 種 の 資 粒 ( 糧 イ ) を 円 満 す る が 故 に。 五 に は 無 尽 業。 辺 際 無 き が 故 に。 六 に は 同 生 業。 趣 に 随 つ て 生 を 受 く る が 故 に。 七 に は 無 着 業。 塵 累 を 遠 離 す る こ と 蓮 華 の 如 く な る が 故 に。 八 に は 依 止 業。 帰 依 処 と 作 る こ と 大 地 の 如 く な る が 故 に。 九 に は 無 厭 業。 生 を 摂 す る に 窮 り 無 き こ と 大 海 の 如 く な る が 故 に。 十 に は 通 達 業。 障 碍 有 る こ と 無 き こ と 虚 空 の 如 く な る が 故 に。 経 に は 十 種 の 作 用 と 云 ふ。 十 遍 大 と い ふ は、 一 に は 根 遍 一 一 の 根 法 界 に 遍 ず る 故 に。 二 に は 識 遍。 心 識 達 せ ざ る 所 無 き が 故 に。 三 に は 境 界 遍。 円 智 の 所 縁 は 分 界 無 き が 故 に。 四 に は 寿 命 遍。 思 議 す 可 ら ざ る が 故 に。 五 に は 春 属 遍。 測 量 す 可 か ら ざ る 故 に。 六 に は 功 徳 遍。 一 々 に 虚 空 に 等 し き が 故 に。 七 に は 慈 悲 遍。 簡 択 無 き が 故 に。 八 に は 言 説 遍。 言 音 至 ら ざ る 所 無 き が 故 に。 九 に は 証 遍。 窮 め ざ る 所 無 き が 故 に。 十 に は 無 等 遍。 与 等 無 き が 故 に。 経 に は 十 種 の 周 遍 と い う。 文 (和 四・ 四 八、 洋 一・ 六 八 ○ ) こ の 一 文 は 前 の 大 毘 盧 遮 那 成 仏 神 変 加 持 経 本 の ﹃ 大 ﹄ の 釈 と 共 に、 釈 論 の 思 考 型 式 に 影 響 を 受 け た 解 釈 法 に よ つ て い る こ と が、 一 見 し て 明 で あ る。 こ と に 最 勝 業 遍 の 四 大 に つ い て 各 十 種 の 大 を 開 く 釈 は、 全 く 起 信 論 の 帰 敬 序 の ﹃ 最 勝 業 遍 智 ﹄ 等 の 句 を 釈 す る 釈 論 第 一 の 文 句 を 少 し く 省 略 し て 引 用 し た も の で あ り。 第 十 の 業 の 釈 を 勝 大 の 次 え 廻 し て い る の も 釈 論 の 文 を 引 用 す る 関 係 か ら で あ る。 三 金 剛 頂 経 の 開 題 に つ い て 金 剛 頂 経 の 開 題 に は 釈 論 に よ る 文 章 が 多 い。 殊 に 経 題 の 釈 に 注 目 す べ き も の が あ る。 七、 金 剛 頂 経 開 題 に 云 は く。 法 仏 の 三 密 は 四 種 の 言 語 も 及 ぶ こ と 能 は ず。 曼 茶 の 四 身 は 九 種 の 心 識 も 縁 ず る こ と を 得 ず。 是 の 故 に 名 言 絶 え て 機 水 澗 れ、 身 土 隠 れ て 応 月 没 す。 (中 略 ) 大 術 に は 其 の 絶 離 を 称 し、 地 論 に は 其 の 不 説 を 顕 は す。 三 大 域 を 異 に し、 一 心 源 な が え を 別 て り。 (中 略 ) 氷 照 の 椎 輪 は 韓 を 染 浄 の 岳 に 催 き、 水 波 の 游 艇 は 揖 を 風 水 の 海 に 折 る。 文 (四・ 五 八、 洋 一・ 六 九 ○ ) こ の 文 に あ る 四 種 言 語 と 九 種 心 識 は 、 釈 論 第 二 上 半 六 日 下 の 真 如 門 の 釈 段 に 説 く 所 の 五 種 言 説 と 十 種 心 量 に よ る 釈 で あ 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 る。 五 種 言 説 と は 相 ・ 夢 ・ 妄 執 ・無 始 ・ 如 義 の 五 種 を さ し、 釈 論 に は 娚 伽 経 等 の 文 を 引 用 し て こ の 五 種 言 説 を 明 し、 大 師 の 弁 顕 密 二 教 論 上 に そ の 全 文 を 引 用 し て い る。 ま た 十 種 心 量 と は 眼 識 心 ・ 耳 識 心 ・ 鼻 識 心 ・ 舌 識 心 ・ 身 識 心 ・ 意 識 心 ・ 末 那 識 心 ・ 阿 梨 耶 識 心 ・ 多 一 識 心 ・ 二 識 心 の 十 種 で あ る。 こ れ 亦 二 教 論 上 に 全 文 を 引 用 し て い る。 釈 論 に は 五 種 言 説 の 中 の 前 四 種 は 虚 妄 の 説 に し て 真 を 談 ず る こ と 能 は ず、 第 五 如 義 言 説 は 如 実 の 言 説 に し て 真 理 を 談 ず る こ と を 得 と 説 き、 十 種 心 量 の 中 初 の 九 種 心 は 真 理 を 縁 ぜ ず、 第 十 の 一 心 の み 真 理 を 縁 ず る こ と を 得 と 釈 し て い る。 即 ち 前 四 種 言 説 と 前 九 種 識 心 と は 生 滅 門 の 言 心、 第 五 如 義 言 説 と 第 十 一 一 識 心 と は 真 如 門 の 言 心 と し、 生 滅 の 言 心 は 本 体 に 相 応 せ ず、 真 如 の 言 心 は 本 体 に 相 応 す と す る 意 で あ る。 こ れ 全 く 二 門 分 別 の 義 に よ つ て 生 滅 を 因 分 顕 教 と し、 真 如 を 果 分 密 教 と す る 立 場 で あ る。 ま た 今 文 は 先 づ 密 教 の 法 身 如 来 の 三 密 門、 四 種 曼 茶 羅 身 は 前 四 言 前 九 心 識 を 絶 離 せ る 境 地 な る こ と を 示 し、 更 に ﹃ 大 術 に は 其 の 絶 離 を 称 し、 地 論 に は 其 の 不 説 を 顕 は す ﹄ と 云 う て、 釈 論 に 不 二 果 海 は 前 四 言 前 九 心 識 を 絶 離 す る こ と を 明 し、 十 地 論 に は 果 分 不 可 説 と 説 く こ と を 示 し て い る。 凡 そ 一 心 三 大 ( 体 相 用 ) は こ れ を 開 け ば 三 十 二 の 因 分 の 法 と な る が、 こ の 因 分 の 諸 法 は 不 二 果 分 に 及 ば な い か ら、 本 文 に 重 ね て ﹃ 三 大 域 を 異 に し、 一 心 源 を 別 て り ﹄ と 述 べ て い る。 ﹃ 氷 照 の 椎 輪 ﹄ 等 は 一 乗 教 の 天 台 ・ 華 厳、 第 八 第 九 両 住 心 が 各 そ の 当 位 に 滞 留 し て 後 位 の 不 二 果 海 第 十 秘 密 荘 厳 心 に 進 ま な い こ と を 明 し て い る。 天 台 に は 法 性 は 水 の 如 く 無 明 は 氷 の 如 し と 説 き、 ( 摩 詞 止 観 第 五 ) ま た 鏡 と 影 像 と の 喩 を 以 つ て 境 智 不 二 の 義 を 述 べ る が、 こ の 天 台 の 法 門 は 釈 論 の 染 浄 本 覚 に 同 じ で あ る。 故 に ﹃ 氷 照 の 椎 輪 は 報 を 染 浄 の 岳 に 擢 き ﹄ の 句 は 天 台 の 法 門 を 示 し て い る。 ま た 華 厳 に は 水 波 の 喩 を 以 つ て 因 果 二 分 を 説 く が、 こ れ は 釈 論 に 生 滅 所 入 の 一 心 を 示 す 風 水 龍 王 に 当 る か ら、 華 厳 の 法 門 を 示 し て ﹃ 水 波 の 游 艇 は 揖 を 風 水 の 海 に 折 る ﹄ と 述 べ た の で あ る。 較 を 擢 く と 云 い、 揖 を 折 る と 記 す は、 天 台 華 厳 が 共 に 当 位 に 留 り 後 位 に 進 み 得 ぬ 状 態 を 示 す 句 で あ る。 八、 金 剛 頂 経 開 題 に 云 は く。 此 の 如 く の 四 種 法 身 は 自 然 自 覚 な り。 故 に 先 成 就 の 本 覚 の 仏 と 名 く。 此 の 本 覚 に 又 三 種 の 差 別 あ り。 一 に は 三 自 一 心 門 の 本 覚、 二 に は 一 一 心 真 如 門 の 本 覚、 三 に は 不 二 摩 詞 術
一 心 の 本 覚 な り。 初 の 三 自 一 心 本 覚 の 中 に 四 の 別 有 り。 染 浄 本 覚 ・ 清 浄 本 覚 ・ 一 法 界 本 覚 ・ 三 自 本 覚 是 れ な り。 真 如 門 の 本 覚 に 又 二 の 別 有 り。 清 浄 真 如 本 覚 ・ 染 浄 真 如 本 覚 な り。 是 の 如 く の 本 覚 重 々 無 量 な り。 今 此 の 経 に 示 す 所 の 本 覚 は 通 じ て は 一 切 の 本 覚 を 摂 し、 別 し て は 不 二 門 の 本 覚 を 表 す。 此 の 本 有 法 身 其 の 数 無 量 な り、 故 に 一 切 如 来 と 云 う。 此 の 如 来 は 余 の 一 切 門 の 摂 す る こ と 能 は ざ る 所 な り。 然 も 此 の 不 二 本 覚 は 能 く 一 切 門 の 仏 を 摂 す。 故 に 頂 と 名 く。 如 来 頂 は 即 ち 最 上 最 勝 の 義 の 故 に。 文 (和 四・ 六 八、 洋 一 ・ 七 ○ ○ ) こ の 文 は 金 剛 頂 経 の 中 の 一 切 如 来 の 句 の 釈 段 の 一 節 で あ る。 こ の 文 は 一 切 如 来 を 四 種 法 身 に 摂 し、 こ の 四 種 法 身 は 自 然 自 覚 の 本 覚 仏 な り と し、 本 覚 を 先 づ 三 自 一 心 門 と 一 一 心 真 如 門 と 不 二 摩 詞 術 一 心 と の 三 に 大 別 し、 三 自 門 よ り 染 浄 ・ 清 浄 ・ 一 法 界 二 二 自 の 四 種 本 覚 を 開 き、 真 如 門 の 本 覚 よ り 清 浄 真 如、 染 浄 真 如 の 二 本 覚 を 開 き、 こ れ に 不 二 門 本 覚 を 加 え て 七 重 の 本 覚 を 説 き、 こ の 不 二 本 覚 は 能 く 一 切 の 仏 を 摂 す る も、 余 の 一 切 門 の 仏 は 本 有 法 穿 の 一 切 如 来 を 摂 し 得 な い と 述 べ て い る。 法 華 経 開 題 ( 重 円 性 海 本 ) に 妙 法 に 六 重 本 覚 妙 法 あ る こ と を 説 く が、 こ れ は 今 の 七 重 本 覚 の 中 の 一 一 心 真 如 門 の 下 の 二 重 の 本 覚 を 別 開 せ ず、 こ れ を 一 如 本 覚 の 一 と し た の み の 相 違 で あ り、 そ の 実 体 は 同 一 で あ る。 六 重 本 覚 の 建 立 は 釈 論 第 五 の 五 重 問 答 の 文 に よ る。 五 重 問 答 の 全 文 は 弁 顕 密 二 教 論 上 に こ れ を 引 用 し て い る。 こ の 論 文 は 大 乗 起 信 論 の ﹃ 一 切 衆 生 悉 有 真 如 ﹄ の 文 を ﹃ 一 切 衆 生 皆 有 本 覚 ﹄ と 釈 し か え て、 こ の 下 に 問 答 を 展 開 し、 染 浄 始 覚 ・ 清 浄 本 覚 ・ 一 法 界 心 ・ 三 自 一 心 摩 詞 術 ・ 不 二 摩 詞 術 の 明 無 明 を 決 択 し て い る の で あ る。 五 重 の 中 の 前 三 重 は 後 重 生 滅 門 に 於 け る 能 入 (第 一 第 二 重 ) と 所 入 ( 第 三 重 ) で、 第 四 重 は 前 重 生 滅 所 入 の 一 心 で あ る。 前 後 両 重 の 間 に は 浅 深 の 相 違 が あ つ て、 前 重 は 隠 秘 の 深 法 で あ る か ら 利 根 の 者 の 解 す る 所、 後 重 は 鹿 顕 の 浅 法 で あ る か ら 鈍 根 相 応 の 法 門 で あ る。 染 浄 始 覚 ・ 清 浄 本 覚 ・ 一 法 界 心 は 後 重 生 滅 門 の 中 の 一 心 に 属 す る 法 門 で あ る。 そ の 第 一 染 浄 始 覚 は 十 信、 三 賢、 九 地、 因 満、 果 満 の 五 位 ( 五 十 位 ) を 経 て 生 住 異 滅 の 四 相 の 末 惑 と 根 本 無 明 と の 五 有 為 を 断 ず る 始 覚 智 を 得 る 法 門 で あ る。 従 つ て 第 六 住 心 法 相 宗 と そ の 分 斉 を 同 じ く す る。 第 二 清 浄 本 覚 は 染 浄 二 法 を 超 越 せ る 言 心 都 絶 の 覚 体 で あ る。 凡 そ 染 浄 始 覚 智 は 染 浄 本 覚 智 よ 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化、 り 生 じ、 染 浄 本 覚 智 は 清 浄 本 覚 智 か ら 生 ず る。 故 に 清 浄 本 覚 は 染 浄 始 本 二 覚 を 生 ず る 本 源 で あ る。 こ の 法 門 は 独 空 畢 寛 の 理 を 説 く 第 七 住 心 三 論 宗 に 相 当 す る。 第 三 の 一 法 界 心 は 生 滅 所 入 の 一 心 で あ る。 一 法 界 心 に は 真 如 所 入 の 一 心 で あ る 所 の 純 白 一 法 界 と、 生 滅 所 入 の 一 心 で あ る 所 の 無 尽 一 法 界 と の 二 種 が あ る。 今 の 一 法 界 心 は 二 種 の 中 の 後 の 無 尽 一 法 界 で あ る。 こ の 一 法 界 は 生 滅 門 の 十 界 無 尽 の 諸 法 を 生 ず る 非 有 為 非 無 為 の 如 来 蔵 で あ る。 三 千 妙 法 を 説 く 天 台 宗 第 八 住 心 が こ の 分 斉 で あ る。 第 四 の 三 自 一 心 摩 詞 術 は、 前 重 生 滅 所 入 の 一 心 で、 無 尽 一 法 界 の 本 源 で あ る。 融 三 世 間 の 盧 遮 那 仏 を た て る 華 厳 宗 第 九 住 心 が こ れ に 相 当 す る。 四 家 大 乗 相 当 の 前 四 重 の 法 門 は 不 二 摩 詞 術 円 々 海 に 対 す れ ば 何 れ も 無 明 の 分 斉 で あ る か ら、 釈 論 に は こ の 四 法 を 何 れ も ﹃ 無 明 の 分 位 ( 辺 域 ) に し て 明 の 分 位 に 非 ず ﹄ と 判 じ て い る。 第 五 の 不 二 摩 詞 術 は 万 徳 を 円 満 せ る 果 海 で 明 の 位 で あ る。 不 二 は 因 果 不 二、 凡 聖 不 二、 理 智 不 二、 身 心 不 二 等 の 不 二 法 門 を 説 く 真 言 密 教 第 十 住 心、 大 日 法 身 自 内 証 の 自 覚 聖 智 の 境 地 で あ る。 五 重 問 答 の 前 四 重 は 生 滅 門、 第 五 は 不 二 門 で あ る か ら、 こ の 中 に は 真 如 門 は 無 い。 然 る に こ の 論 文 に よ つ て 真 如 門 の 本 覚 を 立 つ る は 如 何 な る 理 由 に よ る か。 又 第 一 重 は 染 浄 始 覚 で あ つ て 染 浄 本 覚 で は な い。 然 る に 六 重 本 覚 の 第 一 に 染 浄 本 覚 と い う は い か よ う に 受 取 つ た ら よ い か。 こ の 二 の 疑 問 に つ い て、 釈 論 の 意 を 汲 ん で 会 釈 を 加 え よ う。 釈 論 に 衆 生 皆 有 本 覚 の 義 を 釈 す る に、 有 覚 門 と 無 覚 門 と に 分 ち、 有 覚 門 に 五 重 問 答 を 設 け、 無 覚 門 に 真 如 平 等 の 法 門 を 明 す。 即 ち 無 覚 門 が 真 如 門 で あ る か ら、 六 重 本 覚 に こ れ を 取 入 れ て 立 て た の で あ る。 染 浄 始 覚 を 染 浄 本 覚 と す る は、 始 覚 智 も 亦 無 為 常 住 の 体 な り と す る が 釈 論 の 意 で あ る か ら、 始 覚 智 を 直 に 本 覚 智 と 見 て 染 浄 本 覚 と し た の で あ る。 釈 論 に は 真 如 門 に 染 浄 清 浄 の 二 義 を 開 か な い。 こ れ を 開 く は 弘 法 大 師 独 官 の 説 で あ る。 こ れ に つ い て 宥 快 師 の 金 剛 頂 経 開 題 紗 王 一 五 左 に 四 義 を あ げ て い る 。 そ の 中 第 四 義 が よ い 。 そ の 意 を 云 え ば 、 真 如 門 に も 随 順 ・ 得 入 の 二 位 を 立 て 、 随 順 (修 行 位 ) の 位 に は 微 細 の 染 法 を 伴 う か ら 染 浄 真 如 と 云 い 、 得 入 ( 証 得 位 ) の 位 は 微 細 の 染 法 を も 離 れ て い る か ら 清 浄 真 如 と い う 。 大 師 は こ の 義 辺 か ら 真 如 門 に 染 浄 と 清 浄 と の 二 を 開 か れ た の で あ る 。 六 重 本 覚 を 樹 つ る 本 意 は 、 両 部 大 経 所 詮 の 本 覚 は 一 切 本 覚 の 根 源 た る 不 二 本 覚 で あ る こ と を 明 す に あ
-10-る。 九、 同 書 に、 経 題 の ﹃ 真 実 ﹄ の 二 字 を 釈 し て 云 は く。 次 に 真 実 と 言 う は、 真 は 真 如、 実 は 実 知 実 相 な り。 真 に 十 種 有 り。 一 に は 根 字 事 真。 二 に は 本 字 事 真、 三 に は 遠 字 事 真、 四 に は 自 字 事 真、 五 に は 体 字 事 真、 六 に は 性 字 事 真、 七 に は 住 字 事 真、 入 に は 常 字 事 真、 九 に は 堅 字 事 真、 十 に は 惣 字 事 真 な り。 如 に 又 十 種 有 り、 繁 の 故 に 之 を 略 す。 真 と は 真 理、 如 と は 如 理、 此 の 真 と 如 と に 各 二 十 種 を 具 す。 十 種 の 清 浄 の 真 理 は 十 種 の 清 浄 の 本 と 相 応 す。 十 種 の 清 浄 の 如 理 は 十 種 の 清 浄 の 覚 と 相 応 す。 十 種 の 染 浄 の 真 理 は 十 種 の 染 浄 の 本 と 相 応 す。 十 種 の 染 浄 の 如 理 は 十 種 の 染 浄 の 覚 と 相 応 す。 今 言 う 所 の 真 如 は 通 じ て は 染 浄 清 浄 二 種 の 真 如 を 摂 し、 別 し て は 自 門 秘 密 の 真 如 を 顕 は す。 本 は 能 く 末 を 摂 す。 故 に 二 種 を 摂 す る 耳。 実 知 実 相 と は 三 自 門 の 実 知 実 相、 一 心 門 の 実 知 実 相、 性 徳 円 々 海 の 実 知 実 相 各 々 重 々 差 別 な り。 今 言 う 所 の 実 知 実 相 は 不 二 門 の 実 知 実 相 是 れ な り。 然 も 通 じ て は 二 門 の 実 知 実 相 を 摂 す。 実 知 と 言 う は 能 達 の 知、 実 相 と は 所 達 の 境 な り。 又 実 知 は 是 れ 心 密、 実 相 は 是 れ 身 密 な り。 復 次 に 智 即 ち 境、 境 即 ち 智、 又 智 に 非 ず 境 に 非 ず。 而 も 智 而 も 境 な り。 然 れ ど も 九 種 の 心 量 の 所 縁 に 非 ず。 一 一 心 の 所 縁 の み。 又 一 一 心 の 所 縁 に 非 ず、 不 二 心 の 所 証 の み。 文 ( 和 四. 六 九、 洋 一. 七 〇 一 ) こ の 文 は 経 題 の ﹃ 真 実 ﹄ の 釈 で あ る。 即 ち 真 は 真 如、 実 は 実 知 実 相 な り と 釈 し て、 真 に 根 等 の 十 義 あ る こ と を 明 に し、 如 に も 亦 十 義 を 有 す る こ と を 説 き、 こ の 二 十 義 が 染 浄 ・ 清 浄 の 二 義 を 伴 い、 四 十 義 と な る と 釈 し て い る。 次 に 実 知 実 相 に 三 自 門 と 一 心 門 と 性 徳 円 々 海 の 三 種 あ る こ と を 述 べ て い る。 真 如 の 四 十 義 は 釈 論 第 三 上 半 三 日 下 に 性 真 如 の 理 体 を 釈 す る 文 に よ つ て 説 き、 実 知 実 相 に 三 門 を 立 て て 釈 す る は 一 部 の 達 意 に よ つ た も の で あ る。 不 二 門 の 実 知 実 相 は、 三 自 と 一 心 と の 二 門 の 実 知 実 相 を 摂 す る こ と、 前 九 種 の 心 量 の 所 縁 に 非 ず し て 一 一 心 の 所 縁 な り と 説 く 点 に 留 意 す べ き で あ る。 九 種 心 量 の 所 縁 に 非 ず 等 と 釈 す る は 釈 論 第 二 の 十 種 心 量 の 釈 文 に よ つ て い る こ と は 言 う ま で も な い。 一 ○、 同 書 に 経 題 の ﹃ 摂 大 乗 ﹄ の 三 字 を 釈 し て 云 は く。 次 に 摂 大 乗 と 言 う は 此 れ に 二 有 り 初 に は 能 摂 大 乗 次 に は 所 摂 大 乗 な り。 能 摂 大 乗 と は 根 本 惣 躰 の 不 二 大 乗、 所 摂 大 乗 と は 二 重 三 十 二 大 乗 な り。 本 能 く 末 を 摂 す 故 に 摂 大 乗 と 言 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 う。 又 三 十 二 大 乗 に 各 々 本 有 り 末 有 り 各 々 の 本 法 は 能 く 末 法 を 摂 す。 故 に 摂 大 乗 と 云 う。 ( 和 四 ・ 七 ○、 洋 一 ・ 七 ○ 二 ) こ の 釈 文 に 能 摂 所 摂 の 二 種 の 大 乗 を 説 く が、 こ の 釈 は 釈 論 第 一 下 半 の 入 日 下 九 日 下 の 釈 文 や 第 十 の 摂 不 摂 の 問 答 の 釈 に よ つ て、 顕 教 を 三 十 二 の 所 摂 大 乗 と し、 密 教 を 不 二 の 能 摂 大 乗 と す る 意 を 述 べ た も の で あ る。 二、 同 書 に 経 題 の ﹃ 大 教 王 ﹄ の 三 字 を 釈 し て 云 は く。 大 教 王 と は 大 に 三 種 有 り、 一 に は 体 大、 二 に は 相 大、 三 に は 用 大 な り。 初 の 躰 大 の 中 に 又 四 あ り。 一 に は 無 量 無 辺 諸 法 差 別 不 増 不 減 体 大、 二 に は 寂 静 無 雑 一 味 平 等 不 増 不 減 体 大 な り。 此 の 二 法 に 又 二 門 の 大 有 り、 故 に 四 と 成 る。 相 大 に 又 四 あ り、 一 に は 如 来 蔵 功 徳 相 大、 二 に は 具 足 性 功 徳 相 大 な り。 此 の 二 法 に 又 二 門 の 大 を 具 す 故 に 四 と 為 る。 用 大 に 又 四 あ り、 一 に は 能 生 一 切 世 間 善 因 果 用 大、 二 に は 能 生 一 切 出 世 間 善 因 果 用 大 な り。 此 の 二 法 に 又 二 門 の 大 を 具 す、 故 に 四 と 為 る。 三 種 の 大 義 を 数 ふ れ ぼ 各 四 大 を 具 し て す べ 都 て 十 二 大 有 り。 此 の 十 二 大 は 皆 是 れ 生 滅 門 の 法 門 な り。 真 如 門 に 約 す れ ば 又 三 大 の 義 を 具 す。 是 の 如 く の 二 門 の 大 の 義 能 く 一 切 の 教 法 を 含 む。 故 に 大 教 と 日 ふ。 此 の 大 教 各 自 門 に 於 て 自 在 を 得 る が 故 に 之 を 王 と 名 く。 又 上 の 摂 の 字 は 流 し て 此 の 大 教 王 の 字 に 被 ら し め よ。 摂 大 教 王 と は 此 れ に 二 の 別 有 り 能 所 を 具 す る が 故 に。 能 摂 大 教 王 と は 此 経 是 れ な り。 所 摂 大 教 王 と は 二 門 の 大 乗 教 王 是 れ な り。 即 ち 是 れ 応 化 身 所 説 の 大 乗 教 王 一 乗 経 王 是 れ な り。 王 は 是 れ 自 在 主 宰 の 義 な り。 何 が 故 に か 能 摂 所 摂 の 差 別 有 る。 王 の 名 大 小 な に 通 ず る が 故 に。 讐 へ ば 四 種 の 輪 王 及 び 粟 散 王 共 に 王 の 號 を 得 れ ど も、 然 も 猶 ほ 尊 卑 差 有 る が 如 し。 是 の 如 く 教 王 も 亦 復 然 り。 法 身 仏 所 説 の 教 王 は 能 く 一 切 の 応 化 身 所 説 の 教 王 を 摂 す。 法 身 所 説 と は 此 の 経 是 れ な り。 応 化 身 所 説 の 教 王 と は 謂 は ゆ る 諸 の 顕 教 是 れ な り。 自 乗 に 於 て 王 の 名 を 得 と 云 ふ と 錐 も、 而 も 法 身 自 証 の 最 勝 頂 輪 王 の 教 に 望 む れ ば、 猶 し 粟 散 王 等 の 輪 王 の 所 摂 な る が 如 し。 故 に 摂 大 教 王 と 名 く。 文 ( 和 四 ・ 七 一、 洋 一 ・ 七 ○ 三 ) こ の 文 は 釈 論 第 一 の 立 義 分 の 釈 段 の 意 に よ つ て 説 い た も の で あ る。 体 相 用 三 大 に 真 如 生 滅 二 門 を 含 み、 二 門 に 各 能 入 所 入 が あ る か ら、 三 大 に 各 四 あ り 合 し て 十 二 大 と な る。 こ の 十 二 が 更 に 前 後 両 重 に 分 れ る か ら 二 十 四 大 と な る。 三 大 の 列 名 中 各 初 に 出 す は 生 滅 門、 後 に 出 す は 真 如 門 に 属 す る。 今 文 に
あ ぐ る 十 二 大 は 前 重 に つ い て 示 し、 こ れ に 後 重 を 含 ま し め る の で あ る。 十 二 大 は 真 生 二 門 に 通 ず る が、 今 は ﹃ 皆 是 れ 生 滅 門 な り ﹄ と 釈 し て い る。 恐 ら く は 二 十 四 大 の 一 半 を 生 滅、 一 半 を 真 如 と す る 意 で あ ろ う。 一 二、 同 書 に 云 は く。 若 し 竪 次 第 に 約 す れ ば 是 の 如 く の 浅 深 差 別 あ り、 若 し 横 平 等 に 約 す れ ば 悉 く 皆 平 等 平 等 に し て 一 な り。 然 れ ど も 終 に 雑 乱 せ ず。 又 一 一 の 経 互 に 主 伴 と な る。 若 し 一 門 を 挙 ぐ れ ば 主 と な る が 故 に 各 王 の 名 を 得。 主 を 挙 げ て 伴 を 摂 す る が 故 に。 又 若 し 字 門 の 義 に 約 す れ ば 高 下 浅 深 有 る こ と 無 し。 悉 く 皆 法 曼 茶 羅 法 智 印 平 等 無 二 な り。 文 ( 和 四 ・ 七 二、 洋 一 ・ 七 ○ 四 ) 本 開 題 に は 釈 論 の 法 相 に よ つ て 種 種 に 顕 密 を 対 辮 し て 釈 す る が、 今 更 に 釈 論 の 意 に よ つ て こ れ を 融 会 す る 義 を、 今 文 に 於 て 説 い て い る。 釈 論 第 一 下 半 八 日 下 の 文 に 是 の 如 く の 能 所 十 六 の 法 相 は 偏 満 偏 満 平 等 平 等 一 味 一 相 に し て 皆 差 別 無 し。 所 以 は 何 ん と な ら ば 各 諸 法 を 摂 し て 畢 寛 じ て 蓋 す が 故 に。 若 し 余 ら ば 本 末 及 び 惣 別 皆 悉 く 渾 洞 し て 応 に 雑 乱 す べ し や。 終 に 其 の 本 末 相 雑 乱 せ ず、 其 の 惣 別 の 門 初 後 無 き に 非 ず。 然 も 各 々 別 々 に し て 皆 悉 く 等 量 な り。 故 に 平 等 と 日 ふ。 一 法 と 謂 は ん と に は 非 ず、 故 に 平 等 と 称 す。 文 と 説 く。 当 段 の 開 題 の 文 は こ の 釈 論 の 文 意 に よ つ て い る こ と 明 で あ る。 一 三、 同 書 に 云 は く。 復 次 に 佛 に 約 し て 釈 せ ば ( 中 略 ) 真 実 と は 平 等 性 智 の 仏 な り。 真 如 実 法 は 異 を 厭 ひ 別 を 捨 て、 同 々 無 二 な る が 故 に。 文 ( 和 四・ 七 四、 洋 一・ 七 ○ 六 ) こ の 文 は 釈 論 第 六 初 日 下 の ﹃ 本 よ り 巳 来 一 自 ら 一 を 成 じ、 同 自 ら 同 を 作 し、 異 を 厭 ひ 別 を 捨 て て 唯 し 二 具 な る が 故 に ﹄ と い ふ 文 に よ つ て 釈 し た よ う で あ る。 釈 論 の こ の 文 は 体 大 真 如 が 凡 夫 声 聞 縁 覚 菩 薩 佛 の 五 種 の 人 に 亘 つ て 平 等 な る こ と を 説 く 文 で あ る。 一 四、 教 王 経 開 題 に 云 は く。 夫 れ 道 の 本 は 無 始 無 終 な り。 教 の 源 は 無 造 無 作 な り。 三 世 に 亘 つ て 而 も 不 変 な り。 六 塵 に 遍 じ て 而 も 常 恒 な り。 然 れ ど も 猶 ほ 示 す 者 無 き と き は 即 ち 目 前 な れ ど も 見 え ず。 説 く 者 無 き と き は 即 ち 心 中 な れ ど も 知 ら ず。 双 円 の 性 海 に は 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 常 に 四 曼 の 自 性 を 談 じ、 重 如 の 月 殿 に は 恒 に 三 密 の 自 楽 を お よ ん 説 く と い ふ に 泊 で は 人 法 法 余 な り、 興 廃 何 れ の 時 ぞ、 機 根 わ か こ こ 絶 々 た り 正 像 何 ぞ 別 た ん。 於 焉 に 妄 風 心 水 を 鼓 し て 波 涛 淘 あ い た い 湧 し、 業 霧 恵 日 を 弊 し て 蔭 雲 嚢 鍵 た り。 生 住 の 夢 虎 は 有 々 を 着 愛 に 呑 み、 異 滅 の 毒 龍 は 我 々 を 無 知 に 吸 ふ。 六 塵 の 盗 ほ し い ま ま 賊 は 識 都 に 横 は つ て 劫 奪 し、 五 蔭 の 悪 人 は 身 城 に 逸 に し て 暴 掠 す。 等 文 ( 和・ 八 四、 洋 一 ・ 七 一 六。 理 趣 経 開 題 和 四 ・ 九 四、 洋 一 ・ 七 二 六。 法 華 経 開 題 和 四 ・ 一 二 四、 洋 一 ・ 七 五 六。 梵 網 経 開 題 和 四 ・ 一 七 七、 洋 一 ・ 八 ○ 九 に 同 文 を 出 す。 ) こ の 文 は 大 師 が 四 ケ 処 も 出 さ れ た ほ ど で、 有 名 な 文 で あ る。 二 門 分 別 の 立 場 か ら、 真 如 と 不 二 を 性 海 果 分 の 密 と し、 生 滅 を 縁 起 因 分 の 顕 教 と す る 上 に て、 こ の 文 を 見 た ら よ い。 こ の 文 は 初 に 教 の 本 源 法 の 体 性 た る 果 分 の 境 地 を 明 し ﹃ 於 焉 妄 風 ﹄ 以 下 に 染 法 縁 起 の 相 を 示 し て い る。 文 の 讐 円 性 海 は 不 二 摩 詞 術 法 を さ し、 重 如 月 殿 は 真 如 門 の 法 を 指 す。 讐 円 性 海 は 法 華 経 開 題 に 重 円 性 海 と 説 き、 大 日 経 開 題 に 円 々 之 又 円 と 説 け る も の に 当 り、 釈 論 第 一 に 性 徳 円 満 海 と 云 い 第 十 に 円 々 海 徳 と 説 く。 重 如 月 殿 は 梵 網 経 開 題 に は 双 如 と 云 ふ。 釈 論 第 二 に 十 如 来 蔵 を 釈 す る と き 第 四 に 真 如 真 如 如 来 蔵 の 名 を 出 し、 ﹃ 唯 如 々 の み あ る が 故 に ﹄ と 釈 す。 今 重 如 と 云 ふ は 如 々 の 意 で あ つ て、 重 如 月 殿 は 胎 蔵 の 理 を 示 し、 双 円 性 海 は 金 剛 の 智 を 示 し た も の で あ る。 次 に ﹃ 妄 風 心 水 を 鼓 す ﹄ 等 と 云 ふ は、 根 本 無 明 の 妄 風 が 本 覚 の 心 水 を 鼓 し て 三 細 六 麓 の 波 瀾 を 生 ず る こ と を 表 は し、 ﹃ 業 霧 恵 日 を 弊 す ﹄ 等 は 業 識 妄 心 ( 三 細 の 一 ) が 本 覚 の 恵 日 を 弊 ふ こ と を 明 す。 ﹃ 生 住 の 夢 虎 ﹄ ﹃ 異 滅 の 毒 龍 ﹄ は 生 住 異 滅 の 四 相 を あ げ て、 総 じ て 三 細 六 麓 の 妄 心 を 説 く 意 で あ る。 故 に ﹃ 妄 風 心 水 ﹄ 以 下 の 一 節 は 生 滅 門 の 要 を 述 べ た 文 章 で あ る。 四 理 趣 経 の 開 題 に つ い て 大 師 の 理 趣 経 開 題 は 真 撰 と 見 る べ き も の が 三 本 あ る。 そ の 中 で ﹃ 将 釈 此 経 ﹄ 本 に は 釈 論 の 影 響 を 受 け た 文 句 を 見 出 す こ と は で き ぬ が、 他 の 二 本 に は 釈 論 の 意 に よ る 文 章 が あ る。 但 し ﹃ 夫 生 死 之 河 ﹄ 本 に 出 す 文 は 前 に 説 明 し た 教 王 経 開 題 に 出 す 所 の ﹃ 夫 れ 道 之 本 ﹄ 等 の 文 と 同 文 で あ る か ら、 こ れ を 省 略 し、 ﹃ 弟 子 帰 命 ﹄ 本 に 述 ぶ る 一 文 の み を 掲 げ る こ と に す る。 一 五、 理 趣 経 開 題 に 云 は く。 謂 は ゆ る 五 部 と は、 一 に は 仏 部、 二 に は 金 剛 部、 三 に は 宝 部、 四 に は 蓮 花 部、 五 に は 掲 磨 部 な り。 是 れ 即 ち 五 大 の 所
起、 五 智 の 所 成 に し て、 自 性 の 又 の 性、 法 体 の 又 の 体 な り。 三 自 三 大 未 だ 其 の 辺 を 見 ず、 一 如 一 心 誰 れ か 其 の 極 に 到 ら ん。 文 ( 和 四 ・ 九 一、 洋 一 ・ 七 二 三 ) こ の 文 は 金 剛 頂 大 楽 不 空 真 実 三 摩 耶 経 の 経 題 釈 の 一 節 で、 ﹃ 金 剛 頂 ﹄ の 三 字 に つ い て 法、 喩、 人 の 三 種 の 釈 の 中、 人 に つ い て の 釈 段 の 文 で、 金 剛 頂 の 句 に 五 部 の 別 を 見 る 釈 で あ る。 従 つ て 五 部 の 思 想 は 直 接 釈 論 の 影 響 に よ る も の で は な い が、 文 中 の ﹃ 自 性 の 又 の 性、 法 体 の 又 の 体 ﹄ の 句 は 釈 論 風 の 用 語 で あ り、 ﹃ 三 自 三 大 ﹄ ﹃ 一 如 一 心 ﹄ は 全 く 釈 論 か ら 得 た 句 で あ る。 三 自 は 自 然 本 有 の 体 相 用 三 大 を 意 味 し、 生 滅 門 の 異 名 で あ る。 ま た 一 如 は 一 体 平 等 な る 真 如 門 の 異 名 で あ る。 故 に こ の 文 は 三 門 分 別 の 立 場 か ら、 生 滅 真 如 二 門 の 因 分 の 人 は、 不 二 果 分 の 五 部 曼 茶 羅 の 体 に 到 達 し 得 な い こ と を 明 し た 文 で あ る。 五 法 華 経 の 開 題 に つ い て 大 師 の 法 華 経 の 開 題 は 五 本 で あ る。 そ の 中 ﹃ 法 華 経 密 号 と 題 す る ﹄ 一 本 を 除 い て、 他 の 四 本 に は 皆 釈 論 の 影 響 を 受 け た 文 が あ る。 そ の 中 で 第 一 の ﹃ 開 示 弦 大 乗 経 ﹄ 本 に 見 ゆ る ﹃ 夫 道 之 本 ﹄ 等 の 一 文 は 前 出 の 教 王 経 開 題 の 文 に 同 じ い か ら 今 は 省 略 す る。 一 六、 法 華 経 開 題 に 云 は く。 夫 れ 重 円 の 性 海 は 風 水 の 談 を 超 え、 讐 如 の 一 心 は 言 心 の 境 に 非 ず。 大 我 は 其 の 朗 月 を 都 と し、 広 神 は 其 の 心 宮 に 住 す。 万 徳 の 塵 沙 は 四 相 に も 動 ぜ ず、 聖 如 念 風 は 心 海 の 水 を そ ら 鼓 動 し、 妄 雲 性 空 の 虚 を 蔽 す。 随 染 覚 者 は 自 性 を 守 ら ず、 独 力 業 相 は 自 由 に 践 唇 す。 三 界 の 夢 虎 は 我 々 を 封 執 に 呑 み、 四 大 の 毒 龍 は 有 々 を 着 愛 に 吸 ふ。 永 く 如 床 に 眠 り て 覚 悟 に 日 無 く、 久 し く 苦 衝 に 迷 ふ て 家 に 還 る に 時 無 し。 等 文 ( 和 四 ・ 一三六、 洋 一 ・ 七 六 八 ) こ の 文 の 聖 如 の 句 の 前 後 に は 脱 文 が あ る と 思 は れ る が、 と も か く、 こ の 一 文 は 初 に は 性 徳 円 満 海 不 二 の 果 海 を あ げ、 釈 論 第 二 に 明 す 所 の 広 大 神 王 に よ つ て 大 我 法 身 を 示 し、 ﹃ 万 徳 塵 沙 ﹄ 以 下 は 生 滅 門 の 法 相 に よ つ て 釈 し、 生 死 流 転 の 相 を 示 し て い る。 文 の 中 の ﹃ 重 円 性 海 ﹄ は 円 々 の 海 徳 不 二 性 海 を 指 し、 ﹃ 風 水 ﹄ は 風 水 龍 王 で 生 滅 所 入 の 一 心 を 指 し、 ﹃ 讐 如 一 心 ﹄ は 真 如 門 の 一 心 法 を さ す。 ﹃ 広 神 ﹄ は 釈 論 第 二 に 説 く 所 の 広 大 神 王 の こ と で あ る。 釈 論 に は 真 如 生 滅 二 所 入 の 一 心 の 十 名 を 説 く と き、 第 一 に 広 大 神 王 の 名 を あ げ、 こ れ に 金 剛 神 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 王 と 主 海 神 王 と を 開 き、 真 如 所 入 の 一 心 を 金 剛 神 王、 生 滅 所 入 の 一 心 を 主 海 神 王 と し て い る。 従 つ て 単 に 広 大 神 王 と の み 云 ふ 時 は 真 如 生 滅 何 れ を 指 す か 明 で な い が、 今 の 場 合 は 真 如 所 入 の 一 心 で あ る。 従 つ て こ の 一 文 も 二 門 分 別 の 立 場 で 見 た ら よ い。 次 に 生 滅 門 の 法 相 に よ る 釈 の 中 の、 ﹃ 四 相 ﹄ は 生 住 異 滅 の 四 相、 ﹃ 随 染 覚 者 ﹄ は 染 浄 本 覚 を 云 ふ。 ﹃ 独 力 業 相 ﹄ は 三 細 の 中 の 業 相 に 独 力 業 相 と 独 力 随 相 と 倶 合 動 相 と あ る 中 の 第 一 を 指 し、 根 本 無 明 単 独 の 業 用 で あ る。 一 七、 同 書 に 六 重 本 覚 妙 法 を 説 い て 云 は く。 謂 は く 妙 法 と は 且 く 六 重 の 浅 深 あ り。 一 に は 染 浄 本 覚 妙 法、 二 に は 清 浄 本 覚 妙 法、 三 に は 一 心 法 界 本 覚 妙 法、 四 に は 三 自 本 覚 妙 法、 五 に は 一 如 本 覚 妙 法、 六 に は 不 二 本 覚 妙 法 な り。 此 の 六 重 に 就 い て 且 ら く 顕 密 の 妙 法 を 分 た ば、 初 の 五 は 顕 の 妙 法、 後 の 一 は 密 の 妙 法 な り。 又 前 の 五 が 中 に 初 の 四 は 顕 後 の 一 は 秘 な り。 又 四 の 本 覚 の 中 に 更 に 顕 秘 有 り。 初 は 顕 後 は 秘 な り。 次 の 如 く 知 る 可 し。 今 の 所 説 の 経 は 染 浄 本 覚 の 妙 法 な り。 何 を 以 て か 知 る こ と を 得 る、 他 受 用 身 応 化 仏 の 随 機 の 所 説 な る が 故 に。 等 文 ( 和 四 ・ 一 三 七、 洋 一 ・ 七 六 九 ) こ の 文 は 妙 法 蓮 華 経 の 経 題 の ﹃ 妙 法 ﹄ に つ い て 六 重 本 覚 妙 法 を 開 い た も の で あ る。 六 重 本 覚 の 思 想 は 前 に 金 剛 頂 経 開 題 の 釈 段 で 説 明 し た よ う に、 釈 論 に よ つ て 大 師 が 考 案 さ れ た 独 特 の 説 で あ る。 大 師 は 妙 法 に 六 重 を 開 き、 そ の 顕 秘 に 重 々 あ る こ と を 説 き、 法 華 経 に 説 く 妙 法 は そ の 中 で は 最 浅 位 の 染 浄 本 覚 妙 法 で 応 化 身 所 説 の 随 機 の 顕 の 妙 法 に す ぎ ず、 密 の 妙 法 に 非 ざ る こ と を 明 示 し て い る。 顕 の 法 華 経 を 説 く に 当 つ て、 大 師 は こ の 開 題 に 於 て 多 分 に 秘 密 の 深 義 を 説 く も、 こ れ は 開 会 の 釈 で あ る。 大 師 は 経 が 本 来 の 応 化 身 所 説 の 顕 教 大 乗 経 で あ る こ と を こ こ に 説 い て い ら れ る の で あ る。 六 重 本 覚 に つ い て は 前 に 述 べ た か ら 今 は 省 略 す る。 一 入、 法 華 経 釈 に 云 は く。 知 見 と は 謂 は ゆ る 衆 生 の 三 密 な り。 衆 生 の 三 密 に 六 重 の 本 覚 有 り、 是 の 本 覚 に 各 々 三 十 七 智 百 八 乃 至 微 塵 数 の 仏 智 四 種 曼 茶 羅 身 を 具 す。 然 り と 錐 も 衆 生 は 宅 中 の 宝 蔵 を 知 ら ず 覚 ら ざ れ ば、 仏 能 く 此 の 宝 蔵 を 知 見 し て 衆 生 に 開 授 せ し め ん と 欲 ふ が 故 に。 等 文 ( 和 四 ・ 一 五 五、 洋 一 ・ 七 八 七。 法 華 経 開 題 銃 河 女 人 本。 和 四 ・ 一 六 七、 洋 一 ・ 七 九 九。 に 同 一 の 文 が あ
る。 ) こ の 文 は 衆 生 の 三 密 に つ い て 六 重 本 覚 を 説 く。 前 示 し た 六 重 本 覚 妙 法 の 釈 は、 六 重 に 浅 深 を 説 き、 顕 密 を 対 弁 し て い る が、 こ こ に 出 す 六 重 本 覚 は 衆 生 本 有 の 三 密 の 具 徳 と し て の 六 重 本 覚 で あ り、 こ の 本 覚 に 四 種 曼 茶 羅 微 塵 の 仏 智 を 本 具 す る こ と を 明 す か ら、 自 宗 不 共 門 の 釈 で、 密 教 本 来 の 法 義 を 示 し た も の で あ る。 開 会 の 秘 密 眼 を 以 て 法 華 経 を 見 る と き、 こ の よ う な 深 義 を 説 く こ と が で き る の で あ る。 六 梵 網 経 の 開 題 に つ い て 梵 網 経 開 題 に は 釈 論 と 関 連 す る 文 が 四 ケ 処 あ る。 そ の 内 ﹃ 夫 道 之 本 無 始 無 終 ﹄ 等 の 一 文 は、 既 に 説 い た 教 王 経 開 題 の 文 と 同 一 で あ る か ら、 今 は こ れ を 略 し、 他 の 三 文 の み を 提 示 す る。 こ の 開 題 も 開 会 の 義 に よ る 深 秘 釈 を し て い る。 一 九、 梵 網 経 開 題 に 云 は く。 今 謂 は く 梵 王 は 清 浄 の 義 な り。 天 と は 自 然 光 明 潔 清 浄 の 義 な り。 王 と は 自 在 決 断 能 摂 所 帰 の 義 な り。 是 れ 即 ち 清 浄 本 覚 心 王 の 名 な り。 文 ( 和 四 ・ 一 八 ○、 洋 一 ・ 八 一 二 ) 梵 網 経 は、 古 伝 に 梵 王 の 瞳 に 因 み て 喩 と 為 し て 此 経 を 説 く と 云 ふ。 因 つ て 大 師 は 先 づ 梵 王 の 意 義 を 釈 せ ら れ た。 今 文 は そ の 一 節 で あ る。 こ の 一 文 は 梵 王 の 深 秘 釈 を 為 す に 当 つ て、 釈 論 の 清 浄 本 覚 の 思 想 を 転 用 し た 釈 で あ る。 清 浄 本 覚 の 義 は 釈 論 第 三 及 び 第 五 に 出 て い る。 二 ○、 同 書 に 云 は く。 馬 鳴 の 体 統 に 云 は く。 法 と は 衆 生 の 心 な り。 此 心 に 二 種 の 義 有 り。 一 に は 真 如 門、 二 に は 生 滅 門 な り。 若 し 真 如 門 に 約 す る 時 は 五 十 地 位 の 階 級 無 し。 優 劣 離 乱 の 位 な り。 生 滅 門 に 約 す れ ば 五 十 二 地 の 差 別 有 り と。 云 々 今 此 の 経 の 四 十 位 地 も 亦 是 の 如 し。 若 し 体 性 本 覚 に 約 す れ ば 皆 是 万 徳 法 身 の 別 な り。 若 し 因 縁 修 行 に 拠 れ ば 即 ち 是 れ 行 者 向 上 入 証 の 位 な り。 横 に は 一 味 平 等 の 理 を 表 し、 竪 に は 差 別 階 級 の 義 を 表 は す。 不 縦 不 横 は 則 ち 行 者 の 正 観 中 道 の 心 な り。 文 ( 和 四 ・ 一 八 二、 洋 一 ・ 八 一 四 ) こ の 文 は 梵 網 経 に 説 く 四 十 位 地 を 明 す に つ い て、 大 乗 起 信 論 の 立 義 分 と 解 釈 分 の 文 と 、 釈 論 第 二 上 半 四 日 下 に 説 く 二 門 位 地 異 の 釈 と を 取 意 し て 説 明 し て い る 。 釈 論 に ﹃ 七 に は 位 地 異 、 真 如 門 の 中 に は 相 雑 住 の 故 に 、 生 滅 門 の 中 に は 往 向 住 の 故 に ﹄ と 説 く 。 相 雑 住 は 優 劣 雑 乱 の 位 、 往 向 住 は 地 位 差 別 の 義 で あ る 。 ま た 文 に 馬 鳴 体 統 と 云 う は 、 大 乗 起 信 論 を 指 す 。 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 古 来 こ の 論 の 作 者 を 馬 鳴 菩 薩 と す る。 故 に、 起 信 論 を 馬 鳴 体 統 の 言 葉 で 示 し た の で あ る。 二 一、 同 書 に 云 は く。 門 と は 能 入 所 入 の 別 あ り。 能 入 は 則 ち 智 な り。 所 入 は 則 ち 理 な り。 理 智 二 名 な り と 錐 も 体 性 は 是 れ 一 な り。 決 断 簡 択 を 智 と 名 け、 不 乱 摂 持 を 理 と 日 う。 色 を 以 つ て 心 を 摂 す れ ば 心 は 則 ち 所 摂 な り。 心 を 以 つ て 色 を 摂 す れ ば 心 は 則 ち 能 摂 な り。 色 心 名 別 な れ ど も 並 に 是 れ 一 体 な り。 一 体 と 法 と 亦 三 義 有 り。 三 大 と 名 と 是 れ な り。 三 大 と は 体 大 相 大 用 大 な り。 真 如 門 の 三 大 は 定 相 有 る こ と 無 し。 互 相 に 二 を 具 す る が 故 に。 三 と い う は 生 滅 自 門 の 三 大 を 以 つ て 名 く。 各 其 の 相 有 り。 自 性 差 別 の 故 に。 是 の 三 大 の 法 に 三 十 二 の 法 門 春 属 を 具 す。 摂 大 体 性 の 五 大 を 加 う る と き は、 即 ち 三 十 七 な り。 是 れ 即 ち 三 十 七 仏 な り。 謂 は ゆ る 三 十 七 尊 と は 五 仏 四 母 十 六 三 昧 四 摂 八 供 是 れ な り。 大 日 不 動 宝 生 弥 陀 天 鼓 是 れ を 五 智 と 名 け、 金 宝 法 業 を 四 母 と 名 け、 薩 主 乃 至 牙 拳 は 十 六 三 昧 な り。 嬉 婁 等 の 八 天 女 を 供 養 と 名 け、 鉤 索 等 を 四 摂 と 名 く。 是 の 如 く の二 の 仏 各 々 に 即 ち 塵 数 の 春 属 あ り。 是 れ 即 ち 諸 仏 の 万 徳 な り。 衆 生 の 三 密 な り。 (中 略 ) 此 経 に 談 ず る 所 の 時 盧 遮 那 仏 現 虚 空 光 体 性 本 原 成 仏 常 住 法 身 三 昧 示 諸 大 衆 と は 即 ち 是 れ な り。 文 ( 和 四・ 一 八 四、 洋 一 ・ 八 一 六 ) こ の 文 は 梵 網 経 心 地 品 に 一 百 十 の 心 地 を 説 く こ と を 示 し て、 こ の 心 地 は 即 ち 法 門 な り と 云 い、 そ の 門 の 意 義 よ り 説 き 起 し た 文 章 で あ る。 当 段 の 釈 は 単 に 釈 論 の 意 に よ つ て 説 く の で は な く、 釈 論 に 見 ゆ る 三 十 三 の 法 に つ い て 独 自 の 深 義 を 述 べ た も の で あ る。 し か し 着 想 の 基 礎 は 釈 論 に あ る こ と を 忘 れ て は な ら ぬ。 そ し て こ の 一 文 は 体 相 用 の 三 大 の 法 門 に 三 十 二 法 を 具 す る こ と と、 三 十 二 に 摂 大 体 性 の 五 大 を 加 え て 三 十 七 法 を 立 て、 こ れ を 金 剛 界 三 十 七 尊 と す る 深 義 を 述 べ て い る の で あ る。 こ の 文 章 に つ い て は 弘 法 大 師 の 教 学 と 釈 摩 詞 術 論 と 題 す る 論 文 に 於 て 既 に 論 じ て い る か ら、 今 は 簡 単 に 要 点 だ け を 述 べ て 置 く。 体 大 は 普 遍 平 等 常 住 不 動 の 真 如 の 理 で あ り、 相 大 は 真 如 に 具 す る 所 の 恒 沙 の 本 覚 の 功 徳 で あ り、 用 大 は 真 如 本 覚 か ら 出 現 す る 報 応 二 身 で あ る。 し か も こ の 三 大 は 一 心 の 内 容 を 開 い た も の で、 一 心 即 三 大 三 大 即 一 心 不 二一 体 で あ る。 今 は 一 心 三 大 の 中 三 大 を 本 と し て 真 如 門 の 三 大 と 生 滅 門 の 三 大 と の 相
異 を 示 し、 こ の 三 大 を 開 い て 三 十 二 法 と し、 こ れ に 摂 不 二 と 体 大 不 二、 相 大 不 二、 用 大 不 二 と 体 性 不 二 の 五 不 二 を 加 え て 三 十 七 法 と し て い る。 二 門 三 大 の 不 同 に つ い て 釈 論 第 六 八 日 下 に ﹃ 真 如 門 の 中 の 三 種 の 大 義 は 唯 各 一 を 立 つ、 讐 立 無 き が 故 に。 若 し 生 滅 門 の 中 の 三 種 の 大 義 は 三 種 の 大 義 具 足 し て 讐 立 す。 前 後 無 き が 故 に。 之 を 以 つ て 別 と 為 す。 ﹄ と 云 う。 真 如 門 よ り 云 え ば 三 大 は 体 即 相 相 即 用 で、 一 大 に 各 他 の 二 大 を 具 足 し 互 融 無 尋 す る 故 に、 無 讐 立 の 三 大 で あ る。 し か る に 生 滅 門 よ り 観 れ ば、 三 大 は 対 立 し て 各 自 に 別 相 を 存 し て い る。 故 に こ れ を 讐 立 の 三 大 と 云 う。 し か も こ の 双 立 と 無 双 立 と は 差 別 平 等 の 二 義 に し て 互 に 相 離 れ ず。 そ の 内 容 を 開 け ば 前 後 両 重 三 十 二 と な る の で あ る。 次 に 摂 大 体 性 五 大 と は 摂 不 二 と 体 相 用 三 大 の 不 二 と 体 性 不 二 と の 五 不 二 を 云 う。 そ の 中 第 一 の 摂 不 二 と は、 後 重 一 心 の 二 法 惣 の 位 で あ る。 立 義 分 の ﹃ 所 言 法 者 謂 衆 生 心 ﹄ の 句 が こ れ に 相 当 す る。 衆 生 心 は 真 如 生 滅 を 総 摂 す る 不 二 一 心 で あ る。 次 に 第 二 の 体 大 不 二 と は 立 義 分 の ﹃ 一 者 体 大 ﹄ の 句 に 当 り、 真 如 生 滅 二 門 の 体 大 を 含 む 不 二 の 位 で あ る か ら 体 大 不 二 と 云 う。 第 三 の 相 大 不 二 と は 立 義 分 の ﹃ 二 者 相 大 ﹄ の 句 に 当 り、 真 生 二 門 の 相 大 を 含 む 故 に 不 二 の 義 が あ り、 相 大 不 二 と 云 う。 第 四 の 用 大 不 二 は 立 義 分 の ﹃ 三 者 用 大 ﹄ の 句 に 当 る。 こ れ 亦 真 如 生 滅 二 門 の 用 大 を 含 む 故 に 用 大 不 二 と 云 う。 第 五 に 体 性 不 二 と は 四 不 二 の 惣 体 た る 不 二 摩 詞 術 を 云 う。 四 不 二 の 位 よ り 別 開 す る 相 状 を 図 示 す れ ば 次 の 如 く で あ る。 一、 摂 不 二 一 体 摩 詞 衡 三 自 摩 詞 彷 二、 体 大 不 二 無 量 無 辺 諸 法 差 別 不 増 不 減 摩 詞 街 寂 静 無 雑 一 味 平 等 不 増 不 減 摩 詞 術 三、 相 大 不 二 如 来 蔵 具 足 摩 詞 街 具 足 性 功 徳 摩 詞 術 四、 用 大 不 二 能 生 一 切 世 間 因 果 摩 詞 術 能 生 一 切 出 世 間 善 因 果 摩 詞 彷 五 不 二 の 中 の 前 四 不 二 は 四 仏 の 如 く、 体 性 不 二 は 普 門 大 日 の 如 き 関 係 に あ り、 五 不 二 よ り 縁 起 す る 三 十 二 法 は 定 門 の 十 六 尊 と 慧 門 の 十 六 菩 薩 と の 如 き 関 係 が あ る か ら、 五 不 二 と 三 十 二 法 と を 以 つ て 三 十 七 尊 と す る の で あ る。 こ の 釈 は 顕 密 を 対 弁 す る 二 門 分 別、 三 門 分 別 の 何 れ に も よ ら な い で、 三 門 悉 く 密 法 と す る 深 秘 釈 で あ り、 大 師 の 独 自 の 見 解 で あ る。 弘 法 大 師 の 諸 開 題 等 に 散 見 す る 釈 論 の 思 想
密 教 文 化 三 十 三 法 と 三 十 七 尊 と の 配 立 は、 大 師 の 御 釈 に 明 で な い。 故 に 先 徳 の 釈 が 一 致 し て い な い。 興 教 大 師 覚 鍵 上 人 の 釈 摩 詞 術 論 指 事 に 此 の 三 十 三 種 の 法 門 は 是 れ 三 十 七 尊 の 三 摩 地 な り、 不 二 は 是 れ 大 日 不 二 の 総 体、 一 心 三 大 は 是 れ 四 仏、 前 後 両 重 の 門 法 は 波 羅 蜜 以 後 に 之 れ を 配 す 可 し。 復 次 に 前 重 の 一 心 三 大 は 四 仏、 十 六 の 門 法 は 十 六 菩 薩、 後 重 の 四 法 総 は 是 れ 四 波 羅 蜜、 真 如 所 入 は 内 の 四 供、 能 入 は 外 の 四 供、 生 滅 門 法 は 四 摂 な り。 秘 々 中 の 深 秘 に 付 か ば 皆 是 れ 大 日 如 来 の 法 曼 茶 羅 身 な り。一 の 法 に 各 々 の 法 を 具 し て 互 相 摂 入 し 輪 円 具 足 し て 横 竪 無 辺 な り。 数 量 刹 塵 に 過 ぎ 理 々 智 々 各 々 無 数 な り。 ( 全 集 上 ・ 七 二 ) と 説 き て 大 体 を 示 す の み で あ る。 こ れ に 基 い て、 道 範 の 釈 論 曼 茶 羅、 頼 宝 の 釈 論 勘 註 第 一、 宥 快 の 釈 論 決 択 第 三 等 に 配 当 し て い る が、 互 に 出 没 が あ る。 し ば ら く 決 択 の 説 に よ ら ば、 五 不 二 は 順 に 阿 閤 ・ 宝 生 ・ 弥 陀 ・ 釈 迦 ・ 大 日 の 五 仏、 前 重 八 法 の 中 真 如 の 四 法 は 金 宝 法 業 の 四 波 羅 蜜、 生 滅 の 四 法 は 嬉 童 歌 舞 の 内 四 供 養、 前 重 入 門 の 中 真 如 の 四 門 は 香 華 燈 塗 の 外 四 供、 生 滅 の 四 門 は 鉤 索 鐘 鈴 の 四 摂 菩 薩、 後 重 の 八 法 八 門 の 中 一 心 の 二 法 二 門 は 東 方 四 親 近 の 薩 王 愛 喜、 体 大 の 二 法 二 門 は 南 方 の 宝 光 撞 咲、 相 大 の 二 法 二 門 は 西 方 の 法 利 因 語、 用 大 の 二 法 二 門 は 北 方 の 業 護 牙 拳 の 四 菩 薩 で あ る。 弘 法 大 師 は 三 十 三 法 を 三 十 七 尊 に 配 立 せ ら れ た が、 こ れ は 且 ら く 一 義 を 示 し た ま で で 実 は 両 部 諸 尊 の 内 証 法 門 で あ る。 故 に 興 教 大 師 の 指 事 及 び 愚 按 砂 第 一 末 (全 集 上 ・ 一 二 八 ) に は 不 二 真 如 生 滅 を 胎 蔵 の 仏 蓮 金 三 部 に 配 し、 或 は 不 二 と 三 十 二 を 順 に 金 胎 両 部 曼 茶 羅 に 配 す る 等 種 々 深 秘 の 義 を 説 い て い る。 七 寅 勝 王 経 の 開 題 に つ い て 釈 論 に 関 連 す る 文 章 が、 最 勝 王 経 開 題 に は 二 文 あ る。 二 二、 最 勝 王 経 開 題 に 云 は く。 夫 れ 独 尊 大 空 は 機 根 を 超 え て 本 具 の 蔵 絶 々 た り。 讐 如 一 心 は 建 立 を 寂 に し て 以 つ て 性 海 の 徳 離 々 た り。 三 自 の 龍 風 水 ひ び く ご と を 頭 尾 に 吐 き、 二 種 の 如 徳 損 を 所 在 に 韻 が 若 き に 至 つ て は、 恒 沙 の 性 徳 雲 騎 に 覆 は れ て 見 え ず。 刹 塵 の 三 身 煙 垢 を 被 つ て 顕 は れ ず。 独 力 の 摂 権 其 の 力 弥 強 く、 四 生 の 勢 屈 其 の 実 尤 も 熾 な り。 曽 つ て 三 身 の 己 に 在 る こ と を 知 ら ず。 誰 か 四 徳 の 我 有 な る こ と を 覚 ら ん。 ( 中 略 ) 狂 酔 に 浅 深 あ れ