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1 原価計算のルネッサンスと行動科学

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(1)

原価計算と行動科学(その1)

佐藤好孝

I原価計算の行動科学的観点の必要性の背景

1 原価計算のルネッサンスと行動科学

経験と実用を重ずる国民性と結びついた科学振興の機運を背景に起った英 国の産業革命(Industrial Revolution)は,工企業を手工業ないし工場制手工業 から工場制工業ないし工場制機械生産に変えた。ソロモンズ教授(Prof.D.

Solomons)が原価計算の復興期として特徴づける原価計算のルネッサンス時 代(Renaissance Age)は,こうした英国の産業革命が進行する過程の19世紀末

注1)

の1880年代から1890年代にかけて英米系の経済社会で開花した。この第一次 の原価計算のルネッサンス時代の特徴は,その一つは原価計算制度(costing system)の確立であり,いま一つは多くの会計学者による原価に関する新概念 の解明ならびに新しい考え方の提起であり,またそれ以前に発見されたもの で,あまりかえりみられなかった原価の重要な原価概念が再認識されるよう になったところに求められる。

ここに,原価計算制度の確立とは,文献的には, 1887年に出版されたガル ク・フェルズの共著「工場会計」 (Gark, E. and Fells, J. M,, Factory Accounts, 1887.)を指す。次に原価に関する新概念の解明とは,変動間接費・固定間接 費といういわゆる原価の変動費・固定費概念の解明を指す。次に新しい考え 方の提起とは,その一つは(a)製造間接費を製品単位に結びつける考え方

であり,いま一つは(b 生産量の増減によって製品‑単位当りの配賦額が

往1 )  Solomons, D.Studies in Costing, 1952. pp. 17‑18.

(2)

経 営 と 経 済

変化する固定間接賀を製品原価から排除する考え方であり,さらにいま一つ

(c)

実際原価にはアイドル・コスト(i

d l e c o s t )

が含まれているので, 格決定の基礎となるような「真実の原価

J ( t r u e   c o s t s )

を求める考え方を指す。

そうして,これらの考え方は,その着想、が素地となって,その後,ソロモン

2) 

ズ教授が指摘されるように,それぞれの時代的要請に相呼応する形で,

(a) 

からは

A

・ハミルトン・チャーチ

( A .H .  Church)

によって代表される各種の製 造間接賀の配賦形態と配賦基準の研究・開発だとか, (b)からは「限界原価 学派

J ( m a r g i n a l   c o s t   schoo

l)に属する人々によって構築される英国でいう「限 界原価計算

J ( m a r g i n a l  c o s t i n g )

,アメリカでいう「直接原価計算

J ( d i r e c t   c o s t ‑ i n g )

,ドイツでで、いう「比例原価計算

J

(

Prop

or

t i

o na

l k o ω o s

t e

e c h n

t un

g )

ないし 「限 界原価計算

J ( ω G r e n

Z

α k

u

I

t ω o t

enPun

I k t

け)だとか,また(

)からは標準原価計算

(standard c o s t   accou

i n g )

だとか,さらlごそれ以前に発見されたもので,あまりかえりみられなかった 原価の重要な原価概念の再認識とは,実際原価概念の確認とか,素価

(Prime c o s t s )

概念の再認識だとかを指す。だカミ以上述べたほとんどすべての問題は,

いうまでもなしその実務が,一般に認められ,かつ一定の理論的実体をも って普及するのは,今世紀に入ってからのことである。だが,ここで注意し なければならぬことは,ある構想、の出現とその構想、が一般に認められ特定の 構築された理論実体をもって,それが大規模に適用されることとを混同しで はならないということである。ソロモンズ教授が,

1 9

世紀末の

1 8 8 0

年代から

1 8 9 0

年代を原価計算のルネッサンス

( c o s t i n g r e n a i s s a n c e )

として規定せられる ゆえんのものは, この時期が原価計算の各種の新構想、の出現期に当ったと同 時に,その後の原価計算の発展の原動力となったからであるO

次に,原価計算の第二次のルネッサンス時代は,これを今世紀の

2 0

年 代 (1

9 2 0

年代)に求めることができる。この原価計算の第二次のルネッサンスは,

シュマーレンバッハ教授が,

1 9 2 6

年に

r

商学研究雑誌

J ( Z .   f .   h w .  F . )

におい

r

……産業合理化に関し技術的打開方法として単純化,標準化, テイラ

注2 ) 

S o l o m o n s

, 

0 .

, 

o p .   c i

 .t

p p .   21‑38. 

(3)

一・システム,フォード・システムなどの合理化運動があったため,その技 術組織は非常に改善された。だがこれに対して,経営計算制度の面において どうであったかというと,実は経営の大規模化に伴ない経営計算制度の面に おいては,従来の伝統的な会計処理方法を継承するだけではもはやいかんと もしがたい状態に立ち至っている。だがその間にあって,経営計算制度の面 においても,ある程度の進歩はきたしてはいるものの,その進歩の点に至つ ては未だ不充分で、, 目下の進歩の状態では,現在の産業界に対し充分にその 経営の生産力を発揮せしむるまでに至っておらず,現状のままでは産業界が 操短または休業の惨状を続ける外はない状態である。そこで,かかる現状を 打開するために,ここに従来とは異なった新しい経営管理の経理的処理方法

注3)

の必要性がますます痛感せられる」と述べているように,欧米各国における 第一次世界大戦の終結に伴なっ経済の不況と沈滞,さらに

1 9 1 0

年代(第一次大 戦中)に膨張した大規模企業の出現に伴なう経営組織の複雑化とその大規模 会社の管理の困難さを背景に新しい経営計算思考を望む社会的・経済的要請 に答える形で起ってきた。

この間の事情を反映するかのごとし

1 9 2 5

年に, ドイツでは,米国の経営 経済を研究視察するために, ドイツ工業技術家協会

(Verein Deutscher 1

eni‑

eure: V. D. 

I.)の工業計算制度委員会の専門家を派遣し,米国の「標準原価」

4)

ならぴに「予算統制」の考え方を土産としてもちかえっているし,また米国 では,

1 9 2 6

年に米国商業会議所

(Chamber of  Commerce of the  United  States)

製造工業部門において標準原価を使用した際の会計処理手続の統ーをはかる ために I標準原価を使用した場合の原価会計

J (Cost Accounting through the Use 

of  Standards)

と題するパンフレットまで発行して標準原価計算の普及にっと

注5) 

めている。そして,さらに

1 9 2 7

年には,シカゴで開催された原価会計士協会主 催の国際会議において,標準原価思考

(standard cost  idea)

の採択決議がなさ

3)  Schmalenbach

, 

E .

, 

D i

W e i t e r b i l d u n gd e r   m o n a t l i c h e n  E r f o l g s r

chnung

Z .  f

. 

h w .  F .   1 9 2 6 .  Jahrg

2 0 .  

4)Vg

 .l

z .   B .   M i c h e l

, 

E .

, 

Handbuch d e r   P l a n l

o s t e n r

chnung

1 9 3 7 .  S .   9 .  

5)

f.

Bangs

J .  

R. 

I n d l l s t r i a l  A C C O l l

i

f o rE x e c u t i v e s

, 

1 9 3 0 .  p .   3 5 6 .  

(4)

注6) 

れている。

経 営 と 経 済

こうした標準原価思考の誕生について,標準原価計算の創始者であるハリ

7)

スン氏は

r

……エマースン氏の提唱した標準原価は,当時(1

910

年代)の職業 会計士達に対して殆んど感銘を与えなかったよっていある。その結果, 私 が

1 9 1 8

年から

1 9 1 9

3

月にかけて r雑誌産業経営」の誌上において発表した

「生産の助けとなる原価計算」と題する論文以外には,ついに職業会計士の 手によって書かれた標準原価計算に関する論文というものは一つも現われな

8 )

かった」と述べているょっに,

1 9 2 0

年代は今世紀における経営計算制度の旧 き計算思考から新しい計算思考への幕開け,ないし一つの経営計算制度に対 する発想、の転換点に当る時期であったといえる。

管理問題の解決には標準と記録とは不可決の関係にあるが,標準原価計算 というのは,科学的管理法における標準設定能力と原価計算における記録能 力とを, うまく一つの計算制度にまで止揚した経営計算制度である。この点 について,ハリスン氏は

r

標準と記録とは, いわば緯度と経度,貸と借,

束と西のごとく分離しては考えられないものである。記録の欠げた標準は,

ちょうど,的を射撃する場合,標的系が的中か否かを射手に知らせる手段を もたないのと同じょっに,なんの役にも立たないのである。また,逆に,標 準の欠げた記録は,あたかも標的係に的を与えないて

1

一弾一弾を注意深く 記録せよというに等しい。標準があっても記録がなければ,ちょうど,われ われが時刻表をもってはいるが,時計をもたなかったり,逆に時計はもって

注9)

いるが,時刻表をもたないで旅行するのに等しい。……」と比口氏的に述べ,

標準原価計算がこの両者を兼備えた性格をもっ計算制度であることを春秋の 筆法をもって浮彫にしている。

6) Harrison

, 

G .  C .

, 

Standard  C o s t s

, 

1 9 3 0 .  p p .  25‑6. 

7)ここにエ?ースン氏の提唱した標準原価とは, rEm

r s o n

H .

, 

E f f i c i e n c y   a s   a B a s i s   f o r  O p e r a t i o n  and  Wages

, 

1 9 0 9 . J

の第

7

rThe Modern Theory o f   Cost AccountingJ 

(原価会計の現代理論)を指す。

彼は,ここで実際原価計算と標準原価計算とを比較しながらその相違点を明らかにしている。

8) Harrison

, 

G .   C .

, 

O p .  c i

 .t

p p .   11‑12. 

9) Mckinsey

, 

J .   0 .

, 

Managerial  Accounting

, 

Vo

.  1l. 

p p .   1 6

7 .

(5)

こうした性格をもっ標準原価計算は,先に述べた当時

( 1 9 2 0

年代)の産業界 の窮状(管理の困難さ)を救う救世主として,期待をもって一般に(学界・実務界

・業界)受け入れられることになる。だが,こっして広く受け入れられた標準 原価計算にも,

1920

年代の初期に,標準の厳格さ

( t i g h t n e s s )

の問題をめぐっ て,一つの問題が起っている。それは,原価会計士のレイプラント (M.W. 

Lybrand)

氏が,

1920

年に原価会計士協会の年報に[""原価計算と経営管理と の関係‑職業会計士の見地よりJ

( R e l a t i o n   o f   Cost Accounting t o   Business  Man‑

agement‑From the  prof e s s i o n a l  Accountant)

と題する論文を発表し,その中で「あ まり散格な標準が決められていれば,人聞の慣習として,標準に達し得なか った場合,その事に対して,常に機会あるごとに奔解ないし言訳をするであ

1 0 )

ろう」と述べていることから分るように,それ以前(1

9 2 0

年代)の経営計算制 度にはみられなかった,いわゆる原価計算が「行動科学

J (behavioral s c i e n c e )  

とかかわりあいをもたざるを得ないような初期的現象が出現していることで ある。これは,われわれが,本稿で採り上げようとしている原価計算に対す る行動科学的諸概念とのかかわりあいについて検討する上で,一つの注目す べき指摘であるといえる。

こうした事実を原価計算の発達の歴史の一連の流れの中で,更に突込んで、,

これを特色的にみた場合,この第二次の原価計算のルネッサンスの特徴は,

科学的管理法の推進者達を中心に行われた伝統的な原価計算に対する非難,

すなわち管理性を欠いだ回顧的原価計算

( r e t r o s p e c t i v e cost  accounting)

である との激しい非難と,その改善を望む声の高まりを背景に,これまで

( 1 9 2 0

年代 以前)の経営管理的計算になかった管理的発想に基づいて考案された経営管 理的な経営計算(標準原価計算・管理会計・その他)の出現時代としてこれをとら えることができる。また,これを別の側面からのいい方をすれば,伝統的な

「物的計算

J (Sachrechnu

昭)の時代から人間に結びついた「責任計算

J (Veran‑

twortu

srechnu

昭)の時代への移行期ないし転換点に立った時代であったとい

注目)

Lybrand

, 

M. W.

, 

R e l a t i o n   o f   C o s t   A c c o u n t i n g  t o   B u s i n e s s   Management‑From t h e   P r o f e s s i o n a l  

A c c o u n t a n t .   i n :   N .  A .  C .   A .  Y e a r  Book

, 

1 9 2 0 .  

(6)

6  経 営 と 経 済 える。

伝統的な実際原価計算の基本形態のもとでも,原価管理思考がなかったわけではな い。それは, カルベラム教授 (Pro

f.D

r .  W i l h e l m  Kalveram) が計画原価計算( P l a n k o s t e n r e ‑ chnung) の前段的思考として指摘されるよっに (Vg

. l

Kalveram ,  W. ,  Kostenrechnung ,  S S .   1 3 5

一7

. ) , 1903 年のシュマーレンバッハ教授 (Pro

f.E

.   Schmalenbach) の「経営内部の計 算価格について

J

(Uber I n n

r b e t r i e b l i c h e Verrechnungspre 日)とし汁論題の研究発表に始ま る一連の計算価格の研究を通じて生成した固定計算価格(f e

V e r r e c h n u n g s p r e i s e ) の実 際原価計算への導入である。

この固定計算価格の導入は,各種原材料・その他の価格や

1t

率を固定化することに なるので,原価の計算は一極の物量計算化すると同時に,比較可能性 (V

r g l

i c h b a r k

i t )

が増大した。このことによって, ミッへル教授 (Pro

f.E

.   Mich

1 ) が指摘されるように (Vg

.l

M i c h e l ,  E . ,  G

s c h i c h t l i c h e E n t w i c k l u n g  d e r   Planko

nrechnung , 1 9 3 7 .   S .   1 2 . ) ,部門計算表 ( S t e l ‑ l e n b o g e n ) による原価の部門別管理のための基礎が形成された。

次 に , 原 価 計 算 の 第 三 次 の ル ネ ッ サ ン ス 時 代 は , 第 二 次 世 界 大 戦 後 の 1 9 5 0 年代から 6 0 年 代 に か け て , 戦 後 の 疲 幣 し 荒 廃 し た 経 済 社 会 の 復 興 を 目 指 す 世 界 各 国 の 補 給 基 地 的 な い し 工 場 的 役 割 を 受 持 た さ れ た 米 国 の 巨 大 な 経 済 社 会 を 背 景 に 起 っ て き た 。 そ っ し て , ま た , こ の 原 価 計 算 の 第 三 次 の ル ネ ッ サ ン スの特徴は,こうした米国の巨大経済社会を背景に, 1 9 5 0 年 代 か ら 6 0 年 代 に かけて開発された投資(例えは¥設備投資計画・研究開発計画・その他)に関する新 しい理論が原価計算に導入されたことによって,一方で、は従来の伝統的な原 価計算制度のもつ機能(財務諸表作成機能・価格計算機能・原価管理機能)がその主 役 の 座 か ら 後 退 し た か の 様 相 を 呈 し , 他 方 で は 制 度 と し て の 原 価 計 算 の 機 能 の 枠 を は み だ し て そ の 機 能 が 拡 大 さ れ た , い わ ゆ る 原 価 計 算 機 能 拡 張 時 代 と してこれをとらえることができる。

では,先に述べた投資理論が, 1 9 5 0 年 代 の 原 価 計 算 の 歴 史 の 舞 台 に い つ 頃

か ら 登 場 し て き た か は , ア メ リ カ 会 計 学 会 ( A . A .  A.)の「原価概念および基

準 委 員 会 J (committee  on cost  concepts  and standards) が , 大 戦 後 ( 1 9 4 5 年) 3回

に わ た っ て 発 表 し て い る 次 拘 の 原 価 計 算 目 的 が , こ れ を 如 実 に 物 語 っ て い

る 。

(7)

注目)

1  1 9 4 7

年の発表

( 1 )  

原価管理に役立てる。

( 2 )  

損益の算定ならびに財政状態の決定に必要な基礎資料を提供する。

( 3 )  

売価決定ならびに経営政策の特殊問題解決に必要な基礎資料を提供 する。

注12)

I I   1 9 5 1

年の発表

( 1 )  

財務諸表(見積財務諸表を含む)の作成に必要な原怖の集計を行なう。

( 2 )  

各階層の管理者達に対して,原価管理に必要な原価資料を提供する。

( 3 )  

経営者に対して,経営上の各種の経営計画の樹立(意思決定)に必要 な原価資料を提供する。

注目)

I I I   1 9 5 5

年の発表

( 1 )  

経営計画の設定に必要な原価資料を提供する。

( 2 )  

経営管理に必要な原価資料を提供する。

( 3 )  

財務諸表の作成およびその他外部目的に必要な原価資料を提供する。

この

3

回にわたる報告をみて分るょっに,投資(例えば,設備投資計岡・その 他)に関する理論が, 原価計算機能のーっとして導入されたのは第二回目の

1 9 5 1

年の報告からである。原価計算目的は,各時代のしかも各国の利害関係 集団の要請を反映するが,この投資理論すなわち計画機能が原価計算機能の ーっとして積極的に原価計算の舞台に現われてくるようになるのは,第三回 目の

1 9 5 5

年の報告からであることが分る。といつのは,この報告では,経営 管理機能を次のように分類し,原価計算目的において,経営計画目的をその 第一位に置くなど,非常に重視しているからである。

「佃別計画

「計画機能

‑ 1

L-1~1 間計画

経営管理機能

‑ 1

」統

H J I ]

機能

ij:ll )八.A. A. Accounting  ficview, April  1948.  注12)

r ¥ .

八.A. Accounti HcviewApril  1952 

iU3)

八.A.  A.  AccountinficviewApril  1956. 

(8)

そうして,この報告では,さらに原価計算に付与された計画機能に役立つ 原価概念(例えば,機会原価・埋没原価・その他)を多数挙げて説明している。 こ の結果,伝統的な原価計算は,次述のように各種の面で様変りを始めた。

1 )  

原価認識の説明においても

2

つの基本的に異なる支出原価

(out!ay c o s t )

と機会原価

(opportunity c o s t )

とを並列的ではなく,相対立させて考

える考え方。

2 )  

原価の諸概念の説明にも,これまでになかった特殊原価概念(例えば,

差額原価・機会原価・その他)を必ず入れて説明するようになったこと。

3 )  

投資効果の評価基準として使用される原価にも,従来の歴史的原価

( h i s t o r i c a !   c o s t )

・平均原価

(average c o s t )

に代って, むしろ限界原価・

機会原価のような特殊原価

( s p e c i a Ic o s t )

の使用が強張されるようになっ fここと。

4 )  

原価管理目的における管理理論に,モチベーション理論(

motivation  theory)

すなわち動機づけ理論に加えて,未来費用の管理のための計画理

論(例えば,設備投資計画・その他)が導入され,原価管理概念も

dostcon‑

trol

から

cost management

へと拡大されたこと。

5 )  

経営計画目的として,原価計算に新たな項目として計画理論が付け加 えられるようになったこと。

ここで最も注意しなければならぬことは,上述の

4

・5にみられるように,

従来の伝統的原価計算に,

1 9 5 0

年代を境にして,モチベーション理論と計画 理論(投資理論)が導入されてきたことである。計画には,経営においてなに が望まれ,またそれが「如何に,何時,どのような方法で行なわれるべきか」

という問題を含んでおり,これに対して統制ないし管理には計画を経営にう まく適合させて,その計画を実現させるかといっ問題を含んでいる。

そうした意味では,計画

(planning:  Planung)

とは, H.

コッホ教授 (Pro f . H .   Koch)

が指摘されるように iそれによって,一定の(人間)行動が,あらかじ

1 4 )

め確定される意思決定

(Entscheidung)

の体系」であり,これに対して,統制

注目)

K o c h

, 

H .

, 

B e t r i e b l i c h e   P l a n u n g

, 

G r u n d l a g e n  u n d  G r u n d f r a g e n  d e r  U n t e r n e h m u n g s p o l i t i k

, 

1 9 6

1. 

S .   9 .  

(9)

9  ( c o n t r o l  :  K o n t r o l l e )

とは, それによって一定の人間行動が,計画実現のため に確定される意思決定の体系である。このように,計画と統制には,代替的 ないくつかの行動の選択を意味する意思決定

( d e c i s i o n ‑ m a k i n g )

はっきもので ある。意思決定することは,選択することであり,選択することは,評価す ることである。したがって,意思決定では,必ず人間行動が問題となる。こ こに,本稿で採り上げようとしている,原価計算に対する行動科学のかかわ りあいが生じてくることになる。

以上,何が,原価計算に,行動科学的アプローチの必要性を考えさせるよ うになったのか。また,従来の伝統的な原価計算の研究手法が変化しなけれ ばならなくなった必然性は,那辺にあったのか,について考察してきた。従 来,経営計算の分野において,経営計算と人間行動とのかかわりあい,いい 換えれば,経営計算の行動科学的意味づけに対して,会計学者は疑問を抱き こそすれ,ほとんど関心を示さなかったのが実情であった。ところが,上述 のような原因もてつだって,こうした事態もいまや急速に変化い米国を初 めとして,その行動科学的アプローチの普及・理解ならびにその利用に対し て,疑問を残しながらも,近年異常とさえ思える位,会計学関係者が関心を 示していることは周知の通りである。

ところが,一方で、は,こうした傾向とは裏腹に,新しい事態が出現しよう としている。それは,産業用ロボットの出現である。こう産業用ロボット (例えば,溶接ロボット・塗装ロボット・掃除ロボット・その他)は,マイクロコンビ ューターという新技術の開発ないし進歩によるものであるが,いまや人間作 業にとって代る程に普及しつつある。そうして,いまや,無人工場の出現さ え取沙汰されている。こつした現象は,現状では, 自動車メーカー・家電製 品メーカーにみられる。将来生産現場が,ロボット一色とな

Q

,無人工場が 出現した場合,どのような問題が経営計算なふし原価計算に対して提起され るであろうか。これは,正に,原価計算の第四次のルネッサンス時代の夜明け ないし幕開けを感じさせる現象に思える。

(10)

経 営 と 経 済

原価計算を取巻く社会関係の変化と行動科学

現代経営計算i!JJj皮の理論は,いうまでもなく,他の社会科学一般にみられ るように,現実(下部構造)の社会関係から出発し,その社会関係を一定の目 的との関連において,これを集約的に抽象化ないし理念化したものが理論と なり,またその理論は抽象的な小理屈としてではなし具体的な社会関係が 解釈ないし論証できるものでなければならぬ。そっして,この理論は,現実 の社会関係の変化に伴なっ実践的要求の変化にしたがって変化するという関 係にある。ここに実践的要求とは,現実において,個人・柴田または組織が 一定の目的ないし目標(例えは¥利潤極大化・労働条件改善・消費者保護・産業公害防 止・その他)を達成するための行為であり,かかる要求は現実の社会関係の歴 史的発展に照応して,その中から発生してくるものである。いうまでもなし 現実の社会関係の発展過程は,歴史的に規定される。したがって,現実の社 会関係は,あらゆる時代を通じて不変的・固定的なものではなく,可変的・

流動的なものである。そつした意味では,われわれの理論には, 自然科学に みられるような不変的法

W J

に匹敵するような理論は存在しないO

自然科学の分野では,理論は実務(ないし現実)であるが,社会科学の分野では,

理論の本質は,理論と実務(ないし現実)との差異によって明らかにされる。したが って,理論において健全なものと,実務において健全なものとは,なんらかの方法に よって,終局的には調整されなけれは、ならない。

現代企業の社会関係は,企業の公共的性格が強まるにつれ,企業はその企 業活動を通じて社会的協力を遂行する準公共的な制度的機構となってきた@

こつした企業の社会関係の変化は,次拘の図示のょっに,単に出資者だとか,

従業員だとかだけでなく多くの利害関係者を包摂せざるを得なくな勺た。

出資資本家としての株主

│ 

債権者(売掛権者・貸付権者・社債権者)

→経営管理者としての経営者 国家・地方公共団体 従業只

同業者ならぴにその団体

消費者大衆(地域住民を含む)

(11)

このように,企業の公共性が強まるにつれ,企業に対する利害関係者から も各種の要求(例えば,消費者運動・産業公害防止運動・その他にみられるように)が出 されるようになり,経営者にもまた公的責任を自覚することが求められるよ うになってきた。周知のょっに,企業の経営計算制度は,企業活動(内部活動

・外部活動)のあらゆる分野と直接的・間接的に接触している。そこで,企業 の経営計算制度も,こうした利害関係者の多元的な要求に答える必要性が生 じてきた。こうした要求に答えうるような経営計算制度を確立しようと志向し ているのが,現在の米国の「管理会計」の方向である。このことは,現代原 価計算に対しても例外ではない。そこで,いま,この利害関係者を企業の外 部と内部とに分類整理し,それぞれの利害関係者の原価計算に対する要請な

いし要求を列挙すれば,次のようになる。

1.  企業外部の利害関係者の原価計算に対する要請

( イ )

出資資本家としての株主は,次の資料に役立つことを要求する。

( a )  

持分権(配当請求権・残余財産請求権)の変動の正しい計算 (b)  配当可能利益の増大

( ロ )

債権者は,次の資料に役立つことを要求する。

(a)  契約義務の履行 (b)  財務的安全性の確保

国家・地方公共団体は,次の資料に役立つことを要求する。

( a )  

租税公課などの徴収

い) 同業者ならびにその団体は,次の資料に役立つことを要求する。

( a )

業者間相互の不当競争の防止

( ホ )

消費者大衆(地域住民を含む)は,次の資料に役立つことを要求する。

( a )  

販売価格の適正化 (b)  販売価格の引下げ

( c )  

企業の製品に対す品質義務の確保 (d)  公害のない快適環境の創出

2 .  

企業内部の利害関係者の原価計算に対する要請

( イ )

経営管理者としての経営者は,次の資料に役立つことを要求する。

(12)

1 2  

( a )  

製品原価の決定

(b)  季節変動に基づく損失の防止

( c )  

経営能力の測定

(d)  経営計画の設定

( e )  

経営政策の実施とその業績評価

( ロ )

従業員は,次の資料に役立つことを要求する。

( a )  

貸率ならびにボーナス計画の適正化 (b)  作業標準の適正化

( c )  

より大きな報奨(賃金・給料)の獲得

以上の利害関係者からの原価計算への要請をみても分るように,現代原価 計算は,非常に複雑な社会関係に直面している。そこでコ現代原価計算が,

従来のように,企業内部の利害関係者である経営管理者への情報提供の手段 の範囲にとどまっていたのでは,計算制度として社会的に機能を果すことが できないのではないかといっ問題が提起されるよつになった。その一つは,

原価情報のディスクロージャー

( d i s c ¥ o s u r e )

の問題として提出されている。

だが,現代原価計算は,本来的には,次述のょっな性格をもっ経営計算で ある。すなわち,原価理論の本質は解釈および論証から成立ち,原価実務は 事実と行為(計算手続)とから成立つている。目標に達するための行為として の原価手続は,常に,行為を起こさせる意図としての目的(原価計算目的)との 関連において行なわれる。そこで,原価理論は,王として,行為(原価手続) に焦点が向けられている思考である。

こうした本来的な性格をもっ現代原価計算が,社会的機能を果すために,

上述のような各利害関係者の多元的要請に答えて行こうとすれば,それぞれ の意思決定段階での目標の調整ないし統合が行なわれていなければならない。

そうでなければ,上述のような性格をもっ原価計算のもとで作成された原価 情報が,それぞれの利害関係者に提供されたとすれば,それぞれの利害関係 者のもつ目標の相違から,その原価情報の受け止めに相違が生じてくる。そ うなれば、,原価情報の提供が,かえって,関係者間にコンフリクト

( c o n f l i c t )

・混乱・不満をうむ結果となり,マイナス効果に作用しかねない。かかる関

(13)

係から,こうした状況のもとで,原価情報をうまくプラスに機能させるため には,原価計算および原価計算担当者が提供する原価情報が,組織における 各意思決定過程およびその他の情報の「受け手」にどのような影響を及ぼす かを評価する場合に,行動科学の適用の必要性が生じてくる。ここに,現代 原価計算を取巻く社会関係の変化から,原価計算と行動科学とが,かかわり あいをもたざるを得なくなった一つの原因が求められる。

原価計算を取巻く経営体質の変化と行動科学

さて,次に,現代原価計算が,行動科学とどうしてかかわりあいをもたざ るを得なくなったのかの原因の背景の一つに,経営体質の変化が考えられる。

企業は,英国の産業革命以後,とくに前世紀中葉から今世紀初頭にかけ て,先進各国においては,その企業数の点からも,投下資本の点からも,賃 金労働者数の点からも,また生産高の点からも驚くべき発展を示し,経営者 の関心は,なんといっても技術革新ないし企業の機械化による合理化に集中

注目)

していた。これが,今世紀初頭を境に,科学技術の進歩も加わって,製鉄業 を始めとする各産業が飛躍的発展を遂げ,いわゆる巨大産業の発生と共に,

企業は単純経営から工場の地域分散に基づく複合経営形態の生産へと移行す

注目)

る現象が現われた。その一つは,多数の企業の合併・買収による垂直的統合 が行なわれた結,企業規模は拡大し,経営組織が非常に複雑化したことであ

り,いま一つは企業が体質の構造的変化を起したことである。

前者の「企業規模の拡大に伴なう組織の複雑化」の問題からは,当然のこ

1 7 )

とながら,ケ、、ェツ教授(Pr

o f . B .   E .   Goetz)

が指摘されるように,次のような問

1 5 )

尾上一雄者「アメリカ経済史」関書院,

4 3

頁‑95

1 6 )

f. 

Chandler

, 

A l f e d   0 .

, 

The 

Be

g i n n i n g s   o f B i g   Busin

s s " i n   American I n d u s t r y

, 

i n  : The H i s t o ‑ r y   o f   American Management" e d i t e d   by  J  am

sP .   Baughman. PP. 23‑26. r e

f. 

sons

t. 

Harrison

, 

G .   C .

, 

Standard Cost

, 

P .   2 6 1   s e q .   r

f.

1 7 )G o e t z

, 

B .   E .

, 

Management P l a n n i n g   and C o n t r o l

, 

p p .  9

1 0 .e t   s e q .  

(14)

題が発生してきた。すなわち,企業は,経営規模の拡大に科学技術の進歩も 加わって,経営管理者の直接的監督が,細部にわたって行とどかなくなり,

経営機能か専門化し始めた。そうして,こうした経営機能の専門化の必要性 は,経営上層部にまで浸透し,この結果経営は,益々細分化され,専門化さ れて行った。こうした現象から発生してきた問題は,これまで,それぞれの 時代を通じて,経営計算的にふ経営組織的にも,また経営管理的にも,一 応解消してきた。

だが,一方で、は,こうした専門化の傾向は,経営組織を益々機能的に細分 化し,それぞれの機能的専門担当者に,責任と権限の委譲

( d e l e g a t i o n )

という 形で進展して行った。だが,その半面,他方では,強力な中央集権勢力が,

企業内に台頭する原因ともなった。この結果,各部門管理者は,それぞれの 部門で独自の目的ないし目標を設定し,これらの目標を独立して遂行するよ

うになってきた。このため,企業運営は,従来にも増して,企業活動の明確 化,目標の統合のための調整ならびに監督(ないし統制)が必要となってき た。この結果,経営の意思決定構造が益々複雑化して行った。ここにも,原 価計算が,行動科学とかかわりあいをもたざるを得なくなった要因が生じて

くる。

次に,後者の「企業体質の構造的変化」の問題からは,次のような問題が

1 8 )

発生している。すなわち,企業の機械化の長足の進歩と共に,手作業に代る 機械的手法の採用が,多くなった。機械は,手作業による労働より専門化し易 いので,益々専門化の傾向と生産規模拡大の傾向に,拍車をかける結果とな った。企業が生産規模の拡大化をはかる一つの目的は,当然のことながら,

単位原価の低減と生産性の向上にある。というのは,大型専門機械の利用によ る量産の方が,次掲の「注」にみられるように,小型機械による少量生産よ りも有利で、あるので,その有利性を利用しようとするところにある。だが,

その半面,この機械費用が,企業の総費用

(Gesamtkosten)

中に占める割合は 増大し,その機械費用の重要性は益々高まって行った。

注目}f. 

  G i . o e t z

, 

B .   E .

, 

o p .   c i t .

, 

p p .   11‑15. V .  S .  

(15)

総費用は,操業度(生産量)との関係より,固定費と変動費とに分類される。ここで 問題となるのは固定費であるが,この固定費は,これを製品ー単位当りについてみた 場合,次掲のように,生産量が増加すれば,一単位当り製品原価に含まれる固定費の 額は少なくなり,生産量が減少すれば,逆にー単位当りの製品原価に含まれる固定費 の額は多くなる。

生 産 量 総費用 固定費 変動費(単位当り) 単位原価

1 0 0

1 3

000

3

0 0 0

1 0 0

1 3 0

2 0 0

2 3

000

3

0 0 0

1 0 0

1 1 5

3 0 0

3 3

000

3

0 0 0

1 0 0

1 1 0

この固定費の性格をつまく利用したのが,大量生産方式である。企業における固定 費額の大きさは,与えられた経営規模に基つ、いて規定される。したがって,大規模企 業では,総費用中に占める固定費の額が非常に大きいので,売上高の変動に対する経 営の感度が大きくなる。そこで,売上高の下がった場合の不況感の感じ方は,総資用 中に占める固定費の額の大きい企業程強〈感じる。

継続量産企業における大型機械の導入は,なんといっても,その前提とし て,量産と製品の標準化が行なわれて,初めて能率増進と単位原価の低減が 実現できる。ところが,その半面,このような量産形式が,高度化し専門形 態化すると,逆に企業はその弾力性を失い,また生産形態の変更も困難とな

り,試行期間も長期化して費用がかかるようになる。

したがって,企業規模の拡大化は,企業の弾力性を失なわせ,現在の米国 の自動車産業にみられるょっに,状況の変化に対する即応性を失なわせ,計 画の変更をむつかしくすることになる。このように,現代の大規模企業は,

例えそれが製品のモデル・チェンジであっても莫大な資金投入が必要となる ので,古い時代にみられたょっな試行錯誤的な経営のやり方は許されなくな った。こうした事情を反映して,経営者に対して,長期的見通し(長期計画) が強く要請されるよつになったきた。といつのは,現代の大規模企業の経営 では,問題が発生してから解決するよりも,問題が発生しないように予防し た方が割安であり,また予防的な経営のやり方より,試行錯誤的な経営のや り方の方が割高につくことが識識されるようになってきたからである。

この結果,医学が「対症療法医学」から「予防医学」の方向に移行したと同

(16)

様に,経営のやり方も「対症療法的経営

J ( r e m e d i a l   manag

伊 伊

e

me

経営

J ( p r e v e n t i v e  management)

へと移行しつつあり,これにつれて経営計算も 伝統的な「対症療法的経営計算」から現代の管理会計・予算統制・その他に みられるように「予防的経営計算」へと移行することが要請されるようにな ってきている。予防には,理論的な分析と長期的に健全な判断が,質だけで なく,数量的にも正しく行なわれる必要がある。判断するためには,代替的 な行動の選択とその評価といっ組織の基的要素の一つである行動科学的意思 決定が,その前提条件となろう。ここにも,原価計算が,行動科学とかかわ

りあいをもたざるを得なくなった,いま一つの要因が生じている。

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