抗微生物薬の使用とメチシリン耐性
黄色ブドウ球菌の変遷に関する研究
2018 年度
抗微生物薬の使用とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の変遷に関する研究 研 究 分 野 薬物治療学 指 導 教 授 野口 雅久 学位申請者 原 田 大 黄色ブドウ球菌は、健康なヒトの常在菌として手指、鼻前庭、咽頭部などに分布している。 その一方で様々な毒素を産生し、種々の感染症の起因菌としても知られている。また、薬剤 耐性を獲得しやすいため、院内感染の主要な原因菌の一つとなっている。1940 年代に penicillin が実用化されたことにより、黄色ブドウ球菌による感染症は大きく減少した。しかし、その 数年後には penicillin 耐性黄色ブドウ球菌が出現し、大きな問題となった。その対策として、 penicillin 耐性黄色ブドウ球菌に有効な methicillin が開発されたが、これにも耐性化したのが メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) である。MRSA の-lactam 系薬耐性機構は、-lactam 系薬の標的部位であるペニシリン結合タンパク質 (PBP) の代替となる、薬剤低親和性の新規 PBP2’の産生である。そのため、MRSA は penicillin 系薬、cephem 系薬、carbapenem 系薬など のほとんどの-lactam 系薬に耐性を示す。
MRSA は当初、抗菌薬が汎用される医療施設を中心に流行していたが、近年、市中でも流
行が確認されている。さらに、入院患者から分離されるMRSA と市中の外来患者や健常者か
ら分離される MRSA の抗菌薬感受性や分子疫学的特徴は大きく異なることがわかってきた。
そのため、前者は院内獲得型MRSA (hospital-acquired MRSA: HA-MRSA)、後者は市中獲得型 MRSA (community-acquired MRSA: CA-MRSA) と呼ばれている。このように、MRSA は抗菌薬 の使用によって誕生し、その使用状況に応じて進化 (変化) している。
いたが、2014 年から減少し、2016 年では 32.0% (8 株) と有意に減少した (Fig. 1)。 一方、CA-MRSA に多い SCCmec type IV は 2014 年から増加し、2015 年以降は主 流となっていた。 増加したSCCmec type IV および減少し たSCCmec type II 株の詳細な分子疫学的 特徴を解析するため、MLST 解析により 遺伝子型を決定した。その結果、SCCmec type II 株は、2010 年と 2016 年共に、全て の菌株が HA-MRSA の遺伝子型である clonal complex (CC) 5 であった。一方、 SCCmec type IV 株で最も高頻度に認めら れたのは、CA-MRSA の遺伝子型である CC8 であり、2010 年では 55.6% (10/18 株)、2016 年 では45.5% (10/22 株) であった。また、CA-MRSA の遺伝子型である CC1 は、2010 年では 5.6% (1/18 株) であったのに対し、2016 年では 22.7% (5/22 株) と 4 倍に増加していた。
各種抗菌薬の感受性を解析した結果、cephalosporin 系の cefotaxime および lincomycin 系の clindamycin の耐性率が年々低下し、2014 年から 2016 年分離株では 2010 年から 2011 年分離 株よりも有意に低かった (P < 0.05) (Table 1)。さらに、HA-MRSA の遺伝子型である CC5-SCCmec type II (CC5-II) 株、CA-MRSA の遺伝子型である CC8-IV 株および CC1-IV 株の薬剤 感受性を比較した。その結果、CC8-IV 株および CC1-IV 株の cefotaxime および clindamycin の 耐性率は、CC5-II 株よりも有意に低かった (P < 0.05)。したがって、上述した HA-MRSA の減 少とCA-MRSA の増加によって、入院患者から分離される MRSA の抗菌薬感受性が変化して いることが明らかとなった。次に、病院内の抗菌薬使用密度 (Antimicrobial use density: AUD) を解析した結果、-lactam 系抗菌薬の使用率が大きく変化していた (Fig. 2)。このうち、 penicillin 系薬の使用率が増加し、cephalosporin 系薬の使用率が減少していた。
近年、広域スペクトルから狭域スペクトルの抗菌薬にシフトするde-escalation 療法が推奨 Table 1. Antimicrobial susceptibility of MRSA isolates obtained between 2010 and 2016.
MIC50/MIC90 R (%) MIC50/MIC90 R (%) MIC50/MIC90 R (%)
Ampicilin 32/32 100 32/64 100 32/64 100 Oxacillin >256/>256 99.6 >256/>256 98.6 64/>256 97.8 Cefotaxime >256/>256 86.5 >256/>256 74.9 64/>256 55.0* Levofloxacin 8/>256 87.4 8/>256 79.6 16/>256 78.6 Clarithromycin >256/>256 87.4 >256/>256 82.0 >256/>256 82.4 Clindamycin >256/>256 75.4 >256/>256 69.2 0.13/>256 46.2* Gentamicin 32/128 60.9 16/128 53.6 32/64 54.4 Minocycline 4/16 34.8 2/16 33.7 0.13/16 36.8 Sulfamethoxazole-Trimethoprim 0.5 - 0.13/1 - 0.25 0 0.5 - 0.13/1 - 0.25 0 1 - 0.25/1 - 0.25 0 Vancomycin 1/1 0 0.5/1 0 1/1 0 Teicoplanin 1/2 0 0.5/1 0 1/2 0 Linezolid 0.5/1 0 1/1 0 1/1 0 Arbekacin 0.5/1 0 0.25/1 0 0.5/1 0 2010-2011 (n = 207) 2012-2013 (n = 211) 2014-2016 (n = 182)
MIC50 / MIC90, minimum inhibitory concentrations (mg/mL) for inhibiting the growth of 50% / 90% of the strains;
R, rate of resistant strains. *P < 0.05 vs. percentage of strains in 2010-2011, as determined by the c2 test.
Antimicrobial agent
Fig. 1. Annual transition of SCCmec types among MRSA isolates obtained between 2010 and 2016. Data are presented as the percentages of total isolates. *, vs. 2010, as*determined by the c2 test (P < 0.05).
Type I Type II Type III
さ れ て い る 。 さ ら に 、 抗 MRSA 薬や広域スペクトル 抗菌薬使用時の届出制導入 等も加わり、抗菌薬の適正使 用に向けた AST 活動が積極 的に行われている。これによ って、病院内のcephalosporin 系薬の使用率が大きく減少 したと考えられる。また、こ のような抗菌薬の使用率の 変化が、MRSA の流行型の変 化にも影響している可能性 が示された。 【第2 章】消毒薬低感受性 MRSA の分離頻度と手指消毒薬使用量の変化 MRSA の接触感染を予防するために、 種々の手指消毒薬が使用されている。し かし、多剤排出ポンプQacA/B をコード するプラスミド性の遺伝子qacA/B を獲 得し、消毒薬に低感受性を示すMRSA が 分離されている。QacA/B はアミノ酸配 列の相違から、QacA、QacBI~QacBIV の 5 つのサブタイプに分類されるが、その 流行状況は不明である。本章では、病院 内における消毒薬低感受性 MRSA の流 行状況と、手指消毒薬使用量との関連性 について研究した。 消毒薬耐性遺伝子qacA/B の保有率は、600 株中 199 株 (19.8%) であった。qacA/B を詳細
に分類したところ、qacA が 56.8% (113/199 株)、qacBIII が 28.6% (57/199 株)、qacBII が 14.6%
(29/199 株) であり、qacA が主流であった。また、qacA/B の検出率は年々減少し、2010 年で は50.0% (38/76 株) であったが、2016 年では 4.0% (1/25 株) と大きく減少した (Fig. 3)。特に、
qacA 陽性株の減少が著しく、2010 年の 34.2% (26/76 株) から、2012 年以降は有意に減少し
ていた。一方、qacB 陽性株の有意な減少は認められなかった。各種消毒薬の感受性を測定し
た結果、2010 年分離株と比較して、2016 年分離株の 90%の菌株に対し発育を阻止した最小発 育阻止濃度 (MIC90) 値は、benzalkonium が 1/2、chlorhexidine が 1/4 に低下していた。さらに、
qacA/B 陽性 MRSA の SCCmec type を解析したところ、qacA 陽性株の 81.4%、qacBIII 陽性株
の 80.7%が HA-MRSA に多い SCCmec type II、qacBII 陽性株の 93.1%が CA-MRSA に多い Fig. 2. Percentage of antimicrobial use density (AUD) in the Jikei university hospital from 2010 to 2016.
2010 (207.5) 2011 (226.9) 2012 (240.9) 2013 (251.2) 2014 (239.3) 2015 (244.0) 2016 (255.5) Y ea r (A UD to tal)
% of antimicrobial use density
0 20 40 60 80 100
Penicillin Piperacillin 1stcephalosporin 2ndcephalosporin 3rdcephalosporin
4thcephalosporin Carbapenem Monobactam Anti-MRSA drug Fluoroquinolone
Aminoglycoside Lincosamide Tetracycline Fosfomycin Macrolide
Fig. 3. Annual transition of incidence of the respective qacA/B-positive MRSA strains isolated between 2010 and 2016. Data are presented as the percentages of total strains.
*, vs. 2010, as determined by the c2 or Fisher’s exact test (P < 0.05).
qacA qacBII qacBIII
SCCmec type IV であった。一方で、病 院内の手指消毒薬 (0.2% benzalkonium hand rub, 80% ethanol, 0.2% chlorhexidine hand rub) の総使用量は 年々増加しており、2010 年では 13.7 L/1,000 patient-days で あ った のに 対 し、2016 年では 3 倍以上の 45.0 L/1,000 patient-days であった (Fig. 4)。これに 伴い、MRSA 感染症の新規発生指数は 2010 年の 0.50 から年々減少し、2016 年の 0.18 と約 1/3 にまで減少してお り、手指消毒薬の年間消費量の増加 が、MRSA 発生指数を有意に低下させ たことが強く示唆された (r = - 0.975, P < 0.001)。 本章の結果から、消毒薬に低感受性を示す qacA/B 陽性 MRSA の著しい減少、手指消毒薬 の使用量増加、MRSA 発生指数の減少が明らかとなった。東京慈恵会医科大学附属病院では AST 活動の一環として、すべての教職員に対して、感染対策に関する研修会へ年 2 回以上参 加の義務化や病棟毎に手指消毒薬使用量を算出・提示している。このような活動が、病院内 の手指消毒薬使用量の増加に大きく貢献し、その結果として、qacA 陽性株の減少と MRSA 発 生指数の減少に繋がったと考えられる。 【総括】
薬剤耐性 (Antimicrobial Resistance: AMR) は、国際的な重要課題として認識されている。本
邦においても AMR 対策アクションプランが掲げられ、薬剤耐性菌の動向調査・監視が重要
項目の一つとなっている。本研究では、薬剤師がAST 活動を通して、病院内の抗微生物薬使
用率の変化に伴い、MRSA の流行状況も大きく変化することを明らかにした最初の事例とな る。第1 章では、病院内における cephalosporin 系薬の使用率の減少に伴い、入院患者から分 離される主要なMRSA が CA-MRSA に変遷した可能性を示した。第 2 章では、第 1 章で示さ れたHA-MRSA の減少によって消毒薬低感受性の qacA 陽性 MRSA が減少し、手指消毒薬使
用量の増加に伴いMRSA 発生指数が減少した可能性を示した。本研究成果によって、薬剤師 がAST 活動において抗微生物薬の使用量などの臨床データと、薬剤耐性菌の分子疫学的解析 などによる基礎データの両者を解析することによって、AMR 対策に大きく貢献できることが 示された。 【研究成果の掲載誌】 (1) J. Infect. Chemother. 24(7): 563-569 (2018). (2) Microbial Drug Resistance. in press (2019).
Fig. 4. Correlation between annual usage of alcohol-based hand rubs and incidence of MRSA-positive patients.
0.2% benzalkonium chloride with ethanol (benzalkonium hand rub)
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 0 10 20 30 40 50 Year 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 80% ethanol 0.2% chlorhexidine digluconate with ethanol (chlorhexidine hand rub)
【 目 次 】
序論 ………1 第1 章: MRSA の分子疫学的特徴と抗菌薬使用率の変化 緒言 ………8 材料と方法 ………9 1. 研究条件と使用菌株 ………9 2. 患者データの収集 ………9 3. 使用培地および培養条件 ………9 4. MRSA の同定 ………9 5. PCR 法による各種遺伝子の検出および SCCmec typing ………10 5-1. プライマーの合成 ………10 5-2. DNA の増幅 ………10 5-3. アガロースゲル電気泳動 ………11 6. MLST による遺伝子型の決定 ………11 6-1. プライマーの合成 ………11 6-2. PCR 法による DNA の増幅 ………11 6-3. PCR 産物の精製 ………12 6-4. シーケンス反応 ………13 6-5. マルチキャピラリー電気泳動 ………136-6. sequence type (ST)、clonal complex (CC) の決定 ………13
7. 薬剤感受性試験 ………13
7-1. 使用薬剤 ………13
7-2. 寒天平板希釈法 ………14
8. 抗菌薬使用密度 (Antimicrobial Use Density: AUD) の算出 ………14
第2 章: 消毒薬低感受性 MRSA の分離頻度と手指消毒薬使用量の変化 緒言 ………25 材料と方法 ………26 1. 使用菌株 ………26 2. 使用培地および培養条件 ………26 3. 患者データの解析 ………26 4. 消毒薬耐性遺伝子 qacA/B の検出と typing ………26 4-1. プライマーの合成 ………26 4-2. PCR 法による DNA の増幅 ………26
4-3. PCR-Restriction Fragment Length Polymorphism (PCR-RFLP) 法 ……28
【 略 語 一 覧 】
1. 用語
ACME arginine catabolic mobile element
AMR antimicrobial resistance
AST antimicrobial stewardship team (抗菌薬適正使用支援チーム)
arc arginine deiminase gene cluster
AUD antimicrobial use density (抗菌薬使用密度)
CA-MRSA community-acquired MRSA
CC clonal complex
ccr cassette chromosome recombinase
CDC Centers for Disease Control and Prevention
CHG chlorhexidine digluconate;
CI confidence interval
CLSI Clinical and Laboratory Standards Institute
DDD defined daily dose
FQ fluoroquinolone
HA-MRSA hospital-acquired MRSA
IQR interquartile range
JANIS Japan Nosocomial Infections Surveillance
MFS major facilitator superfamily
MHA Mueller-Hinton agar
MHB Mueller-Hinton broth
MIC minimum inhibitory concentration (最小発育阻止濃度)
MLST multilocus sequence typing
MRSA methicillin-resistant Staphylococcus aureus
MSSA methicillin-susceptible Staphylococcus aureus
NT nontypeable
opp3 oligopeptide permease operon gene cluster 3
OR odds ratio
PBP penicillin binding protein
PCR polymerase chain reaction
PVL Panton-Valentine leukocidin
QACs quaternary ammonium compounds
SCC staphylococcal cassette chromosome
ST sequence type
TDM therapeutic drug monitoring
TSST-1 toxic shock symdrome toxin-1
WHO World Health Organization
1
【 序 論 】
黄 色 ブ ド ウ 球 菌 Staphylococcus aureus (S. aureus) は 、 Staphylococcaceae,
Staphylococcus 属の細菌であり、大きさは 0.5 ~ 2.5 mm 程度で、ぶどうの房状の形態
を成すグラム陽性球菌である。通性嫌気性でマンニット分解性を有し、高濃度の食塩
(5.8 ~ 25%) または胆汁 (40%) 存在下でも増殖することができる1, 2)。本菌は、ヒトの
常在菌として手指、鼻前庭、咽頭部などに分布している。その一方で、Staphylococcus
属の中で最も病原性が高いことが知られており、腸管毒素 (enterotoxin)、毒素性ショ
ック症候群毒素-1 (toxic shock symdrome toxin-1: TSST-1)、表皮剥脱毒素 (exfoliative
toxin)、白血球破壊毒素 (Panton-Vakentine leucocidin: PVL) 等を産生することで、抗癌 剤投与後や免疫抑制剤投与中など易感染状態の患者のみならず、健康なヒトに対して
も敗血症や肺炎、髄膜炎、皮膚炎など種々の感染症を引き起こす3-6)。
このような感染症を治療するためには、抗菌薬の投与が必須である。1928 年、
Fleming によってグラム陽性細菌の細胞壁合成を阻害する抗菌薬 penicillin が発見され
た。その後、Florey と Chain が benzylpenicillin の精製と量産化に成功し、世界中で使
用されるようになった。Penicillin は当初、S. aureus に対して奏功したが、1940 年代
には既にpenicillin 耐性菌が確認されており、1948 年には S. aureus の半数以上が耐性
を獲得していたという報告もある 7)。この耐性機構は、penicillin
の活性部位である-lactam 環を加水分解する酵素 penicillinase の産生によるものであった。そこで、1960
年にpenicillinase で分解されない methicillin が開発されたが、その翌年には methicillin
耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant S. aureus: MRSA) が出現した。
MRSA は医療関連感染を起こす代表的な菌であり、病院内で分離される薬剤耐性菌
として最も分離頻度が高い8)。各医療機関によってその頻度は異なり、これまでは入
院患者から分離されるS. aureus の 50 ~ 70%を MRSA が占めているとされてきたが、
近年では減少傾向を示している9)。しかし、厚生労働省院内感染対策サーベイランス
(Japan Nosocomial Infections Surveillance: JANIS) の 2014 年報によると、MRSA の分離
率 (MRSA 分離患者数/検体提出患者数 × 100) は、施設によって異なるものの、中央
値として6.9%を示し、薬剤耐性菌のなかで最も高い割合を占めている9)。
細菌の薬剤耐性獲得機構には、染色体上の遺伝子変異や薬剤耐性遺伝子の獲得が知
られている。MRSA は、常在菌である methicillin 感受性黄色ブドウ球菌
(methicillin-susceptible S. aureus: MSSA) が、methicillin 耐性遺伝子 mecA を獲得することによって
誕生する10)。mecA は、ペプチドグリカン架橋酵素 penicillin binding protein 2’ (PBP2’)
をコードしている。-lactam 系の抗菌薬は、細菌の細胞壁合成過程におけるペプチド
グリカンの架橋反応を担う PBP に結合し、細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作
用する。しかし、PBP2’は-lactam 系に低親和性のため、MRSA は penicillin 系薬、
2
す。mecA は、染色体上の可動性因子である staphylococcal cassette chromosome (SCC)
上に複合体を形成し、SCCmec として存在している。現在、SCCmec は mec 複合体と
cassette chromosome recombinase (ccr) 複合体の構造の違いにより、type I ~ XI に分類さ
れている (Fig. 1) 11-13)。一部のtype では、内部に薬剤耐性遺伝子をコードする plasmid
pUB110 や transpozon Tn554 が組み込まれているため、-lactam 系のみならず macrolide
系やtetracycline 系抗菌薬にも耐性を示す。このことが、MRSA が多剤耐性を示す要因
の一つとなっている。
一般的に、入院患者から分離される MRSA を院内獲得型 MRSA (hospital-acquired
MRSA: HA-MRSA) と称し、通常、入院後 48 時間以降に分離されたものと定義されて いる 14)。HA-MRSA の特徴として、-lactam 系抗菌薬以外にも多剤耐性を示し、 macrolide 系や fluoroquinolone 系抗菌薬などにも高度耐性を示す 14)。また、本邦で分 離されるHA-MRSA は、TSST-1 をコードする遺伝子 tst を保有することが多い15)。当 初、MRSA は抗菌薬の選択圧によって優位に増殖するため、抗菌薬が汎用される病院 内で流行し、抗菌薬の選択圧が低い市中に伝播した際には MSSA との生存競争に敗 れ、淘汰されると考えられてきた。しかし、1982 年に米国で、市中の健康なヒトにも
感染症を起こす市中獲得型MRSA (community-acquired MRSA: CA-MRSA) が報告され
た16)。CA-MRSA の定義として、過去 1 年間 HA-MRSA のリスク因子 (入院歴、手術、
カテーテルの留置など) がない健常者や外来患者、または入院 48 時間以内の患者か
ら分離された MRSA が該当する 14)。本邦の CA-MRSA は、-lactam 系抗菌薬以外の
薬剤耐性遺伝子を持たないSCCmec type IV または V を保有している株が多い17, 18)。
一方、HA-MRSA は、pUB110 や Tn554 を有する SCCmec type II を保有している株が
多い17, 18)。この相違から、CA-MRSA は、HA-MRSA と比べ-lactam 系以外の抗菌薬
に感受性が高いとされている6, 19, 20)。また、本邦では頻度が低いものの、CA-MRSA は皮膚軟部組織感染症患者の感染部位から高頻度に分離され、重症壊死性肺炎との関 連が示唆されている強力な毒素である PVL を保有する株が多い21-24)。PVL 陽性 CA-MRSA は世界各地で報告されており、分子疫学的解析の結果、地域独自の clone が流 行していることが明らかとなっている25-27)。さらに近年、高病原性のCA-MRSA が易 感染性患者の多い病院内に流入し、深刻な問題となっている28)。本邦の市中において も、PVL 陽性 CA-MRSA が増加しており、病院内での分離頻度が上昇している28, 29)。 このように、MRSA は病院内のみならず市中においても広く分布しており、その流行 拡大の防止は急務である。
S. aureus による感染症の治療薬として、-lactam 系、fluoroquinolone 系、macrolide
系、aminoglycoside 系、tetracycline 系抗菌薬が保険適応となっている30)。一方、抗MRSA
薬として使用できるのは、aminoglycoside 系の arbekacin、glycopeptide 系の vancomycin
および teicoplanin、oxazolidinone 系の linezolid および tedizolid、lipopeptide 系の
daptomycin の 6 薬剤のみである 30)。しかし、実際の臨床現場では、抗MRSA 薬以外
3
Fig. 1. Schematic structures of SCCmec elements11-13)
4
療においては、原因となる微生物と感染部位を明らかにし、最適な抗菌薬を選択する ことが重要である。
原因菌の特定及び薬剤感受性の測定には数日を要するため、原因菌の推定とそれに
基づく抗菌薬を用いた empiric therapy が行われる。そこで、empiric therapy を適正に
行うために、施設ごとにantibiogram が作成されている。Antibiogram とは、菌種ごと に各種抗菌薬に対する感受性をまとめた一覧表である。医療機関ごとに分離される菌 株の薬剤感受性は異なるため、各施設でantibiogram を作成し、使用可能な抗菌薬を推 測する必要がある。MRSA の薬剤感受性は、使用される抗菌薬の種類や使用量による 選択圧によって変動すると考えられる。そのため、臨床で活用できるantibiogram を作 成するためには、継続的なサーベイランスを行い、常に見直すことが重要となる。 MRSA は、主に患者や医療従事者の手指を介して伝播する。そのため、その院内 感染対策として手指消毒が有効であり、米国疾病予防管理センター (Centers for
Disease Control and Prevention: CDC) や世界保健機関 (World Health Organization: WHO) が発表したガイドラインでも、消毒薬を使用した手指消毒が推奨されている
31, 32)。消毒薬は、その抗微生物スペクトルから高水準 (aldehyde、peroxide)、中水準
(halogen、alcohol、phenol)、低水準 (quaternary ammonium compound、amphoteric surfactant、biguanide) に分類されている (Fig. 2)。しかし、消毒薬はその濃度に加 え、作用時間や作用温度により影響を受け、適切な濃度で使用しても作用時間が十
分でなければ期待した効果は得られない33)。また、刺激性が低いため手指消毒に汎
用されている低水準消毒薬であるquaternary ammonium compound の benzalkonium や
benzethonium および biguanide 系の chlorhexidine は、血液などの有機物により殺菌力
が減弱する33)。このような低水準消毒薬の不適切な選択、あるいは不十分な使用に
より、消毒薬に対する感受性が低下したMRSA が出現している34, 35)。S. aureus の消
毒薬耐性に寄与する遺伝子として、qacA、qacB、smr、および norA が知られている
(Table 1) 36-38)。このうち、qacA や qacB (qacA/B) は、病院内で分離される MRSA の
約半数が保有しており、消毒薬の耐性レベルも高いことから、S. aureus において最
も重要な消毒薬耐性遺伝子とされている34, 35, 39-41)。
Table 1. Antiseptic-resistance genes in Staphylococcus aureus
Gene Location Product Substrate
qacA Plasmid QacA QACs, CHG, Dyes
qacB QacB QACs, Dyes
(514 aa)
norA Chromosome NorA hydrophilic FQ, QACs, Dyes
(388 aa)
smr Plasmid Smr QACs, Dyes
(107 aa)
5
Fig. 2. Classifications and chemical structures of disinfectants.
Glutaraldehyde
Phthalaldehyde Peroxyacetic acid
High-level
Sodium hypochlorite
Povidone iodine
Ethanol
Propanol Phenol Crezol
6
QacA および QacB は、514 個のアミノ酸から構成される 14 回膜貫通型のタンパク
質であり、major facilitator superfamily (MFS) に属している42)。QacA と QacB は、ア
ミノ酸配列のわずかな違いにより、基質特異性が異なっている (Fig. 3, Table 2)。323
番目のアミノ酸残基は、二価カチオン性薬剤に対する抵抗性に関わっており、QacA
ではaspartic acid であるのに対し、QacB では alanin である。この相違により、qacA
陽性株はqacB 陽性株よりも二価カチオン性薬剤である chlorhexidine への抵抗性が
高いとされている43)。また、qacB には 4 種の遺伝子多型 qacBI、qacBII、qacBIII、
qacBIV が存在している44)。これらにコードされるQacBI、QacBII、QacBIV は、色
素系のacriflavine などの排出能が高い44)。一方、QacBIII は色素系の排出能は低い
が、norfloxacin や ciprofloxacin などの fluoroquinolone 系薬をわずかに排出する44)。こ
のようにMRSA の耐性に関わる重要な情報にも関わらず、本邦における qacA/B 陽
性MRSA の最新の流行状況は不明である。また、qacA/B の各 subtype を保有する
MRSA の流行状況や分子疫学的特徴も明らかとなっていない。
Fig. 3. Schematic topological representation of the QacB45).
7
Table 2. Characteristics of QacA and QacB variants
Qac type Amino acid of the following codon number Efflux ability
320 323 377 Dye Fluoroquinolone
QacA A D G high none
QacBI A A G high none
QacBII A A G high none
QacBIII E A G low low
QacBIV A A E high none
A, aranine; D, aspartic acid; E, glutamic acid; G, glycine
細菌やウイルスなどの病原体による院内感染を防止するため、医療機関では様々な 感 染 対 策 が 講 じ ら れ て い る 。 そ の 一 例 と し て 、 抗 菌 薬 適 正 使 用 支 援 チ ー ム (antimicrobial stewardship team: AST) が挙げられる。AST とは、感染症を専門とする医 師や看護師、薬剤師、臨床検査技師で構成された多職種連携チームの総称であり、抗 菌薬による治療効果の向上や副作用防止、耐性菌出現のリスク軽減などを目的に、① 感染症治療における早期からのモニタリングやフィードバック、②病院内における antibiogram の作成、③感染コントロールに難渋している症例に対する治療支援、④必
要に応じた抗菌薬のde-escalation や注射薬から経口薬へのスイッチ、⑤therapeutic drug
8
第
1 章
MRSA の分子疫学的特徴と抗菌薬使用率の変化
【 緒 言 】
MRSA は、薬剤感受性の測定による表現型の解析に加えて、PCR 法による毒素遺伝
子 の 検 出 、SCCmec typing 、 multilocus sequence typing (MLST) 、 pulsed-field gel
electrophoresis などの分子遺伝学的解析手法によって分類することができる 46-49)。ま
た、これらの解析方法を組み合わせることで、HA-MRSA と CA-MRSA の由来を推測
することができる 14, 50, 51)。一般的に、本邦で分離される HA-MRSA は、多剤高度耐
性、MLST および SCCmec typing による遺伝子型は sequence type (ST) 5-SCCmec type II
(ST5-II) の特徴を有し、New York/Japan clone と呼ばれている52-54)。一方、CA-MRSA
は、-lactam 系抗菌薬以外の薬剤に高い感受性を示し、SCCmec では type IV または
V、ST では ST8 または ST30 が多いとされている23, 55)。また、本邦での報告は少ない
が、PVL を産生し、病原性や定着能を促進する arginine catabolic mobile element (ACME)
を保有する高病原性の USA300 clone と呼ばれる CA-MRSA が、世界各地で流行して
いる56)。ACME は arginine deiminase gene cluster (arc) と oligopeptide permease operon
gene cluster 3 (opp3) から構成されている。arc がコードする arginine deiminase は、L- arginine を加水分解することでアンモニアを産生し、弱酸性のヒト皮膚環境での菌の
定着を促進する 20, 57)。opp3 は ATP-binding cassette transporter family に属し、quorum
sensing、真核細胞への接着、抗菌 peptide への抵抗性などに関与し、菌の増殖や発育 を促進する20, 58)。 これまで、多剤耐性を示すMRSA による感染症は、抗菌薬が汎用される医療施設に おいてのみ問題視されてきた。しかし近年、本邦においてもCA-MRSA が病院内へ流 入していることが報告されている 59)。さらに、本邦の市中においても、高病原性の USA300 clone が増加していることが分かってきた 60)。これに伴い、病院内における
USA300 clone の分離頻度が上昇しつつある60)。このように、病原性の高いCA-MRSA
9
【 材 料 と 方 法 】
1. 研究条件と使用菌株 本研究は、東京慈恵会医科大学附属病院 (以下、当院) の倫理委員会において、ヒ トを対象とする医学研究実施について承認を得て実施した [No. 28-013 (8256)]。試験 対象患者は、2010 年 7 月 ~ 2016 年 5 月に当院において MRSA が分離された 792 名と した。このうち、40 名 (重複患者 31 名、外来患者 7 名、データが利用できない患者 2 名) を除外した。また、対象とした MRSA 752 株のうち、mecA 遺伝子が検出されな かった 18 株を除外した。さらに、入院後 48 時間以内に分離された MRSA (非 HA-MRSA) 134 株を除いた 600 株を研究対象とした。薬剤感受性の測定には、S. aureus の 薬剤感受性標準株JCM2874 株および MRSA の標準株である N315 株を使用した17)。 tst の陽性コントロールとして、臨床分離株 TPS1199 株 (MSSA)、lukS/F-PV の陽性コ ントロールとして、順天堂大学から分与された臨床分離株 MW2 株 (MRSA) を用い た61)。SCCmec typing のコントロール株として、順天堂大学から分与された NCTC10442株 (SCCmec type I)、N315 株 (SCCmec type II)、85/2082 株 (SCCmec type III)、JCSC4744
株 (SCCmec type IV)、および WIS 株 (SCCmec type V) を使用した62)。代表的な
HA-MRSA として、ST5-II の New York/Japan clone である N315 株、代表的な CA-HA-MRSA と
して、ST8-IV の USA300 clone である JCSC6774 株を使用した63)。
2. 患者データの収集
患者の氏名、ID、年齢、性別、診療科、MRSA 採取日については、当院中央検査部
のデータベースより情報を得た。また、生年月日、入院日、退院日、退院時転帰、抗 菌薬使用量については、当院のオーダリングシステムより抽出した。
3. 使用培地および培養条件
S. aureus の増殖は、tryptone soya broth (Oxoid) に agar bacteriological (Agar No. 1:
Oxoid) を加えた tryptone soya agar を用いた。菌株は、35C、好気条件下で一晩培養し た。
4. MRSA の同定
検体は、mannitol salt agar (Oxoid) に塗布し、増殖したコロニーを純培養後、グラム
染色およびPS Latex (Eiken Chemical) を用いたコアグラーゼ試験を行った。グラム陽
性球菌であり、コアグラーゼ陽性を示した菌をS. aureus とした。さらに、6 mg/mL の
oxacillin (Sigma-Aldrich) と 4% NaCl (Wako) を含有した Mueller-Hinton agar (MHA: Oxoid) に増殖し、後述する PCR 法により mecA 遺伝子が検出された株を MRSA とし
10
5. PCR 法による各種遺伝子の検出および SCCmec typing 5-1. プライマーの合成
Methicillin 耐性遺伝子 mecA、TSST-1 産生遺伝子 tst、PVL 産生遺伝子 lukS/F-PV、 ACME 構成遺伝子 arcA および opp3-C を検出するために、それぞれに特異的なプラ
イマーを合成した (Table 3) 39, 65-67)。SCCmec typing は、Boye らが報告した multiplex
PCR 法で使用されている 8 種類のプライマーを使用した (Table 4)68)。プライマーの合
成は、Hokkaido System Science に依頼した。
Table 3. Oligonucleotide primers used for the detection of mecA, seb, tst,
lukS/F-PV, arcA, and opp3-C
Gene / primer Primer sequence (5’ to 3’) Reference
mecA 65 mecA-F GTGGAAGTTAGATTGGGATCATAGC mecA-R GTCAACGATTGTGACACGATAGC tst 67 tsst-F GCTTGCGACAACTGCTACAG tsst-R TGGATCCGTCATTCATTGTTAT lukS/F-PV 66 pvl-F ATCATTAGGTAAAATGTCTGGACATGATCCA pvl-R GCATCAAGTGTATTGGATAGCAAAAGC arcA 68 arcA-F GAGCCAGAAGTACGCGAG arcA-R CACGTAACTTGCTAGAACGAG opp3-C 68 opp3-F GCAAATCTGTAAATGGTCTGTT opp3-R GAAGATTGGCAGCACAAAGTG F, forward; R, reverse. 5-2. DNA の増幅
8 連 PCR チューブ (Bio-Bik) に Go Taq® Green Master Mix (Promega) 5 mL、各種合成
プライマーを各々10 pmol、PCR 試料 1 mL を加え、滅菌超純水を全量が 10 mL となる ように混合した。PCR の試料は、菌株の 1 コロニーを滅菌水 100 mL に懸濁した菌液
を直接用 いた。 これ らをよく 混合し た後 、DNA サーマルサイクラー (Applied
Biosystems Veriti Thermal Cycler: Thermo Fisher Scientific) にセットした。mecA は 95C、 2 分間の加熱により溶菌及び DNA を変性させた後、95C、30 秒間の DNA 変性、58C、 30 秒間のアニーリング、72C、30 秒間の伸長反応の行程を 25 サイクル行った。tst お
11
のDNA 変性、55C、30 秒間のアニーリング、72C、1 分間の伸長反応の行程を 30 サ
イクル行った。SCCmec typing は 95C、2 分間の加熱により溶菌及び DNA を変性さ
せた後、95C、30 秒間の DNA 変性、55C、30 秒間のアニーリング、72C、30 秒間
の伸長反応の行程を30 サイクル行った。ACME の検出は 95C、2 分間の加熱により
溶菌及びDNA を変性させた後、95C、30 秒間の DNA 変性、55C、30 秒間のアニー
リング、72C、1 分間の伸長反応の行程を 25 サイクル行った。DNA 増幅産物の確認
は、後述するアガロースゲル電気泳動法により行った。
Table 4. Oligonucleotide primers used for the determination of SCCmec type
Primer Primer sequence (5’ to 3’) SCCmec
ATTGCCTTGATAATAGCCITCT II, IV 3 TAAAGGCATCAATGCACAAACACT ccrCF CGTCTATTACAAGATGTTAAGGATAAT III, V ccrCR CCTTTATAGACTGGATTATTCAAAATAT 1272F1 GCCACTCATAACATATGGAA I, IV 1272R1 CATCCGAGTGAAACCCAAA 5RmecA TATACCAAACCCGACAACTAC V 5R431 CGGCTACAGTGATAACATCC 5-3. アガロースゲル電気泳動69)
PCR 産物 2 mL を電気泳動用サンプルとした。TAE buffer [40 mM Tris-acetate (pH 8.2)、 2 mM EDTA 2Na] を用い、2 ~ 3% agarose S (Nippon Gene) ゲルにて 100 V、30 分間電
気泳動を行った。電気泳動装置は、水平サブマリン型電気泳動層Mupid®-2 plus (Mupid)
を使用した。泳動後、40 mg/mL ethidium bromide (Wako) 溶液でゲルを 30 分間染色し、
水洗後、305 nm の紫外線照射下で蛍光を発した DNA を写真撮影した。DNA 断片の
分子量は、分子量既知の100 bp DNA ladder (TaKaRa Bio) と泳動距離を比較すること
により求めた。
6. MLST による遺伝子型の決定 6-1. プライマーの合成
MLST では、S. aureus が生存するために必要とする 7 つの housekeeping genes (arcC、
aroE、glpF、gmk、pta、tpi、yqiL) を増幅するために、各遺伝子に特異的なプライマー
を合成した (Table 5)47)。プライマーの合成は、Hokkaido System Science に依頼した。
6-2. PCR 法による DNA の増幅
8 連 PCR チューブに、Q5® High-Fidelity DNA Polymerase (New England BioLabs) 5
12
ように混合した。これらをDNA サーマルサイクラーにセットした。98C、30 秒間
の加熱により溶菌及びDNA を変性させた後、98C、10 秒間の DNA 変性、55C、30
秒間のアニーリング、72C、40 秒間の伸長反応の行程を 30 サイクル行った。DNA
増幅産物の確認は、アガロースゲル電気泳動法により行った。
Table 5. Oligonucleotide primers used for MLST70)
Gene / primer Primer sequence (5’ to 3’)
arcC arcC-F CGGTAATGCGATACAGACA arcC-R TGCTACATCAATATCATCGATT aroE aroE-F AGGACCAGGAGCTAAAGTAA aroE-R GCGCTCTGCTTCCTCTA glpF glpF-F GGAGGACATTTAATATGAATGTA glpF-R TGGTAAAATCGCATGTCCAATTC gmk gmk-F GGTCGTAAGGCATGGATA gmk-R GCTGCAGTTGTTGCAAT pta pta-F GGAGGACATTATGGCTGA pta-R TTGTCACGTCGTCTGATT tpi tpi-F GTGCGTTCACAGGTGAA tpi-R GCATTACCATGTTCGCTT yqiL yqiL-F GGCGTATTGGTTCATTAGA yqiL-R GCTGGTCTTAAGCGACTTA F, forward; R, reverse. 6-3. PCR 産物の精製
PCR 産物は、DNA Cleaner (Wako) を用いて精製した。PCR 産物 10 mL に DNA Cleaner 10 mL を加えて、室温、10 分間静置した後、14,000 × g、10 分間遠心分離した。上清
をできる限り除去した後、70% ethanol を 20 mL 添加し、10 秒間ミキサーで混合した。
13
6-4. シーケンス反応
BigDye® Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Thermo Fisher Scientific) を用いて、ジ
デオキシターミネーター法によりシーケンス反応を行った。8 連 PCR チューブに
Ready reaction premix 1 mL、5 × sequencing buffer 1.5 mL、プライマー1.6 pmol、PCR 精
製物20 ~ 50 ng を加え、滅菌超純水にて全量を 10 mL となるように混合した。これら
をDNA サーマルサイクラーにセットした。96C、3 分間の加熱により DNA を変性さ
せた後、96C、10 秒間の DNA 変性、50C、5 秒間のアニーリング、60C、4 分間の
伸長反応の行程を 25 サイクル行った。反応液を滅菌マイクロ遠心チューブに移し、
ethanol 31.25 mL、3 M sodium acetate 1.5 mL (pH 4.6) を加え、滅菌超純水にて全量を 50 ml となるようにした。十分に混合し、室温、15 分間放置した。4C、20,000 × g、20 分
間遠心分離した後、上清をできる限り除去した。70% ethanol 125 mL を加え、室温、
20,000 × g、10 分間遠心分離した後、上清をできる限り除去した。真空乾燥により
ethanol を完全に除去した後、ペレットを Hi-DiTM Formamide (Thermo Fisher Scientific)
20 mL に溶解し、電気泳動試料とした。
6-5. マルチキャピラリー電気泳動
キャピラリー電気泳動には、3130xl Genetic Analyzer (Thermo Fisher Scientific) を用
いた。10 × genetic analyzer buffer with EDTA (Thermo Fisher Scientific) を超純水で 10 倍
希釈し、陽極バッファーリザーバーおよび陰極バッファーリザーバー、ポンプブロッ
ク及びオートサンプラーにそれぞれセットした。泳動用試料をMicroAmpTM optical
96-well reaction plate (Thermo Fisher Scientific) に移して電気泳動を行い、塩基配列を決定 した。
6-6. Sequence type (ST)、clonal complex (CC) の決定
得られた塩基配列をもとに、Bio Numerics v7.1 (Applied Math) を用いて ST を決定
した。単一のhousekeeping gene のみが異なり、遺伝学的に近縁性の高いグループであ
るCC は、MLST.net (http:www.mlst.net) の eBURST v3 を用いて決定した。
7. 薬剤感受性試験 7-1. 使用薬剤
薬剤感受性の測定には、ampicillin (Wako)、oxacillin (Wako)、cefotaxime (Wako)、
14
7-2. 寒天平板希釈法
薬剤感受性は、最小発育阻止濃度 (minimum inhibitory concentration: MIC) を測定し
て評価した。MIC は、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI) に準じ、寒天平
板希釈法により測定した71)。MHA で 35C、24 時間培養した菌を Mueller-Hinton broth
(MHB: Oxoid) に McFarland Standard 0.5 (bioMérieux) と同程度 (約 1.5×108 cells/mL)
に懸濁した。さらに、MHB で 10 倍に希釈し、1 mg/mL を基準とした 2 倍希釈系列濃
度の各種薬剤を含有したMHA に、ミクロプランターMIT-P 型 (Sakuma) を用いて約
2 mL 接種した。接種後、35C で 18 ~ 24 時間培養後、菌の発育を阻止した最小濃度を
その菌株に対する MIC (mg/mL) とした。各々の薬剤に対するブレイクポイントは、
CLSI に準じて ampicillin: >0.5 mg/mL、oxacillin: >4 mg/mL、cefotaxime: >64 mg/mL、 levofloxacin: >4 mg/mL、clarithromycin: >8 mg/mL、clindamycin: >4 mg/mL、gentamicin: >16 mg/mL、minocycline: >16 mg/mL、sulfamethoxazole-trimethoprim: >76-4 mg/mL、
vancomycin: >16 mg/mL、teicoplanin: >32 mg/mL、linezolid: >8 mg/mL と設定した72)。ま
た、判定基準が設定されていない sitafloxacin および arbekacin については、薬剤感受
性基準株の感受性及び過去の文献18) を参考にして>8 mg/mL と設定した。
8. 抗菌薬使用密度 (Antimicrobial Use Density: AUD) の算出
当院における2010 年 1 月から 2016 年 12 月までの AUD を算出した。AUD とは、
調査期間における1,000 患者入院日数あたりの抗菌薬使用量を算出した値であり、患
者数の増減が補正されているため、規模の異なる他施設との使用量の比較が可能とな
る。AUD は、個々の抗菌薬に規定された 1 日投与量 (defined daily dose: DDD) が定数
として用いられ、下記の式で算出した73)。さらに、各年のAUD total を 100%とし、各
種抗菌薬使用率を解析した。
AUD = 抗菌薬使用量 (g) / 抗菌薬の DDD (g)
入院患者延べ日数 (patient‐days) ×1,000
なお、抗菌薬の分類としては、penicillin 系 (penicillin G、ampicillin/cloxacillin、
ampicillin、sulbactam/ampicillin)、piperacillin 系 (piperacillin、tazobactam/piperacillin)、
第1 世代 cephalosporin 系 (cefazolin)、第 2 世代 cephalosporin 系 (cefotiam、
15
macrolide 系 (erythromycin、clarithromycin、azithromycin) とした。
9. 統計学的解析
各種遺伝子の検出率や薬剤耐性率の差についてc2 検定または Fisher の正確確率検
16
【 結 果 】
1. 患者背景 研究期間中、当院で新規にMRSA が分離された患者の背景を Table 6 に示す。年齢 の中央値は 67 歳で、男性が 396 名 (66.0%) で女性と比べて約 1.9 倍多く、死亡率は 16.3%であった。患者の診療科については、小児科が 120 株 (20.0%) と最も多く、次 いで耳鼻咽喉科が49 株 (8.2%)、呼吸器内科が 44 株 (7.3%)、心臓外科が 40 株 (6.7%) であった。本研究期間を通して、患者の診療科に大きな変動は認められなかった。 2. SCCmec type の変遷 当院の入院患者において流行しているMRSA の動向を知るため、MRSA 600 株を対象にSCCmec typing を行った。その結果、2010 年では HA-MRSA に多い type II が
47 株 (61.8%) を占めていたが、2014 年から減少し、2016 年では 8 株 (32.0%) と有
意に減少した (Fig. 4)。一方、CA-MRSA に多い type IV は、2010 年では 16 株
(21.1%) であったが、2014 年から増加し、2016 年では 14 株 (56.0%) と有意に増加
していた (P < 0.05)。
Fig. 4. Annual transition of SCCmec types among MRSA isolates obtained between 2010 and
2016.
Data are presented as the percentages of total isolates.
*, vs. 2010, as determined by the c2 test (P < 0.05).
Type I Type II Type III
18
3. MLST と病原性因子の検出による分子疫学的解析
増加したSCCmec type IV 株および減少した SCCmec type II 株について詳細な分子
疫学的特徴を解析するために、MLST 解析および病原性因子である tst、lukS/F-PV お
よびACME の検出を行った (Table 7)。その結果、SCCmec type II の MRSA は、2010
年と 2016 年共に、全ての菌株が New York/Japan 株と同一の CC5 であった。また、 SCCmec type II 株は多様性が低く、単一の CC しか認められなかった。しかし、tst の 検出率は2010 年の 27 株中 21 株 (77.8%) から 2016 年の 8 株中 3 株 (37.5%) と有意 に低下していた (P < 0.05)。一方、SCCmec type IV 株は多様な CC が認められた。こ のうち、USA300 clone と同一の CC8 は、2010 年に 15 株中 8 株 (53.3%)、2016 年に 14 株中 6 株 (42.9%) であり、最も高頻度に認められた。しかし、これら CC8-SCCmec type IV (CC8-IV) 株は、lukS/F-PV および ACME が陰性であり、tst が陽性であるため、 USA300 clone の特徴とは異なっていた。また、CC1 の分離頻度は 2010 年でわずか 6.7% (1/15 株) であったのに対し、2016 年には 3.2 倍の 21.4% (3/14 株) に増加してい た。
Table 7. Molecular epidemiological features of SCCmec type II and IV isolates, which were
determined by MLST and possession of tst gene
No. (%) of isolates
Clone Sequence type 2010 (n = 42) 2016 (n = 22)
19
4. MRSA に対する antibiogram の変遷
MRSA 株を入院患者から分離された時期によって 3 つのグループ (2010 - 2011 年、 2012 - 2013 年、2014 - 2016 年) に分け、その抗菌薬感受性を比較した (Fig. 5, Table 8)。
その結果、cephalosporin 系の cefotaxime および lincomycin 系の clindamycin の耐性率
が年々低下し、2014 - 2016 年分離株では 2010 - 2011 年分離株よりも有意に低下した
(P < 0.05)。また、同一期間における SCCmec type II 株および SCCmec type IV 株の抗菌
薬耐性率を比較したところ、SCCmec type II 株における cefotaxime、levofloxacin、
clarithromycin、clindamycin および minocycline に対する耐性率は、すべての期間にお
いて SCCmec type IV 株より有意に高かった (P < 0.05) (Fig. 5)。特に、cefotaxime
(SCCmec type II, 96.8% vs. SCCmec type IV, 32.8%)、clindamycin (SCCmec type II, 92.4% vs. SCCmec type IV, 14.9%) および minocycline (SCCmec type II, 51.0% vs. SCCmec type IV, 11.5%) において顕著な差が認められた。
さらに、CC8-IV および CC1-IV が流行し、CC5-II が減少した背景を明らかにする
ために、それぞれのCC における各種抗菌薬の感受性を比較した (Table 9)。その結果、
CC5-II は複数の抗菌薬に対して耐性を示し、特に cefotaxime、clarithromycin および
clindamycin の MIC50 / MIC90が高値を示した。一方、CC8-IV および CC1-IV は、cefotaxime、
clarithromycin および clindamycin に対して高い感受性を示し、その耐性率は CC5-II 株
よりも有意に低かった (P < 0.05)。したがって、HA-MRSA の減少と CA-MRSA の増
加によって、入院患者から分離されるMRSA の antibiogram が変化していることが明
らかとなった。
Fig. 5. Comparison of antimicrobial resistance rates in SCCmec type II and IV MRSA isolates
obtained between 2010 and 2016.
*, vs. SCCmec type II isolates obtained from same period, as determined by the c2 test (P <
0.05). * * 2010-2011 (n = 171) 2012-2013 (n = 153) 2014-2016 (n = 81) 2012-2013 (n = 64) 2014-2016 (n = 111) 2010-2011 (n = 46) Antimicrobial agent 100 80 60 40 20 0 % of re sis tant isol ates
22 5. 当院における AUD の年次推移 HA-MRSA が変化した要因を解析するために、当院における各種抗菌薬の AUD の 年次推移を調査した (Fig. 6)。その結果、-lactam 系抗菌薬の使用率が大きく変化して いた。Penicillin 系薬の使用率は、24.6% (2010 年) から 36.1% (2016 年) に増加してい た。さらに、piperacillin 系薬の使用率が 3.6% (2010 年) から 2.3 倍の 8.3% (2016 年) に増加していた。第1 世代 cephalosporin 系薬の使用率は 24.4% (2010 年) から 17.8% (2016 年) に減少し、第 2 世代 cephalosporin 系薬の使用率は、13.5% (2010 年) から約 1/3 となる 5.5% (2016 年) に減少した。他のクラスの抗菌薬には顕著な AUD の変動は 認められなかった。
Fig. 6. Percentages of antimicrobial use density (AUD) in the Jikei university hospital from
2010 to 2016. 2010 (207.5) 2011 (226.9) 2012 (240.9) 2013 (251.2) 2014 (239.3) 2015 (244.0) 2016 (255.5) Y ea r (A UD to tal)
% of antimicrobial use density
0 20 40 60 80 100
Penicillin Piperacillin 1stcephalosporin 2ndcephalosporin 3rdcephalosporin
4thcephalosporin Carbapenem Monobactam Anti-MRSA drug Fluoroquinolone
23
【 考 察 】
本章では、当院で 2010 年から 2016 年に分離された MRSA とその患者情報を解析 した。本研究対象のMRSA は、全て入院後 48 時間以上経過してから分離された菌株 であり、患者背景にも大きな変動はなかったにも関わらず、SCCmec type が院内獲得 型のtype II から市中獲得型の type IV に大きく変化したことが明らかになった。仮に MRSA が市中から病院内へ次々と流入しているのであれば、新規 MRSA 感染症患者 数は年々増加するはずである。しかし、新規MRSA 感染症患者数は減少傾向を示して いた。このことから、当院のMRSA が変化した要因として、市中から院内に流入する CA-MRSA が増加した可能性は考えにくい。したがって、市中から流入した CA-MRSAが病院内で定着し、SCCmec type II 株よりも院内環境に適応したことで、SCCmec type
IV 株の割合が増加したと考えられる。
MLST による詳細な分子疫学的解析の結果、増加した SCCmec type IV 株の約半数
が、CA-MRSA に主流の遺伝子型である CC8 であることが明らかとなった。USA300
clone は、lukS/F-PV および ACME の両方を有しているが、本研究で検出された CC8
株はすべて陰性であったことから、当院では USA300 clone が流行していないことが
明らかとなった。しかし、本研究で検出されたCC8 株の多くが tst 陽性であった。こ
のようなMRSA は、CA-MRSA/J clone として報告されており、侵襲性感染症や重症感
染症の起因菌として知られている55)。したがって、USA300 clone だけでなく、tst 陽
性 CC8 の CA-MRSA/J clone の動向にも注意する必要がある。一方、本邦において従
来から存在しているSCCmec type II の HA-MRSA である CC5 株が有意に減少してい
た。CA-MRSA は菌株の fitness cost が低く、HA-MRSA よりも増殖速度が速いため、
抗菌薬の選択圧が低い環境においては CA-MRSA の方が生残することが知られてい
る 74)。そのため、病院内の MRSA が変化した要因の一つとして、抗菌薬の選択圧の
変化が考えられた。
当院におけるAUD の年次推移は、狭域スペクトルである piperacillin を含む penicillin
系薬の使用率が増加していることを示した。このことは、当院において不必要な広域
スペクトルの抗菌薬を回避し、積極的なde-escalation 療法が実施されていることを示
している。また、第1 世代および第 2 世代 cephalosporin の AUD は著しく減少してい
た。さらに、CA-MRSA 株は、HA-MRSA 株よりも cephalosporin 系薬の感受性が有意
24
た penicillin 系薬使用率の増加や cephalosporin 系薬使用率の顕著な減少は、AST 活動
の効果の一つと考えられる。一方で、院内の抗菌薬使用率の変化が、MRSA の流行型
の変化にも影響している可能性が示された。したがって、本章から、臨床データであ
る院内の AUD の推移と基礎データである MRSA の流行型や antibiogram を解析する
ことで、AST 活動の効果を客観的に評価できることが示された。薬剤師がこのような
解析を定期的に実施することによって、院内全体の抗菌薬の使用方法を見直すことが
できる。さらに、CA-MRSA の流行を迅速に察知することで、MRSA に対する効果的
25
第
2 章
消毒薬低感受性
MRSA の分離頻度と
手指消毒薬使用量の変化
【 緒 言 】
MRSA は、医療現場において医療従事者の手指を介した接触感染によって伝播する 76)。そのため、MRSA の感染対策として、抗菌薬の適正使用に加えて、MRSA 感染者 のスクリーニングや医療スタッフ全体の手指衛生の徹底が重要である。医療関連感染 症の発生を最小限に抑えるために実施されている対策の一つとして、手指消毒の励行 があり、アルコール含有手指消毒薬が最も一般的に使用されている77)。しかし、多剤 排出ポンプ QacA/B をコードするプラスミド性の遺伝子 qacA/B を獲得し、手指消毒 に汎用される低水準消毒薬に対する感受性が低下した MRSA が出現した 78)。そのた め、qacA/B を獲得した MRSA は、手指消毒から生残し、病院内環境に定着しやすい と考えられる 79)。qacA/B 陽性 MRSA の検出率は国や地域によって異なり、韓国で 32.8%、クウェートで 12.3%、英国で 1.7%、米国で 0.6%と報告されている25-27, 80)。本 邦においては、qacA/B 陽性 MRSA の検出率は 2006 年に 45.9%と報告されたが41)、最新の情報は不明である。また、QacA/B はアミノ酸配列の相違から、QacA および QacBI
~ QacBIV の 5 つの subtype に分類されるが、qacA/B の各 subtype を保有する MRSA の流行状況や分子疫学的特徴は明らかになっていない。そこで本章では、病院内にお
けるqacA/B 陽性 MRSA の詳細な流行状況と手指消毒薬使用量との関連性について研
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【 材 料 と 方 法 】
1. 使用菌株
臨床分離株およびSCCmec typing のコントロール株は、第 1 章 -【材料と方法】- 1
に記した菌株を用いた。各qacA/B subtype 陽性株のコントロールとして、臨床分離株
であるTPS89 (qacA)、TPS182 (qacBII)、TPS162 (qacBIII)、TPS238 (qacBIV) を使用し
た47)。 2. 使用培地および培養条件 第1 章 -【材料と方法】- 3 に記した方法により行った。 3. 患者データの解析 患者の氏名、ID、年齢、性別、診療科、および MRSA 検出率に関するデータは、当 院中央検査部にあるデータベースより抽出した。また、患者の生年月日、入院日、退 院日、退院時転帰は院内のオーダリングシステムから、消毒薬使用量については薬剤 部のデータベースより抽出した。 4. 消毒薬耐性遺伝子 qacA/B の検出と typing 4-1. プライマーの合成
消毒薬耐性遺伝子qacA/B の検出、qacA と qacB の typing、各種 qacB (qacBI、qacBII、
qacBIII、qacBIV) の subtyping を行うために、それぞれに特異的なプライマーを合成し
た (Table 10)39, 41)。プライマーの合成は、Hokkaido System Science に依頼した。
4-2. PCR 法による DNA の増幅
8 連 PCR チューブに Go Taq® Green Master Mix 5 mL、各種合成プライマーを各々10
pmol、PCR 試料 1 mL を加え、滅菌超純水を全量が 10 mL となるように混合した。PCR
の試料は、菌株の 1 コロニーを滅菌水 100 mL に懸濁した菌液を直接用いた。これら
をよく混合した後、DNA サーマルサイクラーにセットした。qacA/B の検出は 96C、
3 分間の加熱により溶菌及び DNA を変性させた後、94C、20 秒間の DNA 変性、53C、 40 秒間のアニーリング、72C、20 秒間の伸長反応の行程を 30 サイクル行った。qacA
とqacB の typing に使用する PCR は 95C、2 分間の加熱により溶菌及び DNA を変性
させた後、95C、30 秒間の DNA 変性、55C、30 秒間のアニーリング、72C、40 秒
間の伸長反応の行程を 30 サイクル行った。qacBIII および qacBIV の subtyping に使
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秒間のDNA 変性、58C、30 秒間のアニーリング、72C、30 秒間の伸長反応の行程を
35 サイクル行った。DNA 増幅産物の確認は、アガロースゲル電気泳動法により行っ た。
qacBI および qacBII の DNA シーケンス解析に使用する PCR は、以下の通り行っ
た。8 連 PCR チューブに Q5® High-Fidelity DNA Polymerase 5 mL、プライマー各 10
pmol、菌液 1 mL を加え、滅菌超純水を全量が 10 mL となるように混合した。これら
をDNA サーマルサイクラーにセットした。98C、30 秒間の加熱により溶菌及び DNA
を変性させた後、98C、10 秒間の DNA 変性、60C、30 秒間のアニーリング、72C、
1 分間の伸長反応の行程を 30 サイクル行った。DNA 増幅産物の確認は、アガロース ゲル電気泳動法により行った。
4-3. PCR-Restriction Fragment Length Polymorphism (PCR-RFLP) 法
qacA と qacB の typing は、QacA と QacB の相違部位である 323 番目のアミノ酸
(Table 2) に対応する塩基配列の相違を認識する制限酵素 AluI (TAKARA BIO) を用い
た PCR-RFLP 法により行った。8 連 PCR チューブに PCR 産物 5 mL、10 × L Buffer
(TAKARA BIO) 1 mL、AluI 2 U を加え、滅菌超純水を全量が 10 mL となるように混合
した。これを37C、2 時間反応させ、アガロースゲル電気泳動法により DNA 断片を
確認した。198 bp と 135 bp にバンドが認められたものを qacA、326 bp と 165 bp にバ
ンドが認められたものをqacB と判定した。
qacBIII の typing は、QacBIII の相違部位である 320 番目のアミノ酸 (Table 2) に対
応する塩基配列の相違を認識する制限酵素 MwoI (New England Biolabs)、qacBIV の
typing は、QacBIV の相違部位である 19 番目のアミノ酸 (Table 2) に対応する塩基配
列の相違を認識する制限酵素Fnu4HI (New England Biolabs) を用いた RFLP 法により
行った (Fig. 7)。8 連 PCR チューブに PCR 産物 5 mL、Cut Smart Buffer (New England
Biolabs) 1 mL、各制限酵素 1 U を加え、滅菌超純水を全量が 10 mL となるように混合 した。MwoI は 60C、Fnu4HI は 37C で 2 時間反応させ、アガロースゲル電気泳動法 によりDNA 断片を確認した。280 bp にバンドが認められたものを qacBIII、650 bp と 230 bp にバンドが認められたものを qacBIV と判定した。 4-4. DNA シーケンス解析 qacBI および qacBII は、第 1 章 -【材料と方法】- 6-3 ~ 6-5 に記した方法により塩
基配列を解析して判定した。DAN 塩基配列は、DNA Sequencing Analysis SoftwareTM
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5. 薬剤感受性試験 5-1. 使用薬剤
薬剤感受性の測定には、acriflavine (Wako)、tetraphenylphosphonium chloride (Tokyo
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【 結 果 】
1. qacA/B 陽性 MRSA の年次推移
当院で分離されたMRSA 600 株のうち、199 株 (19.8%) において消毒薬耐性遺伝子
qacA/B が検出された。qacA と qacB を分類したところ、113 株 (56.8%) が qacA 陽
性株であり、qacB 陽性株 (86 株; 43.2%) よりも 1.3 倍多かった。さらに、qacB の
subtyping を行ったところ、qacBIII が 57 株、qacBII が 29 株であり、qacBI および
qacBIV 陽性株は認められなかった。
各種 qacA/B 陽性株の年次推移を Fig. 8 に示した。2010 年の qacA/B の検出率は
50.0% (38 株) であったのに対し、2016 年には 4.0% (1 株) と大きく減少した。特に、
qacA 陽性株の減少が著しく、2010 年の 34.2% (26 株) から、2012 年以降は有意に減
少していた (P < 0.05)。一方、qacB 陽性株の有意な減少は認められなかった。したが
って、qacA/B 陽性株の顕著な減少は、qacA 陽性株の顕著な減少に起因することが示
された。
Fig. 8. Annual transitions of incidence of the respective qacA/B-positive MRSA strains isolated
between 2010 and 2016.
Data are presented as the percentage of total stains.
*, vs. 2010, as determined by the c2 test or Fisher’s exact test (P < 0.05).
qacA qacBII qacBIII
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2. MRSA の消毒薬感受性の年次推移
MRSA の消毒薬感受性の年次推移を解析した (Table 11)。2010 年分離株と 2016 年
分離株に対する各種消毒薬の MIC90 を比較した結果、QacA の基質である色素系の
acriflavine は 1/4、QacA および QacB の基質である界面活性剤の tetraphenylphosphonium chloride は 1/8、quaternary ammonium compound である benzalkonium chloride は 1/2、 biguanide 系の chlorhexidine digluconate は 1/4 となり、各種消毒薬感受性が上昇してい た。
さらに、各種qacA/B 陽性株および陰性株の消毒薬感受性を比較した (Fig. 9)。その
結果、qacA 陽性株は、acriflavine、tetraphenylphosphonium chloride および chlorhexidine
digluconate に対して最も高い抵抗性を示した。また、qacBIII 陽性株は、chlorhexidine digluconate に対して qacBII 陽性株および qacA/B 陰性株よりも高い抵抗性を示した。
一方、qacBIII 陽性株の acriflavine 感受性や qacBII 陽性株の chlorhexidine digluconate
感受性は、qacA/B 陰性株と同等であった。したがって、qacA 陽性株の著しい減少に
よって、院内全体のMRSA の消毒薬感受性が上昇していることが明らかとなった。
Fig. 9. Comparison of disinfectants susceptibilities for the respective qacA/Bpositive and
-negative MRSA isolates.
Data indicated are shown as cumulative MICs.
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3. 各種 qacA/B 陽性 MRSA の遺伝子型の決定
qacA 陽性株が著しく減少している原因を明らかにするため、各種 qacA/B 陽性株
の遺伝子型をSCCmec typing によって決定した (Table 12)。その結果、qacA 陽性株の
81.4%および qacBIII 陽性株の 80.7%が、従来の HA-MRSA に主流の SCCmec type II に
分類された。一方、qacBII 陽性株の 93.1%が CA-MRSA に主流の SCCmec type IV で
あった。さらに、qacA/B 陽性株について、MLST による詳細な遺伝子型を決定したと
ころ、qacA 陽性 SCCmec type II 株の 60.0%が ST5 (12/20 株)、20.0%が ST4145 (4/20
株)、10.0%が ST4149 (2/20 株)、5.0%が ST764 と ST2389 (それぞれ 1/20 株) であった。
一方、qacBIII 陽性 SCCmec type II 株は、すべて ST764 (8/8 株) に分類された。qacBII
陽性SCCmec type IV 株は、すべて ST8 (2/2 株) に分類された。したがって、qacA/B の
subtype によって、MRSA の遺伝子型が異なることが示唆された。
Table 12. Comparison of SCCmec types in respective qacA/B-positive and -negative MRSA
isolates
No. (%) of isolates
SCCmec type qacA qacBII qacBIII qacA/B-negative
(n = 113) (n = 29) (n = 57) (n = 401) I 1 ( 0.9) 1 ( 3.4) 1 ( 1.8) 15 ( 3.7) II 92 ( 81.4) 0 46 ( 80.7) 203 ( 50.6) III 0 1 ( 3.4) 0 2 ( 0.5) IV 9 ( 8.0) 27 ( 93.1) 8 ( 14.0) 130 ( 32.4) V 0 0 0 13 ( 3.2) NT 11 ( 9.7) 0 2 ( 3.5) 38 ( 9.5) NT, nontypeable. 4. qacA/B 陽性 MRSA 検出患者におけるリスク因子の解析 qacA、qacBII および qacBIII 陽性株が検出された患者のリスク因子を明らかにする ために、各種 qacA/B 陽性株が分離された患者と qacA/B 陰性株が分離された患者背 景を比較した (Table 13)。その結果、qacBII 陽性株が分離された患者の年齢が有意に
低く (P < 0.001)、予後も有意に良好であった (P = 0.018; Odds ratio [OR], 3.43; 95%
confidence interval [CI], 1.17 to 10.04)。これに対応して、小児科患者の qacBII 陽性株が
分離されるリスクは有意に高かった (P < 0.001; OR, 4.32; 95% CI, 1.99 to 9.36)。一方、
qacA 陽性株 (P < 0.001; OR, 0.26; 95% CI, 0.13 to 0.54) および qacBIII 陽性株 (P <
0.001; OR, 0.05; 95% CI, 0.01 to 0.4) が分離されるリスクは、小児科患者において有意
に低かった。qacBIII 陽性株が分離されるリスクは、泌尿器科患者 (P < 0.001; OR,