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手指消毒薬の使用量と MRSA 発生指数の解析

第 1 章 : MRSA の分子疫学的特徴と抗菌薬使用率の変化

5. 手指消毒薬の使用量と MRSA 発生指数の解析

手指消毒薬の使用量およびMRSA発生指数の年次推移をFig. 10に示した。2010年 における手指消毒薬 (0.2% benzalkonium hand rub, 80% ethanol, 0.2% chlorhexidine hand rub) の年間総消費量は、13.7 L/1,000 patient-daysであったのに対し、2011年には19.4 L/1,000 patient-days、2012 年には 25.9 L/1,000 patient-days、2013 年には 30.9 L/1,000 patient-days、2014年には36.1 L/1,000 patient-days、2015年には41.2 L/1,000 patient-days と年々増加し、2016年には2010年の3倍以上にあたる45.0 L/1,000 patient-daysと急 増していた。2016年から0.2% chlorhexidine hand rubが当院で使用開始されたほか、

増加のほとんどは80% ethanolが占めており、0.2% benzalkonium hand rubの使用量に 大きな変化は認められなかった。

MRSA発生指数については、2010年では0.50であったが、年々減少し2011年には 0.40、2012年には0.37、2013年には 0.31、2014年には0.20、2015年には0.23、2016 年には 0.18と 1/3にまで減少していた。さらに、Pearson の相関係数 (r) を用いて手 指消毒薬年間総消費量とMRSA発生指数との関連について解析した結果、r = - 0.975

(P < 0.001) となり、手指消毒薬の年間消費量の増加が、MRSA発生指数を有意に低下

させたことが強く示唆された。

Fig. 10. Correlation between annual usage of alcohol-based hand rubs and incidence of MRSA-positive patients.

0.2% benzalkonium chloride with ethanol (benzalkonium hand rub)

80% ethanol 0.2% chlorhexidine

gluconate with ethanol (chlorhexidine hand rub)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

0 10 20 30 40 50

Year

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Consumption of disinfections (L/1,000 patient-days) Incidence of MRSA per 1,000 patient-days

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【 考 察 】

本章では、当院における消毒薬耐性遺伝子qacA/B 陽性MRSAの流行状況を解析し、

qacA/B subtypeによる菌株および感染リスク因子の相違を詳細に解析した。その結果、

MRSA の約2 割がqacA/B 陽性株であり、その主流はqacA 陽性株であることを明ら

かにした。しかし、qacA 陽性株は年々著しく減少し、それに伴いMRSA全体の消毒 薬感受性も上昇していた。この原因の一つとして、qacA 陽性株の95.0% (19/20株) が、

第 1 章で大きく減少していた典型的な HA-MRSA の遺伝子型である CC5-II (ST5、

ST2389、ST4145、ST4149) であったためと考えられた。一方、顕著な減少が認められ

なかったqacBIII 陽性株は、全てHA-MRSAとCA-MRSAのハイブリッド型クローン

82) とされている ST764-II であった。第 1 章においても、ST764-II 株の顕著な減少は 認められなかった。したがって、CC5-II、特に ST5-II 株の減少が、qacA 陽性株が大 きく減少した要因の一つであると考えられる。

各種qacA/B 陽性株の感染リスク因子を解析した結果、qacA 陽性株と特定の診療科

との関連性は認められなかった。このことは、qacA 陽性株は各診療科の患者に広く 分布していることを示している。したがって、院内全体のHA-MRSAが減少したこと によって、qacA 陽性株が減少したことが示された。一方、qacB 陽性株の感染リスク

はsubtypeによって異なっていた。qacBIII 陽性株が分離されるリスクは、泌尿器科患

者に多かった。QacBIII は、QacA/B subtype の中で fluoroquinolone 系抗菌薬を排出す る能力が最も高い44)。一般的に、尿路感染症の治療に対してfluoroquinolone 系抗菌薬 が第一選択薬とされているため83)、薬剤の選択圧によってqacBIII 陽性株が生残した と考えられる。一方、小児科患者は他の診療科患者よりも若年であり、qacBII 陽性株 の感染リスクが高かったが、qacA 陽性株および qacBIII 陽性株に感染した他の診療 科患者よりも転帰が良好であった。この理由については不明であるが、患者の年齢が 若いことが良好な転帰をもたらす要因の一つであると考えられる。

さらに、本章では消毒薬の使用量と新規MRSA感染症の発生指数を解析した。病院 内の手指消毒薬の使用量は年々増加しており、調査した7年間で3倍以上に増加して いた。これに伴い、MRSA感染症の発生指数は大きく減少していた。さらに、当院で 開催された感染対策研修会に参加した医療従事者延べ人数も年々増加し、2010 年に は4,543名であったが、2011年には6,548名、2012年には6,396名、2013年には7,885 名、2014年には8,552名、2015年には8,298名、2016年には8,094名であった。当院 では AST 活動の一環として、全教職員に対して年 2 回以上の感染対策に関する研修 会への参加を義務付け、病棟毎に手指消毒薬使用量を算出・提示している。このよう な活動が、病院内の手指消毒薬使用量の増加に大きく貢献し、その結果として、qacA 陽性株の減少とMRSA発生指数の減少に繋がったと考えられる。

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【 総 括 】

近年、様々な薬剤耐性菌の出現やそのアウトブレイクが世界中で報告されており、

薬剤耐性 (Antimicrobial Resistance: AMR) は、国際的な重要課題として認識されてい る。本邦においてもAMR対策アクションプランが掲げられ、薬剤耐性菌の動向調査・

監視が重要項目の一つとなっている。その中で、薬剤師は医療機関内における薬剤耐 性菌の出現および感染症の流行を防止するために、適正な抗菌薬の選択・管理が求め られている。本研究は、病院薬剤師がAST活動を通して、院内の抗微生物薬使用率の 変化に伴い、MRSAの流行状況も大きく変化することを明らかにした最初の事例であ る。

第 1 章では、大学病院の入院患者から分離された MRSA について、基礎データお よび臨床データの双方から詳細に解析し、従来のHA-MRSAが減少しCA-MRSAが増 加していることを明らかにした。この要因の一つとして、院内の抗菌薬使用量の変化 が関与している可能性を示した。さらに、USA300 clone とは異なる高病原性の

CA-MRSA/J cloneの院内への流入を確認した。

第2章では、当院における qacA/B の流行状況とqacA/B subtypeによる感染リスク 因子を探索し、MRSA の約2 割がqacA/B 陽性株であり、その主流はqacA 陽性株で あることを明らかにした。一方で、qacA 陽性株が著しく減少している要因の一つと して、第1章の研究結果から、従来型のHA-MRSAの減少が関係している可能性を示 した。また、院内の消毒薬使用量とMRSA発生指数の解析から、医療スタッフに対す る積極的な感染対策教育により、院内の手指消毒薬使用量が増加し、新規MRSA感染 症の発生指数が減少したことが強く示唆された。

本研究成果によって、病院薬剤師が AST 活動において抗菌薬や消毒薬の使用量や 院内新規MRSA発生数、患者基本情報などの臨床データと、薬剤耐性菌の分子疫学的 解析などによる基礎データの双方を詳細に解析することによって、病院内のAMR対 策に大きく貢献できることが示された。

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【 謝 辞 】

本研究を行う機会を与えて頂き、本研究の遂行及び論文を作成するにあたり終始懇 切なる御指導、御鞭撻を賜りました恩師、東京薬科大学 病原微生物学教室 野口 雅 久 教授に深甚なる謝意を表します。

また、本研究を遂行するにあたり、終始温かい御指導、御助言を頂きました東京薬 科大学病原微生物学教室 中南 秀将 准教授に心から感謝致します。

病院内における研究の推進、感染対策に関する資料および臨床検体の提供に御協力 頂きました、東京慈恵会医科大学附属病院 感染症科の堀 誠治 先生、中央検査部の 海渡 健 先生、田村 卓 先生、薬剤部の川久保 孝 先生、北村 正樹 先生、北村 好申 先生に篤く感謝の意を表します。

さらに、本研究を行うにあたり御協力頂きました東京薬科大学 病原微生物学教室 輪島 丈明 講師、中瀬 恵亮 助教に心より感謝致します。

本研究を遂行するにあたり御協力を頂きました、宮嶋 英里 氏、杉山 拓 氏、笹井 菜央 氏を始めとする東京薬科大学病原微生物学教室諸氏に心より御礼申し上げます。

最後に、終始温かく応援してくれた家族に心より感謝致します。

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