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第 1 章 : MRSA の分子疫学的特徴と抗菌薬使用率の変化

5. 当院における AUD の年次推移

HA-MRSAが変化した要因を解析するために、当院における各種抗菌薬のAUDの

年次推移を調査した (Fig. 6)。その結果、-lactam系抗菌薬の使用率が大きく変化して いた。Penicillin系薬の使用率は、24.6% (2010年) から36.1% (2016年) に増加してい た。さらに、piperacillin 系薬の使用率が 3.6% (2010 年) から 2.3倍の 8.3% (2016 年) に増加していた。第1 世代cephalosporin系薬の使用率は24.4% (2010年) から17.8%

(2016年) に減少し、第2世代cephalosporin系薬の使用率は、13.5% (2010年) から約

1/3となる5.5% (2016年) に減少した。他のクラスの抗菌薬には顕著なAUDの変動は

認められなかった。

Fig. 6. Percentages of antimicrobial use density (AUD) in the Jikei university hospital from 2010 to 2016.

2010 (207.5)

2011 (226.9)

2012 (240.9)

2013 (251.2)

2014 (239.3)

2015 (244.0)

2016 (255.5)

Year (AUD total)

% of antimicrobial use density

0 20 40 60 80 100

Penicillin Piperacillin 1stcephalosporin 2ndcephalosporin 3rdcephalosporin

4thcephalosporin Carbapenem Monobactam Anti-MRSA drug Fluoroquinolone

Aminoglycoside Lincosamide Tetracycline Fosfomycin Macrolide

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【 考 察 】

本章では、当院で 2010 年から 2016 年に分離された MRSA とその患者情報を解析 した。本研究対象のMRSAは、全て入院後48時間以上経過してから分離された菌株 であり、患者背景にも大きな変動はなかったにも関わらず、SCCmec typeが院内獲得

型のtype IIから市中獲得型のtype IVに大きく変化したことが明らかになった。仮に

MRSA が市中から病院内へ次々と流入しているのであれば、新規 MRSA 感染症患者 数は年々増加するはずである。しかし、新規MRSA感染症患者数は減少傾向を示して いた。このことから、当院のMRSAが変化した要因として、市中から院内に流入する

CA-MRSAが増加した可能性は考えにくい。したがって、市中から流入したCA-MRSA

が病院内で定着し、SCCmec type II株よりも院内環境に適応したことで、SCCmec type IV株の割合が増加したと考えられる。

MLST による詳細な分子疫学的解析の結果、増加した SCCmec type IV 株の約半数

が、CA-MRSA に主流の遺伝子型であるCC8 であることが明らかとなった。USA300

clone は、lukS/F-PV およびACME の両方を有しているが、本研究で検出された CC8

株はすべて陰性であったことから、当院では USA300 clone が流行していないことが 明らかとなった。しかし、本研究で検出されたCC8株の多くがtst 陽性であった。こ

のようなMRSAは、CA-MRSA/J cloneとして報告されており、侵襲性感染症や重症感

染症の起因菌として知られている55)。したがって、USA300 cloneだけでなく、tst

性 CC8の CA-MRSA/J cloneの動向にも注意する必要がある。一方、本邦において従

来から存在しているSCCmec type IIのHA-MRSA であるCC5株が有意に減少してい

た。CA-MRSAは菌株のfitness costが低く、HA-MRSAよりも増殖速度が速いため、

抗菌薬の選択圧が低い環境においては CA-MRSA の方が生残することが知られてい る 74)。そのため、病院内の MRSA が変化した要因の一つとして、抗菌薬の選択圧の 変化が考えられた。

当院におけるAUDの年次推移は、狭域スペクトルであるpiperacillinを含むpenicillin 系薬の使用率が増加していることを示した。このことは、当院において不必要な広域 スペクトルの抗菌薬を回避し、積極的なde-escalation療法が実施されていることを示 している。また、第1世代および第2世代cephalosporinのAUDは著しく減少してい た。さらに、CA-MRSA株は、HA-MRSA株よりもcephalosporin系薬の感受性が有意 に高かった。病院内におけるMRSAの流行は、cephalosporin系薬の使用と密接に関連 していることが報告されている75)。したがって、cephalosporin系薬の使用率の減少に よる選択圧の変化が、CA-MRSA株が増加した要因の一つであることが強く示唆され る。

また近年、多くの病院で抗 MRSA 薬や広域スペクトル抗菌薬使用時の届出制導入 等、抗菌薬の適正使用に向けた AST 活動が積極的に行われている。本章で認められ

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た penicillin系薬使用率の増加や cephalosporin系薬使用率の顕著な減少は、AST 活動

の効果の一つと考えられる。一方で、院内の抗菌薬使用率の変化が、MRSAの流行型 の変化にも影響している可能性が示された。したがって、本章から、臨床データであ る院内の AUD の推移と基礎データである MRSA の流行型や antibiogram を解析する ことで、AST活動の効果を客観的に評価できることが示された。薬剤師がこのような 解析を定期的に実施することによって、院内全体の抗菌薬の使用方法を見直すことが できる。さらに、CA-MRSAの流行を迅速に察知することで、MRSAに対する効果的 な感染対策を実行することができると考える。

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消毒薬低感受性 MRSA の分離頻度と 手指消毒薬使用量の変化

【 緒 言 】

MRSAは、医療現場において医療従事者の手指を介した接触感染によって伝播する

76)。そのため、MRSAの感染対策として、抗菌薬の適正使用に加えて、MRSA感染者 のスクリーニングや医療スタッフ全体の手指衛生の徹底が重要である。医療関連感染 症の発生を最小限に抑えるために実施されている対策の一つとして、手指消毒の励行 があり、アルコール含有手指消毒薬が最も一般的に使用されている77)。しかし、多剤 排出ポンプ QacA/B をコードするプラスミド性の遺伝子 qacA/B を獲得し、手指消毒 に汎用される低水準消毒薬に対する感受性が低下した MRSA が出現した 78)。そのた

め、qacA/B を獲得したMRSAは、手指消毒から生残し、病院内環境に定着しやすい

と考えられる 79)qacA/B 陽性 MRSA の検出率は国や地域によって異なり、韓国で 32.8%、クウェートで12.3%、英国で1.7%、米国で0.6%と報告されている25-27, 80)。本 邦においては、qacA/B 陽性MRSAの検出率は2006年に45.9%と報告されたが41)、最 新の情報は不明である。また、QacA/Bはアミノ酸配列の相違から、QacAおよびQacBI

~ QacBIV の 5 つの subtypeに分類されるが、qacA/B の各subtype を保有する MRSA の流行状況や分子疫学的特徴は明らかになっていない。そこで本章では、病院内にお

けるqacA/B 陽性MRSAの詳細な流行状況と手指消毒薬使用量との関連性について研

究した。

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【 材 料 と 方 法 】

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