Cr
スピネルおよびMn
ペロブスカイト 関連硫化物 の異常磁気物性と相関電子状態Unusual Magnetic Properties and Correlated Electronic States in Cr-spinel and Mn-perovskite Related Sulfides
2004
年度 神原 陽一目 次
第
1
章 研究背景と目的 スピン電荷複合物性Background and Motivation, Spin Electronics ・ Orbital Electoronics 5
1.1
背景. . . . 5
1.2
強相関電子系材料. . . . 8
1.2.1
モット絶縁体. . . . 11
1.2.2
ペロブスカイト型Mn
酸化物. . . . 12
1.3
問題意識. . . . 17
1.3.1
古くて新しいスピンエレクトロニクス材料の探索. . . . 17
1.3.2
スピネル型カルコゲン化物について. . . . 17
1.4
本研究の対象物質,および関連する過去の報告. . . . 19
1.4.1 FeCr
2S
4. . . . 19
1.4.2 Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4. . . . 19
1.4.3 Cu
1−xM
xCr
2X
4(M = Non magnetic ions, X = S, Se) . . . . 21
1.4.4 Sr
2CuMnO
3S
およびSr
4Cu
2Mn
3O
7.5S
2. . . . 23
1.5
本研究の目的. . . . 25
第
2
章 実験方法Experimental 32 2.1
サンプル合成. . . . 32
2.1.1
原料. . . . 32
2.1.2 Fe
1−xMn
xCr
2S
4の合成. . . . 32
2.1.3 Cu
1−xA
xCr
2S
4(A = Mg, Ge)
の合成. . . . 35
2.1.4 p
型,
およびn
型Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4の合成. . . . 35
2.1.5 Sr
2CuMn
1−xZn
xO
3S
の合成. . . . 37
2.1.6 Sr
4−xLa
xCu
2Mn
3O
7.5S
2の合成. . . . 37
2.1.7 X
線回折構造解析(XRD) . . . . 37
2.1.8 Rietveld
解析. . . . 37
2.2
輸送現象測定. . . . 41
2.2.1 DC
電気抵抗率. . . . 41
2.2.2 AC
電気抵抗率. . . . 41
2.2.3
熱起電力測定. . . . 41
2.3
磁気測定. . . . 41
1
2
2.4 XPS . . . . 41
第
3
章 スピ ネル型硫化物Fe
1−xMn
xCr
2S
4における 巨大磁気抵抗効果Properties of Giant Magnetoresistance of Spinel-Type Fe
1−xMn
xCr
2S
444 3.1
はじめに. . . . 44
3.1.1
磁気的性質. . . . 44
3.1.2
磁気ポーラロンによる磁気抵抗効果. . . . 49
3.1.3 FeCr
2S
4における低温(T < 10 K)
での磁気異常および軌道秩序化. 53 3.1.4
本章の目的. . . . 56
3.2
実験方法. . . . 57
3.3
実験結果と考察. . . . 57
3.3.1 Fe
1−xMn
xCr
2S
4の結晶構造. . . . 57
3.3.2 Fe
1−xMn
xCr
2S
4の磁性. . . . 59
3.3.3 Fe
1−xMn
xCr
2S
4の磁気抵抗. . . . 64
3.3.4 T
g以下の電気伝導モデルの解析. . . . 72
3.4
まとめ. . . . 76
3.4.1
磁気抵抗比(M R)
に対するMn
置換効果. . . . 76
3.4.2
軌道秩序化の電気抵抗温度依存性に対する寄与. . . . 76
第
4
章 スピ ネル型Cu
1−xM
xCr
2S
4(M = Mg, Ge)
における 異常磁気輸送現象Unusual Magnetotransport in Spinel-Type Cu
1−xM
xCr
2S
4(M = Mg, Ge) 79 4.1
はじめに. . . . 79
4.2
実験方法. . . . 80
4.3 Cu
1−xMg
xCr
2S
4の結果及び考察. . . . 80
4.3.1 Cu
1−xMg
xCr
2S
4のX
線構造解析. . . . 80
4.3.2 Cu
1−xMg
xCr
2S
4の磁性. . . . 80
4.3.3 T
m以下でのスピングラス的(またはメタ磁性的)
挙動. . . . 86
4.3.4 Cu
1−xMg
xCr
2S
4の磁気抵抗. . . . 88
4.4 Cu
1−xGe
xCr
2S
4の結果及び考察. . . . 94
4.4.1 Cu
1−xGe
xCr
2S
4のX
線構造解析. . . . 94
4.4.2 Cu
1−xGe
xCr
2S
4の磁性. . . . 94
4.4.3 Ge
置換に対するT
c, T
mの変化. . . . 97
4.4.4 x = 0, 1/15, 1/6
での低温における磁気異常. . . . 99
4.4.5 Cu
1−xGe
xCr
2S
4の輸送現象. . . . 107
4.4.6 Cu
1−xGe
xCr
2S
4における磁気相互作用. . . . 107
4.4.7
磁気輸送現象. . . . 113
4.5
まとめ. . . . 113
4.5.1 Cu
1−xMg
xCr
2S
4. . . . 116
3
4.5.2 Cu
1−xGe
xCr
2S
4. . . . 116
第
5
章p
型およびn
型Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4の巨大磁気抵抗効果と電子状態Magnetic and electronic nature of p- and n-type spinel-type Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4119 5.1
はじめに. . . . 119
5.2
実験方法. . . . 119
5.3
結果と考察. . . . 120
5.3.1
試料合成及び磁性. . . . 120
5.3.2
輸送現象. . . . 120
5.3.3
電子状態. . . . 126
5.4
まとめ. . . . 130
第
6
章 層状Mn
酸化硫化物Sr
2CuMnO
3S
及びSr
4Cu
2Mn
3O
7.5S
2における キャリアド ーピングCarrier-doping Effects in Sr
2CuMnO
3S and Sr
4Cu
2Mn
3O
7.5S
2134 6.1
はじめに. . . . 134
6.2
実験方法. . . . 134
6.3
実験結果と考察. . . . 136
6.4
まとめ. . . . 143
第
7
章 強相関電子系Sr
2CuMnO
3S
の電子状態Electronic nature of Sr
2CuMnO
3S 146 7.1
はじめに. . . . 146
7.2
実験方法. . . . 146
7.3
結果と考察. . . . 146
7.3.1
配置間相互作用を含むクラスター計算. . . . 152
7.3.2 Sr
2CuMnO
3S
の電子構造. . . . 157
7.4
まとめ. . . . 158
第
8
章 結論,
および今後の展望Conclusion and prospect 160 8.1
この研究で得られた知見. . . . 160
8.1.1
スピネル型硫化物Fe
1−xMn
xCr
2S
4における巨大磁気抵抗効果. . . . 160
8.1.2
スピネル型硫化物Fe
1−xMn
xCr
2S
4における軌道秩序化. . . . 160
8.1.3
スピネル型Cu
1−xGe
xCr
2S
4 における金属非金属転移. . . . 161
8.1.4 p
型及びn
型Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4の巨大磁気抵抗効果と電子状態. . . . 162
8.1.5
層状Mn
酸化硫化物Sr
2CuMnO
3S
及びSr
4Cu
2Mn
3O
7.5S
2 における不純物置換効果. . . . 162
8.2
総合討論. . . . 164
4
8.2.1 FeCr
2S
4とCuCr
2S
4. . . . 164
8.2.2 Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4におけるA
サイトの秩序無秩序転移. . . . 164
8.2.3
バンド フィリング制御に対するサイトの影響. . . . 167
8.2.4
今後の展望. . . . 169
第 1 章 研究背景と目的
スピン電荷複合物性
Background and Motivation, Spin Electronics ・ Orbital Electoronics
1.1
背景いわゆる半導体エレクトロニクスは半導体中にある少数のキャリアー
(電子,
正孔)の持 つ, 電荷としての自由度を利用する技術である. この技術体系では,pn
接合やホール効果 などをもちいて,物質中の電子(又は正孔)
の動きの制御を行い,トランジスタ増幅器やガ ウスメータ(磁気センサーの一種)
として利用している[1, 2].
いわゆるSi
やGe
の半導体 中に存在する電子や正孔は電場によってのみ制御される. 磁気テープなどの磁性材料のス ピンは電磁石によって発生された磁場によって制御される. 過去に一般的に用いられてい る電子材料では電子の持つ自由度である電荷やスピンを制御する場合, それぞれ別々の方 法が必要である. 近年, 物質中の電子の持つ電荷以外の自由度,つまりスピン,軌道をも制 御対象とした新しい技術”
スピンエレクトロニクス・オービトロニクス”
1(Fig. 1.1
と脚 注参照)を創造しようという研究が盛んに行われている.
これらの欲求をみたすために強 相関電子系や希薄磁性半導体などの材料探索やトンネル伝導を用いたデバイス開発, また はそれらの複合技術の研究開発が集中的になされている.スピンバルブ
,
トンネル型磁気抵抗(TMR)
素子等の開発Fig. 1.2
に示すようなTMR
現象やスピンバルブ現象を引き起こす素子を, 微細加工技術の蓄積の多い金属材料, 絶縁体材料を用いて作成し
,
その量子機能 を利用してデバイスとして利用する研究は世界中で非常に精力的に行われて いる. すでにスピンバルブを応用した磁気抵抗素子はハードディスクの読み取 りヘッド として実用化されており. 一般にも広く出回っている. また,トンネ ル磁気抵抗(TMR = Tunneling Magneto Resistance)
素子[6, 7]
を利用したMRAM (Magnetic Random Access Memory) [8, 9]
が近年開発されており,そ の性能は日進月歩で向上しており,次世代不揮発高速メモリ材料として大きく 期待されている.1
Fig. 1.1 [3, 4, 5]
の上部はスピン(Spin)
と電荷(Charge),
軌道(Orbital)
とそれぞれを制御する外部刺 激(磁場,
電場,外部応力)を示す. また,スピンと電荷と軌道を結ぶ矢印はその自由度の相関を示す. これ らの相関が強く,電荷の変化により,磁性や軌道秩序などを制御できる材料やデバイスが実用化されたなら ば, Fig. 1.1の下部に示すような, (左から)磁場による電気抵抗の制御,電場による磁化の制御,さらには光 による磁性や電気抵抗の複合制御が行えるようになる.5
6
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Magnetic field Electric field Light intensity Magnetic
control
Electrical control
Conductivity Magnetization
Magnetization・ ConductivitySpin
Charge
Orbital Magnetic
field Pressure
Electric field
Photonic control
Fig. 1.1: Schematic diagram of charge-spin-orbital-electronics.
希薄磁性半導体の探索
微細加工に既存の技術を応用できる半導体に磁性イオンの注入を行い,強磁性 状態を作り出し
,
キャリアのスピンの自由度を制御する試みは日本を中心とし て近年盛んになりつつある. 主にIn
1−xMn
xAs [10, 11, 12], Ga
1−xMn
xAs [13]
のように, 強磁性
(スピン偏極状態)
を示す半導体の探索, 及び機能性向上が 図られている. 既に,低温においてはキャリアのスピン偏極状態を作り出せた との報告があり,それらのデバイス化やスピン偏極の測定技術も進歩しつつあ る[14].
しかしながら,もっとも代表的な希薄磁性半導体であるGa
1−xMn
xAs
でさえ最高の強磁性転移温度(T
c)
は160 K
程度と室温をはるかに下回ってい るため,いまだ材料探索の余地がある.現在までに, 既存の工業利用されている半導体にて, 磁性イオンド ーピン グによる室温強磁性を実現したとの報告が,いくつか存在する. 半導体
:
ド ー プ される磁性イオンとして, Si : Ce [15], TiO2: Co [16], GaN : Mn [17], GaN:Cr [18]
などがある. また, 古くから知られているZnTe : Cr [19], ZnO : Co [20],
カルコパイライト系物質(CdGeTe
2: Mn) [21]
においても室温強磁性 の報告がある.このような希薄磁性半導体の探索は, 薄膜化や微細加工
(エッチング等)
技 術の蓄積が豊富であるため,
室温で強磁性状態を保った信頼できる材料が開発 されたり, 磁性イオン注入率の均一性が非常に高くなるならば,
原材料費等や 加工において, もっとも安価で応用の広い技術となりうる.問題点として現在の実験室レベルのサンプルの信頼性が挙げられる
.
例え7
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Insulating layer Ferromagnetic
layer (Fe, Co, Ni etc)
A. Larger Current
B. Smaller Current
H σ A
B TMR
B. Smaller
Current
H
σ A
B Spin Valve
Soft Ferromagnetic
Metal
Non Magnetic Metal
Hard Ferromagnetic
Metal A. Larger
Current
Fig. 1.2: Schematic diagram of TMR and spin valve. TMR : TMR effect is observed in the
ferromagnetic layers separated by a thin nonmagnetic insulator through which electrons
can tunnel. The magnetic orientation in the magnetic layers can be independently con-
trolled by applying a magnetic field. When the magnetic layers have the same orientation
(A), the tunnel probability between them and through the insulator is larger than when
the orientations are opposite (B). TMR device is a bit cell in a MRAM. Spin Valves :
Spin valve or Giant magnetoresistance (GMR) device consists of two ferromagnetic layers
spaced by a layer of nonmagnetic metal. In presense of a saturating magnetic field (A),
soft ferromagnetic metal layer has parallel alignment of adjacent hard ferromagnetic metal
layer. In a absence of magnetic field (B), soft ferromagnetic metal layer has antiparallel
alignment of adjacent hard ferromagnetic metal layer. Then the resistivity of A state is
lower than B state in Spin Valve system.
8
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Dens ity of State
Relative Energy
p band
U Δ
U > Δ
LHB UHB
U Δ
U > Δ
LHB UHB
p band
U < Δ
LH B UHB
Mott -Hubbard type Charge-Transfer type E
FE
FE
Fd band
Fig. 1.3: Schematic band structure of Mott insulator (Mott-Hubbard type and Charge- Transfer type).
ば
,
室温で強磁性的なM-H
カーブが得られたとの報告が存在しても,ド ープ する磁性イオンの割合が,∼
数%
と非常に小さいため, 本質(磁性半導体のバ
ンド 構造によるスピン偏極) でない場合も少なくない2.
誤報もいくつか存在 し,
確実に室温強磁性を示す希薄磁性半導体はまだ数種しか存在しない.1.2
強相関電子系材料物質中の電子はクーロン反発力により, 互いに相互作用しながら動き回っている. しか し, 金属中では電子軌道の閉殻構造によるいわゆる「遮蔽効果」により実効的なクーロン 相互作用が弱まっているため,アルカリ金属などでは,金属中の電子が自由電子模型であ る程度よく記述できる
[23].
しかし,遷移金属や希土類金属の化合物では,
d
電子やf
電子が不完全殻を形成し, 物質 の性質に大きく関与している. これらの電子は原子核に強く引っ張られて波動関数が局在 し, 遮蔽効果が十分に効かない. そのため, 互いに強いクーロン反発力を感じた電子状態 になる. このような状態の電子が存在する系を「強相関電子系」[4]
と言う. いわゆるモッ ト絶縁体[24]
は, このような強相関効果により絶縁体化した典型例である. さらに,
高温 超伝導体中の電子[25]
や, 希土類化合物などで見られる”重い電子系” [26] (有効質量が通 常の100 ∼ 1000
倍にもなる物質)などもその顕著な例である. 自由電子模型では説明でき ない物理的, 工学的に興味深い物性が非常に多く報告されており, 現代の物性物理におけ る中心テーマの一つである.2
GaN : Mn
は室温にて強磁性的なヒステリシスが観察されていても,不純物として混入する強磁性金属(Fe, Co, Ni),
またはその化合物の磁性を観察している可能性が非常に高い[22].
このような誤報が多い理由は, 磁性イオンである
3 d
遷移金属と半導体の固溶限が熱平衡状態では非常に小さいことがあげられる.9
研究背景と目的 スピン電荷複合物性0.86 0.88 0.90 0.92 0.94 0
100 200 300 400
500 1.00 1.10 1.20
Tolerance Factor
Transition Temperature (K)
Rare Earth Ionic Radius (Å)
Damazeou, et al.
Lacorre, et al.
Torrance, et al.
ANTIFERRO.
INSULATOR
METAL
Lu Y
Eu Sm
Pr Nd Sm Eu
La Sm
1-xNd
xNd
1-xLa
xFig. 1.4: Insulator-metal-antiferromagnetic phase diagram for RNiO
3as a function of the
tolerance factor (defined as Eq. 1.1 and equivalently the ionic radius of the rare earth
(R)) (Torrance et al. [29]).
10
研究背景と目的 スピン電荷複合物性LHB UHB E F
LHB UHB
E F
LH B
E F UHB
U
U
(a)
(b)
(c)
electron
doped hole
Fig. 1.5: Schematic diagrams of the band filling control of Mott insulator, (a) insulating
state (non-doped), (b) anomalous-metalic state (small doped), (c) metalic state (over-
doped) for correlated materials with magnetism.
11
研究背景と目的 スピン電荷複合物性1.2.1
モット 絶縁体バンド 理論によれば, 単位胞あたりの電子数が奇数の場合は,バンド は部分的にしか占 有されないため, 必ず金属的になるはずである. しかし
Fe,Mn,Co
等を含む3d
遷移金属酸 化物, たとえばMnO
などは閉殻構造をもたないにも関わらずOn site
クーロン相互作用U
が強いため, 価電子体付近のフェルミ準位を横切る3d
バンド(Fig. 1.3
の下図)がクー ロン相互作用によりFig. 1.3
上図のように, 上部ハバード バンド(Upper Hubberd Band;
UHB),
下部ハバード バンド(Lower Hubberd Band; LHB)
に分裂する. そのため,いわゆ るバンド 理論的(U
を考慮に入れない場合) に金属であるにも関わらず, フェルミ面にバ ンドが存在しない絶縁体になる場合がある. これらのうちU < ∆(電荷移動エネルギー)
の場合をモットハバード 型絶縁体,U > ∆
の場合を電荷移動型絶縁体と分類できる[27].
このようなモット絶縁体はいわゆる既存の半導体材料
(Si, Ge, GaAs
など)
でみられない, 以下のような性質を持つ.バンド 幅の変化による金属非金属転移
強相関物質では, 電子間相互作用や電子格子相互作用のもたらす様々な秩 序状態が競合する場合がある. Fig. 1.4 3 に示すように, 複数の状態の競合下 にある系では, その電子状態が化学的圧力
(Fig. 1.4
ではTolerance factor = RNiO
3のR
サイトにはいる化学種のイオン半径が化学的圧力の指標と考えて よい) や力学的な圧力によってバンド 幅等が劇的に変化すると期待でき, 金属 非金属転移が観察できる場合がある[28, 29].
バンド フィリング制御による金属非金属転移
Fig. 1.5(a)
に示すように,モット絶縁体はN
個の格子点にN
個の電子がある(half-filling)
場合, 電子は局在化し反強磁性絶縁体となる. しかし, Fig. 1.5(b)
のように電子数を減らす(図の白丸は格子に電子が無い状態 =
正孔が存在す る状態) とかろうじて電子(又は正孔)
の移動が可能になる(異常金属相).
さ らにFig. 1.5(c)
のように十分にバンド の占有(band filling)
を減少させるとバ ンド 理論で理解される金属に近くなる. このようなバンド の占有の制御4 をバ ンド フィリング制御とよぶ.これらの現象の研究は歴史的にはいわゆる半導体を用いた,トランジスタ等が発明され る以前
( ∼ 1947
年)より世界各地で行われていた. BaTiO3等のペロブスカイト型誘電体の 基礎物理研究やフェライトFe
3O
4を母結晶としたスピネル型の物質群などの機能性セラ3
tolerance factor =
許容因子(t):
ペロブ スカイト型酸化物(ABO
3)
においてA
サイト イオンの半径(=
A
R)
と酸素イオン(= O
R)
の半径の和で決まるAO
面のサイズとB
サイト イオンの半径(= B
R)
と酸素イ オンの半径の和で決まるBO
2 面のサイズとの比を定義した値.t = A
R+ O
R√ 2(B
R+ O
R) (1.1)
4例 え ば, モット 絶 縁 体 で あ る
La
3+Ti
3+O
2−3 のLa
3+ をSr
2+ で 部 分 置 換 す る こ と でLa
1−xSr
xTi
3+1−xTi
4+xO
2−3 のように混合価数状態にすると金属化する[34].
12
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Mn
3+Mn
3+t 2g
e g
Mn
3+Mn
4+hole
Super exchange interaction
= Anti-ferromagnetic interaction
Double exchange
= Ferromagnetic interaction EXCLUDE
VRH
O 2p O 2p
LaMnO
3La
1-xSr
xMnO
3Fig. 1.6: Schematic diagram of double exchange interaction for La
1−xSr
xMnO
3.
ミック研究の傍流といえる. この分野に関する研究は以下に示すペロブスカイト型マンガ ン
(Mn)
酸化物が示す巨大磁気抵抗などの特異な物性は磁気センサーへの応用の可能性か ら, 非常に精力的に行われている.1.2.2
ペロブスカイト 型Mn
酸化物(La, Sr)MnO
3は電荷移動型モット絶縁体であるLaMnO
3のLa
3+サイトにSr
2+を部分 置換することにより, Mn 3d電子に正孔を導入する(バンド フィリングを制御する)
ことで,La
3+1−xSr
2+xMn
3+1−xMn
4+xO
3のように混合価数状態が実現され, 金属化される.
x ∼ 0.175
の場合, 室温にて2
重交換相 互作用5 による金属‐非金属転移, 強磁性-常磁性転移が同時に生じ,
それに付随して起こ る負の巨大磁気抵抗効果等の興味深い物性が現れる. また, 2重交換相互作用と超交換相 互作用が競合するような系((Nd, Sm)
1/2Sr
1/2MnO
3など)
ではT
c 付近で強磁性転移とと5二重交換相互作用: この系の金属非金属転移は, Mn 3d
e
g軌道に導入された正孔が, Mnイオン間を酸 素イオンを介して局在スピンとフント結合しながら伝導することで, Mn 3dt
2g軌道に存在する局在スピン を揃える働き,つまり強磁性的な相互作用を引き起こしている,とのモデルで定性的に説明される. また,こ の相互作用は, 酸素を介してのd
電子軌道に存在する正孔のホッピングに起因するためZener
によって二 重交換相互作用となずけられた[35]. (Fig. 1.6
参照)また,この系のT
c付近で生じる巨大な磁気抵抗効果はT
c付近での電子(正孔)
のトランスファー確率t
がt = t
0cos(θ/2) (1.2)
のように
Mn 3 d
による局在スピン同士の角度(θ)
に依存するために生じる.13
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Insulating nonmagnetic
(La, Sr)O layer Metallic ferromagnetic (La, Sr) MnO
2layer
Intrinsic TMR
Fig. 1.7: (A) An High-Resolution Transmission Electric Microscope (HRTEM) lattice image along a [110] zone axis (left). (B) The crystal structure of La
2−2xSr
1+2xMn
2O
7. The rectangular parallelepiped surrounded by broken lines indicates the unit cell. Shaded planes represent ferromagnetic-metalic-La
1−xSr
xMnO
3planes. (Kimura et al. [36])
もに,結晶構造相転移
(1
次相転移)を伴うため,T
c付近で磁場誘起による1
次相転移が生 じ, 0.4 T
の比較的低い磁場(磁束密度)
で抵抗値が1000
分の1
に減じ る超巨大磁気抵抗(2
重交換相互作用による磁気抵抗よりも, さらに大きな磁気抵抗という意味で, Colossalmagnetoresistance (CMR)
と呼ぶ)が生じる[30].
このような結晶構造1
次相転移と磁気 転移が同時に生じる物質では電子軌道の秩序化も同時に生じていると考えられ, 光誘起に よる軌道秩序の融解なども観察される(Fig. 1.8
参照).これらの物性は外部からのわずかな刺激
(外部応力,
磁場, 電場 等) により電子状態が変化
(相転移)
することに起因する. 強相関電子系において,これらの転移に要する時間がピコ秒
(10
−12[sec])
程度であるため, 高感度・高精度のスイッチング材料として工学応用の可能性がある.
現在,層状ペロブスカイト型マンガン酸化物
(La
1−xA
x)
n+1Mn
nO
3n+1(n = 1, 2, ... ∞ ; A = Ca
2+, Sr
2+, Ba
2+, Pb
2+ 等.)をはじめとする物質群に対する機能性物質探求が現在盛んに行われている
[31, 32, 33, 34].
ペロブスカイト型
Mn
酸化物の示す特異な物性を以下に示す.•
バンド フィリング制御による金属非金属転移14
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Orbital ordering state
Orbital disordering state
Fig. 1.8: (a) Schematic electronic structutre of the charge (orbital) ordering. (b) Optical
conductivity spectra for c and ⊥ c for the charge (orbital) ordered (T = 10 K) and
disordered (T = 290 K) state. (c) Polarization microscope images of a single crystal of
Nd
0.5Ca
0.5Mn
3. Bright images appear below orbital ordering temperature (T
OO= 250
K) due to enhancement of optical anisotropy by charge/orbital ordering. (Ogasawara
et al [37])
15
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Silicon
Silicon
Iron
Iron
CrO2
EF
EF
EF
ENERGY
DENS TY OF S T ATES
Fig. 1.9: The density of states of silicon is shown in the top panel. Si has a band gap between occupied and unoccupied states, but it is nonmagnetic so the spin-up and spin- down densities of states are identical. The Fermi energy (slashed line) lies in the gap.
In the middle panel, the spin-up and spin-down densities of states of ferromagnetic iron
are shown. Iron has no gap, although the density of states of the spin-up states at the
Fermi energy is quite low. At the bottom is a model density of states for half metallic
ferromagnet CrO
2, which has an energy gap at the Fermi energy only in the spin-down
states. (Pickett et al. [38])
16
研究背景と目的 スピン電荷複合物性• 2
重交換相互作用に起因する巨大磁気抵抗効果•
巨大磁歪に起因する超巨大磁気抵抗効果(Colossal Magneto-Resistance; CMR)
•
天然のTMR
素子としての層状構造6•
軌道光学効果(光誘起による軌道無秩序化 [37], Fig. 1.8)
•
高スピン分極率を持つハーフメタル金属特性7(Fig. 1.9)
このように希薄磁性半導体や既存の半導体・金属材料の素子化では実現が難しい室温ハー フメタル特性や天然のトンネル接合等も実現される. しかしながら, セラミックであるた め, 微細加工が非常に難しいことが最大の難点である. たとえば
, (La, Sr)MnO
3の高いス ピン分極率( ∼ 100 %),
いわゆるハーフメタル特性はTMR
素子の強磁性層に最適である8.
しかし, 実際にペロブスカイトMn
酸化物を利用したTMR
素子を作成しても,強磁性相と絶縁体相
(SrTiO
3)
との接合界面に結晶欠陥などが混入し, 電子状態が理想的にならないため
(室温以上の T
cを持つにもかかわらず) 200 K程度でTMR
を示さなくなる[40].
以 下にペロブ スカイトMn
酸化物の短所をまとめる.•
原材料が高価(特に La, Nd
等の希土類)•
合成に大きなエネルギーが必要(良質の多結晶サンプルを得るには約 1200
℃以上で のアニールが必要[41])
•
強相関電子系同士の接合界面に微細加工の際様々な欠陥(詳細は不明)
が導入されや すい.•
結晶の異方性が強く, 微細化した際にクラックが入りやすい.近年, より高温
(400 K < T
c< 620 K)
でハーフメタル特性を示す秩序二重ペロブスカイ ト系酸化物, Sr2FeMO
6(M = Mo, W) [43]
やSr
2CrReO
6[44]
等が見つかり関心を集めて おり,しばらくは精力的な研究が続くと考えられる.6
Fig. 1.7
に示すように, 絶縁的な(Sr, La)O
層が2
つの(La, Sr)MnO
2層によってサンド イッチされた 結晶構造を持ち,天然のトンネル接続を形成する. そのためTMR
効果が観察され, c軸方向でトンネル磁気 抵抗比(∆ρ/ρ(H) × 100 %) 4000 %
に匹敵する抵抗の変化を示す. このTMR
効果は低温(90 K
以下)に て実現される[36].
7
d
電子によるバンド がフェルミ準位(E
F)
を横切る金属伝導を担うバンド と, フェルミ準位(E
F)
横 切らない局在するバンド の2
つにそれぞれスピンの偏極方向によって区別される状態をハーフ メタルという
[38, 39].
この場合, 理想的には伝導キャリアは100 %
のスピン分極率を持つ. 大抵の場合,飽和磁化から見積れる局在磁気モーメントを含むスピン分極率も非常に大きな値
(80 %
以上)を示す. ハーフメタル の典型例としてFig. 1.9
のCrO
2があげられる.8
TMR
素子の性能は用いる強磁性層のスピン分極率に依存し,その磁気抵抗比は∆R
R = 2P
1P
21 − P
1P
2(1.3)
(P
1, P
2は絶縁層を挟む強磁性層のスピン分極率)となるため, スピン分極率の高い材料の利用はデバイス 性能の向上につながる[42]
17
研究背景と目的 スピン電荷複合物性1.3
問題意識1.3.1
古くて新しいスピンエレクト ロニクス材料の探索スピンエレクトロニクス・オービトロニクスの実現のため, 磁性半導体, 及び強相関電 子系材料の研究は, 非常に注目されている応用物理のトピックである. しかし, 1960年代 よりその基礎研究は行われており, 特にペロブ スカイト
Mn
酸化物におけるバンド フィリ ング制御や金属非金属転移は古くから知られている. 強相関電子材料は, いわば古くて新 しいスピンエレクトロニクス材料といえる. 現在のところスピンエレクトロニクス材料と しての強相関電子系の研究は,近年ではペロブスカイトMn
酸化物に対して非常に精力的 に行われている.しかし 前項で述べたように, いくつかの短所も存在するため, ペロブ スカイト以外の 強相関電子材料
[34]
に対する機能物性探求も同様に重要である. パイロクロア型酸化物Tl
2Mn
2O
7[45]
やスピネル型カルコゲン(S, Se, Te
化合物の総称)化合物[33, 47]
などがこ れに当てはまる. これらの物質は金属非金属転移や非常に大きな負の磁気抵抗を示しペロ ブスカイト型Mn
酸化物と同様な非常に様々な物性を示す強相関電子系といえる.他方で,天然の
TMR
素子であるLa
2−2xSr
1+2xMn
2O
7と同様にペロブ スカイトブロック が絶縁体層によりサンド イッチされた構造を持つ層状酸化硫化物Sr
2CuMnO
3S [48]
など も, ホールド ープにより天然のTMR
素子になる可能性を持つと考えられる.本研究は,非ペロブスカイト
Mn
酸化物系の電子スピン相関物性探求を主眼としており, そのなかでも特に, カルコゲン化合物に対する物質, 及び物性探索をおこなった.1.3.2
スピ ネル型カルコゲン化物についてスピ ネル型化合物 スピネルは天然の
MgAl
2O
4の鉱物名である. また同じ 結晶構造をも つスピネル族鉱物のグループ名も示し, 磁鉄鉱(Fe
3O
4)
をふくむ非常に多くの物質がこれ にふくまれる. MgAl2O
4と同じ結晶構造を有するいわゆる正スピネルはAB
2X
4の化学式 で表され,
立方晶スピネルの場合はFig. 1.10
に示すように, X元素は面心格子を形成し, その格子点には周囲の4
個のX
元素によって正四面体的に囲まれたA
の位置と6
個のX
元素によって正八面体的に囲まれたB
の位置が存在する. この結晶構造は非常に安定な構 造であるためA, B
には様々な金属元素非金属元素が入り, Xの位置にはカルコゲン(O, S, Se, Te)
やハロゲン(Br, Cl
等)が入る.スピ ネル型
AB
2X
4の多様な物性AB
2X
4(A =
遷移金属等, B = Cr, Ir 等, X = O, S,Se, Te)
の物性は1960
年代から,盛んに基礎研究, 応用研究されていた[50, 51, 52, 53, 54].
特に, カルコゲンクロム
(Cr)
化合物スピネルACr
2X
4(A = Fe, Mn, Co, Cu, Zn, Cd
等,X = O, Se, Te, Fig. 1.10
参照)はM
の化学種の変化により磁性は反強磁性, フェリ磁性, 強磁性, スピングラス等の多様な磁性が発現し, それと同時に導電性は絶縁体から金属に またがる非常に広範囲な変化を示しスピンと電荷の相関が非常に強い系といえる. ペロブ スカイト型Mn
酸化物はAMnO
3のA
サイトに入る希土類元素やアルカリ土類金属によっ18
研究背景と目的 スピン電荷複合物性A: Mn, Fe, Co, Cu, Zn, etc, Center of the tetrahedron
X: O, S, Se, Te, etc
B: Cr, In, Sn etc, Center of the
octahedron
Fig. 1.10: Crystal structure of chalcogenide spinels AB
2X
4.
て物性が変化するのに対し
,
スピネル型Cr
カルコゲン化物ACr
2X
4はA
サイトに入る3d
遷移金属等によって, 物性が大きく変化する強相関電子系材料である.特に
CdCr
2X
4(X = S, Se, Te)
は国内外で磁性半導体(半導体としての伝導や光学的性
質と, 磁性体としての強磁性秩序を兼ね備えた物質[54])
としてさかんに研究された歴史 がある. これまでに遷移元素や希土類元素の局在磁気モーメントと伝導キャリアの間に働 くs-d, p-d (または Ruderman-Kittel-Kasuya-Yoshida (RKKY))
交換相互作用にもとづく 強磁性や,巨大磁気抵抗効果,磁気光学効果等のさまざまな物理現象が報告されている. し かしながら,
単結晶の作製が困難で,キャリアの移動度も小さく,さらにT
cも室温よりも はるかに下であった. その結果,際立った応用に結びつかないまま自然消滅に近い状態と なった.しかしながら, AB2
X
4(X = O, S, Se, Te)
化合物にはまだまだ未知の物性が発現する可 能性が依然存在している. 例えば近年見つかった, 室温でスピネル型をとるCuIr
2S
4[55]
は約
230 K
にて金属絶縁体転移を示し,電荷秩序化すると同時に抵抗が低温で急激に増加し, 結晶構造も
1
次転移を起こす. この現象はCMR
を示すペロブ スカイトMn
酸化物で 観察される電荷秩序化や軌道秩序化と同様な現象である. CuIr2S
4は電子の軌道を外部か らのわずかな刺激(磁場,
電場, 光照射等)で制御できる可能性のある物質といえる.19
研究背景と目的 スピン電荷複合物性1.4
本研究の対象物質,
および関連する過去の報告1.4.1 FeCr 2 S 4
この系は
Fe
2+Cr
3+2S
2−4 という原子価状態にある. この場合3d
遷移金属の混合価数状態 が存在しないためペロブ スカイト型Mn
酸化物と異なり2
重交換相互作用を生じない. と ころがフェリ磁性転移温度(T
c∼ 170 K)
付近において, 以下の式で定義される磁気抵抗 比(M R)
で6 T
でM R = 0.2
となる,巨大な負の磁気抵抗を示すことがRamirez
らによっ て報告された[47].
M R = ρ(0) − ρ(H)
ρ(0) (1.4)
この系で生じ る磁気抵抗は
T
c近傍で生じる磁気ポーラロン伝導(磁気秩序と相関する伝
導
, Fig. 1.11
は磁性イオンが整列している場合,
磁気ポーラロンは通常のキャリアと同様に隣のサイトへ移動できる. 秩序化していない場合は移動できない, または移動しにくく なることをあらわしている)と,通常キャリアの伝導
(磁気秩序を伴わない伝導)
の共存状 態に起因するとの報告がある[56].
つまり,
キャリアが磁気ポーラロンと通常キャリアの ど ちらの状態も取りえる場合,外部磁場が存在しないときは,磁気ポーラロン(通常キャリ
アよりも重い有効質量を持つ)がキャリアとして存在する. それに対し磁場中では局在磁 気モーメントが秩序化することにより磁気ポーラロンが通常キャリアに変化する. このと き磁気ポーラロンの重い有効質量が軽くなるため,結果として電気抵抗が減少する負の磁 気抵抗が生じる(Fig. 1.11
参照,このモデルでのMR
の大きさは磁気ポーラロンの有効質 量とキャリア密度に依存する, 詳細は3.1.2
にて説明する).1.4.2 Fe 0.5 Cu 0.5 Cr 2 S 4
Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4は室温(T
c= 340 K)
フェリ磁性を示す半導体であり, 化学量論比通り に完全に合成されるならば, Fe3+0.5Cu
1+0.5Cr
3+2S
2−4 という電子状態をとり, FeCr2S
4と同様に 混合価数が存在しないと報告されている. 興味深いことに室温を超える340 K
でM R
= 0.1
弱のバルクの半導体としては比較的大きな磁気抵抗を示す[47].
この磁気抵抗機構は
FeCr
2S
4同様に磁気ポーラロン伝導[56, 57]
によって良く説明されると考えられる.Lotgering
等の報告によると[53],
この系は合成条件によってキャリアタイプがp
型(以
下
p-Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4), n
型(以下 n-Fe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4)
に変化する非常に興味深い特性を持 つ. Fe3+0.5Cu
1+0.5Cr
3+2S
2−4 におけるn
型伝導はFe
3+サイトにFe
2+が混在することに起因し,Fig. 1.12
に示すようにFe
2+が価電子帯の上部にバンド をつくることで説明される[53].
そのため正確な化学量論比で作られた
Fe
3+0.5Cu
1+0.5Cr
3+2S
2−4 は本質的にはp
型と考えるのが 自然である. ところが近年報告されているFe
0.5Cu
0.5Cr
2S
4の高磁場磁気抵抗は全てn
型 のものである. また後述する, これらの系を含む, ACr2S
4(A = Transition Metal) [50]
の
A
サイトに入るCu
の原子価がCu
1+, Cu
2+のいずれをとるのかは未だ議論が必要な問 題[51, 52, 58, 59, 60, 61]( 1.4.3
参照)である. そのため, Fe0.5Cu
0.5Cr
2S
4の電子状態は未 だ判然としていない.20
研究背景と目的 スピン電荷複合物性Magnetic ion
Magnetoresistance mechanism m
m NC NC
m m MP MP
Naked Carrier Magnetic polaron
(heavier effective mass than naked carreir’s)
Large Mobility Large mobility
Small mobility
Delocalized and lighter effective mass
H >> 0 H = 0
τ σ µ
ρ enq
m en
*
1
1
=
=
=
−) 1
(
0 0 0 0
0 0
MP NC MP
NC MP H
H H
H H H
m m n
n
MR n • −
= +
= −
= −
>>
=
>>
=
>>
=
σ
σ σ
ρ ρ ρ
Align
Not align
Large mobility
Self-trapped and heavy effective mass
Align
)
0
(
MP MP NC NC
H
m
n q m n q e
en µ τ τ
σ
== = +
NC MP NC
H