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3.3 実験結果と考察

3.3.4 T g 以下の電気伝導モデルの解析

Fig. 3.12に示すようにx = 00.5ともに低温でゼロ磁場中冷却過程(ZFC)と磁場中冷 却過程(FC)で磁化率に履歴が生じるスピングラス的挙動を示し,磁化率の極大値 (スピン グラス転移温度)はTg 60 K (x = 0), 50 K (x = 0.2), 45 K (x = 0.5) であることが観 察された. この挙動の原因は前述したように, Fe 3d 軌道の秩序化 [15]であると報告され ている. しかしながら,軌道の秩序化が生じるとされるTg以下の電気抵抗のモデルは現在 報告されていない. 本項ではTg以下のFe1−xMnxCr2S4の電気抵抗の挙動を以下にあげる 3つの半導体の伝導モデルによりフィッティングを行い, Tg以下の電気抵抗率の変化を明 らかする.

半導体の伝導モデル

いわゆる半導体や絶縁体の電気伝導は, おおまかに熱活性化エネルギーによりキャリ アが励起され移動度ギャップを飛び越えて伝導する熱活性化エネルギーによる (Thermal activation; TA) 伝導 (Eq. 3.12)と格子(又は磁気格子)と相互作用をしながら伝導する小 さいポーラロン (Small polaron; SP) 伝導, (Eq. 3.13, Fe1−xMnxCr2S4においては磁気格 子との相互作用のため生じる磁気ポーラロン (Magnetic polaron; MP) 伝導) 移動度端に よるバンド 伝導が存在せず, 様々な不純物準位間を熱活性 (フォノンの吸収) によりトン ネル伝導する変長ホッピング (Variable Range Hopping; VRH) 伝導(Eq. 3.14) の3種類 が存在する.

ρ=ρ0exp(Ea/T) (3.12)

ρ=ρ0/T exp(Ea/T) (3.13)

ρ=ρ0exp[(T0/T)1/4] (3.14) Fe1−xMnxCr2S4では結晶構造転移や磁気転移により,適切な伝導モデルは温度によって 変化する.

Fig. 3.233.26にH = 0 Tでの電気抵抗の温度依存性をTA型, SP型及び三次元VRH 型にて最小自乗近似を用いてフィッティングした結果を示す. それぞれ低温ではVRH型伝 導を示すことが明らかである. Tg以上の複雑なρの温度依存性は磁気ポーラロン (Fig. 3.6, SP伝導に類似) 型伝導を考えると良く説明できる. Fig. 3.26より, Tgよりも低温ではln

ρ−1000/Tグラフが非線型な挙動を示しはじめ, TAモデルではフィッティングできなく

なることがわかる. それに対し, 低温領域(< Tg)をρ =ρ0exp[(T0/T)1/4]でフィッティン グすると良い近似が得られることからx = 0, 0.2, 0.5ともに低温では3次元型 変位長型 ホッピング (VRH) 伝導を示すことわかる. また伝導の性質がTA型からVRH型に転移 する温度は磁気転移温度付近に存在する. つまり熱活性化エネルギーを伴うバンド 伝導が 存在できなくなる温度とスピングラス転移温度 (= Tg)がほぼ同じ温度にある. さらに縦

73 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果

0 10 20 30

0 1 2 3 4

1.5 2

-2 -1 0 1 2

1000/T (K-1)

log ρ ( cm)

x = 0

activation small polaron VRH

log ρ /T ( cm K-1 ) (1000/T)1/4 (K-1)

Tg = 60 K

Fig. 3.23: The ln ρ as a function of the 1000/T (Activation model), ln ρ/T as a function of the 1000/T (small polaron model), and ln ρ as a function of the (1000/T)1/4 (VRH model) for Fe1−xMnxCr2S4 (x= 0).

弾性係数の転移(Fig. 3.2)がほぼTgと同じ温度にて起こることが報告されており, 軌道秩

序状態 (この系の場合は軌道グラス状態) への転移の始まり, つまり軌道液体状態への転

移も同じ温度にて生じていると考えられる.

以上のことからFe1−xMnxCr2S4は軌道と電荷とスピンの相関の非常に強い系であり,低 温におけるTA型伝導から3次元VRH伝導への転移は,軌道液体転移,及びスピングラス 転移と同じ 温度領域で生じ ると考えられる. これらの結果はTsurkanら [19]のシナリオ を支持するものであり, Tg以下で軌道自由度が変化するとともに, 軌道液体へ変化し, さ らに低温で軌道グラスに転移すると推測される.

74 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果

0 10 20 30 40 50

2 3 4 5

6 1.5 2 2.5

0 2 4

1000/T (K-1)

log ρ ( cm)

x = 0.2

activation small polaron VRH

log ρ /T ( cm K-1 ) (1000/T)1/4 (K-1/4)

Tg = 50 K

Fig. 3.24: The ln ρ as a function of the 1000/T (Activation model), ln ρ/T as a function of the 1000/T (small polaron model), and ln ρ as a function of the (1000/T)1/4 (VRH model) for Fe1−xMnxCr2S4 (x= 0.2).

0 10 20 30

2 4 6 8

1.5 2

0 2 4 6

1000/T (K-1)

log ρ ( cm)

x = 0.5 activation small polaron VRH

log ρ /T ( cm K-1 ) (1000/T)1/4 (K-1/4)

Tg = 45 K

Fig. 3.25: The ln ρ as a function of the 1000/T (Activation model), ln ρ/T as a function of the 1000/T (small polaron model), and ln ρ as a function of the (1000/T)1/4 (VRH model) for Fe1−xMnxCr2S4 (x= 0.5).

75 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果

1.5 2

10

10 20

(1000/T)

1/4

(K

-1

)

log ρ (arb. units)

x = 0 0.2 0.5 0.5 (AC)

Activation

1000/T (K

-1

)

log ρ (arb. units)

VRH

Tg

Fig. 3.26: The ln ρas a function of the 1000/T (Activation model), and lnρas a function of the (1000/T)1/4 (VRH model) for Fe1−xMnxCr2S4.

76 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果