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49 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果

Fig. 3.5: The relative spectrum area of the superparamagnetically relaxed component as a function of temperature for FeCr2S4. The uncertainty of the displayed values is below 3%. (Nathet al. [18])

弾性係数の不連続な異常が確認されている. 磁性と縦弾性係数の転移温度 (Tg)が同じた め, これらの変化は同一の物性制御要因により生じていると推測される. 縦弾性係数の変 化は何らかの相転移が生じていることを示し,Tgと縦弾性係数の変化温度の一致の物性制 御要因として, Maurerら [15]はFe 3d軌道の秩序化を提案している.

50 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果 近で最大の負の磁気抵抗を示すことが過去の研究 [1]で明らかである. またTc以上でも巨 大な負の磁気抵抗が生じていることが本研究の実験結果 (Fig. 3.21参照)からも示される.

そのため2のような界面粒界によるTMR効果の寄与もこの系での負の磁気抵抗の説明に 不適切である.

3のようなスピングラス的な (FCとZFCで履歴の存在する) 挙動はTc以上では観測さ

れない(Fig. 3.13参照)また,グラス的な挙動は低温にて生じるにもかかわらず最大のMR

Tc付近に存在するため,この場合も不適切である.

Yangら [12]によるとFeCr2S4の磁気抵抗の起源をFeCr2S4Tc付近にて生じ る通常

キャリア (磁性イオンの持つ局在磁気モーメントとの相互作用の無い, バンド 伝導を示す

キャリア)と磁気ポーラロン (局在磁気モーメントとの相互作用により通常キャリアより も大きな有効質量をもつキャリア. 磁気秩序が壊れた状態で存在し, 磁場中で磁気秩序が 生じると通常キャリアに近い有効質量となり, 磁場による抵抗の減少につながる)の混在 によるものとしている. 実際に電気抵抗の温度依存性から求めたFeCr2S4の活性化エネル ギー(Tc以上をEH,Tc以下をEL)とゼーベック係数 (Seebeck Coefficient)から求めた活 性化エネルギー (ゼーベック係数より求めたのでEsとおく) の2つの値はYangらによる と, それぞれEH = 47 meV,EL = 26 meV,ES = 23 meV [12]となりELESに非常に 近い値を示すのに対し, EHESに比べて2倍以上大きな値を示す.EHES, ELに比べ て大きい理由として, T< Tcでは通常キャリアが支配的に電気伝導に寄与しているのに対

し, T > Tcは格子によるポーラロン (格子と相互作用するポーラロン),または磁気ポーラ

ロンによる伝導が支配的に生じているためと報告されている. FeCr2S4ではヤーンテラー 効果による結晶の歪みが生じていないため, この大きなEHは磁気ポーラロンによる影響 であるとYangらは結論している [8]. またYangらによるFeCr2S4の電子スピン共鳴スペ クトル (ESR) (Fig. 3.3)は, Tc以下Tg以上で, 常磁性的な(Paramagnetic = PM)な磁気 秩序を示すPMピークと強磁性的(Ferromagnetic = FM)な磁気秩序 (CrとFeの副格子 で2つ存在する, 低磁場側がより大きい磁気モーメントを持つCr副格子の寄与, 高磁場側 がFe副格子の寄与となる)を示すFMRピークの混在が観測されており, Tg Tcでの強 磁性秩序と常磁牲秩序の混在を示している. さらにNathら [18]は57Feメスバウワー分光 スペクトルの解析結果 (Fig. 3.4, 3.5)からTc以下でも常磁牲秩序を保った領域が存在し ていることを明らかにしている. このようなフェリ磁性と常磁牲の混在状態は磁気ポーラ ロンが存在しやすい状態といえる.

磁気抵抗の理解

FeCr2S4の電子構造 FeCr2S4で生じ る磁気ポーラロンのメカニズムについて明確に言 及した報告は存在しないが, 現在の我々の理解をFig. 3.6に示す. FeCr2S4 の原子価は Fe2+Cr3+2 S2−4 であり,この系の伝導はFe2+eg軌道に存在する正孔が移動度端を形成し て担っていると考えられる. 実際, FeCr2S4のゼーベック係数は不純物半導体的な巨大な 正の値を示す. Fig. 3.6 (a)に示すように,キャリアとなる正孔とFe 3d軌道に存在する上 向きの局在スピン5つとの間にフント結合が存在する. このとき正孔はFig. 3.6 (b)のよ

うにFe 3d軌道に存在する隣合う局在スピン同士が整列している(強磁性的)場合,熱励起

51 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果

Cr3+

eg t2g

t2g eg EF

eg

eg t2g t2g

Fe2+

Hole

eg

eg t2g t2g

Fe2+

Hund's coupling

(a) Electronic structure for FeCr2S4

EF eg

eg t2g

eg

eg

(b) Normal carrier conduction in FeCr2S4

t2g

Fe2+ Fe2+

EF eg

eg t2g

eg

eg

(c) Magnetic polaron conduction in FeCr2S4

Self-trapped

t2g Slow down

Local magnetic

moment d electron

Fig. 3.6: (a) Schematic electronic structure of FeCr2S4. (b) Schematic normal carrier conduction model, and (c) magnetic polaron conduction model for FeCr2S4.

52 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果 によるホッピングによって移動でき, 通常キャリアとして振舞うと考えられる. Fe 3d軌 道に存在する局在スピン同士の秩序が乱れている (常磁性的)場合, Fig. 3.6 (c)に示すよ うに, , フント結合の影響で軌道間を移動しずらい (キャリアの有効質量が重くなる =磁 気ポーラロン)状態となる. この系の磁気抵抗はFig. 3.6の (b)の場合(通常キャリアによ

る伝導) と (c) の場合 (磁気ポーラロンによる伝導)が混在している場合に生じていると

考えている.

磁気ポーラロンと通常キャリアの共存による磁気抵抗 以上の説明を数式を用いてモデル 化すると以下のようになる. 電気抵抗率・伝導度 (ρ = σ−1) と移動度 (µ), 緩和時間(τ), およびキャリアの電荷(q)と有効質量 (m) の関係を示す.

ρ=σ−1 = 1

enµ = m

enqτ (3.1)

Tc付近では磁気ポーラロンと通常キャリアが混在しており,正孔はど ちらの状態のキャリ アにもなりうる. また,外部磁場の印加により局在磁気モーメントの秩序化が引き起こされ た場合,磁気ポーラロンの質量は通常キャリアに近くなり,十分強い磁場中では等しくなる と考えられる. このとき磁気ポーラロンの有効質量をmM P,通常キャリア (Naked Carrier と表現される)の質量をmN Cとすると,ゼロ磁場 (H = 0)と十分強い磁場 (H >>0)で のキャリアの有効質量と伝導度の関係は以下の式で表される.

σH=0 =enµ=e(nN C

mN C +nM P

mM P) (3.2)

σH>>0 =e(nN C +nM P) mN C

(3.3) この条件をMRの式に当てはめると, 磁気抵抗は以下のようになる.

M R= ρH=0−ρH>>0

ρH=0 = σH>>0−σH=0

σH>>0 = nM P

nN C +nM P ×(1 mN C

mM P) (3.4) Eq. 3.4からnM P = 0のときM R= 0となり, またnN C = 0の場合はmM P = mN Cで 結局M R = 0になる, すなわちM Rは通常キャリアと磁気ポーラロンの両方が存在でき る状態で発生することがわかる.

Eq. 3.4で求めた式はキャリア濃度(nM P, nN C)からなる式と有効質量 (mM P,mN C)か らなる式の積の形をしている. このときキャリア濃度からなる式nNCnMP+nMP は通常キャリ アに対する磁気ポーラロンのキャリア濃度の増加がM Rの増加となることを示している.

また有効質量からなる式 1 mmMPNC は磁気ポーラロンの有効質量の増加がM Rの増加と なることを示している. これら2つの方法が M Rを大きくすると考えられる. 実験的に

Eq. 3.4が成り立つか否かを確かめるには,全ての磁気ポーラロンが通常キャリアになるほ

ど の巨大な磁場をかけ, MRの飽和する値を導かなければならないため, 現時点では実証 できない. しかしながら, Eq. 3.4は負の磁気抵抗の発現機構を定性的に説明していると考 えられる.

53 スピネル型硫化物Fe1−xMnxCr2S4における巨大磁気抵抗効果

M ( μ

B

/F . U .)

Fig. 3.7: Low-field (50 Oe) magnetization per formula unit (f. u.) (a) and thermal expansion (b) in ferrimagnetic FeCr2S4 single crystal (SC) and polycrystalline samples (PC). (Tsurkan et al. [19])

3.1.3 FeCr

2

S

4

における低温 (T < 10 K) での磁気異常および軌道秩