序 文
小林三衛先生には,1988年3月31日をもって,めでたく定年退職される。
小林先生は,一貫して,日本国憲法と戦後民主主義を擁護する立場にたって,学問研究・教育に取り 組まれ,同時に,平和と民主主義の国民的運動にもしばしば参画されてこられた。まさに,戦後第一世 代の研究者に特有の多面性を遺憾なく発揮してこられたということができる。
1951年4月茨城大学に奉職され,その後現在まで民法講座を担当されて,また,青山学院大学等にお いても講壇に立たれて,多くの学生を薫育されてこられた。さらに,1973年4月からは早稲田大学大学 院で「法社会学」講義・演習を通して後進研究者の指導育成にもあたってこられた。その教えは,厳格 にして,かつ,実証を旨とする指導に徹底し,この姿勢は頑固なまでに堅持されてこられた。にもかか わらず,多くの学生が小林・民法ゼミナールに参加し,そこから,社会的に有為なる活躍をされている 卒業生が輩出している。
ノ」、林先生の研究業績は,国内国外の諸事象を対象とするきわめて多彩なものであり,とくに,入会権・
水利権・漁業権・土地法制等に関する法社会学研究は学会において高く賞賛されている。その基礎は,
調査に継ぐ調査,という研究生活の実態にあるということができる。いつも,調査資料で膨らんだ重た そうな黒い鞄をもって,速歩されている姿が見られ,実証を旨とする研究スタイルをまさに地でいくが ごとくの感をうけている。
小林先生の研究スタイルで,いまひとつの特徴は,共同研究会の精力的な主催である。茨城大学地域 総合研究所の所長を10年余の長きにわたって勤め,学内措置で設立された研究所として不可避iの物質的 貧困という条件にもかかわらず,30名余の研究所員を組織して地域研究に多大の功績をあげてこられた
ことは特筆に値する。その他大小の研究会の幹事・世話入を指摘すれば切りがない。
様々の共同研究の主催が,先生の研究の検証と発展の場を確保せしめたということも間違いないであ ろうが,より大きな意義は若手研究者に,この地・水戸にあっても研究活動ができる。また,地域研究 が決して周辺研究ではなく第一義的な,基礎的な意義をもつ研究であることを確信させるのに寄与した 点であると考える。
ともあれ,自分を厳しく律してこられた小林先生であるだけに,共同研究会に参加された他の多くの 研究者に示唆されたものは極めて多大であったといえよう。
本誌の執筆者はいずれも,そのように小林先生に薫陶をうけた,法学専攻以外の,共同研究会の参加 者である。記念論集への寄稿のよびかけに応えて,作品を寄せていただいた執筆者に記して感謝申し上
げる。