iii
序 文
高等学校までの数学に現れる関数は,写像とよばれる「集合から集合への対 応」として定式化される.集合や写像といった概念は現代数学において必要不 可欠なものである.また,数列や関数の極限,関数の微分や積分にも見られる ように,数学では極限操作によって望む結果を得ることが多い.位相とはこの ような極限操作を行うために必要となる概念である.そのため,大学の数学科 では,集合や位相に関する授業科目はより専門的な科目の前に用意されている.
先の学年でまなぶ内容を深く理解できるか否かは,
1
年次や2
年次でまなぶ微 分積分や線形代数に加えて,集合や位相に関する知識をどの程度まで身に付け ているかにかかっている.本書は集合と位相の教科書あるいは独習書として書 かれた.数学をまなぶ際には「行間を埋める」ことが大切である.数学の教科書では,
推論の過程の一部は省略されていることが多い.それは,省略を自分で埋められ る読者を想定していることもあるし,紙面の都合などの事情もある.したがっ て,正しい理解のためには,読者は省略された「行間」にある推論の過程を補 い「埋める」必要がある.
本書ではそうした「行間を埋める」ことを助けるために,次の工夫を行った.
読者自身で手を動かして解いてほしい例題や,読者が見落としそうな証明 や計算が省略されているところに「 」の記号を設けた.
ふり返りの記号として「 」を使い,すでに定義された概念などを復習で きるようにしたり,証明を省略した定理などについて参考文献にあたれる
iv 序 文
ようにした.例えば,[ [内田]
p.111
]は「参考文献(本書312
ページ)[内田]の
111
ページを見よ」という意味である.また,各節末に用意した 問題が本文のどこの内容と対応しているかを示した.例題や節末問題について,くり返し解いて確認するためのチェックボック スを設けた.
省略されがちな式変形の理由づけを記号「 」を用いて示した.
各節のはじめに「ポイント」を, 各章の終わりに「まとめ」を設けた.抽 象的な概念の理解を助けるための図も多数用意した.
節末問題を「確認問題」「基本問題」「チャレンジ問題」の
3
段階に分けた.穴埋め問題を多く取り入れ,読者が手を動かしやすくなるようにした.
巻末に節末問題の詳細解答を載せた.
第
1
章から第3
章までは集合論を,第4
章から第9
章までは位相空間論を扱 う.目次の後に載せた全体の地図も参考にされたい.本書に現れる定理のほと んどすべてに証明を付けたが,証明を付けなかったものについては参考文献を 引用した.重要な定理には(重要)としるしをつけておいた.全体の難易度は 巻末に挙げた参考文献と同程度かやや易しくなっているが,集合論や位相空間 論でまなんでおいてほしい事柄は一通り述べたつもりである.執筆に当たり,関西大学数学教室の同僚諸氏や同大学で非常勤講師として数 学教育に携わる諸先生から有益な助言や示唆をいただいた.特に,本書の原稿 を丁寧に読んでくださった楠田雅治教授,大学院生の安原優季君に深く感謝す る.前著に続いて,(株)裳華房編集部の久米大郎氏には終始大変お世話になり,
真志田桐子氏は本書にふさわしい素敵な装いをあたえてくれた.この場を借り て心より御礼申し上げたい.
2020
年7
月藤岡 敦