奈良教育大学学術リポジトリNEAR
言語条件づけにおける直接強化と代理強化
著者 玉瀬 耕治
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 23
号 1
ページ 205‑212
発行年 1974‑11‑15
その他のタイトル Direct and Vicarious Reinforcements in Verbal Conditioning
URL http://hdl.handle.net/10105/2699
盟.Na盃盟S523#35
iv.Educ.V吉だ23,N。.皆三ult.腎49sp s。c.)1974
言語条件づけにおける直接強化と代理強化
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(心理学教室) (昭和49年4月30日受理)
言語条件づけの研究を拡大する1つの領域として、 Kanfer(1968)は、代理学習事態をとりあ げている。この種の研究は、従来の直接強化による学習と同様の現象が、単にモデルを観察する だけで成立することを示している(Kanfer, 1965)。先に、筆者らは、言語条件づけの課題を用 いた観察学習(代理学習)について実験し、どのような場合に代理強化、すなわちモデルへの強 化、が有効に作用するかを検討した(玉瀬・前田、 1974)。このような代理学習と直接強化によ る学習の機制のちがいや相互の関係などについては、まだあまり明らかにされていない。そこで、
本研究では、直接強化と代理強化の相対的な効果について検討することにした。
Kanfer and Marston (1963)は、この点について検討している。彼らは、 Greenspoon型の 課題を用い、直接強化を与えた場合と与えない場合、および代理強化を与えた場合と与えない場 合を組み合わせた4つの実験群と、他に4つの統制群を設けて実験した。その結果、直接強化の 有無にかかわらず、代理強化を与えた場合の成績がよかった。また、いずれの強化も与えないで、
モデルの反応だけを聞かせた群では、条件づけが成立しなかった。この報告は、代理強化がきわ めて有効であることを印象づけている。しかし、手続き上に若干の問題点が含まれていると考え
られる。
第1に、モデルの試行数と、被験者の試行数が著しく異なっている。モデルの場合が270試行 であったのに対して、被験者はわずか30試行しか与えられていない。したがって、代理強化の数 と直接強化の数がかなり異なることになる。第2の問題は、モデルが9人も用いられたことであ る Marston and Kanfer (1963)の研埠では、多数のモデルを用いるよりも1人のモデルを用 いた場合の方が成績がよくなっている。
その後、 Phillips (1968b)がこれらの点を改善して、同様の実験を行なったところ、 Kanfer and Marston (1963)とは逆に、直接強化の方が代理強化よりも効果的であった。しかし、個人 面接形式の課題を用いたMariatt (1970)の実験では、 Kanferらと一致して、代理強化の有効 性が優ることが示されている。このように、直接強化と代理強化の相対的な効果性は、手続き上 のちがいや課題のちがいによっても異なるようである。本研究では、 Kanfer andMarston(1963) とは異なる言語条件づけ課題(Taffel型)を用い、直接強化と代理強化の機会を等しくして、両 者の効果を比較した。
本研究のもう1つの目的は、モデルの行動を模放しようとする被験者の意図性と成績との関係 を調べることであった。この点について、 Hamiltonら(1970)は興味深い実験を行なっている。
彼らは、 Greenspoon型の課題で,代理強化を与える群と与えない群を設けて実験したO代理強 化を与えた群については、モデルの反応と代理強化の随伴性に気づいた者と気づかなかった者に 分け、さらに、気づいた者については、モデルの行動を模倣しようとする意図性をもっていたか
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どうかについて分類した。その結果、よい成績を示した被験者は、いずれも積極的な意図性をも っていたことが明らかとなった。従来、言語条件づけの研究では、意識性の問題は、かなり論争 されてきたが(たとえば、 Spielberger & DeNike, 1966; Krasner, 1967)、意図性の問題が取り 上げられることはあまりなかった。しかし、最近Marlatt (1972)も指摘しているように、意図 性は、被験者の動機づけに関係して成績を決定するかなり重要な要因であると考えられる。それ
ゆえ、本研究ではこの点についても検討することにした。
方 法
実験計画 2 (直接強化の有無)× 2 (代理強化の有無)の要因計画が用いられた。
被験者 奈良教育大学の女子学生71名と奈良保育学院の女子学生25名、合計96名が実験に参加 した。これらの被験者は、来室の順に4つの実験条件のいずれかへ割り当てられた。したがって、
1群は24名で構成されている。
材料 Taffel型の変形課題が用いられた。 ①刺激カード15×21cmの大きさの画用紙に、上 部には、 "わたしば'と"あなたば'を書き、下部には、玉瀬と池EB (1972)の3音節動詞の印 象価表より選んだ3種の動詞(良い、中性の、および悪い印象の動詞)を書いたもの100枚。 ②モ デルテープ 2種類のテープが用いられた.いずれも40試行のモデルの反応を録音したもので、
1本は規準反応(悪い印象の動詞を用いた文)の後に、 =フンフン"という強化が与えられてい る(代理強化群用)。他の1本は、モデルの反応は先のテープと同じであるが、どの反応にも強 化が与えられていない(非代理強化群用)。モデルは女子学生で、実験者は男子学生であった。
規準反応は、出現率が全試行の (Marston& Kanfer, 1963)で、 20試行のブロックごとに 同じ割合で出現している。
手続き 実験は小さな実験室で個別に行なわれた。被験者は、テーブルをはさんで実験者と向 い合ってすわり、次のような教示用カードを手渡された。
"これからしていただく実験は、学生がどのように文章を作るかを調べるものです。これから 何枚かのカードをお見せします。そのカードには、 2つの代名詞("わたしば'と"あなたば') と3つの動詞が書かれています。 2つの代名詞の1つと、 3つの動詞のうちの1つを選んで、
できるだけ短い文章を作ってください。"
被験者が読み終った頃をみはからって、実験に対する質問がないかどうかをたずね、実験中に は質問に答えないことを告げた。すべての被験者は、初めに強化を与えられないオペラント20試 行を行ない、その後、次の教示を与えられた。
"今度は、他の人が同じ実験を受けた時のテープを聞いてもらいます。"
モデルテープを聞いた後、すべての被験者は習得40試行を行なった。モデルの試行および習得 試行における強化の条件は、 Tablelのとおりである。たとえば、 DR+VR群の場合、モデル の試行では代理強化群用のテープを聞き、習得試行では、規準反応をすれば被験者白身が実際に 酎ヒされるO刺激カードは、モデルの試行中にも被験者に呈示されたo実験終了後、被験者が、
モデルを模倣する意図性をもっていたかどうかや、実験‑の興味、意識性などを調べるために、
Table2に示した7項目にわたる質問が行なわれた。
言語条件づけにおける直接強化と代理強化 Tablel 実 験 計 画
群 オペラント20試行 モデル40試行 習得40試行
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D R +V R 直接強化無 代理強化有 直接強化有
〝 代理強化無 〝 代理強化有 直接強化無 代理強化無 〝
Table2 実験後の質問項目
1.あなたは文章を作る時.どのようにして言葉を選びましたかo (全群) 2.チ‑プを聞いたことは、あなたが言葉を選ぶのに影響しましたか. (全群)
①はい ⑧いいえ (はいと答えた人に)
それはあなた㌢こどのように影響しましたか0
3.テープの中で"フンフン"と言っているの匠気がつきましたか。 (代理強化有群)
①ほい ⑧いいえ
4.テープでは、どんな時に"フンフン"と言ったと思いますか。 (代理強化有群) 5.チ‑プの被験者の答え方をまねようと努力しましたかO (全群)
①かなり努力した ⑧少し努力した ③努力しなかった
6.私があなたの答えに"フンフン"と言ったのに気がつきましたか。 (直接強化有群)
①ほい ②いいえ (ほいと答えた人に)
私はいつ"フンフン"と言ったと思いますか。
私が"フンフン"と言ったことが、あなたの答え方に影響しましたかo
①ほい (参いいえ
あなたはできるだけ多く"フンフン"と言われるように努力しましたか。
①かなり努力した ⑧少し努力した ③努力しなかった
7.この実験に参加する時 (全群)
①興味をもって参加した ⑧強制的だから、やむを得ず参加した (彰どちらでもない
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①興味がわいてきた ⑧はやく終りたいという気持が強かった
③どちらでもない 実験後
①このような実験には2度と参加したくない ②機会があれば、またやってみたい
@どちらでもない
結 果
直接酎ヒと代理強化 Table3は各群の平均規準反応数を20試行のブロックごとに示したも のである。まず、オペラント・ブロックについて2×2の分散分析を行なった。その結果、直接 強化の主効果、代理強化の主効果、および直接強化と代理強化の交互作用は、いずれもF(1/92)
<1となり有意ではなかった。それゆえ、各群は等質であるとみなされる。条件づけの測度は、
オペラント・ブロックから第3ブロックへの増加量とした Fig.1は、各群の平均増加量を図示
したものである。これらの値について、それぞれ有意性の検定を行なったところ、 DR+VR群
ではヂ (23)‑3.58、 DR群では≠ (23)‑4.50、 VR群ではJ (23)‑4.43でそれぞれ1%水準、 N
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R群ではJ(23)‑2.11で5%水準で有意であった。したがって、いずれの条件においても、実験 的処理は有効であったといえる。次に、直接強化と代理強化の効果を比較するため、これらの増 加量について2 × 2の分散分析を行なった。その結果、直接強化の主効果がF(1/92)‑4.84と なり5%水準で有意であった.しかし、代理強化の主効果(F<1)、および直接強化と代理強 化の交互作用(F‑l.78、 df‑l/92)はいずれも有意ではなかった。これらの結果は、直接強化 の効果の方が代理強化よりも大きいことを示唆している。
Table 3 各群の平均規準反応数 20試行ごとのブロック
1(オペラント)
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群
2 (習得)
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描 普
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DR+VR DR VR NR Fig. 1 各群の規準反応の平均増加量
意図性 モデルを模倣しようとする意図性と成績との関係を調べるために、実験後の質問、
‖テ‑プの被験者の答え方をまねようと努力しましたが'に対する答を分類した0 3つの選択肢 のうち、 =かなり努力しだ'と答えた者と、 "少し努力した日と答えた者を意図性ありとみなし、
"努力しなかっだ'と答えた者を意図性なしとみなした。意図性ありとみなされた被験者は、 D R+VR群で5名、 DR群で7名、 VR群で8名、 NR群で5名、合計25名であった Fig.2は、
意図性のある者とない者の成績を比較したものである。ブロックごとに両群の差をt検定したと
ころ、第2ブロックではt(94)‑3.57で1%水準、第3ブロックではt(94)‑2.30で5%水準
の有意差がみられた。これらの結果は、意図性のある者の方が成績がよいことを示している。随
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209伴性に関する意識性のあった被験者は、 NR群を除く3群をあわせて18名であった。これらの被 験者と残り54名の被験者との増加量の差は有意ではなかった(∫‑0.70、 〟‑70)。実験‑の興味
に関しても、成績との問に一定の関係はみられなかった。
1(オペラント) 2(習得) 3(習得) 20試行ごとのブロック
Fig. 2 模倣の意図性のある被験者とない被験者の平均規準反応数
考 察
本実験の主な結果は、 (1)直接強化の効果の方が代理強化の効果よりも大きかったこと、 (2)模倣 の意図性のある被験者の方が、意図性のない被験者よりも成績がよかったことである。
直接強化と代理強化の相対的な効果性に関する本実験の結果は、 Kanfer and Marston (1963) よりも、むしろPhillips (1968b)の実験結果を支持している Phillipsは2つの実験を行なって、
直接強化(DR)、代理強化(VR)、および非強化(NR)の条件を比較した。その結果、教示 の与え方や被験者の性の要因とは無関係に、直接強化が他の2条件よりもよかったのである。本 実験で、 DR+VR群を除く3群を比較してみると、 Phillips (1968b)と同様に、成績はDR群、
vR群、 NR群の順であり、 3群問には有意差がみられた(F‑3.54、 dj‑2/69、 F<.05)c こ こで問題となる点は、本実験では、いずれの条件においても、モデルの呈示が行なわれているこ とである。したがって、モデルの呈示を含まない直接強化(従来の言語条件づけ)と、強化を含 まないモデルの呈示(本実験でのNR)を比較してみる必要があろう。この点については、現在 検討中である。
DR+VR群については、直接強化と代理強化の両方の効果が加算的に作用すると考えられた が、その予想はあてはまらなかった Marstor and Kanfer (1963)およびPhillips (1968a)の 実験でも、代理強化に直接強化を付加した場合、成績は何ら向上していない。この点に関しては、
消去過程を設けた実験を行なって検討してみる必要があると思われる Bandura (1965)は、オ
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ペラント条件づけ(直接強化)がすでに確立された反応の統制に有効であり、また、モデリング は新しい反応の伝達に効果的であると述べている。それゆえ、 DR+VR群の成績は、消去期に おいて、最も長く維持される可能性がある。
ところで、本実験では、モデルの呈示が集中的に行なわれたが、 Kanfer and Marston(1963) やPhillips (1968b)の場合は、 1試行ごとにモデルと被験者が交互に反応している。このよう な呈示手続きのちがいも成績に反映すると考えられる。集中的に示された場合には、全体の流れ や規準反応の枠組への注意が向けられやすく、 1試行交互の場合には、 1つの反応自体に対して 注意が向けられやすくなるであろう。玉瀬(1973)および玉瀬と前田(1974)によれば、最も成 績を高めるための適度なまとまり(たとえば10試行ごとに交代する)があることが指摘されてい
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最後に、意図性に関しては、 Hamilton ら(1970)を支持する結果が得られたといえる。従来、
言語条件づけの研究では、意識性の問題にのみ議論が集中し、この問題についてはあまり検討さ れたことがなかった Dulany (1962)やSpielberger and DeNike (1966)のように、意識性の 中に意図性を含めて考えることもできるが、むしろ、意識性と意図性は独立に扱って、それぞれ が成績に影響する度合を追求すべきかもしれない。とくに、代理学習事態では、意識性よりも意 図性の研究の方がより重要であると考えられる。この点については、社会的行動の代理学習に関 する社会的学習理論(Bandura, 1969)でも、まだ十分検討されていないように思われるので、
今後のこの領域での研究が期待されるo
要 約
言語条件づけにおける直接強化と代理強化の効果を比較するために、女子大学生96名を用いて 実験が行なわれた。被験者は、直接強化および代理強化をそれぞれ与える場合と与えない場合を 組み合わせた4群のうちのいずれかに割り当てられたO課題はTaffel型で、カード上に、 2つ の代名詞と、印象価がことなる3つの動詞が書かれており、その中からそれぞれ1つずつを選ん で文章を作ることを求めたものであった。カードは全部で100枚あり、そのうち20枚はオペラン ト試行に、 40枚はモデルの試行に、そして残りの40枚は被験者の習得試行に用いられた。規準反 応は、悪い印象の動詞とされ、 =フンフン日 という強化が用いられたO モデルの反応はテープに ふきこまれており、全反応のうちの60%が規準反応であった.モデルテープは、規準反応に対し て強化(代理強化)を与えたものと与えないものが準備された。
実験の結果、条件づけはいずれの群でも成立しており、さらに、直接強化の効果の方が、代理 酎ヒの効果よりも大きいことが示された。この結果はPhillips (1968b)の実験結果を支持する
ものである。また、実験後の質問から、模倣の意図性のある被験者の成績は、意図性のない被験 者の成績よりもよいことが明らかにされた。
く付記〉本実験を行なうにあたり、本学学生山口正修君(現在京都市立吉祥院小学校)の協力 を得ました。記して厚く感謝の意を表します。
引 用 文 献
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