• 検索結果がありません。

博 士 ( 理 鞘 林 博 和

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博 士 ( 理 鞘 林 博 和"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

博 士 ( 理 鞘 林    博 和

学 位 論 文 題 名

濃厚 電 解質 溶液 の ガラ ス化 と動的 性質

  近年固体状態で高い導電性を示すイオン伝導性固体電解質の研究において、異方性を持 たず、取扱い易い非晶質電解質が注目されており、より優れた特性を持つ物質の探求が問 題となっている。これらの系の電気伝導の担体はイオンであるため、イオン周辺の分子の 運動状態及びイオンと周辺分子との相互作用が、導電性に大きく影響する。一般に温度が 高いほど伝導度は大きくなるが、特に高分子固体電解質では、分子運動が活発になるガラ ス転移温度以上の温度で高イオン伝導性を示す。

  一方、電解質溶液は固体電解質に比べて高い伝導性を示し、広く利用されている。溶液 は微視的には均一な混合物ではなく、溶媒分子のある特定の部分とイオンとの溶媒和相互 作用によって局所的な構造を有している。本論文では非水溶媒の電解質溶液である、硝酸 リチウム(LiN03)―1,3−ジアミノプ口バン(DAP)溶液を研究対象とした。1,3‑DAPは分子 の両端にアミノ基を持つ二座配位子で極性が大きく、イオン陸の物質を容易に溶かすこと ができる。また、Li+イオンは極性の大きな溶媒に強く溶媒和されることが知られている。

本系では、室温で塩の濃度が40モル%という高濃度の電解質溶液となる。その濃厚電解質 溶液の粘性は大きく、1、3−DAP分子の両端でLi+イオンに配位した構造のネットワーク形 成を示唆している。このような溶媒分子と溶質による自己集合性のネットワークを形成す る溶液は今までに例がなく、これを急冷することによって容易に形成される電解質濃度の 大きいガラスの性質は非常に興味深い。

  本論文では、まず示差走査熱量計(DSC)を用いた熱分析によって、各組成でのガラス転 移温度と、ガラス転移にともなう比熱の変化を測定した。硝酸リチウム15モル%以上の高 濃度溶液でガラス転移が確認された。ガラス転移温度は硝酸リチウム30モル%までは塩 濃度の増加とともに徐々に大きくなり、それ以上ではほぼ一定の値が得られた。比熱変化 の値が小さいことから、液体状態でネットワーク構造(中距離構造)が安定であることがわ かった。比熱変化の値は硝酸リチウム30モル%付近に極大値を持ち、ネットワーク形成に よる運動の遅化を示した。ガラス転移温度と結晶化温度の差は硝酸リチウム25及び40モ ル%付近で大きく、比較的安定なガラスとなることがわかった。

  磁場 勾配 下のNMRスピ ンエコ ー法 によって液体状態でのLi+イオンの拡散係数を測定 した。硝酸リチウム濃度の増加とともにLi+イオンの拡散係数は小さくなった。硝酸リチ ウム濃度の大きい溶液では拡散係数の温度依存性はアレニウス則で表されるが、低濃度溶 液ではアレニウス則からのずれが見られた。溶媒分子の拡散係数や電気伝導度の値と比較 することによってLi+イオンがネットワークの構成要素に含まれていることがわかった。ま たLi+イオンが電気伝導の主な担体であり、ネットワークの隙間部分にあると考えられる 硝酸イオンの易動度は小さいことがわかった。

(2)

  NMRによって7Li縦磁化の緩和挙動を測定した。縦磁化の緩和挙動は指数関数で表され、

緩和速度(緩和時間の逆数)が定義された。硝酸リチウム10モル%以下の低濃度溶液では 緩和速度の温度依存性はアレニウス則で表されるが、15モル%以上の溶液では緩和速度の 温度依存性に極大値が見られた。極大値は濃度が大きいほど高温側で見られた。硝酸リチ ウム25及び40モル%溶 液につい て3種類の 周波数で測 定を行い、結果を比較した。測定 周波数によって、緩和速度に極大値の見られる温度は異なっていた。これより求めた系の 運動の相関時間の概算値は、温度の低下とともに大きくなることがわかった。さらに、本 系と類似の系から溶媒和イオンの構造を推測し、運動を回転運動モデルで表して、Li+イオ ン位置での電場勾配値と回転運動の相関時間を導出した。電場勾配値は硝酸リチウム30モ ル%付近から濃度依存性が大きくなり、硝酸イオンの直接配位が示唆された。相関時間は 低温側と高温側でそれぞれ異なったパラメーターを持つアレニウス式で表された。活性化 エネルギーの濃度依存性は低温側ではほぼ一定、高温側では硝酸リチウム30モル%まで塩 濃度とともに増加したが、それ以上ではほぼ一定となった。

  硝酸リチウム40モル%溶液について、ガラス状態から液体状態にいたるまでの広い温度 範囲で、広い周波数における交流伝導度を測定した。ガラス及び過冷却液体状態では電気 伝導度値は極めて小さく、また周波数依存性を示すことから、イオンの運動が強く束縛さ れていることがわかった。交流伝導度の周波数依存性をべき乗則で表し、イオン伝導の相 関時間を導出した。ガラス転移温度以上の温度での直流伝導度とイオン伝導の相関時間は 共通の係 数を持つ 非アレニ ウス型のVTF式で表せる ことを示した。ガラス転移温度以下 で は と も に VTF式 か ら は ず れ 、 ア レ ニ ウ ス 則 で 表 さ れ る こ と が わ か っ た 。   硝酸リチ ウム25及び40モル%溶液及び純粋溶媒について、液体状態での中性子準弾性 散乱のスベクトル幅から溶媒分子の拡散係数を求めた。純粋溶媒の拡散係数が得られ、濃 厚溶液中の拡散係数はこの方法では測定できない程度に小さいことがわかった。また、中 性子弾性散乱強度をガラス状態を含んだ広い温度領域で測定し、溶媒分子の平均自乗変位 の大きさを見積った。低温のガラス状態では結晶固体と同様な振動運動的な挙動が見られ たが、ガラス転移温度よりもやや下の温度から、運動の空間的スケールが増大し、液体的 な性質が現れることがわかった。

  動的性質の活性化工ネルギーは硝酸リチウム30モル%以下では塩濃度とともに増加する が、それ以上では一定または、減少傾向にある。これはネットワーク構造が硝酸リチウム 30モル矚程度で変化するためと考えられる。このネットワークは、溶媒分子の配位によっ て配位数4のLi+イオン を全て橋架けしてっなぐことのできる硝酸リチウムと1,3‑DAPの 比 率 が1:2の 組 成 、 っ ま り 硝 酸 リ チ ウ ム33モ ル % 付 近 で 完 成 す る と 考 え ら れる 。   ガラス転移は液体が冷却して分子運動が緩慢になり、ついに凍結状態になるためにおこ ることが知られている。本論文では、二種類の実験の結果から分子運動を定量的に表わす 相関時間 を導出し た。これ らを比較 すると、NMR緩 和実験によって得られた溶媒和イオ ンの回転 相関時間 は、イオ ン伝導の 相関時間をVTF式で近似した外挿値に非常に近いこ とがわかった。このことから、本系はイオンの運動が周囲の分子に強く影響されるカップ リング系であり、電気伝導の担体であるイオンがガラスネットワーク中に含まれているこ とがわかる。

  最後に、これらを総合して、本系ではLi+イオンと1,3‑DAP分子によるネットワークが 形成されるために容易にガラス化すること、イオンが周囲の分子に強く束縛されたカップ リング系のガラスであるため、ガラス転移温度付近では電気伝導度が小さいことを明らか にした。

(3)

学位論文審査の要旨 主 査 教 授    中 村 義 男 副 査 教 授 井 川 駿 一 副 査 教 授 魚 崎 浩 平 副 査 教 授    日 夏 幸 雄

学 位 論 文 題 名

濃厚電解質溶液のガラス化と動的陸質

  容 易 に ガ ラ ス を 形 成 す る 液 体 に は 、 ケ イ 酸 塩 系 あ る い は 高 分 子 化 合 物 の よ う な共 有 結 合 性 の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 を と る も の が 多 い こ と 知 ら れ て い る 。 一 方 、 比 較 的 低 分 子 の 有 機 化 合 物 系 、 あ る い は 溶 融 塩 系 の い く つ か が ガ ラ ス 化 す る こ と が 、 注 目 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 イ オ ン 性 化 合 物 と 有 機 溶 媒 と の2成 分 系 で あ る 硝 酸 ル チ ウ ム ー1,3. ジ ア ミ ノ プ ロ バ ン (LiN03.1,3‑DAP) 系 が 、 容 易 に ガ ラ ス 化 す る こ と を 見 い 出 し 、 液 体 、 過 冷 却 液 体 、 ガ ラ ス の そ れ ぞ れ の 状 態 に お け る 、 イ オ ン と 溶 媒 分 子 の 動 的 性 質 を 調 べ て い る 。 溶 媒 和 し た イ オ ン を 含 む ガ ラ ス 形 成 系 は 、 水 溶 液 系 を 除 き ほ と ん ど 研 究 さ れ て い な い 。 こ の よ う な 新 し い タ イ プ の ガ ラ ス 形 成 液 体 系 の 性 質 を 明 か に し た 点 で 、 本 論 文 は 新 規 な 内 容 を 含 ん で い る 。

  論 文 は8章 か ら 成 っ て い る 。 第1章 で は 、 ガ ラ ス 形 成 液 体 系 の 一 般 的 な 性 質 と イ オ ン 伝 導 性 ガ ラ ス の 特 質 に つ い て 述 ベ 、 本 研 究 の 意 義 と 目 的 を 明 か に し て い る 。 第2 章 でiま 、 熱 分 析 (DSC) 法 に よ り 、 上 記 の 系 が 塩 濃 度15か ら40モ ル % ま で の 濃 度 範 囲 で ガ ラ ス 化 す る こ と を 示 し 、 ま た ガ ラ ス 転 移 点 で の 比 熱 の 変 化 量 を 測 定 て いる 。 第3章 で は 、 こ の 系 の 液 体 状 態 に つ い て 、 リ チ ウ ム イ オ ン の 拡 散 係 数 をNMRの ス ピ ン エ コ ー 法 を 用 い て 測 定 し た 結 果 に つ い て 報 告 し て い る 。 拡 散 係 数 は 塩 濃 度 と と も に 急 激 に 減 少 し た 。 リ チ ウ ム イ オ ン の 易 動 度 か ら 計 算 し た 電 気 伝 導 度 が 、 実 測 値 と よ く 一 致 す る こ と か ら 、 こ の 系 で は 電 気 伝 導 が 主 と し て し て り チ ウ ム イ オ ン に よ る こ と を 示 し て い る 。

  第4章 で は 、 液 体 お よ び 過 冷 却 液 体 状 態 で の り チ ウ ム イ オ ン (7 Li) のNMRの 縦 緩 和 速 度 を 、 組 成 と 温 度 の 関 数 と し て 測 定 し た 結 果 が 述 べ ら れ て い る 。 測 定 さ れ た 緩 和 緩 和 速 度 よ り 四 重 極 相 互 作 用 の 寄 与 を 分 離 し 、 イ オ ン の 周 り の 環 境 の 揺 動 運 動 を 溶 媒 和 イ オ ン の 回 転 プ ラ ウ ン 運 動 と し た と き の 、 運 動 の 相 関 時 間 と 核 の 位 置 で の 電 場 勾 配 の 組 成 依 存 性 を 算 出 し た 。 電 場 勾 配 は 、 塩 濃 度30モ ル % 付 近 か ら 急 激 に 濃 度 依 存 性 が 大 き く な り 、 硝 酸 イ オ ン の 直 接 配 位 が 示 唆 さ れ た 。 相 関 時 間 の 温 度 依 存 性 は 高 温 度 側 で 非Arrhenius型 のVogel ‑Tammann‑Fulcher(VTF) 式 で 表 さ れ た 。   第5章 で は 、 硝 酸 リ チ ウ ム40モ ル % 溶 液 に つ い て 、 ガ ラ ス か ら 液 体 状 態 に 至 る 広 い 温 度 範 囲 で の 交 流 伝 導 度 の 測 定 結 果 を 報 告 し て い る 。 ガ ラ ス お よ び 過 冷 却 液 体 で は 伝 導 度 の 値 は 小 さ く 、 周 波 数 依 存 性 が 大 き い 。 交 流 伝 導 度 の 周 波 数 依 存 性 を べ き 乗 則 で あ ら わ し 、 イ オ ン 伝 導 の 相 関 時 間 を 見 積 り 、 こ の 値 がVTF式 で 表 さ れ る こ と を 示 し た 。

    ―75 ‑―

(4)

  第6章では、硝酸リチウム25、40モル%溶液、および純溶媒にたぃする中性子 準弾性散乱の測定の結果を報告している。液体状態でのスベクトルの線幅から、溶 媒分子の拡散係数を求めた。塩濃度とともに拡散係数の値は急激に減少した。さら に中性子の弾性散乱強度から、溶媒分子の平均自乗変位の大きさを見積もった。低 温のガラス状態では、結晶固体と同様の振動運動的挙動が観測されたが、ガラス転 移温度よりやや下の温度から、平均自乗変位の値は大きく増加し、液体的な性質が 表われることが見い出された。

  第7章では、以上に挙げた、種々の実験から得られた結果を総合して議論してい る。すなわち、電気伝導度、拡散係数、NMR緩和の相関時間などの動的性質は、共通 のパラメータをもつ非Arrhenius型のVTF式で表されること、および電気伝導度と NMRの相関時間の温度、組成依存性の類似性もつことから、リチウムイオンが溶媒分 子と強く結合し、ネットワークを作っていることを結論している。このネットワー クはLiN03と1,3‑DAPの化学畳論組成が1:2(33モル%)で完成すると考えられ る。最 後に第8章では、これらの結果をまとめて、本LiN03‑1,3‑DAP系では、Li

+イオンが溶媒分子の両端で橋かけのネットワークを作り、イオンが強く束縛された カップリング系ガラスが形成されることを示し、この新しいタイプのガラス形成系 の特徴を明かにした。

    以上のように、林博和提出の学位論文は、新しいタイプのカップリング系ガ ラス形成液体のガラス化現象と動的性質について重要な知見をもたらしている。学 位論文の一部はすでに国際誌3報に掲載され、注目されている。よって審査委員一 同 は、 申 請者 が 博士 ( 理学 )を 受けるに十 分な資格を 有するもの と認める。

76―

参照

関連したドキュメント

重い電子系と呼ばれる希土類やアクチノイド元素を含む金属間化合物では、伝導電 子と局在 f

ⓓ  固体のときは電気伝導性がないが,融解したり水に溶解すると電気をよく通す 

   第 一 の成 果と して , マツ バノ タマ バェ 抵 抗性 遺伝 子と 連鎖 し た7 個のDNA マーカー

相互作用と原子移動の異力陸によりlx2

その 結果, 岩手大学では3Hz から 10Hz の周波数帯で 800m/s から 200m/s に滑らかに変化する Love 波の 位相速度を推定することができた.盛岡工業高校では, 1Hz

   第3 章では Hp‑Ch フイルムにおける光導電性の導電機構をポルフイリンの電子状態から詳し<調 ぺるため、 ESR

この基盤としてオベロン GA と呼ばれる新しい GA を設計している。その特徴は、(a) 表現型に対し冗長度の大きい遺伝子型、(b) 細菌の遺伝子調節機構に動機づけられた新し い遺 伝機 構、

ゲノム縮小株のスクリーニングによって特定した 36kb の染色体領域から、メ ナジオン耐性に関与する遺伝子として機能未知の aegA を同定した。 aegA