博士 (水 産学) 三木奈 都子
学 位 論 文 題 名
漁家における女性労働の存在形態に関する研究 学位論文内容の要旨
漁 家 にお いて既 婚女 性は漁 葉の生 産労備 と家 事と育 児とを 基本的 に担 い 、漁 家とし ての 経営・ 労鐓組 織と生 活組 捲の雑 持存続 に必須 の要素となっている。 しかしながら、海上作業には男性労髄カが不 可欠 で ある ことか ら、 漁業作 業はす なわち 海上 作業で あり漁 業は男 性産 業 とい う視点 が支 配的で あり、 漁家に おけ る女性 労働に 関する 研究に ついて も一部 の労髄 科学 研究等 以外でtまほとんど行われてこ なかっ た。
現 在 、女 性の漁 業へ の従事 は未婚 女性が 自ら 選択し て行う ことは まれ で 、既 婚女性 が家 族労働 カとし て期待 され た役割 のなか で行っ てい る ので あるが 、近 年の漁 家世帯 におけ る後 継者不 足と漁 業従事 者の 高 齢化 は、女 性に 求めら れてい る漁業 労働 や就葉 を大き く変貌 させて いる。
本警文では、 こうした漁業就業者を取り巻く状況における漁家女 性の 就 業を 規定す る諸 要因の 変化と 漁業労 蝕の 内容を 分析す ること によ っ て、 漁家女 性の 労缶の 存在形 愚を明 らか にする ことを 課題と してい る。
こ の よう な課題 に応 えるた めに、 諸調査 統計 の分析 の深化 を国り つつ 、 漁家 の女性 労館 の実慧 と内容 を捉え ると いう分 析視点 をとっ た。 こ れは 、漁業 労働 を海上 作業か ら陸上 作葉 まで連 続した ものと して 認 識し 、さら にこ の漁業 労働に 家事労 爾や 漁業外 就業を 含めた 漁家 の 労翻 全体の 中で の女性 労蝕を 捉える 必要 がある ためで ある。
第I章「漁家女性の漁業労責と就業状況」では、漁家女性の漁藁 従事と就肇状況の特徴・特質についてマクロ的に把握した。第1に 男性よりも陸上作葉にシフトした形で漁藁に従事する場合の多い女 性労爾におぃては、近年の男性労飴カの不足を要因として、緩慢で はあるが漁船漁禁への従事が進展していることを明らかにした。ま た、男女の漁業労飴時間の差は1日あたりの労爾時間ではなく、女 性の季節的な従事によるものであること、海上作藁を行うことによ って女性の漁禁経営への参酉状況が高まることなどを明らかにした 第2に、漁家女性の就葉状況を就業内容に沿って分類した後、年 齢階層的に女性の就業状況が2極化している状況を明らかにした。
また、自営漁業のあり方と地域労働市場の展開度合いが漁家女性の 就 業 を 規 定 づ け る 主 要 因 で あ る こ と も 検 証 し た 。 第H童の「漁家女性の就業状況を規定する要因と労働内容の実憩
」で1よ、海上作業従事、陸上作業従事、漁業外従事という就業状況 ごとに行った実感調査を通して、漁家女性の就薬状況を規定する要 因と労働内容について分析した。第1に、沿岸漁葉乗組員、夫婦操 藁、撃身操業とに分けられろ女性の海上作業従事は、漁場が近<労 働時間が短いという条件が前提になるが、沿岸漁業乗組員と夫婦操 葉では男性労蝕カの不足が女性の海上作葉従事を強く要請するもの となっていることを明らかにした。
第2に、漁貝準備・処理作業、水揚,選別作業、自家加工作業と に分けられる陸上作業は、一時的に大量の労働カを必要とし海上作 業に比べて時間的・技能的な従事の制限が小さぃために、家族労働 カが全面的に投入されるだけではなく、季節的に遊休労蝕力化して いる農漁家女性も雇用労館カとして吸収されていることを示した。
第3に、漁業外自営葉と雇用就業とに分けられ、かっ季節的な漁 業従事の兼葉として組み合わされる形態が一般的な漁業外従事は、
若年者の恒常的雇用就業化による漁業からの1脱と高齢者の消極的 な専業的漁業従事が進展するにっれて減少しつっあることを明らか ‑ 115ー
にした。また、若年女性の恒常的な雇用就葉は諸事情を介して積極 的になされる場台が多いが、漁家女性を低買金労黌者として存在せ し め 、 漁 家 の 漁 藁 的 性 格 を 弱 め て い る こ と を 示 し た 。 以上の検討から導かれる本研究の結警は、以下のとおりである。
第1に、男性よりも陸上作業にシフトした形で漁業に従事する場 合の多い女性労鷽においては、近年の男性労爾カの不足を要因とし て、緩慢ではあるが代替労巒カ的な漁船漁業への従事が進展してい る。
このような漁業従事は育児・家事の負担が小さくなり海上作業を 行い得る時間的条件を有する中高年女性を中心としている一方で、
若年女性においては労髄市場における年齢的な雇用条件の有利性か ら恒常的雇用就業化が進展しており、漁家女性の就業の年齢階層的 な2極分化傾向が顕著である。
第2に、女性の海上作藁従事の多くは選別作業や縄繰り作業とい った補助的労爾であるが、労磁力不足状況における複数人の海上作 業従事者を必要とすろ漁葉での女性の海上作業従事は、技能を蓄積 した漁業を雑持させ、少なくとも基幹的従事者である男性分の漁業 収入を失わないという消極的な経済有利性を選択したものである。
そのため、女性は海上作業における時間的・肉体的な制限範囲を若 干拡大して対応し、地域の海上作業従事に関する「女性禁忌」など を消滅させつっある。
第3に、陸上作業時間の長い漁業においては、陸上作業従事の必 要性が高く、また、海上作業に比べて時間的・技能的な制限が弱い ため、幅広い年齢の漁家女性が労働市場の展開度合いに大きく左右 されずに不可欠な労働カとして従事している。家族労働カが不足す る場合には、季節的に遊休労巒カ化する農漁家の女性労館カを吸収 する。しかしながら、兼葉従事を必要とする農漁家女性が減少して いることや漁家雇用は時間が不規貝lJで低賃金であることから漁家雇 用労翻カの不足傾向がみられ、陸上作葉が海上作葉を規定する可能 ―116ー
性も生じ始めている。
第4に、労貴カ不足が顕著で漁家の存続が危ぶまれる状況におい ては、中高年女性を中心とした漁業における女性労飴は欠かせない 労爾カとして海上作業・陸上作業における重要性が高まっているも のの、今後の動向を推瀾してみた場合には、若年女性において進展 している恒常的な雇用就糞化が漁家の漁業的性格を弱め、漁家にお ける女性労働を漁業補助的な労働から家計補助的な労働へと変化さ せつっある。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
廣吉 梨本 天下井 古林
学 位 論 文 題 名
勝治 勝昭 清 英一
漁家における女性労働の存 在形態に関する研究
漁 業 に お け る 女 性 労 働 の 問 題 は 、 従 来 、 労 働 科学 研 究 等に お い て触 れ ら れる ニ と は あ っ た が 、 漁 業 経 済 研 究 の 立 場 か ら は 、 ま た ジ ェ ンダ ー 研 究の 藍 ん な今 日 に おい て も 殆 ど 研 究 対 象 と き れ て は こ な か っ た 。 主 論 文 は 斯 界に お け るそ う し た従 来 研 究の 欠 落 部 分 を 補 完 す る 重 要 な 意 義 を 有 す る と 共 に 、 漁 業 の今 後 の 労働 カ を 規定 す る こと が 予 測 さ れ る 漁 家 女 性 の 就 業 実 態 を 分 析 し た 点 に お い て高 い 評 価を 付 与 しう る 研 究で あ る と 思 料 さ れ る 。
評 価 す ぺ き 主 論 文 の 論 点 は 以 下 の 通 り で あ る 。
第1に 、 漁 家 に お け る 女 性 就 業 の 実 態 を 、 特 殊 的 海 上 労 働 の 展 開 を 中 心 とし つ っ も 漁 業 陸 上 労 働 、 漁 業 外 労 働 、 及 び 諸 家 事 労 働 を 含 め、 そ の 特徴 と 変 化の 態 様 につ い て 全 体 的 、 マ ク ロ 的 に 把 握 し た こ と で あ る 。 一 方 で 漁業 技 術 の変 化 に 一定 程 度 裏打 ち さ れ 、 他 方 で 男 子 労 働 カ の 不 足 を 補 う 形 で 女 性 の 代 替的 な 漁 船漁 業 従 事が 彼 女 たち に 負 担 を 強 い つ つ 、 ま た 年 齢 階 層 的 分 化 と 地 域 労 働 市 場の 展 開 に規 定 さ れつ つ 確 実に 進 行 し て い く で あ ろ う こ と が 推 察 さ れ て い る 。
第2に 、 漁 家 女 性 が 漁 業 労 働 の 場 に 駆 り 出 さ れ て い く 仕 方 は 多 様 で あ る が、 海 上 労 働 の 場 合 、 一 定 の 肉 体 的 ・ 時 間 的 限 定 と 性 別 分 業 のも と で 男子 と 殆 ど同 様 の 従事 内 容 を 示 す こ と が 把 握 さ れ た 。 そ の 場 合 、 乗 組 員 ( 雇 われ ) と 自営 就 業 とで は 経 済的 意 義 が 異 な っ て い る 。 前 者 は 地 域 限 定 的 な が ら 社 会 化 され た 労 働と し て 認知 さ れ る展 開 が 認 め ら れ る の に 対 し 、 後 者 は 基 幹 的 従 事 者 で あ る 男子 の 漁 業収 入 を 維持 す る ため の そ れ と い う 消 極 的 意 義 が 認 め ら れ る に 過 ぎ な い 。 こ こに 、 補 助的 労 働 とし て の 漁家 女 性 の 限 界 的 な 問 題 性 、 克 服 課 題 が 集 中 的 に 現 れ て い る 。
第3に 、 陸 上 に お け る 漁 網 具 の 準 備 ・ 処 理 作 業 、 水 揚 げ ・ 選 別 作 業 、 自 家加 工 作 業 等 に お い て は 幅 広 い 年 齢 階 層 の 漁 家 女 性 が 家 内 労 働と し て 係わ っ て きた が 、 季節 的 、 不 規 則 的 、 兼 業 的 な 当 該 陸 上 漁 業 労 働 カ が 地 域 労 働市 場 の 展開 の な かで 確 保 困難 と な
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りつっある態様が示された。今日、陸上作業の存在は漁業生産過程そのものの規定的 要因と位置づけられており、漁家の陸上作業の外部化の必要が指摘されている。
第4に、漁家女性の漁業労働カとしての期待は海上労働にせよ陸上労働にせよ今後 とも強まらざるを得ないものと思われるが、家事・育児・老人介護労働を含めての負 担軽減措置など、産業的立場から女性労働支援のための政策的課題が反照されたこと である。今後は、男子労働カの補助的就業や漁村に滞留する中高年女性の片手間仕事 といった消極的内容にとどまることがない形で漁家女性の在り方を模索するのでなけ れぱ、自営漁業を展望しえないからである。
主論文は、女性労働の視点から漁業労働の現状と展望について、実査を中心として 多面的に検討したところに独創性と学問的価値が認められる。また、今後の学界に及 ぼす影響やテーマ設定の政策的意義も大きい。
以上により、申請者の研究成果は漁業経済の分野、及び女性漁業労働研究の分野に おいて学問的、かつ政策的貢献度が高いと評価された。よって、審査員一同は、三木 奈都子氏が博士(水産学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。