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建築設計の法律空間--民事法を中心として

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(1)建築設計の法律空間‑‑民事法を中心として 著者 著者別名 雑誌名 巻 号 ページ 発行年 URL. 大森 文彦 F. Omori 東洋法学 31 1・2 117‑175 1988‑01 http://id.nii.ac.jp/1060/00003563/. Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja.

(2) 次. 1ー民事法を中心としてー. 建築設計の法律空間. 目 設計業務概説. 一 序. 二. 調査・企画業務. 1 設計業務内容 e 総則 口. 設計業務委託契約の法的性質. 建築設計の特殊性. ㊧設計業務. 設計の法的空間. 2 四. 洋. 法. 学. i 契約責任 e 建築士の注意義務. 三. 東. 大 森 交 彦. 二七.

(3) 序. 建築設計の法律空聞. ③. ω. 法的間題と責任. 設計ディテ:ルと責任. 基本的条件と責任. O 契約責任の限界的諸間題. ③. 報酬講求権の存否. 注意義務の具体的内容. e概説. 2 不法行為責任 ⇔. 設計中の工事中止. 報酬額の約束ない場合. 建築士の資格のない者の設計又は建築士事務所登録をしていない者の設計. その他. 設計図書の一部欠落. 語. 3 設計終了後の工事中止. 結因㈲鱒㊧◎←. 二八. 間として機能してきており︑多くの建築家がよりよぎ住空間の創造を目指して活動してきたが︑我国においては. 間を創り出すという点に集約されることでは異論のないように思われる︒すなわち古来建築物は人問生活の住空. 建築設計の本質については建築学の中でも議論の多いところであるが︑大筋において人間生活のよりよい住空. 五.

(4) そうした活動が必ずしも社会的に十分認識されていたとは言えない︒ところが技術が高度に発展した今日︑人間. らしい生活追求の一環として︑人間の居住環境の質の向上が社会的にも叫ばれている︒こうした事態を迎え︑社. 会的にも建築家の活躍が今まで以上に期待されるところであるが︑さらに建築家自体も国民の生命を守る医師︑. 人権を守る法律家と対比した場合︑国民の住環境を守る担い手として過去の実績の上に今後のさらなる展開をし ていくべぎ社会 的 使 命 を 背 負 っ た と も い え よ う ︒. ところが︑西欧等の建築家とその社会的基盤において異なる我国の建築家にとって︑質の低下︑社会的役割︑. 専門の細分化等その今日抱える間題点は少なくない︒その中でもとくに︑建築家を取り巻く法律関係の不明確さ. は︑これら諸問題を一層不明瞭なものにしている︒又こうした法律関係を明らかにしてはじめてその地位が向上 するのである︒. そこで建築家は狭い国土を有効に利胴し︑よりよい国民生活を送るための良好な住環境を創り出すためにその. 中心的役割を果たす者として今後積極的に法的側面にも取り組んでいかなければならない︒こうした意味からも. 建築に関する法的解析は必要であり︑これなくしては国民の十分な住環境を守ることはできないともいえる︒. ところで建築家は建築士と必ずしも同義ではないが︑我国においてはある﹂定規模以上の建築物の設計をする. ためには建築士の資格を有しなければならないとされる以上︑建築家としての実践活動は建築士であることを要. 二九. することになる︒したがって建築家を取り巻く法律関係の分析は︑ほぼ建築士を取り巻く法律関係と考えてよ く︑本稿では以後建築士の問題として取り扱う︒. 東洋法学.

(5) 建築設計の法律空間. 一二〇. しかして建築士をとりまく法律関係には︑建築士が一番なじみの深い建築基準法や都市計画法等の行政法関. 係︑それに他の国民との関係での民事法関係︑さらには刑罰の対象となる刑事法関係等が考えられる︒このうち. 行政法関係においては様々な研究が発表されているが︑民事法関係︑刑事法関係は未だ研究は少なく︑今後両法 律関係を究明する必要がある︒. 民事法関係では︑建築士と建築主との関係︑建築主と施工者との関係︑及び建築士と第三者との関係が考えら. れる︒建築士と建築主との関係では︑設計又は監理業務を遂行したことに対する報酬請求権及び債務不履行の問. 題が中心的に生じる︒建築主と施工者との関係は︑現実の場面としては一番緊張関係にあるものの︑法的問題と. して間題になる場面はさほど多くない︒けだし︑建築士はあくまで建築主との契約関係に基づいて業務を遂行 ︵王︶ するものであって施工者との間に直接的な契約関係にはなく︑もっばら契約関係以外の法的関係が問題となるに. すぎないが︑実際上かかる関係では問題を生じることが少ないからである︒建築主と第三者との間では主として ︵2︶ 不法行為責任が 問 題 と な る ︒. 刑事法関係では︑これまでさほど問題になっていないが︑業務上過失致死傷罪︵例﹂︑詐欺罪︵嬰隔︶︑及び背任罪 ︵舗燈︶等が考えられる︒. こうした法律関係を今後順次研究していく予定ではあるが︑本稿ではとりあえず民事法関係︑それも設計を中. 心に考察する︒なお︑今後の研究のためにも︑これら法律関係の前提ともなるべぎ設計業務の内容等に必要な限 度で言及する︒.

(6) 監理者の場合︑施工者との間にも契約関係が生じるとする見解もある︒ 加藤木精一﹁民間建設工事の請負契約﹂二五頁︒. 著作権も問 題 に な ろ う ︒. 設計業務概説. ⇔. e. 監理業務ー通常業務及び追加業務. 設計業務ー通常業務及び追加業務. 調査・企画業務. 東洋法学. 工二. に区分される︒設計・監理業務の﹁通常業務﹂とは︑建築物の機能・安全・質を確保するために必要な業務を. ㊤. を大別すると. 建築士はこの設計を中心的業務とするが︑これにとどまらずより幅広く活動している︒そこで建築士の業務. 面︵現寸図その他これに類するものを除く︶及び仕様書をいうとされている︵謎鰹耐囎︶︒. その者の責任において設計図書を作成することをいい︑設計図書とは建築物の建築工事実施のために必要な図. て図面その他の方式で明示すること﹂とされている︵繍鮒灘瀕灘翻騨︶︒これに対し建築士法において設計とは︑. およそ一般的には設計とは﹁製作・工事などに当り︑工費・敷地・材料および構造上の諸点などの計画を立. 則. 設計業務内容. 二. (( 21 )). e総. 1. 注.

(7) 注. 建築設計の法律空間. 一二二. いい︑﹁追加業務﹂とは通常業務には含まれないもので︑委託者の求めに応じて行われる業務をいう︒又調査. ゆ︶︵2︶. 企画業務は︑後述のとおりのものであるが︑今日の社会情勢等から特に要請される業務であり︑設計業務の前 段階として必要な業務である︒. β本建築設計監理協会連合会﹁建築設計監理業務基準﹂及び日本建築士会連合会﹁設計・工事監理業務基準﹂参照︒. トの成果に多大な影響を及ぼすことから︑よりよい成果を得るため建築設計専門家としての設計者が企國の. 投資予算︑設計体制等を十分検討した上で当該建築の是非条件を決定づける点で企画の如何がプ構ジェク. 重視されてきたのが企画と呼ばれる段階である︒. ところで建設は建築主の一定の目的のもとに計画される︒しかして近来その目的達成のための手段として. なる業務である︒. ︵1︶. て︑この調査・企画としての業務は設計に伴って一定の度合によって調査・企画すべき業務の範囲や量が異. その設計の前提となる設計条件を委託者に代って確定するために必要な︑調査・企画業務をいう︒したがっ. 調査・企画業務とは︑委託者が設計者に対して本来提示すべき基本的な設計条件が確定していない時に︑. 調査・企画業務. 建築士法では一八条と一二条に規定される業務が中心的業務とされる︒. (( 21 )) ⇔.

(8) プ・セスに参画していくことが近年増えている︒. こうした企画・調査業務は︑純粋な意味での設計業務には含まれないが︑建築士として業務の委任を受け. た以上そこには法律関係が生じることが予想される︒しかしこの点の検討は今後の研究を待つこととし︑と. りあえず本稿では建築主の意図する企画の実施が決定され︑設計の前提となる基本的条件が確立した段階で の問題をとりあげる︒. 定. 義. 設計業務. 注︵1︶ 藏本建築設計監理協会連合会﹁建築設計監理業務基準﹂︒. ㊧ ︶ 1 ︵. 設計業務とは︑委託者の意図する企画の実施が決定され設計の前提となる基本的条件が確定した時︑設計. 者が委託者の委託を受け︑委託者の要求する建築の機能と空間を実現するために行われる基本設計及び実施 ︵1︶ 設計の業務をいう︒. ︶ 基本設計. 基本設計とは︑設計者が委託者と協議の上︑委託者の企画及び意図を充分に理解して︑基本構想をまと. 二一三. め︑その基本構想に基づいて建築物の全体像を具体的な空間構成として委託者に伝達しうる設計図書及び. 東洋法学.

(9) 建築設計の法律空間. 工事概算書を作成する業務をいう︒. 一二四. 必要に応じては︑計画の内容︑意匠︑設備︑総予算︑全日程の概要についての計画説明書を作成する︒. 基本設計は︑設計業務が次の実施設計の段階に移行する前段階の作業であるが︑実施設計に移行した時に. 各技術分野の業務が支障なく進められるよう︑主要な寸法︑おさまり︑材料等の空問と機能のあり方に︑ ︵2︶ 大きな影響を与える主要項目について基本方針と解決策を提示しうるものでなければならない︒. 基本設計の業務は﹁建築﹂﹁構造﹂﹁設備﹂の三つに区分され︑さらに設備は﹁電気設備﹂﹁給排水衛生設. 備﹂﹁空調設備﹂の三つに区分される︒﹁建築﹂の業務は︑建築物の空間構成を計画するほか︑各専門分野. の検討の結果に基づぎこれを総合的にまとめあげる業務であり︑﹁構造﹂及び﹁設備﹂の各業務は各専門技. 術分野において主要な検討を行う業務である︒すなわち﹁建築﹂﹁構造﹂﹁設備﹂は互いに独立した別個の ︵3︶ 業務ではなく︑﹁建築﹂を核とした一体的な業務である︒. ところで設計は本来建築物の完成を目的とするものであって︑設計それ自体にさほど意味があるもので. はない︒とするならば︑直接施工を可能とする実施設計の重要性は疑いのない事実ではあるが︑だからと いって前述の基本設計が重要性をもたない訳ではない︒. 実施設計は施工直前の段階ではあるが︑それはあくまで基本設計に基づいてなされるものであり︑建築. 主の意図及び設計者の理念の反映はすでに基本設計の段階でかなりの程度具体化されているのである︒そ. れゆえ︑基本設計は建築物を完成させる為に必要不可欠かつ非常に重大な意味をもつと考えなければなら.

(10) 注. ︵1︶. ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶. ない︒. ︵4﹀. そしてなるほど基本設計は実施設計と併行して行われることはあるとしても︑前者は建築主のための説. 明︑後者は施工者のための説明とも考えられ︑両設計のもつ意味が異なる以上︑両者は別個独立の業務と 考えるべきであろう︒. 実施設計. 実施設計とは︑前記基本設計が建築主に承認された後︑これに基づいて工事の実施に必要であり︑又工 ︵5︶ 事施工者が工事費内訳萌細書をつくるために必要で十分な設計図書を作成する業務をいう︒. ところで実施設計の業務も基本設計同様﹁建築﹂﹁構造﹂﹁設備﹂の三つに区分される︒. このうち︑﹁建築﹂の業務とは︑基本設計に基づいて構造躯体工事及び設備工事を除く全ての建築工事. の実施に必要で︑又工事施工者がその部分の工事費内訳明細書を作るために必要で十分に設計図書を作成 ︵6︶. する業務であり︑﹁構造﹂﹁設備﹂は﹁建築﹂と同様各関係工事の実施及び工事費内訳明細書の作成に必要 な設計図書作成の業務である︒. 新建築学大系﹁建築設計﹂二三九頁︑二四二頁︒. 東洋法学. 一二五. 建設省住宅局建築指導課監修﹁建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのでぎる報酬の基準と解説し︒. 前掲﹁建築設計監理業務基準﹂︒. 前掲﹁建築設計監理業務基準﹂︒. (3).

(11) 65. 建築設計の法律空聞 前掲﹁建築設計監理業務基準﹂︒. ウ. イ. 建設業 者 設 計 部 門. 民間会 社 営 繕 部 門. 官公庁営繕部門. とはやむを得ないところである︒. 二一六. らの差異がそれぞれの建築士の法的空間︵たとえば報酬請求権︶に何らかの差異を生じさせる可能性があるこ. が存在するが︑それぞれがその存在理由に従って異なった理念と体制をもって設計に当たっている以上︑これ. 工. ア 建築設計事務所. 属さない設計業務を専業とする独立の組織が存在する︒現在設計する者としては︑. ところで建築の設計者は︑多くの工業製品等の場合と異なり︑生産者サイドの他使用者サイドやいずれにも. ならない︒. 考察していく上においては︑これに加えてさらに建築設計の有する特殊性について検討を加えていかなければ. これまで建築士の設計業務につき基本的なところを紹介してきたが︑実際上設計業務にまつわる法律関係を. 建築設計の特殊性. 前掲﹁建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準と解説﹂︒. (( )). 2.

(12) しかし︑やはり建築設計の法的環境を検討するに当たっては︑建築設計事務所を中心とすることが便宜であ. ると考えられるので︑本稿では以後生産者サイドや使用者サイドいずれにも属さない建築事務所を念頭におい て稿を進める こ と と す る ︒. 思うに建築物はその内に居住し︑あるいはその内で何らかの活動をする人々の﹁器﹂の役割を果たすと同 ︵三︶. 時に︑既存の周辺環境の中に建築されることにより一体となって新しい市街地環境や景観を造り出す社会的な. 存在でもある︒すなわち建築物は︑当の建築の直接の建設動機に基づく目的だけでなく︑社会的存在としての ︵2︶ 役割が同時に問われることになるのである︒又建築物を設計する際には︑構造・材料・設備・環境工学・防災. 等への考慮がなされなければならないばかりか︑一個の建築に関与する人々の異なる要求をまとめあげなけれ. ばならない︒かように︑建築における設計は当該建築物に要求される多様な要求を総合調整するところにその ︵3︶ 特色があるといえる︒. しかして︑総合調整するためには︑それぞれの要求を設計者なりに評価しなければならず︑さらに総合調整. の方法にも無限の可能性があり︑そこには設計者の価値観・思想が入り込み︑その結果として設計者の創造性. が発揮される︒だとするならぽ︑建築設計とは︑結局のところ設計者の創作活動と言うこともできる︒. しかし︑建築設計は︑ごく特殊な場合を除き建築を依頼されてはじめてなされるものであり︑その意昧にお ︵4︶ いてどのような形であれ︑建築を依頼した者︑すなわち建築主の意向を考えずに設計がなされることはない︒. 一二七. 建築主はある建物を建築しようとする場合︑必ず何らかの目的を有しており︑何の目的もなしに建物を建築す. 東洋法学.

(13) 建築設計の 法 律 空 間. 一二八. ることはありえない︒それゆえ︑設計をはじめるに当っては︑建築主の意図がその前提条件とならなければな らないことに注意する必要がある︒. ところが建築主は前述のような総合調整能力︑創造性を有しない︒それゆえ建築主は目的達成のためにかか. る能力︑創造性を有する設計者に依頼するのであって︑建築主は︑建築設計における総合調整能力や創造性を. 信頼して設計を設計者に依頼するのである︒言いかえれば︑建築主は自己の有する意図の実現を︑設計者の価 値観や思想に委ねているとも言えよう︒. もっとも︑建築主は目的達成のための基本的条件を建築士に示す必要があるが︑今日ではかかる諸条件の決. 定作業にまで建築士が参画していることが多いこと前述のとおりである︒しかしこの基本的条件決定作業は︑. 一応純粋な設計業務とは区別して考え︑建築設計業務という範疇からは除いて考察することが便宜である︒こ. の点︑日本建築設計監理協会連合会﹁建築設計監理業務基準﹂で﹁設計業務﹂を前述一︑3のように定義して いるのも︑この趣旨を踏まえてのことと考えられる︒. しかし現実には︑基本的条件を踏まえた上でもなお建築主の意図が明確にならない場合は少なくなく︑さら. に建築主の意図をより明確にすべく建築主と密に連絡をとり相互に打合せをしながら設計作業を進めていくこ. とが多い︒こうした観点からすると︑建築主が設計者に建築設計を依頼し︑その結果出来上った設計図書とい うものは︑建築主と設計者との協同作品といえないこともない︒. かように建築設計は︑建築主の目的実現の為に設計者の才能を信頼して業務の依頼がなされ︑設計者は建築.

(14) ︵5×6︶. 主の目的実現に寄与するという特殊性を有するものなのである︒ 真︑﹁建築士﹂一九八五・六月号︒. 前掲﹁建築計画﹂八頁︒. 立石. 前掲﹁建築計画﹂八〜九頁参照︒. 注︵i︶ ︵2︶. に契約以前にその内容を確認してもらい︑それに対して契約をなすという性質のものではなく︑その創作活動に対する発注. ﹁建築の設計﹂彰国社四〇四頁では﹁設計業務というものは創作活動であって︑一般の商品のようにすでに発注主︵建築主︶. ︵4︶ 前 掲 ﹁ 建 築 概 論 ﹂ 七 頁 参 照 ︒. ︵3︶. ︵5︶. 者︵建築主︶の意図するものの組織だて︑建築の効力と価値の実現の可能性に対する信用に対し発注が行われるといケ特殊. なお︑現在標準設計やコソピユーターデザイソの利用等も進んでおり︑本稿における建築設計の特殊性のとらえ方につき. 性をもつものなのである⁝﹂とする︒. 必ずしも疑問なしとは言えないが︑本稿の狙いが建築学と法学の融和の出発点という点にあることもふ玄え︑とりあえず本. ︵6︶. 設計業務委託契約の法的性質. 稿で述べた立場をとっているという点に注意して欲しい︒と同時に今後の研究課題として留保しておく︒. 三. 建築士の業務は必ずしも設計業務ばかりでなく多様性のあること前述のとおりであるが︑建築主との間でかわす契. 約のうち設計業務以外の業務についての法的性質は概ね委任契約と考えられており︑特に問題となるのは設計業務に ついてである︒. 二一九. 設計業務委託契約︵以下単に設計契約という︶の法的性質については︑請負契約か委任契約か争いあるところであ. 東洋法学.

(15) 建築設計の 法 律 空 間. 一三〇. る︒設計契約がどちらの性格を有するかにょりその法律効果には差異を生じる︒たとえば請負では有償だが︑委任は原. 則として無償である︒又請負は仕事の完成を目的とするが︑委任は必ずしも完成を目的としない︒したがって請負は. 仕事を完成させない限りそれまでに要した費用を請求でぎないが︑委任はそうではない︒さらに完成したものに毅疵 がある場合︑請負では無過失責任を負うが︑委任は過失責任を負うにとどまる等である︒ ︵1︶. 一般的には設計契約は請負契約であるとする説が多いようである︒その根拠とするところは︑設計図書の完成を目. 的とするという点にある︒しかし︑この説は設計図書の﹁完成﹂という点にあまりにも引っ張られてはいないだろう か︒なるほど最終的には設計図書が完成されるであろう︒. しかし︑設計図書というものは︑設計者が建築主と打合せしながら建築主の意図を把握し︑みずからの創造性等の ︵2︶ 能力を発揮した結果出来上った設計者の頭の中の構想を建築主に伝達する一手段にすぎない︒. たとえば設計図書の完成後︑建築主が満足しない場合も生じる︒これは設計者が建築主の意図を把握した上で業務を ︵3︶. 遂行したと信じた結果を建築主に伝達した場合に︑建築主側では未だその意図通りに出来ていないと判断している場. 合である︒なるほど建築設計の最大の眼目は建築主の意図実現にある︒しかし建築主の意図といっても必ずしも契約. 当初から設計者に対し明確な形で示すことには困難を伴うし︑現実的にも漢然とした形で示されることが多い︒又︑. もともと設計の専門家でない建築主がその意図を図面等で明確に示せる筈もない︒もし図面化できるのであれば︑も. はや設計者は不安であろう︒したがって︑設計者と建築主の打合せ過程においても一〇〇パ!セント建築主の意図を 把握しぎることには困難が伴う︒特に意匠面において多く生ずる︒.

(16) そうだとするならば︑建築主の意図という意味も︑厳格な意味で建築主の内心の意図という意味に解すべきではな. く︑設計プ・セスを含めた全体的考察の下で客観的に判断される建築主の意図と解すべきである︒しかして設計者が. かように判断される建築主の意図実現に向かって業務を遂行したと評価できる場合には︑少なくとも建築主との契約. の趣旨に沿って自己の才能を発揮して建築主の為に助力してきたという事実を法的に捨象してしまうことは妥当でな. い︒建築主にとっても︑設計者の才能を信頼して自己の目的実現への寄与を依頼した以上︑やむを得ない︒. それゆえたとえ設計図書完成後建築主が満足しない場合でも設計者が設計プpセスを含めた全体的考察の下で客観. 的に判断される建築主の意図実現に向かって業務を遂行したと評価できる場合には何ら契約の趣旨に反する点はない と解すべぎである︒. かように︑設計契約においては設計図書が設計作業の最終段階であり︑設計者の構想伝達手段として意味をもつも. のの︑それ自体が契約の法的性質を決するほどの重要な価値をもつものでなく︑あくまで設計者は建築主から依頼さ. れた段階から設計図書完成までの間建築主の目的実現に寄与すべく継続的な業務の遂行を依頼されているとみる方が 正当 で あ る と 解 す る ︒. 又︑たとえば仕事途中で建築士の責に帰すべからざる事由により設計が中止となった場合︑建築士には報酬請求権. がないとして損害賠償請求権の問題とするより︑業務遂行の割合に応じた報酬を請求でぎると解する方が妥当であ. 二一=. る︒けだし設計プpセス自体に応じた評価を与える方が建築主の目的実現に向けて設計者の才能を信頼して業務を依 頼をするという建築設計の特殊性に合致するからである︒. 東洋法学.

(17) 建築設計の法律空間. 二二二. さらに設計結果に鍛疵があった場合︑設計者がその過失の有無を問わず責任を負わされるとするより︑専門家とし ての注意義務を果たさなかった場合にのみその責任を負うとすることの方が妥当である︒. 思うに設計者には法的資格が必要とされているが︑それは建築設計に関する必要最低限の知識を有することの証し. である︒すなわち建物の性格上技術的レベルの確保ばかりか︑前述のように公共の利益をも担う役割をも期待されて. いる︒したがって建築士は設計業務により報酬を得るものではあるが公共性をも有する以上︑請負業者等と同一レベ ルで論じることは妥当ではないのではないか︒. むしろ建築士は︑一般人以上に専門家としての高度の注意義務を課されており︑かかる注意義務を果たすことが期 待され︑又その義務を果たせば足りると言えないだろうか︒. 以上より︑設計契約においては建築主が設計者の才能を信頼して建築主の目的実現に向けての業務を委託すること. ︵5︶. ︵6︶. にまさしく重点があり︑かつその法的効果も委任と解する方が建築士の地位︑役割に照らして妥当であることを考え ︵4︶ るならば︑設計契約はまさしく委任契約︑正確には準委任契約と解すべぎである︒. なお︑判例上請負契約とするものも存するが︑委任と解するものもあり︑必ずしも明確ではない︒. 因みに旧社団法人旨本建築家協会︵現在新日本建築家協会︶や社団法人日本建築士連合会では︑設計契約を委任契 約と考えているようであるが︑これは設計の実体をよく反映した性質づけであると考える︒. ところが︑この問題をさらに困難にしているのが官庁工事における報酬額による競争入札制度である︒官庁が競争. 入札制度を採用していることを設計契約が請負契約であることの理由に挙げる考え方もありうる︒しかし︑そもそも.

(18) 競争入札はダンピング等の弊害を生じ公的性質をも有する建築士選定としては妥当でないと解したい︒又仮に競争入. 札が選定の恣意性を排除する等の理由から肯定せざるを得ないとしても︑単に競争入札をもって設計契約を請負契約. と解する必然性はない︒官庁としては︑全ての建築士が国で要求する以上の能力を有していることを認めざるを得な. い︒だとするならば数ある受任候補者を公平に選定する方法として競争入札を採用したとしても︑それが設計契約の. 二二二頁・安藤一郎NBL酌一二五﹁建築設計監理契約の法的性 五五頁以下︒. 同. 新建築学大系﹁建築計画﹂一六〇頁では︑﹁それ︵設計︶はある思想に基づく意図を形成することを意味し︑思想が言語を. 質と建築家の責任﹂・福田晴政﹁建築知識﹂漁二七二. 松山雅昭﹁建築の法律相談﹂一二六頁・閉石三郎. 委任としての性質に何ら影響を与えるものではないと考える︒. 浜︵1︶. ︵2︶. 計にも何らかの道具が必要であろう︒先にも触れたように設計は図面と密接な関係にあり︑設計の意図は図面によって表現. 媒体として形成されるように︑設計も何かの媒体を通して行われることになる︒つまり言語が思想を語る道具とすれば︑設 されるものと考えられている︒﹂と述べている︒. 後述報酬請 求 権 の 存 否 の 項 参 照 ︒. 43. 東京地判昭和五〇年四月二四日判時七九六号六三頁・大阪地判昭和五六年一月二九日判タ四五号一四三頁︒. 委任とみるべきであろう﹂としている︒. いがクライアントが特定の仕事の完成を求めるというよりは建築家の判断に任せてある仕事を依頼している場合︑むしろ︑. 滝井繁男﹁日経アーキテクチュア﹂一九八二年七月一九日号二二九頁では﹁最近は設計監理契約を請負とみる考え方が強. (( )). 65. 東 洋 法. 学. コ⁝二. 横浜地判昭和三八年八月二九日下民集一四巻八号一六六九頁・東京高判昭和五九年一二月二日判時コ四〇号八一頁︒. (( )).

(19) 四. 建築設計の 法 律 空 間. 設計の法的空間. ニニ四. 設計の民事法関係につぎ︑設計者の権利・義務という観点から︑権利としての報酬請求権︑義務違反としての契約. 契約責任. 責任及び不法行為責任をとりあげて検討する︒. 1 e 建築士の注意義務. 設計契約を委任契約と解する以上︑設計者には善管注意義務がある︵囎磁勧︶︒したがって設計者は善良なる管. 理者としての注意義務が課せられているが︑それは建築士としてはその専門性から高度な注意義務を意味しよ ︵1︶ う︒もっとも高度な注意義務といっても一律に決しうるものではなく︑結局は判例の蓄積に待つところ大である︒. 概. 説. 基本的条件と責任. 契約責任の 限 界 的 諸 問 題. 問の進歩や研究の進歩にともなって注意義務の専門的高度化は不断に進行する︒﹂としている︒. 注ω 中川高男﹁契約法大系N﹂二七〇頁では︑﹁委任事務の各分野における高度の職業的分化や各種無名契約の鐵現と競争︑学. ㊧. ω oり. 設計は建築主から示された設計契約上の基本的条件の範囲内で行われなければならない︒基本的条件に. 反した設計は債務不履行と評価されても止むを得ない︒しかし︑建築主から示される基本的条件といって.

(20) も必ずしも明確な形で示されない場合も多く︑かかる場合にはまさしく設計者の責任の限界が問題となろ う︒以下判例上表われた問題について検討する︒. ω 予 算. ①建築工事に当っては︑工事予算額は非常に重要な要素である︒たとえば︑ある土地にマソシ望ンを建. 設しようとする場合︑マンシ銀ソの建設費がどの位になるか︑そのための資金を金融機関から借り入れ. た場合︑金利はどの位になるか︑建築後の収入と比較検討した場合建設するメリットがあるか等収支計. 算をした上で建設計画を立てるのが普通である︒すなわち建築主がある建物を建築しようとする場合︑. 費周について考慮することなしに計画をすることはほとんどありえないであろう︒かように工事予算額. というものは︑建築主にとって重要な関心事であり︑そうである以上建築主が設計を委託する際に工事. 予算額を提示した場合には︑設計者は原則として予算額を超過しない設計をする義務があるというべぎ. である︒すなわち建築主は工事予算額の範囲内で設計者の才能を信頼したものと考えうる︒. このことからすると︑一般的には工事予算額を超える設計は設計契約の趣旨に反しそれ自体債務不履 行と評価されるといわなければならない︒. もっとも︑建設工事はあらゆる分野の素材や製品を有機的に組み立てていくものであって︑素材や製. 品の価格はメーカーや購入時期によっても異なるし︑又施工者の技術力や管理方法にょってもトータル. 一三五. の工事費に差異が生じる︒したがって設計者が見積りをする場合には︑自己の経験を加味しながら︑適. 東洋法学.

(21) 建築設計の法律空間. 一三六. 当と思われる価格ならびに施工方法を仮定して見積りせざるを得ない︒とくに基本設計段階での見積り. はあくまで概算でしかない︒かように︑設計者がはじき出す工事費想定額というものは︑あくまで設計 ︵1︶. 段階における金額であって︑必ずしもそのまま施工者が決定した施工段階での工事請負金額となる訳で はない︒. そうだとするならば︑なるほど建築主の提示する工事予算額が建築主にとって重要なものであるにし. ても︑実際の工事請負金額が一円でも工事予算額をオねハ⁝する場合には即債務不履行とすることには. 無理がある︒もっともこれはあく蓑で工事請負金額との問の間題であって︑建築主の提示する工事予算. 額と設計者の見積る工事見積り額との問の問題ではないことに注意する必要がある︒すなわち設計者は. 建築主の提示する工事予算額に見合う設計を依頼されているのであって︑設計者が自ら妥当と考える価. 格や工法を選択しておきながら︑工事予算額を超える設計をするということは矛盾を言わなければなら. ない︒設計者は予算額の範囲内の設計をする十分な能力を有している筈である︒. しかし︑工事予算額を提示した時期と設計者が見積りした時期との間の期間的なズレや技術開発にも. 注意する必要がある︒すなわち素材や製品コストは購入時期や技術開発にょり変化するものであり︑し たがって工事費は時間・技術等に応じて変化するものである︒. 又︑実際上設計者の見積り額は工事予算額をオーバ⁝することはよくあるが︑その原因は︑設計者の. 力不足ではなく︑むしろ建築主が工事予算に比べて過大な要求をしたことにあることが多い︒建築主が.

(22) 工事予算に比べ過大な要求をする場合︑設計者としては勿論かかる要求をとり入れた場合工事予算額を. オ;パーする可能性があることを示唆する義務があるが︑現実には建築主に押し切られることが多く︑ あまり杓子定規に考えられる分野ではない︒. かように考えてくると︑設計者の見積り額も時問や技術開発の他建築主の要求との関連において考慮. しなければならず︑そうだとすると設計者の見積り額が建築主の提示する予算額を少しでもオ孔ハーし た場合には債務不履行と評価することは設計者にと?て酷ではないか︒. それゆえ︑問題はどの程度の予算額超過なら設計契約の義務履行として評価できるかということにな. らざるを得ないが︑この間題については明確な基準を用意することに非常な困難を伴う︒ ︵2︶. 一般的に言えば二〜三割程度の超過なら許されると解されないか︒もっともこれに個別具体的事案に 即した事情を加味しなければならない場面も生じてくるであろう︒. 岩下秀男﹁日経アーキテクチュア﹂一九七八年四月一七日号二二五頁は︑﹁設計者の建設コストに関する責任とは︑少なく. とも積算すること自体にはないということであり︑平たくいえば︑もっとも蓋然性の高い︑発注可能価格︵請負価格︶を推. 注︵1︶. 測することだといってよいであろう︒⁝⁝︵中略︶⁝⁝設計者に求められているものは︑請負価格に反映する設計仕様の選. =二七. たとえば建築主の要求する仕様が明らかに予算額をオ⁝バーする場合には︑予算額に関する建築主の真意は仕様にょり算. 択を︑コスト情報に基づいて常に正確にコント・ールすることにある︒﹂としている︒. 出されるところの金額であるとも考えることが可能ではないだろうか︒. ︵2︶. ︵1︶︵2﹀. ②参考となる判例があるので︑少し長くなるが紹介する︒. 東洋法学.

(23) 建築設計の法律空間. 千葉地裁佐原支判昭和四七・二・八︵判時六七九号五七頁︶ ︹認定事実︺. 一三八. 被告は昭和四三年夏にゴルフとモーターボートのクラブハゥスを兼用する建物を建築しようと企て︑. J銀行にその建築資金として一五〇〇万円の融資方を申込むとともに︑N工務店に工事費一五〇〇万円. の範囲内でクラブハウスの見積りを依頼した︒N工務店は同年九月か一〇月ころ工事費を一六〇〇万円. とする見積書を作製し︑これに約五〇枚の設計図面などを添付してこれを被告に交付したが︑被告は同. 年末J銀行から融資を得られないことになった︒そこで︑被告は昭和四四年一月か二月ころ丁銀行に一︑. 五〇〇万円の融資方を申込んだ︒同支店長が原告を被告に紹介したので︑被告はN工務店と比べて有利. な方に建築工事を請負わせるつもりで︑同年二月中旬原告に本件建物の主体工事の見積りを依頼し︑ど. んな形でもよいから二〇〇名収容できるものを工事費一五〇〇万円の範囲内で見積るように注文し︑N. 工務店の作製した平面図などを参考資料として原告に交付した︒原告は二月から三月にかけて建築現場. を測量し︑冷暖房工事業者︑鉄骨工事業者などと打合わせをし︑被告の代表者らと数回打合わせを重ね. て︑みずから本件建物をデザインし︑案内図︑配置図噛姿図︑基礎伏図︑断面図︑背面図︑側面図︑一︑. 二階平面図︑一︑二階伏図︑屋根伏図︑小屋伏図︑軸組図︑断面リスト︑断面詳細図︑屋根面架構詳細. 図︑一︑二階平面図︑一︑二階電気工事図面を作成し︑構造強度計算書を作製してこれらを総合し︑仮. 設工事︑基礎とコンクリート工事︑木工事︑鉄筋工事︑屋根工事︑金物工事︑左官工事︑アルミ建具工.

(24) 事︑木製建具︑硝子工事︑塗装工事︑雑工事の各費用と運搬費︑諸経費の合計を二二八○万二五〇〇円. とし︑電気工事︑給排水衛生工事の各費用と厨房器具費の合計を四七四万二三二〇円とする総合計二七. 五四万四八二〇円の見積書を作製したうえ︑同年三月二七日これらの図面︑構造強度計算書︑見積書を. 被告に交付した︒被告はその見積額が予算額を大幅に超過していたので︑同日原告に対しその見積りに. 従って本件建物の建築工事を原告に請負わせることはできないと回答した︒原告は同月二九臼ころ被告. と折衝して︑前者の二二八○万二五〇〇円を二〇〇〇万円に︑後者の四七四万二三二〇円を四五〇万円. にそれぞれ減額するから建築工事を請負わせて貰いたいと申入れたが︑被告はこれを承諾しなかった︒ ︹裁判所の判断︺. 右事実を前提に︑裁判所は次のように判断した︒被告がN工務店にクラブハウスの見積りを依頼し︑. 同店から見積書とこれに添付された多数の設計図面を受取っていること︑被告が原告に二〇〇名収容可. 能のものであればどんな形のものでもよいから工事費一五〇〇万円の範囲内で本件建物主体工事の見積. りをするように依頼したこと︑そのような見積りをするのには経験則上詳細な設計図を作製することが. 必要であると考えられること︑原告がその範囲内で見積りをすれば被告がその見積りに従って原告と請. 負契約を結ぶつもりであったこと︑以上の事情などから被告は原告に対し本件建物について設計などを. 包含した見積りを注文したとみるのが相当である︒そして︑その見積りが被告から指示を受けた予算額. ご二九. 一五〇〇万円を七八○万円超過する工事費になってしまったとはいえ︑原告は被告の注文に応じて本件. 東洋法学.

(25) 建築設計の法律空間. 一四〇. 建物の設計と見積りの仕事を完成したとみるのが相当である︒なぜなら︑被告は原告に本件建物主体工. 事の工事費用の見積りを注文したのであって︑設計前の時点における予算額と設計後の時点における見. 積額に不一致が生じてもなんら不思議な事柄でなく︑その不一致の額が多額で︑その見積りが注文者の. 被告の意に副わないものであったとしても建物設計という特殊性を考慮に入れると原告のなした設計と. 見積りを法的に無に帰してしまうのは妥当でないし︑また︑被告は当初からN工務店の見積りと原告の. 見積りとを比較して有利な方を選択しようとしていたのであるから︑原告が当初の予算額を上回る見積. 額を算出するかも知れないことを予期していたともいえるからである︒⁝⁝︵中略︶⁝⁝被告は原告に. 本件建物の建築工事を講負わせるつもりでその工事費用の見積りを注文したので︑見積りだけの場合の. 報酬をどのようにいくら支払うかについては考慮していなかった事実を認めることができ︑原告と被告. の間でその報酬について契約を結んだとの主張立証はない︒前記認定の事実によると原告は被告の注文. に応じて本件建物の設計と見積りをなし︑設計図書︑構造強度計算書︑見積書を被告に交付したのであ. るから︑その報酬を被告に請求できるといえる︒証拠によると原告は通常前記報酬規程の定めに従って. 報酬を得ている事実を認めることがでぎるので︑本件においてもその規程を基準として報酬を定めるの. が相当である︒ところで︑証拠を総合すると本件建物は一階部分がクラブ用に︑二階部分が居住用に設. 定されている事実を認めることができるが︑各階ごとの工事費用を別々に認定できる資料はないので︑. 報酬の算定にあたっては本件建物の全体を通じてクラブハウスとみるのが相当である︒原告の作製した.

(26) 設計図書は基本設計と実施設計を包含するとみることができる︒算定の基準とすべき工事費としては諸. 般の事情からみて被告が当初注文した本件建物主体工事の予算額である一五〇〇万円を採用するのが相. 当である︒そうすると︑その報酬を一五〇〇万円の四・八○パ!セントにあたる七二万円と算定するこ とがでぎる︒ ︹コメント︺. 右判例中︑見積りを依頼したという点について本件建物について設計などを包含した見積りを注文し. たと判断したことは妥当である︒けだし︑見積りとは︑建物に使用される素材や製品︑デザイン等を確. 認した上で︑当該設計に対し行なわれるものであって︑設計図を作成するしないにかかわらず何の設計 をなしに見積りだけが行われるということは無意昧だからである︒. しかし︑予算額一五〇〇万円に対し七八○万円も超過する工事費になるような設計をしたことに対し 設計契約の義務履行として評価していることには疑問がある︒. 判例が設計前の時点と設計後の時点における見積額に不一致が生じても何ら不思議ではないとしてい. ること自体は工事費は時間等に応じて変化する点に着目している点からすれば一概に不合理とはいえな. い︒しかし︑設計にかかった期間をみると︑依頼を受けたのが昭和四四年二月中旬︑設計を完了したの. が同年三月二七臼であって︑その間約一ヶ月余りである︒一ヶ月余りの間に主要材料等の価格に大幅な. 一四一. 変動があった等の事実でもない限り設計前と設計後との間の見積額にそんなに大ぎな変動がある筈はな. 東洋法学.

(27) 建築設計の法律空間. 一四二. い︒一ヶ月余りという短期間の設計ということを念頭においた場合︑むしろ設計前と設計後の見積額の. 大幅な差異は設計者の能力不足と評価されても致しかたないのではなかろうか︒右判例は︑設計前と設. 計後の見積額の差異を設計期間等価格変動等の可能性を考慮に入れずに一般的に肯定している点︑建築 士の能力に対する評価を欠いていると評価されても止むを得ない︒. 又︑設計前の見積額とは︑あくまで建築主の予算額であり︑設計後の見積額とはかかる条件を提示さ. れた設計者が設計した結果の見積額であるが建築主の提示した予算額の重要性からして両者は当然一致. してしかるべきものである︒したがって︑右判例は両者に差異が生じることは当然のような言い方をし. ているが︑これは︑すでに建築主の提示した予算額というものに対する重要性の認識を欠いているとも 考えられ︑設計業務の本質が理解されていない︒. さらに︑判例は本件の如き見積額の五割以上も超過する設計見積りを︑﹁建物設計という特殊性﹂とい ︵三︶ う理由で義務履行と評価しているが︑前述の一応の目安からしても妥当でない︒. またそもそも﹁建物設計という特殊性﹂とは一体何なのか︒建物設計の特殊性を具体的にしない限り. かかる理由付けには説得力がない︒思うに︑ここでいう建物設計の特殊性とは︑建築主の提示した条件. を前提に︑その範囲内で設計者の創造行為が行われること︑しかし建築主の提示した条件のうち予算額. については︑建築物を構成する素材︑製品の価格がメーカーや購入時期等により一義的には決まらない. ばかりか︑施工者の能力等によっても変動の可能性があるので一応標準的な価格︑施工方法等を設定し.

(28) ︵2︶. 注︵王︶. て設計することではないかそう︒そうだとするならば大きな価格変動︑施工技術の開発等もないような状. 態でしかも一ヶ月余りの間に見積額が五割以上も異なるという事態は到底予想できないところである︒. もっとも判例は原告自身当初の予算額を上回る見積額を算出するかもしれないことを予期していたと. しているが︑むしろこの理由が本筋ではないかと考えられる︒思うに︑被告は当初からN工務店の見積. りと原告の見積りとを比較して有利な方を選択しようとしていたという事実から︑右のように判断を下. すことは不合理ではない︒そうだとするならば︑予算額を一応は提示したが建築主自身右予算額にはさ. ほどとらわれていないという条件提示をしたと評価する場合には︑五割増の見積額となる設計もかかる 条件の範囲内での設計と評価できる︒. 以上からすれば︑判例の理由づけだけからは必ずしも判例の結論は導き出せないが︑建築主の設計者. に対する条件提示が仮に右のようなものであるとしたならば結論は妥当といえる︒. 一四三. なお︑判例は報酬請求権の根拠について明確に触れていないが︑商法五一二条を用いるまでもなく委 ︵2︶ 任契約に基づき建築士は仕事の割合に応じて報酬を請求できると解すべきである︒. 福田晴政﹁日経アーキテクチュア﹂一九七八年二月二〇臼号一二七頁も同旨と解される︒. 学. 本稿﹁報酬請求権の存否﹂の項参照︒. 東洋法.

(29) 建築設計の法律空間 ︵1︶ ところでもう一つ判例を検討しておこう︒. ③. 東京地判昭和五一・三二二︵判時八三九号九七頁︶ ︹認定事実︺. 一四四. Yは自己の宅地上に共同住宅を建設することを企画し︑昭和四四年五月二七日Xに対しYが四階建構. 造の二階建共同住宅を建築するか否か決定するため必要な設計図︑構造計算書の作成及び工事費の見積 りを依頼したが︑工事費如何によっては右建築を実施できない場合もあった︒ ︹裁判所の判断︺. これに対し裁判所は次のように判断した︒Yは︑設計は工事費を見積り︑両者︵XY︶間において工. 事請負契約を締結するか否かを決定するための前提作業として意識されていたに過ぎないことが明らか. であり︑五月二七日の段階において設計のみを施工から独立して切り離し︑これに特定額の報酬を支払. う旨の設計委託契約が明確になされたとまでは認めるに足りず⁝⁝︵中略︶⁝⁝しかし︑前記のとおり. 原告は建築の設計施工を業とする会社であり︑四階建構造二階建共同住宅の設計および見積りが原告. ︵X︶の営業行為に属することは明らかであるから︑たとい両者︵XY︶間において明示的に報酬支払の. 合意がなされていなくとも︑原告︵X︶は被告︵Y︶に対し喬法五一二条に基づき相当額の報酬を講求. しうるといわなければならない︒⁝⁝︵中略︶⁝⁝設計前の予算額と設計後の見積り額が一致しないと. いうことは往々にしてあることだし︑まして前記建物は四階建構造二階建共同住宅という異例なもので.

(30) あることを考えればなおさら右の不一致が生じやすいものである上︑前記の設計が構造計算を含む詳細. 精密なもので特別の費用と時間を要し︑一般には設計図および構造計算書の作成自体が独立して有償の. 契約目的とされていることなどからすれば︑原告︵X︶のなした前記設計図および構造計算書の作成. は︑それが工事契約締結のために必要な見積りを得るためになされ且つ右契約が単価についての折り合. いがつかぬため︑不成立に終ったとしても︑これに対しては相当額の報酬を支払うべぎものであろう︒ ︹コメント︺. 結論において妥当である︒けだし︑本件の場合︑設計前の予算額というものがはっきりしておらず︑. かかる条件提示の下では設計者の予算額についての裁量の範囲は広いと解されるからである︒あくまで. 建築主は工事費を見積った後に着工するかどうか決めるというのであるから︑建築主が設計者に提示し た段階では予算額は設計者の裁量に対する枠づけとはなっていないのである︒. しかし︑この判例も設計前の予算額と設計後の見積額が一致しないということは往々にしてあるとい. う理由をあげているが︑前述の如くかかる理由を肯定しうるかどうか甚だ疑間である︒. なお右判例は設計契約の存在が認められない以上報酬講求権の根拠を商法五二泥求めているが︑設. 計契約の存在が認められないからやむを得ないだろう︒しかし︑本件において設計が施工の前提作業と. して意識されているとしても工事に着工するかどうかを決するために設計・見積りを依頼した以上︑そ. 一四五. こにやはり設計契約が存在したと認定することはできなかったか︒建築士の業務に商法を適用すること. 東洋法学.

(31) 注. 建築設計の法律空間. ︵2︶. 一四六. は必ずしも商法の趣旨に合致するとも言い切れないので︑可能な限り契約関係を認めていく方向で解決 すべぎではなかろうか︒. この他に高松高裁四八・八・八判例も右判例等と同様の判断を下している点疑問がある︒. ︵1︶ 本稿﹁報酬請求権の存否﹂の項参照︒もっとも本事例は設計事務所でなく︑施工会社の設計であり︑両者が異なる理念と ることもやむを得ないかもしれない︒. 体制の下に設計を行っている︵本稿﹁建築設計の特殊性﹂の項︶以上︑商法を適用する点で設計事務所の場合と相違が生じ. @ 建築主の内心的意図. 設計者が建築主から与えられた基本的条件に則して設計を試みたが︑結局建築主の意図通りの設計がで きなかった場合を検討する︒. この場合︑設計者の報酬請求権の存否を考える前提問題として︑第一に設計者に債務の不履行があった. といえるかどうか︑第二に債務不履行でないとしたら設計自体完了したといえるのか︑第三に設計が完了. していないとしたら設計報酬は存在しないのかという問題を解決しなければならない︒. ①設計者に債務の不履行があったといえるか. 思うに︑設計契約は準委任契約と考えるべきであること前述のとおりである︒すなわち委任契約にお. いて︑受任者︵設計者︶は委任者︵建築主︶の委託の趣旨に沿った仕事をすべぎである︒設計契約にお.

(32) ける委託の趣旨とは︑建築主はその意図する建築物を建築するため基本的条件を設計者に示し︑かかる. 基本的条件という枠内で設計者の才能を信頼し︑建築物の構想を設計者の裁量に委ねることをいう︒し. たがって設計者は基本的条件を満足することが必要となる︒しかし︑与えられた基本的条件の把握自体. も設計者の価値観に左右されること前述のとおりである︒だとするならば︑基本的条件の把握も設計者. の裁量の範囲内といえる以上︑全体的にみて設計が設計者の裁量の範囲内と評価できる場合のみ当該設 計は設計契約における義務を履行していると評価でぎる︒. たとえば建築主が和風建築を要求しているのに︑明らかに洋風な建築物を設計した場合︵和風建築︑ ︵1﹀. 洋風建築との問に明確な一線を画すことは困難であるにしても︑両者の差異については建築学上意識さ. れているところである︒︶いくら建築主が設計を設計者の裁量に委ねたといってもかかる場合にまで設. 計契約の義務の履行と評価することは建築主に酷である︒このことは︑たとえ設計者が和風建築という. 条件を設計者なりに把握し︑一生懸命努力した場合であっても︑結果として一般的に洋風としか評価で きない建物を設計した場合にはかわらない︒. この意味において︑設計者の努力は債務不履行か否かという判断において︑重要な要素ではあるが︑. それはあくまで示された基本的条件の範囲内でなければならないのであって︑それ自体に意味がある訳 ではない︒. 一四七. 以上からして︑設計者が義務を履行しているといえる為には︑建築主の示した基本的条件を満足して 東 洋 法 学.

(33) 建築設計の法律空聞. 一四八. 設計者の示した案が建築主の気に入らない場合︑設計者は設計を完了したといえるか. いると評価でぎなければならないと解すべきである︒. ②. 設計が完了したかどうかが重要な意味をもつのは︑設計契約を請負契約と解した場合であって︑設計. 契約を準委任契約と解する場合にはあまり意味をもたないはずである︒なぜなら設計契約を準委任契約. と解する立場では︑たとえどのような設計段階において契約を解除されたとしても︑解除原因が設計者. の責に帰すべからざる事由にょる限り右段階までの割合に応じて報酬を請求できることになる︵民法六 四八条三項︶からである︒. ③設計報酬請求権の存否. ③で検討したように︑設計契約を準委任契約と解する以上︑割合に応じた報酬を請求できる︵眠麩融︶︒. ④ ところで参考となる判例があるので︑検討を加えてみる︒. 東京地判昭和五〇・四・二四︵判時七九六号六三頁︶ ︹認定事実︺. 建築家である原告は︑昭和四六年夏頃被告教祖から耐震性に留意した構造の教会堂の設計を依頼され. たが︑被告教祖の教母から主として本件建物の外観につぎ︑愛知県庁の建物にあるような日本式の屋根. 型にするように注文があった︒そこで原告は早速設計にとりかかり︑同年一〇月一五日A案及びB案を. 被告教祖に示したところ同教祖からA案及びB案についてさらに愛知県庁を参考にしてそれに近い構造.

(34) の設計図を作るように要望され︑同教祖が希望する外観をスケッチして見せたので︑それに基づき︑さ. らに設計図を練り直すことになった︒被告は︑原告事務所に愛知県庁の建物の写真を送付して参考にす. ることを求めた︒原告は︑さらにC案︑D案及びE案の設計図を作成し︑被告教祖に示したところ︑同. 教祖からいずれも難色を示され︑重ねて愛知県庁と同じ形の屋根を建物の上に乗せた設計にして欲しい. 旨の申し入れを受けたので︑同年二月中旬頃名古屋市に行き愛知県庁の建物を見分してから︑さらに. F案を作成し︑従来のA案からE案とともにこれを被告教祖に示し︑右六案のうちからいずれかを選択. するよう申し入れた︒しかしながら︑被告教祖はいずれの案に対しても︑とくにその建物の外観につい. て不満であり︑原告が同教祖の気に入る設計図を作らず︑かつ設計を依頼してから相当期間が経過して. いるのに︑いまだ建物の外観も決まっていない状態にあることを理由に︑同月一八日原告に対し本件設. 計契約を右解除する意思表示をなすに至った︒ ︹裁判所の判断︺. 右認定事実に対し︑裁判所は次のように判断した︒. ところで︑通常建物の設計は︑建築主の建物の階数︑間取り︑外観についての希望ないし意見を最大. 限に考慮すべき性質のものであるが︑本件の如き宗教上の建物は︑とくに建物の象徴となるべぎその外観. について建築主が最終的に選択してこれを決すべぎ要素の強いものであるから︑建築家は出来得る限り. 一四九. 建築主の希望に添って建築設計すべぎ義務があるが︑反面又建築について︑建築基準法に定められた建. 東洋法学.

(35) 建築設計の法律空間. 一五〇. ぺい率︑容積率︑斜線制限等の制約があり︑建築主と雛も設計者のかかる法的に規制された基準に準拠. しつつ︑しかもなお設計者の専門的な技術を尊重してその仕事を協力すべぎ義務があると言わねばなら. ない︒そうすると︑本件のような請負契約の遂行は︑建築設計者と建築主の前記双方の義務が密接不可. 分に結びついてその円滑な相互協力のもとになされるものと言うべぎであるから︑前記認定の経過並び. に原告代表者が提案したA案からF案の内容に鑑み判断するならば︑本件建物の建築設計者たる原告代. 表者は︑建築主の被告教祖の希望に基づきそれに添った設計図の作成に努力していたものと認定するの. が相当であるから︑被告が希望する外観の建築設計図を作成しないとする被告主張のような債務不履行. はないと言うべぎである︒そうしてみると︑被告は︑その都合により本件請負契約を解除したものと推. 認されるから︑民法六四一条に従い︑被告は原告に対しその蒙った損害を賠償する義務がある︒ ︹コメント︺. 右判例は結論において妥当である︒しかし︑その結論を導くまでの過程には若干の問題がある︒ 第一は︑設計者の債務不履行かどうかという基準が明確でない点である︒. 思うに︑建築主は提示した条件内において設計者の創造行為に対し信用を与えているのであって︑い ︵3︶. わば建築主は提示した条件内で設計者に裁量権を与えているものといえる︒だとするならば︑債務不履. 行かどうかの基準は︑建築主の提示した条件の範囲内にあるかどうかにょる︒たとえば前述したように. 単に和風建築とだけ希望を述べた場合には︑和風という条件さえ満足していれば設計者に債務不履行は.

(36) 生じないこと前述のとおりである︒. すなわち債務不履行かどうかを判断するためには︑建築主の提示した条件がどの程度のものかを確定 することが重要な作業となるのである︒. しかるに本判例は︑建築主の希望に沿うべく努力すべきとはしつつも︑建築主の希望の内容に関し詳 細な判断を下すことを意識していないようにみえる︒. 本件でいえば︑当初愛知県庁の建物にあるような日本式の屋根型にするよう要求があったが︑この要. 求が愛知県庁と同じ屋根という点に重点があったのか︑日本式の屋根という点に重点があったのかによ. り差異が生じてくる︒前者であるならば愛知県庁と同じと評価でぎなければ債務不履行であるし︑後者. であるならたとえ愛知県庁と同じではなくとも日本式の屋根と評価できさえすれば債務不履行とはなら ない︒. もっとも本件はその後︑重ねて愛知県庁と同じ型の屋根にして欲しい旨の要求があったと認定してい. 洋法学. 一五一. なるほど判例は︑設計契約において設計者は建築主の希望に添って設計すべぎ義務があるとしている. である︒. 第二は︑判例が一般論の中で設計業務の本質に触れているが︑少し補足しておく必要があるという点. ないのである︒. る以上︑少なくともその時から愛知県庁と同じ形の屋根と評価できない限り債務不履行とならざるを得. 東.

(37) 建築設計の法律空間. 一五二. 点及び建築主といえども設計者の仕事に協力すべぎ義務があるとする点妥当である︒しかし︑建築主が. 設計者の仕事に協力すべき義務の内容として︑建築基準法に定められた建ぺい率︑容積率︑斜線制限等. の制約があり︑建築主といえども設計者のかかる法的に規制された基準に準拠しつつ︑しかもなお設計. 者の専門的な技術を尊重すべぎとしているが︑設計には文化的要因があり︑そこには設計者の創造行為. が多分に介入するものであって︑単に指示された通りに製品を造り出す為の設計とはそのもつ意味合い. が異なる点を考慮すれば︑建築主は単に法的規制や専門的技術を尊重することは勿論︑設計者の創造性. を最大限尊重しなければならないという点も建築主の設計者に対する協力義務の中に含めてもよいので. はないか︒設計者の創造に対する信用という点にも建築設計の特色があることを忘れてはならない︒. 第三は︑判例は設計契約を請負契約と解したうえで︑本来設計者は報酬金額を請求できる筈だが︑公 平上出来高のみに限るとしている点である︒. 民法六四一条に公平の論理操作を加えているが︑そもそも設計契約を準委任契約と解せば︑民法六五. 六条︑六四八条三項により出来高に応じた報酬請求権が発生すること当然である︒このことは設計契約 がまさしく準委任契約であることを裏付けるものではないだろうか︒. 以上からすれば︑本件は設計契約を委任契約と解した上で︑仮に建築主の希望が愛知県庁と同一の屋. 根という点にあるとすれば設計者は当該設計が愛知県庁の屋根と同一の屋根を設計すべく業務を遂行し. たと評価できる限り債務不履行とはならないと解され︑しかも設計者の責に帰すべからざる事由により.

(38) ③. 解除されたのであるから︑業務遂行の割合に従って設計報酬を請求できると解されるものである︒. 判時七九六号六三頁︒. その他の場合に問題が生ずる︒. 東洋法学. 一五三. 隣地との敷地の境界について︑当初から隣地との境界について明確に調査を依頼されている場合を除いた. か︒敷地の境界についての調査義務の存否についてとりあげこれに検討を加える︒. 建築を行う際には多くの法的問題が生ずる︒この場合建築士にも法的解決まですべき義務があるのだろう. 法的問題 と 責 任. 又︑責任施工についても同様の問題がある︒. る点を指摘するにとどめる︒. 扱われているといえよう︒この点は今後の工事監理に関する研究に委ね︑本稿では施工図に関する問題があ. る︒そこで施工図に関する責任の所在を明確にする必要があるが︑現在では主として工事監理の問題として. この施工図の作成に関する法的責任は︑設計者にあるのか工事管理者か︑はたまた施工者かは不明確であ. 通常設計図書だけでは実際の施工を行うことは困難であり︑一般的には施工図という図面が作成される︒. ③ 設計ディテ⁝ルと責任. 東京地裁昭和五〇・四・二四. 新建築学体系﹁建築概論﹂八六頁参照︒. 注 (( 3王 )).

(39) 建築設計の法律空間. 一五四. 一般的には設計者を依頼される場合︑隣地との境界にトラブルがある場合は少な橋隣地との境界にトラ. ブルがある場合には︑建築主はむしろ弁護士や測量士の協力により右トラブルを解決したのちに設計を依頼. することが多い︒又設計を依頼されたのちに隣地との境界にトラブルが生じた場合は︑設計者に法的解決を. 期待することは無理である︒この意味からすると設計者には隣地との境界についての法的解決義務はないと いうべきである︒. しかし︑だからといって設計者は隣地との境界について何ら解決すべぎ義務がないとすることも妥当では. ない︒なるほど法律専門家でない設計者に法的解決を期待することは無理であるにしても︑境界が不明確で. あって敷地の範囲が確定できないような事情が存在する場合には︑建築主に対し問題を指摘し︑建築の専門. 家としてできる限りの調査︑助言等を建築主に対してなすべぎである︒けだし︑設計契約は建築主の目的実 ︵圭︶ 現に向けて建築専門家としての設計者の才能を寄与させる点に本質があるからである︒. もっとも設計者が高度な注意義務をもって各資料を検討した結果境界は何ら不明確ではないと判断でぎる. ︵2︶. ような場合には︑義務を否定すべきである︒かかる場合には︑設計者は自己の才能を十分発揮したと評価で きるからで あ る ︒. 裁判上争われたヶースを紹介する︒東京地判昭和五〇・二・二〇︵判時七九四号八九頁以下︶では設計士. のXはYから設計監理等の委任を受けた際︑その内容は﹁敷地の現状調査及び敷地の計画﹂とするものであ. ったが︑この中に敷地の境界︑範囲についての調査も含まれるかどうかが争われた︒これに対し裁判所は敷.

(40) 地の境界・範囲について格別争のない通常の場合においては︑設計監理の受任者は︑その事務の内容からみ. て︑常に進んで被告主張の点まで厳格に調査確定させて設計する義務があるとはいえず︑委任者の指示・提. 出する図面等にもとづき現実に敷地に当るなどしてその範囲を実測確定し︑高低差を含め敷地の現状を調査. すれば足りると解されるが︵ちなみに証拠によると財団法人目本建築家境界制定の﹁建築家の業務及び報酬. 規程﹂に︑﹁建築主は︑設計業務の時期に応じて建築家の必要とする正確な次の資料を提供する︒ーー3敷地. に関する調査資料ー敷地の所有権・借地権及び地上権に関する資料・敷地測量図及び地積調査書︑敷地に. 関する給排水・ガス等の施設の現状を示す資料ーと記載されており︑原告本人尋問もその主張に沿う供述. をしている︒︶︑できるだけ正確な設計を行うため︑専門家として︑その必要とする限度で︑相応の注意をも. って調査を行う必要があり︑境界の不明など敷地の範囲が確定できない等の事情があるとぎは︑委任者の協. 力を求めるなどして︑法的な解釈はともかく︑できるだけその範囲を確定のうえ︑可及的に正確な調査をも. とに設計を行い︑紛争の態様によってはこれを考慮して委任者に不利益を及ぼさないよう配慮し︑委任の趣. 旨に添うよう努めるべぎ義務があるのであって︑常に単に委任者から指示・提示された図面のみにもとづい て処理すれば足りるものとはいえない︒. 本件土地においては︑契約当時から隣地との境界不明その他の紛争が生じていた形跡は証拠上認められな. いから︑当初から明示して隣地との境界を前提として︑問題の余地を残さない程正確な調査確定までも明示. 学. 一五五. して委任したものとみられず︑敷地の調査を含め包括的に設計監理を委任したとしても︑当然被告主張のよ. 東洋法.

(41) 建築設計の法律空間. 一五六. うな義務を含む契約が明示もしくは黙示になされたとはいい難く︑前記一般的な範囲で敷地の調査.確定義. 務を負っていたと認めるのが相当である︒と判断しているが︑その理由︑結論ともに正当である︒. なお︑付言するに︑事実認定の問題にもなるが︑YはXに対し設計契約の内容として﹁敷地内に建設され. る建物の設計﹂及び﹁計画建物に付属する諸設備の設計﹂として建物の設計とは別に特に﹁敷地の現状及び. 敷地の計画﹂業務を依頼している点に鑑みるならば︑Yは当初から境界について不安を持っていたものと推. 認することも可能であり︑仮にそうだとしたならば設計者は前述のような調査等を行わなければならなかっ. 本稿﹁建築設計の特殊性﹂﹁設計契約の法的性質﹂の各項参照︒. たことになろう︒. ︵1︶. 2 不法行為責任. O概 説. 従来設計者の不法行為責任は表面に出ることは少なかった︒しかし国民の基本的住環境を維持すべき役割を. 担う建築士の責任は重大であり︑当然その考察は不法行為責任にまで及ばなければならない︒. もっとも不法行為責任の問題は設計した段階では起こることはまれで︑実際上設計後建物が完成した場合に 起こるという時間的ずれを生じることが多い︒. ところで設計者が不法行為責任を追求される場合に問題の中心は過失の有無についてである︒過失の意義に.

(42) ⇔. ついては今臼公害を中心として争いのあるところであるが︑建築士という高度な専門的知識・技能を有する者. にのみ委ねられる建物の設計について考察するとき︑設計者としての高度な注意義務というものをべースに︑. 予見義務違反及び結果回避義務違反の有無を考えるべきであろう︒ここで論議されるのは従来の争点となって. いる過失論ばかりではなく︑設計者の業務範囲の問題と重複していることも多い︒すなわち設計者の業務範囲 内かどうかが不明なために設計者の不法行為責任の成否が間題となる場合である︒. 注意義務の具体的内容. 注意義務の内容は多岐にわたるが︑ここでは裁判上問題となったケースを中心に論じる︒. ① 地盤調査義務. 実務上よく問題になるのは︑地盤沈下によって生じる建物の変形等の損害である︒建築士は︑設計を行う場. 合においてはこれを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならず︵腱鰹弐甦︶︑. 建築物の基礎は建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え︑かつ地盤の沈下又は変形に対して構造. 耐力上安全なものとしなければならないとされる︵鍵課薩鱗融魏行︶︒右責務を全うするためには︑まず地質を十. 分調査しなければならないが︑地質調査自体は﹁企画調査業務﹂に含まれると考えられる︒しかし︑地質調. 査が﹁設計業務﹂に含まれないからといって︑直ちに地質調査をすることが設計契約に基づいて設計した者. の注意義務に含まれないとすることはできない︒なるほど設計業務は地質調査結果資料に基づき当該建物を. 一五七. 設計するものではあるが︑自ら調査をするかどうかはともかくいずれにしても地質調査をしなければ地盤耐. 東洋法学.

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