大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学 生実験
著者 加藤 芳信
雑誌名 福井大学教育実践研究
巻 33
ページ 143‑154
発行年 2009‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10098/1954
1.はじめに
全国の国公私立大学において,宇宙関連の学科がある 大学は十数校あるが,宇宙通信工学科という名前の学科 がある大学は福井工業大学だけである。筆者が所属する 宇宙通信工学科の教育目標は,基礎となる電気・電子工 学や電波・通信技術に加え,人工衛星や天体の特性を理 解するためのカリキュラムにより,宇宙通信の基礎から 最先端までを体系的に修得することである。講義等で学 習した知識を体験的に理解し,定着させるために学生実 験がある。宇宙通信工学科の学生実験では,2年生前期か ら3年生前期までの1年半は電気電子工学科とほぼ同じ 実験を行い,3年生後期から4年生後期までの1年半は 宇宙通信工学科独自の実験,即ち,宇宙通信・リモート センシング関係の実験,を行っている。特に,直径10m パラボラアンテナ受信システムを使った実験や,実機(本 物の設備・機器)を使った実験は,他大学ではできない ユニークな実験である。また,3年生後期と4年生後期 に,学生1人ずつが実験で得られた成果を教員と受講学 生全員の前で15分程度発表する「実験成果発表会」を開 催することもユニークである。
本稿は宇宙関連分野の大学教育の1つの手本を示すこ とを目的とする。第2節では学生実験の内容を紹介する ことの意義を述べる。第3節〜第5節では宇宙通信工学 科の学生実験を紹介する。なお,実験内容は毎年少しず つ変わっていくので,本稿に記した実験内容は,筆者が 記録を詳細にとっていた2003〜2005年度を基に[1−3], 必要に応じて2008年前期までの実験内容を付加してある。
第6節では,衛星追尾実験で使っているVisual Basicに よる衛星軌道計算プログラムについて記している。
2.学生実験の内容を紹介することの意義
筆者は衛星リモートセンシング(人工衛星を利用した
遠隔観測)関係の研究をしている。2006年11月のインド で開催されたSPIE Asia-Pacific Remote Sensing国際会 議でのアメリカ合衆国(USA),中国,インド,日本 の代表者による基調講演を聴き,現在および近い将来の 宇宙開発能力の国家間の順位は,!USA,"ロシア,
#中国,$インド,%EU,&日本,であるとの印象を
受けた。各国は宇宙関連分野の研究を,将来を見据えな がら国の威信をかけて精力的に,かつ着実に進めている。
例を挙げれば,月探査衛星は,2007年9月に日本(かぐ や),同年10月に中国,2008年10月にインドがそれぞれ打 ち上げている。このような大規模な宇宙開発研究に加え,
現在,私たちが恩恵を受けている宇宙関連技術も数多く ある。例えば,自動車のナビゲーション・システムは GPS(全地球測位システム)の一応用技術である。また,
毎 日 の 天 気 予 報 で 見 る 雲 の 画 像 は,静 止 気 象 衛 星 MTSAT(日本名:ひまわり)によるものである。
このように宇宙関連分野の技術は現在および将来にお いて重要な位置を占めるのであるが,それを教育する大 学は日本には少なく,更に学生実験も出来る大学は極め て少ない。その理由の1つは通信がディジタル化したた め,教員は旧来のアナログの教え方とは違う教え方をし なければならず,講義で理論は教えることが出来たとし ても,それを実証・実体験するための実験をどのように するのかが難しいことにある。LSI化が進み,中の信 号を取り出せないことも学生実験をやりづらくしている。
更に,日本では宇宙関連分野の教育は新しい分野の教育 なので,何を講義すべきか,何を実験すべきかの手本が 殆どない。従って,本稿で宇宙通信工学科の学生実験の 内容を紹介することは,将来の日本の宇宙関連分野の教 育の1つの手本を示すことになり,意義がある。また,
内容の一部(携帯電話の活用,衛星追尾実験でのドップ ラー効果など)は高校の授業でも役立つものである。
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
福井工業大学 工学部 宇宙通信工学科 加 藤 芳 信
(福井大学教育地域科学部附属教育実践総合センター特別研究員)
資 料
宇宙関連分野の大学教育の1つの手本を示すことを目的として,福井工業大学工学部宇宙通信工学科 における学生実験を紹介する。2年生前期から3年生前期までの実験は電気電子工学科とほぼ同じ実験 内容であるが,3年生後期から4年生後期までの実験は宇宙通信工学科独自の実験内容(宇宙通信・リモ ートセンシング関係)である。直径10mパラボラアンテナ受信システムを使った実験は,他大学ではで きないユニークな実験である。3年生後期と4年生後期に,学生1人ずつが実験で得られた成果を教員 と受講学生全員の前で15分程度発表する「実験成果発表会」を開催することもユニークである。また,
衛星追尾実験に使っているVisual Basicによる衛星軌道計算プログラムについても記している。
キーワード:学生実験,宇宙通信,リモートセンシング,パラボラアンテナ,衛星軌道計算プログラム,
衛星追尾,ノア,ランドサット,テラ,アクア,MODIS,画像処理,実験成果発表会,大学教育
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3.2年生前期から3年生前期までの学生実験 のテーマと内容概要
宇宙通信工学の基礎は電気工学(電子・通信・情報工 学を含む)である。従って,宇宙通信工学科の学生実験 の最初の1年半は電気工学分野の実験を行う。教育目標 は,各種測定器の取り扱い方,基本的電気量の測定法を 修得し,各種素子,各種部品,各種機能回路などの実験 により,電子・通信の基礎技術の実際を体験的に修得し,
電子・通信の基礎事項,基本的現象や特性を把握するこ とである。実験は「福井キャンパス」にて,宇宙通信工 学科と電気電子工学科が一緒に行う。従って,実験項目 には,単相変圧器や同期発電機など,いわゆる強電関係 の実験も含まれる。それにより,幅広い知識が得られる。
以下に半期ごとの実験テーマと内容を記す。実験は必 修科目であり,週3時間で半期1単位である。
(注)筆者は2000年度まで電気工学科に属しており,学 生実験も担当していた。1980年代に主任教授からの指示 で,2年生と3年生の実験指導書の約1/4の内容を改 訂/新規執筆したことがある。現在の電気電子工学科の 実験指導書は,実験担当教員により毎年改訂されている が,筆者執筆の基本的な内容が現在でもかなり残ってい る。
3.1 電子・通信工学実験実習Ⅰ(2年生前期)
2年生前期には電気・電子工学の基礎事項について,1 週(2コマ180分で時間延長あり)1テーマの割で,以 下の!〜,の実験を行う。安全管理についても第2週で 説明する。実験は,宇宙通信工学科と電気電子工学科の 学生が一緒に行う。学生数が多いので,まず学生を2つ の曜日(月曜日午後と火曜日午前)に分け,更に5〜11 人の学生が1つの班になるように分ける。班ごとに実験 テーマ#〜,をまわす。実験担当教員は1人1テーマず つを担当する。大学院生TA(ティーチングアシスタン ト)がつく場合もある。各テーマとも実験機材は複数台
(テーマによっては学生1人に1台ずつ)用意してある。
学生は実験レポートを実験後1週間をめどに提出する。
!実験ガイダンス:各実験テーマの実験上の注意と実験 内容の説明,レポート作成上の注意。
"安全の手引き:実験を行う際の安全管理の説明。
#抵抗値の測定:電圧計・電流計を用いてオームの法則 の実証と,ホイートストンブリッジ法による精密測定を 行う。
$電圧計・電流計の校正:直流電位差計を用いて,電圧 計・電流計の指示値の誤差・校正について検討する。
%相互インダクタンスの測定:交流ブリッジを用いて,
自己インダクタンス・相互インダクタンスの測定を行う。
&L・C・Rの測定:万能ブリッジを用いて,交流回路 のインピーダンスの測定を行い,インダクタL,コンデ ンサC,抵抗Rについて理解する。
'オシロスコープによる各種測定:オシロスコープの原
理と取扱い法を学習し,交流波形の観察を行う。
(トランジスタの静特性:トランジスタの原理を学習し,
基本的な接続法とその静特性を測定する。
)電磁誘導に関する三法則の実験:ファラデー,レンツ,
ノイマンの各法則について実験し,理解する。
*金属抵抗の温度特性の測定:各種金属線の温度による 抵抗の変化を測定し,各温度特性を理解する。
+磁化特性の測定:永久磁石の磁束の測定と強磁性体の 磁化特性の測定により,磁気作用を理解する。
,銅電量計による電気化学の実験:電解溶液中のイオン の関係(ファラデーの電気分解の法則)を理解し,電気 メッキの原理について学習する。
3.2 電子・通信工学実験実習Ⅱ(2年生後期)
2年生後期には電気・電子工学の基礎〜応用事項につ いて,1週1テーマの割で以下の!〜-の実験を行う。
第2,3週(実験テーマ",#)では学生1人1人が,
論理回路を設計し,穴あきプリント基板にダイオード,
抵抗,トランジスタを半田付けして回路を製作し,設計 通りに動作するかを実験する。
!実験ガイダンス。
"ダイオードと論理回路Ⅰ:ダイオードの特性を測定し,
ダイオード,抵抗,トランジスタを用いたAND,OR,
NOT回路を設計する。
#ダイオードと論理回路Ⅱ:設計した回路を製作し,理 論通りの結果が得られるか,測定し検討する。
$RLC共振回路:直列RLC共振回路と並列RLC共 振回路で,周波数を変化させた時の特性を測定し,ベク トルを求め,共振回路を理解する。
%四端子回路網:抵抗器を用いて抵抗減衰器を構成し,
その減衰特性を測定することにより,四端子回路網の原 理を理解する。
&過渡現象の観測:CR回路で生じる過渡現象の理論を 基に,実際に波形を観測し,現象を理解する。
'半導体の熱電効果の測定:半導体・金属接合における ペルチェ効果による吸熱量の測定,及び,ゼーベック効 果によるゼーベック電圧の測定を行う。
(光電変換素子の特性測定:光エネルギーを電気エネル ギーに変換する現象を理解するために,フォトダイオー ドと太陽電池の特性を測定する。
)光束および照度の測定:球形光束計で白熱電球の光束 を測定し,照度計で室内照度分布を測定する。
*直流モータの特性試験:モータの始動,速度制御およ び負荷特性試験を通して,モータの運転理論や特性を理 解する。
+変圧器の特性試験:変圧器の無負荷試験,短絡試験を 行い,変圧器の特性を理解する。
,オペアンプ・アクティブフィルタ:Op-Amp(演算増 幅器)の特性を理解し,その取扱いに習熟し,Op-Amp の応用としてのアクティブフィルタの概念を理解する。
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-発光素子と数値の表示:発光ダイオードLEDとレー ザーダイオードLDの構造,発光の様子,電流特性の違 いを理解する。数値表示用LEDを組込んだ論理回路を 配線し,数値表示の実際を理解する。
3.3 電子・通信工学実験実習Ⅲ(3年生前期)
3年生前期には電気・電子・通信・情報工学の基礎〜
応用事項について,1週1テーマの割で以下の!〜-の 実験を行う。第2週では安全管理について説明し,徹底 する。第3,4週では学生1人1人が,1個のトランジス タを用いた増幅回路を設計し,穴あきプリント基板にト ランジスタ,抵抗,コンデンサを半田付けして回路を製 作し,設計通りに動作するかを実験する。
!実験ガイダンス。
"安全の手引き。
#トランジスタ増幅回路Ⅰ:与えられた仕様に基づき,
トランジスタ増幅回路を設計する。次回までに,部品(ト ランジスタ,抵抗,コンデンサ,穴あき基板,線材)を 各自購入し,自宅等で回路を製作する。なお,授業の空 き時間や放課後に実験室にて半田付けして回路を製作し てもよい。
$トランジスタ増幅回路Ⅱ:製作した回路について利得,
歪み,位相,周波数帯域幅等の特性を測定し,電子回路 の基本である増幅回路について理解する。回路が上手く 動作しない場合は,その実験室にて回路を直し,再度測 定する。
%差動増幅回路:相互特性測定,入力と出力の電圧波形 の位相観測,増幅度の周波数特性測定を行う。
&マイクロ波回路:ガンダイオードのマイクロ波発振特 性,周波数測定,未知インピーダンス測定により,マイ クロ波素子,スミスチャートを理解する。
'AM変調・復調回路:実習回路を用いて,変調度及び AM検波出力の測定,AM検波回路の周波数特性測定に より,振幅変調・復調の原理を理解する。
(同期発電機の特性試験:同期発電機の電機子巻線抵抗 測定,無負荷飽和試験,三相短絡試験から各種定数,外 部特性を算出し,同期機の理論を理解する。
)SCRの位相制御試験:SCRによる電力制御の仕組 みを理解し,電球負荷を用いて電力制御の実際を計器測 定及びオシロスコープ波形観測にて確認する。
*画像処理:濃淡変換,フィルタ処理,2値化処理など,
コンピュータ画像処理の基礎的実験を行う。
+電子計算機の基礎:マイクロコンピュータTK−85を 用いて,機械語で書いたプログラムを実行し,その構造 と動作を理解する。
,FM変調・復調回路:実習回路を用いて,被変調波の スペクトル,弁別回路のS特性などを測定し,周波数変 調・復調の原理を理解する。
-ディジタル回路:基礎的なロジック回路のディジタル IC(TTL)の働きや特性を理解する。
4.3年生後期から4年生後期までの学生実験
(宇宙通信・リモートセンシング関係実験)の概要 3年生後期からの学生実験は,宇宙通信工学科独自の 実験(宇宙通信・リモートセンシング関係実験)になる。
3年生後期の八木アンテナの指向特性実験だけを除き,
実験は全て「あわらキャンパス」で行われる。あわらキ ャンパス(福井県あわら市北潟213−21)は福井キャン パス(福井市学園3−6−1)から北に約26km離れて いるため,移動には学園バス(無料)または自家用車を 利用する。
あわらキャンパス(写真1〜3参照)には,フロント エンドとして①10mφ(直径10m)パラボラアンテナ受 信システム(2001年5月稼動)があり,これを利用した
写真1.あわらキャンパスにある直径10mのパラボラアンテ ナ:米国 ViaSat 社製(後方は2号館)
写真2. 2号館2階の衛星受信室にあるパラボラアンテナ制御 システム:米国 ViaSat 社製
写 真3.2号 館2階 の 衛 星 受 信 室 に あ る テ ラ・ア ク ア 衛 星 MODIS 受信システム:ノルウェー国 Kongsberg 社製
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バックエンドとして,②テラ・アクア衛星MODIS受信 システム(2003年9月稼動)[4],③宇宙空間プラズマ 観測衛星「あけぼの」受信システム(2004年2月稼動),
④太陽電波観測システム(2004年7月稼動),⑤銀河電 波観測システム(2004年9月稼動)がある。更に,①を 構成するSCC(Station Control Computer,地上局制 御コンピュータ)の代りに,利用者(教員又は学生)が パラボラアンテナの向きを自由に制御できる⑥実験用ア ンテナ制御システム(2003年8月稼動)がある。これら の設備に約6億円かかっている。学生実験には①,⑥,
②,③が使用される。
教育目標は,あわらキャンパスにある衛星追尾・電波 受信設備を使用して,各部装置の特性測定や操作などの 実習テーマを段階的に修得し,最終的に,総合的な受信 データの取得及び解析法を修得することである。実験内 容は次第に専門的になり,レベルも高くなっていくの で,1つのテーマが4週にわたるものもある。実験の特色 は,実機(本物の設備・機器)を使用することである。
これは他大学では実施できないユニークな実験方法であ る。
以下に,各学期の実験の概要を記す。(実験の詳細は 第5節に記す。)
4.1 電子・通信工学実験実習Ⅳ(3年生後期)概要 以下の実験テーマについて教員4人(大家,加藤,青 山,中城)で対応している[5]。実験は必修科目であ る。
!実験ガイダンス。
"〜%高周波受信機:DSP(ディジタル信号プロセッ サ)方式高周波受信機の原理と構成の講義(1回),日 本無線(株)製・高周波受信機NRD−545の特性測定
(3回)。
&〜)アンテナ指向特性:アンテナの講義(1回),福 井キャンパスにおける足羽山TV放送アンテナタワーに 向けたVHF八木アンテナの指向特性実験(1回),太 陽に向けた10mφパラボラアンテナの指向特性実験(1 回),レポート作成(1回)。
*〜+衛星追尾:衛星軌道計算理論の講義(1回),ア ンテナ制御装置と衛星軌道計算プログラムの説明ならび にNOAA衛星追尾実験(2回),レポート作成(1回)。 ,〜-実験成果発表会。
4.2 宇宙通信工学実習Ⅰ(4年生前期)概要 以下の実験テーマについて教員3人(加藤,青山,中 城)で対応している[6]。なお,4年生前期および後 期の実験は2007年度まで必修科目であったが,2008年度 より選択科目である。
!実験ガイダンス。
"コンピュータの使用方法:学生所有のノートパソコン
を用いて,レポート作成のためのWord,Excelの効果
的利用法,成果発表会用スライド作成のためのPower Pointの効果的利用法の実習を行う。
#〜$変復調実験:高周波受信機NRD−545を用いたA M及びFMに関する変調・復調実験。これは3年生後期 の実験「"〜%高周波受信機」の追加実験である。
%〜&あわら宇宙通信システム:パラボラアンテナ部設 備と地上局室部設備の講義と現場調査実習(1回),受 信システムの構成に関する講義(1回)。
'〜) L/Sバンド人工衛星用 受 信 機:Mycrodyne
700-MRBの動作原理の講義(1回)と特性測定実験(2
回)。
*〜+ Visual Basicプログラムと衛星追尾実験:VB の基礎と衛星軌道計算プログラム作成(1回),衛星追 尾実験(2回),レポート作成(1回)。
4.3 宇宙通信工学実習Ⅱ(4年生後期)概要 4年生後期の1月には卒業論文の締切りと卒業研究発 表会があり,12月後半から1月末まで学生は特に忙しく なるため,学生実験は以下のテーマで12月中旬に終わる ようにしている。
!リモートセンシング基礎:LANDSAT衛星画像処理。
"テラ・アクア衛星MODIS受信システム:講義と実習。
#MODIS画像データ解析:講義と実習。
$宇宙空間環境とEXOS-D(あけぼの)衛星:講義。
%EXOS-D磁場データ解析:講義と実習。
&EXOS-D波動データ解析:講義と実習。
'レポート作成。
(発表会用Power Point作成。
)〜*実験成果発表会。
5.宇宙通信・リモートセンシング関係実験の 内容詳細
本節では,筆者が主担当者となっている実験テーマ6 つと実験成果発表会について詳細を記す。
5.1 パラボラアンテナ部設備の現場調査実習 4年生前期の実験テーマ「%〜&あわら宇宙通信シス テム」の中の「パラボラアンテナ部設備の現場調査実習」
について説明する。
あわらキャンパス(北緯36.264度,東経136.235度)
の10mφパラボラアンテナ受信システムは,教育と研究 での利用を目的に2001年5月15日に設置された。本実習 では,写真4〜6に示すように,パラボラアンテナの外 観観察後,内部に入り,梯子を昇り降りして,1〜3階に あ るL/Sバ ン ド(1.7GHz帯,2.2GHz帯)信 号,Xバ ンド(8GHz帯)信号,アンテナ制御信号等に関する機 器と配線を追い,アンテナ駆動用サーボモータや乾燥空 気循環装置等の様子を観察し,メモを取り,携帯電話の カメラで撮影する。学生は日頃,アンテナ内部に入れな いので,興味を持って観察・調査する。
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なお,自分の携帯電話で撮影させる理由は,①現在で は全員が携帯電話を持っていること,②携帯電話のカメ ラ機能が向上しており,小さな文字などもかなり綺麗に 撮影できること,③自分の携帯電話で撮影したのだから,
その画像に愛着が持てること,④携帯電話に保存された 画像を,いかにして自分のレポートを書くためのパソコ ンに持っていくか(例えばメールで送るなど)を自分で 考えて試せること(メディア・リテラシーの育成),⑤ 自分の持っている機器が有効活用されることに喜びを感 じること,⑥以上により,学生が実験に,より積極的に 取り組むようになると期待できること,のためである。
5.2 L/S バンド人工衛星用受信機の特性測定実験 4年生前期の実験テーマ#〜$について説明する。人 工衛星用受信機は,普通の受信機(例えば「!〜"変復 調実験」で用いる高周波受信機NRD−545)とは次の 点で異なる。①周波数が高い(Lバンド=1.7GHz帯,
Sバ ン ド=2.2GHz帯,Xバ ン ド=8GHz帯)。② 衛 星 から送られてくる情報はディジタル・データであるため,
受信電波からディジタル信号に復調する機能がある。③ 人工衛星は地上約500〜1000kmで地球の周りを円運動 しているので,地上局で受信する電波の周波数はドップ ラー効果を受け,変動する(LバンドのNOAA衛星の 場合,第5.3節で述べるように約±42KHz)。この変 動 幅をカバーするのに,帯域幅を広くするのではなく,帯 域幅はそのままで,変動する受信周波数にロックする機 能がある。実験で使用する700−MRBの場合,Lバン ドで約±300KHzの範囲でロック可能である。
特性測定実験ではこれらのことも含めて実験する。主 な実験項目は次の通りである。
①AGC onとoffの 場 合 の 入 出 力 レ ベ ル 特 性 の 測 定
(AGC:Automatic Gain Control自動利得調整の略)。
②帯域幅特性の測定。
③周波数・位相自動調整機能の測定。
写真7に2006年度の実験の様子を示す。写真に写って いるL/Sバンド人工衛星用受信機700-MRB(真中の機 器),信号発生器の1台(左の上側の機器),スペクトル アナライザ(右の下側の機器)は,写真2に写っている 実機(本物の設備・機器)を取りはずして使っている。
このように実機を使う実験は,他大学では殆ど行われて いない。
5.3 衛星追尾実験
実験に使用するVisual Basicによる衛星軌道計算プロ グラムは,大家教授のテキスト「衛星追尾観測の基礎」
[7]を基本にして,更に種々の摂動を考慮して,加藤 研究室の西川裕宣氏(2005年3月修士了)が筆者の指導 の下でVisual Basic6.0を用いて作成したものである(詳 細は第6節に記す)[8−10]。実験で使用する軌道計算 プログラムでは,計算モデルとして永年項計算モデルと 写真4.パラボラアンテナの外観を調べる。
写真5.1階の調査:ACU(Antenna Control Unit),通信盤,
電源盤等を確認する。
写真6.2階の調査:チルト用モータ制御盤,ケーブル配線,
乾燥空気循環装置などを確認する。
写真7.L/S バンド人工衛星用受信機 700-MRB の特性測定実 験の様子
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SGP8計算モデルを選択できる。
3年生後期の衛星追尾実験は基礎的なもので,4年生 前期の実験が本格的なものとなる。4年生前期の実験テ
ーマ「!〜"Visual Basicプログラムと衛星追尾実験」
の中の「VBの基礎と衛星軌道計算プログラム作成」で は,各自のノートパソコンを使用して,まず,Visual Ba- sic(2年生前期に学習済み)の復習(三角形の面積計 算,sin波形表示プログラム作成など)をする。次に,
衛星位置計算の重要部分(ケプラー方程式の計算,観測 地点座標変換計算など)約60行を削除した衛星軌道計算 プログラムを配布する。学生は実験指導書に書かれたプ ログラムに基づき,プログラムを完成させる。見本の入 力データにより正しく動作するかを確認する。
「衛星追尾実験」では,図1に示す実験用アンテナ制 御システムを用いる。実験手順は次の通りである。
①まず,教員(筆者)が学生に今日の追尾対象衛星と受 信スケジュールを写真8のように黒板に書いて説明する。
写 真8は,2004年12月2日 のNOAA17号(あ わ ら キ ャ ンパス上空を11時22分39秒から11時37分31秒まで飛行す る)のパスを4つのグループに分けて追尾させるスケジ ュール図である。例えば,第1グループでは,追尾開始 時刻11時25分30秒から追尾終了時刻11時26分00秒までの 30秒間追尾するのであるが,追尾開始の90秒前(11時24
分00秒)にアンテナに追尾開始時刻の位置に移動するよ う命令を出す。15〜30秒でアンテナはその位置に到達し,
静止する(衛星がアンテナの方向に入ってくる時の電波 の強度を観測する)。追尾開始時刻から追尾終了時刻ま でアンテナは衛星を追尾し(追尾中の電波の強度を観測 する),その後,11時27分00秒まで静止させる(衛星が アンテナの方向から外れていく時の電波の強度を観測す る)。
②学生はインターネットのCeles Trak WWW(http : //
celestrak.com/)から2 line elementデータ(追尾する 衛星がNOAA(ノア)衛星ならばweather.txt,Terra
(テラ)衛星またはAqua(アクア)衛星ならばresource.
txt)をダウンロードする。
③各自のノートパソコンまたは図1の学生用端末にて,
衛星軌道計算プログラムを立ち上げ,2 line elementデ ータ(図2参照)から必要な数値をコピー・アンド・ペ ーストし,指示された追尾スケジュールに基づき,追尾 の開始時刻と終了時刻を入力し,衛星軌道計算プログラ ムを実行する(図3参照)。計算結果(1秒毎または0.5 秒毎の時刻Tと方位角Azと仰角EL)をCSVファイル で保存する。
④そのCSVファイルを実験に合うよう一部分修正し,
図1の学生端末からホストPC(アンテナ制御 パ ソ コ ン)に登録する(写真9参照)。
⑤ホストPCはCSVファイルに書かれている時刻Tご とに方位角Az(Azimuthの略)と仰角EL(Elevation の略)をアンテナコントローラACU(Antenna Control
Unitの略)に送る。ACUはアンテナを制御し,アンテ ナは指示された方向に向く。また,ホストPCは1秒毎 または2秒毎に時刻と実際のアンテナの方位角と仰角と 観測された電波強度(Power Meterの値)をCSV形式 で記録する。その間,学生は,衛星追尾中の情報(スペ クトルアナライザによる受信電波波形,ACUによるア ンテナの向き,他)を携帯電話で撮影する(写真10,11 参照)。
⑥ホストPCに記録された受信電波強度などの実験デー タ(CSVファイル)をUSBメモリで吸い上げ,各自の ノートパソコンにコピーし,Excelでグラフ化し,解析 する(図4参照)。
図4では,10時9分20秒にアンテナに,追尾開始時刻
(10分20秒)の位置に動くよう命令する。方位角Az方 向は9分35秒に,仰角EL方向は9分40秒にその位置に なり,10分20秒まで静止する。衛星がアンテナの方向に 入ってくるにつれ,受信電波 強 度Pは-24dBmか ら-21 dBmへ変動しながら増大する。10分20秒から11分20秒 まで衛星を追尾する。その間,Pはほぼ−21dBmと大 きく,一定であるので追尾は成功である。11分20秒から 11分50秒までアンテナを静止させる。衛星はアンテナの 方向から外れていくので,−21dBmから−24.2dBmへ 変動しながら減少している。なお,Pは,L/Sバンド受
信機700-MRBが高周波増幅段で出力端子を持たないた
め,中間周波増幅段の出力端子をPower Meterに接続 して測定した。そのため,電波の有無で約3dBmしか 変化しないのである。パラボラアンテナの所での電波強 度は,電波の有無で約25dBm以上変化するのであるが,
そのことはスペクトルアナライザまたは700-MRBの高 周波増幅段のLEDメーターで確認できる。
追 尾 対 象 衛 星 は1.7GHz帯 のNOAA衛 星(1.698 GHz,1.7025GHz,1.707GHzのいずれか)または8GHz 帯のTerra衛星(8.2125GHz)またはAqua衛星(8.160
GHz)である。標準の追尾対象衛星はNOAA衛星であ
る。その理由は,①NOAA衛星は12号から18号まであ り,実験の授業時間内に上空に飛んでくる確率が高いこ と,②NOAA衛星の電波が1.7GHz帯で,10mφパラボ ラ ア ン テ ナ の 電 力 半 値 幅 が1度 で あ り,8GHz帯 の 0.25度と比べて広く,追尾しやすいこと,のためである。
図1.実験用アンテナ制御システム
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1回の衛星の飛行(1パス)は約11〜16分である。これ を1〜4グループに分けて追尾実験を行う。スペクトル アナライザによる受信波形を携帯電話のカメラで撮影し,
制御パソコンに記録されたPower Meterの値(受信電 波強度)などを表計算ソフトExcelでグラフ化して,追 尾の成功を確認する。
衛星の1パス全体を追尾する場合,ドップラー効果(衛 星が受信地点に近づいてくる時,受信周波数は衛星の送 信周波数より高くなり,衛星が遠ざかっていく時,受信 周波数は衛星の送信周波数より低くなる)が観測される。
写真8.黒板による追尾スケジュールの説明
図2.2line element データの例:2004年12月2日の NOAA17号
図3.軌道計算プログラムの実行結果:2004年12月2日 NOAA17号
写真9.ホスト PC のスケジュール登録画面
写真10.衛星追尾中にスペクトルアナライザによる受信電波波 形などを携帯電話またはデジタルカメラで撮影。
写真11.携帯電話で撮影したスペクトルアナライザによる受信 電波波形:2004年12月2日 NOAA17号(追尾 成 功,セ ン タ ー 周波数1.707GHz,スパン50MHz)
図4.衛星追尾実験結果(Excel でグラフ表示):2004年1月 15日 NOAA17号(1分間のプログラム追尾)。
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すなわち,受信周波数は,衛星が水平線から昇ってくる 時が最も高く,アンテナ仰角が最大の時に衛星の送信周 波数と等しくなり,衛星が水平線に沈んでいく時が最も 低くなる。例えば,NOAA衛星で最大仰角が約60度以 上の場合,スペクトルアナライザで受信波形を拡大して キャリア部分を表示させて観測すると,受信開始直後は キャリアは衛星の送信周波数より約42KHz高い所にあ り,その後,キャリアは徐々に低い方へ動いていき,受 信終了直前にはキャリア は 衛 星 の 送 信 周 波 数 よ り 約 42KHz低い所にある(写真12参照)。
ここで,ドップラー効果によるLバンドでの最大周波 数偏移を求めるためのごく荒い近似計算を紹介する(衛 星が円軌道で動くことや地上局からの仰角と方位角を考 慮した正式の計算法は学生の課題となっている)。今,
衛星の送信周波数をfs=1,700,000KHzとする。衛星が 水平線から昇ってきた時,衛星の進行方向が受信地点に 向かっていると仮定する。衛星の速度v=7.5km/s,電 波の速度=光速c=300,000km/sとする。受信 地 点 で の受信周波数frはfr=fs×c/(c−v)の関係式より,
fr=1700000×300000/299992.5=1700042.5KHzと な る。
すなわち,受信周波数は衛星の送信周波数より,42.5KHz 高くなることが分かる。
5.4 リモートセンシング基礎
4年生後期の実験テーマ!では,衛星リモートセンシ ングについての講義と,加藤研究室開発の衛星データ画 像処理ソフトStShop[11]を用いたLANDSAT(ラン ドサット)衛星データ画像処理実習を行う。LANDSAT 7号2000年6月15日および2001年10月15日データを用い た画像処理実習では,まず,人間の目と同じように見え
るトルーカラー合成画像表示を行い,どれ位の大きさの 物体まで識別できるのか等を確認する(図5参照)。次 に,各バンドの見え方や,種々の3バンド合成カラー画 像表示を実習する。LANDSAT5号1997年1月13日デー タでは,リモートセンシングの有効利用例として,ロシ アタンカー「ナホトカ号」重油流出事故での重油の帯の 検出(普通の処理では見えないものを見えるようにす る)を実習する(図6参照)。
5.5 テラ・アクア衛星 MODIS 受信システム 4年 生 後 期 の 実 験 テ ー マ「"テ ラ・ア ク ア 衛 星
MODIS受信システム」について説明する。本システム
は,図7に示すように,米国NASAが打ち上げた地球 環 境 観 測 衛 星Terra(テ ラ)及 びAqua(ア ク ア)の MODIS(モ ー デ ィ ス:Moderate-resolution Imaging Spectroradiometer:中分解能撮像分光放射計)データ
を,10mφパラボラアンテナで直接受信し,データ処理
及び蓄積し,画像解析するシステムである[4]。Terra は10時30分 頃(±90分),Aquaは13時30分 頃(±90分), 及びそれらの12時間後に高度約705kmで日本上空に飛 写真12.衛星追尾でのドップラー効果の観測:2008年6月30日
NOAA18号(送信周波数1.707GHz,最大仰角76.4度)の受信 波形を拡大してキャリアを表示。スペクトルアナライザの設定 はセンター周波数1.707GHz,スパン100KHz(スパンは写真11 より500倍拡大している)。この写真では,受信終了直前なので,
キャリアの周波数はセンター周波数(=NOAA18号の送信周波 数)より41KHz 低い。
図5.2000年6月15日 の LANDSAT7号,RGB=band 321ト ルーカラー合成画像表示,30m解像度(富山県〜福井県の全体 表示:約横185Km×縦170Km)
図6.1997年1月13日 の LANDSAT5号,band5で の ナ ホ ト カ号重油流出事故の重油の帯の検出(金沢港〜三国町付近を表 示。小松市沖の丸の中に重油の帯がある。)
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5.6 MODIS 画像データ解析
4年生後期の実験テーマ#では,学生所有のノートパ ソコンにリモートセンシング画像処理ソフトER Map- per(評価版,インストール後2週間使用可能)をイン ストールし,MODISのレベル1Bデータを画像処理す る。実験に用いるMODISデータは計1.5GB位になる ので,実験当日までにノートパソコンのハードディスク に約2GBの空きを確保させている。課題として「昼の 3バンド合成カラー表示画像」(図8参照),「250m解像 度画像」,「赤外バンドによる夜の地球画像」,「台風の鳥
瞰図作成」(図9参照),「植物の活性度を調べるNDVI
(正規化植生指数)画像」がある。
来 す る。MODISの 観 測 範 囲 は 幅2,330km,長 さ 最 大 5,400kmであり,空間分解能は250m(Band1,2)と500
m(Band3〜7)と1000m(Band8〜36)の3種 類 あ り,バンドは可視域から赤外域(0.4〜14μm)まで36 バンドある。MODISの観測対象は,雲の性質,放射エ ネルギー束,エアロゾル,気温と湿度,地表面温度,積 雪,土地被覆,土地利用変化,植生ダイナミクス,森林 火災,噴火,海面温度,海色,海氷,などである。筆者 は受信スケジュールの設定と受信データの保存・管理を 担当している。毎日,平均6パス受信し,平均24GBの データをハードディスクに保存している。
図7のシステム構成について説明する。
!10mφパラボラアンテナは,「ACU(アンテナ・コン トロール・ユニット)」によって方位制御され,Terra- MODISとAqua-MODISからの信号を受信する。
"アンテナで受信されたXバンド(8GHz)の信号は,「周 波数変換部」で720MHzの中間周波数(IF信号)に変
換される。
#「MODISレシーバ」は,IF信号を復調してディジタ ル信号に変換し,ビット・シンクロナイザで一次同期を とる。
$復号されたデータを「衛星データ復調装置(フレーム
・シンクロナイザ内蔵)」により画像データ(レベル0,
1A,1Bなど)に変換する。受信のスケジューリング も行うが,SCC(地上局制御PC)とは独立に設定する。
%「衛星データ処理装置」は受信データのカタログ化と 高次データ処理を行う。「データアーカイブ装置」,「衛 星データ解析装置」はデータ保存や画像解析などを行う。
実験では,本システムのハードウェア及びソフトウェ アについて講義と実習を行う。実習では,ソフトウェア のディレクトリの確認,Terra及びAqua衛星の受信ス ケジュールの設定と確認,受信中または処理中の様子観 察,画像データ検索などを行う。
図7.テラ・アクア衛星 MODIS 受信システムの構成図
図8.昼の3バンド合成カラー表示画像の例:2003年10月5日 Terra 衛星,RGB=band 763ナチュラルカラー表示,北陸〜信 越〜関東地方。
図9.2003年9月11日 Terra 衛星受信データによる宮古島付近 の台風14号の立体画像:この立体画像の作成方法は次の通りで ある。雲の表面温度と地表温度が観測できる赤外バンドの MODIS データを用いる。色は,温度に応じて赤〜青の擬似カ ラーを与える。高さは,高度が1000m 高くなる毎に気温が6.5 度下がるという湿潤大気の性質を利用して,観測温度を高さ方 向に与えればよい。
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5.7 実験成果発表会
3年生後期(1月下旬)と4年生後期(12月中旬)に,
学生1人ずつが,実験で得られた成果を教員と受講学生 全員の前でPower Pointにより15分程度発表(質疑応答 を含む)する。教育目標は,内容理解の補強,発表の経 験,発表法の修得である。発表会には大学院生も参加で き,主に教員と大学院生が発表者に質問やアドバイスを する。この発表会は卒業研究発表会のプレゼンテーショ ンの練習にもなっている。この様な実験成果発表会は他 大学では殆ど行われていない。
6.衛星軌道計算プログラム
衛星軌道計算プログラムSatelliteSearchは,①パラ ボラアンテナを用いた衛星追尾に関係する種々の実験に 使えること,②将来の光学式望遠鏡による衛星観測に使 えること,を目的として開発された。第5.3節で述べた 学生実験用の衛星軌道計算プログラムはそのサブセット である。SatelliteSearchは,大家教授のテキスト「衛星 追尾観測の基礎」[7]の基本式(式!参照)を基にし て,更に種々の摂動を考慮し[12−14],相田政則氏の Calsat32(Visual Basic)[15]とSGP系軌道計算プロ グラム(FORTRAN)[16]を参考にして,加藤研究室 の西川裕宣氏(2005年3月修士了)が筆者の指導の下で Visual Basic6.0を用いて作成したものである[8−10]。 プログラム行数は約3,000行,実行ファイル容量は244KB である。計算モデルとして永年項計算モデルとSGP系 計 算 モ デ ル(SGP,SGP4,SGP8,SDP4,SDP8)を 選択できる。
学生実験用の衛星軌道計算プログラムでは,永年項計 算モデルとSGP8計算モデルだけを選択できる。プロ グラム行数は約2,000行,実行ファイル容量は164KBで ある。Lバンド(1.7GHz帯)衛星(NOAA12号〜NOAA 18号)に対しては永年項計算モデルとSGP8計算モデ ルのどちらでも100%追尾に成功している。Xバンド(8 GHz帯)衛星(TerraとAqua)に対してはSGP8計算 モデルでほぼ100%追尾に成功している。
6.1 衛星軌道計算の理論
人工衛星は,図10に示すように,地球の周りを楕円軌 道を描き,周回運動している。人工衛星の軌道の理論式 は,①ニュートンの万有引力の法則F=Gm1m2/r2(F:
衛星に働く引力,G:万有引力定数,m1:地球の質量,
m2:衛星の質量,r:地球の中心から衛星までの距離)
と,②ケプラーの法則(第1法則:衛星は地球をひとつ の焦点とする楕円軌道上を動く。第2法則:衛星と地球 を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である(面積速 度一定)。第3法則:衛星の公転周期の2乗は,軌道の 長 半 径 の3乗 に 比 例 す る。)を 基 に し て 導 出 さ れ る
[7,12−14]。
この軌道は衛星位置を示すベクトル式(春分点赤道面 座標系)で,式!のように表される[7,12]。式!に は衛星軌道を定義する軌道6要素が含まれている。即ち,
軌道面を定める要素:
!軌道面傾斜角(Orbital Inclination) "
"昇交点赤経(Right Ascension) Ω 軌道面内の楕円軌道を定める要素:
#軌道長半径(Semi Major Axis) !
$離心率(Eccentricity) ε
%近地点引数(Perigee) ω 軌道において時刻tにおける位置を定める要素:
&平均近点離角(Mean Anomaly) M 但し,実際にインターネットのCeles Trak WWW(http : //celestrak.com/)で入手できる軌道要素は,図11に示 すような「2line element」と呼ばれるものである。軌 道長半径!は,平均運動#から!!"!"!#!の関係式 に て求められる("は定数)。平均近点離角Mは,
ケプラー方程式(E−ε sinE=M)の解の離心近点離角 Eを経て,真近点離角#の算出に利用される。
衛星追尾のためには,基本的には式!の衛星位置と観 測地点を地心座標系に変換し,更に地平座標系に変換し て,パラボラアンテナの方位角Azと仰角ELを求めれ ばよい。しかし,上式から得られる衛星位置は軌道6要 素が与えられた時点(エポック)における衛星位置のみ である。衛星位置はたえず変化しており,現在または未 来の位置を予測するのに時間経過の反映だけでは,衛星 を追尾できる値を得ることは出来ない。正確な衛星位置 写真13.実験成果発表会の様子
図10.衛星軌道と軌道要素の関係
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を算出するために,衛星に及ぶ影響を考慮する摂動論を 用いる。摂動として,永年項(時間の経過につれて一様 に累積する),長周期項(近地点引数の変化に伴ないゆ っくり変化する),短周期項(平均近点離角の変化に伴 ない変化する)がある。摂動として永年項だけを考慮し たモデルが永年項計算モデルであり,更に短周期項と長 周期項を考慮したモデルがSGP,SGP4,SGP8,SDP4,
SDP8計算モデル[16]である。
作成した衛星軌道計算プログラムSatelliteSearchで は,2line element(図11参照)の各要素を用いること により,これらの摂動も含めて軌道計算できるようにな っている。なお,2line elementの各要素の解説は[17]
が詳しい。図11のエポック(元期)の数値05028.90385670 の意味は,UT(Universal Time:世界標準時)で2005 年の1月1日から数えて28.90385670日(即ち2005年1 月28日21時41分33.2秒UT)であることを示す。時間の 計算には修正ユリウス日[18]を用いている。
(注)摂動について説明する。地球重力の変化,太陽や 月などの引力,大気の抵抗,太陽の光圧,地球の自転軸 の変化などさまざまな力が衛星に働く。これらの力の大 きさは,中心力(衛星から地球の中心へ向かう引力)に 比べて1000分の1以下と微小であるが,衛星の軌道を 徐々に変化させる。この微小変化のことを摂動(pertur- bation)と言う[12]。対象物体に対する摂動を考慮す る近似手法を摂動論と言う。
6.2 衛星追尾プログラムに対する要求精度
10mφパラボラアンテナの電力半値幅は,Lバンドで
1.0度,Xバンドで0.25度である。追尾が難しいのは電 力半値幅の狭いXバンドの方である。ここで,Xバンド 衛星追尾に必要な精度を見積もってみる。例えば高度 705kmの地球観測衛星Terra/Aquaは,図12のように 運動している。地球半径が6370kmなので,この軌道の 円 周 は,2×π×(6370km+705km)=44453.536km で あ る。Terra/Aquaの 軌 道 周 期 が98.9分 で あ る の で,1秒 間 に 移 動 す る 距 離 は,44453.536km/(98.9×
60)=7.491kmである。1秒間に変化する角度は,衛 星 が 地 上 局 の 真 上 を 飛 ん だ 時,tan−1(7.491km/705
km)=tan−1(0.0106255)=0.6088度 と い う 計 算 が 成 り立つ。これは,1秒間に約0.61度の変化,即ち目視で 太陽のほぼ直径分変化することを意味する。アンテナの 電力半値幅の観点から考えてソフトの精度は,最低でも 0.3度以内を保たなければならない。また,時間的にも 0.5秒以内の誤差でなければならない。
6.3 SatelliteSearch 計算による追尾実験の結果 実験の結果,Lバンド衛星の追尾では,どの計算モデ ル(即ち,永年項計算モデル,SGP,SGP4,SGP8,SDP 4,SDP8計算モデル)でも100%追尾に成功した。Xバ ンド衛星の追尾の場合は,SGP8計算モデルが最良で,
ほぼ100%の割合で追尾できた[9,10]。なお,Xバンド 衛星の追尾の場合,計算の時間間隔(従って,パラボラ アンテナを制御する時間間隔)が1秒の場合,スペクト ルアナライザで受信電波を観察すると,受信強度が1秒 周期で変動した。計算の時間間隔を0.5秒とすると,電 波の受信強度の周期的な変動はなく,強い電波が受信さ れた。このことは第6.2節の最後に説明したことを実験 で確認したことになる。即ち,計算の時間間隔は,Lバ ンド衛星追尾の場合は1秒でよいが,Xバンド衛星追尾 の場合は0.5秒以下でなければならない。
7.おわりに
本稿は宇宙関連分野の大学教育の1つの手本を示すこ とを目的として,宇宙通信工学科における宇宙通信・リ モートセンシング関係学生実験について詳述した。特に 1行目 衛星識別番号U 打上げ年と番号A エポック 平均運動変化率 00000‐0 ドラグ 0 9256
2行目 衛星識別番号 軌道面傾斜角 昇降点赤経 離心率 近地点引数 平均近点離角 平均運動 周回番号3 図11.2line element の例(Terra 衛星)と意味
図12.衛星の軌道半径の説明図 式!
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パラボラアンテナを使った実験(第5.3節,第6節)は 他大学にも参考になると思われる。第5.3節の衛星追尾 実験で記したドップラー効果については,中学,高校の 理科や物理の授業などに参考になると思われる。また,
携帯電話を実験に利用する理由は第5.1節に記してある。
宇宙通信工学科は2005年3月に最初の卒業生を送り出 し,現在(2008年9月)までに4回卒業生を送り出した。
学生は本文で紹介した実験実習に熱心に取り組んできた。
学生は着実に成長し,例えば毎年1月末に開催される卒 業研究発表会のプレゼンテーションを見ても,実験成果 発表会の経験が生かされており,本文で紹介した実験実 習の教育効果が確認されている。
参考文献
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[2]加藤芳信: 大学における宇宙通信・リモートセ ンシング関係学生実験 ,第26回北陸三県教育工 学研究大会福井大会・第29回全日本教育工学研究 協議会北陸大会発表論文集,B-6,pp.48-53(2005- 03)
[3]加藤芳信: 大学における宇宙通信・リモートセ ンシング関係学生実験 ,教育システム情報学会 30周年記念全国大会講演論文集,E2-7,pp.485-486
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[6]加藤芳信,青山隆司,中城智之: 宇宙通信工学 実習 ,福井工業大学宇宙通信工学科4年テキス ト(全331頁)(2005-04)
[7]大家寛: 衛星追尾観測の基礎 ,福井工業大学 宇宙通信工学科3年テキスト(2003-04)
[8]西川裕宣,加藤芳信: Visual Basic6.0を用い た衛星軌道計算ソフトウェア ,平成16年度電気 関係学会北陸支部連合大会講演論文集CD-ROM,
CP-53(2004-09)
[9]西川裕宣: Visual Basic 6.0を用いた衛星軌道 計算プログラムと衛星追尾実験 ,平成16年度福 井工業大学大学院電気工学専攻修士論文(2005- 02)
[10]加藤芳信,西川裕宣: 人工衛星軌道計算プログ ラムの改良とパラボラアンテナによる衛星追尾実 験 ,平成17年度電気関係学会北陸支部連合大会 講演論文集CD-ROM,C-37(2005-09)
[11]加藤芳信,稲田昌恭,小田祥継,奥山誠,藤田裕 介: 各種衛星CD-ROMデータ(BSQ並び)画 像処理プログラム−雲量と陸域・海域に着目した 画 像 表 示 の 検 討− ,福 井 工 業 大 学 研 究 紀 要,
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[12]飯田尚志: 衛星通信 ,第2章 衛星の軌道と 姿勢,オーム社(1997-02)
[13]長沢工: 天体の位置計算 増補版 ,地人書館
(1985-09)
[14]長沢工: 軌道決定の原理 ,地人書館(2003-05)
[15]相田政則:Calsat32のページ", http : //homepage1.
nifty.com/aida/jr1huo̲calsat32/index.html
[16]Felix R. Hoots and Ronald L. Roehrich :
"Spacetrack Report Number 3 : Models for Propagation of NORAD Element Sets", http : //
celestrak.com/NORAD/documentation/spacetrk.
pdf(1988−12)
[17]フランクリン・アントニオ N6NKF(JAMSAT 日本アマチュア衛星通信協会訳): 軌道要素の 解説 ,http : //www.jamsat.or.jp/keps/kepmodel.
html
[18]馬目洋一: ユリウス日(Julian Day),
http : //homepage1.nifty.com/manome/astrology /julian.html(修正ユリウス日の計算式記載)
Experiments on Space Communication and Remote Sensing for University Students
Yoshinobu KATO
Key words :student experiment, space communication, remote sensing, parabola antenna,satellite orbit calculation program, satellite tracking, NOAA, LANDSAT, Terra, Aqua, MODIS, image processing, experiment result symposium, academic education
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