題点 : ドイツ法との比較の観点から(3・完)
その他のタイトル Die Rechtslagen und Probleme der
Organtransplantation in Japan : aus der Sicht des Rechtsvergleiches mit dem deutschen Recht (3)
著者 山中 敬一
雑誌名 關西大學法學論集
巻 70
号 6
ページ 1597‑1686
発行年 2021‑03‑01
URL http://doi.org/10.32286/00023707
法規制の現状と問題点
――ドイツ法との比較の観点から――( 3・完)
山 中 敬 一
目 次
は じ め に
Ⅰ.臓器移植と脳死論議の史的展開
Ⅱ.臓器移植・脳死論議の最近の展開
Ⅲ.脳死説への批判とその現状
Ⅳ.臓器移植をめぐるその他の主要論点の概観
Ⅴ.臓器移植の現状・課題および展望(以上75巻⚔号)
Ⅵ.ドイツ語圏における最近の脳死論議
Ⅶ.ドイツ移植法における脳死規定と脳死判定
Ⅷ.わが国における脳死説と脳死判定(以上75巻⚕号)
Ⅸ.ドイツにおける臓器摘出の要件と同意(以下本号)
Ⅹ.ドイツにおける臓器摘出・仲介・移植システム
Ⅺ.わが国における臓器移植システム
Ⅻ.ドイツにおける臓器移植システムの問題点
.ドイツ移植法における生体移植の問題点
.わが国における生体移植の規制 ま と め
Ⅸ.ドイツにおける臓器摘出の要件と同意 1.臓器提供者の同意に関する諸方式の意義と特質
移植医療は、他人(生体ないし死体)からの臓器移植によって治療する医療で あり、移植のための臓器の提供があることが前提である。臓器提供については、
もちろん、それを認めるには一定のルールのもとでなければならない。そこで、
臓器提供の原則的許可条件として不可欠なのは、提供者がその身体と自己の死 体となった後の侵襲に対する自己の処分権を考慮すると、その提供者の意思を
尊重することである。その意思(同意)をどのように、ないし、どれ程尊重す るかを決定するには、提供者の自己決定権と、難病に悩み治療を望んでいる患 者の臓器の移植による治癒(健康回復)の利益との衡量を考慮した結果が反映 する。各国には、提供者の自己決定権を基調とするとしても、臓器の調達の困 難性を解消する観点などからさまざまな同意の方式が考えられている。ここで は、まず、それらの方式について検討を加えておこう427)。
⒜ 同 意 方 式(Zustimmungslösung)
移植のための臓器の調達は、他人の身体の侵襲によって、あるいは他人の死 体を損壊して獲得されるのであるから、医師や臓器移植希望者が無制限に行え るわけではない。その基本原則は、臓器提供に対する提供者の「同意」である。
この同意方式には、狭い同意方式(あるいは厳格な〔strikte〕同意方式)と拡大さ れた同意方式とがある。「狭い同意方式」(enge Zustimmungslösung)は、臓器の 死後摘出に関する提供者自身の意思のみを考慮して原則的な臓器摘出禁止を解 除する。その意思は、書面によって表示されることが要求される。したがって 近親者の意思は考慮されない。これをとる立場からは、提供者の自己決定権が その中心に位置するとされ、人間の尊厳を保証する必要条件だともされる。他 方で、しかし、この方式では、提供者が少なくなり、待機リストに登録された 患 者 が 多 く な る428)。 こ れ に 対 し て、「拡 大 さ れ た 同 意 方 式」(erweiterte Zustimmungslösung)は、同じく、提供者の同意の存在を要件とするが、生前の 死者の意思が書面で記録されていない場合、それで終わりではなく、その時点 から近親者が、意思決定過程に加わる。拡大された同意方式429)は、この点で、
427) これらの方式については、vgl. Neuefeind, a.a.O., S. 82 ff.; Rosenberg, a.a.O., S. 40 ff. 後者の文献では、ほかに「動機づけ方式」(Motivationslösung)が挙げられて いる(S. 44 f.)。この方式は、義務づけることなく、臓器提供の覚悟を促すもので ある。臓器を提供しようという動機づけは、提供しようとする者が、臓器のあせっ せんにあたって、自分が臓器を必要とするとき、優先されるという点にある。義務 ではなく、将来提供を受けられる見返りとしての義務(Obliegenheit)である。
428) Vgl. Neuefeind, a.a.O., S. 83. ドイツでは、1995年11月の Bünndnis/90 とグリュ ンネンの連合の法案と1996年の連邦議会議員の決議案がこれを基礎にしている。
429) この方式は、1997年の臓器移植法⚓条、⚔条で採用された。
狭い同意方式と異なる。近親者は、死者によって表示された可能性のある意思 を伝える伝達者の役割を果たす。近親者は、死者の表示された意思を知らない 場合、その死者の推定的意思に従って決定する。加えて、ドイツの臓器「移植 法」⚔条⚑項⚔文は、近親者が患者の推定的意思を尊重するだけではなく、そ の意思が同一のものだとされる限りで、その意思がそれを決定するにつき基準 とならなければならないというように解釈されうる。拡大された同意方式は、
イギリス、アイルランド、アメリカ合衆国、オーストラリアおよびデンマークで 採用され、改正されるまでは、ドイツ臓器移植法が採用する方式でもあった430)。
⒝ 反対意思表示方式(Widerspruchslösung)
この方式は、同意モデルとは異なり、臓器提供を原則的に許されたものとみ なすことから出発する。すなわち、臓器提供は、社会の利益であるという考え 方を基礎とする。この方式は、臓器提供に積極的でない人の無精な性格を利用 し、臓器提供を拒否するためには、積極的に行動をとらなければならないとす る。臓器移植が公衆のなかで広く賛成を集めているのを実際に体現するために はこの方式が有効だというのである431)。反対意思表示方式にも、「狭い方式」
と「拡大された方式」とがある。前者の方式では、記録の採られた、提供者自 身でなされた反対の意思表示のみが、基準となる。スペイン、フランス、オー ストリア、ポーランド、ポルトガルおよびスイスでこの方式が採用されている。
親族の反対意思の表示をどう扱うかは原則として自由である。しかし、実務で は、これらの国でも「拡大された反対意思表示方式」が適用されている。拡大 された反対意思表示方式は、親族の反対意思をも考慮するのであるが、死者が 生きている間に何ら反対意思を表示していなかったとき、親族が拒否権を提示 しなかった限りで、その臓器を摘出できる。オランダでは、この反対意思表示 方式が2016年に僅かに上回って432)採用された。ドイツでは、違憲の疑いがあ
430) Neuefeind, a.a.O., S. 83.
431) Neuefeind, a.a.O., S. 85.
432) 賛成75票、反対74票だった。Kerstin Schweighöfer, Niederlande : Umstrittenes Gesetz zur Organspende (https://www.deutschlandfunk.de/niederlande-umstritte nes-gesetz-zur-organspende).
り一般には否定されている。
⒞ 通 知 方 式(Informationslösung)
この方式は、臓器摘出にあたりまず死者の記録にある意思を基準とするが、
それがない場合、親族の了解を求めるのではなく、摘出が予定されていると通 知するだけにする。親族は、設定された意思表示期間のうちにその反対意思を 表示しなければならない。そうしないと、臓器提供は許可される。この方式は、
1990年にドイツ・移植センター(Deutsches Transplantationszentrum)とドイツ 臓器移植社団法人(Deutsche Stiftung Organisationstransplantation e.V.)によって 議論の俎上に上げられた。親族の臓器摘出の決断を軽減する方式といわれるが、
実際に軽減されうるかは問題であるといわれている。実際には、何もしないの は、反対するよりは心理的に楽なので、親族を「臓器の確保」へと密かに誘導 するものであるといわれている433)。この方式は、反対意思表示方式の修正形 態と位置づけることができる。フランス、イタリア、ラトヴィア、リヒテン シュタイン、スウェーデンおよびノルウェー、キプロスで採用されている434)。 しかし、実際には、この様式が採られていたとしても、それらの国々でも親族 の同意が採られているという435)。
⒟ 宣 言 方 式(Eklärunglösung)
法律上定められた意思決定義務を根拠とするこの方式を支持する者は、この 方式によって、成年に達したすべての国民が臓器提供というテーマと少なくと も一回は向き合うこと、ならびに、自身の臓器提供に関する意思決定をするこ とを期待したいとする。その反対意思ないし同意は記録され、それが考慮され る。これによって親族は、意思決定をする負担から逃れられる。そうだとする と、このモデルは、患者の権利との関係で憲法上の正当化を必要とする。ドイ ツでは、違憲の疑いがある。基本法は、意思決定しないという権利も認めてい るはずだからである。国民が、決断したくないというときに、宣言を強いるこ
433) Neuefeind, a.a.O., S. 87.
434) Neuefeind, a.a.O., S. 87.; Rosenberg, a.a.O., S. 44.
435) Neuefeind, a.a.O., S. 87.
とから問題が生じるのである。このモデルの賛同者は、受動的な臓器移植賛成 者を能動的な提供者に変えることを望んでいるのであるが、このモデルが今ま でどこかの国で採用されたということはない。
⒠ 緊急避難方式(Notstandslösung)
この方式は、待機リスト上の患者の立場を、緊急に避難が必要な緊急避難類 似の危難状況とみなす。これを根拠に、臓器摘出は、「集団的介入権」の意味 において常に認められるべきだというのである。この方式は、臓器入手に対す る社会の関心が最優先され、提供者の自己決定権は完全に背後に下がるという ものであり、誰もがレシピエントになりうるのだから、全国民が、「汝が与う るよう我与う」(do ut des)という関係であり、臓器提供の社会的義務を負う とするのである436)。臓器を入手することの社会的利益に、最優先性が認めら れ、提供者の自己決定権は、完全にその背後に退く。このモデルの基本思想は、
全国民を「汝が与うるよう我与う」という原理に従い、社会的義務とみな す437)点にある。誰もが、潜在的にはレシピエントになりうるからである。こ の方式によっても臓器提供者の数は増えることが予想される。この方式は、ブ ルガリアで採用されていたが、2007年に EU に加盟するにあたって反対意思 表示法式に代えられている。ドイツでも1973年・78年のベルリン代議院の CDU 会派の法案の内容もこれであったが、これが日の目を見ることはなかっ た438)。
⒡ 意思決定方式(Entscheidungslösung)
ドイツにおける臓器移植法439)は、2012年11月⚑の「意思決定方式の規制に 関する法律」によって、従来の拡大された同意方式から、「意思決定方式」に
436) Neuefeind, a.a.O., S. 88.
437) Neuefeind, a.a.O., S. 88 f.
438) Neuefeind, a.a.O., S. 89.
439) ドイツ移植法については、臼木豊「ドイツ臓器移植法について」商学討究51巻⚔
号(2001年)(同・(町野・長井・山本編)『臓器移植法改正の論点』(2004年)に収 録、同「ドイツ移植法(TPG)の現状」『刑事法・医事法の新たな展開』(町野古 稀)(下巻・2014年)209頁以下。
変更されたとされている。これによって、臓器移植法⚑条⚑項⚑文の目的を実 現するため、臓器移植を促進することが目論まれたのである。臓器移植法施行 10周年の報告書で、連邦政府は、同意方式に修正を加えることはまだ必要でな いとしていたことから考えると、この方式の変更が、改正の目玉に据えられた ことは驚きであったとも言われている。この改正の背後にあるのは、とくに、
多く情報を与えられた市民ほど臓器移植に同意する傾向があることを強調する 健康啓蒙活動に関する連邦センター(Bundeszentrale für gesundheitliche Aufklä- rung)の調査である。臓器提供をしたいとする市民(75%)と実際に臓器提供 証明書を保有する者(約25%)の間の数字の上での乖離をこれによって少なく しようというのが、立法者の望むところであった。
この意思決定方式を理解する上で、まず、重要なのは、この方式は、(移植 法⚓条・⚔条における)拡大された同意方式を補完するに過ぎないものであって、
これとは切り離されたまったく新しい方式ではないということである。この方 式は、「事前切替モデル」(Vorschalt-Modell)と特徴づけられることがあるが、
むしろ「アピール前置方式」440)(appellative Befassungslösung)の方が実体を現 わしているかもしれない。従来の方式を、意思表示の振興策を含めた啓蒙活 動441)の強化へと拡充しようというのが、この方式の狙いである。市民に臓器 移植をもっと身近に感じてもらい、その意思表示行動に結び付けようというの である。市民に移植するよう「熱心に迫り」、この流れで「放っておいてほし い」という権利を認めないというものである442)。移植法⚒条⚑項aの⚕文が、
440) Hans Neft, Reform des Transplantationsgesetzes, Weichenstellung für eine bessere Patientenversorgung, in : MedR 2013, S. 82, 84 ; Neuefeind, a.a.O., S. 92.
ドイツで言われているわけではないが、分かりやすく特徴づけて命名すると、「意 思表示誘導方式」とでも名付けるべきかもしれない。
441) わが国でも、移植法の改正後、その17条の⚒に、「移植医療に関する啓発等」と 題して「国及び地方公共団体は、国民があらゆる機会を通じて移植医療に対する理 解を深めることができるよう、移植術に使用されるための臓器を死亡した後に提供 する意思の有無を運転免許証及び医療保険の被保険者証等に記載することができる こととする等、移植医療に関する啓発及び知識の普及に必要な施策を講ずるものと する」という規定が設けられて、啓蒙が図られた。
健康保険組合や保険会社が市民に臓器移植の決断をするよう働きかけるよう規 定している。これらの機関が⚒年毎に臓器提供証明書と必要な意思表明資料を 16歳以上の市民に送付するというのである。しかし、これらも、旧法を基本的 に変更するのではない。けれども、臓器提供証明書や意思表明の資料を送付す るというのは、義務を具体化するものであって、新しい。これに加えて、啓蒙 の対象も、改正によって具体化された。一般的な情報を与えるのではなく、特 殊な問題について、例えば、生前に行うリビング・ウィル(事前指示)の意義 や親族の補充的な決定権について与えるのであり、それは、死者と親族の意思 の意図せぬ齟齬をなくすためでもある。
次に、意思決定の要件根拠については、特に、移植法では、その同意や反対 の意思を、名前を挙げた特に信頼できる人に譲ることを記録する可能性が認め られている。そこでは、同意は16歳以上で、反対意思は14歳以上で有効となる。
書式は問わないが、意思は外部に表示される必要がある。移植法⚓条⚑項⚑号 によれば、臓器摘出について患者が意思表表示しなかった場合には、「補充的 法律構成」が必要となる。そのような法律構成は、⚔条で、近親者ないしその 他の者を意思決定過程に引き入れると規定している点にみられる。しかし、⚔
条⚑項によると、その他の人の関与を、有効な書面による同意か有効な書面に よる提供当事者の反対が存在する場合、禁止している。その場合には臓器提供 者の意思のみが基準となる。あくまで、本人の意思が優先するのである。しか
442) Neuefeind, a.a.O., S. 250. それは、市民への訴えかけにより、このテーマを今ま でと別の倫理的次元にまで高めるものであり、意思表示に対して法的義務を課そ →
→ うといったものでもない。しかし、この方法が市民に道徳を押し付けるものではな いかは、一考を要する。その技師保険組合(Techniker-Krankenkasse=TK)の 2008年のキャンペーンでは、「人から人へ」と名打たれ、「臓器移植を行う学校」と いうスローガンが掲げられ、クラスで臓器移植のキャンペーンが張られた。これに 批判的な人には、偏向した教育と言わざるをいえない。その他、人気歌手や俳優を 使った運動が何回も催されている。提供者を「英雄視」(Heroisierung)するもの である。なお、TK の元会長、ノルベルト・クルーゼン自身は、息子から肝臓提供 の申し出があったとき、肝臓は、部分的に摘出してもその後大きくなるが、28歳の 息子のことを心配してそれを断ったという。Vgl. Fittkau, a.a.O., S. 24 ff.
し、近年では書面による意思表示は臓器提供の⚕%にすぎない443)。その他の 12%は、口頭表示によって、当該の推定された提供者の意思が、近親への問い 合わせによって探られている。そのことは、臓器移植の80%以上において提供 者の意思が確実に基礎とされているとは言えないことを意味する。2018年のド イツ臓器移植委嘱財団(DSO)の「年報」によれば、その「臓器提供への意思 決定」に関するグラフによると、「推定的意思」約42%、「口頭による意思」約 37%、「親族」約17%、「書面による意思」約14%である444)。
死者が意思表示をしなかったとき、近親者が引き合いに出される。提供者の 自己決定権との関係で親族の意思決定を参照することをある程度正当化しよう として、移植法⚔条⚒項⚑文は、近親者は、直近二年間に、提供者と個人的な 接触があったときのみ、その権限をもつとする。その際、まず、基準とされる のは、臓器提供者の推定的意思である。しかし、これは、上述のように、事例 のほぼ12%に過ぎない445)。その際、提供者の宗教や、具体的な意思表示とま では言えない生前の言動から、その意思が推測される446)。このような推測が できない場合でも、つまり、提供者の意思を確実に知っている、または推測で きる、というわけではないときにも、近親は、提供に同意し、あるいは反対す ることができる。立法理由によれば、近親者は、「自己の倫理的裁量によって」
意思決定できる。これは、いわば「死者保護権限者」(Totensorgeberechtigter)
の権限をもつもからだと説明される447)。
何人かの同順位の近親者がいる場合、そのうちの一人が関与すれば十分であ る。しかし、近親者の誰かが反対する場合それは考慮される。ある優先的な親 族が相当の時間内につかまらないときは、後位者がその地位につく。近親者と
443) Höfling (Hrsg.), TPG § 4 Rdn. 2, (S. 251).
444) DSO, Organspende und Transplantation in Deutschland 2018, (Jahresbericht 2018), Entscheidung zur Organspende, S. 60. 数字は、グラフ上の位置から推測し たので、「約」と記した。
445) Höfling (Hrsg.), TPG § 4 Rdn. 2, (S. 251).
446) Neuefeind, a.a.O., S. 94.
447) Neuefeind, a.a.O., S. 94.
同列なのは、提供者に「その死まで、特別の個人的つながりをもって明白な形 で寄り添っていた成人」である。それは、たとえば、婚姻関係ではないが、共 同生活をしていたパートナー(Lebenspartnerschaften)を意味している448)。
最後に、「意思表示の種類と範囲」449)については、まず、その意思表示には、
重要な法的効果が伴うので、「法律行為類似の性格」が与えられる。意思表示 者が、弁識能力をもち、取消されていないことを有効要件とする。形式は問わ ない。特定の臓器だけ提供することは認められる(⚒条⚒項⚒文)。レシピエン トの範囲を限定することは許されない。
2.意思決定方式の原則規定
ドイツ移植法の第⚓条、⚔条、⚔条aの条文についてはすでに詳しく紹介し た450)ので、ここでは、ドイツ「移植法」の「意思決定方式」の説明を逐条的 に解説して整理しておく。
⒜ 移植法⚓条
ドイツ「移植法」⚓条⚑項は、「第⚔条または第⚔条aが別の規定をしてい ない限り、次の場合にのみ、許される」と規定し、原則禁止を解除する許容要 件を掲げる。
まず、それは「臓器提供者が摘出に同意しているとき」(第⚑号)である。次 に、許容されない場合を挙げ、「臓器または組織の摘出は、次の場合、許され ない」(第⚒項)とする。第⚑に、「その死亡が判定された人が、臓器・組織移 植に反対していたとき」(第⚑号)である。これは、反対意思を表示している限 り、摘出は許されないとするものであるが、同意もしておらず、反対もしてい ないときは、ここから除かれていることを意味する。この場合については、第
448) Neuefeind, a.a.O., S. 94.
449) Neuefeind, a.a.O., S. 95 f.
450) 本稿(⚒)「Ⅶ.ドイツ移植法における脳死規定と脳死判定」参照。ドイツ移植 法の和訳として、臼木豊訳の資料が公刊されている(臼木・前掲「ドイツ移植法
〈TPG〉の現状」〔資料⚒〕町野古稀〈下巻〉233頁以下)が、本稿ではこの訳とは 独立に訳出した。
⚔条で、一定の条件のもとで「近親者」の同意に委ねられることになる。第⚒
に、全脳死の判定がなければ、摘出は許されないもの(第⚒号)として、脳死 が死体からの移植の前提であることを明確にする。第⚓に、医師の近親者に対 する臓器摘出についての「説明」の必要性を示し、その摘出の「経過と範囲」
の説明の必要性を規定し、さらに、近親者は、医療に関する書類や患者の書類 に対する閲覧権をもつことを定め、さらに近親者が、閲覧の際に「信頼する 者」を召喚する権利を認めた(第⚓号)ものである。それは、近親者の地位の 強化に役立てるためであり、それによって医療文書の質をコントロールできる からである451)。
⒝ 移植法⚔条(他人の同意を伴う摘出)
第⚔条は、「他人の同意を伴う摘出」と題されている。第⚔条も、第⚓条と 並び、脳死提供者からの臓器・組織摘出の中心的規定である452)。第⚔条は、
近親者とその他の者が、臓器・組織摘出に関する意思発見過程に組み込まれる 要件を規定する。
その第⚑項では、次の趣旨の規定を設ける。まず、提供者自身には、書面に よる同意も拒否の意思表示もないとき、臓器摘出しようとする医師は、近親者 に、自分に向けて、患者の意思表示があったかどうかを尋ねなければならない。
このような意思表示が近親者に知られていないとき、医師が臓器摘出について 説明し、近親者の同意が得られたときにのみ、医師は臓器摘出ができる。複数 の臓器を摘出しようとするときは、まとめて摘出されることが要請されている。
さらに、近親者は、その意思決定に当たっては、「臓器・組織提供者の推定的 意思」を考慮すべきである。医師は、提供者の意思を推定するよう指示するこ とが必要である。また、一定期間内に同意を取り消すことができることを書面 で合意することができる。
⚔条第⚒項では、「近親者」の要件について規定する。⚑項に定めた「意思 決定の権限」は、提供者に、死亡前の直近二年以内に個人的コンタクトをとっ
451) Höfling, TPG, 2. Aufl., S. 246 f.
452) Höfling, a.a.O., TPG, S. 250.
た場合のみ、与えられる(第⚑文)。医師は、このことを近親者に尋ねて、上の 事情があるかどうかを判定する(第⚒文)。同等の地位にある近親者が複数いる ときは、その中の一人が、上の事情を充たせば十分である(第⚓文)。しかし、
そのうちの一人が異を唱えたときは、それは考慮される。優先するランクの近 親者と相当期間内に連絡がとれないときは、次順位の近親者の意思決定でよい
(第⚔文)。近親者と同列の地位に並ぶのが、「特別の個人的つながりがあって 明らかに親密な成人」である(第⚕文)。ここで、「近親者」とは、まず、配偶 者または登録した共同生活者(パートナー)(Lebenspartner)、次に子供、その次 に両親、兄弟姉妹、祖父母である453)。
さらに、その第⚓項では、「臓器・組織提供者となりうる者が、臓器または 組織の摘出について、特定の者に委ねていたとき、その者が近親者の地位に就 く」とし、第⚔項では、「医師は、近親者ならびに⚒項⚕文(親密な成人)およ び⚓項に従った人(特定の受任者)の関与の経緯・内容および結果を記録しな ければならない。近親者ならびに⚒項⚕文および⚓項によって示された者は、
閲覧権をもつ」とする。
以上の「移植法」の臓器提供者に関する基本理念は、臓器提供を行おうとす る者の書面による意思表示が第⚑の基準であるということである。その書面に よる同意ないし拒否の意思表示がない場合にのみ、近親者ないしその他の者を、
医師が引き込むことができるというものである。この後者の原則があることで、
第三者の同意による提供者からの臓器摘出が可能となり、いわゆる「拡大され た同意方式」を採用したのである454)が、提供者の自己の意思決定(連邦健康大 臣ゼーホファーの言葉によると「市民の自己決定権」)が最優先であることが強調さ れているのである。2012年の改正により、この市民の臓器提供の意思表示を誘 導する「意思表示法式」が採用されたことは、すでに述べたところである。
近親者のみならず、「その死に至るまで特別の個人的なつながり」において 明らかに近くにいた人からも、医師は、その推定的意思を聴き取ることができ
453) Höfling, a.a.O., TPG, S. 257.
454) Höfling, a.a.O., TPG, S. 250.
る(⚔条⚒項⚕文)。これによって、近親者がいないときも、婚姻と家族以外に もその最も重要な個人的・社会的つながりをもつ多数の人に考慮すべき推定的 意思を聴き取る範囲を拡大して、近親者がない場合を臓器提供の可能性を広げ ているのである。
「記録および閲覧」に関しては、第⚔条⚔項が、「責任ある医師は、摘出の意 思決定に対する近親者の関与の際に、話し合いと質問の経過・内容・結果を記 録しなければならない」とする。その他の者の場合も同様である(⚔条⚒項、
⚓項)。このような包括的な記録義務は、当該の臓器摘出に向けての意思決定 の手続を確保し、また、それを跡づけることを可能にするのに役立つ。記録は、
同時に、医師の活動の保全メカニズムと統制メカニズムをも果たす。
⒞ 移植法⚔条a(死亡した胚および胎児からの摘出)
2007年の改正によって導入された「移植法」⚔条aは、「死亡した胚および 胎児からの摘出」と題され、第⚑項では死亡胚または胎児の臓器・組織の摘出 の要件を規定する。① 胚または胎児の死亡が、医学の知見の水準に相応する ルールに従って判定されるとき、② 胚または胎児を懐妊した女性が、医師に より臓器または組織の摘出について説明を受け、それらの摘出に書面で同意し、
さらに、③ 侵襲が医師によって実行されるとき、である。
人からの「臓器」の摘出手術については、医師によって摘出されるのが原則 である(⚓条⚑項⚑文⚓号)。これに対して、⚓条⚑項⚒文では、「組織」の摘出 は、他のその資格をもつ者によっても責任をもって、また医師の専門的指示に したがって実施される」と定める。本条、すなわち、⚔条aでも、⚓条⚑項⚒
文が妥当するという。すなわち、胚や胎児からの「組織」の摘出も、「他の資 格をもつ者」によって意思の専門的指示にしたがって実施される。説明と同意 を得る時期については、死亡の判定の後であってもよいとする。
第⚒項では、「医師は、⚑項⚑文⚒号にしたがって、説明と同意の経緯・内 容および結果を記録しなければならない。胚または胎児を懐妊した女性は、閲 覧権をもつ。当該女性は、その信頼する者を召喚することができる。同意は、
書面をもって、電子的にまたは口頭で取り消すことができる」と定める。
第⚓項では、「第⚑項の場合には、胚または胎児を懐妊していた女性は、記 録、逆追跡、およびデータ保護の目的にのみ、提供者となることができる」と する。新設された⚔条aの全構造と文言選択は、死亡した胚・胎児を、人格を もたない生命のない細胞の塊、または、その胚・胎児をもって妊娠していた女 性の体の単なる一部であるとはみなさないという立法者の意思を明確にしてい る455)。第⚔条aが表わしているのは、死亡した胚・胎児の場合も、開始早々 である生命と、それ独自の尊厳と、まさに死亡した人格と、そして、その残っ た人間の身体という抜殻と関係していることである。したがって、⚔条aの⚓
項は、逆追跡可能性およびデータ保護の目的から、その胚・胎児を懐妊してい た女性を提供者として挙げているのであって、胚・胎児自体であるとしている わけではないことを明確にしているのである。
Ⅹ.ドイツにおける臓器摘出・仲介・移植システム 1.摘出・移植手続の概観
移植手続については、移植法第⚔章に規定がある。そこでは、摘出手続(⚙
条⚑項)と移植(⚙条⚒項)と臓器の仲介(12条)とが厳格に分離されている。
責任の範囲を組織上分離するのは、利益衝突および濫用を予防するためであ る456)。
実務においては、死亡判定の前から、すなわち、治療中止ないし「死亡させ る」方針が固まった段階で、すでに臓器保護治療が始まる。この段階で脳死が 近いと推定されるのである。提供の可能性が認められる場合、病院は、コー ディネート機関であるドイツ移植財団に申告する(⚙条a⚒項⚑号)。その後、
脳死が診断される。臓器摘出の許可を与えることのある親族に説明される。臓 器摘出のあと、レシピエント保護の根拠から、その臓器が移植に適合している ことを確認する標準的検査が行なわれる。
コーディネート機関は、必要なデータを仲介機関たるユーロ・トランスプラ 455) Höfling, a.a.O., TPG, S. 294.
456) Neuefeind, a.a.O., S. 102.
ントに送付する457)。仲介機関は、すでに各臓器に対する統一待機リスト上に 挙げられた、適合するレシピエントを選ぶ。統一待機リストは、ユーロ・トラ ンスプラント連合に属する移植センターの様々な待機リストからまとめられた ものである。その後、臓器は、レシピエントが申告した移植センターに提供さ れる。センターは、厳格に確定された期限内に臓器を受け取る。同時に、第⚑
順位の患者をセンターが拒否したり、期限が過ぎたりしたときに、第⚒順位の 患者を治療しているセンターに提供することができるようにする。この場合、
修正手続ないし即決手続に移る。レシピエントが決定されたのに続いて、提供 者からの臓器の摘出が行われる。臓器の保存措置を施した後、レシピエントが 待ち受けるそれぞれのセンターに移送される。臓器移植が終了後、匿名化され、
その結果が、摘出病院、提供者の親族ならびにユーロ・トランスプラントに連 絡される。
2.臓器提供から移植への手続の基本的仕組み
ドイツにおける臓器の提供から移植に至るまでの経過過程において、適正・
迅速に摘出された臓器を、どのようにしてそれを必要とする患者に届け、分配 するかが重要な課題である。移植のための臓器が慢性的に不足し、待機リスト に登録されている移植希望者が多いという現状から、提供者から摘出された臓 器という資源を効率的に、かつ公正・公平に分配するシステムの構築がその課 題を果たすための前提である458)。以下では、そのシステムに係る諸機関の役 割・任務を中心に簡潔に概説するが、まず、臓器の摘出から移植に至るまでの 手続を分けて検討しよう。それには三つの手続がある459)。① 標準手続、② 修 正手続、③ 即決手続である。
457) Neuefeind, a.a.O., S. 103.
458) この臓器分配制度の意義と歴史について、vgl. Sven Wedlich, a.a.O. (Zuteilung von Lebenschancen), S. 3 f. 臓器分配における正義ないし公正の概念の分析として、
その135頁以下参照。
459) Späth, a.a.O., S. 60 ff.
⒜ 標 準 手 続
まず、標準手続は、提供臓器が、具体的な患者に向けて提供される分配方法 であり、数的にも最も多い。一方で移植に関与する機関と、他方で決定プロセ スに関する透明性の確保の間の利益衝突を避けるために、ドイツでは摘出から 移植までの関係機関の一連の―摘出、仲介、移植―過程の中で、責任は、多く の機関に分配されている。つまり、摘出病院、コーディネート機関、臓器移植 センターおよび仲介センターである。これと異なるのが、多くのヨーロッパ諸 国で採られているセンターに向けられた分配方法で、この方式の場合、臓器は、
臓器移植センターに提供され、担当の医師が、適合する患者のために受取り、
移植する。
⛶ 臓器移植センター
患者の目から見た場合、臓器を受け取る過程が始まり、かつ終わるのは、臓 器移植センター460)である。ドイツには約50程のこのようなセンターがある。
臓器移植センターとしての病院の機能は、許可制である。各ラントの省庁が許 可を与える。患者が、例えば、肝臓移植が必要だとの診断を受けた場合、臓器 移植センターに問い合わせる。その診断を検討し、移植条件が充たされたとき、
センターは、患者を受け入れる。センターは、そのようなすべての患者のため に待機リストを作る義務を負う。受け入れの決定は、医学の知見の水準に適応 するルール、特に必要性と成功の見込みという基準に従って行われる。立法者 は、より詳細なルール作りを「連邦医師会」に委ねた。「待機リスト作成指針」
によって指針が作られる。この待機リストへの採用は、その後臓器を受け取る ためには患者には極めて重要である。これが、仲介機関、つまりユーロ・トラ ンスプラント、での登録に結びついているからである。これに対して、どのよ うな順番で臓器が分配されるのかという問題にとっては、この待機リストは意 味をもたない。むしろ臓器移植センターの各待機リストが連邦全体に統一リス トとして用いられる。
460) これについて、vgl. Wedlich, a.a.O., S. 31 ff.; Neuefeind, a.a.O, S. 109 ff.
⛷ 摘 出 病 院
潜在的な臓器提供者が死亡した病院が、摘出病院であるが、摘出病院は、人 工呼吸器を備えた集中治療室をもつ病院であり、ドイツでは2016年には1,260 の病院がこの条件を充たしている461)。死後移植の臓器摘出は、移植センター と摘出病院の地域の連携作業であるということができる。摘出病院に関する中 心的な規定は、移植法⚙条aおよび⚙条bにある。⚙条a⚒項によれば、病院 は、臓器提供者となる患者の脳死を診断する義務を負う。脳死の認定基準も連 邦医師会の指針に従い、死亡は、二人の医師によって判定される。患者の脳死 判定の後、摘出病院は、移植法11条による死後臓器提供のためコーディネート 機関、つまり、ドイツ移植財団(DSO)に脳死者の存在を通知する462)。通知義 務の基準となるのは、第⚑に、医師の判断に基づく、死亡者の提供に対する適 性、第⚒に、臓器を集中医療措置により移植可能な状態に保持する可能性であ り、そして、第⚓に、摘出がそれまでに反対に遭ってはいなかったという事実 である。その他、摘出病院は、2012年の移植法改正以降、少なくとも、その任 務を充足するために専門的な資格をもった一人の移植受任者(Transplantati- onbeauftragter)を雇用しなければならない(⚙条b⚒項)。その受任者は、とく に、摘出病院が、⚙条a⚒項⚑号に従って、その義務を履行することに対して、
また、死亡者の親族に適切な看取りを行わせ、法的義務の充足のための摘出病 院における管轄と行為の段取りを確定し、さらに、摘出病院において、医師や 介護士が、臓器提供の意義とプロセスについて定期的に報告を受けることに対 して、責任をもつ463)。このような機能を果たすことから、移植受任者は、現 場における専門家の役割を引き受け、同時に、提供病院とドイツ移植財団との 間の重要な結合機関の役割を引き受ける。従来、移植受任者については、いく つかのラント法で規定されていたに過ぎなかったが、連邦法で規定することが 461) ド イ ツ で、2014 年 に は、1,326 の 摘 出 病 院 が あ り、そ の う ち 38 の 大 学 病 院
(Universitätsklinik)、124の神経外科のあるクリニック(Klinik)、1,164の神経外 科のない病院(Krankenhäuser)があったという(vgl. Neuefeind, a.a.O., S. 105)。
462) Späth, a.a.O., S. 63.
463) Neuefeind, a.a.O., S. 105 f.
目的となっている。それによって提供者を効率的に確保しようというのである。
模範となるのは、移植受任者の投入で成果を上げているスペインとオーストリ アである。
摘出病院の効率を上げるには、移植受任者制度の拡充によるのみならず、病 院内連携も改革によっても、その達成が見込まれる464)。とくに、改革の焦点 は、ほかの補充的な提供潜在力を調査し、臓器提供の組織とプロセスを改革し、
実際にも、その潜在力を活かし切ることに向けられている。摘出病院は、すべ ての可能な提供者を確認し、コーディネート機関に報告しなければならない。
しかし、全体としては、病院(Krankenhaus)の約10%のみがこの義務を守っ ているにすぎない。その他、クリニック(Klinik)は、40%のみがこれに参加 している。法律上の命令の履行に向けての誘因がないことや、それに参加しな くてもサンクションが課されていないことにも、このような非難されるべき状 況の背景を認めることができる。潜在的提供者を活かし切れていないことの組 織上の欠陥の改革は、病院とコーディネート機関の間のより適切な権限分配、
ならびに長い提供プロセスの進行の適正化によって解決されうるであろう465)。
⛸ 移植センター
移植センターとは、死亡した提供者の臓器の移植について、ならびに生体か らの提供臓器の摘出と移植について許可された、病院、または病院の付属施設 である(10条⚑項⚑文)。移植センターは、摘出病院と共同して「公共の任務」
としての臓器提供の実現に参画する(11条⚑項⚑文)。このような共同作業は、
コーディネート機関によって、移植センターとの枠組契約を通じて組織される。
摘出病院との協力義務と並行して、ドイツ臓器移植財団との関係における義務 も存在する(11条⚔項⚑文)。個別のセンターは、需要に応じた、履行可能で、
経済的な供給を保証し、また、臓器移植の必要な質を確保するために、臓器移 植のどこに重点を置くかを決めなければならない。その他の義務として、待機 リストの作成、ユーロ・トランスプラントへのデータの伝達(10条⚒項⚑文⚑
464) Neuefeind, a.a.O., S. 107.
465) Neuefeind, a.a.O., S. 108.
号)が規定されている。待機リストへの採用については、10条⚒項⚒号によれ ば、医学の知見の水準に相応するルールに従って、特に臓器移植の必要性と成 功の見込みに従って、決定されなければならない。
待機リストを扱う際の指針違反(後述の「待機リスト操作事件」)が発覚して以 来、立法者は、患者のデータ調査に関する移植センターの義務並びにその記録 と仲介の義務を付け加える必要があると考えた。臓器移植法10条⚓項⚑文によ れば、データは、医師または受任者のひとりによって収集され、記録され、伝 達されなければならない。その医師達には、報告の際に、当該患者を有利に取 り扱うために、その健康状態についての不正な申告を収集し、記録し、仲介す ることは、禁止されている。立法理由によれば、新3項は、下された決定の真 性を保証し、そのようにして公正な配分手続を確保するはずである。
現在、ドイツには、136の移植プロラムをもつ47の移植センターが認可され ている。この数は、近年あまりにも多すぎると評価されている。クリニックに おける140の移植プログラムにおける約4000の移植事例において、それは、プ ログラムごとに見ると、毎年約29の臓器移植のみを意味する。2012年には七つ に一つの移植センターが、⚕件未満の移植を実施している。経済的理由のみか らセンターを減らすことに賛成されるのではなく、開始場所の地理的密度がす でに基本的構造の問題として議論されている。部分的には、15のセンターのみ が必要だと考えられている。
⛹ ドイツ臓器移植財団(DSO)
ドイツ臓器移植財団は、コーディネート機関として、すなわち、提供プロセ スと臓器仲介の間を結びつける機関として、移植システム内部で中心的役割を 果たす。2012年の改革の目的は、その管轄をむやみに広げることなく、各機関 を強化することであった。
最高健康保険金庫組合(Spitzenverband Bund der Krankenkassen)、連邦医師会、
ドイツ病院協会または病院経営者連邦団体が共同して、ドイツ臓器移植財団と いう機関を設立し、または委嘱するよう授権された。ドイツ臓器移植財団は、
連邦健康省によって認可された、私法上の契約によって、任務遂行を委嘱した。
DSO は、私法上の財団(Stiftung)であり、組織は、理事長、財団評議員、専 門審議員から構成される。理事長は、業務執行機関である。財団評議員は、監 督機関である。2013年の規約改正の一環として委員会の新規定により、国の代 理人の関与の規定が設けられ、コーディネート機関に公法上の影響力が強化さ れた。フランクフルト(アム・マイン)にセンターが置かれ、その他に、独立 の行政機関として七つの地域下部機関がある。
移植システムの機能については、臓器摘出と移植は、コーディネート機関に よる関与があったときのみ許される。コーディネート機関は、「マネージャー」
として提供プロセスの経過とそれに必要な関係者の協力をオーガナイズする。
とくに、臓器摘出の条件が充たされているかを明らかにする。その業務の重要 な部分領域をなすのは、例えば、脳死判定、報告義務の遵守、もしくは親族と の話し合いなどにあたっての摘出病院の援助である。これらの業務を遂行する ため、改正の後、連邦医師会の「指針」を考慮した上で、法律上詳細に規定さ れた手続上の指令を発する。それは、書面による指令であり、そこには、使用 されるべき資料や方法、および予想される結果などを含めた、特別の手続をと るべきことなどを記載する。
コーディネート業務の監督について一言しておこう。従来不足していた財団 の監督に対する移植法の改革手続継続中続いた批判によって、健康省の立法委 員会は、監査権を強化せざるを得なくなった。財団の活動にあたり、財団は、
その経済性の原則についてまでコントロールされる。移植法11条⚑項⚖文に 従って、委任者に対する、あらゆる基本的な財政上・組織上の決定に関する報 告義務が存在する。
総じて、この監督業務に関しては、改正によって契約で定められていたもの が、法律の次元まで引き上げられたことが特筆されるべきであり、監査業務に つき、法律上の文言に基礎を置くことになったことが重要である。
⛺ ユーロ・トランスプラント
ユーロ・トランスプラントとは、移植法12条⚑項1文によって法律上定義さ れた「仲介機関」である。仲介義務のある臓器の分配に関する決定は、仲介機
関であるユーロ・トランスプラントが独占するところである。この機関が関与 せずに臓器を移植する違反には、ドツでは過料を課され(⚙条⚒項⚓文、20条⚑
項⚔号)、ドイツの移植センターは、その限りで、ユーロ・トランスプラント に拘束されている。ちなみに、ドイツにおける移植医療のシステムの特徴は、
臓器提供およびそれに続く仲介と、臓器移植を分離する点に現れている466)。 コーディネート機関が、提供者の側に立って、それぞれの摘出病院との共同作 業によって、移植が成功するべく準備作業をするのに対して、ユーロ・トラン スプラントは、法律上・契約上の規定を基礎に、そしてとくに連邦医師会の指 針を基礎に、具体的な仲介の決定を行うのである。
ユーロ・トランスプラントについては、仲介機関契約(ET-契約)によって、
臓器仲介について定められているが、最も重要な規定内容は、移植法12条⚔項
⚒号から⚘号に規定されている。2012年、2013年の改革の後、契約は、改革に 合わせた上で引き継がれ、移植法11条と12条に規定された。しかし、実のとこ ろ、移植法の発効前に、すでにドイツ移植センターは、国際仲介を一括して含 めていた467)。ユーロ・トランスプラントの活動は、1989年のドイツ臓器移植 財団との契約に基づくものであった。
ユーロ・トランスプラントは、1967年にオランダの免疫学者、ジョン・ファ ン・ロード(正式名:Johannes Josef van Rood:1926-2017)により、多数の臓器 移植センターの協力体制を作ることによって、移植制度の改善と効率化に資す る意図で創立されたものである468)。それによって期待されたのは、次の三点 である。第⚑に、臓器移植センター間の協力によって臓器提供の数を増やし、
緊急の場合に臓器提供を受けられるようにし、第⚒に、待機リスト上の人数を 増やして、各レシピエントにとくに自分に適合する臓器を受け取る確率を上げ ることである。第⚓に、それによって、当該の移植センターに臓器がないとき も、臓器の損失の無駄を防ぐことができることである。これによって、年数を
466) Neuefeind, a.a.O., S. 130.
467) Neuefeind, a.a.O., S. 122.
468) Späth, a.a.O., S. 63.
経るに連れ、ユーロ・トランスプラントのネットワークを大幅に拡大すること ができたのである。今日では、ドイツのほか、ベルギー、クロアチアなど⚘ケ 国に加盟機関ができている。DSO に報告が行くと、そこで当該臓器をいわゆ る「マッチ手続」(Match-Verfahren)へと移す。その臓器が、待っている患者 に手続が提示される順番を決める基礎は、いわゆる「マッチ・リスト」(match list)である。このマッチ・リストには、しかし、臓器を待つすべての患者が 掲載されているわけではない。その具体的な臓器が患者に提供されないという 事情もありうるような、例えば、血液型が適合しない場合や、センターにとっ て、①「そのセンターのプロフィル」の樹立のオプションがあり、かつ、② 臓 器提供を受ける患者が「提供者プロフィル」を樹立する可能性をもつ場合があ る。①の場合、臓器受け入れの一般的基準を定式化することが許される。②の 場合、個々の患者に関しても、相応の説明のあと、そのような可能性が開かれ る。例えば、提供者の(65歳といった)年齢制限、肥満症(BMI469),30以上)、 脂肪肝(40%以上)などである。提供臓器がこれらのプロフィルに合わない場 合には、その患者は、そのマッチ手続に参加しない。血液型が提供者と適合す る患者で、そのセンターの、および提供者のプロフィルに、提供される臓器が 合う患者にとっては、マッチリストは、具体的なその臓器が個々の提供臓器を 待つ患者の提供される順番を決めるものである。
臓器は、まず、提供者の出自した国の患者に提供される。そこに適合するレ シピエントが見つからない場合、他国の患者にも提供される。ドイツの移植セ ンター(TPZ)の待機リストに記載された患者につき、臓器提供の順番につい てどのような基準が決定するかは、臓器移植法12条⚓項⚑文の規定に従って決 められる。それによれば、仲介義務のある臓器は、仲介機関により、医学の知 見の水準470)に従って、特に成功の見込みと緊急性によって、適合する患者に
469) body mass index, BMI=体重(kg)/(身長(m)2。欧米では、BMI≧30の者を肥満 とする。ちなみに、わが国では、22を標準体重とする
470) 医学の知見の水準の確定は、臓器移植法16条⚑項⚑文⚕号によれば、連邦医師会 の指針の課題である。
仲介されるべきである。
これと並んでユーロ・トランスプラント(ET)は、独自のハンドブックを編集 している。これを「ET-マニュアル」(ET-Manual)という。これにも臓器仲介の 基準が記載されている。例えば、肝臓の分配については、その第⚓章と第⚕章に 記載されている。このハンドブックは、待機リストの作成、臓器提供および仲介 についての国内規定と国内指針を翻案し特殊化することを目的とする。ET-マ ニュアルと12条⚓項の国内規定と、連邦医師会の指針との関係については、ET- マニュアルの「前書き」に次のように書かれている。「臓器の仲介には、国内 規定のみが法的拘束力をもつ。このハンドブックの仲介ルールの記述は、法的 に拘束力のある国内規定による。必要な限りで、それらの規定は、ET によっ て、このハンドブックのなかで特殊化される。そのような特殊化された ET 規定違反は、国内規定に反しない限り、国内規定違反とはみなされない」471)。
連邦医師会の指針は、マッチ・リスト上の患者に対して臓器提供の順番に関 し独立したシステムを規定する。それは、三段階の「緊急性段階」を導入する。
第⚑段階は、いわゆる「High Urgency(HU)(=高度緊急)」患者である。それ に属するのは、切迫して生命を脅かす状況にあり、移植しなければ、数日中に 死亡する患者である。このような患者は真っ先に優先される。このような患者 の間での順番は、緊急性段階 HU の内部での待機リストによる。第⚒段階は、
「組合せ臓器移植」である。適応と成功の見込みを考慮して、検査の結果、そ れが特に急を要する組合せであれば、腎臓以外の臓器との組み合わせによる肝 臓移植の優先的分配が行われる。第⚓段階は、いわゆる「選択される患者」
(elektive Patienten)である。臓器提供の順番にとり、MELD スコア472)(肝臓病 の最終段階モデル)が決定的であるが、この段階で、順番の操作が可能なのであ る。このスコアが高ければ高いほど、迅速に、患者は標準手続の中で臓器を提 供される。通常、このスコアは、血清クレアチン(mg/dl)、血清ビリルビン
(mg/dl)およびプロトロビン時間の実験室の値から算出される。そこでこれは、
471) ET-Manual, Kapitel 1, S. 3. Vgl. Späth, a.a.O., S. 66.
472) MELD=Model of End Sage Liver Desease.
labMELD とも表される、⚖と42の間の値を示し、当該患者が三ケ月以内に死 亡する統計上の確率がどれほど高いかについての情報を与える。値が⚖の場合、
その率は⚑%、30では49%、スコアが42では、100%である。マッチ・リスト 手続では、最大値としてスコア40が用いられる。その値が40を超える場合も、
40に減じられる。
最後に、仲介決定の監督・監査の問題に一言しておこう473)。ユーロ・トラ ンスプラントに対する監査可能性は、極めて重要であるが、その機関の地位が、
外国の私法上の財団であり、ドイツの公法に直接服することはないことから、
大きな困難が生じるのである。ユーロ・トランスプラントは、契約上の合意に 基づいてのみ、臓器移植法12条⚓項⚓文の規定に、ならびに、その他の、合意 を見たドイツの仲介機関の統制・監査可能性に拘束される。仲介活動の最初の 予防的な監査は、連邦健康省による仲介契約の認可要件である。
⒝ 修 正 手 続
修正手続について、簡単に紹介しておく474)。これは、「限定的にしか仲介で きない臓器」に関する特殊な仲介手続である。病歴に悪性腫瘍が存在し、薬物 中毒、ウィルス性肝炎、敗血症、髄膜炎がある場合である。これは、次の即決 手続とは異なり、標準手続から独立の臓器配分手続ではない。ここでは、臓器 の仲介は、標準手続のルールの原則に従って行われる。ただ、移植センターの 事前の説明を前提に、完全に「健康」ではない臓器の提供でも受け入れると、
意識的に決意した患者に提供されるものである。
⒞ 即 決 手 続
この手続の目的は、標準手続によっていたのでは、適合するレシピエントに 分配できない臓器の期限切れを防ぐためである。そのためこの手続は、「救急 分配」(Rettungsallokation)とも表される475)。仲介機関は、患者の循環の不安 定が発生し、または業務上・組織上の根拠から臓器の損傷の危険が迫り、提供
473) Neuefeind, a.a.O., S. 128.
474) Späth, a.a.O., S. 71.
475) Späth, a.a.O., S. 72.