会社法立法の日米比較 ( 3 ・完)
← 行 政 主 導 モ デ ル と司 法 依 存 モ デ ル ‑
玉 井 利 幸
日 次
Ⅰ.は じめに
Ⅱ. デラウエア会社法の特徴
A.デラウエア会社法の特徴 :自己抑制的な立法 と司法‑の依存 B.デラウエア会社制定法の立法過程
C.デラウエア会社制定法の立法ポ リシー ( 以上第5 8 巻第 1 号) D. デラウエア裁判所 と判例法理の特徴
Ⅲ. 日本の新会社法の特徴
A.新会社法の立法ポリシーの特徴
B.新会社法の立法過程 ( 以上第5 8 巻 2・3 合併号) C.立法ポリシーの変化 :法務省令の変質
Ⅳ.会社法立法の 日米比較 A.相 異 点
B. 類 似 点
V.終わ りに ( 以上本号)
Ⅱ. 日本の新会社法の特徴
C. 立法ポ リシーの変化 :法務省令の変質
新会社法 の立法 ポ リシーの特徴 は, 行政の主導 に よる積極 的 な成文化 にあ る。
行政主導 とい うポ リシー は,立法 レベ ルで は法務省令へ の委任 の多用 に,行政 レベ ルで は法務省 令の実質化 に表 れてい る。 旧商法 で も法務省令へ の委任 は行 われていたが,行政主導 の積極 的 な成文化 とい う立法 ポ リシー を反映 して,新 会社法下の法務省令 は質 ・量 ともに大 き く変化 した。法務省令‑ の委任事項 の
〔 1 39 〕
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数 と法務省令の条文数が大幅に増加 し,実質的な内容 をもつ規定が過半数 を超 えるようになった。新会社法の行政主導の立法ポ リシーを象徴す るのはこの よ うな法務省令の変質であるので,以下では,なぜ法務省令 は変質 したのかを考 える。
法務省令が変質 した理由を説明する仮説 はい くつか考 えることがで きる。そ れについては既 に別稿で考 えたので
197),以下ではその概要 を簡単 に述べ る。
別稿では,法務省 は公共の利益 を増進 させ るために法務省令 を用 いた とい う法 務省性善説的な観点か らの説明 と,法務省 は自己の利益 を追求するために法務 省令 を活用 した という法務省性悪説的な観点か らの説明を試みた。
性善説的な観点か らの説明は, まず,法務省の巻 き返 しである
198)。法務省 は新会社法の制定 によ り会社法の規制横和 を目指 したが,内外の様 々な利益集 団の圧力によ り,法務省が想定 していた以上に 「 緩い」会社法が制定 されて し まった。法務省が理想 と考 えるよ りも緩和 されす ぎて しまった会社法 に規律 を 取 り戻すために,法務省令 を用いた とい う仮説である。 しか し,会社法の立案 ス タッフの一人が語 るように,経済界のニーズに最大限応 えうるように会社法 の作成 を行 ったようであるので
199), この仮説は説得的でないか もしれない。
もう一つは,法制作 コス トの削減である
200)。明確で詳細 な規定 を作成すれ ば,会社関係者の法的帰結についての予測可能性 を高め うる。 しか し,立法 レ ベルでの法制作 には,法内容決定のための調査 コス トや法文作成 コス トだけで な く,審議会での審議や内閣法制局の審査,国会審議 など時間的 ・手続的なコ ス ト,利害関係人の利害の調整 コス トなど,直接的 ・間接的な様 々なコス トが かかる。時間的な制約 を克服 し, この ような制作 コス トを削減するために法務 省令 に委ねる部分 を大 きくした。 自由な会社法制の下で,会社 関係者の便宜の ために明確 な指針 を与 えるべ く,いわば行政サー ビス的な観点か ら,詳細で明 1 97 ) 玉井利幸 「 会社法の柔軟化における法務省令の役割 ‑なぜ法務省令は変質 し
たのか‑」商学討究 57 巻 1 号 ( 2 006 年)11 5 ‑1 3 3 頁参照。
1 9 8) 玉井 ・前掲注 1 97・11 7 ‑1 21 頁参照。
1 99 ) 稲葉 ・郡谷対談 1 77 頁参照。
20 0) 玉井 ・前掲注 1 97・1 21 ‑1 25 頁参照。
会社法立法の日米比較 ( 3・完) 141 確 な規定 を提供 しようとしたが,立法 レベルで会社法のあ らゆる問題について 詳細で明確 な規定 を作 ろうとするとコス トが嵩むので,法務省令 を活用 した と い う仮説である。
法務省性悪説的な観点か らも説明が可能か もしれない
201)。行政組織 は,一 般 に,公益 目的だけでな く,組織それ 自体の利益 と組織の構成員の利益の拡大 を図るためにも行動す るとい う仮定 を前提 にすると,法務省の組織それ 自体 と 構成員の利益 を図るために,法務省令が積極的に利用 された とい う仮説 を作 る ことがで きる。まず,法務省の組織の利益の拡大か ら考 えてみる。行政組織 は, 立法,司法 とい う他の国家作用の一部 を侵食 した り,他の省庁の所管事項に侵 入す ることによって,組織の利益 を拡大することがで きる。法務省令へ実質的 な事項 を委任 し,法務省のポ リシーによ り会社法の問題の解決 を提供 しようと しているのは,立法 と司法の作用の一部 を収奪する試み と考 えることも可能で ある。
次に,法務省の構成員の利益拡大である。会社法の立案スタッフは会社法の 立法過程 に大 きな影響 を与 えているので,会社法の立法 を通 じた構成月の利益 拡大 を考 える際は, 立案ス タッフの利益 も含めて考 えるべ きである。 立案スタッ フの利益 は,立案ス タッフが属 している専門職業界の利益 と,立案ス タッフ自 身の個人的な利益の二つに分け られる。 まず,専門職業界の利益である。立案 ス タッフには,局付検事 などの公務員だけでな く,弁護士や会計士が加 わって いた。そのため, これ らの専 門職業界の利益が会社法立法 に反映 されている可 能性がある。会社法 を過度に詳細で複雑 にすれば,それを利用するためにリー ガルア ドバ イスの需要 を高めることがで きる。法務省令 を用いて複雑で過剰 な 成文化 を行 うことによって, 自らの提供するリーガルサー ビスの価値 を高め, 需要 を増加 させ ようとしたのか もしれない。次 に,立案ス タッフの個人的な利 益である。会社法が詳細で複雑であればあるほど,立案ス タッフは,短期的に は,会社法 に関する優位性 を保つ ことがで きる
202)。立案ス タッフが 自己の リー 201 )玉井 ・前掲注1 97・1 2 6‑1 3 2 頁参照。
202 ) 西田章 『 弁護士の就職と転職』商事法務 ( 2 007 年)91 ‑92 頁参照。
14 2 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号
ガル ・プロフェッション市場 における価値 を高めるために, 法務省令 を多用 し, 過度に複雑 な会社法 を作成 したのか もしれない。
Ⅳ. 会社法立法の 日米比較
これまで述べて きたように,デラウエア会社制定法は成文化 に消極的である
。規定 を設けなかった り暖味な文言 を用いることによって,事前のポ リシーの選 択や具体的な法内容の提供 を可能な限 り回避 し,裁判所の判断に委ねる傾向が ある。 この ような,ポ リシー選択や法の具体的意味内容の提供が事後的に行わ れることが予定 されている法準則 はス タンダー ド
203)と呼ばれる。デラウエ ア 会社制定法はス タンダー ドを志向する傾向がある。それに対 し, 日本の新会社 法は,会社 に関する法的事象 を予め可能な限 り成文化 し,事前 にポ リシー選択 と具体的な法内容の決定 を行お うとしている。 この ような,法の具体的な意味 内容が事前 に与 え られている法準則 はルール と呼 ばれ る。 日本の新会社法 は ルールを志向す る傾向が強い。 このパー トでは,ス タンダー ド志 向 とルール志 向 とい うそれぞれの立法 ポ リシーの違 いが法の運用機 関や私人 に与 える影響 や,その ような立法ポ リシー と会社法 を取 り巻 く制度的な要因 との関係 につい て考 えることにする。その前提 として, まず,ルールとス タンダー ドの一般的 な特徴やそれぞれのメ リッ トとデメリッ トを簡単 に述べ る。
A. 相 異 点
1 . ルール とスタンダー ド
ルール とス タンダー ドについてはい くつかの定義があるが
204),本稿 では,
203) ここまでは、ルールとスタンダー ドという語を本文で述べた意味で用いる場合 は
,「 ルール」と 「 スタンダー ド」と表記 してきたが,以後は釣括弧をつけずにルー ルとスタンダー ドと表記する。
204) 論者 によってルールとスタンダー ドの定義 には違いが見 られる。例 えば,
Ehr l i c h 教授 とPo s ne r 教授は,裁定者が法的帰結を導 き出すのに考慮することの
会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 143 法 の具体 的 な内容が事前 に与 え られてい る ものが ルールであ り,事後 的 に与 え
られ る ものがス タ ンダー ドであ る とす る Kapl ow 教授 の定義 に従 ってお く。
ルール とス タ ンダー ドの特徴 や,それぞれの メ リッ ト ・デメ リッ トを考 える には,法 に関与 す る 3 者 の観点か ら,場 面 を分 けて考 えるのが便 宜であ る。法 に関係す るの は,立法等 の法規範 の制作 に関与す る者 ,作成 された法 を もとに 意思決定 と行動 を行 う者 ,裁判所 な ど法規範 の適用 ・執行 を行 う者 の 3つ に大 別す るこ とがで きる。 この ように,法の制作者 ,利用者 ,執行者 の観 点か ら, 法 の制 作 段 階,利 用 段 階,執 行段 階 の 3つ の場 面 に分 け て考 え る こ とにす
る
205)。で きる事情が多いか少ないかで両者を区別 している。法的命令が,限定された事実 の存在によって確定的な法的帰結を導 き出す ように裁定者 を拘束 している場合は, その法的命令はルールであ り,裁定者により大 きな裁量を与えている場合がスタン ダー ドであるとする 。 I s aacEhr l i ch& Ri c har dA.Pos ner , AnEc o no mi cAn al y s i s o fLe galRul e ma hi n g ,3I.LEGALSTUD.257,258( 1 974) .Ayr es 教授 もEhr l i chと Pos ner 教授の区別に従っている
ol anAyr es , Pr e l i mi nar yTho u ght so nOpt i mal Ta i l o r i n g o fCo nt r ac t u alRul e s ,3S.CAL. I NTERDI S . L . J . 1 ,4( 1 993) .
Sul l i van 教授は,明確 に規定 された事実の存否に応 じて明確な帰結を出す ように 裁定者を拘束 している法的指令がルールであるとしている。ルールの場合は,裁定 者は,背景的な原則 ( pr i nc i pl e)や政策 ( pol i cy)などの価値の選択がで きず,戟 定者の裁量は事実の判断に限定されている。一方,裁定者が背景的な原則や政策を 事実に直接適用することを認めている法的指令がスタンダー ドであるとしている。
スタンダー ドは,裁定者にすべての関連する要素 または全体の状況を考慮に入れる ことを認めるため,裁定者の裁量は大 きい。 Kat hl ee nM.Sul l i van ,TheJu s t i c e s o f Rul e sa ndSt a n da r d s ,1 06HAR ∨ .L REV.2 2,5 81 59( 1 992 ) .
Kapl ow教授は,裁定者の判断が依拠する事実の多寡 を複雑性 ( c ompl exi t y) と 呼んで,分析の中に取 り込んでいる。 Loui sKapl ow , Rul e sVe r s u sSt a ndar d s IAn Ec o 7 Wmi cAn a l y s i s ,42
DUKEL J .55 7,565 ‑ 67( 1 9 92) .
205 )単純化のため,同 じ法的問題を取 り扱 う法準則 をルールとして規定 した場合 と, スタンダー ドで規定 した場合 を想定 して比べている。実際には,問題の性質によっ て事前の制作 コス トや執行のコス トは変 りうる。ルールとスタンダー ドについての 詳細 な分析 は, Kapl ow, s u p7 1 a nOt e204を参照O本文で法の制作,利用,執行の 3 段階に分けて比較 しているの も ,Kapl ow の 3 期間モデルに倣っているか らである
。Kapl ow教授の分析 については,森田果 「 最密接 関係地法 一国際私法 と " Rul es ver s usSt andar ds " 」 ジュリス ト 1 3 45 号 ( 2 007 年)66 ‑7 0 頁 も参照。なお,玉井利幸
「 会社法の 自由化 と事後的な制約 ‑デラウエア会社法 を中心 に
‑ (2)」一橋法学
3 巻 3 号 ( 2 00 4 年)11 29 ‑ 45 頁 と11 3 0 頁の注1 1 9,1 1 31 頁の注1 2 0 と注1 21 で引用 され
ている文献 も参照。
144 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号
制作段階で,ルール とスタンダー ドを簡単に比較 してみる。ルールは,ス タ ンダー ドに比べ ると,制作のコス トが多 くかかる。事前 にポ リシー選択 を行い 法の具体的内容 を決定する必要があるので,ルール作成のためには, どの よう な内容が望 ましいかを調査する必要がある。ある法的問題 について利害の対立 する集団があ り, どの ようなポ リシーを採用するべ きかについて対立あるとき は,利害関係者の利害 を調整 し,予めポ リシーの対立 を解決 しなければな らな い。法の内容 を成文化す るための費用 もかかる。それに対 し,スタンダー ドは, ルールに比べ ると,事前の法の制作 コス トは低 い。法の具体的内容の決定やポ
リシーの選択 を先送 りで きるので,ルールの ように,具体的な法内容決定のた めの情報収集や調査 は必要ない。利害対立のある問題であって も,予め利害関 係者の間の調整 を図る必要性 は乏 しい。法の具体的な内容 を明確 に規定す る必 要がないので,成文化のための費用 もルールに比べ ると大 きくない。
次に,利用段 階である。法 を利用する私人にとっては,ルールは,法の具体 的な内容が提示 されているので,法的帰結の予測可能性が高 く,意思決定 を行 いやすい。法の制作者 として も,法のメ ッセージが利用者 に伝 わ りやすいので, 制作者の意図 した行為がなされることが期待 しやすい ( コンプライア ンスを期 待 しやすい) 。それに対 し,ス タンダー ドの場合,法 を利用する私人にとっては, ポ リシーの選択や法的意味内容の具体化がなされてお らず,法的帰結の予測可 能性が低 いので,意思決定が困難か もしれない。そのため,望 ましい行為が抑 制 されて しまうか もしれない
206)。ス タンダー ドの暖味 さを補 うために当事者 が 自発的に取決めを結ぶ ことがで きるか もしれないが,そのためには専門家の 良質なア ドバ イスが必要であるか もしれない。ルールと比べ ると,ス タンダー ドの場合 は,法の利用者が法の制作者の意図 とは合致 しない行動 を取 る可能性 が高いか もしれない。
最後 に,執行段階である。ルールの場合,法の執行 もそれほど費用 をかけず に容易 に行 うことがで きる。法の内容が明確 に提示 されているので,私人は訴
2 0 6 )抑制的な効果は,スタンダー ドが禁止的な強行法規である場合は強くなりうる。
会社法立法の日米比較 ( 3・完) 145 えを提起す る必要がないか もしれない。訴えがなされて も,裁判所 は,事実 を 確定 し,既 にルールで示 されている法的内容 に従 っているか どうかを判断すれ ばよい。ス タンダー ドの ように,執行機関が事案に応 じて事後的にポ リシーの 選択 を行い法創造 を行 う必要はない。それに対 し,ス タンダー ドの場合 は,辛 後的な事実の発生 を待 って,ポ リシーの選択や法の内容の確定が行われるので, 事案に応 じた柔軟 な解決 を導 くことが可能になるが,その分スタンダー ドの執 行 にはコス トがかかる。私人が訴える私的 コス トだけでな く,裁判所が事件 ご
とに事案 に応 じた法創造 を行 う必要があるので,公的 コス トも高い。
法の発展 について も影響 を与 えうる。ルールの場合,法の具体的内容が予め 成文で提供 されているため,裁判所の判断の集積 による法の発展 には制約があ り,法制作者が法の発展 において果たす役割が大 きい。事件の発生 を待つ必要 はな く,法制作者が必要 と判断すれば,法内容の変更 を行 うことがで きる。そ れに対 し,スタンダー ドの場合,法の発展 は裁判所の判断の集積 によってなさ れるので,裁判所の果たす役割が大 きい
207)。但 し,法の発展 には事件の発生 と訴えの提起が必要であるので,適切 な事件がなければ,法の発展 は停滞する か もしれない。
ルール とス タンダー ドにはこの ような特徴があるので,ルールが望 ましいか 否かは,事前 にポ リシー選択 と法内容の確定 を行 うコス トを上回るベ ネフィッ トがあるか どうかに依存す る。そのため,ルールが望 ましい問題領域 は,一般 に,その間題 に直面 し法の適用 を受ける人が多 く,問題の性質が同質的で,顔 繁 に発生す る問題領域である。 この ような問題領域であれば,ルール作成の コ ス トを上回るベネフィッ トが得 られる可能性が高い。逆 に,スタンダー ドが望 ましい問題領域 は,一般に,頻繁に発生せず,事件 ごとの事案が大 きく異 なる, 少数の人に しかあてはまらない問題領域である。このような問題領域であれば,
207) 法の具体的な意味内容が明確になるには,一つの事件では足 りず,い くつもの
事件の発生と裁判所の判断の集積が必要になるかもしれない。法の意味内容が明確
になり,法が発展 していくためには,多 くの事件 と多 くの人柱が必要である。徹底
した人柱システムである。
146 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号
事前にコス トをかけてルールを作成するメ リッ トは乏 しい。特 に,事件 ごとに 特殊性 ・特異性が大 きい問題であれば,ス タンダー ドの利点 を生かせ る可能性 が高い。
これ らの ことを前提 に,以下では,ス タンダー ド志向のデラウェア州 とルー ル志向の 日本 とい う会社法立法の選好の違い と,それぞれの置かれた制度的要 因 ・事実的背景 との関係 について述べ ることにする。その際 も,ルール とスタ ンダー ドの違いが法の作成者,利用者,執行者 に異 なった影響 を与 えうるので, 法の制作段 階,利用段 階,執行段 階の 3 段階に分 けて考 える。
2. 法の制作段階
法の制作者
208)に とってのルール とス タンダー ドの違いは, まず,事前の制 作 コス トである。ルールを作成す る場合 は,事前 にポ リシー選択 を行い具体的 な法内容 を提供する必要があるので,事前の制作 コス トは高 くなる。一方,ス タンダー ドを作成する場合 はそれ らを先送 りで きるので,事前の制作 コス トは 低 くなる。そのため,ルールとスタンダー ドの どち らが選好 されるかは,法の 制作者 に事前の法規範作成 コス トの負担能力があるか,負担す るインセ ンティ ブがあるか どうかによって決 まる
。デラウェ ア州の場合,既 に述べ た ように
209),制度的要因によ り,事前の法 規範作成の コス ト負担能力は低 い。デラウェア州は非常 に小 さな州であ り,立 法 に費やす予算や人員が乏 しいため,ルール主体の会社制定法 を作成するコス トの負担が重いか らである。同様 に,デラウェア州 にはルール制作の コス トを 負担するイ ンセ ンティブ も乏 しい。州間の会社設立誘致競争 とい うアメ リカ特 有の制度的要因があるか らである。州の会社制定法は州の 「 製品」であると考
20 8) 典型的には立法府であるが,省令のように立法府が作成するのではない法規範 も存在する。さらに,形式的な制定機関だけでなく,会社法の制定に実質的な影響 力をもつ組織や集団 ( デラウェア州の場合はデラウエア法曹団体,日本の新会社法 の場合は法務省の立案スタッフ) も含めて考えるべきなので,法の制作者という表 現を用いている。
209 ) 前の Ⅱ.C.3 を参照。
会社法立法の日米比較 ( 3 ・完) 147 える と,その製 品の需要者 は会社 であ り,会社法 とい う製品の購入 は設立地の 選択 に よって行 われることになる。販売 ・購 入の対価 は設立免許税である。 こ の ような構造があるので,デ ラウェ ア州が 白州の利益 を最大化す るためには, 会社制定法の製造 コス トを最小化す る必要がある。 ルール主体 の制定法 を作 る ためにはコス トがかか るので,ス タンダー ドを選好す るイ ンセ ンテ ィブが強い。
デ ラウェ ア州の場合,最適 な レベル よ りもス タンダー ドが選好 されているか も しれない。
それに対 し, 日本の場合 は,立法のための コス トを負担す る能力 は高い。 デ ラウェ ア州 と異 な り,国家 レベルでの立法 なので,予算やス タッフの制約 も厳 しくな く,ルールを制作す るための コス ト負担 能力 は高い。 デ ラウェ ア州の よ うに,会社 法の製造 と販売 とい う形での, コス トと利益 の明確 で直接 的な結 び つ きはない。利益 ( 税収)最大化 のためにコス ト最小化 を図る とい う関係 にな いので,会社法 の製造 コス トは意識 され に くい
210)。 む しろ,省 の予算 や人員 を拡大す ることが省 の利益 になる とす る と
211),制作 が容易 で コス トのかか ら ないデ ラウェ ア州 の ようなス タ ンダー ド志 向の会社 法 よ りも,詳細 で複雑 な ルール主体 の会社法の方が予算や人員の拡充が認め られやす く,望 ましいか も しれない。そ うであるな ら,最適 な レベ ル よ りも多 くコス トをかけて会社法の ルール化が行 われた可能性 もある
。法の制作者 に とってのルール とス タンダー ドの もう一つの重要 な違いは,い っ誰がポ リシー選択
212)を行 い具体 的法 内容 を提供す るか とい う点であ る。事
21 0) 但 し,法務省令への委任を多用など,コス ト削減の努力 もある。前の Ⅲ. Cを参
照 。