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会社法立法の日米比較( 3 ・完)

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(1)

会社法立法の日米比較 ( 3 ・完)

← 行 政 主 導 モ デ ル と司 法 依 存 モ デ ル ‑

玉 井 利 幸

日 次

Ⅰ.は じめに

Ⅱ. デラウエア会社法の特徴

A.デラウエア会社法の特徴 :自己抑制的な立法 と司法‑の依存 B.デラウエア会社制定法の立法過程

C.デラウエア会社制定法の立法ポ リシー ( 以上第5 8 巻第 1 号) D. デラウエア裁判所 と判例法理の特徴

Ⅲ. 日本の新会社法の特徴

A.新会社法の立法ポリシーの特徴

B.新会社法の立法過程 ( 以上第5 8 巻 2・3 合併号) C.立法ポリシーの変化 :法務省令の変質

Ⅳ.会社法立法の 日米比較 A.相 異 点

B. 類 似 点

V.終わ りに ( 以上本号)

Ⅱ. 日本の新会社法の特徴

C. 立法ポ リシーの変化 :法務省令の変質

新会社法 の立法 ポ リシーの特徴 は, 行政の主導 に よる積極 的 な成文化 にあ る。

行政主導 とい うポ リシー は,立法 レベ ルで は法務省令へ の委任 の多用 に,行政 レベ ルで は法務省 令の実質化 に表 れてい る。 旧商法 で も法務省令へ の委任 は行 われていたが,行政主導 の積極 的 な成文化 とい う立法 ポ リシー を反映 して,新 会社法下の法務省令 は質 ・量 ともに大 き く変化 した。法務省令‑ の委任事項 の

〔 1 39 〕

(2)

140 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

数 と法務省令の条文数が大幅に増加 し,実質的な内容 をもつ規定が過半数 を超 えるようになった。新会社法の行政主導の立法ポ リシーを象徴す るのはこの よ うな法務省令の変質であるので,以下では,なぜ法務省令 は変質 したのかを考 える。

法務省令が変質 した理由を説明する仮説 はい くつか考 えることがで きる。そ れについては既 に別稿で考 えたので

197)

,以下ではその概要 を簡単 に述べ る。

別稿では,法務省 は公共の利益 を増進 させ るために法務省令 を用 いた とい う法 務省性善説的な観点か らの説明 と,法務省 は自己の利益 を追求するために法務 省令 を活用 した という法務省性悪説的な観点か らの説明を試みた。

性善説的な観点か らの説明は, まず,法務省の巻 き返 しである

198)

。法務省 は新会社法の制定 によ り会社法の規制横和 を目指 したが,内外の様 々な利益集 団の圧力によ り,法務省が想定 していた以上に 「 緩い」会社法が制定 されて し まった。法務省が理想 と考 えるよ りも緩和 されす ぎて しまった会社法 に規律 を 取 り戻すために,法務省令 を用いた とい う仮説である。 しか し,会社法の立案 ス タッフの一人が語 るように,経済界のニーズに最大限応 えうるように会社法 の作成 を行 ったようであるので

199)

, この仮説は説得的でないか もしれない。

もう一つは,法制作 コス トの削減である

200)

。明確で詳細 な規定 を作成すれ ば,会社関係者の法的帰結についての予測可能性 を高め うる。 しか し,立法 レ ベルでの法制作 には,法内容決定のための調査 コス トや法文作成 コス トだけで な く,審議会での審議や内閣法制局の審査,国会審議 など時間的 ・手続的なコ ス ト,利害関係人の利害の調整 コス トなど,直接的 ・間接的な様 々なコス トが かかる。時間的な制約 を克服 し, この ような制作 コス トを削減するために法務 省令 に委ねる部分 を大 きくした。 自由な会社法制の下で,会社 関係者の便宜の ために明確 な指針 を与 えるべ く,いわば行政サー ビス的な観点か ら,詳細で明 1 97 ) 玉井利幸 「 会社法の柔軟化における法務省令の役割 ‑なぜ法務省令は変質 し

たのか‑」商学討究 57 巻 1 号 ( 2 006 年)11 5 ‑1 3 3 頁参照。

1 9 8) 玉井 ・前掲注 1 97・11 7 ‑1 21 頁参照。

1 99 ) 稲葉 ・郡谷対談 1 77 頁参照。

20 0) 玉井 ・前掲注 1 97・1 21 ‑1 25 頁参照。

(3)

会社法立法の日米比較 ( 3・完) 141 確 な規定 を提供 しようとしたが,立法 レベルで会社法のあ らゆる問題について 詳細で明確 な規定 を作 ろうとするとコス トが嵩むので,法務省令 を活用 した と い う仮説である。

法務省性悪説的な観点か らも説明が可能か もしれない

201)

。行政組織 は,一 般 に,公益 目的だけでな く,組織それ 自体の利益 と組織の構成員の利益の拡大 を図るためにも行動す るとい う仮定 を前提 にすると,法務省の組織それ 自体 と 構成員の利益 を図るために,法務省令が積極的に利用 された とい う仮説 を作 る ことがで きる。まず,法務省の組織の利益の拡大か ら考 えてみる。行政組織 は, 立法,司法 とい う他の国家作用の一部 を侵食 した り,他の省庁の所管事項に侵 入す ることによって,組織の利益 を拡大することがで きる。法務省令へ実質的 な事項 を委任 し,法務省のポ リシーによ り会社法の問題の解決 を提供 しようと しているのは,立法 と司法の作用の一部 を収奪する試み と考 えることも可能で ある。

次に,法務省の構成員の利益拡大である。会社法の立案スタッフは会社法の 立法過程 に大 きな影響 を与 えているので,会社法の立法 を通 じた構成月の利益 拡大 を考 える際は, 立案ス タッフの利益 も含めて考 えるべ きである。 立案スタッ フの利益 は,立案ス タッフが属 している専門職業界の利益 と,立案ス タッフ自 身の個人的な利益の二つに分け られる。 まず,専門職業界の利益である。立案 ス タッフには,局付検事 などの公務員だけでな く,弁護士や会計士が加 わって いた。そのため, これ らの専 門職業界の利益が会社法立法 に反映 されている可 能性がある。会社法 を過度に詳細で複雑 にすれば,それを利用するためにリー ガルア ドバ イスの需要 を高めることがで きる。法務省令 を用いて複雑で過剰 な 成文化 を行 うことによって, 自らの提供するリーガルサー ビスの価値 を高め, 需要 を増加 させ ようとしたのか もしれない。次 に,立案ス タッフの個人的な利 益である。会社法が詳細で複雑であればあるほど,立案ス タッフは,短期的に は,会社法 に関する優位性 を保つ ことがで きる

202)

。立案ス タッフが 自己の リー 201 )玉井 ・前掲注1 97・1 2 6‑1 3 2 頁参照。

202 ) 西田章 『 弁護士の就職と転職』商事法務 ( 2 007 年)91 ‑92 頁参照。

(4)

14 2 第5 8 第 4

ガル ・プロフェッション市場 における価値 を高めるために, 法務省令 を多用 し, 過度に複雑 な会社法 を作成 したのか もしれない。

Ⅳ. 会社法立法の 日米比較

これまで述べて きたように,デラウエア会社制定法は成文化 に消極的である

規定 を設けなかった り暖味な文言 を用いることによって,事前のポ リシーの選 択や具体的な法内容の提供 を可能な限 り回避 し,裁判所の判断に委ねる傾向が ある。 この ような,ポ リシー選択や法の具体的意味内容の提供が事後的に行わ れることが予定 されている法準則 はス タンダー ド

203)

と呼ばれる。デラウエ ア 会社制定法はス タンダー ドを志向する傾向がある。それに対 し, 日本の新会社 法は,会社 に関する法的事象 を予め可能な限 り成文化 し,事前 にポ リシー選択 と具体的な法内容の決定 を行お うとしている。 この ような,法の具体的な意味 内容が事前 に与 え られている法準則 はルール と呼 ばれ る。 日本の新会社法 は ルールを志向す る傾向が強い。 このパー トでは,ス タンダー ド志 向 とルール志 向 とい うそれぞれの立法 ポ リシーの違 いが法の運用機 関や私人 に与 える影響 や,その ような立法ポ リシー と会社法 を取 り巻 く制度的な要因 との関係 につい て考 えることにする。その前提 として, まず,ルールとス タンダー ドの一般的 な特徴やそれぞれのメ リッ トとデメリッ トを簡単 に述べ る。

A. 相 異 点

1 . ルール とスタンダー ド

ルール とス タンダー ドについてはい くつかの定義があるが

204)

,本稿 では,

203) ここまでは、ルールとスタンダー ドという語を本文で述べた意味で用いる場合 は

,

「 ルール」と 「 スタンダー ド」と表記 してきたが,以後は釣括弧をつけずにルー ルとスタンダー ドと表記する。

204) 論者 によってルールとスタンダー ドの定義 には違いが見 られる。例 えば,

Ehr l i c h 教授 とPo s ne r 教授は,裁定者が法的帰結を導 き出すのに考慮することの

(5)

会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 143 法 の具体 的 な内容が事前 に与 え られてい る ものが ルールであ り,事後 的 に与 え

られ る ものがス タ ンダー ドであ る とす る Kapl ow 教授 の定義 に従 ってお く。

ルール とス タ ンダー ドの特徴 や,それぞれの メ リッ ト ・デメ リッ トを考 える には,法 に関与 す る 3 者 の観点か ら,場 面 を分 けて考 えるのが便 宜であ る。法 に関係す るの は,立法等 の法規範 の制作 に関与す る者 ,作成 された法 を もとに 意思決定 と行動 を行 う者 ,裁判所 な ど法規範 の適用 ・執行 を行 う者 の 3つ に大 別す るこ とがで きる。 この ように,法の制作者 ,利用者 ,執行者 の観 点か ら, 法 の制 作 段 階,利 用 段 階,執 行段 階 の 3つ の場 面 に分 け て考 え る こ とにす

205)。

で きる事情が多いか少ないかで両者を区別 している。法的命令が,限定された事実 の存在によって確定的な法的帰結を導 き出す ように裁定者 を拘束 している場合は, その法的命令はルールであ り,裁定者により大 きな裁量を与えている場合がスタン ダー ドであるとする 。 I s aacEhr l i ch& Ri c har dA.Pos ner , AnEc o no mi cAn al y s i s o fLe galRul e ma hi n g ,3I.LEGALSTUD.257,258( 1 974) .Ayr es 教授 もEhr l i chと Pos ner 教授の区別に従っている

o

l anAyr es , Pr e l i mi nar yTho u ght so nOpt i mal Ta i l o r i n g o fCo nt r ac t u alRul e s ,3S.CAL. I NTERDI S . L . J . 1 ,4( 1 993) .

Sul l i van 教授は,明確 に規定 された事実の存否に応 じて明確な帰結を出す ように 裁定者を拘束 している法的指令がルールであるとしている。ルールの場合は,裁定 者は,背景的な原則 ( pr i nc i pl e)や政策 ( pol i cy)などの価値の選択がで きず,戟 定者の裁量は事実の判断に限定されている。一方,裁定者が背景的な原則や政策を 事実に直接適用することを認めている法的指令がスタンダー ドであるとしている。

スタンダー ドは,裁定者にすべての関連する要素 または全体の状況を考慮に入れる ことを認めるため,裁定者の裁量は大 きい。 Kat hl ee nM.Sul l i van ,TheJu s t i c e s o f Rul e sa ndSt a n da r d s ,1 06HAR ∨ .L REV.2 2,5 81 59( 1 992 ) .

Kapl ow教授は,裁定者の判断が依拠する事実の多寡 を複雑性 ( c ompl exi t y) と 呼んで,分析の中に取 り込んでいる。 Loui sKapl ow , Rul e sVe r s u sSt a ndar d s IAn Ec o 7 Wmi cAn a l y s i s ,42

DUKE

L J .55 7,565 ‑ 67( 1 9 92) .

205 )単純化のため,同 じ法的問題を取 り扱 う法準則 をルールとして規定 した場合 と, スタンダー ドで規定 した場合 を想定 して比べている。実際には,問題の性質によっ て事前の制作 コス トや執行のコス トは変 りうる。ルールとスタンダー ドについての 詳細 な分析 は, Kapl ow, s u p7 1 a nOt e204を参照O本文で法の制作,利用,執行の 3 段階に分けて比較 しているの も ,Kapl ow の 3 期間モデルに倣っているか らである

Kapl ow教授の分析 については,森田果 「 最密接 関係地法 一国際私法 と " Rul es ver s usSt andar ds " 」 ジュリス ト 1 3 45 号 ( 2 007 年)66 ‑7 0 頁 も参照。なお,玉井利幸

「 会社法の 自由化 と事後的な制約 ‑デラウエア会社法 を中心 に

‑ (2)

」一橋法学

3 巻 3 号 ( 2 00 4 年)11 29 ‑ 45 頁 と11 3 0 頁の注1 1 9,1 1 31 頁の注1 2 0 と注1 21 で引用 され

ている文献 も参照。

(6)

144 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号

制作段階で,ルール とスタンダー ドを簡単に比較 してみる。ルールは,ス タ ンダー ドに比べ ると,制作のコス トが多 くかかる。事前 にポ リシー選択 を行い 法の具体的内容 を決定する必要があるので,ルール作成のためには, どの よう な内容が望 ましいかを調査する必要がある。ある法的問題 について利害の対立 する集団があ り, どの ようなポ リシーを採用するべ きかについて対立あるとき は,利害関係者の利害 を調整 し,予めポ リシーの対立 を解決 しなければな らな い。法の内容 を成文化す るための費用 もかかる。それに対 し,スタンダー ドは, ルールに比べ ると,事前の法の制作 コス トは低 い。法の具体的内容の決定やポ

リシーの選択 を先送 りで きるので,ルールの ように,具体的な法内容決定のた めの情報収集や調査 は必要ない。利害対立のある問題であって も,予め利害関 係者の間の調整 を図る必要性 は乏 しい。法の具体的な内容 を明確 に規定す る必 要がないので,成文化のための費用 もルールに比べ ると大 きくない。

次に,利用段 階である。法 を利用する私人にとっては,ルールは,法の具体 的な内容が提示 されているので,法的帰結の予測可能性が高 く,意思決定 を行 いやすい。法の制作者 として も,法のメ ッセージが利用者 に伝 わ りやすいので, 制作者の意図 した行為がなされることが期待 しやすい ( コンプライア ンスを期 待 しやすい) 。それに対 し,ス タンダー ドの場合,法 を利用する私人にとっては, ポ リシーの選択や法的意味内容の具体化がなされてお らず,法的帰結の予測可 能性が低 いので,意思決定が困難か もしれない。そのため,望 ましい行為が抑 制 されて しまうか もしれない

206)

。ス タンダー ドの暖味 さを補 うために当事者 が 自発的に取決めを結ぶ ことがで きるか もしれないが,そのためには専門家の 良質なア ドバ イスが必要であるか もしれない。ルールと比べ ると,ス タンダー ドの場合 は,法の利用者が法の制作者の意図 とは合致 しない行動 を取 る可能性 が高いか もしれない。

最後 に,執行段階である。ルールの場合,法の執行 もそれほど費用 をかけず に容易 に行 うことがで きる。法の内容が明確 に提示 されているので,私人は訴

2 0 6 )抑制的な効果は,スタンダー ドが禁止的な強行法規である場合は強くなりうる。

(7)

会社法立法の日米比較 ( 3・完) 145 えを提起す る必要がないか もしれない。訴えがなされて も,裁判所 は,事実 を 確定 し,既 にルールで示 されている法的内容 に従 っているか どうかを判断すれ ばよい。ス タンダー ドの ように,執行機関が事案に応 じて事後的にポ リシーの 選択 を行い法創造 を行 う必要はない。それに対 し,ス タンダー ドの場合 は,辛 後的な事実の発生 を待 って,ポ リシーの選択や法の内容の確定が行われるので, 事案に応 じた柔軟 な解決 を導 くことが可能になるが,その分スタンダー ドの執 行 にはコス トがかかる。私人が訴える私的 コス トだけでな く,裁判所が事件 ご

とに事案 に応 じた法創造 を行 う必要があるので,公的 コス トも高い。

法の発展 について も影響 を与 えうる。ルールの場合,法の具体的内容が予め 成文で提供 されているため,裁判所の判断の集積 による法の発展 には制約があ り,法制作者が法の発展 において果たす役割が大 きい。事件の発生 を待つ必要 はな く,法制作者が必要 と判断すれば,法内容の変更 を行 うことがで きる。そ れに対 し,スタンダー ドの場合,法の発展 は裁判所の判断の集積 によってなさ れるので,裁判所の果たす役割が大 きい

207)

。但 し,法の発展 には事件の発生 と訴えの提起が必要であるので,適切 な事件がなければ,法の発展 は停滞する か もしれない。

ルール とス タンダー ドにはこの ような特徴があるので,ルールが望 ましいか 否かは,事前 にポ リシー選択 と法内容の確定 を行 うコス トを上回るベ ネフィッ トがあるか どうかに依存す る。そのため,ルールが望 ましい問題領域 は,一般 に,その間題 に直面 し法の適用 を受ける人が多 く,問題の性質が同質的で,顔 繁 に発生す る問題領域である。 この ような問題領域であれば,ルール作成の コ ス トを上回るベネフィッ トが得 られる可能性が高い。逆 に,スタンダー ドが望 ましい問題領域 は,一般に,頻繁に発生せず,事件 ごとの事案が大 きく異 なる, 少数の人に しかあてはまらない問題領域である。このような問題領域であれば,

207) 法の具体的な意味内容が明確になるには,一つの事件では足 りず,い くつもの

事件の発生と裁判所の判断の集積が必要になるかもしれない。法の意味内容が明確

になり,法が発展 していくためには,多 くの事件 と多 くの人柱が必要である。徹底

した人柱システムである。

(8)

146 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号

事前にコス トをかけてルールを作成するメ リッ トは乏 しい。特 に,事件 ごとに 特殊性 ・特異性が大 きい問題であれば,ス タンダー ドの利点 を生かせ る可能性 が高い。

これ らの ことを前提 に,以下では,ス タンダー ド志向のデラウェア州 とルー ル志向の 日本 とい う会社法立法の選好の違い と,それぞれの置かれた制度的要 因 ・事実的背景 との関係 について述べ ることにする。その際 も,ルール とスタ ンダー ドの違いが法の作成者,利用者,執行者 に異 なった影響 を与 えうるので, 法の制作段 階,利用段 階,執行段 階の 3 段階に分 けて考 える。

2. 法の制作段階

法の制作者

208)

に とってのルール とス タンダー ドの違いは, まず,事前の制 作 コス トである。ルールを作成す る場合 は,事前 にポ リシー選択 を行い具体的 な法内容 を提供する必要があるので,事前の制作 コス トは高 くなる。一方,ス タンダー ドを作成する場合 はそれ らを先送 りで きるので,事前の制作 コス トは 低 くなる。そのため,ルールとスタンダー ドの どち らが選好 されるかは,法の 制作者 に事前の法規範作成 コス トの負担能力があるか,負担す るインセ ンティ ブがあるか どうかによって決 まる

デラウェ ア州の場合,既 に述べ た ように

209)

,制度的要因によ り,事前の法 規範作成の コス ト負担能力は低 い。デラウェア州は非常 に小 さな州であ り,立 法 に費やす予算や人員が乏 しいため,ルール主体の会社制定法 を作成するコス トの負担が重いか らである。同様 に,デラウェア州 にはルール制作の コス トを 負担するイ ンセ ンティブ も乏 しい。州間の会社設立誘致競争 とい うアメ リカ特 有の制度的要因があるか らである。州の会社制定法は州の 「 製品」であると考

20 8) 典型的には立法府であるが,省令のように立法府が作成するのではない法規範 も存在する。さらに,形式的な制定機関だけでなく,会社法の制定に実質的な影響 力をもつ組織や集団 ( デラウェア州の場合はデラウエア法曹団体,日本の新会社法 の場合は法務省の立案スタッフ) も含めて考えるべきなので,法の制作者という表 現を用いている。

209 ) 前の Ⅱ.C.3 を参照。

(9)

会社法立法の日米比較 ( 3 ・完) 147 える と,その製 品の需要者 は会社 であ り,会社法 とい う製品の購入 は設立地の 選択 に よって行 われることになる。販売 ・購 入の対価 は設立免許税である。 こ の ような構造があるので,デ ラウェ ア州が 白州の利益 を最大化す るためには, 会社制定法の製造 コス トを最小化す る必要がある。 ルール主体 の制定法 を作 る ためにはコス トがかか るので,ス タンダー ドを選好す るイ ンセ ンテ ィブが強い。

デ ラウェ ア州の場合,最適 な レベル よ りもス タンダー ドが選好 されているか も しれない。

それに対 し, 日本の場合 は,立法のための コス トを負担す る能力 は高い。 デ ラウェ ア州 と異 な り,国家 レベルでの立法 なので,予算やス タッフの制約 も厳 しくな く,ルールを制作す るための コス ト負担 能力 は高い。 デ ラウェ ア州の よ うに,会社 法の製造 と販売 とい う形での, コス トと利益 の明確 で直接 的な結 び つ きはない。利益 ( 税収)最大化 のためにコス ト最小化 を図る とい う関係 にな いので,会社法 の製造 コス トは意識 され に くい

210)

。 む しろ,省 の予算 や人員 を拡大す ることが省 の利益 になる とす る と

211)

,制作 が容易 で コス トのかか ら ないデ ラウェ ア州 の ようなス タ ンダー ド志 向の会社 法 よ りも,詳細 で複雑 な ルール主体 の会社法の方が予算や人員の拡充が認め られやす く,望 ましいか も しれない。そ うであるな ら,最適 な レベ ル よ りも多 くコス トをかけて会社法の ルール化が行 われた可能性 もある

法の制作者 に とってのルール とス タンダー ドの もう一つの重要 な違いは,い っ誰がポ リシー選択

212)

を行 い具体 的法 内容 を提供す るか とい う点であ る。事

21 0) 但 し,法務省令への委任を多用など,コス ト削減の努力 もある。前の Ⅲ. Cを参

照 。

211 ) 公共選択論では自然な仮定である。例えば,林田清明 『 《 法 と経済学≫の法理論』

北海道大学国書刊行会 ( 1 9 9 6 年) 2 2 6 頁参照。

212) 株主の会計帳簿や株主名簿の閲覧権を例にとると,株主が帳簿等を閲覧できれ ば,株主は経営者の監視監督をよりよくなしうるので,会社 と株主の利益に資する。

しか し,帳簿等が閲覧 されると,会社内部の重要情報が外部に知 られ,会社の利益

を損なう危険がある。このように,どのような場合に帳簿等の閲覧を株主に認める

かについては,ポリシーの対立がある。会計帳簿や株主名簿の閲覧権は,敵対的買

収に対する防衛策の可否や取締役の責任の範囲などのような,取締役 と会社 ・株主

(10)

148 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

前 に立法 レベ ルで与 えて もよい し,行政 に委任 して もよい。事後 的 な裁判所 の 法創 造 に委 ね る こ ともで きる

213)

。法制作 者が どの よ うな規 定 を作 成す るか に よって,法 の実質的 な内容 の決定権 者が定 まる。法 の制作者 が法 の内容 や発展 に大 きな影響力 を行使 したい と思 うな ら, ルールの方が ポ リシー決定権 を 自ら の手 に とどめてお くこ とが で きるので,望 ま しい。

日本 の新会社 法 で は, ルールが強 く選好 され,法制作者が ポ リシー決定 に大 きな影響 を与 えた。 さ らに,新会社 法で は,立法 レベ ルだけで はな く,行政 レ ベ ル で の ポ リ シー 選 択 や 法 内容 の提 供

214)

が 旧商 法 よ りも大 幅 に増 え て い る

215)

。 これ も,法制作者 が ポ リシー決定権 を握 りたい とい う意欲 の表 れか も しれ ない

216)

。新会社法 の立案過程 で は,従 来 よ りも法務省 の立案 ス タ ッフが 大 きな役割 を果 た したので

217)

,実質的 な法制作者 であ る とい うこ とがで きる。

の利害が直接的に対立する問題に比べると,それほどポリシー対立は激 しくないよ うにも思える。 しか し,特に株主名簿の閲覧権の定め方は,会社支配権市場の実効 性に影響 を与えうるので,閲覧が認め られる場合をどのように定めるかについて も 激 しいポ リシー対立が生 じる可能性がある。日本の会社法 1 2 5 条 3 項 3 号のように, 競業者による株主名簿の閲覧を認めないと,投資ファン ドなど事業を行っていない 買収者は閲覧できるのに,同業他社の事業会社は閲覧を認め られない可能性が高い。

新会社法の株主名簿の閲覧権の定め方は,文面上は,ファン ドに有利 となっている。

2 1 3 ) 例 えば,デラウエア会社制定法 ( DGCL § 2 2 0 ( b) ) は,株主の帳簿閲覧権が認 め られる場合 を 「 適切 な目的 ( pr o perpur po s e ) 」 とすることによって,裁判所の 判断に委ねている。

2 1 4 ) 例えば,株主への利益供与について責任 を負 う取締役の範囲は法務省令へ委任 されている ( 会社法 1 2 0 条 4 項 ・会社法施行規則 2 1 条) 。取締役の責任 というセ ンシ ティブな問題の解決を,立法でも司法で もな く,行政が決 しようとしている。

2 1 5 ) 前の Ⅲ. A を参照。

2 1 6 ) 実質的な内容 をもつ法務省令が多 くなったということは, 法務省令の変更によっ て,法務省が法の発展 ・変更にイニシアティブをとる, という意思の表明か もしれ ない。実際に,行政がイニシアティブをとり,法務省令の改正により,行政が法の 発展 に影響 を与える可能性が高 くなったか もしれない。経済産業省経済産業政策局 長の私的研究会である企業価値研究会の公表 した 「 企業価値報告書」,それを受け て作成され経済産業省 と法務省の連名により公表 された 「 企業価値 ・株主共同の利 益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」( 以下 「 防衛策の指針」とする) や,経済産業省の公表 した 「 企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者に よる企業買収 ( MBO) に関する指針」 ( 以下 「 MB Oの指針」 とする) ち,行政の イニシアティブを示 しているか もしれない。

2 1 7 )前の Ⅲ. B を参照。

(11)

会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 149 実 質的 な法制作者 が,可 能 な限 り自らポ リシー選択権 を持 ちたい と思 うの は 自 然 か も しれ ない。法務省令 の実 質化 が進み,行政 レベ ルでのポ リシー決定権 が 従 来 よ りも大 き くなってい るの はそのためか も しれ ない

218)

0

デ ラウェ ア州 の場合 は,法制作者 自らが ポ リシー選択権 を持 とうとせず,裁 判所 に委 ねてい る。既 に述べ た よ うに

219)

,法制作者 が事 前 にポ リシー選択 を 行 い具体 的 な法 内容 の提供 を行 うと,デ ラウェ ア州 の利益 の源泉 であ る会社 法 販売 ビジネスに致命 的 な打撃 を与 える危 険性 があ るか もしれ ないか らであ る

デ ラウエ ア会社 制定法が株 主有利 のポ リシー を採用 す る と他州 に逃 げ られて し まい, デ ラウェ ア州設立の会社 が減少す るか も しれ ない し,経営者有利 のポ リ シー を採用す る と連邦 政府 の介入 を招 き,最悪 の場合 は連邦会社 法が制定 され て しま うも しれ ない

220)

。 いず れの場合 も, デ ラウェ ア州 の利益 の源泉 で あ る 会社 設立市場 にお ける優越 的 な地位 が脅 か されて しまうおそれがあ る。 その よ うな危 険があ るので,デ ラウェ ア州 は立法 の段 階でのポ リシー選択 を回避 す る ため に,ス タンダー ドを選好 す るイ ンセ ンテ ィブが生 じるか もしれ ない。

デ ラウェ ア州 と異 な り,日本 の場合 は,ス タンダー ドを用 い る ことに よって, ポ リシー選択 を回避 または隠蔽す る必要性 は乏 しい。単一 の法域 なので,ポ リ シー選択 が明 らか になって も,他 の法域 に逃 げ られた り,会社法 の制作権 限 を

21 8) 行政が法の内容や発展 に対する影響力 を持ちたい という意欲は,省令への委任 という手法の他 に,法務省 と経産省連名の防衛策の指針や,経産省による MBO の 指針の公表にも現れているか もしれない。

一方,ス タンダー ド志向のデラウエア会社法は,構造的に,裁判所が法の内容や 発展に大 きな影響力を持っている。裁判所 と裁判官がデラウエア会社法の内容や発 展に影響力 を持ちたいという意欲は,前の Ⅲ.D.3 で述べたデラウエア裁判所の裁 判官の著述や講演などの裁判所外の活動に現れていると考えることがで きる。

219) 前の Ⅱ.C.2.( 2) ( i i ) を参照。

220) 経営者はデラウェア州以外の州に働 きかけて, もっと経営者有利の会社法 を作 成するように要請することができる。実際に ,1980 年代 に敵対的企業買収がブーム になった時は,経営者有利の州会社法がで きた 。 Robe r t aRoma no ,ThePo l i t i c al Ec o no my o fTake ov e rSt at ut e s ,7 3VA.L. REV.11 1 ( 1 987) :Rober t aRomano , A

Gui det oTa ke o v e r s :The or y,Ev i de nc eandRe gul at i o n, 9YALEJ . oNREG.11 9

( 1 992) . 株主や投資家は,連邦政府 に働 きかけて,株主有利の連邦法の制定を求め

ることもできる。

(12)

150 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4号

失 って しまう危 険が ないか らであ る。 む しろ, 日本 の場合 は,会社 法規範 の供 給 主体 ( 省庁) の 間 に競争 が あ り

221)

,会社 法 の法規 範 は利益 集 団 と供給 主体 間の 「 取 引 の産物」 であ る と仮 定す る と

222)

, どの よ うなポ リシー を選択 した か を利益集 団に明示す るため に, ルー ルが選好 され るか も しれない。利益集 団 の要望 に応 えた こ とが示せ なければ,会社 法規範が取引 のための 「 製 品」 にな

らないか らであ る

3. 法の利用段 階 :私 人の意思決定 と行動

法 の利用者 の観点か らす る と, ルール とス タ ンダー ドの違 いは,意思決定 の ため に必要 な情報収集 コス トや取引費用 に影響 を与 える。 ルールに よって事前 に具体 的 な法 内容が与 え られていれば,意思決定が容易 になる。法的帰結 の予 測可能性 が高 いので,法の内容 につ いての ア ドバ イス を受 ける必要性 も低 くな り,意思決定や取 決め を結 ぶ ための コス トも低 くなる

223)

。 一方 , ス タ ンダー ドの場合 は,具体 的 な法 的意味 内容が意思決定 を行 う事前 の段 階で は不 明確 な ので,法 的帰結 の予測可 能性 が低 い

224)

。 そのため,意思決 定 を行 う前 に,辛

221 ) このような競争の存在 を示唆する見解 もある。例えば,大杉謙一 「 今後の商法 改正 と企業法制」弥永其生 ・山田剛志 ・大杉謙一編 『 現代企業法 ・金融法の課題』

弘文堂 ( 20 0 4 年) 1 3 頁 ( 「 経済産業省所轄の産業活力再生法が商法の特則を多 く定め, その多 くが数年後の商法改正に取 り入れられるという近時の現象は,わが国におい て も立法の競争が生 じていることを示唆するものである」 ) 。防衛策の指針は法務省 と経産省の連名であったのに ,MBO の指針は経産省単独であるの も示唆的である か もしれない。

222 ) 公共選択論の議論では,立法は利益集団と立法者の取引の産物であると考える ことが多い。例えば,林田 ・前掲注 2 1 1 ・226 ‑27 頁参照。

22 3) 法の制作者 として も,ルールによ り法の具体的意味内容を与 えておけば,法作 成者のメッセージが私人に伝わ りやすいので,私人が法に従った行動を行 うことが 期待で きる。このことは,ルールが強行法規の場合は特 にあてはまる。但 し,ルー ルが強行法規の場合は,ルールの定め方が適切でないと,望 ましい行為 まで禁止 し て しまう過剰規制や,望 ましくない行為 を許容 して しまう過少規制を生 じさせるお それがある。

22 4) デラウエア会社法のス タンダー ドは,相当程度 「 ルール化」 してお り,十分な

予測可能性があるとする見解 もある。現在のデラウエア会社法システムの原型が形

成 されたのは 1 9 世紀末か ら 2 0 世紀初頭である ( DGCL が現在のフォーマ ットになっ

(13)

会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 151 門家 の ア ドバ イス を受 ける必要性 も高 い。 ス タ ンダー ドの暖味性 を回避す るた め に, 当事者 で新 たに取決 め を結ぶ必要が あ るか も しれ ない。 当事者 の能力 が 十分 で なか った り,取引費用が高す ぎて取決 め を結ぶ こ とがで きないか もしれ ない。法的帰結 の予測可 能性 が低 けれ ば,望 ま しい行為 が抑制 されて しま うか も しれ ない

225)。

ルール とス タ ンダー ドは,法 の利用者 の観 点か らす る と,一般 的 には, この よ うな違 いが あ る とされ る。法 の利用者 か らす る と, ルールの方が意思決定 や 取決 め を結ぶ ための コス トがかか らず, ルールの方が好 ま しいか もしれ ない。

デ ラウエ ア会社 制定法 のス タ ンダー ド志 向 は法 の利用者 に余分 な コス トを強 い てい る ように も思 える。 しか し,デ ラウェア州 の場合 は,想定 され る会社法 の 利用者 の ことを考 える と,ス タンダー ド志 向の制定法であ って も大 きな不都合 はないか も しれない。

デ ラウエ ア会社 法 の需要者 の多 くは大規模 公 開会社 であ る

226)

。大規模 公 開 会社 は,充実 した リー ガルス タッフを備 え,会社 法 の分析 能力 の高 い,洗練 さ れた私 人であ る。外部 の良質 な リー ガルサ ー ビスへ の アクセス も容易 で,その コス トの負担 能力 も高い。 デ ラウエ ア会社制定法の規定が ブ ラ ンクであ った り 暖味 であ って も, 自ら適切 なア レンジメ ン トを結ぶ能力 があ る ことが期待 で き

たのは1 9 6 7 年である) 。当初 は暖味で法的帰結の予測可能性が乏 しかったデラウエ ア会社法のス タンダー ドも,1 0 0 年以上にわたる多数の事件 と 「 人柱」のおかげで 裁判所の判断が集積 し 「 ルール化」 されているというのである。一方で,未だに予 測可能性 は乏 しい として批判する論者 もいる。前柱1 47 とそこで引用 されている文 献を参照。

2 2 5 )法制作者 として も,スタンダー ドに込めた法制作者の意図が法の名宛人に正確 に伝わ りにくいので,意図に添った行動を行 うことが期待 しにくい。

2 2 6 )アメリカの公開会社の5 0 %がデラウェア州で設立 されてお り,フォーチュン 5 0 0 の会社 の6 0 % が デ ラ ウエ アで設 立 され て い る。 デ ラ ウエ ア州 政府 の サ イ ト

( ht t p: / / c o r p. de l a wa r e . go v/)を参照。小規模 な閉鎖的会社 は白州で設立するのが 通常であ り,閉鎖会社法の提供については,州間競争は存在 していないようである。

l anAyr es , Jud gi n gCl o s ec o r po r at i o nsi nt heAge o fSt at ue s ,7 0 W ASH. U.L.Q.

3 65 , 37 0‑ 71( 1 99 2) . 小規模 な閉鎖的会社ではな く,比較的規模の大 きい公開会社 を

主な需要者 として州間の会社法競争が行われているのであ り,デラウェア州がその

会社法の需要者 として想定 しているの もこのような会社である。

(14)

15 2 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号

る。 さらに,デ ラウェア州で設立 されている大規模公 開会社 に投 資す る株 主の 多 くは洗練 された機 関投 資家 である

22

7 ) 。外 部の様 々なサー ビス を受 けること がで きる し,その コス ト負担能力 も高い。法の暖味 さが生 じさせ るコス トや リ ス クを回避 した り,それ らを負担す る能力が高い。機 関投 資家 をサポー トす る 背景的なサー ビスや システム も充実 している

228)

この ように,デ ラウエア会社制定法 を利用す る当事者 は, 法の規定が暖味だっ た り, ブラ ンクがあった り,ス タンダー ドについての判例が錯綜 していた り, 判例 の射程が明確 に分か らな くて も, 自衛 で きる し, 自衛 で きることが期待 さ れている洗練 された私人であることが想定 されている。 ス タンダー ドで も大 き な不都合 はな く,む しろ,詳細 なルールが定め られていない方が,洗練 された 当事者の間では, 私的な交渉や ア レンジメ ン トによる自発 的な解決 を促すので, 望 ま しいか もしれない

229)

それに対 し, 日本では,新会社法制定以前か ら会社法の需要者の圧倒的多数 は中小企業であ った

230)

。新会社 法制定 に よ り有 限会社法 も会社法 に取 り込 ま れ, 日本の新会社法 は小規模 な会社 か ら大規模上場会社 まで,性格 の異 なる会 社 が使用す ることになった。 しか し,数の上 では,新会社法の利用者 の圧倒的 227 ) アメリカの株式市場では機関化が進んでお り ,2 001 年の時点で機関投資家の保 有する株式の割合は約 61 % である 。 SECURI TI ESI NDUSTRYANDFI NANCI ALMAR‑

KETSAssocI ATI ON,SECURI TI ESI NDUSTRYFACTBook67( 2002)avai l abl eat ht t p: //www. s i f ma. or g/r es ear ch/s t at i s t i cs /Ot her /2 002Fac LBook. pd f .一般投資家 は,機関投資家の努力にフリーライ ドすることができる。

22 8) アメリカにおいては,私的な組織 ・集団によって会社 に関する法規範の提供や 提言が積極的に行われている。証券取引所などの自主規制機関だけでなく , I ns t i ‑ t ut i onalShar ehol de r Ser vi ces( I SS) ,Gover nanceMet or i csI nt er nat i onal ,Gl as s , Lewi s&Co. ,Pr oxyGover nanc e,I nc . など,コーポレー ト・ガバナンスに関するア

ドバイスを提供 した り,ガバナンスの格付けを行った り,議案の分析 ・助言を行 う 企業が発展 してお り,コーポレー ト・ガバナンスのポリシー決定に大 きな影響を与 えている o PaulRose ,TheCo r por at eGo v e r 7 才 anC eI ndus t r y ,32J.CoRP.L.887 ( 2 007) .

229 ) 前の Ⅱ.C.1.( 4) を参照。

23 0)平成1 5 年度の税務統計によると,株式会社が 1, 0 42, 2 36 社,有限会社が 1, 427, 697

社であった 。平成1 5 年度末の上場会社数は 2, 6 96 社であった。江頭憲治郎 『 株式会

社法』有斐閣 ( 2 006 年) 1‑3 頁参照。

(15)

会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 153 割合 は中小企業 であ る

231)

。 そのため,会社 法 の利用者 であ る会社 も株 主 も, その圧倒 的多数 は洗練 されてい ない と想 定す るのが 自然 であ る。 その ような利 用者 は,会社 法 に関す る様 々な良質のサー ビス にアクセスす るのが 困難であ っ た り, アクセスで きる と して も,その コス ト負担 は過大 であ るか もしれ ない。

ス タンダー ドの暖昧性 や不確 実性 が もた らす リス クを負担す る能力 も, 自 ら適 切 なア レンジメ ン トを結ぶ能力 も高 くはないだ ろ う。新会社 法 の作成時 には, この ような会社 法 に関す る様 々な能力 が相対 的 に低 く,洗練 されてい ない当事 者 を圧倒 的多数 の需要者 と して想定す る必要があ った。 この ような利用者 に対 す る便 宜 を図 る こ とを重視 す る と

232)

, 明確 で詳細 な規 定 を用 意 したの は 自然 であ る

233)

。新 会社 法 の強い ルール志 向 は, 中小会社 向 けの行政 サー ビス と考 える こ とが可 能である

234)

この ように,デ ラウェ ア州 と日本 で は,多数派 を占め る会社 法 の利用者 の性 格 が異 なる。 デ ラウエ ア会社制定法 と 日本 の新 会社法 で, ス タ ンダー ド指 向 と ルール指 向 とい う選好 の違 いが あ るの は,それぞれが想定す る法 の利用者 の違 い を反映 してい るのか も しれ ない。

4. 法の執行段 階

ルール とス タ ンダー ドの違 い は,法の執行段 階で は,訴訟 の頻度や コス トに

2 3 1 ) 江頭 ・前掲注 2 3 0・5‑6 頁 ( 「 非上場 ( 株式)会社の圧倒的多数は,中小企業で ある。‑。中小企業である会社の多 くは,個人企業が 「 法人成 り」したものである」 ) 0 2 3 2 ) 公開会社の定義に見 られるように,中小企業団体の圧力 も強かったようである。

2 3 3 ) 日本の経済団体は,圧力 をかけるだけで, 自ら会社 に関する法規範の提供 を行 おうとはしないか らである。江頭憲治郎 「 経済団体等による法の形成 ・執行 と利益 相反問題」江頭憲治郎 ・碓井光明編 『 法の再構築 [Ⅰ]国家 と社会』東京大学出版 界 ( 2 0 0 7 年) 1 9 4 頁 ( 証券取引所など一部の例外 を除 くと

,

「日本経済団体連合会に 代表される日本の経済団体は,政府の手によるルール形成に際 しては強力な圧力団 体 として行動するものの,自分の手でルールを形成することについては消極的であ る 」 ) 。

2 3 4 ) 但 し,本当に中小企業が利用 しやすいか どうかは別である。新会社法は詳細で

複雑す ぎるために,中小企業にとっては,適切 なア ドバイスがないと利用が困難で

あるか もしれない。

(16)

154 商 学 討 究 第 58 巻 第 4 号

影響 を与 え うる。 ス タ ンダー ドはその性 質上 ,執 行 の ため に裁判所 の判 断 を必 要 と してい るの で,訴訟 を増加 させ る可 能性 が高 い。裁判所 が事 後 的 にポ リシー 選択 と法 の具体 的 な内容 の提 供 を行 わ なけれ ば な らないので,判 断の ため の コ ス トも高 い。 この ように,ス タ ンダー ドは,訴 え を提 起 す る私 人 の私 的 コス ト と法 を執行 す る裁判所 の公 的 な コス トを増加 させ る性 質 を有 す る。 しか し,現 在 の デ ラウェ ア州 が置 かれ て い る状 況 を前提 にす る と, デ ラウェ ア州 自身 はス タ ンダー ドで も大 きな不都 合 は ないか も しれ ない。 以下 で は,法 の執行段 階 を 考慮 して も, デ ラウェ ア州 はス タ ンダー ドを選好 す るイ ンセ ンテ ィブが あ る こ とを述べ る。 そ の際 ,訴訟 を遂 行 す る私 人 と,判 断 を行 う裁判所 に分 けて述べ て い く。 ス タ ンダー ドを現 実 に執行 す るため に は,原告 が訴 え を提起 し,裁判 所 が判 断 を行 う必 要 が あ るか らで あ る。

( 1 ) 法 の利用 者 :私 人

法の現実の執行 には訴訟が必要である。デ ラウェア州の会社法 に基づ く株主訴訟 ( sharehol dersui t ) は,直接訴訟 と派生訴訟 に分かれる

235)

。 直接 訴訟 は株 主 の 権 利 が直接 侵 害 され た場合 であ る。 派生 訴訟 は,取 締役 が職務 執 行 の際 に会社 に損失 を負 わせ た場合 に,会社 が取締役 に対 して有 す る請 求権 を株 主 が代 わ り に主張 す る もの であ る

236)

0

デ ラウェ ア州 で は,株 主訴 訟 を提 起 す るハ ー ドルは低 い。 デ ラウェ ア州 の株 主訴 訟 の多 くは集 団訴 訟 ( Cl assact i on) で行 われ

237)

,訴 訟 費用 は多 くの原告

235) デラウエア最高裁判所 は ,( 1) 損害 を被 っているのは誰か ( 会社か,それ とも訴 えを提起 している株主個人か) ,( 2) 損害賠償や他の救済か ら利益 を受けるのは誰か ( 会社か,それ とも株主個人か), とい う二つの間を用いて直接訴訟 と派生訴訟 を 区別 している 。 Tool ey v. Donal dson,Luf ki n & Jenr et t e,I nc. ,845A. 2d1031,1033, 1 035( Del .2004) . しか し,両者の区別は,実際には困難な場合 もある。

236) W I LLI AM T.ALLEN,REI NI ERKRAAKMAN , & GuHANSUBRAMANI AN,CoMMEN‑

TARI ESANDCASESONTHELAW OFBUsI NESSORGANI ZATI ON2NDED.369‑ 70( 2007) ( her ei naf t erALLEN & KRAAKMAN,CoMMENTARI ES2Nl ) )

237) デラウェア州 においては,株主訴訟 はデラウエア衡平法裁判所 によ り排他 的に

審理 される 。 Thompson 教授 と Thomas 教授 によれば , 1999 年か ら 2000 年の間に

デラウエア衡平法裁判所 に提起 された民事事件の 70% が会社 に関す る問題である

(17)

会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 155 で広 く浅 く負担 され る。成功報酬 ( c ont i ngentf ee ) に よ り,原告 に十分 な資 金が な くて も訴 える こ とが可能 であ る

238)

。 デ ラウェ ア州 で は,他 の多 くの州 と異 な り,派生訴訟の費用 の担保提供 も不 要 である。訴 え提起 のハ ー ドルが低 いため,ス タンダー ドが実際 に執行 され る可能性 が高 くなる。様 々な問題 につ いて裁判所 の判 断が な され, 同一 の問題 も繰 り返 し判 断 され る可 能性 も高 くな るので,法 内容 の明確化 や発展 が早 まる可 能性 が高 い。 そのため,ス タンダー

ドの不都合性 が弱 まる。

直接 訴訟 か派生訴訟

239)

か にかか わ らず,株 主訴訟 が提 起 され る と,会社 は 訴訟 の費用 を負担 しなけれ ば な らないので

240)

,訴訟 を増加 させ る性 質のあ る ス タ ンダー ドは,会社 に とって望 ま しくないはずであ る。私 人の負担 を考 える と,デ ラウェ ア州 は過度 にス タンダー ド志 向の会社 法 を用 い るべ きで はない よ うに思 う。 しか し,デ ラウェ ア州 自身 は,訴訟 の コス トを相 当程 度外 部化 で き るので,ス タンダー ドを選好 しない イ ンセ ンテ ィブはそれほ ど大 き くないか も ( 1 7 1 6 事件中1280事件) 。会社 に関する事件の うち,その80%が信認義務に関する 事件である。このように,デラウェア州においては信認義務が株主訴訟の中核 を占 めてお り,デラウエア裁判所は会社 に関する様々な問題に対 し信認義務 を用いて刺 断を行 っている 。 Robe r tB. Tho mps o n &Ra nda l lS. Tho ma s ,TheNe u )Lo o ko f Sh a r e ho l de rLi t i ga t i o n:Ac q ui s i t i o nl 0r i e 7 1 t e dCl a s sAc t i o n s ,57VAND.L.REV.1 33 , 1 65‑ 67( 2004) . デラウェア州においては,信認義務に基づ く株主訴訟のほとんど全 て ( 91 %) は公開会社に対 してなされたものであ り,そのうちの85%が集団訴訟 と して提起 された ol d. a t 1 67,1 69.

238)実際には,訴訟提起や訴訟遂行 を主導するのは原告の弁護士である。弁護士は, 派生訴訟の場合は会社 に,直接訴訟 ( 集団訴訟で行われることが多い)の場合は株 主に利益 を与えた後でないと,報酬をもらえないか らである。弁護士の報酬 につい ては, ALLEN & KRAAKMAN,CoMMENTARI ES2ND , a t 373‑ 74を参照。

239)会社訴訟の被告が取締役の場合,デラウエア会社法の下では,訴訟委員会 ( 派 生訴訟の場合),経営判断原則,責任免除,補償,保険など取締役の責任追及を困 難にする様々な制度があるので,取締役の責任 はかな り遮断されている。そのため, 訴訟が被告の取締役 に課す コス トは, 日本 と比べると,相対的に低いはずである。

240)派生訴訟の場合,取締役だけでな く会社 も訴訟のための様々な費用 を負担する。

派生訴訟を終了するか否かを判断するために訴訟委員会を設けて検討を行 うための

費用 もかかる。取締役が派生訴訟に応訴するためにかかった弁護士費用等 を補償す

る必要 もある。さらに派生訴訟で被告 となった取締役が応訴 しなければならならず,

本来の会社業務に費やす時間や精力が削がれるという機会費用 も生 じる。派生訴訟

のコス トについては, ALLEN & KRAAKMAN,CoMMENTARI ES2ND , a t 420 1 2 1 .

(18)

156 商 学 討 究 第5 8 巻 第 4 号 しれない。

デ ラウェ ア州での株主訴訟の ターゲ ッ トになるような会社 は,通常 は,大規 模公 開会社 である

241)

。 その株主 は全米 中に散在 してお り,人 口比率か らす る と,確率的 に,デ ラウェ ア州の住人がデ ラウエ ア会社 の株主 に占める割合 は無 視 しうるほ ど小 さいはずである

242)

。デ ラウエ ア会社 が訴 え られて,デ ラウエ ア会社が訴訟のために多 くの費用 を費や した とす る と,訴訟 に費や した費用 を 純現在価値 ( NPV)が正 の プ ロジェク トに投 資す る ことがで きず,その分会 社 の利益 は減 るか もしれない

243)

。しか し,その損失 を最終的 に負担す るのは, デラウエ ア会社 の株主であ る。 デ ラウエ ア会社 の株主のほ とん どはデ ラウェ ア 州以外 の住人のはず なので,デラウエ ア会社が訴訟増加 によって利益 が低下 し て も,デラウェア州の住人の利益 には僅かな影響 しか与 えず,デラウエア州全体 の厚生はあま り下が らないだろう。逆に,訴訟の増加 はデラウェア州の リーガル セクターに大 きな利益 をもた らすはずである。デラウェア州 にとっては, リーガ ルサービスの需要増加の もた らす利益の方が大 きい可能性が高い。

もちろん,アメ リカ全体 で見 る と, どの州の住人が訴訟の最終的なコス トを 負担 しようと同 じである。会社訴訟の費用が増加すれば機会損失 も大 き くな り,

アメ リカ全体 の社会厚生が低下す るか もしれないか らである。 しか し,デ ラウ ェ ア州 は,株主訴訟が増加す ることによるコス トのほ とん どは他州の住人 に負 担 させ なが ら,株主訴訟の増加 か ら得 られる利益 は専 ら自分 自身で享受す るこ

2 41 ) 前 柱2 3 7 を参照。

2 4 2 ) アメリカ合衆国の総人口は 2 81. 4 2 1, 9 0 6 人 ( 2 0 0 0 年)であるのに対 し,デラウェ ア州の人口は 7 8 3, 6 0 0 人 ( 2 0 0 0 年)であ り,全米人口の 0, 2 7 8 % を占めるに過 ぎない。

アメリカ合衆国の総人口はアメリカ統計局のサイ ト ( ht t p: //qui ckf act s . cens us . gov/qf d/st at es /00000. ht ml ),デ ラウェア州の人口は州政府のサイ トの統計

( ht t p: / /www. del a wa r e . gov/egov/ por t al . ns f /por t a l /about f a c t s a nds ymbol s ) によ る。ちなみに, 東京都世田谷区の人口は約 8 2 万人で,デラウェア州の人口よりも多い。

2 4 3 ) 株主訴訟のコス ト負担によりデラウェア州設立会社の利益が減れば,それに応

じてデラウェア州の州法人税による歳入 も減ることになるが,訴訟増加により株主

訴訟を遂行するデラウェア州のコーポレー トバー( 弁護士)の収入は増え,そこから

の税収は増えるはずである。 どちらの効果が大 きいかは実証の問題であるが,訴訟

コス トの増加によりデラウェア州設立会社の株主の利益が減ることは確実である。

(19)

会社法立法の日米比較 ( 3・完) 157 とがで きるか もしれない。デラウェア州の利益 と,アメ リカ全体の利益が相反 する可能性がある。

この ように,デラウェア州は,ス タンダー ドを選好 したコス トの大部分 を外 部化することが可能であるとすると,最適 な レベルを超 えて,ス タンダー ドを 選好するイ ンセ ンテ ィブが生 じうる

日本の場合 は,デラウェア州の ような株主訴訟に関す る集団訴訟の制度は存 在せず,デラウェア州の ような成功報酬の制度 も利用で きないので, 訴 えのハー ドルが高い。そのため,スタンダー ド志向の会社法だと,法の執行 レベルが低 下 し,法の発展 も停滞 しうる。

日本の場合,訴訟の コス トを負担するのは,共に 日本の会社 と株主であ り, デラウェア州の ようにその コス トを外部化で きない。ス タンダー ド志向の会社 法 を採用す ると,訴訟増加 によ りリーガルサー ビスの需要が増加 し, リーガル セクターは利益 を得 るか もしれない。 しか し, 日本全体か ら見 ると,訴訟に費 や されたコス トは会社の機会損失 を発生 させ,会社訴訟の増加 によるコス トが ベ ネフィッ トを上回るか もしれない。そ うであるな ら, 日本の場合 は,スタン ダー ドを選好す る理由が乏 しい。

( 2 ) 法の執行機関 :裁判所

次に,法 を執行す る裁判所の観点か ら考 えてみる。裁判所の観点か らすると, ルールは,ポ リシーの選択や法の具体的な内容の決定が既 に法制作の段階で行 われ, 自らそれを決す る必要はない。通常 は裁判で提示 された証拠 をもとに辛 実 を確定 し,それにルールを適用するだけであ り,裁判官の裁量の余地は少 な く,判断の コス トは低い。それに対 し,ス タンダー ドではポ リシーの選択や法 内容の具体化 は裁判所 に委ね られているので,具体的事実の特殊性 を勘案 し, 関連す る様 々な要素 を考慮 しなが ら決定 しなければな らない

244)

。そのため,

244) 確立された先例があればそれに従うことになるが,先例がなかった り,先例が

確立されるまでは,このような判断コス トがかかる。

(20)

158 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

裁判所の観点か らすると,ス タンダー ドの方がルールよ りも,裁判所が判断を 行 うコス トが高い。

この ようなス タンダー ドの判断 コス トは,ス タンダー ドを適用する回数が増 えれば増 えるほ ど増加する。 さらに,ス タンダー ドの場合,裁判官の裁量の余 地が大 きいので,同一の問題であって も,裁判所 ごとに異 なった判断がなされ る可能性が高い。スタンダー ドを適用す る下級審裁判所が多 ければ多 いほど, 判断のヴァリエーシ ョンが増 え,錯綜す る可能性が高 くなる。スタンダー ドは 裁判官の裁量が大 きいため,裁判所の判断が錯綜す る可能性 は,裁判官の同質 性が低 ければ低 いほ ど高 まる。錯綜 した判断を収赦 させ るには,最高裁判所の 判断を待つ しかない。最高裁判所の判断が確立するまでは錯綜 した状況が続 く。

デラウェア州の場合 は,裁判所 による執行の場面で も,ス タンダー ドで大 き な不都合 はないか もしれない。判断する裁判所の数が極めて限定的であ り,判 断を行 う裁判官 も同質的で人数が非常 に限 られているか らである

まず,判断す る裁判所の数である。デラウェア州では,会社 に関す る事件 は デラウエア衡平法裁判所で排他的に審理 される。衡平法裁判所 と最高裁判所の 二審制 を採 ってお り,ス タンダー ドを適用す る事実審たる衡平法裁判所 は事実 上 1 つ なので

245)

,異 なった判断が出 され判 断が錯綜す る可能性 は低 い

246)

0 デラウエア最高裁判所の判断が出るまではス タンダー ドの具体的な意味内容 は 確定 しないが,上訴 された場合,二審制で審理 も迅速であるので,最終的な判 断が出るまで時間がかか らない。

次に,判断す る裁判官の数 と質である。既 に述べ たように,デラウエア衡平 法裁判所の裁判官 は 5 名であ り

247)

,会社法 と会社 の問題 に精通 している

248)

0 2 45 )デラウェア州には, Newcas t l eCount y,KentCount y,Sus s e xCount y の3 箇 所に衡平法裁判所がある。 しか し,信認義務に基づ く株主訴訟のほとんど全てが Ne wCa s t l e で訴え提起されている。 Tho mps o n & Tho ma s , s u ♪r a not e2 35a t1 6 5 n.1 4 7 を参照。

2 46 )但 し,衡平法裁判所の裁判官は 5 名いるので,異なる裁判官が審理を行えば判 断が異なる可能性は残る。

2 47 ) 1 人の大法官 ( Cha nc e l l o r )と4 人の副大法官 ( Vi c e ‑ Cha nc e l l o r )である

2 4 8 )Tho mps o n & Thoma s , S u p r ano t e2 3 5 ,a t1 6 5 .

(21)

会社法立法の日米比較 ( 3・完) 159 通常 は,デラウエア最高裁判所の裁判官 5 人の うちの数名はデラウエア衡平法 裁判所の元裁判官が務めるので

249)

,最高裁判所 と衡平法裁判所 の裁判官の同 質性 は高い。そのため,デラウエア衡平法裁判所の判断 と,デラウエア最高裁 判所の判断は,統一的な判断 となる可能性が高い。

この ように,デラウェア州では,ス タンダー ドを元 に法創造 を行 う裁判所の 数は,事実上,衡平法裁判所 と最高裁裁判所の 2 つであ り,判断を行 う裁判官 は同質的でその数 は僅 かであ るとい う極 めて特異 な事情があ るので,ス タン ダー ドについて判断す るコス トは低 く,判断が錯綜する可能性 も低 い。

それに対 し, 日本 は,会社法 を適用す る裁判所 は 日本 中にあ り,多 くの裁判 官が判断す ることになる。裁判所の数 も裁判官の数 も多い。会社法の問題 を専 門的に取 り扱 う裁判官は限定的であ り,裁判官の同質性 は低 い。そのため,ス タンダー ドについての判断が錯綜する可能性が高い。三審制 を採 ってお り,香 理 も遅いので,最高裁判所で最終的な判断がなされスタンダー ドについての判 断が統一 されるまでは非常 に時間がかか る

250)

。 この ように,ス タンダー ドの 具体的な法的意味内容が統一 されるには,二審制のデラウェア州 と比べ ると, 時間 もコス トもかかる。判断する裁判所の数が多 ければ多いほど,裁判官の数 が多 く同質性が低 いほど,法執行の コス トについては,ルールの方が優位 にな る。

このように考えて くると,デラウェア州がス タンダー ドを選好 しているの も, ス タンダー ド志向のデラウエア会社法が高い評価 を受けることがあるの も

251)

, デラウェア州がおかれている特異 な制度的要因によるところが非常 に大 きい。

デラウェア州の立法主体がス タンダー ドを選好するのは,連邦制 と州間競争 と い う制度的要因の影響 を受けている。ス タンダー ド志向の会社法で成功 してい

2 49 )Kahan & Roc k , S ymb i o t i cFe de r al i s m , at1 602 .現在は 5 人中 3 人 ( Myr onT.

St e e l e ,Ca r ol ynBe r ge r , J a c kB. J ac obs ) である。デラウエア最高裁判所の裁判官 の経歴が示 されているサイ ト ( ht t p: //cour t s . del awar e. gov/Cour t s /Supr eme

%2 0 Co ur t /? j us t i c e s . ht m) を参照。

2 5 0 ) 但 し,差止めを求める訴訟の場合は迅速である。

2 51 ) もちろん,反対の評価 も根強い。

(22)

160 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

る と評価 され る ことがあ るの も,州 間競争 に よ りデ ラウエ ア会社 法の主 な需要 者 が大規模 公 開会社 となってい る こ とや, デ ラウェ ア州の裁判所制度の特殊性 によって,ス タンダー ドのデメ リッ トが相 当程度緩和 されているか らである

252)

0 その ような制 度的 な要 因 を欠 く日本 の新会社 法が, ルー ルを選好す るの は 自然 であ る。 日本 の新会社 法の立法 ポ リシー に問題が あ る とすれ ば,それはルール 化 を志 向 した こ とで はな くて

253)

,ルール化 す るの ほ どの レベ ルであ るべ きか, す なわ ちポ リシー選択 や具体 的 な法 内容 の決定 を どの程 度行政 レベ ル に委 ね る べ きか,行政 レベ ルに委 ね るメ リッ トとデ メ リッ トにつ いて,十分 な検討 が な

されていない ように思 われ る点であ ろ う。

B. 類 似 点

これ まで述べ て きた ように, デ ラウエ ア会社 制定法がス タンダー ドを選好 し ていて,ス タンダー ド中心 の会社法 で成功 している と評価 され るこ とがあ るの は,デ ラウェ ア州 のおかれた制度 的要 因 ・背景 的事情 に よる ところが大 きい。

デ ラウェ ア州 と制度的 な要 因や背景 的事情が異 なるので, 日本 の新会社 法が ス タンダー ドで な くルール を指 向 したの は 自然 であ る。 しか し,会社 法立法 の選 2 5 2 ) 本稿ではほとんど言及 していないが,連邦証券取引諸法や証券取引所 などの自

主規制機関による補完 を受けているので,デラウエア会社法は自らの得意領域,す なわちスタンダー ドの典型である信認義務 を用いた判断に特化で きるという構造に なっているか もしれない。 Ka ha n & Ro c k , S ymb i o t i cFe de r al i s m,a t 1 5 7 8 ,1 61 9 ‑ 2 2 .

連邦証券取引諸法や 自主規制機関などのデラウエア会社法を支える背景的な制度 は,デラウェア州にス タンダー ドを選好するインセ ンティブを生 じさせているアメ リカ特有の制度的な欠点を補い,克服するために創設され発展 してきたという側面 がある。デラウエア会社法の評価が, どん底への競争の勝者であるという否定的な 評価か ら,頂上‑の競争の勝者であるという肯定的な評価 ( 異論はあるものの現在 ではこの ような高い評価は有力になっている)‑ と 1 8 0 度転換 したのは ,1 9 7 0 年代 になってからである。その直接的な理由は,法 と経済学の台頭により会社法における 様々な競争メカニズムの役割が重要視されるようになったか らである。さらに,もう 一つの理由として,デラウエア会社法を背後で支える様々な制度が創設され ,2 0 世紀 後半にな り充実 したため,デラウエア会社法の欠点が相当程度補われ長所が生かされ るようになったということもあるかもしれない。

2 5 3 ) ルール制作のベネフィッ トを上回るコス トをかけて過剰 なルール化 を行ってい

ないか も問題である。

(23)

会社法立法の 日米比較 ( 3・完) 161 好 が異 な り,制 度 的 な要 因や背 景 的事情 が異 な ってい て も, デ ラウエ ア会社 法

と類似 した部分 はあ る。 日本 の会社 法 にお いて も, 問題 の性 質上 ,事 前 の成 文 化 ・ルー ル化 が 困難 で, ス タ ンダー ドが 適 した領 域 が あ るか らで あ る

254)

。 そ れ は,典型 的 には,取締役 と株主の利害対立や支配株主 と少数株 主の利害対立の ような会社 の内部 関係 の規律 に関す る領域 であ り, アメ リカ会社 法で は伝 統 的 に 受認者 ( f i duci ar y)の信認義務 の問題 とされて きた領域 であ る。 この ような問題 領域 においては,デ ラウェ ア州 と日本 で裁判所 が結論 を導 くための判 断の形式 に 違 いが あ る ものの

255)

,対象 と してい る問題 の性 質 は同 じであ るので,デ ラウエ

254) REI NI ERKRAAKMAN, ETA

L

. ,THEANATOMYOFCoRPORATELAW 24( 2004) ( 「支 配株主によって開始 される自己取引の ような,複雑 な会社 内部の関係 を規制するた めの主要な装置 としてルール戦略に依存する法域 はほとん どない。その ような問題 は,多分,あま りにも複雑す ぎて,禁止 と例外のマ トリックスを用いて規制するこ とは不可能である。その ようなマ トリックスは,抜 け穴を成文化 して しまった り, 無駄な厳格性 を産み出すおそれがある。内部者の 自己取引の ような会社内郡の問題 は,ルールに基づいた規制ではな く,違反が発生 したか どうかを裁定者が事後的に 決定する裁量 を残 してお く広範 なス タンダー ドによって制御 される傾向がある。・

ス タンダー ドに基づいた規制の典型例 は,法が取締役 に 「 誠実に ( i ngo odf ai t h)

行動するように要求 した り, 自己取引は 「 完全 に公正」でなければならない と命 じ た りする‑。 」) .なお,玉井利幸 「 会社法の 自由化 と事後的な制約 ‑デラウエア 会社法 を中心 に ‑( 2) 」一橋法学 3 巻 3号 ( 2004 年) 1129‑45 頁 も参照。

255) デラウェア州の場合,信認義務 というスタンダー ドを具体化 した審査基準 を事実 に適用 して判断するという形式が取 られることが多い。先例拘束性の制約を受けるも のの,裁判所の裁量の余地が大 きく,裁判所のポリシーが直接的に現れることになる。

例えば,防衛策の導入が認め られるかどうかを判断する際に,デラウエア裁判所 は, 防衛策の導入が信認義務に違反 しているか どうか という形式をとり,防衛策 という文 脈において信認義務 を具体化 した Unoc a l 基準で審査 されることになる。 Unoca l 基 準作成時に,裁判所のポ リシー選択 と法内容の具体化が行われている。

日本の場合 は,多 くの場合,条文の解釈適用 とい う形式で行われる。裁判所の選 択 したポ リシーが,条文の解釈 とい う形で反映 されることになる。例 えば,新株予 約権発行 による買収防衛策の可否 を判断する際には,新株予約権の発行が 「 著 しく 不公正」か どうか とい う判断の形 をとることになる。「 著 しく不公正」とい う文言は, 具体的な法的意味内容の確定を裁判所 に委ねているので,スタンダー ドである。裁 判所 は

,

「 著 しく不公正」 とい う文言の解釈 とい う形で, どの ような場合 に防衛策 が許容 されるべ きか とい うポ リシーの選択 を行い,そのポ リシーを実現するために, 具体的意味内容 をもった法規範 を提供す ることになる。このように,「 著 しく不公正」

とい う文言の具体的意味を解釈する作用のなかに,裁判所のポ リシー選択が反映 さ

れ,法創造が行われることになる。

参照

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