⑴ 他人に移植する目的での臓器または組織の摘出は、生きている人の場合 には、第⚘条aが別に定めていない限り、次の場合にのみ許される。
1.次の者、すなわち、
a) 成人し、同意能力のある者、
b) 第⚒項⚑文および⚒文によって説明を受け、摘出に同意した者、
c) 医師の判断により、提供者として適合する者、または手術の危険 以上にさらされないと見込まれ、さらに、摘出の直接の結果を超え て、健康上重篤な侵害を被らないと見込まれる者、
537) なお、ちなみに、スイスでは、2004年に成立した「臓器移植法」(2017年11月15 日現在)が、その第⚓節で「生者からの臓器、組織または細胞の摘出」について定 め、第12条で、「摘出の条件」を定めているが、そのd号で、「男または女のレシピ エント(die Empfängerin oder der Empfänger)が、それと比較できるほどの役に 立つ他の治療方法では治療されえないこと」が挙げられている。
538) Höfling, a.a.O., S. 338.
539) Höfling, a.a.O., S. 339 f. それによって、近年、移植全体の中で、生体移植が統計 的に増え、臓器不足を補うようになってきている。
2.医師の判断によれば、予定されたレシピエントへの臓器または組織の移 植がこの人の生命を維持し、またはその重篤な疾病を治癒し、その悪化を 防ぎ、またはその苦痛を緩和するに適している場合、
3.臓器移植の場合、⚓条または⚔条に従った提供者の適合する臓器が、臓 器摘出の時点で使えない場合、
4.侵襲が医師によって行われる場合、である。
腎臓、肝臓の一部またはその他の再生能力のない臓器の摘出は、それを 越えて、第⚑順位ないし第⚒順位の親族、配偶者、登録された共同生活 者540)、婚約者、または、提供者に特別の人的つながりにおいて明白に親 密な者への移植の目的であるときのみ許される。
⑵ 提供者は、医師によって、理解しやすい形で、つぎの事項について説明 されなければならない。
1.侵襲の目的および種類、
2.検査ならびに検査の結果について知らされる権利、
3.提供者の保護に役立つ措置、ならびに、その範囲、および目的とされる 臓器または組織の摘出の、ありうる、直接の結果およびその健康に対する 後の影響、
4.医師の黙秘義務、
5.臓器または組織の移植の予想できる結果の見込み、およびレシピエント に対する結果ならびに彼が明らかに提供者に対する意味を測定できるその 他の事情、ならびに、
6.個人に関するデータの調査についておよびその利用について。
提供者は、その同意が臓器または組織の摘出の前提であることについて 説明されなければならない。その説明は、第⚕条⚒項⚑文および⚒文がそ
540) この文言は、Gesetz über die Eingetragene Lebenspartnerschaft(Lebenspart-nerschaftsgesetz-LPartG)による。この法律は、2001年⚒月16日に成立し(BGBl I S. 266)、2001年⚘月⚑日に発効した。渡辺富久子「ドイツの生活パートナーシッ プ法――婚姻との関係をめぐって――」外国の立法270(2016.12)30頁以下参照。
れぞれ妥当するその他の医師が臨席した上で、そしてまた必要である限り で、その他の専門家が臨席した上で行なわれなければならない。説明の内 容および提供者の同意の意思表示は、説明者、その他の医師、および提供 者によって署名された文書に記録されなければならない。文書は、第⚑文 による健康上のリスクの保険法上の保障についての指摘も含んでいなけれ ばならない。同意は、文書で、電子的にまたは口頭で取り消すことができ る。第⚓文は、骨髄を目的とする摘出の場合には妥当しない。
⑶ 生者の場合、臓器の摘出については、提供者とレシピエントが、そして、
組織の摘出については、提供者が、医師によって提言されたアフターケア に対する参加について用意がある旨意思表示をした上ではじめて実施が許 される。生者における臓器の摘出に対するその他の条件は、ラント法に よって権限をもつ委員会が、鑑定人として、臓器提供に対する同意が、任 意に行われたという点に対する、または、その臓器が、第17条によって禁 止された売買の対象である541)ということに対する理由のある事実上の依 り所が存在するかという点に対する立場を表明したことである。委員会に は、当該臓器の摘出にも移植にも関わらず、そのような措置に関与もして いない医師、裁判官としての能力をもった者、心理学的問題において経験 をもった者が属さなければならない。詳細は、とくに委員会の構成、手続 541) 第⚖節「禁止規定」の第17条は、「臓器および組織取引の禁止」と題され、「(1)
他人の治療に役立つよう規定された臓器または組織につき、取引することは禁止さ れる。第⚑文は、次の場合には妥当しない。⚑)治療の目的達成のために必要な措 置、とくに、摘出・保存に対する、そして、臓器または組織の感染からの保護、保 管および援助のための措置を含むその他の処理(Aufbereitung)に対する相当の対 価の供与と受領。ならびに、⚒)臓器または組織の利用から、またはその利用のも とで作られた、そして薬剤法21条による許可に関する規定に、薬剤法37条との関係 でも、または薬剤法38条または39条による登録に基礎となっている薬剤であり、あ るいは薬剤法36条による法規命令により、または薬剤法39条⚓項によって許可を免 除され、登録を免れさせられるとき、または、細胞を使用して、作成される、薬事 法⚔条19項の意味における作用物質である。(2)⚑項⚑文により禁止される販売の 対象である臓器または細胞を摘出すること、他人に移植する、または自らに移植す ることは、同じく禁止される。」
および財政については、ラント法によって定められる。
2.臓器摘出基準
⒜ 基本的観点
生体臓器移植の問題点は、次の点にある。すなわち、提供希望者が、自己の 臓器の摘出に同意し、それを他人に移植すること自体は、一方では、基本的に、
自己の身体を自由に処分する権利はあるということに鑑みて保障される行為で あるが、他方で、それが、パターナリズム的立場から自己の利益を保護するべ きという制約に服するという基本構造のなかでどのように限界づけるかである。
さらに、この自己決定権は、どのような規範的な基礎に位置づけられるかも問 題である。生体移植の基本的な構図は、① 提供したいという希望者の自己決 定権の行使と、② レシピエントのそれによる利益の享受、③ 自己決定権を制 限し、提供希望者の利益ならびに臓器提供の安全性や公平性を守る国家の法 律、という三面構造542)であり、その関係の中で調整を図るのが、移植法であ る。
移植法⚘条は、確かに臓器・組織の生体移植の原則的禁止を謳うものではな いが、厳格な前提のもとでのみそれを許可するものである543)。第⚑次的には、
提供者保護がその目的である。⚘条⚑項⚑文は、まず、生体提供の基本的な許 可条件を列挙する。次に、⚘条⚒項は、生体からの提供の枠内で説明と同意に 関する要件を具体化する。さらに、⚘条⚓項は、⚑項の許可要件に対する補充 として、基本的な手続上の要件を含む。アフターケアと委員会制度に関する規 定が含まれる。
⒝ 具体的摘出基準
⛶ 提供者に関する基準(⚑項⚑文⚑号)
① 年齢および同意能力 成年でなければならない。満18歳に達しているこ とが必要である。しかし、⚘条aは、骨髄移植については、例外を認めている。
542) Höfling, a.a.O., S. 341.
543) Höfling, a.a.O., S. 343.
移植目的での未成年者からの骨髄の摘出については、① その利用が、その未 成年者の一親等の親族または兄弟姉妹であったとき、② 予定されるレシピエ ントへの骨髄の移植が医師の判断により、その者の生命を脅かす疾病を治癒さ せるのに適しているとき、③ ⚘条⚑項⚑文⚑号により適合する提供者が、骨 髄の摘出時点で、存在しないとき、など⚕項目の例外条件が規定されている。
② 個別の事例による積極的基準
(同意能力)
成年の場合も、同意能力がな ければ、その身体から臓器・組織を摘出できない544)。精神障害者などの保護 が目的である。身体の完全性のような一身専属的な法益の処分には自然な弁識 能力や判断能力が要求される。③ 未成年ないし同意無能力者に場合の代理による同意の無効 通 説 に よ れ ば、この場合の同意が絶対的一身専属性をもつことから、代理は否定され る545)。ただし、特別の状況があれば(すなわち、骨髄について)は、代理人が同 意したとき、親族などに移植するときは、未成年者からも摘出可能とし、例外 をなす(⚘条a)。
④ 説明および同意の表示
(⚑項⚑文⚑号b)
⚘条⚑項⚑文は、⚒項、⚓項で 具体化された中心的手続的条件をリストアップしている。それによると、臓 器・組織の摘出については、摘出に対する説明と同意を前提とする。⑤ 提供のための適応と危険の予測
(⚑項⚑文⚑号c)
こ こ で は、提 供 者 に よって影響を及ぼすことが不可能な客観的要件が挙げられる。臓器・組織摘出 が行われうるのは、提供者が、医学的評価によって医学的に移植に適合してい るときのみである。成人の同意等の要件を充たしても摘出が許されないのは、一般的手術の危険を超えて危険が生じ、または、手術の直接的結果を超えて健 康に重大な侵害が生じるであろうという場合である546)。提供者保護が立法の 主要目的であり、そこで、手術の危険の高さや重大な健康侵害という消極的な 前提の不存在が要件とされている。そのことは、⚘条⚑項⚒文号の文言から、
544) Höfling, a.a.O., S. 344.
545) Höfling, a.a.O., S. 346.
546) Höfling, a.a.O., S. 347.