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リスクマネジメントとコーポレートガバナンスに関する一考察 : 「経営者リスク」のリスクマネジメントについて

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リスクマネジメントとコーポレートガバナンスに関する一考察

―「経営者リスク」のリスクマネジメントについて―

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1.はじめに リスクマネジメントとコーポレートガバナンスの関係については、内外を問わず、「コー ポレートガバナンスの中でのリスクマネジメント」と捉える考え方が一般的である。これは たとえば「コーポレートガバナンスで重視される企業リスクマネジメント」1あるいは「コー ポレートガバナンスに立脚したリスクマネジメント」2といった表現にみられるとおりである。 しかし株主資本主義のもとで、コーポレートガバナンスの伝統がある米英ではともかく、 そもそもコーポレートガバナンスのないのが問題であるとされるわが国においては「リスク マネジメントにおけるコーポレートガバナンス」という問題提起の仕方があってもよいので はないか。 コーポレートガバナンスを所与のものとして、そのもとにおけるリスクマネジメントや如 何というのではなく、コーポレートガバナンスはリスクマネジメントのための仕組や方法で あるとして、リスクマネジメントのためのコーポレートガバナンスや如何と考えてみてはど うか。 そうした問題意識のもとに、リスクマネジメントとコーポレートガバナンスの関係につい て、あるいはリスクマネジメントにおいては、コーポレートガバナンスの問題をどう考える べきか、ということに一つの考察を加えるのがこの論文の目的である。 バブルの崩壊以後、コーポレートガバナンスをめぐる研究や論議の拡がりと深まりには目 を見張るものがある。それらは法学者によるもの、経済・経営学者によるもの、会計学者によ るもの、そして実務家によるものなど多方面にわたっている。 コーポレートガバナンス問題の背景にあるのは、一方では絶えることのない企業不祥事や 経営者の暴走であり、他方では「メインバンク制の崩壊」「株式持合いの解消」「会計基準の グローバル化」「規制の変化」「情報伝達手段の発達」など日本型企業システムの見直しを迫 る経営環境の激変である。「会社は誰のものか」、「会社とは何か」、「会社はどこへ行く」3「会 社はこれからどうなるのか」4などの問いが後者のものである。 もともとコーポレートガバナンスという言葉の多義性もあり、また世界的にもコーポレー トガバナンスの改革が一大関心事となっている中で、コーポレートガバナンスをめぐる論議 はきわめて複雑で多様なものになっている。ジャングルとも称される議論の中で迷子になる ことのないよう「経営者リスク」に関するリスクマネジメントという観点からの考察を行う ことにする。 1 後藤和廣〔2002〕「コーポレート・ガバナンスで重視される企業リスクマネジメント」『保険学雑誌』第 576 号

2 徳谷昌勇・(株)未来質中央研究所・(社)日本能率協会〔2002〕『Total Risk Management 推進のガイド ライン』日本能率協会・未来質中央研究所

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う。それはまた「経営者」という職能に関連したすべてのリスクであると言うことができる。 さらにリスクとは、すでに述べたように予測可能な「事故発生の可能性」のみならず、統計 的手法などによって発生確率を把握することはできない「不確実性」をも含むものである。 「経営者自身が不祥事をおかす」あるいは「経営者として企業の不祥事を防止できない」と いうリスクは、後者の不確実性の範疇に属するリスクである。 たとえば経済産業省が事業リスク評価・管理人材育成事業において作成したテキスト『事 業リスクマネジメント』(2004 年3月)9では、企業経営上のリスクを①保険リスク、②財務 リスク、③経営リスク、④オペレーショナルリスク、⑤コンプライアンスリスク、⑥レピュ テーショナルリスク(企業不祥事はここに含まれる)に分類している。広い意味ではこれを そのまま経営者リスクの分類とすることもできよう。 ところで亀井〔1994〕は経営者リスクを「特定の人物が経営者であるがゆえに派生するリ スク」であるとし、「キイマンリスク」「性格リスク」「能力リスク」の三つに分類する。キイ マンリスクについてはすでに述べたとおりである。性格リスクについては、フィンケルシュ タイン(Finkelstein, S., 2003)が名経営者の失敗の原因として挙げる①優越感の過剰、② 公私の混同、③能力の過信、④反対者を排斥、⑤目立ちたがり屋、⑥障害を過小評価、⑦成 功体験への固執のような例がある。経営者としての「能力リスク」については、このあと項 目を改めて(「3.経営者をどう選ぶか」)検討する。 なお亀井〔2001a〕は「意思決定を公式化しようとしたり、いかに科学を導入しようとし ても、それは根本的には人間の能力ないし資質の問題となる」、さらに「経営者はハザードや リスクの塊のようなものである。マネジメントさるべきものは企業よりも経営者のハザード だといっても過言ではない」と述べている。 森宮〔1999〕は「人の行為に関するハザード10」に関して、それをまずパーソナルハザー ド(ミクロハザード)とヒューマンハザード(マクロハザード)に二分し、次にパーソナル ハザードを「モラルハザード」と「モラールハザード」そして「ジャッジメントハザード11 の三つに分類する。この分類法に従えば、企業不祥事はモラルハザードもしくはモラールハ ザードに起因するものである。 (3)企業不祥事のリスク コーポレートガバナンスの対象となる経営者リスクはすでに述べたようにマイナスのリス ク(企業不祥事)のみではなく、プラスのリスク(事業の成功)をも含むものである。そし 9 http://www.meti.go.jp/report/data/jinzai_ikusei2004_06.html 10 森宮〔1999〕は「損失を生み(発生頻度に関わる)、損失を拡大させる(損失強度に関わる)損失生起拡 大要因」をハザードとする。一方、『基本リスクマネジメント用語辞典』は「危険事情、すなわち事故発 生の可能性に影響する環境、条件、事情を意味する」とする。前者は「損失」の、後者は「事故」の要因 (事情)という違いがある。「損失」はloss、「事故」は peril であり、peril によって loss が発生するとい う関係にあるので両者は異なるものである。ハザードは両者にかかわる環境要因といえよう。

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本でも投資信託の「SRI ファンド」が続々と発売されている。SRI の投資残高は欧米の 300 兆円に対し、日本ではまだ150 億円程度である(岡本、2004)。なおストックオプションに ついては「公共の利益に合致しない制度である」との批判がある。また「SRI」については 十川〔2005〕の言う「市場の進化(経済性のみならず社会性や人間性をも求める)」の一例 として理解することも可能であろう。 「ムチ」の例としては「合併・買収」がある。日本では「株式の持合い」により株式市場 のガバナンスがほとんど機能していなかった。しかし商法の改正もあり、日本でも大合併・ 買収時代に入るであろうと言われている。会社が合併・買収されて経営者の席を追われるとい うのは、経営者にとっては大きな脅威である。ちなみに経済学の理論的実証的研究において は「テイクオーバーの可能性や外部投資家としての大株主の存在は、企業のパフォーマンス に好影響を与える」との知見が得られている(小佐野、2001)。 3.「経営者リスク」のリスクマネジメント (1)リスク処理の主体 リスクマネジメントとは「リスクの発見」→「リスク処理手段の検討」→「リスク処理手 段の選択・実行」→「監視」というプロセス13を組織的・継続的に行うことである。これを 「経営者リスク」について当てはめれば、さしあたり問題になるのは「誰が行うのか」と「ど のように行うのか」という点である。 ここにおいて登場するのが「コーポレートガバナンス」の問題である。コーポレートガバ ナンスを文字通り「企業統治」あるいは「経営の規律付け」のこととすれば、経営者を監督 するのは直接的には株主の負託を受けた取締役であり、間接的には株主である。これは商法 上そうなるということであり、法学者のコーポレートガバナンスに関する議論はいかにして 取締役および監査役に本来の機能を発揮させるかという点をめぐるものが多い。この立場か らは、経営者リスクのリスクマネジメントに責任を持つのは株主であり、取締役であるとい うことになる。 一方経営学においては古くからコーポレートガバナンスのテーマには「社会倫理問題」と 「企業効率問題」という二面性があり(菊澤、2004)、それは今日にいたるまで二つの流れ となっている14。また稲上〔2002〕によれば、現在論議されているコーポレートガバナンス には「株主価値モデル」「洗練された株主価値モデル」「多元主義モデル」という3 つのモデ ルがある。 一般的に英米は株主価値モデルであるとされているが、いずれの国においてもコーポレー

13 これはサイモン(Simon, H. A., 1960)の「情報活動(intelligence activity)」→「設計活動(design activity)」 →「選択活動」(choice activity)」からなる意思決定の三局面(プロセス)に通じるものである。情報活 動は「機会の発見」、設計活動は「可能な行動方向の発見」、選択活動は「いくつかの行動方向のなかから の選択」である。ちなみにサイモン〔1960〕では、「意思決定」は「経営」と同義語として扱われている。 14 「経営責任論」と「企業繁栄論」、「不正の防止」と「利益の追求」、「企業不祥事」と「事業の成功」など、

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トガバナンスの改革論議が高まっており、必ずしも「株主価値モデル」一辺倒ではない。し かし「洗練された株主価値モデル」も長期的利益の観点から株主以外のステークホルダーと の関係を重視するというのが「洗練された」点であり、基本は株主価値モデルなので、上記 同様リスクマネジメントの主体は株主である。 問題は多元主義モデルの場合である。多元主義モデルはいまや国際的な方向性を示すもの である。株主価値モデルであった米英も多様なステークホルダーの存在を無視することはで きないし、株主重視が叫ばれている日本でも、とくに経営学的には多元主義モデルになるで あろう15。その場合には、経営者リスクをコントロールする主体は、株主だけではなく、従 業員、顧客、取引先、地域住民そして行政機関などをも含むステークホルダーである。 経営者リスクのリスクマネジメントを行うのは株主とステークホルダーのいずれが適任で あるのか。その議論の優劣は一見明らかのようである。すなわち法律上、経営者を監視する のは取締役あるいは監査役であり、それら以外にはないではないかと言える。その立場から は、リスクマネジメントのためのコーポレートガバナンスとは、上述した法的議論に収斂さ れることになる。それは取締役および監査役の監督機能をいかに実効あらしめるかというこ とであり、大和銀行代表訴訟判決および神戸製鋼代表訴訟所見にあるとおりである。 上記に対して、現実に株主価値モデルでもないし、また株主価値モデルが将来のあるべき 形でもないとしたらどうであろうか。つまり多元主義モデルのコーポレートガバナンスが採 用される場合、リスクマネジメントに関しては株主価値モデルよりも劣るということになる のであろうか。そうだとすればどのような理由によるものであろうか。そうした疑問に答え るためには、リスクマネジメントの方法(リスク処理手段→リスクコントロール)について 検討する必要がある。 (2)リスク処理手段 リスクマネジメントにおけるリスク処理手段は「リスクコントロール」と「リスクファイ ナンス」に分類される16「経営者リスクの性格と分類」のところで述べたように、この論文 で対象としている「経営者リスク」に関しては、リスクファイナンスというリスク処理手段 は現実的ではない。それはたとえば「企業不祥事」に対する「保険」とか「保有」というリ スクファイナンスの手段は通常は存在しないということである。したがって「経営者リスク」 に対するリスクマネジメントは「リスクコントロール」が中心のものとならざるを得ない。 リスクコントロールには「回避」「損失制御」「結合」「分離」「移転」という5つの方法が ある(Williams, C. A. & Heins, R. M., 1976)。「回避」は文字通りリスクを避けるというこ とである。リスク量は発生頻度と影響度の積として求められる。発生頻度も高く、影響度も

15 「ステークホルダー」は John Donaldson (1992) によれば 1950 年代の Robert K. Merton による造語で あり、1963 年にはスタンフォード・リサーチ・インスティチュート (Stanford Research Institute) が「そ のサポートがなければ組織が存続できないグループであり、株主、従業員、顧客、供給者、貸主、社会が 含まれるもの」と定義している (Kiston, A. & Campbell, R., 1996)。

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大きいリスクに対するリスク処理手段としては「回避」しかないということがありうる。 「経営者リスク」の場合には、リスク量の大きな経営者をやめさせることができないなら、 「回避」しかないかもしれない。その場合、ステークホルダーが「株主」なら、持ち株を売 却してしまう(米国にはこれを称してWall Street Walk、あるいは Wall Street Rule という

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誰かがリスク処理手段として選任するというのではない。それにもかかわらず「経営者の選 任」という項目を設けて検討するのは以下の理由からである。 米国では経営者を社外から選任するのがそれほど珍しいことではない。 日本でも委員会等設置会社では、指名委員会が社長を選任する会社が出てきている。 米国型と日本型の比較がいろいろな意味でなされている。米国型コーポレートガバナン スと日本型コーポレートガバナンスの比較はよくあるが、専門経営者についても米国型 と日本型との比較が有益である。 日本の場合には退任する社長が次期社長を選任するのが一般的であるが、それも選任に は違いない。 そして何よりも、どういう人物が、どのようにして経営者となるのか、はこの論文のテー マである「経営者リスク」や「コーポレートガバナンス」の問題に深く関係しているか らである。 (2)経営者の職能 清水〔1999〕は過去 30 数年にわたる日本企業の実証研究から、優れた経営者の条件は「世 の中の大きな流れの方向を大きくとらえ、同時に足元のことを細かく深くとらえ、それをつ ねに結びつけて考えている人間だ」ということがわかったという。経営者機能とはリーダー シップ機能であり、そのリーダーシップ機能を①将来構想の構築と経営理念の明確化、②戦 略的意思決定、そして③執行管理の3 つのステップに分けて考える。そして 1970 年代まで の経営学では、③の執行管理が最も多く論ぜられてきたが、現在のように情報化・グローバ ル化が急進展する大変革の時代には①と②のステップが重要であるとする。 その「戦略的意思決定」を清水〔1999〕は「トップマネジメントが企業の維持・発展の立 場から、企業をとりまく環境の機会と脅威を明確に認識し、その保有する経営資源に適合す るような戦略を選択することである」と定義する。これはそのまま現代的リスクマネジメン トの定義にも当てはまる。すなわち「企業の維持・発展」は現代的リスクマネジメントの目 的とするところであり、「企業をとりまく環境の機会と脅威」はリスクであり、「戦略の選択」 は「リスク処理手段の選択・実行」である。 現代的リスクマネジメントには「リスクの統合的な処理」と「全社的なリスクマネジメン ト」という2つの側面がある。全社的なリスクマネジメントとは企業のあらゆる階層、あら ゆる部門の全従業員によって行われるリスクマネジメントである。そして企業トップのリス クマネジメントとは、戦略的意思決定をはじめとする経営者の職能に他ならないということ である。この点をもう少し詳しくみていきたい。

アンゾフ(Ansoff, H. I., 1965)は企業における意思決定は、①戦略的意思決定(strategic decisions)、②管理的意思決定(administrative decisions)と③業務的意思決定(operating decisions)の 3 つに分類され、戦略的意思決定は他の決定と比べると、非反復的で高度の不 確実性に富んでいる。そしてそのような「部分的無知」のもとで行われる決定の「決定ルー ル」となるのが戦略であるとする。

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証し、企業の資産を保全し、経営能率を向上させるために行う経営管理の手法である。公認 会計士による外部監査が外部の利害関係者のためのものであるのに対して、内部監査は経営 管理者のために行われる。内部監査は、会計記録の不正・誤謬を検証するための内部牽制 (internal check)と、経営能率の向上を目的とする業務監査(operating control)および 経営監査(management audit)からなる。

鳥羽〔2005〕によれば、 内部統制は内部監査よりも広い概念のものを意味する用語とし て古くから使用されていたが、アメリカ公認会計士協会・特別委員会がその報告書『内部統 制』(1949)22を公表した後は、内部会計統制(internal accounting control)と内部業務統

制(internal administrative control)に区分して理解する考え方が一般的になった。

その後1977 年に海外不正支払防止法が制定されて、「内部会計統制」は経営者が確立・維 持しなければならないものとされた。さらにコーエン報告書(1978)は内部統制が有効に機 能していることの保証には会計士が関与すべきであると提唱した。 1980 年代のアメリカでは企業不祥事が続出し財務報告における内部統制の重要性が改め て強く認識された(1987 年のトレッドウェイ委員会報告書『不正な財務報告』)。このトレッ ド ウ ェ イ 委 員 会 の 勧 告 を 受 け て 、 ト レ ッ ド ウ ェ イ 委 員 会 組 織 委 員 会 (Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission:COSO)が作成したのが内部統制に 関するCOSO 報告書である。 COSO 報告書がその後、主要国における内部統制のモデルとなったのは、それまで多面的 であった内部統制の定義について、誰もが依拠しうる総合的・統一的な定義を樹立し、同時 に、内部統制の目的との関係において、企業の内部統制を評価するための枠組み(フレーム ワーク)を提示したからである。その定義とは以下のとおりである。 「内部統制は、以下の範疇に分けられる目的の達成に関して合理的な保証を提供すること を意図した、事業体の取締役会、経営者およびその他の人々によって遂行されるプロセスで ある。目的:①業務の有効性と効率性、②財務報告の信頼性、③関連法規の遵守 そして内部統制の構成要素として、①統制環境、②リスクの評価、③統制活動、④情報と 伝達、⑤監視活動、を識別する」23 COSO フレームワーク(内部統制の概念的枠組み)とは、上記 3 つの目的を三角錐で、3 つの目的と5つの構成要素と事業単位(あるいは活動)との関係を三次元の立法体(COSO キューブ)の図で示したものであり、それにより内部統制システムの構築とその有効性の評 価を促したものである。 鳥羽〔2005〕は、COSO 報告書は以下の三点において画期的であるとし、中でも②の「内 部統制をコーポレートガバナンスと連動させた考え方」に着目する。①「事業体の取締役会、

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経営者およびその他の人々によって遂行されるプロセス」とするのは人間行動の側面を重視 するものである。②取締役会や経営者に言及することによって、コーポレート・ガバナンス

との接点を確保している。③統制目的として、「関連法規の遵守」(コンプライアンス)を明

示している。

内部統制に執行の長たる社長(最高執行責任者)の視点を反映させるものは、1949 年アメ

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統制目的の達成度を評価するための基準であるが、統制環境に着目する点では類似性が ある。鳥羽〔2005〕によれば、統制環境とは、企業不祥事の原因や防止策として一般に 挙げられる「企業風土」「経営者の自覚」「企業倫理、企業行動基準の不備」「社内チェッ ク体制の不備」などであり、リスクマネジメントにおいても、「経営者リスク」に関す る状況の確定とはそうしたことに他ならない。 リスクの評価:これも現代的リスクマネジメントに新たに導入された概念の一つであり、 リスクの評価とは、①リスクの優先順位付けを行い、優先順位をつけたそれぞれのリス クに対して②リスクの許容水準、リスクコントロール水準、残余リスクに関する決定を 企業企業価値向上の観点から行うことである(上田、2003)。内部統制における「リス クの評価」も、組織の内外で発生するリスクを識別した上で評価し、評価されたリスク に対する適切な対応を実施することであり、その内容はリスクマネジメントと変わると ころはない。 統制活動:内部統制における「統制活動」としては、具体的に「職務と責任の分担」「取 引や処理の承認」「文書化」「資産と記録に対する物理的統制」「独立的チェック」とい う5つのタイプがある(鳥羽、2005)。一方、リスクマネジメントは「計画」→「組織」 →「指揮」→「統制」というマネジメントのサイクルによって実行される。このうちの 「統制」とは、「リスクの処理が計画どおりに実施されたかどうかの業績記録およびそ の評価・分析」であり(亀井、2001)、この点においても、内部統制とリスクマネジメン トは重なり合うものである。 情報と伝達:情報と伝達が構成要素となっていることは、現代的リスクマネジメントに おいてリスクコミュニケーションが重視されるのと相通じるものがある。リスクマネジ メントにおけるリスクコミュニケーションとは、リスク情報に関する伝達を、企業内部 はもとよりあらゆるステークホルダーとの間で、双方向に(対話的に)行うことであり、 そのために共通言語の使用が推奨される。寺本・坂井〔2002〕は、知識をベースとする 「統知構造としてのコーポレートガバナンス」を提唱し、異なるステークホルダー間に おける知識の相互作用によって、各ステークホルダーに固有の活動プロセスが統合され る(知識は他の知識との相互作用によって全体性を追求する)可能性を指摘する。内部 統制とコーポレートガバナンスとリスクマネジメントのそれぞれが重視するものに強 い類似性が認められる一つの例といえる。 監視活動:リスクマネジメントのプロセスの最後に来るものがやはり「監視」である。 リスク処理手段を実行した結果を監視して、それによって必要な軌道修正や新たな処理 手段を加えながらリスクマネジメントのプロセスを何回も回していくものである。 内部統制における「監視活動」も「日常的監視活動」と「独立的監視活動」により内部 統制を評価し必要な修正を行うことであり(鳥羽、2005)、同様のものと認められる。 2003 年 7 月、COSO は「エンタープライズ・リスクマネジメントの枠組み(Enterprise Risk Management Framework)」を公表した。1992 年 COSO 報告書ではリスクマネジメントは

内部統制の構成要素であったが、この2003 年報告書では逆に内部統制がリスクマネジメン

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(6)株主行動主義

ノフシンガーとキム(Nofsinger, J.R. & Kim, K.A., 2004)によれば、株主行動主義に関 する正式の定義は存在しないが、一般的には個人投資家や機関投資家が株主としての権利を 主張して行動することをいう。議決権を行使する、株主提案を行う、株主総会に出席するな どの株主はそれぞれに行動的な株主であるといえる。 この株主行動主義がコーポレートガバナンスとの関連で注目されるようになったのは、米 国の機関投資家が投資先企業の経営に影響を及ぼすようになったからである。その背景にあ るのは機関投資家の肥大化であり、たとえば1998 年時点で、直接株式を保有する人は 3380 万人に対して、ファンドを通じて保有する人は 5020 万人に上った。また 2001 年には、75

の機関投資家が米国株式市場の44%を保有していた(Nofsinger, J.R. & Kim, K.A., 2004)。

米国機関投資家の中でももっとも有名なのが1000 億ドルを超える資産と 100 万人の会員 を有するカルパース(カリフォルニア州公務員退職年金基金)である。カルパースはそのポー トフォリオの中から業績の不振な企業を選別して、取締役会の再構成、最高経営責任者と取 締役会議長の兼務をやめさせること、最高経営責任者への経済的インセンティブの見直しな どを申し入れる。企業がそれに応じない場合には、他の株主との集団行動で圧力をかける、 あるいはメディアを利用して外部からの圧力を強めるなどのことを行う。 現にカルパースは、GM、ウェスティングハウス、IBM などのトップ更迭にも関与してお り、またカルパースが委託した調査機関の調査によれば、カルパースが改革を求めた 42 社 に関して、改革以前と改革以後5 年間の総リターンを比較すると、以前は S&P500 インデッ クスを66%下回ったのに対し、以後は 52.5%上回ったとの結果が出されている(Nofsinger, J.R. & Kim, K.A., 2004)。

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るもの」と「期待され、望まれているもの」というように、その責任の性格を基準として分 類していることである。それは企業の社会的責任の中身は、その時代、その国で企業が置か れている環境や社会問題によって規定されるということである。ホワイトゾーンの部分につ いては、かつて「社会的貢献」があり、今は「地球環境問題」がある。 そうであれば、当面、日本の CSR で焦点が当たるのは「コーポレートガバナンス」であ り、「コンプライアンス」であり「情報開示」であろう。そしてそれらはブラックゾーンある いはグレイゾーンのものであり、企業としては当然に遵守が求められるものである。 ちなみに十川〔2005〕は、CSR とは単に倫理的・道徳的問題としてのみ論じられるべきも のではなく、それはステークホルダーとの協力関係を確保し企業の経営基盤を形成するべき ものである。したがってすべての社会問題が CSR となるものではなく、福祉の増進のため に企業が果たすべき役割については、おのずから制約があるだろうとする。 これは現代の企業をcollective enterprise と捉える、すなわち企業は多様なステークホル ダーとの協働関係において成り立つものとする考え方に基づくものである。ホワイトゾーン の環境問題にどう取り組むべきかという問題(経済効率性との両立の問題)は残るが、CSR を企業経営の本筋のものであるとする意義がある。ステークホルダーとの関係を重視するの で、ステークホルダーによるコーポレートガバナンスという考え方にも馴染むものである。 (2)コンプライアンス コンプライアンスは英語の compliance であり、英語圏では「法令遵守」という意味しか ないが、日本ではもう少し広い意味で用いられ、「法令の文言のみならず、その背景にある精 神まで遵守・実践していく活動26」と捉えられている。英語でその意味を伝えるなら「企業

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への精励」→「倫理的企業文化+的確な事業戦略」→「好業績」→「企業倫理のレベルアッ プ」という好循環をもたらすということである。ステークホルダーからの「尊敬と信頼」は、 上述した「ブランド価値の向上」と同じことを意味しており、企業倫理もまた「企業不祥事」 対策はもちろん、競争力や企業価値の向上にも貢献するということである。 (4)公益通報者保護制度 従業員によるリスクコントロールとして特筆されるのが、平成17 年 4 月 1 日に公布され 平成 18 年4月1日から施行される「公益通報者保護法」である。これはいわゆる「内部告 発」を奨励するための立法である。 食品の偽装表示事件や自動車のリコール隠し事件など一連の企業不祥事は従業員による通 報が契機となって明らかになった。そうしたことから内部告発に対する社会的な評価が高ま り、公益通報者を保護するための包括的な法的ルールの作成が必要とされた。 公益通報者を保護するための規定は一部の法律にはすでに存在し、また通報による解雇を 無効とする判例も次第に増えてきてはいるが、一般的にどのような内容の通報をどこへ行え ば解雇などの不利な扱いから保護されるのかは必ずしも明確ではなかった。 一方、英国においては包括的な通報者保護法である「公益開示法(Public Interest

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メント」であるという意味である。前にも述べたが、それは組織のあらゆる階層・部署にお いて、経営者と従業員の全員によって行われるリスクマネジメントである。そのために共通 言語による双方向のリスクコミュニケーションが奨励され、リスクマネジメントが組織のす みずみにまで浸透することによって、それが組織の風土となり、リスクカルチャーと呼ばれ るものになる。 現代的リスクマネジメントをそのようなものと理解すれば、そもそも「内部統制」自体が リスクマネジメントであり、さらにその内部統制の構成要素の一つとしてまた「リスクマネ ジメント」が出てきてもなんら違和感は生じないであろう。一つにはその目的が「生き残り (倒産防止)」と「企業価値の向上」であること、もう一つは、その言葉(概念)のキャパシ ティが大きいことから、リスクマネジメントは「コーポレートガバナンス」「内部統制」「コ ンプライアンス」「CSR」などと広く重なり合うものであるといえよう27 ここ数年、リスクマネジメントに始まり、コンプライアンスが、そして最近は、内部統制 や CSR の問題が、企業経営上の重要課題として次から次に現われている。こうした問題に 逐一取り組むことを求められる企業は大変であるが、いずれも根っ子の部分ではつながって いる問題である。したがってそれぞれの活動はどこかで統合されなければならない。 それが可能なのは唯一経営者のレベルであり、経営者がそれを行う際に有益と思われるの が現代的リスクマネジメントの思考法である。これが経営者によるリスクマネジメントであ る。その先にある経営者リスクのリスクマネジメントを行うのはステークホルダーによる コーポレートガバナンスである。 日本の企業は株主重視型へ舵を切り直す必要があるが、コーポレートガバナンスはどれか 一つで十分ということではないので株主以外の多様なステークホルダーによるリスクコント ロールの手段も合わせて活用されることが望ましい。 しかし仕組みをつくるだけでは“仏を作って魂を入れず”ということになりかねない。エ ンロンをはじめ、不正会計を犯した米国企業の取締役会は、むしろ模範的、先進的ともいえ るものであった。取締役の「会議への出席率」「自社株の保有」「経営に関する知識と経験」 「年齢」「独立性」「人数」「各種委員会の設置」などのいずれをとっても不祥事を起こした企 業とそれ以外の優良企業では大差がなかった(ソネンフェルド、2005)。 コーポレートガバナンスの仕組みと方法を真に機能させることができるかどうかは経営者 次第であり、いかに経営者をその気にさせるかということに尽きるのかもしれない。そして 経営者を“その気にさせる”のはコーポレートガバナンスのアメとムチであろう。

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【引用文献】(脚注に掲げたものを除く)

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参照

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