*連絡先 九州大学大学院統合新領域学府, 〒福岡県福岡市南区塩原 4-9-1, E-mail:[email protected]
経営者のソーシャルサポートとイエ型組織に関する一考察
―経営者のデプスインタビューよりー
A consideration on
social support of management
from the organization
and
Ultra-kin organizations
1江口茉由子
1*Mayuko Eguchi
11
九州大学大学院 統合新領域学府
1
Kyushu university graduate school of integrated frontier sciences department of kansei science
Abstract: In this study, we interviewed management and extracted relevant activities related to social support for employees. The introduction of IT is remarkable in recent years and implementation of business improvement software is progressing. On one hand, employees always place importance on emotional thinking that emphasizes ties with colleagues. In this consideration, we devised a model that both organization and individual are satisfied. Finally we verified the relationship between that model and management's social support.
(1)はじめに
近年、ビジネスとIT 化の統合が進み Office ソフト やERP パッケージの導入など、業務の効率化が一般 化している。しかし、オペレーティング側の人間が 持つ仕事意識はIT が導入された現代で、より情緒的 な視座に移行している。NHK 放送文化研究所が5年 ごとに行う「日本人の意識調査」(1)では、日本人 は理想とする仕事条件に「仲間」をあげ、このキー ワードは1993年以降第一位にランクインしてい る。 また、安定した働き方には個人の抱えるストレス が適度なものでなければならないとする背景もある。 近年の労働状況下では組織に属する個人は約6 割が 強いストレスを抱えており(2)、とくに企業や特定 組織に所属する個人がもつ圧迫された心理状態を組 織ストレッサーと呼び、ストレス緩和の研究につい ては多くの研究がなされている。ここで述べる組織 ストレッサーとはCooper, C.L.& Marshall, J.(1970)が 定義した以下5つの「特定の職務に関連したネガテ ィブな環境要因」のことである(3)。 ① 職務に本質的なもの(労働過多、物理的に不適合 な労働条件など) ② 組織における役割(他社への責任、役割葛藤など) ③ キャリア発達(昇進の可能性がない、不過分な地 位など) ④ 仕事における人間関係(上司や部下、同僚とうま くいかないこと、責任が重すぎることなど) ⑤ 組織構造や風土(意思決定にほとんど参加でき ない、行動に制限がある職場のポリシーなど) 増地(2002)は組織ストレスの現状と研究に関する 論文の中で、組織が従業員に施すサポートがメンタ ルヘルスに関わる風土と大きな関連を持つことを示 し、「組織サポートの認知は組織コミットメントを高 める要因とも考えられる」と述べている(4)。しか し組織のサポートは企業努力に委ねられているのが 現状であり、従業員の人間関係をケアする取り組み も消極的な企業が多い。例えば東京都が調査を行っ た、パワー・ハラスメント(職場のいじめ・嫌がら せ)の予防・解決に向けて勤務先が実施している取 り組みでは、全4230社数2065社が「ほとん ど取り組んでいない」と回答している(5)。前掲の増井の論文のように、社員が組織に助けら れている、守られているという実感がなければ会社 と個人の結びつきは薄弱なものとなる。組織と個人 双方がサポートし合う意識をもつことが必要だと考 える。
(2)組織―個人間のイエ型モデル
イエ社会の集団維持と日本人の労働倫理観
高度成長期に日本的研究が盛んにおこなわれた際、 組織が超血縁的な結びつきをもつことが注目された (5)。この結びつきを村上・公文・佐藤(1979)らは 「イエ集団」と名付け、鎌倉幕府の武家社会に始ま り、その後も規模の縮小をしながらも近代の商家ま で仕組みが存続したとしている(6)。この特徴は組 織目標を「組織の存続」とし、機能的な階層構造を 有しながらも組織の自立性を重視していることにあ る。このイエ型モデルに着目し、組織、構成員双方 が利益を享受できるモデルとして以下の図を作成し た。イエ型組織―イエ型個人のモデル
このモデルではまず縦軸を組織的イエ思考(組織 が個人を集団の成員と捉え個人内での存続を目的と する)、横軸は個人的イエ思考(会社の存続を目的と した成員の運動)とした。これは個人の持つ3種類 のコミットメントとも関わりが深い。 ① 功利的 離職すると給与が受け取れない。 ② 規範的 会社に義務感や恩義を感じる ③ 情緒的 人間関係、人づきあい まず、相互自律的モデルでは個人が組織やその構 成員に貢献する意欲が強く、同様に組織も構成員へ の貢献を行う関係を示している。次に忠臣的モデル では長時間労働、低賃金にも関わらず組織のために 忠義を尽くす構成員の特徴が強いことを示す。また 親子的モデルでは、組織が個人への貢献を行ってい るにも関わらず構成員は利益を享受するだけのモデ ルである。最後に契約的モデルは、構成員は契約に 基づいた分業的な仕事を重視しており組織も手段的 な労働力の確保を優先する姿勢を示す。 次に行ったインタビュー調査では、組織の活動に おいて組織的イエ思考に関連した活動があるか調査 を行った。(3)経営者インタビュー
調査方法は半構造化した質問によるインタビュー 調査(1 人あたり 50 分)である。経営、教育にまつ わる会話を中心に、経営者が個人に向けた組織的サ ポートへ着目し組織への帰属意識に貢献していると 思われる内容について抽出を行った。 対象はいずれも福岡市を本拠地とする企業であり、 事業拡大の過渡期にある企業である。略式のプロフ ィールは以下の通りで、業種は日本標準産業分類を 参考とした。インタビューはH29.4.6-26 にかけて行 い、対象者の了承を得て会話をテープレコーダーに 録音した。 業種 設立年 社員数 A 卸売業、小売業 1954 210 B 学術研究、専門・技術サービス業 2011 115 C 教育、学習支援業 2010 NAA
.自立、キャリア発達のサポート(付表1)
A社は1954年に福岡市博多区を本拠地として 創業した電設資材や住宅設備機器を扱う総合商社で ある。現在は2代目社長(以下、経営者)が経営指 揮をとり社員数は210名、グループ会社9社を有 している。同族経営の企業で創業者は現経営者の父 親である。経営者がこのようなサポートに至った背 親子的 相互 自律的 イエ集団 依存者 忠臣的 契約的 個人的 イエ思考 労働者 仕事人間 組織的イエ思考景には、先代社長の専制的な経営を間近に見て、「こ の手法では社員がついていかないだろう」と感じた ことが大きいと述べている。以下はインタビューか らの抜粋である。 【展示会運営】 ―先代社長時に、もっと社員が自分の頭で考えな ければ会社が立ち行かなくなると思った。社員には 自発的な考えを持ってもらいたい。年に1度大きな イベントをやっているが、そこでは立候補した社員 がイベントを運営している。ノルマはないが、イベ ント前には決起集会を行っている。全事業所を集め て考案したスローガンと目標予算を全員の前で読み 上げるようにし、それを私が受け取る。ノルマが未 達成でもペナルティはありません。 【昇進機会】 ―九州一円に事業所がある。その理由はやる気の ある社員にはどんどんチャンスを与えるから。社員 がやる気があると言えば新しい事業所を作ります。 最近は事業所も密になってきて、次の事業所を作る 場所を見つけるのが大変です。 【オーダーメイドの研修】 ―先代社長時に、様々な社員研修に派遣されたが 受講してもあまり意味がないと思った。どこかで他 人事だと感じてしまう。自社では既成の研修は行わ ない。私と専任の経営コンサルタントで内容を決め ます。自分の理念も研修内容に盛り込んで。やはり 受講者の親密感は格段に高いと思う。既成の研修で は使わないような専門用語も使用するし、この業界 や自社の状況に考慮した内容にしています。
B. 社員・家族双方への福利厚生、勤務環境
へのサポート(付表2)
B社は2015年に福岡市中央区で創業した事業 プロデュース業を営む企業であり、経営者は会社員 生活を経て起業、社員数は115名である。 【福利厚生】 ―数多くの福利厚生があるが、同じ会社で働く社 員にはここで働くことで幸せになってほしいと考え るから。1人1人がやりがいを持って充実した暮ら しを持ってほしい。ただ利益を出せばいいというわ けではない。―以下福利厚生の抜粋。 ・お子様職場体験 ・パートナーバースデー休暇 ・出産お祝い金 ・マッサージサービス など 【オフィス環境】 ―受付で太鼓を鳴らして、社員が一斉に挨拶をし ます。来客は当たり前のことではありません。心か らいらっしゃいませと言わなければ。(中略)オフィ スに社長室はないです。応接室もデスクも仕切りは ないのでフラットな環境だと思います。よく、社員 には笑う時は大きな声で笑うように言います。売上 げが活気を作るのではなく、活気が売上を作るから です。 【後輩指導】 ―後進の指導は責任でもあるし、自分自身に対す る教育でもある。みんなそういう風にやってきたし、 これまで受けた恩を後輩に返さない、つまり利己的 な考えの人はうちの社風に合わないと思う。自分と してはいかに社員のやる気を引き出せるかを考えて いる。もし社員がやる気を起こせば、その人は自動 的に伸びるからです。自発的な勉強を心がけるよう になる。C
. 叱る、褒める保護者的サポート(付表3)
C 社は今回のインタビューで最も社員数が少ない 組織であった。経営者は直属の上司を兼ね、業務系 の社員と最も近いところにいる。今回のレポートの 中で女性経営者は C 社のみであった。 ―よく(社員を)𠮟りますね。記憶に残るぐらい怒 るときもある。時々「なんでこんなに嫌な言い方を したんだろうと思う時もあります」でも例えばパワ ハラって何を言われたかではなくて誰に言われたか なんです。信頼関係が成り立っていればパワハラに はなりません。最終的には上司の人間力だと思う。 一緒に良くなっていこうよという。まあ理念の浸透 には時間がかかると思うので、ゆっくり育てたいと 思っています。 ―よくありがとうと言いますね。小さなことでも 「ありがとう」。例えば他の部屋にプロジェクタを社 員が持っていくときには必ず言う。そうすると他の 社員も真似して言いますね。あとお掃除の人が来た 時も「ありがとうございます」と必ず言います。(4)考察
今回インタビューに訪れた企業の特徴は、キャリア 開発や福利厚生、人財育成を経営者が重視していた ことである。また、A社の社長インタビューでは、 M&Aを行った企業の全社員の雇用を継続し調整役として親会社の社員派遣も行わないこと、また全員 が素晴らしい人ならば理想的だが色々なタイプの人 間がいるからいいのではないか、など多様性のある 組織を容認する姿勢もみられた。またB社では福利 厚生や指導の他、活気を重視する傾向がみられた。 従業員の指導や打ち合わせなど事務的な空気、笑い 声や歓談など異質な空気が混合することで空間の活 性に作用しているのではないかと考える。帰属意識 に直接関連するかは明瞭ではないが、C社の社長は、 これまでの経験を振り返り組織が上昇している時に は勢いがあり、離職者・退職者の多い時期には硬直 的な空気が存在していたと語るなど、成員を取り巻 く空気の存在が成員の存続(長期的な就業)を促進 する一方阻害する要因になるのではないかと考えら れる。 今後の課題では、個人(従業員)が持つイエ思考 についてのインタビューを行い、経営者・従業員双 方向の視点を明らかにすることが必要である。また、 従業員への質問紙項目に記載する関連因子の検討を 行いたい。 今回のインタビューでは、日本型経営をベースと した変化型の日本的経営の色が強く感じられた。意 欲のある社員には、運営や事業所長の機会を提供す るといった意見や、能力があれば幹部候補にしても よいなど、年功序列の枠組みは必ずしも強くはない。 イエ社会では機能的な階層構造を有する。これま での主流であった縦型の組織構造から、横型へ―内 部の活性化を図るような組織構造が注目されている。 企業社会には学歴構造が根強く残るものの、野村 (2003)は文中で石田(1990)の日本人観を引用し、 学歴以外の「人となり」の捉え方に着目している。 「日本人は個人の能力を学歴以外にも求める傾向が あり「よくできる人」として、職務に対する仕事姿 勢や人に接する態度など人柄・人格の高さを能力と してとらえている(7)」これは、学力の階層と同等 の配置材料となるような人格的な階層が暗に存在す ることを示している。これはイエ型に帰結する 1 つ のヒントではないかと考える。見田(2006)が提案 する「交響体」(8)―個人が意思を持ち、1 人 1 人 が呼応しあえるような組織について今後も考察を深 めたい。