プロフェッショナル経営者の定義に関する一考察
著者
杉浦 慶一
著者別名
SUGIURA Keiichi
雑誌名
東洋大学大学院紀要
巻
55
ページ
111-126
発行年
2019-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00010580/
要旨
近年、日本の大手企業が社長、CEO(chief executive officer)、COO(chief operating officer)などのトップ・マネジメントを外部から招聘するケースが登場し、注目を集めてい る。また、従来から、再生企業やプライベート・エクイティ・ファンドの投資先企業におい ても、外部から経営者が送り込まれることがあり、日本における外部経営人材の役割が増し ている。 本稿では、日本で近年使用されることが多くなっている「プロフェッショナル経営者」と いう用語の定義について考察し、プロフェッショナル経営者に該当するかの判断基準とし て、形式基準と実質基準があり、キャリアなどの形式基準よりも、実質基準である経営力を 備えていて結果を出せる点が重要であることを指摘した。 キーワード 外部招聘経営者 プライベート・エクイティ・ファンド 形式基準 実質基準 経営力 目次 はじめに 1.日本におけるプロフェッショナル経営者の潮流 2.プロフェッショナル経営者の定義に関する考察 おわりに
プロフェッショナル経営者の定義に関する一考察
経営学研究科経営学専攻博士後期課程修了
杉浦 慶一
はじめに
近年、日本の大手企業が社長、CEO(chief executive officer)、COO(chief operating officer)などのトップ・マネジメントを外部から招聘するケースが登場し、注目を集めてい る。また、従来から、再生企業やプライベート・エクイティ・ファンドの投資先企業におい ても、外部から経営者が送り込まれることがあり、日本における外部経営人材の役割が増し ている。 これに伴い、経営手腕を期待されて外部から招聘される経営者のことを、「プロフェッシ ョナル経営者」、あるいは、略して「プロ経営者」と呼ぶ動きが出てきている。しかしなが ら、「プロフェッショナル経営者」の厳密な定義や用法は確立されておらず、曖昧なものと なっている。そこで、本稿では、日本におけるプロフェッショナル経営者の定義について考 察する。
1.日本におけるプロフェッショナル経営者の潮流
(1)古くから存在する外部招聘経営者 日本企業が経営者を外部から招聘するということは、古くから行われている。また、異な る業種の複数の企業の経営を経験した経営者も古くから存在する。例えば、教員出身で時事 新報社および山陽鉄道の社長を歴任した中上川彦次郎(1)は、1890年代の前半に三井銀行に 招聘されて経営改革に従事した。 東芝が2018年に元三井住友銀行副頭取の車谷暢昭を代表執行役会長兼最高経営責任者 (CEO)に招聘して話題になったが、その53年前の1965年には、当時の東京芝浦電気(現東 芝)が石川島播磨重工業(現IHI)の会長だった土光敏夫(2)を社長に招聘している。 また、外部から迎えられて複数の企業の経営に従事して結果を出した経営者を「プロ経営 者」と呼ぶという考え方も1960年代から一部に存在した。評論家の大野(1969)は、日本建 鉄、有楽フードセンター、日本特殊鋼(現大同特殊鋼)などの多数の企業の再建に従事して 成功に導いた早川種三(3)を「プロ経営者」と評価し、そのキャリアについても触れ、プロ 経営者について次のように述べている(大野, 1969, p.161)。 世に名経営者といわれる人は、少なくはない。だがそのほとんどが、長年にわたって、一 社一業を育ててきた人であるのに対して、早川氏の場合は、いろんな業種の、いろんな会社 を建て直してきた点が異色である。 そのさまざまなケースに対して、それぞれ適切な対策を打ち出す。しかも、そもそも業績 不振に陥った会社は、体質的な欠陥が根深い。その病根にメスを入れて、頑健な企業体質に 建て直す。――これは一社一業に専念して成功する以上の、高い経営的力量を必要とすると いえるかもしれない。いわば、プロとしての経営者でなければならないのである。このように、生え抜きの経営者として1社の経営に従事し続けることに対して、「外部招 聘」、「複数の企業」、「異なる業種」、「高い経営的力量」という要素を満たす経営者のことを 「プロ経営者」と呼ぶという考え方が当時より存在していたことは特筆できる。 1970年代以降には、外資系企業が経営者を外部から招聘するケースが増加した。ジョンソ ン・エンド・ジョンソンや日本フィリップスを含む複数の外資系企業のトップ・マネジメン トを務めた新将命はその一人である。 (2)事業再生局面における活躍 2000年代に入ると、事業再生局面にある日本企業が外部から経営者を招聘するケースが増 加した。エッソ石油取締役社長およびシティバンク在日代表を歴任した八城政基が2000年に 新生銀行の代表取締役会長兼社長執行役員に就任した際には、『プレジデント』誌において 「日本人初の「プロ経営者」誕生」という見出しの記事が記載された。赤字会社の再建やベ ンチャー・キャピタル会社の経営を社長として経験していた三枝匡がミスミグループ本社代 表取締役社長CEOに就任したのは2002年であった。 2003年前後からは、バイアウト・ファンドや再生ファンドなどのプライベート・エクイテ ィ・ファンドが多数の事業再生案件に投資を行い、投資先企業に社長を含む外部経営人材を 派遣する機会が急増した。マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の小森哲郎は、アスキー の代表取締役社長およびクラシエホールディングスの代表取締役CEO兼社長執行役員を歴 任した。その他にも、東ハトや福助などを含む多数の案件において、社長を含む複数の経営 人材が外部から登用された。 さらに、2003年に設立された産業再生機構は、41件の企業グループの再生支援を行った が、投資先企業には多数の外部経営人材が投入された。カネボウの案件では、通商産業省 (現経済産業省)出身で、カルチュア・コンビニエンス・クラブの代表取締役常務から産業 再生機構マネージングディレクターに転身した小城武彦が代表執行役社長に就任した。ま た、2009年に設立された企業再生支援機構(現地域経済活性化支援機構)の支援先において も経営者の外部招聘が行われた。 以上のように2000年代は、事業再生案件において、経営者が外部から招聘されるケースが 多かった。その際、外部から招聘されて活躍した経営者について、「プロ経営者」という表 現がなされるケースも存在したが、「ターンアラウンド・マネジャー」、「再生請負人」、「再 建請負人」などの用語も使用された(4)。 (3)プライベート・エクイティ・ファンドの投資先企業の多様化 2000年代の後半頃からは、プライベート・エクイティ・ファンドが事業再生案件以外にお いても、投資先企業に外部経営人材を派遣するケースが増加した(5)。その中でも、中堅・中
小のオーナー企業の事業承継に伴う案件において、経営人材が外部から招聘されるケースが 特に目立っている。創業経営者が経営の一線から退いて、社内に後任の経営者として適任が いない場合には、プライベート・エクイティ・ファンドのネットワークを活用して、外部か ら社長が招聘されることとなる。また、経営管理体制が薄弱なケースでは、CFOや管理本 部長が派遣されることも多い。近年は、創業経営者がしばらく続投し、プライベート・エク イティ・ファンドと一緒に後任の社長を探すような取り組みが行われるケースも出てきてい る。 (4)大手企業によるトップ・マネジメントの外部招聘 2010年代に入ると、日本の大手企業が、複数の企業で経営に従事したことのある経営者を トップ・マネジメントに招聘するケースがいくつか登場した。まず、2011年には、日本ゼネ ラル・エレクトリックの代表取締役会長兼社長などを歴任した藤森義明がLIXILグループの 取締役代表執行役社長兼CEOに就任した。 2014年には、クラフト・ジャパン(現モンデリーズ・ジャパン)の代表取締役副社長や日 本コカ・コーラの代表取締役社長などを歴任した魚谷雅彦が資生堂の執行役員社長に就任 し、アップルコンピュータの代表取締役社長および日本マクドナルドホールディングスの代 表取締役会長兼社長兼CEOを歴任した原田泳幸がベネッセホールディングスの代表取締役 会長兼社長に就任し、ローソンの代表取締役社長CEOを歴任した新浪剛史がサントリーホ ールディングスの代表取締役社長に就任した。 2017年には、日本ヒューレット・パッカードの代表取締役社長、ダイエーの代表取締役社 長、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)の代表執行役社長などを歴任した樋口泰行が パナソニックの専務役員 コネクティッドソリューションズ社 社長に就任し、2018年には、 ジョンソン・エンド・ジョンソンの代表取締役社長およびカルビーの代表取締役会長兼 CEOを歴任した松本晃がRIZAPグループの代表取締役COOに就任した。 これらのケースは、報道でも大きくとり上げられた。注目されることとなった背景には、 事業再生局面ではなく、バイアウト・ファンドの投資先企業でもない日本の大手企業が異業 種からトップ・マネジメントを招聘したということがあると思われる。 そして、「プロ経営者」という用語が、新聞記事、雑誌記事、オンライン記事などの媒体 において使用される頻度が増加し、評論家やジャーナリストによるプロフェッショナル経営 者に関する論考が記載されたり、経営者へのインタビュー記事が記載されることが多くなっ た。また、プロ経営者をテーマとした関連書籍が刊行されるようになった(6)。しかしながら、 「プロフェッショナル経営者」、「プロ経営者」という用語の概念規定や定義はほとんど行わ れておらず、曖昧なまま使用されているという現状が存在する。
(5)人材エージェントの変遷
日本企業が経営者を外部から招聘する際には、エグゼクティブ・サーチ会社(executive search firm)や経営者を扱う人材紹介会社などの人材エージェントも重要な役割を果たし てきた。
外資系のエグゼクティブ・サーチ会社が日本に進出し始めたのは、1970年代からである。 エゴンゼンダー(Egon Zehnder)とコーン・フェリー(Korn Ferry)が1970年代の前半 に、スペンサースチュアート(Spencer Stuart)とラッセル・レイノルズ・アソシエイツ (Russell Reynolds Associates)が1980年代半ばに、ハイドリック&ストラグルズ(Heidrick
and Struggles)が1990年代の前半に、それぞれ東京オフィスを開設している。国内系では、 東京エグゼクティブ・サーチや縄文アソシエイツなどが比較的長い業歴を有している。ま た、人材紹介を主に行うファームとしては、キャリアインキュベーションやリクルートエグ ゼクティブエージェントなどが、2000年代前半より、プロフェッショナル経営者やCxOポジ ションの採用支援や転職支援を開始している。さらに、CFO専門の人材紹介会社としては、 デルタウィンCFOパートナーズ(現デルタウィンコンサルティング)が2000年代前半より、 CFO専門の人材育成や紹介を開始している。
2.プロフェッショナル経営者の定義に関する考察
本節では、「プロフェッショナル経営者」の定義について考察する。昨今、日本で使用さ れる場合に、「外部招聘」、「複数の企業を渡り歩く」、「異業種出身」などのようにキャリア に関する要素がクローズアップされることが多いが、本稿では、これらを「形式基準」とし て捉え、プロフェッショナルとして経営力やリーダーシップなどの実力を備えているか否か を「実質基準」として論ずることとする。 (1)形式基準 ①外部招聘経営者 プロフェッショナル経営者という場合に、経営手腕を期待されて外部招聘により就任した 「外部招聘経営者」(7)を指していることが多い。この外部招聘という点がプロフェッショナル 経営者の要件だとすれば、自ら起業して創業経営者として経営に従事している経営者や新卒 で入社して内部での昇進により就任した「生え抜き経営者」は、該当しないこととなる。た だし、創業経営者が会社を売却して他社の企業の経営者に転ずるケースや、生え抜き経営者 が後に他社の企業の経営者に転ずるケースでは、外部招聘経営者に該当することとなる。 なお、将来社長やCEOに昇格することを予定して当初は副社長や専務で招聘される場合 もあるが、これもプロフェッショナル経営者の招聘とみなしてよいと考えられる。②職業的経営者 昨今のプロフェッショナル経営者を示す記述として、「複数の企業を渡り歩く」という表 現が見られるように、経営者であることを職業としていることも形式基準である。 前述の外部招聘経営者のすべてが、プロフェッショナル経営者に該当するかというと、そ うではないと考えられる。銀行出身者が取引先に転籍して経営者となり、そこから次の経営 の場に転身する意向がない場合は、キャリアとしての形式基準は満たさないと考えられる。 ただし、若いうちに銀行を退職し、経営者を職業として歩んでいく意向があり、経営力を発 揮し、複数の企業からも経営手腕を期待されて招聘されているケースなどでは、基準を満た すことになる。 なお、経営者を職業としていて、外部から招聘されて就任した経営者は、「雇われ経営者」 と呼ばれることもある。 ③職種・ポジション 昨今の報道や記事などで「プロ経営者」と呼ばれている大手企業の経営者は、経営トップ としての道を歩んでいる場合が多く、プロフェッショナル経営者は、主に社長、CEO、 COOを中心とするトップ・ポジションの経験者を指すという考え方が存在する。
一 方 で、CFO(chief financial officer)、CSO(chief strategy officer)、CMO(chief marketing officer)、CHRO(chief human resource officer)などのポジションや「取締役管 理本部長」、「執行役員経営企画室長」、「執行役員X事業本部長」などのポジションで招聘さ れるケースも存在し、広義には、これらの経営者も含めてもよいと考えられる。 ④業種経験 プロフェッショナル経営者が招聘される際に、異なる業種の企業間で転身した場合には、 異業種出身であることに話題が集まることがある。ここには、プロフェッショナル経営者に は業種経験(同業種もしくは近い業種の企業での経営経験)が必要なのかという問題が存在 する。 倉重(2003)は、プロの経営者について、次のように述べている(倉重, 2003, p.10)。 プロの経営者とは、いかなる業種・業態の企業、いかなる規模の組織であろうとも、その 持てる資源を有効に配分・活用して、各要素の総和以上の能力を発揮させることのできる経 営者である。常に全体的な視点で事業の活動と成果を考慮し、当面の目標と将来の目標のバ ランスをとりながら組織を動かすことのできる経営者である。
佐山(2010)は、業種のプロと経営のプロについて、次のように述べている(佐山, 2010, p.217)。 適切な社長とは「業種のプロフェッショナルか、経営のプロフェッショナルか」という問 題がある。本当の経営者は業種に関係なく経営できると筆者は思っている。ただ、それでも、 当該業種の専門家が説明してくれることを理解する能力は必要である。それは、ある意味で は、経営者に常に必要な能力でもある。部下が言っていることを理解する能力というのは経 営者に最低限必要な能力である。それを裏返せば、本当に経営のできる人は、業種に関係な くどの業種でも経営できるということだと思う。 本当の理想の経営者はどの業種でもできるはずである。しかし、製造業と小売業とは、違 うかも知れない。大くくりにして言えば、「製造業に向いている社長」、「小売業に向いてい る社長」があるような気がする。何かの物作り企業の社長は、別の物作りの企業でも立派に 経営できると思うし、何かの小売をしている企業の社長は、他の小売の企業の経営もできる と思う。しかし、本当に経営に熟達した最上級の経営者は業種、あるいはカテゴリーにかか わらずに経営ができるのだろうと思う。 以上の考え方から、究極的には、どの業種でも順応できる経営力を備えている経営者がプ ロフェッショナル経営者であるといえる。つまり、業種経験がなくても、招聘された企業で 経営力を発揮できるのがプロフェッショナル経営者である。 一方、同業種出身の経営者がプロフェッショナル経営者に該当しないのかというと、プラ イベート・エクイティ・ファンドの投資先企業に見られるように、経営力に加えて産業の知 見やネットワークにも期待して、同業種の企業もしくは比較的近い事業を行っている企業で の経験を有する経営者が招聘されることもあることから、経営力が備わっていれば、プロフ ェッショナル経営者と呼べると考えられる。 (2)実質基準 これまで述べてきた論点は、主にキャリアやポジションに関するものであり、形式的な要 件である。しかし、プロフェッショナル経営者に最も重要な要素は、登用された企業で結果 を出せる経営力が備わっていることである。これがプロフェッショナル経営者に求められる 実質的な要件である。経営のプロフェッショナル(8)という言葉があるように、この実質的 な要件である経営力こそが最も重要な要素である。 経営力を評価されて外部招聘により就任し、その経営力を発揮して結果を出し、一定の目 途をつけて後任の経営者に承継し、次の経営の場でも迎えられ、再び順応して経営力を発揮 していくというのがプロフェッショナル経営者の姿であろう。その意味では、商社や多角化
している大手企業グループ内の子会社や海外現地法人の社長・CEO・COOを複数経験して 経営力を発揮している場合も、同じグループ内ではあるものの「複数の経営組織に外部から 就任した」というものであり、プロフェッショナル経営者の性質があると考えられる。 古田(2015)は、①経営を行う知識、技能を身につけきちんと結果を出す、②常に改革者 であり続ける、③リーダーのプロフェッショナルでもある、という三つをプロ経営者の要件 とした上で、昨今の現状について次のように指摘している(古田, 2015, p.22)。 ところが、現在の日本では「プロ経営者」と呼ばれる人たちのキャリアなど、表面的な派 手な部分ばかりが強調されるきらいがあります。 米国の一流校でMBA(経営学修士)を取得し、一流企業や外資系企業を渡り歩いてキャ リアを積んだエリートが、有名企業の経営者に招かれる――というようなイメージばかりが 先行して、前述した三つの要件よりも、むしろこうした華麗なキャリアがプロ経営者の必須 条件であるかのような錯覚を起こしているのです。 さらに、古田(2015)は、「プロ経営者とは何も外部からやって来る人材ばかりではない」、 「内部昇格のプロパーであろうと、世襲であろうと、経営者はすべからくプロであるべき」 と述べている(古田, 2015, p.23)。この主張においても、キャリア上の要素よりも、経営の プロフェッショナルであることが重要であることが示されている。 (3)定義に関する考察 プロフェッショナル経営者の定義や考え方について述べたものとしては、先述の倉重 (2003)、古田(2015)のほか、越(2012)、水村(2015)、藤野(2016)などがあげられる。 越(2012)は、「雇われ経営者=プロフェッショナル経営者」について、経営者であるこ とを職業としているという点と能力(プロフェッショナル・スキル)について、次のように 言及している(越, 2012, p.16)。 雇われ経営者とは、経営手腕を見込まれて、外部から招聘される経営者である。したがっ て、基本的には職業的経営者、つまり経営者であることを職業としている方々である。日本 には、まだ少ない。 雇われ経営者とは、すべからくプロ経営者である。彼らは、自分で株式を支配しているの ではなく、逆に、支配している者から、能力を買われて雇われるのである。雇われる理由は、 その能力(プロフェッショナル・スキル)に尽きる。 水村(2015)は、職業としてのプロフェッションという概念を明らかにする上で、次のよ
うに述べている(水村, 2015, p.19)。 経営学の世界に視点を移すと、「専門経営者」「プロフェッショナル経営者」(professional manager)という専門用語がしばしば出てくる。この種の経営者は、往々にして所有経営者 (owner manager)に対置され、「職業的専門家としての経営者」という意味を内蔵してい る。 最近の企業報道に目を遣れば、他社の経営トップに転じる経営者を指して「プロ経営者」 と呼んでいる。ある人にとっては耳新しい新語が急速に普及・浸透した背景には、「他社で 経営者として実績を残した人材」「外部企業で実績を上げたプロ経営者」を自社の経営トッ プとして迎え入れる動きがかつてないほどに日本国内で活発化しているからである。ここで、 「プロ経営者」とは,元来日本企業の経営トップの主流派を占めていた「内部昇進型経営者」 「生え抜きのトップ」とは異なるタイプの経営者である。 藤野(2016)は、プロ経営者について、「所有と経営の分離に伴って登場した、所有者に 代わって経営を専門的に担当するものとしての「専門経営者」(professional manager)一 般と異なるものであることは言うまでもない」とし、また、「新入社員として入社した企業 の社長/CEOに上り詰めて優れた経営手腕を発揮する「生え抜き」の「経営のプロ」がいる という事実も無視できない」とした上で、次のように述べている(藤野, 2016, pp.111-112)。 「プロ経営者」とは「優れた経営能力・実績を有し、複数の企業を社長/CEOとして異動 する人材」と定義することができよう。それは「社長/CEOとして異動する」という意味で、 (優秀な社員の)転職、即ち「異なるグローバル企業内労働市場への異動」とは区別され、 「複数の企業を社長/CEOとして異動する」点で、「生え抜き」社長/CEOの中の「経営のプ ロ」とも区別される。 以上のように、「外部招聘」や「複数の企業での経営」などの形式基準と、能力(経営力) という実質基準の両方に言及される考え方が多くなっている。 本質的には、経営のプロフェッショナルであるという実質基準に力点が置かれるべきであ るが、形式基準も含めての「プロフェッショナル経営者」について定義するならば、筆者は、 「経営者であることを職業としており、経営力を評価されて外部招聘により企業の経営者に 就任し、その経営力を発揮して結果を出すことができる経営のプロフェッショナルである」 と考えることとしたい。
おわりに
以上、プロフェッショナル経営者の定義についての考察を行ったが、プロフェッショナル 経営者に該当するかの判断基準として、形式基準と実質基準があり、キャリアなどの形式基 準よりも、実質基準である経営力を備えていて結果を出せるという点が重要であることを指 摘した。 今後も多様な局面で日本企業が外部経営人材を登用する局面は増加すると予想される。プ ロフェッショナル経営者を目指す若手の人材が、経営力を鍛えて実際の経営の場で経験を積 んでいき、日本の経営者市場が発展していくことが期待される。注
(1) 中上川彦次郎のキャリアについては、砂川(1997)および渡邊(2005)に詳しい。渡邊 (2005)は、中上川彦次郎について、「教員、官僚を経験後、新聞経営、鉄道経営とより大き な組織へと転身を繰り返し、最後は一大財閥を変革した」とし、「プロ経営者の元祖として繰 り返した華麗な転身」と評している(渡邊, 2005, p.84)。 (2) 土光敏夫のキャリアについては、日本経済新聞社編(2004b)、有森(2015)に詳しい。 (3) 早川種三のキャリアについては、大野(1969)、日本経済新聞社編(2004a)に詳しい。 (4) 「再建計画の策定と実行ならびに利害関係者との交渉、調整に当たる財務、会計、税務法務等 の専門家」については、ターンアラウンド・スペシャリストと呼ぶこともあり、ターンアラ ウンド・マネジャーとは区別される(産業再生機構編, 2006, p.175)。 (5) バイアウト・ファンドや再生ファンドなどのプライベート・エクイティ・ファンドの投資先 企業で経営者が外部招聘された事例については、日本バイアウト研究所編(2011abc, 2012, 2016ab, 2018)に詳しい。 (6) 例えば、吉岡(2014)、有森(2015)、小杉(2015)、樋口(2016)、藤森(2017)などがあげ られる。小杉(2015)では、31名のプロ経営者へのインタビューが記載されている。(7) 米国では、外部招聘経営者(executives hired from outside)という表現以外に、内部昇格 (内部出身)を意味する「internal CEOs」に対比する用語として、「external CEOs」という 用語が使用されることもある。米国のCEOの交代・選任に関する研究においては、さまざま な観点からinternal CEOsのケースとexternal CEOsのケースの比較・分析を行う試みがなさ れている。主要な研究については、Larcker and Tayan(2016)に詳しい。
(8) 経営のプロフェッショナルという概念については、日本の経営学の領域においても古くから 存在する。例えば、山城(1966, 1968ab, 1970, 1982)では、マネジメントのプロ、マネジメン ト・プロフェッショナル、プロ経営者などに関する記述がみられる。
付記
本稿は、平成29年度東洋大学井上円了記念研究助成に基づいて実施された研究成果の一部であ る。ここに記して深く感謝したい。また、ご多忙の中、本稿を執筆するにあたり貴重なコメント を頂いた実務家の方々にも、この場を借りて御礼を申し上げたい。参考文献
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https://www.gsb.stanford.edu/sites/gsb/files/publication-pdf/cgri-research-spotlight-08-internal-versus-external-ceos.pdf(2018年9月24日閲覧)
In recent years, the number of hiring an executive from outside has increased in Japan. The external CEOs is sometimes called“professional keieisha”in Japan. The requirements of the“professional keieisha”can be classified into formal requirements (e.g. career and management positions) and eligibility requirements (e.g. management ability and leadership).
This paper is organized as follows. The first section shows the trend of hiring an executive from outside company in Japan. The second section considers definition of “professional keieisha”. Finally, some future studies are drawn.
Keywords
Executives hired from outside Private equity funds
Formal requirements Eligibility requirements Management ability