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Academic year: 2021

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(1)

A. 研究目的

スモンの異常知覚は主要症状の 1 つであり、 スモン に特徴的とされている。 急性期を過ぎるとある程度軽 減すること (自然回復) が知られてはいるが、 現在で も多くの患者が異常知覚に苛まれている1)

異 常 知 覚 の 程 度 は 、 調 査 個 人 票 に お い て 「高 度 」

「中等度」 「軽度」 「ほとんどなし」 の 4 段階に評価さ れる。 東北地区スモン検診データから異常知覚の程度 の最近 13 年間の推移をみると (図 1)、 たとえば 2010 年度と 2020 年度の間では 「高度」 の比率が増大し、

軽度」 以下の比率は変わっていない。 一方、 2011 年 度と 2019 年度との間では 「高度」 の比率はほぼ変わ らず、 「軽度」 以下が増大したようにみえる。 このよ うな異常知覚の程度の複雑な変化が真の変動なのか、

検診参加者の出入りによる見かけ上のものなのかは不 明であった2)

本研究の目的は、 東北地区スモン患者における異常 知覚の変化の実態を把握することである。

B. 研究方法

対象:2019 年度検診に参加した東北地区 41 人のう ち 、 2009 年 度 検 診 に も 参 加 し 、 両 年 で 異 常 知 覚 の 項 が満たされた 35 人のスモン現状調査個人票を対象と し た 。 35 人 の 内 訳 は 、 女 27 人 男 8 人 、 年 齢 67〜98 (中央値 84) 歳、 若年発症 8 (女 6、 男 2) 人であった。

― 135 ―

研究要旨

2009 年度と 2019 年度の両方の検診に参加した東北地区スモン患者 35 人の調査個人票を対 象に、 同一患者における 10 年間の異常知覚の変化を解析した。 異常知覚の 「程度」 の変化 は不変 15 人、 悪化 12 人、 改善 8 人であった。 「程度」 と 「経過」 の 2 通りで得られた 10 年 間の異常知覚の変化を突合すると、 一致 18 人、 不一致 15 人、 その他 2 人であった。 変化の 関連因子として異常知覚の軽減と 80 歳以上が、 悪化と糖尿病が、 それぞれ関連した。 以上 から、 異常知覚の程度は、 急性期から 40 年以上経過した慢性安定期においても、 悪化、 軽 減を含めて変化することが予想以上に多いこと、 そして、 変化の因子として異常知覚の改善 と高齢が、 悪化と糖尿病が、 それぞれ関連することが示唆された。

東北地区スモンの異常知覚:程度の 10 年間の変化

千田 圭二 (国立病院機構岩手病院脳神経内科) 高田 博仁 (国立病院機構青森病院脳神経内科) 青木 正志 (東北大学脳神経内科)

豊島 至 (国立病院機構あきた病院脳神経内科) 鈴木 義広 (日本海総合病院神経内科)

松田 希 (福島県立医大脳神経内科)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

ʼ08 ʻ09 ʼ10 ʼ11 ʼ12 ʼ13 ʼ14 ʼ15 ʼ16 ʼ17 ʼ18 ʼ19 ʼ20 高度

中等度 軽度

ほとんど なし

図 1 東北スモン患者における異常知覚 「程度」 の推移

(2)

方法:同一患者の 2009 年度と 2019 年度の個人票に おいて、 B-o 異常知覚の -A 「程度」 [1. 高度、 2. 中 等 度 、 3. 軽 度 、 4. ほ と ん ど な し ] お よ び -C 「経 過 (10 年前と比べて)」 [1. 悪化、 2. 不変、 3. やや軽減、

4. かなり軽減] の記載を突合し、 同一患者の異常知 覚の変化、 および異常知覚の変化の関連因子について 検討した。

1 . 同一患者の異常知覚の変化

同一患者にて 2009 年度と 2019 年度の間の 「程度」

の変化と、 2019 年度の 「経過 (10 年前と比べて)」 と の一致性をみた。 なお、 これら 2 通りの変化評価法に おいて 「経過 (10 年前と比べて)」 の評価と 「程度」

の実際の変化とは必ずしも対応しないため、 両者の一 致性を一致、 不一致、 その他 (不一致とは言えない) の 3 型に分類した (表 1)。 ここで、 一致と不一致を それぞれ次のように定義した。

一 致 : ① 「程 度 」 悪 化 を 「経 過 」 悪 化 と 判 定 、 ②

「程度」 不変を 「経過」 不変と判定、 ③ 「程度」 軽減 を 「経過」 やや軽減またはかなり軽減と判定。

不一致:① 「程度」 悪化を 「経過」 不変または軽減 と判定、 ② 「程度」 不変を 「経過」 かなり軽減と判定、

③ 「程度」 軽減を 「経過」 悪化または不変と判定。

2 . 異常知覚の変化と各要因との関連

次段以下 3 項のそれぞれの群間で、 性、 年齢、 発症 年齢、 記憶力の低下、 認知症、 糖尿病、 末梢神経障害 合併 (腱反射減弱と末梢優位性の増強または新たな出 現) との関連を検討した。 独立性の検定には t- 検定 または直接確率計算法を用い、 確率 5%未満の場合に 有意と判定した。

異常知覚の 「程度」 の変化と 「経過 (10 年前 と比べて)」 の一致群と不一致群。

異常知覚の 「程度」 の 10 年間の変化:[悪化]

対 [不変+改善]、 [悪化+不変] 対 [改善]。

'19 年度の 「経過 (10 年前と比べて)」:[悪化]

対 [不変+改善]、 [悪化+不変] 対 [改善]。

C. 研究結果

1 . 同一患者の異常知覚の変化

「程度」 の各段階の人数と同一患者の 「程度」 の変 化を、 線の方向と太さで表現して図 2に示した。 線が 上行する 「悪化」 が 12 人、 横這いの 「不変」 が 15 人、

下行する 「改善」 が 8 人であった。 一方、 「経過 (10 年前と比べて)」 は悪化 4 人、 不変 24 人、 やや改善 6 人、 かなり改善 1 人であった。 「程度」 変化と 「経過」

の 2 通りで得られた 10 年間の変化を突合すると、 一 致 18 人、 不一致 15 人、 その他 2 人であった (表 2)。

2 . 異常知覚の変化と各要因との関連

「程度」 変化と 「経過」 の一致群と不一致群の 間に関連のみられたは検討項目はなかった。

― 136 ―

B-o-C. 経過経過 (10年前と比べて) (10年年前と比べべて)

悪化 不変 やや  軽減

かなり  軽減 悪化

不変 その他 その他

軽減

一致 不一致

不一致 一致

一致 不一致 B-o-A. 程度  10年間の変化

表 1 異常知覚の変化の一致性の定義

 B-o-C. 経過経過 (10年前と比べて) (100年前と比比べて) 悪化 不変 やや 

軽減 かなり 

軽減

4 24 6 1

悪化  12  2 7 2 1 不変  15 1 13 1 0 軽減    8 1 4 3 0 B-o-A. 程度  10年間の変化

表 2 2 通りの 10 年の変化の一致性 1. 高度

2. 中等度

3. 軽度 4. ほぼなし

2009年 2019年

4人 9人

22人 18人

9人 6人

0人 2人

図 2 異常知覚 「程度」 の 10 年間の変化

丸内の数字は患者数を示す。

(3)

「程度」 変化では、 75 歳以上で改善が多い傾向 がみられた (P=0.094)。

「経過 (10 年前と比べて)」 では、 改善と 80 歳 以 上 が 関 連 し (P=0.017)、 悪 化 と 糖 尿 病 併 発 が関連した (P=0.005)。

D. 考察

異常知覚は主観的な要素が大きいため、 そもそも客 観的な重症度評価が困難である。 実際、 調査個人票の 身体状況の評価において、 スモンの他の主要症状であ る視力障害や歩行障害とは異なり、 異常知覚には客観 的重症度分類がない。 異常知覚の 「程度」 と 「経過」

はそれぞれ 4 段階に評価されるが、 「程度」 は 4 段階 の大まかな主観的評価であり、 「経過」 は相対的変化 を示すだけである。 また、 スモン症候の最重度時の状 況に異常知覚の項目は設けられていない。 このような 異常知覚の特性が、 異常知覚自体の実態を把握しづら くさせている。

本研究では 10 年間の異常知覚の変化を、 「程度」 の 変化と 「経過 (10 年前と比べて)」 の 2 通りの方法で 抽出し比較した。 その結果、 両者の評価は必ずしも一 致せず、 一致したのは 35 人中 18 人に過ぎなかった。

一致性と記憶力の低下や認知症との間に関連は認めら れなかったので、 この不一致は両者の確実性と鋭敏性 の違いに起因すると考えられる。 すなわち、 「程度」

の変化が実際の変化であって確実ではあるが、 評価の 目が荒いため変化を検出しにくい。 一方、 「経過 (10 年前と比べて)」 は患者の記憶に基づくため不正確だ が、 変化の方向を示すだけなので変化の検出により鋭 敏であろう。 なお、 本研究で一致性の分類に 「その他」

を設けたのは、 検出力の差による不一致を軽減するた めである。

スモンの異常知覚は、 起源に不明な点があるものの、

後根神経節細胞の central distal axonopathy を病理的 基盤として発生すると考えられている3)。 急性期後の 自然回復は、 後根神経節細胞障害の修復と神経網の制 御機構とによって得られると理解できる。

本研究で、 急性期から 40 年以上経過した慢性安定 期においても異常知覚の 「程度」 が変化することが示 された。 この変化は、 検診群の集計データでは一見単

純で緩徐な過程ともみなせるが、 患者ごとにみると悪 化と改善が入り乱れており、 予想以上に多くの患者で 変化していることが明らかになった。 同一 194 症例の 10 年間の追跡調査4)では異常知覚の程度に経年的傾向 は指摘されなかったが、 これは年度間の変動が大きい ためであり、 悪化と改善の症例が少なからず含まれて いたと推定できる。

慢性安定期における異常知覚の変化に、 キノホルム の神経毒性や自然回復機序が直接関与しているとは考 え難い。 本研究で異常知覚の改善と高齢が、 悪化と糖 尿病併発が、 それぞれ関連することが示唆された。 異 常知覚の程度を加齢が軽減させ、 糖尿病末梢神経障害 が悪化させることは理解しやすい。 異常知覚を形成す る病態自体が加齢や末梢神経系併発症の影響を受けや すいのかもしれない。 ただし、 対象患者が少なかった ため統計解析は不充分であった。 対象範囲を全国に拡 大すれば、 異常知覚の変化の因子をより詳細に解析で きると期待される。

E. 結論

異常知覚の程度は、 急性期から 40 年以上経過した 慢性安定期においても、 悪化、 軽減を含めて変化する ことが予想以上に多い。 変化の因子として改善と高齢 が、 悪化と糖尿病併発が、 それぞれ関連することが示 唆された。

G. 研究発表 1 . 論文発表

なし 2 . 学会発表

なし

H. 知的財産権の出願・登録状況 なし

I. 文献

1 ) 小 長 谷 正 明 . ス モ ン : キ ノ ホ ル ム 薬 害 と 現 状 . Brain & Nerve;67:49-62, 2015

2 ) 千田圭二ほか. 令和 2 年度東北地区におけるスモ ン患者の検診結果. スモンに関する調査研究班・令

― 137 ―

(4)

和 2 年度総括・分担研究報告書, 2021 (本書別稿) 3 ) 今野秀彦, 高瀬貞夫. スモンの神経病理学所見―

その再考察. 神経内科;63:162-169, 2005

4 ) 松岡幸彦, 小長谷正明. スモン患者 194 例の過去 10 年 間 の 追 跡 調 査 (1990− 1999). 医 療 ; 54: 509- 513, 2000

― 138 ―

参照

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