• 検索結果がありません。

多能性幹細胞から尿管芽の誘導法の確立と胎児腎臓の高次構造の再現

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "多能性幹細胞から尿管芽の誘導法の確立と胎児腎臓の高次構造の再現"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

 近年,ES 細胞や iPS 細胞などの多能性幹細胞から任意の 臓器組織を誘導する研究は飛躍的な進歩を遂げており,そ の誘導立体組織は「オルガノイド」と呼ばれている。腎臓領 域においては,2014 年にわれわれのグループが世界に先駆 けて胎児期のネフロン前駆細胞を経たポドサイトと尿細管 の両方を含んだ腎臓組織の分化誘導法を,同時期にオース トラリアのグループが尿細管様立体組織の誘導法を報告し ている。その後も,ネフロン前駆細胞誘導の高効率化や, 血管内皮・間質細胞の同時誘導を行ったとする報告が次々 になされており,最近では,さらにこれらのオルガノイド を用いて先天性腎疾患の試験管内再現を試みた報告も増加 している。  ネフロン前駆細胞およびネフロン上皮組織の誘導法につ いては大きく研究が進展してきた一方で,これまでの腎臓 オルガノイドには集合管・尿管系組織が含まれていないた めに,個々のネフロンが組織中に散在しており,すべての ネフロンが集合管に接続した腎臓本来の高次構造は再現さ れていなかった(図 1)。このことは,将来的に「機能する腎 臓」を作製することを考えた際に,ネフロンで産生された 尿を排泄できる出口がないことを意味しており,解決すべ き重要課題であった。このような,オルガノイドで臓器本 来の高次構造が再現されていないという問題は,再生医学 領域で先行する心臓や肝臓,膵臓など他の臓器でも共通す る課題となっている。つまり,心筋シートは作製できても

第 4 回腎臓セミナー・Nexus Japan プロシーディング

YIA

受賞講演

多能性幹細胞から尿管芽の誘導法の確立と

胎児腎臓の高次構造の再現

The establishment of functional ureteric bud induction method enables the recapitulation of

higher-order kidney organogenesis from pluripotent stem cells

太 口 敦 博

Atsuhiro TAGUCHI

Max Planck Institute for Molecular Genetics(前所属:熊本大学発生医学 研究所)

腎オルガノイド 胎児腎

ネフロン ネフロン

集合管 図 1 これまでの腎オルガノイドと生体の胎児腎との比較

(2)

心臓の三次元構造は再現されておらず,肝臓オルガノイド では肝細胞は存在するが,胆管組織はなく,誘導膵臓組織 に膵島はあっても膵管や腺房を含む外分泌組織はできてい ない。つまり,臓器全体の高次構造を再現することはいま だきわめて困難であるといえる。  そこでわれわれは,腎臓の高次構造の形成過程を再現す るために,腎臓の発生過程に着目し,その仕組みを正確に 理解することを目指した。マウスでは胎生 10.5 日目頃に成 体の腎臓のもとになる「後腎」が明らかになる。図 2 に後腎 の発生過程の模式図を示す。胎児の腎臓は,将来のネフロ ン上皮のもととなるネフロン前駆細胞(緑色の細胞),その 周囲に存在して将来のメサンギウム細胞や間質系細胞のも とになる間質前駆細胞(ピンク色の細胞),将来の集合管, 尿管のもとになる尿管芽(青色の部分)という大きく分けて 3つの前駆細胞集団から構成される。このなかで,尿管芽 はその前駆体であるウォルフ管から出芽した上皮組織であ るのに対し,ネフロン前駆細胞と間質前駆細胞は間葉細胞 であることから,後者 2 つを合わせて後腎間葉とも呼ぶ。 3種類の前駆細胞の相互作用は胎生 10.5 日目頃より出生直 後まで継続し,その間,図 2 に青色で示される尿管芽組織 は先端で樹状分岐と呼ばれる分岐を繰り返して 1 つの 「幹」,つまり尿管へと連続する多数の集合管へと分化す る。この尿管芽のいわば「枝振り」が腎臓の全体的な形を決 めていることから,尿管芽は腎臓の高次構造形成における オーガナイザーの役割を果たしているともいえる。また, 尿管芽の分岐の先端部からは液性の成長因子である Wnt が 分泌され,周囲の間質前駆細胞からの分化因子とともに近 傍の未分化なネフロン前駆細胞の一部を上皮化したネフロ ンへと分化させる。さらに,尿管芽の先端から分泌される Fgfはネフロン前駆細胞の維持・増殖に働き,ネフロン前 駆細胞から分泌される Gdnf が尿管芽の増殖を促す。この ように発生過程を通じて胎児の腎臓の表層部で「前駆細胞 ニッチ」を維持しながらその一部をネフロンへと分化させ る仕組みを持つことで,ヒトでは 100 万個にも及ぶネフロ ンを作ることが可能になっている(図 2)。すなわち,腎臓 の形成過程において尿管芽は,樹状分岐形成,ネフロン前 駆細胞からネフロンへの分化,未分化ネフロン前駆細胞の 増殖・維持という 3 つの重要な働きを持つことがわかる。  では,どのようにすればこのような機能特性を持つ尿管 芽を作ることができるのだろうか。以前の報告で,われわ れはマウスの胎生 6.5 日目から 11.5 日目における細胞系譜 追跡実験を行い,尿管芽とネフロン前駆細胞が発生の初期 (7.5 日目から 9.5 日目の間)に前方中間中胚葉と後方中間中 胚葉という異なる起源を経て分化するということを示して いる(図 3)。したがって,理論的にはネフロン前駆細胞と 尿管芽をこの系譜の分離過程に従って “ 別々 ” に誘導する 方法の確立が必要だろうと考えた。尿管芽の生体における 初期発生過程を詳細に調べるために,Hoxb7-GFP という尿 管芽系譜特異的に GFP を発現する遺伝子改変マウスを導 入し,GFP 陽性細胞の生体内での挙動を確認した。その結 果,GFP 陽性の尿管芽の前駆体,「ウォルフ管前駆細胞」は 胎生 8.75 日目頃に初めてマウス胎仔体幹の頭側に出現し, その後,胎生 9.5 日目にかけて胎児尾部の総排泄腔まで伸長 することが観察された(図 3)。続いて,胎生 10.5 日目頃にな ると,後肢レベルのウォルフ管から隣接する後腎間葉に向 かって尿管芽が出芽し,11 日目には後腎間葉内に侵入し, 11.5日目には最初の 2 分岐を形成することが確認できた。  次に,尿管芽特有の樹状分岐能がどの発生段階から獲得 されるのか(機能的成熟過程)を調べるために,尿管芽と後 腎間葉を用手的に単離し,in vitro で再凝集して樹状分岐を 起こさせる腎組織の再構成アッセイ系を確立した(図 4)。 ポジティブコントロールとなる胎生11.5日目の成熟尿管芽 図 2 胎児腎臓の形態形成過程 胎生10.5日目 胎生11.5日目 胎生15.5日目 ネフロン前駆細胞 (未分化) ネフロン前駆細胞 ネフロン上皮 集合管 尿管 尿管芽 間質前駆細胞 ウォルフ管

(3)

は,後腎間葉とともに凝集すると樹状分岐構造を形成でき る。そこで,胎生 9.5 日目,10.5 日目,11.5 日目のウォル フ管および尿管芽をそれぞれ用手的に単離して,11.5 日目 の後腎間葉と再構成アッセイを行い,樹状分岐能力を確認 した。その結果,胎生 9.5 日目,10.5 日目,11.5 日目と発 生が進行するにしたがって,分岐能力が獲得される,つま り機能的に成熟することが明らかになった。また,同じ発 生段階のウォルフ管組織は,頭・尾側の位置によらず,同 等の分岐能を持つことも確認できた。  さらに,この尿管芽の前駆細胞の成熟過程をモニタリン グしうるマーカー遺伝子を見出すために,胎生 8.75 日目か ら11.5日目の尿管芽および尿管芽前駆細胞をフローサイト メトリーで回収し,遺伝子発現アレイ解析を行った。その 結果,これまで尿管芽マーカーとして知られていた遺伝子 は発生過程を通じてほぼ一定量で発現していたのに対し て,Hnf1b,Wnt9b,E-Cadherin,Calbindin1 といった遺伝 子は発生の進行とともに発現量が増加することが判明し, 分化・成熟マーカーとして有用であることが示唆された。 また,アレイ結果を解析したところ,尿管芽系譜細胞では, 後腎間葉系譜の前駆細胞に比して Wnt,Fgf,レチノイン酸 のシグナル関連遺伝子が強く発現していたことから,これ らを分化誘導の候補因子と推定した。実際に,これらの候 補因子の濃度と組み合わせを検討し,最適化したところ, 8.75日目胚から分取したウォルフ管前駆細胞から,3 日間, 3ステップの誘導条件によって in vitro で 11.5 日目相当の尿 管芽様組織へと誘導することができた。さらに,この分化 図 3 発生の初期段階におけるネフロン前駆細胞と尿管芽の系譜分離モデル 図 4 11.5 日目の胎児腎臓を用いた腎組織再構成法 後腎間葉 (ネフロン前駆細胞  +間質前駆細胞) 気液界面培養 尿管芽 用手単離 解離 再凝集 胎生3.5日目 7.5日目 8.5日目 8.75日目 9.5日目 10.5日目 前方中間中胚葉 ウォルフ管 前駆細胞 ウォルフ管 尿管芽 (ES細胞相当) 胚盤胞 未分化 中胚葉 尾部未分化 中胚葉 尾部未分化 中胚葉 後方中間中胚葉 ネフロン 前駆細胞

(4)

過程を前述の分化マーカーでモニタリングしたところ,生 体で起こるのと同様の遺伝子発現変化を観察することがで きた。すなわち,マウス 8.75 日目胚のウォルフ管前駆細胞 を用いた実験系により,11.5 日目の尿管芽相当細胞までの 誘導条件が確立できた。  次にマウス ES 細胞(胎生 3.5 日目相当)を用いて,胎生 8.75日目のウォルフ管前駆細胞の誘導条件を検討した。今 回の発表では,時間の都合上詳細を割愛したが,最終的に 4つの分化ステップを含むウォルフ管前駆細胞の誘導条件 を確立し,前述の胎仔細胞を用いて確立した 3 ステップを 後半に加えた計 7 段階の誘導条件でマウス ES 細胞から尿 管芽組織を誘導するプロトコルを決定した(図 5)。この誘 導法では確かに図 6 に示すような尿管芽の出芽を誘導 9.25 尿管芽 ウォルフ管前駆細胞 Activin

Day0 Day2 Day3 Day4.5 Day6.25 Day7.25 Day9.25

RA Wnt-mid Fgf9 Step3 RA Fgf9 SB Step2 Bmp Wnt-high Step1 Step5 Y RA Wnt-low Fgf9 Step4 Day8.25 Y RA Wnt-mid Fgf9 Gdnf Y RA Wnt-mid Gdnf Step6 Step7 Day5.5 前方中間中胚葉 未分化中胚葉 エピブラスト 胚葉体 ES細胞 ウォルフ管 Aggregation Day9.25 誘導尿管芽 1つの誘導尿管芽 + マウス後腎間葉 1つ1つの 芽を用手単離 培養6日目 ※橙色の矢頭は尿管芽の分岐世代を示す 再構築 D1.5 D3 D4 D5 D6 2 3 4 5 6 胎仔尿管芽 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 誘導尿管芽 先端の総分岐数 n.s. 100 μm 図 5 マウス尿管芽誘導プロトコル

Bmp:bone morphogenetic protein,Wnt:wingless-type MMTV integration site family(Wnt-high:高濃度,Wnt-mid:中濃度, Wnt-low:低濃度),RA:retinoic acid,Fgf:fibroblast growth factors,Gdnf:glial-cell derived neurotrophic factor,Y:Y-27632: rock pathway inhibitor

図 6  再構成・腎組織における誘導尿管芽の分岐 の進行の様子と胎仔尿管芽との定量的比較

(5)

日目に観察することができた。  そこで,ES 細胞から誘導した尿管芽が前述の 3 つの機能 特性を持ち合わせているかを検証した。生体の腎臓では 1 つの尿管芽からすべての集合管系組織が分岐するため,誘 導尿管芽組織から 1 つの芽を用手的に単離し,マウス後腎 間葉との再構成培養を行った。その結果,再構成体のなか で,誘導尿管芽は 1 日 1 分岐のペースで分岐を繰り返し, 約 1 週間で 6 世代以上,140 前後の分岐を形成し,胎仔か ら採取した尿管芽と統計学的に差のない分岐能力を有する ことが確認できた(図 6)。次に,尿管芽のネフロン分化能 力を確認するために,培養 7 日目のオルガノイドをネフロ ンの分化マーカーで染色して観察した。その結果,尿管芽 由来の組織である Cytokeratin8(CK8)陽性の集合管の内側 に,E-cadherin 陽性の遠位尿細管,さらに内側に LTL 陽性 の近位尿細管,その先に Nephrin 陽性の糸球体が確認でき た(図 7a)。このことから,尿管芽が後腎間葉内のネフロン 前駆細胞から上皮化したネフロンを分化誘導する能力を持 つことが示された。さらに,オルガノイドを未分化なネフ ロン前駆細胞マーカーである Six2 で染色したところ,尿管 芽の先端,オルガノイドの表層部で Six2 陽性の未分化なネ フロン前駆細胞が存在したことから,尿管芽のネフロン前 駆細胞の維持能も確認することができた(図 7b)。  次に,マウス胎仔由来のネフロン前駆細胞の代わりに, われわれが以前確立した方法で ES 細胞から誘導したネフ ロン前駆細胞と組み合わせても同様のことが再現できるの かを確認した。マウス ES 細胞からネフロン前駆細胞と尿 管芽を各々のプロトコルに従って別々に誘導し,マウス胎 仔からフローサイトメトリーで純化・採取した間質前駆細 胞と混合して腎オルガノイドを構築した。その結果,マウ ス ES 細胞由来のネフロン前駆細胞と尿管芽を組み合わせ ても腎臓の高次構造が再現できることが示された。  さらに,マウス尿管芽の誘導因子および誘導期間を一部 調整することで,ヒト iPS 細胞からも尿管芽組織を誘導で きることを確認した。ヒトの場合にはマウスに比べて発生 図 7 再構成・腎組織におけるネフロンとネフロン前駆細胞の三次元像 図 8 誘導ヒト尿管芽のゲル内三次元培養 集合管 遠位尿細管 近位尿細管 糸球体 ネフロン前駆細胞 尿管芽

CK8/E-cadherin/LTL/Nephrin CK8/Six2

D1 D7 D13 D13

CK8/SOX9

(6)

がゆっくり進行することから,約 1 週間で 1 世代の分岐が 観察され,約 2 週間で 2 世代の樹状分岐が観察できた(図 8)。ただし,ヒトでは胎児から間質前駆細胞を得ることは 難しいため,ヒト胎児腎臓の高次構造を再現するために は,今後さらに,間質前駆細胞の誘導法も確立する必要が ある。  本研究の内容を要約する。マウス ES 細胞およびヒト iPS 細胞から尿管芽の分化誘導法を確立した。マウス誘導尿管 芽は,樹状分岐能力,ネフロン分化能力,未分化ネフロン 前駆細胞の維持能力を持つ。ネフロン前駆細胞と尿管芽を 起源の違いに応じて別々に誘導し,マウス間質前駆細胞と 組み合わせることで胎児腎臓の高次構造を再現することが できた(図 9)。ヒト腎臓オルガノイドで高次構造を再現す るためには,今後,ヒト間質前駆細胞の誘導法を確立する ことが必要である。 謝 辞  本研究は熊本大学発生医学研究所腎臓発生分野で行いました。本 研究を遂行するにあたり多大なご指導,ご助力をいただきました西 中村隆一教授をはじめ,腎臓発生分野の皆様にここに深く感謝いた します。   利益相反自己申告:申告すべきものなし 前駆細胞に応じた 作り分け 再凝集法による 腎臓オルガノイド形成 高次構造の再現 多能性幹細胞 マウス胎仔 ネフロン前駆細胞 尿管芽 間質前駆細胞 分化したネフロン 維持された ネフロン前駆細胞 樹状分岐した 集合管 図 9 多能性幹細胞を用いた胎児腎臓の高次構造再現法の概略

図 6   再構成・腎組織における誘導尿管芽の分岐 の進行の様子と胎仔尿管芽との定量的比較

参照

関連したドキュメント

肝臓に発生する炎症性偽腫瘍の全てが IgG4 関連疾患 なのだろうか.肝臓には IgG4 関連疾患以外の炎症性偽 腫瘍も発生する.われわれは,肝の炎症性偽腫瘍は

心臓核医学に心機能に関する標準はすべての機能検査の基礎となる重要な観

しかしながら生細胞内ではDNAがたえず慢然と合成

の多くの場合に腺腫を認め組織学的にはエオヂ ン嗜好性細胞よりなることが多い.叉性機能減

 肺臓は呼吸運動に関与する重要な臓器であるにも拘

【背景・目的】 プロスタノイドは、生体内の種々の臓器や組織おいて多彩な作用を示す。中でも、PGE2

 3.胆管系腫瘍の病態把握への:BilIN分類の応用

総肝管は 4cm 下行すると、胆嚢からの胆嚢管 cystic duct を受けて総胆管 common bile duct となり、下部総胆管では 膵頭部 pancreas head