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全上下顎同時移動術を行った高度顎変形症の1例

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全上下顎同時移動術を行った高度顎変形症の1例

東京女子医科大学 歯科口腔外科(主任:扇内秀樹教授)   オギウチ  ヒデキ   ノムラ  マユミ  ナトリ  マサヨシ

  扇内 秀樹・野村 真弓・名取 正喜

  ヤマザキ   タカシ サングウ  ヨシクニ

  山崎  卓・三宮 慶邦

(受付 平成4年2月7日) 緒  言  近年,顎変形症患者に対しての手術手技の進歩 や手術器具の改良・開発と矯正歯科との共同治療 により,矯正歯科治療だけでは治療不可能な複雑 かつ高度の症例でも,外科的矯正治療の併用によ り良好な結果を得られるようになった.  今回我々は,上顎歯列弓の著しい狭窄および下 顎骨の過成長を伴った高度顎変形症に対しLe Fort I型骨切り術と下顎枝矢状分割法による全上 下顎同時移動術を施行した1症例を経験したので 報告する.          症  例  患者:17歳,男性.  主訴:下顎の突出および咀噛障害.  家族歴:特記事項なし.  既往歴:慢性副鼻腔炎.  現病歴:13歳頃より下顎の前突に気づくも放 置.その後,成長とともに顔貌の変形および咀囎 障害が著明となり,近歯科医を受診.矯正治療が 必要といわれ当科を紹介された.  現症:身長183cm,体重60kgで良好.  顔貌所見:下顎の左方偏位を認め,左右非対称 で側貌は鼻翼基底部の陥凹感および下顎の突出が 著明である(図1).  ロ腔内所見:臼歯部咬合関係は両側ともAngle 分類Class IIIで,上顎右側犬歯の欠如および上顎 図1 術前術後の顔貌所見  左:術前,右:術後. 歯列の著しい狭窄が認められる.下顎臼歯部は左 右とも舌側に傾斜し,前歯部はやや歯列不正を示 Hideki OGIUCHI, Mayumi NOMURA, Masayoshi NATORI, Takashi YAMAZAKI and Yoshikuni SANGU〔Department of Oral and Maxillofacial Surgery(Director:Prof Hideki OGIUCHI)Tokyo Women’s Medical College〕:Surgical correction of severe jaw deformity by two jaw orthognatic surgery: report of a case

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        図2 術前術後の口腔内所見 左上:術前正面,右上:術後正面,左下:術前側面,右下:術後側面. し,over jet−10mm, over bite−5mmで左右第 2大臼歯のみが咬合するopen biteを呈している (図2).  X線所見:側貌セファログラムでは上顎骨の 後退および下顎骨の前突を示し,上下顎骨の前後 差が小となり,また下顎角の開大および後下方回 転を示している.正貌セファログラムでは上顎に 対して下顎前歯が左側へ3mm偏位している(図 3).  セファログラム分析:Skeltal patternとして はConvexity, A・B plane, SNA, SNBより上顎 の劣成長および下顎の過成長を,Gonial angle, Ramus angleより下顎角の開大と回転が認めら れた.Denture patternとしては下顎前歯部の舌 側傾斜を認め,Ricketts法分析においてDolico facial typeに属し,下顎骨体長の過成長を認めた (図4,5).  臨床診断:上顎の後退を伴った下顎前突症 (Skeltal Class III)  治療方針:(1)術前矯正として上顎歯列の開大 とレベリング,(2)手術直前の術後予測,(3)手 術法はLe Fort I型骨切り術と腸骨移植および下 顎枝矢状分割法による全上下顎同時移動術,(4) 手術直後の資料採取,(5)術後矯正を行う,など 決定された.  処置および経過:矯正治療に先立ち下顎両側智 歯の便宜抜去を行った,術前矯正期間は2年3カ 月を要し,手術時の患者年齢は19歳8ヵ月であっ た.  手術計画:正側貌セファログラム上でpaper surgeryを行うとともに(図6),半調節性咬合器 に装着した歯列模型上でmodel surgeryを行っ た.その結果Le Fort I叢叢切り術により上顎骨 を約5mm前方移動させ下顎骨を左側に約8mm,

右側に約10mm後方移動し,さらに下顎は7り

counter rotationするよう設定した(図7).  手術:1989年12月12日気管切開によるGOE全 麻下にてdouble splint顎位決定法を応用した上

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     Me己n  S, D.   M.V. ・Faci31・n61・    86」  3・3 {90。5) ・C・・v・・itY     5・4 3・。 〔一9 ) ・A’Bpbn2  −5・2 2・5〔4} ・Mandibul己「Plan。   24・8  5・9 〔40.5, ・Y・a・i5      54・0  3・1 {65  ) 6、。ccl・5・l p1…  8・4 4.2 d8 1 71・【・・i・・i・・1  :3L6 5・6 〔151) 8.L・1ヒ。 Occlu5己1 2L・3 5・3 〔7 , 9・し・しし。Mand}bura・  97・L  4・9  〔75.5レ ユ。・u・11。A・Ppl・爬  7・8 2・5 〔1 ) LL、 FH t・SN pb・e  5・4 2.4 【8 12 S N A      83・4  2・6  177 13.SNB   8・・。 2・5〔81 L4, SNA・SNB dirr.   3.4  L7 〔一4 15.u・11。 FH plan。  1監。・8 5・5 {115 且6.L・1=。 FH pl…  5且5 5・8 {66 17.GDmal an已le   H7.5 8」 d39, 旧.R・m・s a・gle  88.5 45 〔811       ;70      巳ぴ’ 十〇      loo 7ス5 曽」o Io      20    、 ho      o、 甲■o     −20 一3.5 T LO       20 ∼ ∼ ・『噛 @ 48 50       60 @ 0 lo     ,関「

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SNA 765 SNB 82 f a 8 59 9 図4 術前セファログラム分析 ll 饗 へ 、 \ ワ\

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図6 側貌セファログラム上でpaper surgery 下顎同時移動術を施行した.止血目的で粘膜切開 部に2%lidocain(epinephrine 80,000倍加)を 注射し上顎両側智歯を抜歯した.  1)Le Fort I型骨切り術(図8)  上顎歯列弓にほぼ平行で歯肉頬移行部を両側の 第1大臼歯を結ぶよう半可状に粘膜骨膜切開を行

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図7 歯列模型でmodel surgery   レ

1紬噸

図8 Le Fort I型骨切り術 う.粘膜・骨膜を剥離し,上顎結節部は切開部後 端よりトンネル上に剥離する.骨切り線は各歯根 尖より5mm以上上方で,梨三口縁側壁から上顎 洞前壁,頬骨下稜を経て上顎結節まで直線的に細 い丘ssure barで骨切りを行う.  次いで,nasen sept㎜meiselで鼻中隔を切離 して口蓋と分離し,tubermeiselで上顎結節と翼 状突起縫合部を分離する.そして,わずかに残っ た結合部である鼻腔外壁の後方部と上顎結節の一

部はRawの鉗子で上顎骨を下方に圧迫骨折さ

せ,完全に可動化したら,対顎歯列を基準とした 中間スプリントを装着しこれをガイドに上顎骨を 前方に移動し,上顎骨の位置を決め,シャンピーミ ニプレートで固定した,  2)下顎枝矢状分割法(図9)  下顎枝前縁に沿って下顎第1大臼歯部まで切開 し,粘膜骨膜を剥離し,下顎枝後縁および下縁ま で広く露出させる.内側は下顎孔上方から下顎切 痕部まで剥離し下歯槽神経血管束を内側へ圧迫し progenie hakenを挿入する.骨切りはまずLin・ demann barで下顎孔上方で下顎枝内側緻密骨質 だけを平行に切り込み,外側面の骨切りは外斜線 に沿って且ssure barで第2大臼歯遠心部の下顎 体外側緻密骨質を垂直に下顎下縁に達するまで切 離する.そしてmeiselを挿入しhammerで叩き ながら内外骨片を分割する.反対側にも同様の操 作を行い,下顎骨体を可動化させる。下顎骨の位 置は最終スプリントで決め,暫間的に顎間固定を する。骨移動にて重複した部分の外側骨を骨削除 し,ミニプレートで分割骨片を固定した.また, 上顎骨移動後の間隔を右腸骨稜より4×7cmの骨 を採取して補填した.上下顎粘膜縫合を行い,左 右側歯肉頬移行部にドレーンを挿入し,顎間固定 を行い手術を終了した.  手術時間は7時間30分で,出血量は1,180m1で あった.術中濃:厚赤血球400mlと保存血400m1の 輸血を行った.術後貧血が認められたが約2週間 で回復した.また,術直後より右下二部の知覚麻 痺を訴えていたが約2ヵ月で完全消失している. 側貌セファログラムの初診時と術後の重ね合わせ (図10)では良好な顔貌が得られており,術後顔貌 写真でも中顔面部の陥凹が消失し,下顎の突出も 改善され,適正な顎関係が得られた(図1∼3).

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下顎枝   ’ ●  , , 骨切り線

 図9

下顎枝矢状分割法     下顎骨体を後退させる 一〇RIG1隠A」 __@一一7AFTER醒 ’

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,統・り     1 図10初診時と術後の側貌セファログラム比較 顎間固定は術後6週間で除去し,開口訓練にて約 30mmの開口を得たので1月26日退院した.更に 咬合関係の改善のため術後矯正治療を行った.術 後2年現在,後戻りもなく良好に経過している.          考  察  顎変形症,特に下顎前突症の手術野老は最近急 速に増加しつつある1).これは患者の顔貌に対す る美意識は勿論であるが,咬合に対する関心が深 くなってきたためであろう.  下顎前突症は一般に歯性と骨格性とにわけら れ,若年者であれぽ矯正装置により治療すること が可能であるが,顎の発達がほぼ完成した17∼18 歳以降でかつ骨格性の場合は,矯正治療だけでは 正常な顔面形態と咬合状態を得ることは困難であ る.  外科的矯正法は顔貌の審美的な改善と咬合状態 の回復が主目的であるが,近年の顎顔面外科手術 法の発展と矯正歯科とのチームアプローチによる 総合的な治療がこれらを満足させる好結果をもた らしている2).  全上下顎同時移動術は上下顎に原因のある高度 な下顎前突症で,下顎あるいは上顎単独の手術で は形態的・機能的な改善が困難な症例や顔面非対 称・顔面高径に異常のある症例など複雑な顎顔面 変形症が適応と考えられる.  術式としてはしe Fort I魚骨切りと下顎枝矢状 分割法の併用によることが多いが3)∼5),咬合平面, 下顎頭,顔面頭蓋などが調和のとれた位置的関係 を得ることが重要であり,前後的変形に加えて, 強い左右的・上下的変形を呈する高度の顎顔面変 形症例では術前設計どお’りに正確に骨片を三次元 的に移動し,固定することは必ずしも容易でない. 本手術法を報告したObweges6r3)の位置決定法で は咬合平面傾斜角を左右で一致させることは困難 なこともあり,しかもfree−handで骨接合をしな ければならない欠点がある.Lindorfら6), Gross ら7)によって報告されたdouble splint法は下顎骨 もしくは上顎骨のいずれかを骨切りして可動化し たのち,対顎歯列を基準にして咬合器上で作製し ておいた中間スプリントを用いて骨片を移動固定 し,次いで対顎の骨切りを行い,その顎骨片を固 定するための最終スプリントを用いる方法がある が,Lindorfら3)は下顎を, Grossら4)は上顎を最初 に骨切りを行っている.山内ら8》は術前の側位セ ファロ写真分析とmodel operationにより設定し た位置を半調節性SAM咬合器と顔弓を用いて記 録し術中Le Fort I型骨切りを行い,可動化した 上顎骨片を頭蓋と顎関節との位置的調和を保って 術前に設定した位置を再現する方法を報告してい ’る.これらdouble splint法は段階的に手術を進め ることができ,対顎歯列に位置付けと固定を求め るため,簡便に骨片を移動固定することができる.

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 これら段階的な手術法は近年のミニプレートの 開発と発展により術前設計どおりに骨片を正しく 移動し固定することが可能になったためである.  今回の我々の手術においてもdouble splint法 を用い,上顎骨切り術を最:初に行い次いで下顎枝 矢状分割法を行ったが,ほぼ術前設計どおりに移 動固定できた.       結  語  今回,下顔面のみならず中顔面にもおよぶ著明 な顎変形症例に対し,術後の顔面形態を多方面か ら予測し,治療:方針に従って術前矯正,Le Fort I 型骨切り術と下顎枝矢状分割法の併用手術,術後 矯正を行い良好な咬合関係と顔貌の改善が得られ た.  本論文の要旨は東京女子医科大学学会第283回例会 において発表した.       文  献  1)仁平孝幸,伊藤 潔,小林元夫ほか:わが国にお    ける外科的矯正治療の現状と問題点一歯学部・歯   科大学矯正科,医学部・医科大学歯科口腔外科の  アンケート調査一.日矯歯誌 49:538−544,1990 2)野間弘康,柿沢卓,小坂肇:Jaw Defo㎜ity  の外科的矯正治療.1.下顎前突症について.日  歯評論 404:21−31,1976 3)Obwegeser H: Die einzetige Vorbewegung  des oberkiefers und Ruckbewegung des Unter  kiefers Zur Korrektur der extremen Progenic.  Schwez Mschr Zahnheilk 80:547−556,1970 4)鶴木 隆:Zurich大学顎顔面外科の現況(完)顎  矯正外科,頭蓋顔面外科(下).日歯評論 478:  189−204, 1982 5)大屋高徳,工藤哲吾,藤岡幸雄:全上下顎同時移  動術の検討,とくに手術術式を中心として.顎変  形誌 4:137−139,1985 6)Lindorf HH, Stenbauser EW:Correction of  jaw deformities involving simultaneous  osteotomy of the mandible and maxilla. J  Maxillofac Surg 6:239−244,1978 7)Gross BDJ, James RB:The surgical  sequence of combined total maxillary and  mandibular osteotomies. J Oral Surg 36:  513−522, 1978 8)内山健志,堀川晴久,木住野義信ほか:全上下顎  骨同時移動術における顔弓を用いる上顎骨骨片位  置決定法.日口外誌 37:982−992,1991

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