原 著 〔東女医大誌 第64巻 第3号頁 215∼223 平成6年3月〕
モルモット内耳ラセン靱帯および膜半規管の支持構造
一免疫組織化異ならびに電子顕微鏡的検討一
東京女子医科大学 耳鼻咽喉科学教室(主任 カナメ ヒデ ミ要 英 美
石井哲夫教授) (受付 平成5年11月19日) The Supporting Structure of Spiral Ligament and Membranous Semicircular Canal of the G“inea Pig夏nner Ear: An Immunocytochemical and Electronmicroscopic StudyHidemi K:ANAME
Departmen宅of Otolaryngology(Director:Prof. Tetsuo ISHII) Tokyo Women’s Medical College The connective tissues of the inner ear of the guinea pig, especially in the lateral cochlear wall and semicircular canal were investigated with the following methods:electron microscope, high−voltage− electronmicroscope and immunocytochemical techrlique. In the spiral ligament, numerous fibroblasts and collagen bundles were intermingled with each other. The fibroblasts were connected by adherence and gap junctions. Fibroblasts and microfibrils were distributed throughout in the subepithelial region of the membranous semicircular cana1. The extended cytoplasmic processes of these fibroblasts were connected with each other by well developed adherence and gap junctions. High−voltage・electronmicro・ scope showed that the actin like filaments of fibroblasts in the spiral ligament are connected with the branches of collagen bun“les. On the other hand, such connections between fibroblasts and collagen fibers were not clearly observed in the membranous semicircular canal. Immunocytochem量cally, gold particles indicating type・II collagen were found on the collagen bundles in the spiral ligament and on the microfibrils in the semicircular canal. The present results revealed that both the stria vascularis and semicircular canal are supported by connections of fibroblasts and type−II collagen fibers。 Furthermore, adherence and gap junctions of fibroblasts are suspected to be involved in the function of cell to cell communications. 緒 言 内耳膜迷路は,骨迷路を満たす外リンパ液中に 存在する一つの盲管嚢である.膜迷路は聴覚に対 する蝸牛,平衡覚に対する前庭という終末受容器 から構成される.蝸牛,前庭いずれにおいても単 に外リンパ液中に浮遊しているわけではなく,そ れぞれ骨迷路に固定する組織で支持されている. これまで内耳膜迷路の形態学的研究は,聴覚,平 衡覚に直接関与する感覚上皮や内リソバの生成維 持に関与している血管条や暗細胞が中心であり, 膜迷路の支持組織についての形態学的研究は少な い.本研究では,モルモットを用い,蝸牛では血 管条の支持組織であるラセン靱帯と前庭における 膜半規管上皮下結合織を対象にし,電子顕微鏡, 中超高圧電子顕微鏡を用い詳細に観察した。また 従来より内耳に存在するといおれているII型コ ラーゲンについて免疫組織化学的に光顕,および 電顕レベルでその局在を検討した.. 対象および方法 体重250∼300gのプライエル反射正常のハートレー系白色モルモットを対象とした.ネソブター ル(30mg/kg)腹腔麻酔後,以下のごとくそれぞ れ試料作製した. 1.電子顕微鏡による観察 0.1Mカコジル酸緩衝2.5%グルタールアルデ ヒド液にて三流固定後,側頭骨を取り出し,直ち に同固定液中で膜迷路を摘出し,0.1Mカコジル 酸緩衝1%オスミウム酸で1時間,後固定を行い, 上昇エタノール系列で脱水し,Epok812に包埋し た.ウルトラミクロトームで80nmの超薄切片を 作製し,酢酸ウラン10分,クエン酸鉛5分にて二 重染色後,透過型電子顕微鏡(H・7000または JEOL 1200 EX,加速電圧80kv)にて観察した. 一部の組織は前固定後,側頭骨を5%三塩化酢酸 (蒸留水にて希釈)にて三所5日間脱灰し,同様に 包埋後,試料作製した. 2.中超高圧電子顕微鏡による観察 ラセン靱帯と三半規管上皮下における線維芽細 胞とコラーゲンの関係についてより透過性の良い 状態で,また立体的に観察するため中超高圧電子 顕微鏡を用いた.試料作製は,1.と同様に行った. 0.5μmの切片を作製,酢酸ウラン30分,クエン酸 鉛5分にて二重染色を施行し中超高圧電子顕微鏡 (JEOL 4000EX,加速電圧350kv)にて観察した. 3.免疫組織化学的検討 1)光学顕微鏡(光顕)的検討 0.1M燐酸緩衝3%パラホルムアルデヒド液に
て灌流固定後,側頭骨をキレート剤系脱灰液
(K−CX③)を用い詰所において1日間脱灰し,蒸 留水で水洗,上昇エタノール系列で脱水を施行後, パラフィン包埋を行った,4μm切片を作製し,脱 パラフィン後,ABC法を用い免疫反応を開始し た.切片は,0.5%Triton−Xにて40分間処理し, PBS(phosphate buffer saline:pH 7.4)を用い 洗浄,0.3%H202加メタノール溶液にて20分間処 理し内因性ペルオキシダーゼを阻止した.PBSに て洗浄後,5%スキムミルク(PBSにて希釈)を 室温1時間反応させ非特異染色ブロッキングを行 い,一次抗体として抗II型コラーゲン抗体(rabbit anti−bovine type II collagen, Chernicon Int. Inc., 500倍)を室温で1時間反応させた.対照は,正常 ウサギ血清を一次抗体として同様に反応させた. PBSで洗浄後,ビオチン化二次抗体(biotinylated anti・rabbit IgG)を30分間反応させた後,再度 PBSで洗浄, ABC試薬(Vector Laboratories, Inc)を室温30分間反応させた. PBS洗浄後, DAB 液(Vector Laboratories, Inc)にて発色させ, ヘマトキシリンで対比核染色を行い,脱水,透徹, 封入後に観察した. 2)免疫電顕的検討 0.1M燐酸緩衝3%パラホルムアルデヒド, 0.1%グルタールアルデヒド混合液にて灌流固定 後,直ちに側頭骨を取り出し,0.1%燐酸緩衝中で 蝸牛管側壁と膜半規管を摘出し,上昇エタノール 系列で脱水した.LR−White(London Resin社) に包埋,50℃24時間重合を行うた.90nmの超薄切片を作製しグリッド上で操作するpost・
embedding法を用い免疫染色した.3%過酸化水 素(PBSにて希釈)で5分間処理後,非特異染色 ブロッキング目的にて0.1%スキムミルク,0,05% Triton・X混合液(PBSにて希釈)を室温にて1時 間反応させた.PBSで洗浄後,抗II型コラーゲン 抗体(1.で使用した抗体と同じ,20倍)を4℃24 時間反応させ,PBS洗浄,金コロイド(EM grade 10nm gold conjugated goat anti−rabbit IgG,50 倍)を4℃4時間反応させた後,酢酸ウラン10分, クエソ酸鉛3分にて二重染色を施行し観察した. 免疫反応の定量化を行うため,異なる切片で同 一倍率の12枚の電顕写真を無作為に撮り,この写 真を用いて目的の組織上に存在する金粒子数,即 ちラセン靱帯はコラーゲン線維東上に存在する金 粒子数,膜半規管では微細線維上に存在する金粒 子数とそれ以外の組織上に存在する金粒子数をカ ウントし比率を算出しStudent’s t法を用い有意 差検定を行った. 結 果 1.通常の電子顕微鏡による観察 血管条は内リンパ温言より辺縁細胞,中間細胞, 基底細胞より構成されるが,基底細胞と骨迷路間 に存在するラセン靱帯には,細胞内小器官を豊富 に認める多数の線維芽細胞とそれらの間を走るコ ラーゲン線維束が認められた.また線維芽細胞は 一216一い ぷヤハ ア タ ゆ や
楚/亭ノ凱1禽/
ダ隔ン=霧ご∴÷≒’
ド・ 鍵響戦1ズ
鉾偽 。卸・撫 駿 ㌔ 寂 副 サ 雫 電 も ド ぷ へ 、丸孫.〆・“ウ∴
v 辱脚 」 累 冗 ゆ ノ ぷハレ げザ夢一・緬 物
捗㌃窟聡難 ・
. 、 薩 慧 へれ ヘ サ メ ぽ騰ズ∴濃難∴
図1 a)ラセン靱帯電顕像 左上方に基底細胞(B)と線維芽細胞(F)間の接着 帯(矢頭)かみられる.Co コラーゲン線維束,× 4,100,Bar=1μm. Inset接着帯 ×30,000. b)ラセン靱帯内のコラーケノ線維束の拡大像 F 線維芽細胞,×34,000,Bar=05μm c)ラセン靱帯の線維芽細胞間にみられた接着帯(矢 頭)とギャノブ結合(矢印) ×55,000,Bar=01μm 血管条の基底細胞と接着帯により接合していた (図1a).線維芽細胞間を走るコラーゲンは,線維 束の形態を呈していた(図1b).線維芽細胞間は, 接着帯により接合しており,その細胞質側にはア クチン線維様の膜の裏打ち構造があり,また接着 帯近傍にはキャンプ結合を認めた(図1c).一方, 前庭の外リソバ腔間に存在する膜半規管上皮下結 合織の観察では,一層の扁平な上皮直下に網状構 造を呈する10∼13nmの微細線維が認められ膜半 規管上皮を裏打ちしており,さらに下方では細胞 内小器官に乏しい線維芽細胞が認められた(図 2).線維芽細胞は骨迷路側に接近するにつれ数を 増加させるとともに,それらの細胞突起は各々結 図2 膜半規管電顕像 上皮下に微細線維を認める.右下方には線維芽細胞 (F)か認められる.×6,000,Bar=1μm 翫駕㍉
図3 外リノパ腔間の線維芽細胞 細胞突起により結合している.×13,000,Bar=1μm合していた(図3).さらに,骨迷路に近づくにつ れ,線維芽細胞は扁平になり2層から3層の細胞 突起が骨迷路表面を覆っていた(図4).線維芽細 胞間の接触部には接着帯とギャップ結合が認めら れた(図5). 2.中超高圧電子顕微鏡による観察 ラセン靱帯における線維芽細胞間にコラーゲン 線維束が近接し,さらに線維が細胞内に陥入して いる所見がみられた(図6).また線維芽細胞に接 している線維束には,細胞膜と線維束を連結する ようなアクチン様の線維が認められた(図7).一 図4 骨迷路表面の線維芽細胞 細胞突起が2層から3層にわたり骨迷路を覆ってい る.×14,000,Bar=1μm. 図5 膜半規管上皮下,線維芽細胞間の接合部位の拡 聖像 接着帯(ZA)とギャップ結合(G)が認められる, ×125,000,Bar=0.1μm. 図6 ラセン靱帯の中超高圧電顕像 コラーゲン線維束が線維芽細胞内に陥入している(矢 頭).×22,000,Bar=0.5μm. 図7 中超高圧電顕で観察した線維芽細胞(F)とコ ラーゲン線維束(Co) 線維芽細胞内にアクチン様の線維を認める(矢 頭).×50,000,Bar=0.5μm. 方,膜半規管上皮下におけるコラーゲンは刷毛状 を呈しており,ラセン靱帯のような線維束は形成 しておらず線維芽細胞とコラーゲン線維を連結し ている線維性の結合も明らかではなかった(図 8).骨迷路を覆っている扁平な線維芽細胞は,骨 と接触を有し(図9),しぼしぼ,骨に深く細胞体 を陥入さぜていた(図1の. 3.免疫組織化学 1)光顕的検討 抗II型コラーゲン抗体を用いABC法により免 疫染色し観察すると,蝸牛ではうセン靱帯全体が 一218一
羅 謬 粛 夢 タ 図8 中超高圧電顕で観察した膜半規管上皮下の線維 芽細胞 網目状構造を呈した線維芽細胞間に刷毛状のコラー ゲン線維を認める。×15,000,Bar=1μm, 嬢蟻「』
醗瀞,躊躍.轟∴÷、
図10 骨迷路に陥入している線維芽細胞の中超高圧電 顕像 線維芽細胞の突起が2層から3層にわたり骨表面を 覆っている.×22,000,Bar=0.5μm. 岬 、簸賊 ,馬 図9 中超高圧電顕で観察した線維芽細胞と骨迷路 細胞体と細胞突起が相互に接合している.×11,000, Bar=1μm, 陽性で血管条上皮および骨迷路は陰性であった (図11a).前庭においては膜半規管上皮下結合織 が陽性であり上皮および骨迷路は陰性であった (図11b).対照は蝸牛,前庭ともに組織全体が陰性 であった. 2)免疫電顕的検討 光顕で確認したII型コラーゲンについて免疫電 顕法により局所分布を検索した結果,ラセン靱帯 内に認められるコラーゲン線維束に金粒子の集積 が認められた(図12a).一方,膜半規管において は上皮直下の微細線維上に金粒子の集積を認めた (図12b).反応の特異性を確認するために目的の 組織上に存在する金粒子数とそれ以外の組織上に 存在する金粒子数をカウントし有意差を認めた (表). 考 察 膜迷路の支持組織に関する形態学的研究は,い ずれも光学顕微鏡,通常の電子顕微鏡により観察 した報告であり1》∼12),免疫電顕法,中超高圧電子顕 微鏡を用い,線維芽細胞間や線維芽細胞とコラー ゲン線維間の接合様式,およびコラーゲン線維の 性状について詳細に検討した報告はない. ラセン靱帯において線維芽細胞は,血管条の基 底細胞と接着帯により接合していた.線維芽細胞 間も接着帯により接合していたが,接着帯以外に ギャップ結合による細胞間接合も認められた.接 着帯の分布は,上皮側も骨迷路側も大差なく均一 に分布していた.一方,膜半規管上皮下において は,外リンパ腔間の線維芽細胞は,ラセン靱帯と 異なり膜半規管上皮細胞と直接接合している所見 は認められなかった.また外リンパ腔間では,長 く延びた線維芽細胞の突起が網目状の構造を呈し ラセン靱帯よりも豊富に発達した接着帯とギャッ プ結合で接合していた.従来より接着帯は,その 細胞質側にアクチン線維様の膜の裏打ち構造が認 められていることから機械的な細胞接合に重要で1無
難11 a)抗II型コラーゲン抗体を用い染色した蝸牛 管側壁 ラセン靱帯全体に陽性所見を認める.RM ライス 不ノレ膜,×120. b)抗II型コラーゲン抗体を用い染色した膜半規管 上皮下の結合織に陽性所見を認める.BL骨迷 路,×120. 表抗II型コラーゲン抗体て染色したラセン靱帯と膜 半規管における金粒子数の検討 コラーゲノ線維上の金粒子数 それ以外の 燉ア子数 ラセノ靱帯 @ (n=12) 券シ規管 @ (n=12) 830±198* P178±124准 368±125 P34±43 *mean±SD, pく0001 あると考えられてきた.ラセン靱帯においては均 一な分布を認めた接着帯だが,膜半規管上皮下に おいては,分布に差があり骨表面に近い部分に豊 富に存在しており,同部は力学的に最も強く支持眉唾膨鵜/穰灘.
.鳶野 触
晒論 .詞㌻・∴。∵
議暖く瓢∵ ・ ゴ
籔
獣難瓢鯨
ピ序論懸:㌻
轟斜辺1∵田籍 ∵
卜κ ‘ ^ 言 ノ曜v 荊 ’ 図12 ・ .勝1 きお ぬ セ㌻弓田写
、 。∴卵焼∵軸ぞ∴赤嘘〆
・汽メ鋳… . ㍗飛 ∫ 亭 ・峯! ず を ウ アジ う バ が 汽 唾ド容/φ償 ・ ,轡嫉喚 宮 ’\肌驚歓づタ『慰
4豫 . ノ て冴 / 騨 , ・轟勧議繍 /㌶、、
轡健}磯・ ヅ繍麟、ρ下鞍灘辮蝦∵
懸 心証♂己・ 、
瞭 9 ゴ ” ヒ a)抗II型コラーゲン抗体を用い金コロイトて 標識したラセン靱帯の免疫電顕像 コラーゲン線維束に金コロイト(D=10nm)の集積 を認める.×40,000,Bar=05μm b)抗II型コラーゲン抗体を用い金コロイトて標識 した膜半規管の免疫電顕像 上皮直下の微細線維に金コロイト(D=10nm)の集 積を認める.×50,000,Bar=05μm されていると考えられる.近年,接着帯にカドヘ リン分子や,チロシンリン酸化酵素である。−yes, c・srcキナーゼが局在することが明らかにされ,接 着帯が単に機械的な細胞間接合にとどまらず,細 胞間情報伝達に関与している可能性が報告されて いる13).一方,キャノブ結合は,細胞間の低分子物 質交換の場として細胞質内部を連絡する細胞小器 官である.キャンプ結合の機能として,そこを通 過し細胞で交換される物質により細胞機能を調整 し,多くの無機体やその他の小分子を共有し化学 的,電気的に共役することにより細胞活動の協調 220一に重要であるとされている14)∼16).一般的に,接着 帯やギャップ結合は,両者とも上皮系細胞の結合 装置である.線維芽細胞のように間葉系細胞が上 皮系細胞の接合様式を示すものとして他に骨芽細 胞系細胞同士の接着帯およびギャップ結合が今ま でによく知られている.ここではギャップ結合を 介した細胞間のCa輸送や, c−AMPによる情報伝 達が推測され,骨芽細胞の機能発現,PTHによる 骨細胞性骨融解に重要な役割を果たしていると推 測されている17).ラセン靱帯,膜半規管上皮下結合 織ともに単に機械的な上皮の支持組織として存在 しているだけでなく接着帯やギャップ結合を介し た細胞集団としての情報伝達の機能を有している と考えられる. 中超高圧電子顕微鏡により,ラセン靱帯内の線 維芽細胞にコラーゲン線維束より枝分れした細い 線維が陥入している所見が数ヵ所で認められ,ま た線維芽細胞と接しているコラーゲン線維束に細 胞と線維束とを連結するようなアクチン様の線維 を認めた.アクチンとは,真核細胞で最も大量に 存在するタンパク質で,細胞の全タンパク質の 5%もしくはそれ以上を占めることも多い.収縮 性タンパク質であり,細胞全体に分布するが,細 胞膜直下において付随タンパクとの間に密な網目 構造を形成している.これにより細胞の表面に機 械的な強度を与え細胞の形態を変化させうると考 えられている18)∼20).アクチン線維の束は,細胞膜 に結合し膜貫通型連結糖タンパクを介して周囲の コラーゲン等のマトリックスに影響を与えると報 告されている21)22).この型の接合を焦点接触’ (focal contact)というが,中歯高圧電子顕微鏡下 において線維芽細胞とコラーゲン線維東間にこの ようなアクチン様線維を認めたことから,ラセン 靱帯においても線維芽細胞がコラーゲン線維束に 影響を与えていると考えられる.ラセン靱帯にお ける線維芽細胞は,細胞内小器官が豊富なことか らも基質合成能が高く,豊富にタンパク質(コラー ゲン,アクチン等)を合成することにより,血管 条上皮を強靱に骨迷路に支持していると考えられ る.一方,膜半規管上皮下結合織においては,ラ セン靱帯のようにコラーゲンが細胞膜に陥入する 所見や線維芽細胞とコラーゲン線維がアクチン様 の線維で連結している所見は明らかではなかっ た.膜半規管上皮下における線維芽細胞には,細 胞突起の複雑な指状嵌合がみられること,また豊 富な接着帯が存在することより外リンパ雨中で適 度な伸縮性を有し,膜半規管上皮を骨迷路に支持 しているものと考えられる. 現在まで,凍結切片による免疫組織化学的手法 を用い内耳におけるII型コラーゲンの広範囲な分 布が,ラセン靱帯,三半規管膜迷路,周囲骨包等 に報告されているが8)∼10),それらは光顕を用いた 観察であり局所分布に関する報告はない.また内 耳脱灰標本において免疫組織化学的検討が行える
か否かについては,すでにAltermatt23),
Anniko24),五十嵐ら25)によって検討されており, いずれも適切な脱灰処理を行えば,免疫組織化学 的検索は可能であると証明されている.本研究に おいては,光顕レベルの観察用に比較的組織に侵 襲が少ないといわれているキレート剤系脱灰液で あるK−CX⑪を使用し良好な結果を得た.金コロ イドによる免疫電顕的検討からラセソ靱帯におけ るコラーゲン線維束と膜半規管上皮直下に認めら れる微細線維は,II型コラーゲンから成ることを 確認した.コラーゲンは,細胞外マトリックスの 主要構成成分であり体のタンパク質の約3分の1 を占めるといわれ,なかでもII型コラーゲンは, 硝子軟骨に特徴的に存在することが知られてい る.メニエル病や耳硬化症が内耳に存在するII型 コラーゲンに対する自己免疫疾患であるとする報 告もあり11)12),・今後さらに,内耳におけるII型コ ラーゲンの分布を検討することは病因の解明に重 要なことと思われる. 以上の結果より,蝸牛におけるラセン靱帯と, 前庭における膜半規管上皮下結合織の基本構造 は,線維芽細胞間の接合様式,コラーゲンの性質 などほぼ同様であるが,しかし,上皮細胞と線維 芽細胞の関係,線維芽細胞とコラーゲンの関係, および細胞突起の並並嵌合の有無等に差があり, これによって上皮を支持する性質に違いがあると 考えられる.ラセン靱帯は比較的強固に骨迷路に 支持され,一方,膜半規管上皮は外リンパ液中という特殊な環境下で適度な伸縮性を有しながら支 持されていると推測される.特に急速あるいは緩 除な頭位の変化に対.応ずる半規管の平衡機能に とって膜半規管上皮下結合織の伸縮性は合目的な .こ.とと考えられる. 結 論 モルモット内耳における支持組織について蝸牛 ではうセン靱帯,前庭においては膜半規管上皮下 結合織を対象に線維芽細胞とコラーゲン線維につ いて電子顕微鏡,中超高圧電子顕微鏡および光 顕,電顕レベルの免疫組織化学的手法を用い検討 した. 1)ラセン靱帯における線維芽細胞間は,接着帯 とギャップ結合により接合していた.また線維芽 細胞と血管条基底細胞は接着帯によって接合して いた.線維芽細胞間には,コラーゲン線維束が存 在し,両者は線維性の連結を有し血管条上皮を強 固に骨迷路に支持していた. 2)膜半規管上皮下結合織における線維芽細胞 は突起を出し結合し,そのi接合部分には接着帯と ギ壷ップ結合が認められた.ラセン靱帯に比し疎 であり網目状の構造を形成し伸縮性を持って上皮. を支持していると考えられた. 3)ラセン靱帯におけるコラーゲン線維東およ び膜半規管上皮直下の微細線維は,.II型コラーゲ ンから成っていた. 稿を終えるにあたり御指導,御校閲を賜りました石 井哲夫教授に深甚なる謝意を表します.また直接御指 導頂きました吉原俊雄助教授に深謝致します.最後に 本教室員の皆様,ならびに阿保尚子技師に感謝致しま す. 文 献 1)Hamilton DW=Perilymphatic且brocytes in the vestibule of the inner ear. Anat Rec 157: 627−640, 1967 2)Takahashi T, Kimura RS:The ultrastruc・ ture of th¢Spiral ligament in the rhesus mon− key. Acta Otolaryngol 69:46−60,1970 3)Arima T, Shibata Y, Uemura T:The ultra. structure of the supprting system in the guinea pig semicircular.canal. Eur Arch Otorhinolar. yngol 247:256−260, 1990 4)有馬敏夫,川ロ 博,吉田雅文ほか:モルモット 内耳の結合組織における線維成分.Ear Res Jpn 20:95−96, 1989 5)川口. 氏C有馬敏夫,増田玄彦:モルモット半規 管膨大部の結合組織におけるmicro丘bri1. Ear Res Jpn 19:2珍一24,1988 6)Bagger・Sj6back D, Engstrom B, Steinholtz L et al:Freeze fracturing of the human.stria vascularis. Abta Otolaryngol(Stockh)103: 64−72, 1987. 7)Fmnke K:Fine structure of the tissue lining the cochlear perilymphatic space against the bony labyrinthine capsu豆e, Arch Otolaryngol 222:161−167, 1979 8)Slepecky NB, Savage JE, Yoo 7」: Localiza− tion of Type II, IX and V cσ11agen in the inner ear. Acta Otolaryngol(Stockh)112:611−617, 1992 9)友田幸一,山下敏夫,熊沢忠躬ほか:Type II Collagenの中耳および内耳における分布形態 一免疫組織化学的観察一.Ear Res Jpn 15: 199−202, 1984 10)Ishibe T, Yoo TJ: Type II collagen distribu・ tion in the monkey ear. Am J Otol 11:33−38, 1990 11)Yoo TJ, Yazawa Y, Tomoda K et aL Type II collagen−induced.autoimmune endo呈ymphatic hydrops in guinea pig. Science 222:65−67,1983 12)Yoo TJ, Stuart JM, Kang AH et al: Type II collagen autOimmunity in otOSClerosis and Menier’s disease. Science 217:1153−1155,1982 13)Tsukita S, Oisbi K, Akiyama T et al: Speci丘。 proto・oncoge血ic tyrosine kinase of src family are enriched in cell−to・cell adherens junctions where the level of tyrosine phos− phorylation is elevated. J Cell Biol 113: 86.7−879, 1991 14)Pitts JD, Finbow皿E: The gap junction.、J Cell S.ci 4:239−266, 1986 15)Loewenstein WR:The cell−to−cell channel of .ga茎>junctions, Cell 48:725−726, ユ987 16)NeytoR J, Trautmann A:Single・channel cur・ rents of an intercellular junction. Nature 317: 331−335, 1985 17)Palumbo C, Palazzini S, Marotti G:Mor− pho豆ogical study of intercellular junctions dur− ing osteocyte differentiation. Bope 11: .401−406, .1990 18)Korn.ED:Actin polymerization and its regu・ lation by proteins from nonmuscle cells. Physiol Rev 62:672−737,1982 19)Pollard TD, Cooper JA: Actin and actin・ 一222一
binding proteins. A critical evaluation of anisms and functions. Ann Rev Biochem 55 : 987-le35, 1986
20) Bray D, Heath J, Moss D : The
associated "cortex" of animal cells: Its ture and mechanical properties. J Cell Sci 4 1
71-88, 1986
21) Stopak D, Harris AK: Connective tissue
morphogenesis by fibroblast traction. I. Tissue cUlture observations. Dev Bio} 90i383-398,
1982
22) Burridge K, Fath K, Kelly T et al: Focal adhesions : Transmembrane junctions between
the extracellular matrix and the cytoskeleton. Ann Rev Cell Biol 4 : 487-525, 1988
23) Altermatt HJ, Gebbers JO, Arnold W et al : Preparation of human temporal bone for
munohistochemical investigation. J
rhinolaryngol Relat Spec 51:83-87, 1989
24) Anniko M, Arnold W, Thornell LE et al:
Regional variations in the expression of keratin proteins in the adult human cochlea. Eur Arch Otorhino!aryngol 247 : 182-188, 1990
25) EE+Mrs-,kNth't±z, ipfits- l NgO ptide eD 5)- li-ut!ITIme lg et lk 6 SERwtwaltG}E e9ee
frIt-. Otol Jpn 2 l 611-615, 1992