原 著
〔年女犠、第鷺,劉言〕
くも膜下出血における髄液中補体因子と
脳血管攣縮との関連について
神経内科学教室(主任::丸山勝一教授) 東京女子医科大学 脳神経外科学教室(指導:加川瑞夫教授) カス ヤ ヒデ トシ糟 谷 英 俊
(受付 平成元年9月12日)Complement Components in Cerebrospinal Fluid and Vasospasm after Subarachnoid Hemorrhage
Hidetoshi KASUYA
Department of Neurosurgery(Director:Prof. Mizuo KAGAWA) Department of Neurology(Director:Prof, Shoichi MARUYAMA) Tokyo Women’s Medical College
The cerebrospinal fiuid(CSF)and plasma levels of C3a and C4a were quantitated by
radioimmunoassay in 40 patients suffering from subarachnoid hemorrhage(SAH). Serial measure− Inents of the lumbar CSF levels revealed that the C3a and C4a levels were significantly elevated in the initial stage of SAH, but decreased rapidly. The mean levels of cisternal, lumbar, and ventricular CSF C3a alld C4a within 48 hours after SAH in patients with delayed ischemic neurological deficits(DIND) were significantly higher than those without DIND. The serially measured plasma levels of C3a and C4a in patients with DIND were elevated more than in those without DIND, but they did not show a significant change over time. Fibrinopeptide A(FPA)levels as an indicator of thrombin activity were measured by radioimmunoassay slmultaneously。 There was a significant correlation between CSF activated complement components and FPA.
Our results suggest that 1)levels of activated complement components were elevated in the subarachnoid space immediately after SAH possibly due to activation of complement system by activation of coagulation system;2)the higher CSF levels of C3a and C4a in patients with DIND may indicate a relationship exists between these components and pathogenesis of cerebral vasospams;3)no conclusion could be reached from this study about a direct correlation between C3a and C4a levels in plasma and vasospasm.
緒 言 脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血は,髄液で 満たされたくも膜下腔に存在する脳動脈瘤が破綻 し,くも膜下腔に出血することによって始まる. その4日から14日のちに,くも膜下腔に露出した 脳血管に脳血管攣縮が引き起こされ,重篤な脳梗 塞に移行することもある.この遅発性脳血管攣縮 はくも膜下出血の患者の予後を左右する大きな因 子のひとつであるが,この病態はいまだ解明され ておらず,有効な治療法も見出されていない.著 者は,くも膜下出血による遅発性脳血管攣縮の病 態をくも膜下品の凝固,線溶,キニン系から研究 してきたD2).くも膜下出血後,髄液腔内において, 凝固系,線溶系,キニン系はただちに活性化をう け,その後徐々に正常に戻ることが知られている. この活性化の機序としては,キニン系も強く活性
一63一
化を受けていることから,凝固内因系からの経路 が考えられた.脳血管攣縮との関連では,凝固系 が強く活性化されたものに,脳血管攣縮が強く起 こる傾向が認められた.これは内因系凝固系の活 性化によって,bradykininをはじめとする種々の cheInical mediatorが大量に産生され,くも膜下 腔の炎症反応が引き起こされて,後に脳血管攣縮 が起こってくるものと考えられた3). さて,今回著者は,さらに脳血管攣縮の病態を 解明するために,凝固系,線溶系,キニン系と深 い関係があるとされる補体系について脳血管攣縮 との関連を検討した.C3a, C4aはanaphylatoxin としての生物活性を有し,かつ補体活性化の指標 となりうるため,くも膜下出1血患者の髄液および 血漿中の値を測定した.さらに,凝固系との関連 を知るためfibrinopeptide A(FPA)を同時に測 定した, 対象および方法 1.対象 対象はくも膜下出血患者40例である,年齢ば34 歳から84歳(平均55.2歳),女性23例,男性17例で あった.HuntとHessの重症度(grade)分類4)で
をよ, grade 5;2イ列, grade 4;9f列, grade 3;15
例,grade 2;11例, grade 1;3例であった.重
症のため行われなかった2例を除く38症例に,急 性期クリッピング術が行われている.脳血管攣縮
は,delayed ischemic neurological de丘cits (DIND)で判断した.40例中4症例は,発症時よ りの脳損傷(primary damage)または再出血によ りDINDを判定しえなかった. DINDは20症例に 認め,16症例には認めなかった. 対照としては,椎間板ヘルニア患者の脊髄造影 中にえた髄液および健康正常人の血液を用いた, 2.採取方法 腰部くも膜下腔髄液(以下,腰椎髄液と略)お よび血液は,発症日または1日目に1回目の採取 を行い発症後15日目(発症日は0日とする)まで の間にもう1回以上採取し比較した.脳室および 脳槽髄液は,手術中直接採取するか,術後drain− ageより採取した.採取した血液および髄液2ml
には,ethylenediaminetetraacetic acid disodium
7.5mgと, nafamostat Inesilate 1501ngをただち に加えた.4℃,1,500gで5分間遠心したのち, 上清は一20℃で測定まで凍結保存した. 3.測定方法 C3aについては, HugliとChenowethらに基づ き5),C4aについては, Gorskiの方法に基づき6), Amersham社(London, UK)のkitを用いてRIA 法にて測定を行なった. 4.且brinopeptide Aの測定 Anaphylatoxin測定用と同時に採取した検体
1.5mlにheparin 2001Uとaprotinin 4,000 KIU
を加え,4℃1,500gで5分間遠心した後上清
は一20℃で凍結保存した.測定はpolythylene− glycoi法にてbinding・free分離を行い, IMCO社 (Stockholm, Sweden)のkitを用いてRIA法に て行った7), 5.統計処理 対数変換の後Student t−testを用い, p〈0。05を もって有意とした. 結 果 1.正常対照値 髄液中C3aは2.011±0.02910g ng/lnl(mean± SE,95.9∼109.6ng/ml,平均102。5ng/ml), C4a は2.119±0.04310g ng/ml(119.1∼145.2ng/rnl, 平均13!.5ng/ml)であった.血漿中C3aぱ, 2.066±0.05110g ng/ml(103.5∼130.9ng/ml,平 均116.4ng/ml), C4aは2。195±0.07410g ng/ml (132.1∼185.7ng/m1,平均156.6ng/ml)であっ た.図1中に(國)で示した. 2.くも膜下出血後の腰椎髄液中C3a, C4aの推 移 27症例65検体のC3a, C4aの出血後の変化を図 1に示した.0∼1日は高値を示し,徐々に減少 し,8∼10日にやや上昇するが,それ以降減少した.DIND群は非DIND群よりも高値を示し,発
症初期にその差は大きかった.また,値の変化は C3aがC4aよりも大きかった. 3.くも膜下出血後48時間以内の脳槽,腰椎,脳 室内髄液中のC3a, C4a値 発症後まもなく補体系は活性化されると考えら れるため,発症後48時間以内に採取し得た32症例1500 1000 5GO 0 ** *牢 * ** * ぎ 望 3 き 司 馬 500 図1
。25811 0。25811
1 1 1 1 1 1 1 1 1 11471015
1471015
Days after SAH Days after SAH
くも膜下出血患者27例の腰椎髄液中C3a, C4a ** ** ** ** * の出血後の値(mean±SE) 國は対照値を示す.対照値と比較し,*二p< 0.005, **=p<0.0005 5000 4000 量 壱、。。。 属 ヒ、。。。 8 1000 0 △ △ △ £ 念 △ △ △with DlND owithout DIND 会 3DOO ミ・… 9 ぎ 蓉 1000
9
ム む ・。@:釜
会1△§△含
一一一」@ 一一一 」一一一」 Ocistern Iumbar ventricle
Pく0.OQ5 Pく0、01 Pく0.01 △ 会 △ △with DIND owithout DIND △ 会 呂 含
ll。l
cistern lumbar P〈0.05 Pく0.05 △ §◎ 盒9 .漏1, P・O.05 図2 くも膜下出血後48時間以内の,脳槽,腰椎,脳 10QO 讐 も ε 50Q 話 ま 8 0 念翻 舘 △ △ △ △ ム ム 《 会 。 : § § §一
P〈O.005 △with DIND owithout DIND 図3 くも膜下出血後48時間以内の, イ直 5 髄液中FPAの 4 筆 喜3 屋 ε2 ♂1 0CSF
U..’σ r≡0.了0232 (P〈O、01) n=65 y=O.36810其+LgO145 室髄液中C3a, C4aの値 5 0 1 2 3 4 FPAGo9、o ng/mD 5 42検体において比較検討した.これらの値を,脳 槽,腰椎,脳室別に図2に示した.DINDを示す 群は,脳槽,腰椎,脳室ともに統計学的有意差を もって,非DIND群よりも高値を示した. C3aは C4aよりもこの傾向がより強かった.また, C3a, C4aともに脳槽〉脳椎〉脳室の順に高かった.4.〈も膜下出血後48時間以内の髄液中FPA
の値 症例数が少ないため,採取部位別には比較し得なかった.図3にDIND群と非DIND群別に髄
液中FPA値を示した. DIND群には,脳槽3例,腰椎3例,脳室6例を含み,非DIND群には,脳
槽4例,腰椎5例,脳室8例を含む.DINDを示
塗4 》3 δ82
8
1 0 .o.. oCSF
岬 n。繭...・・ぜ・・..・・一・♂ r=0.40883 (P〈Q.01) n=65 y≡O.■0750減十2.2956i 0 1 2 3 4 5 FPA (lo910 ng/mD 図4 くも膜下出血後髄液中C3aとFPA, C4aと FPAの相関図 す群は,統計学的有意差をもって,非DIND群よ りも高値を示した. 5.くも膜下出血後髄液中C3aとFPA, C4aとFPAの相関
図4に26症例65検体についてC3aとFPA, C4a とFPAの相関を示した. C3a, C4aともにFPA と正の相関を認めた.C3aはC4aと比べ,より強 い相関を示した. 6.くも膜下出血後の血漿中C3a, C4aの推移 300 薯20・ 蓄 悪 垂1。。 匹 ** NS * 300 四with DIND 【:=コwithout DIND ■controI *** NS * 葦… ξ 鷺 垂1。。
0 03611 0 0 3611
1 i I I I l I I2510T5 251015
Days after SAH Days after SAH
図5 くも膜下出血患者16例の血漿中C3a, C4aの出 血後の値(mean±SE) ■は対照値を示す.対照値と比較し,*=p< 0.05,ホ*=p<0.01,***=p<0.005,NS=not signi且cant 翅with D [コwith。u * ■contro * NS NS NS NS NS NS 5 plasma 4 黛 壱3 δ ≦⊇2.・・…盈・Ω・・』’』.』’ ζ
81
0 o r=0、1703Q(NS) n=28 y≡D.0935了x十2、Q4406 0 1 2 3 FPA(lo910 ng/mD 4 図5には,16症例32検体の血漿中C3a, C4aの出血後の変化をDINDの有無により分けて示し
た,それぞれ経過中有意な変化は示していない.DIND群のC3a値は発症初期より対照群のそれ
より高値であった.またDIND群のC4a値は,3 ∼10日に対照値より高い値であった.非DIND群 では,対照値との間に有意差は認めなかった.髄 液とは異なり,C4aがC3aよりもやや高値を示し た. 7.くも膜下出血後血漿中C3aとFPA, C4aとFPAの相関
図6に16症例28検体の相関図を示した.これら の間にはともに有意の相関を認めなかった. 考 察 これまで著者は,くも膜下出血患者の髄液中 FPA, bradykininなどの測定結果から,くも膜下 腔へ出血することによって,出血した血液中に存 在するHageman因子による内因系の活性化が促 されるものと考えた8). 補体の活性化と,凝固系,線溶系,キニン系の 相互作用は複i雑で,十分に解明されているとはい えない.そのなかでは,図7に示すようにthrom−bin, kallikreinはalternative pathwayから,
plasminはclassical pathwayから補体を活性化 することが認められている9),最近,補体の活性化
と凝固能XII因子であるHageman因子との関
係が明らかとなってきた.Hageman因子は, pre− kallikreinおよび高分子kinlnogenをcofactor 一1 5 黛4 》3 8 ε2 δ 1 0 plasma Ω.、 r50.19380(NS) n=28 y≡0、03807x十2.17776 一1 coa呂ulation fibrinolysis噌zΣ鴬に転
fFbhnoggn FDP憎』「 」』≒;1;;;
一鼎響
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サ ぬ ヨロ ビロロ ↓ kinhogen−bradyklninやsplit products Pc・a う と CuCアC隔Cp 0 1 2 3 FPA (lo910 ng/ml) 4 図6 くも膜下出血後血漿中C3aとFPA, C4aと FPAの相関図一66一
図7 補体系の活性化と凝固,線溶,キニン系との関 連FPA;fibrinopeptide A, FDP=fibrinogen fibrin degradation products
として,陰性に帯電した物質で活性化されること
をこよ り (contact activation), prekallikreinカミ
kallikreinとなり, kininogenからbradykininが 遊離してくる.さらに活性化されたXIIaは凝固 第XI因子を活性化させ,凝固系cascadeは,つぎ つぎに活性化されていく.XIIa(HFa)の一一一部 (HFf)はまたclassical pathwayを活性化し,内 因系凝固系が補体活性化の重要な経路の一つであ ることが明かとなった10)(図7).このため,著者 はくも膜下出血患者の髄液中の補体系も活性化さ れるものと考えた.くも膜下出血後の髄液中の補 体価は出血量に左右され,さらに活性化を受けれ ばその評価は非常に難しくなる.そこで,現在の ところ補体系の活性化を知るうえで最も有用と考 えられる活性化補体因子を測定することとした. 本研究では,実際のくも膜下出血患者において
髄液中C3aとC4aがくも膜下出血初期に著明に
高値を示していることを明らかにした.髄液中 C3a, C4aは,血漿中よりも高値であり,脳槽,腰 椎,脳室の順に高い値であるため,くも膜下魚の 出血部位周囲で出現してくるものと考えられる. C3a, C4aが高値であることは補体系cascadeが 活性化されていることが考えやすく,C3aととも にC4aも高値であることから,おもにclassical pathwayが活性化されているものと考えられる, くも膜下腔でのC3a, C4aの出現は種々の要因が 考えられるものの,くも膜下出血においては,凝 固活性を示すFPAとC3a, C4aがともに有意に 正の相関を示すことから,主に凝固系を経ている のであろう.くも膜下出血により,くも膜下山で活 性化されたHageman因子は,凝固系,キニン系 の活性化とともに,補体系をも活性化するものと 考えられる.また,C3aはC4aよりも高値を示し,FPAともより有意に相関を示すことから,
thrombin, kallikreinなどを経るalternative pathwayによる活性化も存在するものと思われ る. 凝固系を介したさまざまなchemical mediater が大量に放出されるくも膜下出血初期には,脳血 管攣縮は認めない.しかし,この時期が脳血管攣 縮が形成される上で重要な意味を持つと考える証 拠がいくつか報告されている.Chyatteら11)によ れぽ,ステロイド療法の脳血管攣縮に対する効果 ぽ,くも膜下出血面すぐに用いなけれぽ意味はな いという.また,Handaら12)によれば,くも膜下 出血におけるくも膜下向の血腫除去は,発症後48 時間以内に行われないと脳血管攣縮の予防効果は ないという.この脳血管攣縮の準備期間ともいえ る時期に今回測定したanaphylatoxinはくも膜 下腔でかなりの高値を示し,脳血管攣縮の時期に は減少していく.Anaphylatoxin(C3a, C4a, C5a)の病態時に
おける作用は,急性炎症においてchernical
mediaterとして働くことにある. Anaphylatoxinは,平滑筋の収縮,毛細血管の 透過性:西進,肥満細胞からのヒスタミン遊離,好 中球の走化性の促進など重要な作用を示す13). Doczi14>は,くも膜下出血急性期に脳血管関門 が障害されていること,しかも,脳血管攣縮を呈 し予後の悪い症例に特に強いことを示した.また, Sasakiら15)も,実験的くも膜下出血において脳血 管の透過性充進を証明し,後の脳血管攣縮に深く 関わってくるものと考えた.補体の活性化はおそ らく,他のbradykininなどのchemical mediator とともに,脳血管関門の破綻,内皮細胞の障害な どを引き起こし,脳血管周囲くも膜下立の炎症を 司っているものと考えられる.くも膜下出血初期 の炎症反応が,その後の脳血管攣縮に関与してく るのであろう. Φstergaardら16)は,くも膜下出血患者の血漿中 C3dを測定し,脳血管攣縮が起こる時期に2倍の 増加をみたが,脳血管攣縮を呈さない症例では増 加しなかったという.そして血漿中の補体の活性 化は循環血液中の免疫複合体の存在によって引き 起こされるのではないかと推察した.しかし,今 回の血漿中C3a, C4aの測定では,これらは DIND群で発症始めから高値を示し,脳血管攣縮 の時期に一致した上昇は認めなかった.血漿中の 補体の活性化と脳血管攣縮の発生機序とは結びつ けにくいと考えた. 結 語 くも膜下出血患者40症例の髄液中および血漿中C3a, C4aさらにFPAをRIA法にて測定し,以下 のことが推察された. 1.くも膜下出面内ただちにくも膜下腔髄液中 において活性化補体因子は高値を示す.この機序 としては凝固系の活性化による補体系活性化が考 えやすい. 2.脳血管攣縮を呈する症例に髄液中C3a, C4a はより高値を示すことから,くも膜下馬に出現す るanaphylatoxinは,脳血管攣縮の病態に関与す るものと考えられた. 3.今回の測定からは,血漿中のanaphylatoxin の脳血管攣縮への関与は明かではなかった. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 脳神経センター所長,神経内科主任:丸山勝一教授,脳 神経外科加川瑞・夫教授に深謝致します.また,終始御 指導をして頂きました脳神経外科清水隆助教授,御協 力頂きました脳神経外科学教室の耐湿生方に深謝致 します. なお,本研究の一部は文部省科学研究費奨励研究 (A)によって行われた. 文 献 1)星 妙子,清水 隆,鬼頭健一ほか:遅発性脳血 管れん縮の免疫学的研究,蛍光抗体法による頭蓋 内動脈壁における免疫グロブリン,補体第3成分 の検出.Neurol Med Chir(Tokyo)24:647−654, 1984
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