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Pythium属菌の分子分類および生態研究への応用

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Title

Pythium属菌の分子分類および生態研究への応用( 本文

(Fulltext) )

Author(s)

景山, 幸二

Citation

[日本植物病理学会報] vol.[80] no.[100] p.[S16]-[S23]

Issue Date

2014

Rights

The Phytopathological Society of Japan (日本植物病理学会)

Version

出版社版 (publisher version) postprint

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/52402

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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Pythium 属菌の分子分類および生態研究への応用

景山 幸二

1

*

KAGEYAMA, K.1* (2014). Molecular taxonomy and its application to ecological studies of Pythium species.

Key words: Pythium, identification, molecular taxonomy, molecular ecology, diagnosis

はじめに Pythium 属菌は植物病原菌,動物病原菌,藻類病原菌,菌 寄生菌および腐生菌といった多くの性質の異なる種の集ま りである.生息域は北極・南極圏の寒帯から赤道直下の熱 帯まで,あるいは陸生,淡水生,海水生と広範囲にわたる. 種数は140 種以上,十分な記載やタイプ標本がない種を加 えると300 種を越え,2000 年以降 42 種が新種として記載 されている.この急激な増加には2 つの要因が考えられる. 一つは,これまで農耕地における植物病原菌を中心に研究 がなされてきたのに対し,森林のような自然環境あるいは 農耕地であっても発病がみられないところ,すなわちこれ まで探索がなされていなかった利害関係のないところでの 調査が進められてきたことである.特にフランスの研究者B. Paul とのその共同研究者による精力的な調査に由来するこ とが多く,42 種中 21 種を記載している.著者等も森林土壌 から分離したP. takayamanum および P. senticosum を新種とし て記載した(Senda et al., 2009).もう一つの要因は,分子系 統解析の進歩である.Pythium 属菌は形態的に似ており分類 が困難な菌株があるが,分子系統解析により新種であるこ とが明らかになれば,形態を再確認し確信を持つことがで きる. 植物病原菌としてのPythium 属菌をみたとき,これまで は種子腐敗や苗立枯れのような植物の幼苗期の病気が主で, 比較的防除の容易な病原菌であった.しかし,農業形態の 変化により,激しく根腐れを起こし成熟した植物でさえ枯 死に至る病気が増加している.特に新たに導入されてきて いる観賞用植物,花き類などは日本の高温多湿条件に弱く Pythium 属菌の感染により激しく発病してしまう.また,養 液栽培の導入もPythium 属菌のような遊走子により水媒伝染 する病原菌にとっては好適な条件である.一旦,病原菌が 侵入すると爆発的に増殖・拡散するため被害は甚大で,大 きな問題となっている.このため病害防除には病原菌を殺 菌する技術とともに病原菌の生態を知った上で伝染経路を 断つといった的確な防除が,防除効率および経費削減のた めに重要である.Pythium 属菌では選択培地が開発されてい るので,生態研究は不可能ではないが,労力,時間,熟練 が必要となる.近年は,生態研究に分子生物学的手法が取 り入れられ分子生態学という新しい分野ができている.病 原菌の検出・定量あるいは個体識別が可能となることによ りPythium 属菌の生態研究の一層の進歩が期待される. 本総説では,Pythium 属菌の新しい分類・同定について述 べるとともに,生態研究のために開発されてきている分子 生態学的手法について解説する. 1.形態分類と分子系統分類 Pythium 属菌が所属する卵菌類は近年,リボソーム DNA の小サブユニット(rDNA SSU)の塩基配列を用いた系統解 析により,真菌界から外されクロミスタ界(ストラミニピ ラ界)に位置付けられている(Cavalier-Smith, 1989).細胞 壁は真菌とは異なり,キチンを含まず,セルロースからで きており,菌糸体を形成しても隔壁は各種器官との境以外 にはなく,無性器官は2 倍体である.これらは明確に真菌 とは異なる点である. 形態分類 Pythium 属菌の分類は,これまで造卵器,造精 器,卵胞子,胞子のうのような繁殖器官の形態,培地上で

1 岐阜大学流域圏科学研究センター(〒 501-1193 岐阜市柳戸 1-1) River Basin Research Center, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu 501-1193, Japan

* Corresponding author (E-mail: [email protected])

この総説は先に Journal of General Plant Pathology の 80 巻 4 号の pp. 314 ~ 326 に掲載された総説(http://dx.doi.org/10.1007/s10327-014-0526-2)の抄訳です.報文としてのプライオリティーは JGPP 掲載の総説にありますので,引用の際には本総説ではなく JGPP の総説を用いるようにご注意ください.

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Jpn. J. Phytopathol. 80 (Special Issue) Review for the 100th Anniversary.November, 2014 17

の菌叢形態,菌糸伸長などに基づいている.検索表は,Dick (1990)のものが新しいが,van der Plaats-Niterink(1981)の 検索表の方が一般的に使われている.しかし,近年新しい 種が多く発表されており,その利用には注意が必要である.

分子系統 Pythium 属菌の分子系統解析は最初に Matsumoto et al.(1999)により rDNA の internal transcribed spacer(rDNA

ITS)領域の塩基配列に基づき行われた.この研究では rDNA ITS 領域は Pythium 属菌の種の同定に適した領域であること を示した.また,無性器官である胞子のうの形態が,分子 系統の最初の分岐と一致しており,有性器官に関係する形 態は分子系統分類とは一致しないことを示した.Martin(2000) は,核と遺伝様式が異なる細胞質内のミトコンドリアの cyto-chrome c oxidase II(COII)遺伝子の塩基配列を基にして系 統解析を行い,Matsumoto et al.(1999)と同様第一分岐点 は胞子のうの形態であることを示した.これらの結果は, 無性器官の形態が種分化に重要な要因となったことを示唆 している.

Lévesque and de Cock(2004)は,先に述べた形態分類で 最もよく使われているvan der Plaats-Niterink(1981)によ る検索表に記載されている種について系統解析を行った. 彼 ら はrDNA ITS に 加 え rDNA 大 サ ブ ユ ニ ッ ト(rDNA LSU)の塩基配列も利用しているが,系統樹の基本的な形 はMatsumoto et al.(1999)の系統樹と同じであった.また, この研究ではPythium 属菌は A ~ K の 11 のクレードに分 かれることを明らかにした.このクレード分けは現在の系 統解析の一つの基準となっている.新種を記載するときに は,系統解析を行いどのクレードに属すかを示すことが必 須となっている.また,クレード内の種でrDNA ITS だけ でなくCOII 等の複数領域を使って詳細な系統解析をして単 系統になっていることを示さなければならない.

Villa et al.(2006) は,rDNA ITS,β-tublin,COII の 3 領 域の塩基配列を用いPythium 属菌に加え Phytophthora 属菌を

一緒にして系統解析を行った.本研究ではLévesque and de Cock(2004)のクレード K は分子系統的に Pythium 属菌よ

Phytophthora 属菌に近縁であることを示唆した.その後,

Bala et al.(2010)はクレード K を新属 Phytopythium として,

Pythium 属から分離独立させた.本総説ではクレード K の

種は従来通りPythium 属菌として取り扱う.

Uzuhashi et al.(2010)は,rDNA LSU および COII の塩基 配列を用いた系統解析でPythium 属を 4 属に分割することを 提案した.しかし,近縁属であるLagenidium,Myzocytiopsis, Pythiogeton の中には Pythium のクレードの中に入る種もあり, これらの属の種を含めた分類の再検討が必要であることが 指摘されている(Schroeder et al., 2013). 2.同定

形態同定 van der Plaats-Niterink(1981)の検索表は,① 有性器官形成-雌雄異株性・同株性,②胞子のうの形態- 球形・糸状・膨潤した糸状,③造卵器の表面の性質-平滑・ 棘状,④卵胞子の性質-造卵器に充満・非充満,⑤造精器 の性質-同菌糸性・異菌糸性およびそれぞれの器官の大き さの違いから種が特定できるようになっている(第1 図, 第2 図).菌株は有性繁殖器官を形成しない菌株があった場 合,雌雄異株性の可能性を考え,トウモロコシ煎汁寒天培 地(CMA)やジャガイモ・ニンジン煎汁寒天培地(PCA) 上で基準菌株と対峙培養をする必要がある(第3 図).しか し,特に森林や河川水など非農耕地から分離された菌株に は対峙培養でも有性器官を形成しない菌株が多く分離され る.これらの菌株はvan der Plaats-Niterink(1981)の検索表 に従うと,グループF,G,HS,P,T,および胞子のうの形態 のみで種として記載されている P. undulatum,P. carolinianum, P. elongatum に分けられる.ここで注意しなければならない 点は,上記3 種以外の各グループは必ずしも単一の種の集 まりではなく,複数の種の集まりであることである. Pythium 属菌には Phytophthora 属菌のような乳頭状突起の ある胞子のうを形成するP. helicoides や P. oedochilum のよう な種がある.Pythium 属菌と Phytophthora 属菌とは次の 4 つ の特徴から明確に区別できる.①Phytophthora 属菌は糸状, 膨潤した糸状の胞子のうを形成しない.②Phytophthora 属 菌は遊走子を胞子のう内に形成する.③Pythium 属菌は底 着生の造精器を形成しない.④Pythium 属菌は P. vexans を 除いてチアミン要求性ではない.

1 図 Pythium 属菌の無性器官:胞子のう,hyphal swellings. a P. spinosum; b P. intermedium; c P. undularum; d P.

dissotocum; e P. arrhenomanes; f P. aphanidermatum; g P. oedochilum.

a, b, c 球形胞子のう;c, f 球のう中での遊走子形成;d 糸状胞子のう;e, f 膨潤した糸状胞子のう;g 胞子のう の増殖

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培地上での菌叢形態も同定のために重要な性質である. CMA,PCA,ジャガイモ煎汁寒天培地(PDA)および 20% V8 ジュース寒天培地(V8A)が菌叢形態を観察するときに 用いられる.多くの種は特別な模様を呈しないが,ロゼット, 放射状あるいはキク状のような菌叢が見られたときには該 当する種は少ないので同定には重要な性質となる(第4 図). 生育の温度反応および速度も重要である.Pythium 属菌 は最適温度で一般に25°C であるが,P. aphanidermatum,P. helicoides,P. myriotylum のような 35°C ~ 38°C が最適生育 温度の高温性の種があり,同定に役に立つ性質である.また, 生育速度ではP. sulcatum や P. rostoratum のような最適温度 でも24 時間で 10 mm 以下しか伸長しない種があり,特徴 となる. 従来,以上のような性質に基づいてPythium 属菌は同定2 図 Pythium 属菌の有性器官:造卵器,造精器,卵胞子

a P. ultimum; b P. aphanidermatum; c P. irregulare; d P. periplocum; e, g P. arrhenomanes; f P. splendens; h P. rostratum.

a, b, e, f, g, h 平滑造卵器;c, d 棘のある造卵器;a, c, h 同菌糸性;b, e, f, g 異菌糸性;a, f, h 鋭角に曲がった造精器細胞;c, d, f 非充満な卵胞子;g, h 充満した卵胞子

4 図 PDA 上での Pythium 属菌の菌叢形態3 図 雌雄異株性の Pythium 属菌の性反応         矢印:性反応部位での有性器官形成

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Jpn. J. Phytopathol. 80 (Special Issue) Review for the 100th Anniversary.November, 2014 19 されていたが,実際に同定をすることは時に大変困難であ る.その原因には,雌雄異株性の種,雌雄異株性でもなく 有性器官形成能力のない菌株,形態的特徴および大きさの 種内変異,形態的近縁の種の存在がある.このため,同定 が間違った菌株があり,これが一層同定を困難にしている (Kageyama et al., 2005). DNA Barcoding 動物,植物では種を識別できる特定の 遺伝子の塩基配列に基づいて種同定を行う試みが世界的に 進められている(http://www.barcodeoflife.org/).この取組では, 塩基配列がA,T,C,G の 4 つの塩基から構成されている ので,これを生活用品や食料品などにつけられているバー コードに見立ててDNA バーコーディング(DNA Barcoding) と 名 付 け て い る. 菌 類 も 例 外 で は な く,Pythium 属菌や Phytophthora 属菌を含めた卵菌類では Robideau et al.(2011)

がミトコンドリアにコードされているcytochrome c oxidase subunit I(COI)遺伝子と核にコードされている rDNA ITS 領域がDNA Barcoding に適しているとの論文を発表した. COI の方が rDNA ITS 領域より種内変異が少なく,種の識 別能力もよいが,これまでの塩基配列データの蓄積は圧倒 的にrDNA ITS 領域の方が多いので,併用するとしている. 新しい種同定法 先に述べたように形態同定の難しさお よび新種の顕著な増加の状況では,これまでの同定法は実 用的ではない.そこで,塩基配列を調べることから同定を 始めることが試みられてきている.極端な場合,塩基配列 のみで同定して結果を出している例もある.塩基配列を調 べる領域は,DNA Barcoding で推奨されている rDNA ITS 領 域とCOI である.rDNA ITS 領域はユニバーサルプライマー を用いてPCR でき,COI は卵菌用のプライマーが作成され ている.プライマーおよびPCR 条件は DNA Barcoding の論 文(Robideau et al., 2011)に示されている.また,rDNA ITS 領域ではダイレクトシーケンス法では塩基配列が調べられ ないことがある.これは,Pythium 属菌は 2 倍体であるため 塩基配列に菌株内多型があることが原因で,このような 場合はクローニングを行う.P. intermedium,P. splendens,P. sylvaticum などの雌雄異株性の種でみられる.また,P. heli-coides は雌雄同株性であるが,菌株内多型が顕著であること が報告されている(Kageyama et al., 2007).得られた塩基配 列を使って相同性の高い種を調べるため,DNA データベース で検索を行う.国立遺伝学研究所のDDBJ(http://www.ddbj. nig.ac.jp/index-j.html)の相同性検索(BLAST)が,一般的に 使われている.塩基配列データのDNA 塩基配列データは世 界中で共有されているので,日本のデータベースを使って も世界中のデータを対象にして検索ができる.データベース 利用に際しては二つの注意点がある.一つは,検索結果は 相同性の高い菌株順にリストとして示されるが,相同性の 内容を確認する必要がある.100%の相同性がある塩基配 列であっても自分の検索に用いた塩基配列全体の相同性が 100%相同となっていない場合がある.特に,新種である場 合には一部の塩基配列が自動的に抽出され,その部分の相 同性が100%の菌株がリストの一番上に表示される場合があ る.もう一つの注意点は,検索塩基配列全体が100%相同性 がある菌株であってもその菌株の同定が間違っている場合 があることである.塩基配列をデータベースに登録すると き,データベース運用側は菌株の同定が正しいかどうかを 確認しない.したがって,検索結果リストの2 番目以降も 確認する.時々みられる例として,リストの1 番目と 2 番目 以降の種が異なっており,2 番目以降の種が圧倒的に多いこ とがある.この場合は,2 番目以降の種が同定の候補と考え る.しかし,2 番目以降色々な種が入り乱れている場合があり, このときは先に述べたDNA Barcoding の論文(Robideau et

al., 2011)を利用する.この論文で使われた菌株については

検索結果の菌株名の前に“voucher”と言う単語が付いてい る.論文の“Supporting Information”の Fig. S1 に分子系統 樹があるのでその菌株の信頼性が確認できる.論文はオー プンアクセスになっており,Pythium 属菌同定には必須の論 文である.さらに問題となる点は,何%の相同性があれば 同種とみて良いかである.これは種内多型と関係がある.P. ultimum のような種では種内変異が少ないが,P. helicoides や 雌雄異株性の種ではrDNA ITS の塩基配列は種内多型だけで なく菌株内多型もある(Kageyama et al., 2007; Li et al., 2010). この場合,分子系統樹を作成することで同じクレードに属 すれば同じ種と判断できる.

このようにして塩基配列に基づいて同定の候補を探索し, 候補種を前提にして前述した形態観察による検証を行う. 1981 年以前の種であれば van der Plaats-Niterink(1981)を 参考にするとそれぞれの種の形態的特徴,菌糸生育温度, 病原性など詳細に記載されている.1981 年以降に新種とし て記載された種の場合は原著論文を参照する必要がある. 同定における塩基配列利用の有利点 塩基配列のBLAST 検索あるいは分子系統解析により,形態同定では不可能で あったことが可能となった.(1)無性器官しか形成しない 菌株の同定:球形の胞子のうあるいは糸状胞子のうしか形 成しない菌株は雌雄異株性と考えられるが,これまでに雌 雄異株性の種は7 種しか知られていない.対峙培養で調べ ればわかるが,全ての種について2 つの性反応菌株を準備 するのは困難である.また,基準菌株を入手して対峙培養 しても菌株が古いと反応が弱く判定が困難である.rDNA ITS の塩基配列を調べることにより候補となる種が検索で

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き,新しい菌株間での対峙培養により有性器官を形成させ, 形態を観察することにより同定が可能となる.(2)雌雄異 株 性 以 外 の 有 性 器 官 を 形 成 し な い 菌 株 の 同 定:van der Plaats-Niterink の検索表によると球形の胞子のう(厳密には 遊走子を形成しないのでhyphal swelling)を形成するが遊走 子を形成しない菌株はGroup HS,球形の胞子のうを形成し 遊走子を形成する菌株はGroup G,乳頭状突起をもつ球形 の胞子のうを形成する菌株はGroup P,菌糸と区別が付かな い膨潤しない糸状胞子のうを形成する菌株はGroup F,膨潤 した糸状の胞子のうを形成する菌株はGroup T に分類され る.この他に有性器官を形成しなくても種名が付いている

ものがP. undulatum,P. carolinianum および P. elongatum の 3

種ある.また,これらの中には本来有性器官を形成するが, 形成能力を喪失した菌株が含まれている.Group HS や Group G に は P. ultimum(Kageyama et al., 1998),Group P に は P.

helicoides(Kageyama et al., 2003b),Group F には P. dissotocum

(Vasseur et al., 2005),Group T には P. arrhenomanes が含まれ ることが報告されている.(3)種複合体の存在の解明:P.

irregulare は球形の胞子のうを形成し不規則な数の棘を造卵

器にもつことで形態的には比較的容易に同定できる種で あった.Matsumoto et al.(2000)は,Randomly Amplified Polymorphic DNA (RAPD) PCR,rDNA ITS 領域の塩基配列 に基づく系統解析により,4 つの DNA 型(DNA type I, II, III, IV)が存在し DNA types III および IV は植物病原菌とし ては重要でないことを報告した.その後,Garzón et al.(2007) はDNA type II を P. irregulare に 隠 れ て い た 種 と し て P.

criptoirregulare として独立させた.(4)synonym の可能性:

Lévesque and de Cock(2004)は,rDNA ITS と LSU の塩基 配列に基づく系統解析において塩基配列がほぼ同じである ことからsynonym の可能性があるものがあり,再評価が必 要であるとしている.(5)形態的に似た同定困難な菌株の 正確な同定:P. graminicola とその近縁種は形態的に極め

て似ており,分子系統解析およびPCR 産物の Restriction Fragment Length Polymorphisms 分析(PCR-RFLP)により同 定の間違いが多くあることが明らかになっている(Kageyama

et al., 2007).

3.分離

選択培地 Pythium 属菌を土壌から分離するための選択

培地は,CMA に抗菌物質として pimaricin,ampicillin,rifam-picin,miconazol を添加した PARM 培地および PARM 培地 のpimaricin を nystatin に換えた NARM 培地が,現在多くの 研究者に利用されている(Morita and Tojo, 2007).

土 壌 か ら の 分 離 で は 希 釈 平 板 法 が 一 般 に 使 わ れ る が, Pythium の分離の場合,土壌希釈液は培地と混合するのでは なく培地上に塗る.また,土壌希釈液は水ではなく0.1%素 寒天培地を使うのも他の菌とは異なる.Pythium 属菌は卵胞 子等の生存器官は病気を起こして腐敗した根組織の残渣の 中に生息していることから,土壌希釈液を振とう後,上清 を取るのではなく,土壌が懸濁した状態にして培地に載せ る必要があるため軟寒天培地で懸濁する.土壌希釈平板法 で注意しなければいけないことは,Pythium 属菌の中には分 離困難な種もあることである.P. myriotylum がその例である. 希釈平板法で分離できなかった土壌でも罹病植物を植える と発病し,P. myriotylum が分離されたり(景山・宇井,1982), 捕捉法により分離できる(景山・宇井,1983).また,Pythium 属菌は通常同一土壌に複数種生存しており,生育の速い種が 遅い種を覆ってしまい,分離できない.例として,生育が 8 mm/24 時間ときわめて遅いニンジンしみ腐病菌 P. sulcatum がある. 土壌や水からの分離では希釈平板法の他に捕捉法がある. 上記のように分離困難な種にも適した方法である.Watanabe (1981)は,キュウリ種子を用いて日本の畑土壌中の Pythium 相を調査している.また,Watanabe et al.(2008)は養液栽 培における養液中の病原菌のモニタリングに最適な捕捉資 材を検討し,芝草やエゴマが適していることを報告している. 水からの分離ではメンブレンフィルターを用いた方法があ る.Hong et al.(2002)は 9 種類の市販メンブレンフィルター を養液中のPythium および Phytophthora 属菌の検出精度を比 較している.鈴木ら(2013)は,トマト養液栽培において Pythium 属菌をモニタリングするため養液を濾過したメンブ レンフィルターを選択培地に置床して菌を検出している. 4.検出 Pythium 属菌は生育が早く選択培地が開発されているの で,他の糸状菌に比較して検出は容易である.しかし,先 にも述べたように同一サンプル中に複数種生息しており, そのうち植物病原菌は1 種あるいは 2 種である.したがって, 選択培地上に出現するコロニーを全て純粋培養し同定を行 わなければならない.これには,多くの労力・時間・熟練 が必要であり,簡易・迅速な技術が強く要望されてきた. PCR の発達・普及は病原菌検出に応用されはじめ,Pythium 属菌においても利用されるようになった.P. ultimum の検出 が最初の報告(Kageyama et al., 1997)で,これまでに 22 種 で種特異的プライマーが設計され,植物体や土壌からの検 出に利用されている(Schroeder et al., 2013). Real time PCR による土壌,あるいは水の中の病原菌の定 量についても,P. aphanidermatum,P. helicoides,P. myriotylum

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14 種で報告がある(Schroeder et al., 2013).リアルタイ ムPCR の検出系は SYBR Green が多く,TaqMan probe を用い たリアルタイムPCR も使われている(Schroeder et al., 2006).

PCR 検出法の開発には技術的に解決しなければならない 2 つの点がある.一つは,特異的なプライマーの設計である.

Pythium 属菌は分子系統解析から rDNA ITS 領域は,先に述

べたように種に特異的な塩基配列があり,全ての有効な既 知種で塩基配列が調べられ,DNA データベースに登録され ている.したがって,容易に塩基配列を入手でき,特異性 のある部分をみつけることができる.さらに,Pythium 属菌 ではrDNA は核ゲノムに数十コピーあることが知られてい ることから(Martin, 1995),検出感度は単一コピーしかな い通常の遺伝子に対して数十倍ある. もう一つの技術的課題は環境サンプルからのDNA 抽出法 の確立である.日本で多く分布している酸性黒ぼく土壌は PCR を阻害するフミン酸のような物質が含まれており,通 常の抽出法では抽出DNA にこれらの阻害物質が混入して いる.従って,阻害物質の除去が必要であり,Kageyama et al.(2003a)は,土壌伝染性植物病原菌の PCR 検出のため の効率が高く,純度が高いDNA を抽出することに成功した. その後,Li et al.(2010)はさらに簡易な抽出法に改良し, リアルタイムPCR による森林土壌中の P. intermedium の定 量検出を行った.また,この抽出法はマルチプレックスPCR による畑土壌中のP. aphanidermatum,P. helicoides,P. myriot-ylum の検出(Ishiguro et al., 2013)や P. graminicola とその近

縁種の検出(Asano et al., 2010)に適用されている. 近年,PCR のような特別な機器や純度の高い DNA を必 要とせず,一定の温度で1 時間以内に結果が得られる loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法が注目されて

いる.Pythium 属菌では P. aphanidermatum の検出に開発され, 感度は10 fg と高く,罹病トマト根を蒸留水中で振とうした ものを鋳型として検出に使えることが明らかになっている (Fukuta et al., 2013). この方法は農業生産現場での診断に適 用でき,これからの技術として期待される. 5.生態研究に向かって 植物病原菌の伝染経路を明らかにするため,土壌や水な ど環境サンプル中のPythium 属菌の検出・定量に PCR が用 いられている.Ishiguro et al.(2014)は,カンゾウの苗立枯

病菌P. aphanidermatum,P. myriotylum,P. spinosum の PCR 検

出により第一次伝染源は作付け前から圃場に生息していた ことを明らかにした.Kernaghan et al.(2008)はショウガの 圃場土壌中のP. irregulare の定量にリアルタイム PCR を用 い病害予防診断への可能性を述べている. また,罹病植物や環境サンプル中に生存する病原菌の類 縁度分析や個体識別により伝染経路を明らかにする試みも なされている.分離菌株の類縁度から,もし菌株同士が全 く同じクローンであることがわかれば,それぞれの分離源 にいる菌は同じものであることが分かる.菌株の類縁性 や 個 体 識 別 に はRAPD PCR,Amplified Fragment Length Polymorphism(AFLP),Simple Sequence Repeat(SSR) 分 析などが開発されてきている.Lee and Moorman(2008)は,

P. aphanidermatum,P. irregulare,P. cryptoirregulare について

SSR マーカーを増幅するプライマーを設計している.また,

P. helicoides では SSR マーカーを増幅するためのプライマー

の効率的な設計法が開発されている(Yin-Ling et al., 2009).

Pythium 属菌の中で唯一の人間の病原菌である P. insidiosum

のSSR マーカー増幅プライマーが設計され,個体群構造解 析に使われている(Supabandhu et al., 2007).Lee et al.(2010)

は,P. aphanidermatum について米国ペンシルバニア州の温 室における個体群構造をAFLP と SSR マーカーを用いて調 べ,遺伝子型は宿主とは関係なく,分離地域と関係すること, mefenoxan 殺菌剤が遺伝子型選抜に影響していることを明 らかにした. P. helicoides は 1996 年に岐阜県でバラ根腐病菌として報告 されたが(Kageyama et al., 2002),この種は米国でインゲン の 莢 腐 敗 に 関 係 す る 新 種 病 原 菌 と し て 報 告(Drechsler, 1930)されて以来ほとんど報告がなかった.日本において はこのとき初めて見つかった種であった.しかし,これ以 降バラだけでなく,カランコエ,キクなど他種の作物に病 気を起こすことが報告され,発見場所も広範囲にわたって いる(景山,2011).これらのことから,本菌は本来生態系 を維持する腐生菌として生息してきたが温暖化のような環 境変化や養液栽培など農業生産形態の変化,新しい作物の 海外からの輸入などの要因が病原菌として機能するように なったと考えられる.したがって,自然環境中のPythium 相を調べることは,将来の病原菌を予測する上で重要なテー マである.上記の技術が適用されれば,これまでにない多 くの知見を得ることが可能である. 分子生態学的手法の適用によりPythium 属菌の生態の新 しい世界が見え,病害防除戦略確立への大きな貢献となる ことが期待される. あとがき Pythium 属菌だけでなく多くの植物病原菌で分類体系の見 直しや生態の解明が急速に進んできている.特に土壌伝染 性植物病原菌は取り扱いの難しいものとされてきたが,手 法の開発により飛躍的に取り扱いやすいものになってきて

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いる.より多くの研究者がPythium の生態研究に携わり,効

率の良い環境順応型の病害対策の確立に繋がることが望ま れる.

用 文 献

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