中学校数学における教育的アナロジーを用いた指導法の研究
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(2) はじめに アナロジーは,未知の状況において,既知の類似した状況を利用する認知活動であ る。電磁気学や原子構造など,自然科学の様々な分野において新たな理論が形成され る際に,他の理論からのアナロジーが大きな殺害Ilを果たしてきた。. また,アナロジーは様々な学習活動にも利用されている。筆者自身,中学生の時, 理科の学習における電気回路の「電流」と「水流」のアナロジーや,数学の学習にお ける「等式や不等式の性質」と「天秤の釣り合い」のアナロジーに出合い,その例え 方の巧みさに,感銘を受けながら説明に聞き入っ.たことを記憶している。. 数学教育においても,アナロジーは数学学習および数学的間題解決に重要な役割を 果たすことが様々な研究において指摘されている。さらに,近年,アナロジーは,既 得の知識を実生活へと「つなげる力」としても重要視されている(細谷2011)。. 筆者の20年という教職経験を振り返ってみると,中学校数学の学習指導において,. 生徒が概念理解に困難を示したり,似ている概念同士を混同して誤った問題解決をし たりする場面に数多く出合ってきた。また,高校入試の弊害と言うには大げさかもし れないが,生徒の数学学習に対する意識が,概念理解のないまま単に公式や問題の解 決方法を暗記すればよいといった傾向にあるのを感じる。教育者である筆者自身も「入 試を意識した学習指導」へと陥ってしまいがちであったという反省もある。. このような現状の中で,筆者は,上記のようなアナロジ』の持つ機能の偉大さに大 変魅力を感じ,中学校数学の学習指導にアナロジーを利用する方策を探ることを考え た。また,教師自身がそういった学習指導を行うことで,生徒のアナロジー思考を高 め,数学の学習内容の本質的な理解だけでなく,社会や日常生活においても既得の知 識を活用していく方へとつなげていくことができるのではないだろうか。. この6月に参加させていただいた全国数学教育学会広島大会において,大変印象深 い言葉を聞く機会があった。それは,「数学教育の研究に関して,理論は実践に基づき,. 実践は理論に基づいていることが大切である」という内容であった。アナロジーの持 つ無限の可能性(理論)を,中学校数学の学習指導(実践)を通して探っていくことで,. 生徒が,「数学」という「理論」を「実生活」という「実践」へと活かしていけるよう な,そういった学習の構築を目指したい。.
(3) 目 次 はじめに. 第1章 中学校数学教育の現状と本研究の目的・・・・・・・・・・…. 1. 第1節 中学校数学における学習指導の課題点・」・・・… 一・…. 1. 第2節 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 4. 第2章 数学教育にアナロジーを用いた先行研究・・・・・・・・・…. 5. 第1節 概念形成に関わる研究・・・・・・・・・・・・・・・・…. 5. 1 代数和の比喩的理解 2 ターゲットのソース化とアナロジーの不可避性 3 アナロジー一による数学的な思考. 4 類似探究授業 第2節 問題解決に関わる研究・・・・・・・・・・・・・・・・…. 14. 1 問題解決スキーマと文章問題の類似性 2 数学指導における例題学習 3 アナロジーを用いた指導法 第3節 比喩・メタファーに関わる研究・・・・・・・・・・・・…. 29. 1 数学教育に関わるメタファーの役割とその有効性 2 教授過程におけるメタファーの重要性. 3 概念メタファ」 第3章 教育的アナロジーを用いた実験授業・・・・・・・・・・・…. 36. 第1節 実験授業の目的と概要・・・・・・・・・・・・・・・・…. 36. 1 実験の目的 2一実験の概要 3 授業の内容 第2節 実験授業の結果と分析・・・・・・・・・・・・・・・・…. 48. 1 分析①(実験群における事前テストと事後テストの正答率の比較) 2 分析②(事後テストにおける実験群と統制群の正答率の比較) 3 分析③(生徒の授業に対する意欲や態度) 第3節 実験授業の考察・・・・・・・・・・… ’.’’.’’’’. 1 教育的アナロジーを用いた指導法の有効性 2 教育的アナロジーを用いた授業に対する生徒の意欲や態度. 56.
(4) 第4章 教育的アナ1コ・ジーを用いた指導法の展開・・・・・・・・・… 58. 第1節 学習指導への教育的アナロジー利用のタイプ・・・・・・… 58 第2節 教育的アナロジーを利用した指導の可能性・一・・・・・… 60 1 理解のためのアナロジー利用 2 対比によるアナロジー利用. 第3節 教育的アナロジーを利用した具体的指導の提案・・・・・… 70 1 代数和の理解 2 標準的な平均(相加平均)と調和平均. 第5章 本研究のまとめと.今後の課題・・・・・・・・・・・・・・…. 77. 第1節 本研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 77. 第2節 今後の課題・・・・・・・… ’’’’’‘’’’’’’’’. 79. 1 指導が有効に機能する指導箇所と教材の開発 2 指導効果をさらに高めるキューの改善及び工夫 3 生徒の自主的なアナロジー利用を促す授業実践 おわりに. 引用・参考文献 参考資料.
(5) 第1章 中学校数学教育の現状と本研究の目的 第1節.中学校数学教育の現状及ぴ学習指導の課題点 平成24年度より完全実施される新学習指導要領において,数学科の目標が「数学 的活動を通して」という文言から始まるものとなった。また,その内容においても「数. 学的活動」が盛り込まれるという画期的な変更と共に,その重要性がクローズアップ されている。数学的活動は次の三つの活動からなっている。. ①既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだし,発展させる活動 ②日常生活や社会で数学を利用する活動 ③数学的な表現を用いて,根拠を明らかにし筋道を立てて説明し伝え合う活動 ところで,小学校算数とのつながりという点から中学校の数学教育を考えると,中 学校数学における学習内容は小学校算数に比べて,より数学的で抽象化された概念と なる。小学校算数であれば,具体物や半具体物を用いて操作活動を行うといったよう に作業的・体験的な活動を通して学習する概念のイメージをつかみやすくすることが できる。しかし,中学校数学においては,生徒の「内的活動」によって,学習内容の 概念理解を図られることが多くなる。このことにより,学習する概念の理解に戸惑う 生徒が増え,r中一ギャップ」と呼ばれる要因の一つにもなっているように思われる。. 次の図は全国学力・学習状況調査における算数一数学に関する質問項目の中の三つ. の項目について,小学校6年生時から中学校3年生時への変容をグラフに示したもの である【図1−1】。回答は,「当てはまる」「どちらかと言えば当てはまる」「どちらか. と言えば当てはまらない」「全く当てはまらない」の四つから選ぶものであり,グラフ の数値は「当てはまる」を選んだ児童・生徒の割合(%)を示している。. 1.
(6) (%). 全国学力・学習状況調査 生徒質問紙による回答結果集計より. 80 70. 60 50. 40 30 20 10 0. 業 だ撃 ま容 思学 すは いの かよ ま勉 内. と数. 、 碓. 切 【図1−1】. まず,「算数・数学の授業は好きですか」という質問項目については,35.6%から 27.3%と,小学校から低い割合を示しており,中学校になってさらに低くなっ一でいる。. また,「算数・数学の授業内容はよく分かりますか」といった項目については,41,3% から28.3%とlOポイントを超えて下降している。さらに,「算数・数学の勉強は’大切. だと思いますか」という項目については,70.7%から44.9%へといったように,数学 の必要性を感じる生徒の大幅な減少が例える。. こういったことは,先に述べたように,中学校数学における学習内容の概念理解へ の困難性が大きく影響しているように思われる。また一方では,同調査において「数 学ができるようになりたいですか」という質問項目に対して,中学校生徒の75,8%が 「当てはまる」と回答している。生徒は,数学が“できるようになりたい”と望んで いるのである。. 以上のこと.から,中学校数学の学習指導において,生徒がより良く学習内容を理解. できるようになるために,抽象的な数学概念への架け橋となるものが必要になってく るのではないだろうか。これが第一の課題点であると筆者は考えている。. また,中学校数学の学習において,パターンや形式を単に“覚える”といったよう に,深い思考を伴わずに覚えた公式や性質などから問題を処理していく学習がなされ. ている傾向が見られる。同調査において中学校3年生に対する「数学の授業で公式や.
(7) きまりを習うとき,その根拠を理解するようにしていますか」という質問項目におい て,「当てはまる」と回答したのは30.5%の生徒であった。この結果からも,生徒が,. 公式や性質に対する根拠の理解がないままに,深い数学的思考も伴わない形式的な処 理で問題解決を行ってしまいがちな傾向が例える。そういった学習のもとでは問題解 決の際に,例えば,文章題で表面上の文脈に惑わされるあまり,数学的な構造に気付 かずに誤った解法を用いてしまったり,類似性を持った二つの概念の本質的な違いに 気付かずに,両者を混同する間違いを起こしたりすることが多く見られるようになる であろう。こういった誤りは,全国学力・学習状況調査の数学A間題の誤答分析から も例える。中学校数学教育において,そういった問題に対しても何らかの対策が必要 であると考える。これが筆者の考えるもう一つの課題点である。. 以上の二点が,中学校数学教育における幾つかの課題点の内,筆者が特に注目する 内容である。.
(8) 第2節I本研究の目的 数学教育において,アナロジーは数学学習および数学的問題解決に重要な殺害■」を果 たすことが指摘されている(ポリア,G.i954,國岡2007.2009)・。. 前節において中学校数学における学習指導の課題点として二つを提示した。それは,. 中学校数学における様々な学習内容の中には,生徒にとって,新たに学習する概念の 形成が困難なものや,数学的構造に対して表面上の紛らわしい類似から,異なる概念 や解法を混同してしまうものがあるということである。. そこで,筆者は,その課題点を改善すべき対策の一つとして,中学校数学の学習指 導にアナロジーを活用する方策を研究していきたいと考えた。本研究の目的は次の二 点である。. 1.中学校数学において,アナロジーを利用した指導の有効性と,授業としての実践可 能性を明らかにする。. 2.中学校数学の学習内容に対して,アナロジーを有効に活用できる指導箇所と教材を 探る。. 本研究では,まず数学教育にアナロジーを取り入れた先行研究の幾つかを概観しそ れらを分類し整理する。そして,その中でもRich1and,LとMcDonough,I(2010)が行 った,アナロジ』を取り入れた指導法に関する研究に注目する。そこで示されたのは,. アナロジーを利用した教育的支援である。筆者は,上記のような生徒の学習上の困難 点への対策の」つとして,Rich1and,Lらがアメリカの大学生を対象に行った実験授業 を基に示したアナロジーを用いた指導法を,中学数学の授業に取り入れることを考え,. その可能性を探る。そのために,Rich1and,Lらの研究を参考にした実験授業を,中学 校2年生を対象として実施し,その有効性及び実践可能性について考察する。最後に,. その結果に基づいて,中学校数学においてアナロジーを有効に活用できると思われる 幾つかの授業教材と,アナロジーを用いた二つの具体的指導の提案を行う。. 4.
(9) 第2章 数学教育にアナロジーを用いた先行研究 第1節概念形成に関わる研究 1.代数和の比喩的理解 岩崎・岡崎(1997)は,Davis(1984)が学習における比職的理解の重要性を次のように. 述べていることを挙げて,数学教育における比倫的理解の必要性を述べている。 《学習は,本来,」比倫的(metaphoric)になされる。すなわち,新しい概念に対. する内的表象を作るときには,既有の概念の内的表象を取り出して,それを 必要に応じて修正している。》. 彼らは,算数から代数の移行に関して,文字や記号以前の代数的内容である「代数 和」の学習の重要性を述べる中で,代数和の学習には,反数と逆算の概念が含意され ているとしている。しかし,学年段階からすると反数と逆算について数学的な概念形 成を図ることが難しいため,反数・逆算の概念を導くような比職によって代数和の理解 が図られるとして,比倫的理解の必要性を示している。. 例えば,r−3小さい」とr3大きい」が同値であることを理解するためには,r東 西の移動」や「金銭の授受」といった動的な文脈が通常用いられる。「5一(一3)」は,. 次のような二つの比喩的な理解が可能であるという。一つは,ある距離進んで,西に. 3行くと,東に5進んだことになるときに,ある距離が何であるかを求めることであ る。もう一つは,「西に進む」と対立的な場面に読み直すことである。その結果が「東 に進む」,つまり「正の数を加える」ということになると述べている。 そし下,「対立的な場面に読み直すこと」に関して,Vergnaud,G.(1982)による,関. 係計算の比較の認知スキーマ【図2−1】を提示している。. 【図ア】を「Aはα小さい」あるいは「B はα大きい」と読む。それゆえ「Aは一3小 A A A A さい【図イ】」は,無論「Aは3小さい1図ウ】」. でないから,とすると「Aは3大きい1図工】」 α 一3 3 3 となる。比較数として負の数を許すとともに,. それを,大小関係を逆にしてこれまでの正の… [1] 数での比較と同値とみるものである。このご. 【図ア】 【図イ】 【図ウ】 【図工】. とからr−3小さい」とr3大きい」とは同 値であることが解釈でき,r負の数を引くこと」 【図2−1】 を比較に基づいて解釈することができる。.
(10) 岩崎らは,このような比喩的理解・活動的理解を通して,生徒は反数と逆算の意味 の構成を伴いながら代数へと誘われるとしている。つまり代数和が単なるアルゴリズ ムではなく,生徒にとって真に算数から代数へと移行する結節点となるためには,比 倫的理解は不可欠であると主張しているのである。. 2.ターゲットのソース化とアナロジーの不可避性 國岡(1995)は,算数・数学の学習内容は,積み重なって発展していくものであるこ とを,アナロジーの観点から捉えている。. 《算数,数学科の学習内容は,その多くが抽象的な概念や形式的な手続きであ. り,それらを直接,学習者に提示して見せるわけにはいかない。そこで,多 くの指導場面では,具体的状況や具体物を使った操作的活動あるいは既習内 容に対する反省的思考を学習者に行わせることによって,新しい学習内容の 導入が行われている。》(國岡1995). この具体物や既習内容というのは,学習者にとって「よく知っているもの」であり,. 「よく知っているもの」を足掛かりにして新しい内容すなわち「よく知らないもの」 を理解していくと捉えることができると,國岡は述べている。. さらに,その既習内容である「以前に学習した数学的概念」が「よく知っているも の」としてみなされるのは,どのような状態を示すのかを明らかにしている。. 彼は,それを「ターゲットのソース化」と呼び,タ』ケットがソ」スから切り離さ れ,新しいアナロジーのソースとなる段階として捉えている。そして,Sfard,A(1991). の理論における概念発達の三段階(内面化・凝縮化・具象化)において,内面化から具. 象化に至る概念の変容過程を,ソ」スからタ」ゲットヘの写像という枠組みで捉え直 している【表2−1】。「概念が具象化された」状態が,すなわち「ターゲットがソース. 化された」状態であると捉えることができるとしている。 【表2−1】 内面化. ソースからターケットヘの写像が行われ,ターゲット(新しい概念)の意味がソ. ースとの対応関係によって納得される段階 凝縮化. 意味付けされたターゲットに対する操作がソースヘの参照を介しながら行わ れ,その参照の度合い(ソースヘの依存の度合い)が徐々に減少していく段階. 具象化. ソースヘの参照なしにターゲットだけの操作が自在となり,しかも,そのタ ーゲットを新しいアナロジーのソースとして使用できる(ターゲットがソース 化される)段階.
(11) また.國岡(1996)は,アナロジーが数学の学習指導に果たす役割の重要性を,次の 二点について具体的事例を通して例証することにより明らかにしている。 ①アナロジーが,実際に数学の学習指導に使用されている。 ②アナロジーは,数学の学習指導にと.って不可避である。. 國岡は,次のように述べ,学校数学の学習指導を演繹だけを用いた説明方法で押し 進めることは不可能であることを示唆している。 《演繹,帰納,アナロジー(類推)という三つの推論方法の内,その推論結果の. 正しさが保障されるのは,演繹だけであるが,学校数学の学習指導において とられている説明方法の多くは帰納とアナロジーを利用したものであること に気付く》 (國岡1996). そして,アナロジーの認知科学における一般的な定義に基づいた四つの条件を定め た,「アナロジーの指標【図2−2】」を設け,この条件を満たすいくつかの事例につい て,上記の①②の検証を行っている。. M1:2つのシステムA,Bが存在する。. M21AとBとは,本来的に異なる。 M3:AとBの間に,何らかの類似性がある。. M41Aの情報がBに転移される。 上の条件のすべてが満たされた場合,アナロジー. であると判断し,その場合,Aをソース,Bをタ ーゲットと呼ぶ。. 【図2−2】アナロジーの指標 その中で,中学校における「負の数の乗法(乗数が負σ)場合)」の説明【図2−3】が 挙げられている。..
(12) (十2)×(十3):十6 (十2)×(十2)=十4 (十2)×(十1):十2. (十2)×0=0 積は,2ずつ小さくなっていく。. このようにしていくと,次のように なると考えられる。 (十2)×(一1)=一2 (十2)×(一2)=一4 (十2)×(一3):一6. 【図2−3】. ここでは,乗数が非負の整数の場合に見られる,「2ずつ小さくなる」という計算パ. ターンが乗数が負の場合にも成り立つだろうという推測が行われている。これは,ま さしく推測であり,この結果の正当性を確かめるには,形式不易の原理に従って自然 数から整数へ拡張することが理解できなければならず,中学校で指導することは実際 的ではないと,國岡は述べている。. また,この事例は,次の【図2−4】のように,「アナロジーの指標」で示した四つ の条件を満たしていることを示すことで,r①アナロジーが,実際に数学の学習指導に 使用されている」ことを例証している。. M1:r正の数の乗法」とr負の数の乗法」という2つのシステ ムが存在する。. M2=「正の数の乗法」と「負の数の乗法」とは,(この時点の生 徒にとっては)本来的には異なる一。. M3:乗数が1すっ小さくなっていくというパターンが共通する など。. M4:「負の数の乗法」の場合の計算結果も2ずつ小さくなるこ とが,r正の数の乗法」から推測されるなど。 【図2−4】. さらに,負の数の演算指導には,どうしてもこの事例のようなアナロジーを利用し た説明方法に頼らざるを得ないとして,「②アナロジーは,数学の学習指導にとって不 可避である」ことも示している。.
(13) 3.アナロジーによる数学的な思考 アナロジー(ana1ogy)は,類比,類比的推論(類推)どちらとも訳される。「類比的推. 論のことを簡単に類比,類推とよぶことがある」(岡田2000)とあるように,類比は類 推を言い換えたものとして用いられることがある。 『算数教育指導用語辞典』(日本数学教育学会1984)によると,類比的推論(類推)が,. 次のように定義されている。. 《考察の対象としている2つの事柄の類似性に着目して,既知である一方の対 象が成り立っ事柄から,未知なる他方の対象についても成り立つであろうと 推論する。》. 一方,G.ポリア(1959)は,類比の定義に関して,次のように述べている。. 《2つの系は,もしそれらがそれぞれの部分の明白に定義できる諸関係におい て一致するならば類比である。》. 田村(2011)は,類比の定義について,G.ポリア(1959)の記述を用いることで類推と. 区別して扱っている。彼は,類比を用いることにより,数学的な見方や考え方が豊か になり,数学的な思考力を育てることにつながると捉えており,数学教育において類 比を用いることの有効性を主張している。そして,数学教育に見られる幾つかの具体 的な類比の例を挙げて,どのような効果が考えられるかを述べている。 その中で,ここでは二つの例を挙げる。一つ目は,「作図における類比」である。. 次の【図2−5】∼【図2−7】は中学校第1学年において学習する作図で,それぞれ 「角の二等分線の作図」「線分の垂直二等分線の作図」「直線外の1点から直線に垂線 を引く作図」である。. 9.
(14) ①角の二等分線の作図. ②線分の垂直二等分線の作図 竈 /. c \. .蓬. 糸 竃. o ⑪ 竃. ○. ①∠臭。違例獲黛。を熱心と徹、湾滋鋤・き婁運. 鋤§. ◎A・㈹勤郷鈍、跳するも. ⑳鰍紬鰍鰍輝脇く甲 盛倣鮒燃締粥鰍、鯛蜜榊㍑榊. ⑧蒙黛。紗紬としで調弧鋤1く拮1靴蔓縦をも績 隅藪を笈旗逼豪噂裕姜むて瀞く曲. く..。. ⑧後での調滋の董戴を跳ば、㈹繍燃由 ⑧鰍(脈納峻隅蟻舳練の焚、鰍雪線㌘織ぷ、. 【図2−6】. 【図2−5】. ③直線外の1点から直線に垂線を引く作図. 【図2−7】. これらは,それぞれ異なった図形を作図しているが,コンパスの動きはどれも,「た. こ形を決める頂点を作っている」と見ることができる。また,これらの作図で求めら れているものは,「たこ形における対称の軸」となっている。このような点において「明. 白に定義できる諸関係」が」致するので,これらは類比であると言えると田村は述べ ている。. 二つ目は,「グラフ理論的な類比」の例として挙げられているものである。次の二 つの図(【図2−8一(ア),(イ))は,一見どこにも類比が見られないように感じる。. 10.
(15) (ア). (イ). 【図2−8】. しかし,【図2−8一(ア)】から「迷路の平面図として,外側から出発して内側へと 向かう経路」を考えて,【図2−8一(イ)】から「左から右にたどる経路」を考えると, 【図2−9一(ア),(イ)】のように言己号をつければ,どちらの図もOからKに向かう経. 路は,rO→A→BorC→D→EorF→G→Hor1→J→K」となり,グラフ理論的に考える と同じになるという関係において類比になると,田村は述べている。. (ア). き 養 制 俊 繁. J. 菱 ◎ A. c 芦. 査. (イ). 【図2−9】. 11.
(16) 田村は,生徒が上記のような類比の視点を持つことによって,次のような数学的思 考力を高める効果があることを主張している。それは,今まで異なるものとして見て きたものに対して,関連性が生まれ統合的な見方ができるようになるということと,. 一つの対象だけでは見えていなかったことも,それと類比な対象と合わせて再び考え 直すことで,もとの対象に対して新たな見方ができるようになるということである。. 4.類似探究授業 崎谷ら(2004)は,類似性の認知メカニズムを基に,概念構成を目的とした「類似探 求授業」を考案している。「類似探求授業」とは,幾つかの対象を“似ているもの”と “似ていないもの”に分類することで,“似ているもの”に共通した類似性を認知する 思考活動を通して,児童・生徒が主体的に算数・数学を構成する授業である。. 例えば,二等辺三角形の概念形成を目的とした「類似探求授業」の場合,初めに一 つの二等辺三角形を提示する。続いて,似ているものとして別の二等辺三角形を,似 ていないものとして不等辺三角形を提示し,どこが似ているかを児童に考えさせる。 さらに,幾つかの三角形を提示し,似ているものと似ていないものに分類していく。. このようにして,似ている仲間に共通した「二つの辺の長さが同じ」という類似性を 児童自身に認識させていく。こうした類似性を自分で認識することができた児童は, 二等辺三角形の概念を自ら構成しだということになる(崎谷地2004)。下の【図2−101 は,その最終的な板書例である。. 【図2−1O】. 12.
(17) こうした類似探究授業を様々な教材で実践した結果,児童の学習意欲や概念構成に おいて正の効果をもたらすことが報告されている(崎谷地2005)。 また,川下(2005)は,中学校数学においても幾つかの教材を考案している。次の【図. 2−111は素数の概念形成を目的とした類似探究授業の最終的な板書例である。まず. 初めに,素数11を提示する。続いて,似ているものとして3,5,7を,似ていない ものとして4,6,8を提示してどこが似ているのかを考えさせる。ここで生徒は,r偶. 数と奇数を分けている」と答えることが予測されるが,次に9が似ていないものに入 ることから意外性を感じるだろう。生徒は次第に,似ているものに共通した「その数 の持つ約数が1とその数自身のみの二つである」という素数の定義に気付いていくと 考えられる。. 11 似ている. 似ていない. 357. 468. 【図2−11】. 13.
(18) 第2節 問題解決に関わる研究 1.問題解決スキーマと文章問題の類似性 崎谷(1995)は,VanLehn(1991)やHo1yoak(Gick&Ho1yoak,1980.1983;Ho1yoak. 1984)らの先行研究を基に,問題解決で有効に機能する知識の」端としての問題解決 スキーマに焦点を当て,問題解決スキーマを生徒に構成させるための手立てを提言し ている。. 崎谷は,次のような二つの問題を用いて,問題解決スキーマとは何かを説明してい る。. <問題1> <問題2> あるプールに水を入れるのに,細いホ ある土地をたがやすのに,大きなトラク. ースでは6時間,太いホ』スでは3時 ターでは4時間,小さなトラクターでは 間かかります。 6時間かかります。 両方のホースを同時に使うとこのプー 両方のトラクターを同時に使えば,この. ルに水を入れるのに何時間かかります 土地をたがやすのに何時間かかります か。 か。. 問題1と問題2は問題の文脈は異なるけれども構造が類似している。問題1を解け る生徒の中には,問題2も解ける生徒もいれば,解けない生徒もいる。解ける生徒は,. 問題文脈にとらわれない抽象的,一般的な,問題構造に着目した解決への知識を持っ. ていると述べている。この知識を問題解決スキーマと呼び,問題1と問題2の問題解 決スキーマを,次のように示している。. それぞれの者がある作業をするのに必要な時間がわかっていて,全員でその作業 をするのに必要な時間を求めるには,その作業全体を一1とおき,それぞれの者が 1時間にする作業の害■」合を求め,それらを加え,1をそれでわればよい。. 崎谷は,問題解決指導における,問題解決スキーマの重要性を次のように述べてい る。. 《問題とその解決手順を抽象化,一般化した「問題解決スキーマ」が問題解決. で有効に機能することは明らかであり,こうした知識を生徒に構成させるこ とが問題解決カの向上にっながろう。》 14.
(19) 二つの類似した問題の間に共通する本質的なものを探り,既知の問題から未知の問 題へと転移させていくという点で,アナロジーとの関わりが深い研究といえよう。 また,崎谷(1996)は,文章題における類似問題を,問題場面と解法の違いという観. 点から次のような四つの種類に区別し,その例を【図2−12】のように示している。. ・・. 竭闖齧ハも解法も同じ. 同相問題・. ・・. 竭闖齧ハは同じだが解法は修正が必要. 同型問題・. ・・. 竭闖齧ハは異なるが解法は同じ. 同類問題・. ・・. 竭闖齧ハが異なり解法も修正が必要. 同等間題・. r満杯問題」 あるオイルタンクを満杯にするのに,細いパイプでは6時間, 太いパイプでは3時間かかります。両方のパイプを同時に使うと,このオイル タンクを満杯にするのに何時間かかりますか。. く「満杯問題」の類似問題> .鱗嚢. 繁稼る=. 蹴じ. .場灘. 一111愛書籍繊. 嗣じ. あるプ㍗ルに水蜜入純る酬ζ,綴 い添一スでは1窪鰭溺,幾い添一 スで熔言跨鰯かかリ譲す。鰯猪⑳ 殊一スを鰯跨に鍾誕,こ⑳プー. 鰯稽蘭鶴) あ喜;泳溜蜜灘榊訪る⑳に,.鰍峨 竢曹ナ1鯉。鰭鰯,放い水念書㌘は 11籍鯖鰯かか携家業螂譲た旅熔,瀦榔. 鉛水が鈍鋳鰯㌘劉菱な惑翻禽で鍾 鰯き牝蜜す旭.水蜜後篇し旗が島,爾虜. 〃こ氷を入れるのに個鰭鰯かか≡様書すか曲. @水艦書1鷲ごゆ稼機嚢瀦馴孔ぷラ ニ貧槻嫁・衝跨溺秘が携蜜すか。 鰯一室鰯劉. 嚢稼る. 綱1類=鰯郷. N義一鐘蜜1書攣.総策慈⑳紅,減劉窪一. 鱈慈救難蜜繊すの・に,秘慈海紅箏クター.. 寿簿爾,漠翻紬鋳鰯・か秘1劣濠す珀. 剣鯛瞬織。一焚き懇・膚クター聯綱 h鰯か1麹吻湊す邊磨窓溶ト管クターで. 竃人が機宛して鐘窪鍾牝蟻緑鰭. 閥かか栂すか臼. 望跨簡織む怒繁、爽さ繊ト管クター亀. 狡え様,金翻⑳堂熔蜜繊す酬こあと 徳跨欄かか饗蜜労が。 【図2一一12】. 「満杯問題」と同等問題,同相問題には,「二つの管を使って容器を満たす」と抽 象化できる表面的な類似性があり,これらの問題場面は同じであると捉えられるが, 同型問題,同類問題にはそのような類似性はなく問題場面は異なっている。しかし, 三つの問題の対応する要素である「パイプ」「人」「トラクター」を「者」,「オイルタ 15.
(20) シクを満杯にする」「壁を塗る」「土地を耕す」を「作業する」と抽象化することによ って,これらの問題の構造的な類似性が認識される。. 崎谷は,このような構造的な類似性の認識に至れば,「満杯問題」の解法が他の類 似問題ヘアナロジー的に適用されるとしている。. 文章問題を解く際,今解こうとしている問題と類似した問題を思い出すことが必要 な場合がある。類似性に関する文章問題の分類を行うことは,生徒に対.して問題解決 をより上手く行えるような問題や知識を示すことにっながるだろう。. 2 数学指導における例題学習 中学校の数学の授業においては,新しい学習内容を学ぶ際に,教師がまず例題を提 示して,その後,例題に類似した練習問題を生徒に考えさせるといった授業形態がと られていることが多い。ここで,例題の解き方を理解し,それを基にして練習問題を 考えていくと捉えると,このような例題学習はアナロジーを利用した学習法と見るこ とができるであろう。. 中(1999)は,「例題」を「問題,解法,答から構成され,教授者が学習効果を上げる. ために学習者に提示するもの」と定義し,中学校数学の学習指導における「例題」に 焦点を当てて,効果的な例題学習指導についての考察を行っている。 彼は,その中で,文章題に関する例題学習において「下位目標」を明示することが,. その後解こうとする類似問題への問題解決に有効であることを,Catrambone(1994) の先行研究と,中学生を被験者に行った調査から示している。「下位目標」とは,全解. 法を学習する際,途中の指針として利用するために,最終目標に向けた幾つかの段階 を示して解法の構造を表現したものである。 次に示すク)は,一中が作成し,その調査において使用した,連立方程式の文章題にお. ける四つの例題である。順に,「下位目標例題【図2−13】」,r自己説明例題【図2− 14】」,「教科書例題【図2−15】」,r穴埋め例題【図2−16】」を挙げている。尚,自己. 説明例題と穴埋め例題は,空欄に答えを記入したものを,5分後に被験者に配布して いる。. 16.
(21) 次の鯛懸をしっかり学習し溶きい。 あとで、この例題とよく似た鰯懸を懐いてもるレ)表す。. 一夜藝 是重」 1奉一.郷◎潭の憾畠.拳1漆鋤◎嗣めゆ轡凄、あわ慰一て獅漆貿うピ. 代金が跳OO内紅旗・った。 滅ら登ズ・奉、ゆりをツ奉貿った。とレて。慈宜方彊或蜜つくり、そ. れぞ籾の本数室求めよ。. ζ国・綴レエ姜. 董闘趨の漠標】 ば蔭の漆敏一と ゆゆ・⑳本数慈. 滅らとゆりの奉数 の鰯係登方程式に. 噸標互). する。. 簸並涛程.・戴一書. つ<後再. .竣.一め書。. (帽標亙・。道義漫) 一 え 糾卜測 (ζ一国標一班一羽より) 郷倣喰鋤卵洩泌醐. これを麟くと (災,y)理(6,4). 滅らの本数牽6黍、ゆりの素数遼壌泰とする・と、 これは、・繭1懸紅穆練て携惑喧. 【図2一ユ3】. ・團 澱らの本数. 6本. 凄りの漆数. 4漆. 下位目標例題. 17.
(22) 一次の側.懸をしっか沙孝一書し一滋.きい竈. あとで、この鋼懸とよく似た閥懸を解いてもらいます。. 一例 琵重一 五本郷。円の感らと‡泰鈍◎円の雑り壷、あわ植て1◎漆買うと、 代.壷が幽◎書剛ζ一旗った自. 滅ら豊浦1芋・ゆ舵.メー泰翼ったとして、選≡逆方程式.壷つくり、そ れぞれ.の本数を球めよ。. {. 糾戸郷 一一・一一・①. 鰯糾鋤炉猟⑬o一一② ①の芳糧武は. 凄濠して》)る。. ②の方灌式憾.・. 萱添している魯. この漣宜カ穣武・萱≡僻くξ、 が。球ま。る纈. 瀬1・砕てみ窓と、 (災,ダ)糟(6,遜). 滅ら⑳湊1数室魯漆、繊一り⑳本数書遥漆と一す篤・鎧、. これ憾、濁翻こ茜・っている。. 團 鮎の本数. δ本. ゆりの雄数. 4漆. 【図2−14】. 自己説明例題. 18.
(23) 次の鋼懸をしっかり学一害しなきい自 あとで、. 一修秘. この例慧嚢とよく似た1間1蓬嚢を錘妻彰きて逢)一室い一菱す。. 題一. !本200円のばらと1本3◎O内のゆりを、あわ姓て工◎本買うと、 代金が2郷。湾に癒った。 滅らむ奉、ゆり覆y漆買った・とレて、纏宜漕穣一哉壷つくり、そ れぞれ・の素数蜜求.め一よ纈. 醒. 暖らξゆゆの・奉数鱒.1鋼係萱方程戴・一纏ずると 諮・. }撒郷一. ばるとゆ域の・代壷の;開係登芳懸式1こす葛と .螂倣令300タ齪泌㈱ 壕真上滋きら苛 …蜜泣方.嚢萎葦迂登つく=ると. 糾戸郷・ 一郷籔招り⑪タ・撒滋鉤. これ凄輝くと 11災,か帖,今). ばきの漆数巻6漆、ゆ。種の漆数牽壌漆と曾る&、 これは、穣纏にあ様てい為螂. 圏. 【図2−15】. I9. 教科書例題. 暖らの本数. 竃奉. ゆりの漆.数. 逐本.
(24) 次の鋼一懸をしっか書学翠し猛憲.い。 菌とで、 この穆穫・嚢1。とよく穆星た一闘是嚢を鰯…松て亀らいま育㌧. 一修秘一足董 又本義O◎竸のは書.とエ奉養㈱円めゆりを・、あわ鷺て王◎本買うと、 代金が慧遠・O◎縄に怠った。. 段らをx本、ゆ箏凄y奉賛ったとして、慧並方程式壷つくり、そ れぞれの一本。数蜜求めよ。. 隊書の維数とゆり・の1泰数竃藻蜂書寺. 濠らとゆりの漆数の鰯鐸を方艦載縫宵ると. 糾戸口 嬢ると働り一の代錯鰯蘭綴蜜虜簿.式1こ貴書&. o・粁口y幻 以ぶから、鐘並方程式蜜一つくる {. 糾y撒口. 口札口y』 こ貌登解くと く災,タ)幽紬,毎). ぱ蟹⑳奉教書・琶泰ミ、ゆ機の漆数蜜。雀。ミ漆一とす為亀、. これ滅、闘懸絶蕩っている埴.. 【図2−16】. 團 滅畠躰数. 魯奉. ゆりの本・数. 惑漆. 穴埋め例題. 上記の例題を,中学生の4クラスそれぞれに一つずつ提示し,その後に幾つかの類 似問題を解かせたところ,最も高い正答率を示したのは,下位目標例題を行ったクラ スであった。中は,例題学習の過程において,下位目標によって解法の構造を考えて いく活動が,様々な類似問題の問題解決に対して正の効果をもたらすと述べている。 20.
(25) 3.アナロジーを用いた指導法 Rich1and,LとMcDonough,I(2010)は,アナロジーを利用した指導法の有効性を調. べるために,アメリカの大学生を対象として実験授業を行った。彼らは,指導に利用. されるアナロジーをr教育的アナロジー(inStmCtiona1ana1Ogy)」と呼び,それに 関わる教師の教育的サポートをキュー(Cue)と呼んでいる。重要なキューとして, 以下の四つが示されている。. ・視覚的に分かりやすいソース ・ターゲットの指導中にソースが見えること. ・ソースとターゲットの視覚的な配置の工夫 ・比較のための教師のジェスチャー. (1)実験1 ①授業の内容 実験授業で教えられた教材は,「順列」と「組合せ」であった。まず「順列」が指導 され,次に「組合せ」・が指導された。彼らは先に説明する順列問題を「ソ』ス」,後で. 説明する組合せ問題を「ターゲット」と呼んでいる⇒実験授業の大まかな処遇は,以 下のようである【図2−17】,【図2−18】。. キューを与えたクラス. キューを与えないクラス. 順列問題<ソ」ス>. 5人がレースをしている。レースの1位には金メダルを,2位に は銀メダルを,3位には銅メダルを与える。金,銀,銅のメダ ルの与え方は全部で何通りか?. 問題文は全文ではなく,重要な問題要素. 問題の全文をほぼ完全に板書する。. のみを板書する。. 複数行で,金,銀,銅,それぞれの場合. 場合の数を求める式(公式)を1行で説明. の数を示しながら,場合の数を求める式. する。. (公式)を説明する。 □. □. □. Go1d. Si1ver. 亘. □. 旦. 4. □. 旦 ×. 全 ×. 3 =60. Bronze. 旦 ×. 4 × 3 =60. Go1d. Si1veI・ Bronze. □. 21.
(26) 組合せ問題<ターゲット>. 教授はスペシャルセミナーに出席する学生を選ぶ。n人の学 生がいるが,4枚のチケットしかない。スペシャルセミナーに. 行く4人の学生を選ぶのに何通りの異なる方法があるか?. 順列問題〈ソース>を残したままにす 順列問題<ソース>の板書は消す。 る。. 順列問題<ソース>と同様に1行で示し. 順列問題<ソース〉と同様に複数行で解. て解説する。. 説する。. ソースとターゲットを横に並ぶように板. 二つの問題の解法の比較を行わない。. 書し,ジエスチャーを用いて,二つの問 題の間で解法を比較する。 【図2−17】. <キューを与えたクラスの板書>. 段紅一. ㌣ト出 グ 一 ’. 〆. ζ二. ↓一’、 ↓.一具一ヘ. 斗4 `害 ”2言・・吻. エ〆 、 ⊥κビ♪二伸。!…一・ _、.、三秘 ⊥κ少ユ世さ㍗㍉. 一‘一. ,15・. J 。・. ㌣ア州刈二酬炉 キ.. 一 【図2−18】. 22.
(27) ②事後テストの結果. 事後テストは,学習の直後に行われた。【表2−2】のような四つのタイプの問題が 出題された。. 【表2−21 文 脈. 構造. (注)「レース」とは実験授業. レース. セミナー. 順列. 問題A. 問題B. の順列問題で用いられた問 題文脈,rセミナー」とは実. 組合せ. 問題C. 問題D. 験授業の組合せ問題で用い られた問題文脈である。. 問題Aと問題Dは,文脈も構造も実験授業の問題と一致するタイプ(「一致問題 [Faci1itorySimi1arityコ」)で,問題Bと問題Cは文脈と構造が実験授業の問題と逆 になっているタイプ(rまぎらわせ問題[Mis1eadingSimi1arity]」)である。. それぞれについて正答率と,間違いのパターンが調べられた。さらに,例えば,問. 題Bで「組合せ」の解法を用いたような文脈に惑わされた誤答(「クロスマップエラ ー」と呼ばれる)は,その書1」合が調べられた【図2−19】。. 1 0.9. 国Low Cuing Condition −High Cuing Condition. 0.8. 、 o £ =l. o. 0.7 0.6. ○. く =. o. t ○. ユ ◎. 0.5 0.4. 』. 」. 0.3 0.2 0.1. 0 Facilitory Similarity M1s1eading Similarity. Pos誠関t Problom Typo 【図2−19】. 上のグラフのように,「一致問題」(Faci1itory Similarity)の正答率はどちらのクラ. スにおいても非常に高い。しかし,「まぎらわせ問題」(Mis1eadingSimi1arity)におい 23.
(28) ては,キューを与えたクラスの方がキューを与えないクラスに比べて高い正答率’を示. している。また,間違いのほとんどは無答などではなく,順列の解法と組合せの解法 を取り違える間違い(「クロスマップエラー」)であった。このことは,キューを与え. ないクラスの場合は,習った文脈と同じ文脈の問題には習った時と同じ解法を使って しまいやすいけれども,キューを与えたクラスの場合はそのようなことがなく,文脈 に惑わされることなく,構造に注意を向けたより柔軟な対応ができたと解釈すること ができる。. 彼らは,授業の中でアナロジーに関わる教育的サボ』トを与えることは,生徒が, 教えられた概念を構造的に深く理解し,学習への柔軟性を高める効果があると述べて いる。. (2)実験2 実験1の実験授業では,「順列」「組合せ」という新しい概念の学習がその指導目標. であった。実験2の実験授業では,問題解決において既知の解法を適切に選択するカ の育成が,その指導目標となる。. なお,実験1では,「順列」をソース,「組み合わせ」をターゲットとした典型的な. アナロジー対応が見られた。しかしながら,実験2では,類似した二つの解法のいず れについても被験者は一応の理解を有しており,既知から未知への情報の適用という. 意味でのアナロジー対応を考えることはできない。したがって,実験2において対比 される二つの解法の一方をソースと考えれば,形式的に他方はターゲットと呼ぶこと. ができるものの,ソースの解法からターゲットの解法が類推されるのではない点に注 意する必要がある。. ①授業の内容 使用されるのは,次のような割合問題(proportionprob1em)である。 <割合問題>. ボブは1辺10mの正方形の壁を塗るのに6時間を必要とする。1 辺5mの正方形の壁を塗るのに何時間必要か? この問題では,正方形の1辺の長さの比「10=5」ではなく,その面積の比「100= 25」に目を向けて必要な時間を求めなければならない。. 24.
(29) <解法A> 求める時間をh時間として. 6 h 1O0 25. 100h=150 h=1.5. (答)1.5時間. <解法B> 求める時間をh時間として 6 h. 1O■5. 10h:30 h二3. (答)3時間. 当然,この問題では解法Aが正しいけれども,多くの学生が解法Bを用いてしまう ということである。しかし,同じような文脈でも,以下のような問題であれば,解法 Bが正しくなる。. ボブは1辺10皿の正方形の壁の縁を塗るのに6時間を必要とす る。1辺5mの正方形の壁の縁を塗るのに何時間必要か? 彼らは,解法Aを「面積に対応した解法」,解法Bを「線形性を用いた解法」と呼 んでいる。実験授業では,この二つの解法を問題に応じて正しく使い分けることを学 習する。実験授業のクラスは,「多くのキューを与えるクラス」と,「少しのキューを 与えるクラス」,「統制群クラス」の三つに分けられた。それぞれの大まかな処遇は以 下のようである【図2−20】。. 25.
(30) 多くのキューを与えるクラス. 少しのキューを与えるクラス. 統制群クラス. (High Cuing Conaition). (Low Cuing Condition). (Active Participation. Contro1Condition). 問題文を板書する。. ボブは1辺10mの正方形の壁を塗るのに6時間を必要と する。1辺5mの正方形の壁を塗るのに何時間必要か? ■■ I II■一 一 一一一 ’ 一一.. ■■ 一一一■一 I ■■ 一 一一一 一一 一 一一 1−L一■一 一 1■ ■ ■ 一. 一 一 一 I 一 一 ■ ’ L ’ . . 一 . . I 1 ■ 一 一 一 一 一 L ’ ’ ’ 一 ’ 一 ■ 1 ■ 一 一 I. I ■一 一 ■ ■ 一一 一 一. 一 一 一 一 ’1 ’ 一 一一 ■ 一 I ■I ■ 一I 一 一 一 一 一 一 1 一 一 ’一一 一 ■ ■ 一一 一 一 一 一 一 一 一 1 ■’ 一 一 ’ 一 一一 I I ■・ 一 一. 解法Bは扱わない。. 解法B(線形性を用いた解法)を提示し,説明する。. 求める時間をh時間として 6 h. 黶@ ■ 一 一 10 5. 10h=30 h=3 (答)3時間 ■1’ 一一一 ’1 ■ I 1. ■ 一 一 一11 一’ 一 ’’. .’ 一 一’ 一 ■ ■■ I ■ 一 ■ 一一 一 一 一 一 一 一 一 一1 − L ’ 一 一一 一 一一 一 II 一 ■一 ■ 一一 一1一 ■■一 一一一 一’一 〇 I I ■・I 一一1 −1 一 一 一 一1 一 ’ 一’. 一 一. これは一つの解法であるが,. rボブは辺だけを塗るので. 別の考え方もあるとして,解. はなく,壁全体の面積を塗. 法Aを説明する。正方形の. るのだから,. 図を描く。. 不適切である」と伝える。. I■ 1 ■■ 一 一 ■一 一 一 一11 一 ’ 一 一 一 一 一一’ 1 ■ 一 一 ■ 一 一 一 一 一 一 一 一 1 一 一一.一.‘ 一 一 一 一 一 一 一 ■1 一 一 一 ■’’ .一一.一I−I. これは問題に 一 一 一I ■ ■ ■ 一 一 一 一1 − 1 一 一 ’ ’ ’ 一’■ 一 I I■ 一 一1I 一 一一 一 一 一 1 一一 ’ 一 一 . 一一■ ■ ■ l I 一 ■ 一 1 一 一 一 1 一 一 一 一 ’ ’ ’ ■ ■ 一. ■ 一 一 ’ ’ 一 一 . 一 1 . ■. 解法Aを解法Bの横に並列. 解法Bの説明を消す。次に,. で板書して,説明する。. 面積に注目する必要がある として,解法Aを説明する。 一 一 ■一 一 一一 ■1 −1一 一■一 ■ I ■ ■一 一 一■ . 一一 一 一一 一 一 一 1 − 1 ■ 一 I ■ ■ 一 一 一 . 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一一1 I ■ I’ ■ ’ 一 ’一 一’. 一 一一 一 一 ■1 − I 一 ■ I■’ ’ 一 一 一 一 一・一 一 ’ I一 一 ■一I 一 一■ 一 一 ’ ’ ’. 一一 一1 −l l 一 ■lI ■ 1 ■ 一 一’ 一一’ 一 一.一一一 一・. <多くのキューを与える授業の板書〉 正方形の壁の面積. 5m. 10m. □. ボブはユ辺10m.の正方形の壁を塗る. 肇嚢. 1議≡. のに6時間を必要とする。1辺5皿の 正方形の壁を塗るのに何時間必要か?. 10mxlOm=1OO㎡. 5mx5m=25㎡ 嚢/. 求める時間をh時間として. 求める時間をh時間として 。 一 一. 100h:150. 10h=30. 灘1議. h=1.5. h=3 書1鐘≡襲護1111妻111≡111. 嚢…. (答)王.5時間. (答)3時間. . l I 1 l . . l I − I ■ 一 一 一 1 ■ ■ 一 一 一 一 ■ 1. 睡毒. ■ 100 2ミ. 一 10 5. 一 ■ 一. §姜萎≡萎1≡1…萎11≡妻1111議萎葦111111111妻11111葦1111鶏1睡.≡ ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡…≡≡;≡≡≡≡謹≡描≡≡≡. ・辞. 百 h. 后 h. .鱗葦萎1111111套≡1≡1≡垂鱗≡§籔1蓋蓋 .. ■ 一 ■1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ■ I ■ 一 一 一 ■ 一 1 ■ 一 ■ ■ ■ ‘ 一 1 − l I I ■ 一 一 一 一 1 一 ’. 26. 1葦≡書111111111議111垂. 一一1一一一一■■一11一一’1‘’●一一1I−I■I11一一一一■1’’一.一.一一一.I一■一一1一’’一一■■■一一■一一一一一’‘一一1.I1■一一一一1一一1一一一・一.
(31) この問題ではどちらの解法. 壁全体の面積を先に言十算す 解法Aのみを説明し,答. が正しいと思うかを参加者. る必要があったことを,伝え「1.5時間」を求める。. に考えさせる。. える。. ジェスチャーを用いて,横に. 二つの問題の解法の比較を行わない。. 並ぶように板書された二つ の問題の解法を比較する。 【図2−20】. ②事後テストの結果 指導後即時と一週間後の二度の事後テストが行われた。実験に関わる問題は二つの タイプがあり,一つは文脈と解法が実験授業の問題と一致するタイプで,もう一つは 文脈が同じであるが線形性の解法を用いるタイプである。. 実験1と同様に,それぞれの問題に対して,正答率とrクロスマップエラー」によ る分析が行われた。. 【図2−21】のaは即時,bは一週間後の正答率である。aもbも実験1と同じ傾 向を示していることが分かる。また,間違いのほとんどは実験1と同様に「クロスマ ッフェラー」だった。 孔1m㎜o・洲融蝸■一〇蜴.吐. 1. 0−9. 口AoWoP舳むip目ti㎝C・㎜1旧1Co耐iti㎝ □ピ。w Cuin目Cond燃⑪n. 0一⑤. −Hi鉋h Cu…n・・9C・口nditio胴. ぎ O.7 コ u o.8. 〈 o O..。5 ○. 種 。 O−4. o’ O.3. 0.2 0−1. 0 1. F冒.olli}on・S毒m.劃。riψpro・b11艘冊 Mi邑I艘。田d…n宮一S・in,1細■}Prob1惇m. b,Ooloy・od To帥. 0..9. 0−8 { 菱 O・7 曽. U O−6 ( 一 〇.5. o o O.4 2 o_ O..3 I、≡. 0.2 0.1. 0 【図2−21】. 27.
(32) このことについて彼らは,授業においてアナロジーに関わる教育的サポートを与え ることは,学習者の表面的特徴ではなく構造的対応に基づく正しい問題解決力の向上 に対して,有効な手段となっていると述べている。. 実験1では既習を基にしての新しい概念の学習,実験2では類似した二つの解法を 対比させることでの問題解決能力の向上がそれぞれ意図されていた。両方の実験にお いて実.験群でとられた指導上の工夫は,ソースとターゲットのアナロジー対応を,板. 書内容の配置やそれらに対する教師のジェスチャーなどによって学習者に明示的に示. すことである。そして,実験1と実験2のいずれにおいても,アナロジー対応を明示 的に示す処遇は正の効果をもたらすことが,事後テストの分析によって確認されてい るのである。. 28.
(33) 第3節 比喩・メタファーに関わる研究 アナ1コジーに関わる言語研究の成果を基にして,数学教育の領域に比楡やメタファ ーを取り入れた研究がある。. 1.数学教育に関わるメタファーの役割とその有効性 添田(1989)は,「数学教育においてレトリックを考える場合,言語学における議論が. 必ずしもうまく適用できるとは限らない」としながらも,メタファーは類似性に基づ くレトリックであるため,学習指導において教師がメタファーを用いることで,児童・. 生徒の数学的概念の形成や理解に有効であることを主張している。. 彼は,小学校の分数指導を例に挙げて,実際の授業の中でのメタファーの有効性を 示している。次の「例1」は,分数の大小比較をする前に「基準となる数とその幾つ 分」という考えの必要性を児童に感じ取らせるために,教師が使用した事例である。 <例1>. 教師「5と3はどちらが大きいですか?」 子どもr5」. 教師「キンカン5つとスイカ3つどちらが大きいですか?」 子ども「スイカ」. 教師「3のほうが大きいじゃないですか?」 子ども「基の大きさが違う」 教師「基の大きさが違うもんね。」. 教師「Y君3人と,K先生1一人ではどちらが大きい?」 あるものが5っと,またあるものが3つの二者を比較する場合,基になるものが違 えば単純に5つの方が大きい(多い)とは言えない。例えば,1/8が5っと1/4が3つと. では3つの方が大きくなる。こういった考え方をしっかり習得させるためには,より 具体的な事例を引き合いに出して類推させることは十分効果が期待できると添田は述 べている。. また,次の「例2」のように,同分母分数の加減の指導においても興味深い事例を 紹介している。. 29.
(34) <例2> 教師「みんなはね,これは2年生で勉強したね。いくらになるか分かる人?. 9000+8000?」 子ども「17000」. 教師「早く計算するにはみんな,どういうふうに計算する?」 子ども「9+8」. 教師「早く計算するには9+8でいいんだね。なぜ,9+8でいいんだろう ね?」. 教師「1000が9個と1000が8個だから9+8をしていいんだね。」 教師「2/10と3/10は何が単位になっている?」. これは,単位の幾つ分とい一う考え方に基づいて,分数の加法も整数の加法も同じ構. 造を持っていることに気付かせようと提示されたもので,次のような効果が考えられ ると述べている。. ①既に理解している内容と関連付けて理解されるため全く新しい別個のものとし て理解されるときに比べて理解されやすい。. ②これまでに学習した整数の加法の構造の確認にもなり,整数の加法のより一層 深い理解につながる。. ③整数と分数との関わりを知ることによって,統合的に見ることができるように なる。. こういった考え方は,中学校における文字式や根号を含んだ数式の加法にも適用さ れることにもつながっていくように思われる。. 添田は,隠職のもつ類似性には,「球とはボールのようにどこから見ても円に見え る図.形である」といったような視覚的類似性と,上記のような分数の例や,「方程式. は天秤のようなものである」といったような構造の類似性があるということを述べ, いずれの場合も既知のものをモデルとして理解されるという点において学習効果を高 めるのに有効であると主張している。. また,添田(1998)は,数学教育におけるメタファーの役割として,特に図形領域に. おける創造性に寄与する働きがあることを述べている。そして,創造性を育成するた. めの一つの方法として,子どもが幼児期に積み木を自動車に見立てて遊んだり,L字 30.
(35) 型のものを見つけると手に持って鉄砲と見立ててバンバンと言ったりするように,視 覚的類似性に依拠したメタファーの大切さを挙げている。また,授業において子ども から発せられたメタファーを教師自身が気付き,それを大事に取り上げていく必要性 を指摘している。. 添田は,具体的に数学教育の中で現。れたメタファーで,数学的な創造性に効果を与 えた例を,Jaworski(1988)による先行研究を基に挙げている。. <例:平面的な見方から空間的な見方への発展> Jaworski(1988). 12歳の子どもたちに右の図を黒板にかき【図2−22】,こ れは何かと尋ねると,何人かが台形と答え,多くの子どもた ちは同意した。ところが,同意しない子どももいた。台形で ないとすれば何かと尋ねるとその子は正方形と答えた。. 【図2−221. 教室の中は,ザワザワし始め笑う者もでて,教師自身も 困惑した様子であった。. その時教師は,その子どもに,どうしてこれが正方形なの かを説明させた。彼は,正方形を傾けて斜めから見るような しぐさをしながら説明した。そこで教師もその子の意図した ことを理解し,先の図に手を加えて右のような図をかいたの. である【図2−23】。このことにより,クラスの他の子もそ 【図2−23】. の子の考えを共有できたのである。. おそら<教師も含めて,【図2−22】が提示された場面では,平面的な見方をすると. いう暗黙の前提があったのにもかかわらず,子どもの発したメタファーに教師が気付 いて,授業で取り上げることで,平面から空間への創造的な拡張をクラス全員で共有 できだということを,添田は主張している。. 2.教授過程におけるメタファーの重要性 橋本(1992)は,《比楡は数学の教授・学習の多くの側面に浸透している。》と述べてい. る。そして,数学的概念は抽象的であり,数学の新しい概念を生徒に理解させるには,. 教師は専門的な数学的用語だけに頼ることは不可能であり,自然言語による比喩表現 の使用は避けられないとして,数学の教授過程におけるメタファーの例を挙げ,その 働きを提示している。例えば,「方程式は天秤である」というメタファーの場合,教師. が「天秤」というものの特徴の中で生徒の関心や注意を向けさせようとするものとし て,次の(A)∼(D)を挙げている。 31.
(36) (A)天秤は2つの皿と,目盛がある。 (B)皿には重りを置く。. (C)釣り合いをとるためには,両方の重さが同じでなければならない。. (D)釣り合いを保つためには,一方にある重さの物を加えたら,他方に同じ重さ の物を加えなければならない。取り去る場合も同様である。. 教師は,このように「天秤」というものの概念から以上の四つを顕現させ,それを 基に生徒は,以下のような「方程式」に適合する様々な含意を構成すると述べている。 (a)方程式は等号(=)を挟んで左右に分かれている。 (b)数や文字を左右両辺に置くことができる。. (C)相当性を保っためには,両辺の数もしくは文字の値が等しくなければなら ない。. (a)相当性を保つには,一方に加えたものを他方のも加えなければならない。 弓1く場合も同様である。. そして上記のように,比喩するもの(天秤)と比倫されるもの(方程式)の含意の間に類. 比が構成されることで,生徒が既に持っている既習の経験を基に新しい抽象的な数学 概念をより良く理解させたり,記憶の中に定着させたりすることができるとしている。. 3 概念メタファー 國岡(2007)は,アナロジーについて,次のように述べている。. 《アナロジーは,本来は異なる二つのものごとの間に何らかの類似性を見いだ. し,その類似性に基づいて,一方での情報を他方へ適応させる認知過程であ る。このとき適用された情報が適用先でも妥当であるかどうかは不確実であ り,この意味でアナロジーは蓋然的推論なのである。完成された数学は決定. 的な論理の連続として表現されるものであるが,その学習過程において学習 者は,蓋然的推論であるアナロジーに頼らなければならないのである。》 さらに,國岡(2009)は,「ある概念を別の概念と関連づけることによって,一方を他. 方で理解する」という概念メタファーがアナロジー的推論と類似した構造と機能を持 つとして,算数・数学の具体的教材を概念メタファーの観点から分析している。そして,. Lakoff,G.とNunez,R.(2000)の研究で示された,GroundingメタファーとLinking. 32.
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