ジーを用いた指導の可能性を探った。
まず,教育的アナロジーの利用には,次の二つのタイプがあると筆者は考えた。一 つは,「未知の概念を分かりやすいもので例えることで,理解しやすくする」といった 理解のためのアナロジー利用である。もう一つは, 「類似していてまぎらわしい二つ の学習内容を,同時に見せて対比させることで,その二つの間の違いを明確にする」
といった対比によるアナロジー利用である。
次に,中学校数学における教育的アナロジーを用いた学習教材について提案を行っ た。理解のためのアナロジー利用のタイプとしては「リーグ戦の試合致」 「球の体積
と表面積」を挙げ,対比によるアナロジー利用のタイプとして「変化の割合」 「平均 の問題」を挙げた。
最後に,教育的アナロジーを用いた二つの具体的な授業展開について提案を行った。
一つは,理解のためのアナロジー利用のタイプとして考案した,代数和の理解にトラ ンプカードを使用する指導である。もう一つは,対比によるアナロジー利用のタイプ として考案した,相加平均と調和平均を対比させる指導である。以上の二つを,それ ぞれ指導略案の形式で提示した。
第5章では,一本研究のまとめを行い,今後の課題について述べた。
第2節.今後の課題
1 指導が有効に機能する指導箇所と教材を開発
教育的アナロジーを用いた指導の可能性を探る上で,そういった指導が有効に機能 するような指導箇所と教材の選び方は非常に重要である。例えば, 理解のためのア ナロジー利用 であれば,そのソースの選び方によって,生徒の概念理解に対する効 果に大きな影響を及ぼすことは明らかであろう。本論文では,中学校数学の学習内容 の中から,幾つかの指導箇所及びその教材提案を行ったが,今後さらに,単元や指導 内容に柔軟性を持った形での指導箇所や教材の更なる開発を行うことも大切であると
考える。
2.指導効果をさらに高めるキューの改善と工夫
本論文において,綾々述べてきたように,Rich1and,LとMcDonough,I(2010)が示 した教育的アナロジーを用いた学習指導における,四つの教育的サポート(キュー)の 重要性は,中学生を対象とした実験授業の考察からも示されている。その四つのキュ ーはr視覚的に分かりやすいソース」rターゲットの指導中にソースが見えること」「ソ ースとターゲットの視覚的な配置の工夫」「比較のための教師のジェスチャー」であっ
た。
しかし,本研究においては,その四つのキュー以外の教師による教育的サポートに ついては考えていない。しかし,中学校数学の学習指導に教育的アナロジーを利用す る際に,Rich1and,Lらの示したキュー以外にも,一その指導効果を高められるような,
新たなキューの存在は否定できない。そういったことからも.キューの更なる改善や 工夫も考えていく意義はあると考えられるであろう。
3.生徒の自主的なアナロジー利用を促す授業実践
生徒が,教育的アナロジーを用いた授業に数多く触れることは,アナロジーを用い た数学的活動への素地にもなりうるであろう。すなわち,新しく学習する概念の構造 に対して,既習の概念との共通点や類似点を上手く適用することで発展的な考え方へ とつなげていくことや,日常生活において,既知の数学的概念との類似性を用いて適 応させていくといったように,生徒自らがアナロジーに対する意識を高め,活用して
いこうとする態度の向上へも何らかの効果をもたらすのではないだろうかと筆者は考
えている。
しかし,そのためには,Rich1and,LとMcDonough,I(2010)も述べているように,
教師は「学習者自身の建設的なアナロジー的思考を助け,促進する」存在でなければ ならないだろう。単に生徒に対して分かりやすく説明するだけではなく,その過程に
おいて学習者である.生徒自身の推論を導こうとする意識こそが,教師にとって必要で あると筆者は考える。今後の学習指導において,そういった意識を常に持ちながら,
生徒の自主的なアナロジ』利用を促す授業を実践していく必要があると思.われる。ま た,そういった教師の姿勢が,生徒の数学的活動への高まりに少なからず寄与するこ とが期待できるであろう。
おわりに
本研究は,中学校数学の学習指導においてアナロジーが有効に機能する可能性を探 るものであった。幾つかの先行研究と,それに基づいた中学生を対象とした実験授業 から,そういった指導の一定の有効性が期待できるという見解が得られた。しかし,
この研究は,先にも述べたように,そういった学習にふさわしい教材の開発や指導法 の改善によって,更なる深化を遂げる可能性があるようにも思われる。また,何より もそういった学習が,生徒白らが類推や類比を利用しようとする「アナロジー思考」
の促進へとつながることを念じてやまない。
今後は,本研究で得た知見を,学校現場において役立てながら「実践と研究」に適 進していきたい。また,そうすることで,筆者自身の教育者としての資質を高めるだ けでなく,このような研修機会を与えていただいた事や,研究を支えて下さった方々 への感謝の意となると考えている。
最後になりましたが,本研究を進めていくにあたり,適切な教示並びに懇切丁寧な ご指導をいただきました國岡高宏尭生に心よりお礼申し上げます。また,学会発表前 など様ふな機会を通して適切な助言を与えていただきました崎谷眞也先生,加藤久恵 先生,清中裕明先生をはじめ数学教室の先生方に深く感謝申し上げます。加えて,お 世話になった國岡ゼミの方々や院生の先輩方及び同期生の方々に感謝申し上げます。
また,本大学院への派遣機会を与えていただきました兵庫県教育委員会,猪名川町 教育委員会に深く感謝申し上げます。さらには,猪名川町立猪名川中学校の前西義弘 校長先生,同前校長の本井勝校長先生をはじめ教職員の方々,ならびに授業や調査に
ご協力をいただいた先生方や生徒のみなさんに心からお礼申し上げます。