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巻頭言

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Academic year: 2021

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巻 頭 言

フィールドワークとアクティブ・ラーニング

 本年 4 月,近代文化研究所所長を拝命したが,実は私の専門は動物生態学で,現在熱帯林 と都市という 2 つの対照的な環境で昆虫の生態と行動を調べている。もっぱら屋外で甲虫や チョウなどの行動を観察してデータを取る,典型的な「フィールドワーカー」である。  学位を取得してから大学で職を得るまでの期間(いわゆるオーバードクター時代),野外で実 際にチョウ類が天敵の鳥からどの程度攻撃を受けているのかを調べるため,京都市北部の岩 倉(幕末に岩倉具視が蟄居していた地域)の里山でチョウの標識調査を行っていた。午前中は 大学での非常勤講師や予備校の数学講師などのアルバイトを行い,その足で午後は車を運転 して調査地に向かう。車中でネクタイをはずし,積んである捕虫網やフィールドノートを取 り出して,ワイシャツに普通のズボンというあまりフィールド向きでない服装でひたすらチ ョウを捕らえていく。チョウの翅を調べて鳥の攻撃跡(ビークマーク)があれば記録し,マ ーカーペンで番号を付けて放す。この仕事は約 2 年間続けたが,定職がない割には実に充実 していて楽しく,午前中のアルバイトを含めて現在の大学教員としての仕事に大いに役立つ 経験であった。  また昆虫愛好家としての「趣味の研究」では,大好きだったカミキリムシ類の幼虫期の食 樹解明を行っていた。カミキリムシ類は日本だけでも 800 種以上が分布し,幼虫は主として 様々な樹木の枯れ枝に食い入るが,当時はどの種の幼虫がどんな種類の樹木に入るかがあま りよくわかっていなかった。そこで国内の色々な場所で森に分け入って,枯れ枝を切っては 柴刈り爺さんよろしく持ち帰り,どのような種類の樹木の枯れ枝からどんなカミキリムシが 出てくるかを調べたのである。要するに,これは珍しい昆虫を手に入れようとする際に用い る安易な方法の一つなのだが,それまで幼虫期が未知だった種の生態を解明するという点で は貴重な学術情報を提供することになる。単に珍しい虫が得られたと喜ぶだけでなく,同好 会誌や学術誌に情報を送り掲載してもらうことで名前を知ってもらって全国に仲間が増え, このネットワークが意外にも現在の研究生活に役立っている。こう考えると,意識はしてい なかったが研究者・教育者としての私の毎日は,かなりアクティブなフィールドワークに支 えられているのだなと思えてくる。  話は変わるが,最近の大学教育では,シラバスから始まって,ポートフォリオ,ルーブリ ック評価,ピアサポート・ラーニングといった横文字がずらりと並ぶ。良くも悪くも,アメ リカ式の教育法が主流となっているようだ。少々古いタイプの教員である私はいささか戸惑 いを感じるところだが,それらの中にあってこれは当然必要と思うのが「アクティブ・ラー ニング」だ。その字のごとく,学生が受け身ではなく積極的に行動して授業に参加していく というものである。私のように勝手に動いてデータを取るタイプの人間にとっては,このア クティブ・ラーニングの指導はお手の物と思われるかもしれない。実は全くの逆で,他人に あれこれ指図されることが嫌いな私は,学生を巻き込んでアクティブに動かすことも苦手な のである。だからといって何もしないわけにはいかないので,自分が好きなテーマにならば 学生も少しは関心をもつだろうということ,そしてやってみればまあ何とかなるだろうとの お気楽な前提で,授業にいくつかのアクティビティを取り入れているこの頃である。  (常喜 豊)

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