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学習者の学びを教師の振り返りに活用するための計量テキスト分析

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(1)

学習者の学びを教師の振り返りに活用するための計

量テキスト分析

著者

田畑 洋行

学位授与機関

Tohoku University

(2)

令和元年度 修士論文

学習者の学びを教師の振り返りに

活用するための計量テキスト分析

 田畑洋行

東北大学大学院教育学研究科

教育情報アセスメントコース

教育評価測定論領域

2020

1

10

(3)

要旨

近年,高等学校では自らの学びを振り返る活動や,学んだこと・振り返ったことを言語に よって外化する活動を取り入れることが求められている。言語化を伴う活動の広がりによっ て,高等学校ではこれまで以上にテキスト形式の学びの記録が蓄積されていく。このような 学びの記録は、学習者が自らの学びを促進するために活用する資料であるとともに、教師に とっても指導を振り返り、教材を改善していくための貴重な資料となりうる。しかし,学校 現場では蓄積されるテキストデータを効率よく集約し,教師の指導改善に生かす仕組みはま だ多くない。テキストデータを分析・集約する手法については,自然言語処理分野を中心に 多くの研究がなされている。本論文では特に,テキストデータを量的・質的両面から分析す る「計量テキスト分析における接合アプローチ」に着目した。本論文では,接合アプローチ の考え方を参考に,授業で用いる教材や学習者の記述データを分析する手続きを提案する。 第I部では、初めに2018年に改訂された高等学校学習指導要領における「育成を目指す 資質・能力」および「学習評価」について概観した。改訂指導要領と2009年に告示された 現行指導要領を比較することで、表現活動や記述活動がこれまで以上に求められていること を示した。次に、本論文の直接の先行研究となる樋口(2014)を紹介し、接合アプローチに ついて整理した。その上で、授業分析の手続きにおいて考慮する5つの観点を整理した。 第II 部では、計量テキスト分析の接合アプローチを参考に、授業分析の手続きを構成し た。また、実証的研究で実践する授業について、参考にした理論を紹介し、その上で授業の 概要について示した。授業のタイトルは「SDGsに関するワークショップ」とした。 第III部では、提案した授業分析の手続きの有効性について、実証的に検証を行った。第 1研究では、教材に示されたテキストデータや教師の口頭説明を分析し、「教材が伝えてい ること」と「教師のねらい」の差異について探索を試みた。分析の結果、教材や説明は教師 のねらいをおおむね反映した内容になっていることが確認された。ただし、安心な学習の場 を作るために設定した「約束事」に関する表現は、教材の中からはほとんど発見されなかっ た。第2研究では、学習者が記述した内容を分析し、「学習者が学んだこと」と「教師のね らい」の差異について探索を試みた。探索に当たっては,目標に準拠した視点に加え,目標 にとらわれない視点,教師のねらいを超えた部分を捉えようとする視点を重視し,学習者の 豊かな学びを明らかにすることを目指した。分析の結果、学習者の記述には、教師が想定し ていなかった「豊かさ」に関する記述が多いことが確認された。一方、学習目標としていた 具体的な活用アイデアについての記述は少ないことも明らかとなった。 第IV部では、実証的研究で得られた結果について,第I 部で示した5つの観点に基づい て考察を行った。 以上の研究により、提案した授業分析の手続きによって「教材が伝えていること」と「教 師のねらい」の差異、および「学習者が学んだこと」と「教師のねらい」の差異を一定程度 明らかにしうることが実証された。

(4)

目次

I

問題と目的

4

1 高等学校における記述データの蓄積 4 1.1 教育における評価・アセスメント . . . 4 1.2 教育アセスメントの役割 . . . 6 1.3 授業評価と学習評価 . . . 9 1.4 学習指導要領の改訂 . . . 11 1.5 キャリア・パスポート等の導入 . . . 15 1.6 目標に準拠した視点と目標を超えるものを捉える視点 . . . 16 2 計量テキスト分析 17 2.1 計量テキスト分析とは . . . 17 2.2 接合アプローチに関する先行研究 . . . 23 2.3 教育分野における先行研究 . . . 30 3 本研究の目的 33

II

計量テキスト分析による授業分析

34

4 授業を分析するための手続きの提案 34 5 授業の設計 39 5.1 ワークショップの定義 . . . 40 5.2 SDGsの概要 . . . 40 5.3 本論文におけるワークショップの概要. . . 44

III

部 実証的研究

58

6 第1研究 58 6.1 目的 . . . 58 6.2 方法 . . . 58 6.3 分析資料 . . . 59 6.4 結果 . . . 59

(5)

6.5 考察 . . . 75 7 第2研究 78 7.1 目的 . . . 78 7.2 方法 . . . 79 7.3 結果 . . . 83

IV

全体的考察

102

8 教師の振り返りに有用な知見 102 9 5つの観点に関する考察 103 10 本研究の限界と今後の展望 105 付録A 強制抽出する語,分析に使用しない語のリスト 113 A.1 第1研究:教材データ . . . 113 A.2 第2研究:記述データ . . . 114 付録B 場面を特徴づける語を抽出する手順と設定 117 付録C 共起ネットワークを作成する手順と設定 118 C.1 教材データの分析における分析手順と設定 . . . 118 C.2 記述データの分析における設定 . . . 119 付録D 多次元尺度構成法による分析手順と設定 120 付録E コーディングルール 122 付録F 調査依頼書 124 付録G 修正済み記述データ 127 付録H 記述データの修正前後対応表 142 付録I 理解度に関する自己評価得点 147 付録J ワークシートへの記述量 148 謝辞 149

(6)

I

問題と目的

本研究の目的は,高等学校の教育実践で得られる記述データについて,集約・分析するた めの方法を提案することである。第I部では,初めに2018年の高等学校学習指導要領の改 訂に伴い,学習者による記述データがこれまで以上に蓄積されていく可能性について述べ る。次に,大量のテキストデータを分析する方法の1つである計量テキスト分析について述 べる。

1

高等学校における記述データの蓄積

初めに,本研究におけるアセスメントや評価を定義する。次に,アセスメント・評価に関 連する用語について整理する。その上で,高等学校学習指導要領の改訂に伴う表現・記述活 動の増加について述べる。最後に,目標に準拠した視点と目標にとらわれない視点について 述べていく。

1.1

教育における評価・アセスメント

教育とは,人間の発達に対して意図的に働きかけることによって,それを促進しようとす る営みである(西岡, 2015)。このような教育という営みに対して,「教育がうまくいってい るかどうかを把握し,そこで捉えられた実態をふまえて教育を改善する営み」を,西岡は 「教育評価」として定義した。しかし,この「評価」という日本語には,「他者に対する値ぶ み」という印象が強く,教育を改善する「営み」というニュアンスが伝わらないことがある。 佐藤康司(2002)は,このような「評価=値ぶみ」という誤解を「評定主義の誤解」と呼ん だ。このような誤解を避けるために,先行研究における用語の定義を参考にして,本論文に おける「評価」と「アセスメント」の区別を試みる。 リンダ・サスキー(Linda Suskie, 2009=2015)は,アセスメントを研究・実践してきた専 門家による定義を要約し,表1.1のようにまとめた。すなわち,「アセスメント」とは,測定 方法の策定,学習,根拠の収集,判断,改善といった“教育を改善するプロセス全体を指すも の”という考え方である。それに対し,「評価(evaluation)」については,判断(judge)と 同じ意味を持つものという見方があることを紹介している。すなわち「評価(evaluation)」 とは,「アセスメントから得た情報を利用し,学生が学習目標を達成したか,教学戦略の相対 的な強みと弱みは何か,目標や教学戦略にどのような変更を加えることが適切か,といった 事柄について,情報に裏付けられた判断をすること」という考え方である。このような定義 においては,「アセスメント」は表1.1で表される教育を改善するサイクル全体を表し,「評

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価」はアセスメントのサイクルの後半部分,すなわちアセスメントの根拠資料を解釈し(サ スキーの第3ステップの一部),その結果を活用すること(第4ステップ)を指す。 表1.1 サスキーによるアセスメントの定義 アセスメントとは,以下のプロセスを継続的に行うことである。 1)学生の学習において期待される成果を明確かつ測定できる形で策定する。 2)学生がこうした成果を達成するための機会を十分に提供する。 3)期待される成果と学生の学習がどの程度一致しているのかを示す根拠資料を体系的に 収集,分析,解釈した上で判断を下す。 4)アセスメント結果の情報を用いて学生の学習に対する理解を深め,その改善に生かす。 サスキー(2015)より抜粋。 バーバラ・ウォルワード(Barbara E. Walvoord, 2010=2013)は,アセスメントを「学 生の学びに影響を与える意思決定に役立てるために,時間や専門知識,利用可能な資源を用 いて学生の学びの情報を組織的・計画的に収集すること」と定義している。その上で,アセ スメントを(1)到達目標設定,(2)情報収集,(3)改善取組みの3つの段階で説明した。した がって,アセスメントは単に情報を収集する行為ではなく,改善への取組みまで含む概念と 捉えられている。一方,「成績評価」は,アセスメントで得られる情報の一部とされた。 京都大学高等教育研究開発推進センター(2019)は,「エバリュエーション(評価)」を 「学習の結果を学習目標と照らして最終的に判断すること」と定義し,具体的には成績をつ けるという行為をさすものとした。一方,「アセスメント(査定)」は「最終的な評価を行う ためにさまざまな課題を課して必要な情報を集めたり,集めた情報についてフィードバック を行ったりしながら,学習目標の到達に学生を誘うという行為」とした。両者の意味を含 め,「教育アセスメントとは,学生の学習を成功に導くために,学習実態を把握し,適切な フィードバックを行い,学習活動の成果を学習目標に照らして評価する教育活動」と定義し ている。 このように,サスキーらは「アセスメント」を単に実態を把握する行為だけではなく,教 育を改善するためのサイクルや活動全体として定義している。これは,西岡が定義した「教 育評価」における「教育を改善する営み」と共通する視点である。したがって,西岡が示し た「教育評価」という概念は,「評価」という言葉を用いてはいるが,サスキーらが示す「ア セスメント」と同様の性質を持った概念といえよう。 一方,アセスメントやエバリュエーションには異なる定義もある。 山口陽弘・石川克博(2012)は,エバリュエーションを「児童生徒を教師が「上からの視 点で」評価し,価値判断を「下す」」ニュアンスを持つものとし,一方,アセスメントを「多 角的な視点で教師が情報収集して,児童を診断するものであり,次の教育活動に向けて改善

(8)

する方策を打ち出すための行為である」というニュアンスを持つものとした。アセスメント は,教育の改善を目的として行われる,情報を収集する「行為」として位置づけられている。 また柴山直(2018)は,資質・能力を何らかの手段で数値に表現することを「測定」( mea-surement),価値判断抜きにそれらの実態を調べることを「アセスメント」(assessment), 測定ないしアセスメントされた結果に何らかの価値を加えることを「評価」(evaluation)と して整理している。それぞれの用語は,活動全体を包括する概念ではなく,情報を収集する こと,価値付けすることなど,一つ一つの「行為」に主眼をおいた形で定義されている。 サスキーから柴山までの定義で共通するのは,エバリュエーションが価値付けや価値判断 を表している点である。一方,これらの定義で異なる部分は,アセスメントが意味する範囲 である。すなわち,アセスメントを教育を改善する活動全体として捉える見方と,状態を把 握する行為として捉える見方である。 ここまでの知見をふまえ,本論文では,主に柴山の定義を基に用語の整理を行う。すなわ ち,アセスメントを「価値判断抜きに実態を把握すること」とし,評価=エバリュエーショ ンを「アセスメントされた結果に何らかの価値付けを行うこと」とする。特にアセスメント については,「改善のための活動全体」としては捉えず,実態を把握する「行為」に着目して 定義することとした。このように,「実態を把握する行為」や「改善を行う行為」など,一つ 一つの行為を個別の概念として定義することにより,どの行為について論じているかを明確 にする。また,概念を細分化して定義することで,「評定主義の誤解」のような,ひとつの 語に複数の意味が含まれることによって生じる誤解を避けることが可能となる。 一方,「教育アセスメント」のように一連の語として使用する際には,アセスメントを「活 動全体」として捉える見方を採用する。すなわち一連の語の中で用いられるアセスメント は,実態を把握する行為だけでなく,実態を把握する目的や対象の設定,改善のための活動 までを含んだ概念を表すものとする。したがって「教育アセスメント」は,「学習者の学習 を成功に導くために,教育における状態を把握し,そこで捉えられた実態をふまえて教育を 改善する営み」と定義する。 このように個別の行為と改善の営み全体をそれぞれ定義することで,議論の焦点が個別の 行為にあるのか,それとも営み全体にあるのかを明確にすることが可能となる。

1.2

教育アセスメントの役割

教育アセスメントの機能は3つに分化して捉えられる(石井, 2015)。すなわち,診断的, 形成的,総括的な機能である。

形成的評価(formative evaluation)や総括的評価(summative evaluation)は,元々ス

クリヴァン(Michael Scriven)によってカリキュラム改善のための評価として提唱された 概念であった(西岡, 2015)。スクリヴァン(1966)は,“カリキュラム開発において,カリ

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キュラムの修正のために,今あるカリキュラムを実施に適用する中でその不十分さを確認 し,フィードバックを得るために開発者が行う評価”と,“カリキュラムの最終的な評価”は 区別すべきであるとし,前者をformative evaluation,後者をsummative evaluationと呼 んで区別した。

ブルーム(Benjamin Samuel Bloom)は,スクリヴァンの唱えた形成的評価の概念を,

「カリキュラムの作成のみではなく,教授活動や学習活動にも有効である」(ブルーム他, 1971=1973)と考え,授業改善のための評価として読み替えて発展させた。のちに診断的と いう新たな機能も加え,3種の機能として大別した。なお,評価を学習指導の終着点とする のではなく,評価を教師の指導改善と結びつけることで,「評価と指導の関係を相互往還的 なものとして捉える見方」(石井, 2015)は,「指導と評価の一体化」と呼ばれ,現在の日本 の初等中等教育の中にも取り入れられている(文部科学省, 2018a)。ブルームは,3種の評 価機能を目的,時期,対象とする学力観の3点によって区別した。その基準を整理したもの が,表1.2である。 表1.2 ブルームによる評価機能の区分 分類 目的 時期 対象とする学力観 診断的 学習の出発点における学 習適性やレディネスの把 握 学習が開始される前 興味,パーソナリティ, 環境,適性,技能といっ た,開始される学習への 適性あるいはレディネス 形成的 子どもの学習や教師の授 業方法,あるいはカリキ ュラムなど,教育の過程 において行われる活動の 改善 学習の途上 学習によって獲得される 学力,特に応用や総合, 分析など学力の発展性と 呼ばれる高次の学力 総括的 学習によって獲得される 学力,特に高次の学力を 構成する基礎的な学力 教育活動の効果や有効性 を測ること 単元や学期末,年度末 ブルーム(1971=1973)および石井(2015)を基に筆者が作成。 このようなブルームの区分に対し,近年では,教育アセスメントの機能はアセスメントが 実施される時期や対象となっている学力の違いではなく,アセスメント活動の目的によって 区別されるべきと考えられるようになっている(石井, 2015)。たとえば,ブルームの区分に よる診断的評価は,学習適性やレディネスを把握することによってその後の授業方法等の改 善に活用される点を考えれば,形成的評価と同様の役割を果たしていると考えられる。した

(10)

がって,教育アセスメントの機能を目的によって分類すれば,「学習や指導改善を支援する ために行われる評価活動」であるか,それとも「学習や指導改善を主たる目的とせず,資格 や選抜,あるいはアカウンタビリティのための評価活動」(石井, 2015)であるかによって2 つに大別される。前者の機能を形成的アセスメント,後者の機能を総括的アセスメントと捉 え,ブルームによって提唱された診断的評価という機能は形成的アセスメントの中に含まれ るものとして捉える考え方が生まれている。 こうした論調の中,アール(Lorna M. Earl, 2003)は,アセスメント活動をその目的に よって,「学習のためのアセスメント」(assessment for learning),「学習のアセスメント」 (assessment of learning),および「学習としてのアセスメント」(assessment as learning)

として整理した。第1の「学習のためのアセスメント」は,学習や指導改善を支援するため に教師によって行われるアセスメント活動である。ブルームによって提唱された診断的アセ スメントの機能は形成的アセスメントのなかに含まれるものとされ,「学習のためのアセス メント」としてまとめられた。第2の「学習のアセスメント」は,学習や指導改善を主たる 目的とせず,資格や選抜,あるいはアカウンタビリティのためのアセスメント活動を指す。 第3の「学習としてのアセスメント」は,学習者が自身の学習の自己調整のために行うアセ スメント活動を指す新たな概念である。松下佳代(2015)は,アセスメント活動それ自体を 学びの一つと捉え,自らをアセスメントする経験やアセスメントを受けて自己調整を行って いく学習経験も,「学習としてのアセスメント」に含まれるものと捉えた。アールおよび松 下が示したアセスメント活動とその目的を,表1.3にまとめて示す。2018年に改訂された 学習指導要領の解説には,「生徒による学習活動としての評価も重視」(文部科学省, 2018a) することが示されており,「学習としてのアセスメント」は日本の初等中等教育でも注目さ れている概念である。 このように,アセスメントや評価は元々,カリキュラムや教師の指導改善を目的として発 展してきた。その目的は,「指導と評価の一体化」という概念として,日本の学習指導要領 にも現在まで反映され続けている。近年では,学習者が直接的にアセスメント情報を活用す る「学習としてのアセスメント」にも注目が集まっており,ルーブリック評価(スー・F.ヤ ング/ロバート・J. ウィルソン, 2000=2013)や一枚ポートフォリオ評価(堀哲夫, 2019) など様々なアセスメント方法が開発・実践されている。 このような学習としてのアセスメントが教育実践の中に広がっていくと,これまでとは異 なるアセスメント情報が蓄積されることとなる。これまで収集していたペーパーテストや作 品によって表される学習の結果の情報,あるいは教師のみとりなどによって把握していた学 習の過程の情報に加え,学習者の考えや思いなどを記述・表現した学習者の内面の変化の過 程に関する情報も蓄積されていくこととなる。これらの情報は,もちろん学習者個人が自ら の学びを深めたり,自己を見つめたりするために活用すべき情報である。一方,新たに得ら れるこれらの情報は,教師の指導の改善,教師の成長のためにも活用しうるものでもある。

(11)

表1.3 目的によるアセスメントの分類

主な主体 目的

(Key Assessor) (Purpose)

学習のためのアセスメント 教師 授業改善,学習改善(to modify the teaching and learning activities) (Assessment for learning) (by teacher)

学習のアセスメント 教師 成績の決定 (marking and

grad-ing) (Assessment of learning) (by teacher)

学習としてのアセスメント 学習者 学 習 者 に よ る 自 己 観 察 ,自 己 修 正,自己調整(self-monitoring and self-correction or adjustment),

(Assessment as learning) (by student)

アセスメント活動それ自体 アール(2003)および松下(2015)を基に筆者が作成。 学習者の学習を成功に導いていくために,新たなアセスメントによって得られる情報を教師 の改善や成長に活用する視点も重要である。

1.3

授業評価と学習評価

変化が激しい時代と言われる現在,児童生徒だけでなく教師も成長を求められている。 2006年7月の中央教育審議会の答申(2006)では,「変化の激しい時代」だからこそ「教員 には,不断に最新の専門的知識や技術指導等を身に付けていくこと」が重要とされ,「学び の精神」がこれまで以上に強く求められているとされた。教師にとって,社会の変化を感じ 取り,変化に対応するための新たな方法を学び,実践においてその方法を活用し,さらには その効果をみとり改善していくような姿勢はこれまでも,そしてこれからも重要である。 これまで日本の教師たちは,「自主的に学習や研究の機会を組織し,生涯にわたる力量形 成を図ってきた」(八田, 2015)。特に教師が行う教育活動の中心である「授業」については, 授業を見合い,互いに評価されることで指導力を向上させてきた。八田は,授業をアセスメ ントし改善する取り組みを,広い意味での「授業評価」として紹介している。それをまとめ たものが表1.4である。 授業アンケートは,一般に「授業評価」として行われているアンケートを指す。選択式の 質問項目で調査されることが多いが,自由記述で回答を求めることもある。授業チェックリ ストは,授業で行われる各指導事項について,行われていたかどうかを「はい」「いいえ」で チェックするようなアセスメント方法である。授業アンケートや授業チェックリストといっ た方法は,主に教師の行動に焦点が当てられており,学習者が得た知識や行動をアセスメ

(12)

表1.4 授業をアセスメントする取り組み 取り組み 主体 対象 目的 授業評価アンケート (選択式) 児童生徒,保護者 教師の行動 授業の質のチェック 授業チェックリスト 授業参観者 教師の行動 授業の質のチェック 研究授業,授業検討 会 同僚や他校の教員・ 専門家などからな る授業参観者 教師の行動・意図・ 子どもたちの発言 等に対する対応・意 思決定,子どもたち が達成した学習や 獲得した力 授業の質の吟味 ストップモーション 方式による授業検討 会 授業者,同僚や他校 の教員,専門家 撮影された授業に おける教師の行動・ 思考・意思決定等 授業の質の吟味,教 師の思考の洗練 授業カンファレンス 授業参観者 授業中に生じてい る子どもの個性的 な学び 各授業参観者が把握 した子どもの学びに ついて語り合い,授 業の多様な意味づけ を交流 授業研究 授業者 自らの授業 自 分 ら し い 授 業 の 在り方そのものの追 究,新しい授業像の 提案・共有財産化 八田(2015)を基に筆者が作成。 ントする視点は希薄である。また,「提示された授業の型」について指導が上手くいってい るかをチェックするものであり,新たな形を生み出す視点は含まれていない。したがって, 「子どもや保護者の授業評価への参加を促すという点においては可能性をもつにもかかわら ず,授業の改善という点においてはきわめて限定的な役割しか果たさない」(八田, 2015)。 一方,研究授業や授業検討会は,授業者・他の教員・専門家によって授業をアセスメント し,改善を目指す営みである。学習者が直接アセスメントにかかわることはできないが,学 習者の学びにも焦点が当てられている点が重要である。また,授業カンファレンスでは,観 察された学習者の学びから意味を抽出することに焦点が当てられる。「子どもの学びに関す る多様な意味づけを交流すること」で,指導者の気づかなかった「子どもの個性的な学びに

(13)

目を開き,授業や同僚や子供から学ぶ」(八田, 2015)ことが可能である。 授業評価アンケートや授業検討会は,授業をアセスメントするために設計された取り組み である。一方,授業をアセスメントするために設計されたわけではないが,教師に指導改善 や力量形成のために重要となる情報がある。授業の中で日々蓄積される学習者の学習状況, すなわち「学習評価」である。学習指導要領では,「学習評価」は「学校における教育活動に 関し,生徒の学習状況を評価するもの」として定義されており,学習指導と併せて「学校の 教育活動の根幹」(文部科学省, 2019)として重要な位置づけで捉えられている。

1.4

学習指導要領の改訂

高等学校においては,今後学習評価やアセスメントの形が変化し,これまで以上に学習の 記録,日々の学びが蓄積されていくと考えられる。その理由を改訂された指導要領のうち, 特に「育成すべき資質・能力」および「学習評価」に関する観点から述べる。 2018年3月30日,改訂された高等学校学習指導要領(文部科学省, 2018b)(以下「改訂 指導要領」という。)が公示された。3年間の移行期間を経て,2022年度から年次進行で実 施となる。改訂指導要領等の作成にあたり,中央教育審議会は,平成28(2016)年12月21 日に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必 要な方策等について(答申)」(文部科学省中央教育審議会, 2016)(以下「平成28年12月の 中央教育審議会答申」という。)を示した。平成28年12月の中央教育審議会答申では,新 しい学習指導要領等に向けて,以下の6つの点に沿って改善すべき事項がまとめられた。 1.「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力) 2.「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と,教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教 育課程の編成) 3.「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改善・充実) 4.「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導) 5.「何が身に付いたか」(学習評価の充実) 6.「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策) これらの課題を受けて改訂された指導要領では,「1. 何ができるようになるか」という観 点から,育成を目指す資質・能力が整理された。育成を目指す資質・能力は,2009年に公示 された高等学校学習指導要領(文部科学省, 2009a)(以下,「現行指導要領」という。)では, 「知識・技能」,「思考力,判断力,表現力その他の能力」および「主体的に学習に取り組む態 度」として整理されていた(第1章第1款の1)。一方,改訂指導要領では,各学校で育む 資質・能力および評価の観点が次の3つの柱で整理された(2018b)。すなわち,「知識及び 技能」,「思考力,判断力,表現力等」および「学びに向かう力,人間性等」である。

(14)

改訂指導要領における「学びに向かう力,人間性等」は,現行指導要領における「主体的 に学習に取り組む態度」を含んだ概念とされ,自己の感情や行動を統制する力,自分の思考 や行動を客観的に把握し認識するいわゆる「メタ認知」に関わる力,多様性を尊重する態度, 協働する力,持続可能な社会づくりに向けた態度,リーダーシップやチームワーク,感性, 優しさや思いやり等,幅広く含まれるものとされている。 また,「思考力,判断力,表現力等」は,学校教育法第30条第2項において,知識及び 技能を活用して課題を解決するために必要な力と規定されている。現行指導要領でも,この 「思考力,判断力,表現力等」を育成する観点に基づき,生徒の言語活動を充実させること (第1章第5款の5の(1))や「観察・実験,レポートの作成,論述」(文部科学省, 2009b) などの学習活動を充実させることが示されていた。 指導要領の改訂に向け,平成28年12月の中央教育審議会答申において,思考,判断,表 現の過程は大きく3つに分類され,以下のようにまとめられた。 ・物事の中から問題を見いだし,その問題を定義し解決の方向性を決定し,解決方法 を探して計画を立て,結果を予想しながら実行し,振り返って次の問題発見・解決に つなげていく過程 ・精査した情報を基に自分の考えを形成し,文章や発話によって表現したり,目的や 場面,状況等に応じて互いの考えを適切に伝え合い,多様な考えを理解したり,集団 としての考えを形成したりしていく過程 ・思いや考えを基に,意味や価値を創造していく過程 これを受け,改訂指導要領の第1章第3款の1には以下のように示されている。 (前略)知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成した り,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向 かう過程を重視した学習の充実を図ること。 このように改訂指導要領では,「思考力,判断力,表現力等」の育成のために,これまでの レポートや論述といった成果物による指導だけでなく,自らの学びを振り返ったり,学んだ ことに対して自分なりの意味や価値を創造したりする,学習の過程を充実させた指導の必要 性が示された。理解したこと,考えたこと,疑問に思ったこと,気づいたこと,さらには認 知プロセスなどまでを「外化」(溝上, 2018)することによって—すなわち書く・話す・発表 する活動を通して表現するによって—思考力を育て,深い学びを実現しようとする指導の必 要性が強く主張されている。 一方,育成を目指す資質・能力の整理により,評価の在り方にも変化が求められた。平成 28年12月の中央教育審議会答申で整理された課題の「5. 学習評価」に関して,改訂指導要 領では「教育課程の実施及び学習評価について独立した項立て」(文部科学省, 2018a)が行

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われている。現行指導要領と改訂指導要領における評価に関する記述を,表1.5 にまとめて 示す。 表1.5 新旧指導要領の学習評価に関する記載 現行指導要領(2009a) 改訂指導要領(2018b) (12) 生徒のよい点や進歩の状況など を積極的に評価するとともに,指 導の過程や成果を評価し,指導の 改善を行い学習意欲の向上に生か すようにすること。 2  学習評価の充実 学習評価の実施に当たっては,次の事 項に配慮するものとする。 (1) 生徒のよい点や進歩の状況などを 積極的に評価し,学習したことの 意義や価値を実感できるように すること。また,各教科・科目等 の目標の実現に向けた学習状況を 把握する観点から,単元や題材な ど内容や時間のまとまりを見通し ながら評価の場面や方法を工夫し て,学習の過程や成果を評価し, 指導の改善や学習意欲の向上を図 り,資質・能力の育成に生かすよ うにすること。 (2) 創意工夫の中で学習評価の妥当性 や信頼性が高められるよう,組織 的かつ計画的な取組を推進すると ともに,学年や学校段階を超えて 生徒の学習成果が円滑に接続され るように工夫すること。 高等学校学習指導要領比較対象表【総則】(2018c)から表の一部を抜粋。 現行の指導要領では,「学習評価」は指導の改善および学習者の意欲向上に活用されるも のと位置付けられている。中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会が2010年3月 24日に示した「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(文部科学省中央教育審議会 初等中等教育分科会教育課程部会, 2010)では,「学習評価は学習指導のPDCAサイクルの 中で適切に実施されることが重要である」とされた。教師や学校は,学習評価を通じて学習 指導の在り方を見直したり,個に応じた指導の充実を図ることや,学校における教育活動を 組織として改善したりしていくことが求められた。一方,児童生徒における学習評価の位置

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づけについては,「自らの学習状況に気付き,その後の学習や発達・成長が促される契機」と なるべきものとされた。また,学習評価は,保護者にとっても「家庭における学習を児童生 徒に促す契機」になるとされた。このように,現行指導要領においても「学習評価」は単に 学習の結果としての評価を表すだけではなく,教師および児童生徒にとっての形成的な役割 を内包したものとして捉えられてきた。 改訂指導要領では,このような「学習評価」の形成的な役割を継承しつつ,「学習評価」を 「資質・能力の育成」に活用すること,また「意義や価値を実感」させることなど,アセスメ ント結果をより一層活用することが示された。文部科学省(2018a)では,アセスメントの 結果を活用することで,「生徒自身が自らの学習を振り返って次の学習に向かうことができ るようにする」ことが重要であり,これを実現するために「学習活動としての評価」を工夫 することも大切であるとされた。 学習としての評価活動の在り方については,現行指導要領においても示されてきた。たと えば「振り返り」については,現行指導要領の第1章第5款の5の(5)において,「生徒が 学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れる」こと が示されている。その目的は,「学習の見通しを立てて予習」したり,「学習した内容を振り 返って復習」したりする「習慣の確立」であるとされた。また,見通しを立てたり振り返っ たりすることで「学習内容の確実な定着」を図ることも目的とされた(文部科学省, 2009b)。 一方,改訂指導要領における「振り返り」の目的は,学習内容の定着や学習習慣の確立だ けにとどまらない。振り返りを通して,問題の発見や解決の見通しを立てること,自己を客 観的に把握する力をつけること,学んだことに対して自分にとっての意味や価値を創造する ことなど,幅広い活用および力の育成を目指している。特に総合的な探究の時間において は,体験したことや収集した情報を言語により分析したりまとめたりすることで,自らの学 びを意味付けたり価値づけたりして自己変容を自覚し(文部科学省, 2018d),次の学びへと つなげていくことが求められている。このような意味で「振り返り」を捉えると,取り組ん だ行動を単に記録することや,テストの問題が解けたかどうかを確認する行為だけでは不十 分である。例えば,「外化」を行って自らの学びを可視化したり,振り返りを通して知識を 「構造化」(田村, 2018)したり,「教訓帰納」(市川, 1991)によって転移可能な教訓を引き 出したりといった,学びを深め,学んだことに価値を見い出すような活動を学習の過程に計 画的に取り入れていくことが必要である。 以上のように,指導要領の改訂に伴い,高等学校では評価・アセスメントの在り方に変化 が求められている。知識や技能から人間性等まで幅広い資質・能力をアセスメントしてくた めには,いわゆるテストだけではなく,「論述やレポート,発表,グループでの話し合い,作 品の制作等といった多様な活動」をアセスメントの対象としていくことが必要となる(文部 科学省, 2018a)。さらに,自己の学びを客観的に把握し認識するための力を身につけるため に,教師による評価・アセスメントだけでなく,「生徒による学習活動としての相互評価や

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自己評価」(文部科学省, 2018a),すなわち「学習としてのアセスメント」を学習活動の中に 取り入れていくことも重要である。今後,このような学習活動としての評価,学習としての アセスメントを取り入れた授業やカリキュラムが設計されることにより,知識や技能の習得 状況のような情報だけでなく,「何を学んだか」「どのような意味づけをしたか」といった問 いに対する記述や発話といった情報が日々蓄積されていくと考えられる。

1.5

キャリア・パスポート等の導入

改訂指導要領では,特別活動においても学びの蓄積が重視されている。改訂指導要領第5 章第2の3の(2)では,キャリア形成と自己実現の指導に当たって,学習や生活の見通し を立て,学んだことを振り返る活動を行うことが示された。その際,生徒が活動を記録し蓄 積する教材等を活用することが示されている。この記述を受け,2019年3月29日,文部科 学省初等中等教育局児童生徒課(2019)は,小学校・中学校・高等学校に「キャリア・パス ポート」の活用を示した。「キャリア・パスポート」は,以下のように定義されている。 「キャリア・パスポート」とは,児童生徒が,小学校から高等学校までのキャリア教育 に関わる諸活動について,特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として, 各教科等と往還し,自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしなが ら,自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのこと(文部 科学省初等中等教育局児童生徒課, 2019) キャリア・パスポートは,2020年4月から,すべての小学校・中学校・高等学校において 実施することとされている。これにより,各教科の学習からだけでなく,特別活動からもこ れまで以上に学びの記録,とりわけ学習者による記述データが蓄積されていくこととなる。 これらの学びの記録は,何よりも学習者自身の学びに活用すべき資料である。一方,これ らの記録は教師の指導改善やカリキュラムの改善に生かすことも可能である。教師が何を教 えたかだけではなく,「生徒にどういった力が身についたか」(文部科学省, 2018a),「生徒が 何を学び取ったか」を的確に捉えることは,教師の指導改善にとって重要な取り組みである。 指導要領の改訂に伴い,これまで以上に学習者による学びの記録が日々蓄積されていく。 特に,これまで主にテストによって評価を行ってきた高等学校(浜銀総合研究所, 2018)に おいては,蓄積される「学習評価」に関する情報は量・質ともに大きく変化する。この蓄積 される貴重な情報を,学習者自身が自らの学びに活用するのはもちろんのこと,過去の教育 者が取り組んできたように,教師が自らの形成的アセスメントとして活用し,指導改善・力 量形成に活用しようとする視点を持つことが重要である。

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1.6

目標に準拠した視点と目標を超えるものを捉える視点

学びの記録を教師の形成的アセスメントに活用する際には,目標に準拠した視点と目標を 超えた部分を捉えようとする視点が重要である。 目標に準拠した評価は,集団における位置づけを見る「集団に準拠した評価」に対する概 念であり,「目標に照らしてその実現状況を見る評価」として定義されている(文部科学省 教育課程審議会, 2000)。現在,各教科においては,学習状況を分析的に捉える「観点別学習 状況の評価」と,総括的に捉える「評定」とを,学習指導要領に定める目標に準拠した評価 として実施することが明確にされている(平成28年12月の中央教育審議会答申)。目標に 準拠した評価にはいくつかの在り方が提案されており,たとえば要素的な到達目標を設定し その習得・未習得を点検する「ドメイン準拠評価」(domain-referenced assessment),ルー ブリックのようなパフォーマンスの熟達の程度の判断を軸にした「スタンダード準拠評価」 (standard-referenced assessment)が挙げられる(石井, 2015)。いずれにしても,目標と して示された内容の確実な習得を図ることが重視されたアセスメントであり,学習者が目標 のどこまで到達しているか,目標を達成するためには今後どのような支援が必要かを検討す るためには有効なアセスメント方法と言える。 しかし一方,実践に先立って明確化した教育目標に基づいて授業や評価を行うことが,目 標達成に向けて学習者を効率的に追い込んでいくことになるのではないか,といった批判も 投げかけられてきた(石井, 2015)。目標にとらわれた評価では,目標を超えて実現される学 習の多様な価値をアセスメントすることはできないのではないか。 このような批判に対して,根津朋美(2006)は「目標にとらわれない評価」(goal-free evaluation)による視点の必要性を提起している。教師が意図したことと学習者が学んだこ ととの間にはズレがある。しかしながら,あらかじめ設定した目標にとらわれて評価すれ ば,当初の目標からはみ出す部分にある豊かな可能性や,働きかけによって生み出された意 図せざる影響を見逃す可能性がある。そこで,目標にとらわれずに幅広く学習者の実態や可 能性を捉える視点も重要となる。 指導の改善を目的とするならば,目標に準拠した視点と目標にとらわれない視点は,どち らか一方が正しいのではなく,どちらもともに重要な視点と言える(石井, 2015)。学習の 途中においては,目標に準拠した視点は有用である。目標に準拠した視点によって,学習者 がどこまで達成しているか,目標まで何を達成すればよいかを明確に把握することが可能と なる。また,把握した到達具合は,学習者個人に合った支援や補充,および指導の改善に活 用することが可能である。一方,単元の終了時には,目標に準拠した視点とともに目標を超 えた部分を捉える視点も重要となる。教師が想定していなかった学習者の豊かな学びや指導 の効果に関する知見は,指導や教材,カリキュラムを見直し改善するための貴重な資料とな

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る。したがって,授業をアセスメントしていく際には,目標に準拠した視点だけでなく,目 標を超えた部分を捉えようとする視点も重要である。 本論文ではここまで,指導要領の改訂により学習者による学びの記録がこれまで以上に蓄 積されること,および目標を超えた部分を捉えようとする視点の重要性について述べた。こ れらのことを踏まえ,以下では,今後大量に蓄積される学びの記録,とりわけ記述データを 分析する手法を検討する。分析に際しては,目標に準拠した視点と目標を超えた部分を捉え る視点,双方を生かす方策を検討する。

2

計量テキスト分析

テキストデータを分析する手法については,自然言語処理分野を中心に多くの研究がなさ れている。本論文では,学習者の記述データから教師の振り返りに活用しうる知見を得る手 法として,テキストデータを量的・質的両面から分析・集約する,「計量テキスト分析にお ける接合アプローチ」(樋口, 2004a)に着目した。計量テキスト分析は,秋庭・川端(2004) によって提案された,大量の質的データ,特にテキストデータを分析する手法である。樋口 耕一(2004a)は,秋庭・川端の分析手法を拡充する形で,接合アプローチを提案した。こ こでは初めに,樋口が提案した計量テキスト分析における接合アプローチを概観する。次 に,接合アプローチを用いた先行研究を概観する。また,樋口が作成したソフトウェア「KH Coder」を用いた教育分野における先行研究を紹介し,それぞれの研究において明らかにで きた点とできていない点を指摘する。

2.1

計量テキスト分析とは

計量テキスト分析は,社会調査における人々の自由記述・インタビュー記録・新聞記事な どをはじめとしたさまざまなテキスト型データを分析するための方法である。秋庭・川端 (2004)は,インタビューをテープ起こししたテキストをコンピュータ・プログラムによっ てコーディングする方法を示し,計量テキスト分析と名付けた。秋庭・川端は,計量テキス ト分析を,「インタビューデータなどの質的データ(文字データ)をコーディングによって 数値化し,計量的分析手法を適用して,データを整理,分析,理解する方法」と述べている。 なお,質的研究では,文章を構成する概念をコード,コードの上位概念をカテゴリ,具体的 な文字データに対してコードを割り当てることをコーディングと呼ぶ(寺島, 2011)。 樋口(2004a)は,秋庭・川端の計量テキスト分析を拡充する形で新たなアプローチ方法, 「接合アプローチ」を提案した。のちに樋口(2006)は,計量テキスト分析を以下のように 定義し直している。

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計量テキスト分析とは,計量的分析手法を用いてテキスト型データを整理または分析 し,内容分析(content analysis)を行う方法である。計量テキスト分析の実践にお いては,コンピュータの適切な利用が望ましい。 内容分析は,「テキストのある特定の属性を客観的・体系的に同定し,推論を行うための 方法」(寺島, 2011)である。内容分析は,テキストの中で何が語られているのかを知るため に活用されており,「新聞・雑誌・メディアなどにおいて,特定の単語が何回出てくるかを 基に分析したのがはじまり」(寺島, 2011)とされている。データを量的分析することによっ て,質的データの新たな知見を探っていく方法といえる。 内容分析では,分析対象となる質的なデータに対しコーディングを行うことによって,ど のコードが割り当てられた文章が多かったか,あるいは少なかったか,また,特定のコー ドが割り当てられた文章の数はどのように変化しているのかといった量的分析を行ってい く。このコーディングを行うには,「特定の記述がデータ中にあればそのデータを特定のカ テゴリ(またはコード)に分類すること」といった基準を作成する必要がある。樋口(2006, 2014)は,この基準のことを「コーディングルール」と呼んだ。 内容分析は,質的データを量的に分析しようとする試みではあるが,その手順においては 質的な作業も必要となる。質的な作業が必要になる場面としては,たとえばコーディング ルールを用いて量的分析を行う前の段階,すなわちコーディングルールを作成する段階があ る。この段階での質的作業は,「量的分析の結果を大きく左右するような重要な作業」(樋口, 2006)である。また,量的分析がいったん完了した後の段階においても,質的な作業が必要 となる。数値をまとめた表であれ,視覚的な形で表現されたグラフであれ,解釈を行って結 論を導くのは人間である。表やグラフから解釈を行ったり,解釈を行うために元のデータを 読み返したり,あるいは,行った解釈が妥当なものであるかどうかを確認するためにその他 のデータにあたるといった作業は,人間の手による質的な作業である。さらに,この段階で 新たな発見が得られれば,量的分析を行う前の段階にまで戻って,コーディングルールの作 成からやり直すということも起こりうる。樋口(2014)は,このような「質的な作業と量的 な作業を交互に,そして相乗的に行うようなプロセスこそ,内容分析の考え方を実践に活か すもの」であると述べている。内容分析においては,量的方法と質的方法との関係は,「互 いに相容れない,断絶した,排他的なもの」(樋口, 2006)ではなく,循環的なものであり, それぞれが新たな洞察をもたらす関係といえる。 樋口は,計量テキスト分析の手法を拡充するにあたり,この内容分析の考え方を重視した。 そして,この考え方を実際の分析に活用するにあたり,コンピュータの利用を推奨した。樋 口(2006)は,コンピュータの利用を推奨する理由を3点挙げている。第1の理由として, データがいくら大量にあったとしても処理することができることを挙げている。コンピュー タを用いれば,大量のデータの中から特定の条件を満たすデータを検索したり,データの典

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型例や特異例を抽出するということが瞬時に可能となる。量的な分析から質的な側面を探索 する上で,検索や抽出は大いに有用な機能である。第2の理由は,コーディングに必要な時 間と労力を削減できる点である。質的な作業と量的な作業とを交互に繰り返す上で,コー ディング作業で消耗することなく,コーディングルールの作成・統計的分析・質的分析に打 ち込むことが可能となる。第3の理由は,信頼性を維持することができる点である。コー ディングルールを明確にすれば,一貫したルールでデータを分類することが可能となる。ま た,他の研究者の分析結果と自らの分析結果を直接比較したり,複数のコーディングルール を同じデータに適用して比較するといったことも容易に行うことができる。 樋口(2004a)は,内容分析の考え方を継承しつつ,秋庭・川端(2004)の示した計量テ キスト分析を拡充する形で,コンピュータの有用性を活かした新たなアプローチ,「接合ア プローチ」を提案した。また,接合アプローチを実現するために必要なソフトウェア「KH Coder」を製作した(樋口, 2003, 2004a)。 コンピュータを用いたテキスト型データの計量的分析は,内容分析の一手法として非常に 早くから行われており,1960年代の後半にはすでに2つの異なるアプローチが登場してい る(樋口, 2006)。すなわち,Dictionary-basedアプローチとCorrelationalアプローチであ る。Dictionary-basedアプローチとは,「分析者が作成した基準(コーディングルール)に したがって言葉や文書を分類するためにコンピュータを用いるアプローチ」(樋口, 2006)で ある。一方,Correlationalアプローチは,「同じ文書の中によく一緒にあらわれる言葉のグ ループや,あるいは,共通する言葉を多く含む文書のグループを多変量解析によって自動的 に発見・分類するためにコンピュータを用いるアプローチ」(樋口, 2006)である。 Dictionary-basedアプローチでは,分類基準,すなわちコーディングルールを作成する ことで,分析者のもつ理論仮説や問題意識を分析に反映させて分類を行う。もう一方の Correlationalアプローチでは,分類をクラスター分析のような多変量解析によって行うこと で,分析者の理論仮説や問題意識による影響を排除して,客観的に分析を進めていく。コー ディングを行わずに,多変量解析を積極的に応用するこのタイプの方法は,特にデータの探 索ないし要約に関して非常に優れている(樋口, 2004a)。「これら2つのアプローチはそれぞ れに独自の発展をとげており,その結果として半世紀近くを経た現在でも,両者の間には著 しい乖離が見られる」(樋口, 2014)。そのため,従来の計量的分析では,Dictionary-based アプローチかCorrelationalアプローチという,「考え方の大きく異なる2つのアプローチの うちどちらかを用いることが多かった」(樋口, 2014)。 しかし,これら2つのアプローチは,「それぞれに一長一短があり,互いに補い合うべき アプローチ」(樋口, 2004a)とみなすことができる。Dictionary-basedアプローチは,分析 者の理論や問題意識を自由に操作化し,テキスト型のデータの様々な側面に自由に焦点を絞 ることができるという利点を持つ一方,意図的ないしは無意識のうちに,分析者の理論や仮 説にとって都合の良いコーディングルールが作成されてしまう危険性がある。この客観性に

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かかわる問題は,Correlationalアプローチを併用することで補うことが可能である。多変 量解析によってデータ全体を要約・提示したうえでコーディングルールを公開するという手 順を踏めば,「信頼性・客観性を大きく向上させることができる」(樋口, 2014)。 一方,Correlationalアプローチでは,「多変量解析に大きく依存する以上,理論や問題 意識を自由に操作化し追究することはできない」(樋口, 2004a)。たとえば,クラスター 分析を行った際,研究者が想定していた概念を示すクラスターが形成されなかった場合, 「そういった概念にもとづく仮説は検証・追究できない」(樋口, 2014)。このような点は, Dictionary-basedアプローチのデータの様々な側面に自由に焦点を絞ることができる利点 によって補うことが可能である。 このような2つのアプローチの利点を生かし,樋口(2004a)は次の2段階からなる「接 合アプローチ」を提案した。 段階1 Correlationalアプローチにならい,多変量解析を用いることで,分析者のもつ理 論や問題意識の影響を受けない形で,データを要約・提示する。 段階2 Dictionary-basedアプローチにならい,コーディングルールを作成することで,明 示的に理論仮説の検証や問題意識の追求を行う。 これらの2段階からなる接合アプローチを実行するために,分析用ソフトウェア「KH

Coder」(樋口, 2003, 2004a)を開発した。KH Coderには大別して3つの機能が備わって いる。多変量解析によるデータ要約のための機能,コーディングルールを扱う機能,データ 検索の機能の3つである。以下では,これらの3つの機能を用いて接合アプローチによる分 析を行う手順を概説する。 段階1は,テキスト型データから,データ全体の概要を探る段階である。データから自動 抽出した語を用いて,恣意的になりうる操作を極力避けつつ,データの様子を探っていく。 段階1における分析手順の概要を図2.1にまとめて示した。初めに,テキスト型データか ら,データ中に含まれる語を自動抽出する。次に,各々の語の出現数をリストにするなどの 整理を行い,データ全体に多く出現していた語を確認する。また必要に応じて,階層的クラ スター分析,多次元尺度構成法,共起ネットワーク,あるいは自己組織化マップなどに代表 される多変量解析によるグラフィカルな表現を参考にし,語と語の結びつきや内容が似た文 書の群を探っていく。さらに,質問紙調査であれば「性別」や「年代」といった自由記述以 外のデータ,新聞記事の分析であれば「掲載時期」「掲載面」などを変数としてデータの群 分けを行い,データの部分ごとの特徴を探っていくことも可能である。 このように,段階1では極力恣意的な操作を避け,計量的な分析によってデータ全体の特 徴を明らかにしていく。これに対して段階2は,分析者の観点や問題意識,理論仮説などを 基に,データの中から主体的かつ明示的にコンセプトを取り出し,分析を深めていく段階と なる。段階2における分析手順の概要を図2.2にまとめて示した。

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図2.1 接合アプローチによる分析手順の段階1の概略。樋口(2014)を基に筆者作成。 段階2では,まず段階1の量的分析で得られた知見と,分析者の観点・問題意識・理論仮 説といった質的知見を組み合わせ,文書分類のためのルール,すなわちコーディングルー ルを作成する。なお KH Coderは,機械学習によって分類を行う機能も備えている。した がって,コーディングルールが作成できない場合には,分類見本を示すことで教師ありの機 械学習を実行することも可能である。コーディングルールが作成できた場合は,テキスト型 データにコーディングを施し,各文書にコードを自動付与する。その上で,コードの出現数 を集計・整理し,多く出現していたコードを確認する。また,多次元尺度構成法などの多変 量解析を用いて,コード間の結びつきを探っていく。段階1で得られた外部変数を用いれ ば,たとえば性別によるコード出現数の差や,テキストの部分ごとの特徴を探ることも可能 である。 この2つの段階による分析過程は,一度だけ行われるものではない。計量的分析によって 特徴のある語やコードが見つかった場合,随時,語の本文での使われ方を確認したり,コー ドや語の組み合わせを検索したりすることで,元のデータを質的に分析するだけでは見落と されてしまっていた新たな発見が得られる可能性がある(図2.3)。また,そこで得られた 新たな知見を加えてコーディングルールを再構成し,再びコーディングを行って結果を得る ことも可能である。このように接合アプローチでは,内容分析の「量的分析と質的分析の循 環」という考え方を継承し,量的・質的分析を相互に行うことで分析を深めていく。 分析用ソフトウェア「KH Coder」は,この循環のプロセスをスムーズに進めるために開

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図2.2 接合アプローチによる分析手順の段階2の概略。樋口(2014)を基に筆者作成。 図2.3 接合アプローチによる分析において随時行われる取り組み。樋口(2014)を基に筆者 作成。 発されたツールである。コンピュータを活用したアプローチにより,大量の質的データを分 析することが可能となる。第I部で述べたように,今後の高等学校では質的データである学 習者による学びの記録が蓄積されていくことが見込まれる。コンピュータを活用することに よって,蓄積する学びの記録を効率よく要約し,そこから教育の改善に有用な知見を引き出

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すことが可能となる。また,接合アプローチでは,自動要約と異なり,分析を行う研究者や 教師の視点・問題意識が生かされる点も重要である。接合アプローチであれば,学習者の記 述を単に要約するだけでなく,教師がねらいとしている観点や学習者の置かれている文脈を 考慮して分析していくことが可能となる。さらには,分析の過程も重要な意味を持つ。最終 的な分析結果を見るだけでなく,量的・質的の視点を循環しながら分析を深めていく過程こ そ生徒を深く理解する過程であり,学習者の学びから教師が学びを得る取り組みである。

2.2

接合アプローチに関する先行研究

樋口は,KH Coderを用いていくつかの研究を行っている。ここではそのうち,KH Coder の使用手順を示すために行われた研究,コーディング結果の妥当性を検証した研究,および テキスト型の資料と自由記述の傾向を比較した研究,計3つの研究を概観する。 樋口(2003)は,夏目漱石の小説『こころ』を題材とした分析の手順を詳細に記述するこ とで,独自開発したKH Coderを紹介し,そのKH Coderを用いた計量テキスト分析の方 法論を提案した。分析対象は小説『こころ』の全文である。まずは,作品全体を通して頻繁 に出現している言葉や,上・中・下それぞれの部で特徴的な言葉から,作品の構成・特徴を 探った。その上で,「人の死」に焦点を当て,その原因となりうる言葉を表す語が作品全体 のどの部分で頻出しているのかという集計を行うことで,人の死が作品中でいかに描かれて いるかを探索した。その結果として,「先生」という登場人物の自殺が突然・不自然になさ れているという指摘は,必ずしも当てはまらないことを確認した。 KH Coderは幾度かのバージョンアップが行われており,樋口(2003)時点での手順と現 在のKH Coderを用いた手順は幾分異なる。そのため,樋口(2014)は,樋口(2003)で 行われた手順を再整理している。そこで本論文では,樋口(2014)にまとめられた手順を概 観する。樋口(2014)で行われた分析の手順を,まとめて図2.4に示す。 初めに,分析に使用するテキストデータファイルを用意する(1-a テキストデータファ イルの作成)。KH Coderは,txtファイルやcsvファイルを処理することができる。樋口 (2003)では,分析対象として小説『こころ』の全文が入力されたtxtファイルを用意した。 このテキストファイルをそのまま分析に用いると,どこからどこまでが1つの章なのかと いったことが,KH Coderには区別できない。そこで,H1およびH2タグを使ってテキス トファイルの見出し部分にマーキングを行った(1-b タグ付け)。テキストファイルの「上」 「中」「下」それぞれの見出しをH1タグで括ることによって,データ全体が「上」「中」「下」 という3つの部分に分かれていることを示した。また,3つの部分の内側がさらに複数の章 に分かれていることを,「一」「二」「三」といった章の見出しをH2タグで括ることで示した。 このような処理を行ったテキストファイルをKH Coderに登録する。登録後,KH Coder の「前処理」機能を実行すると,自動的に形態素解析が実行され,実際の分析が行えるよう

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  1. テキストデータの準備 1-a テキストデータファイルの作成 1-b タグ付け 2. KH Coderにおける前処理 2-a「前処理」機能の実行 2-b 強制抽出する語の指定 3. 段階1 3-a 多く用いられていた語の集計 3-b それぞれの部で特徴的な言葉の集計 3-c 元データの確認 4. 段階2 4-a コーディングルールの作成 4-b 部ごとの集計 4-c 章ごとの詳細な集計 5. 考察   図2.4 樋口(2003, 2014)における『こころ』の分析手順。樋口 (2014)を基に筆者作成。 になる(2-a 「前処理」機能の実行)。ただし,KH Coderの初期設定では,「K」のような 1文字のアルファベットは抽出されない。助詞や接続詞などと同様に,分析には利用しにく い語として無視されてしまう(樋口, 2014)。しかし,『こころ』における「K」は,重要な 登場人物を表す名称であり,分析に利用したい語である。このように,きわめて重要な言葉 であるにもかかわらず無視されてしまったり,あるいは形態素解析の結果,1つの単語とし てうまく抽出されなかった語がある場合には,その言葉を「強制抽出する語」として指定す る(2-b 強制抽出する語の指定)。その後,再び前処理を行うことで,指定された語も分析に 利用可能となる。以上がKH Coderを用いて分析する際の前処理の手順である。 ここからの手順は,樋口(2014)によって提案された接合アプローチの段階1に当たる手 順である。樋口はまず,『こころ』の中で多く出現している語にどんなものがあったのかを 確認した(3-a多く用いられていた語)。頻出150語のリストを示し,その中で「死ぬ」とい う語が「特殊でインパクトの強い語であるにもかかわらず」(樋口, 2003)多く使われている ことに着目した。次に,もう少し詳しく『こころ』の構成を調べるために,上・中・下それ ぞれの部を特徴づける語を上位10ずつリストアップして表としてまとめた。抽出に当たっ ては,各語の出現頻度ではなく,各語と部のJaccardの類似性測度を算出し,この値が大き

表 1.3 目的によるアセスメントの分類
表 1.4 授業をアセスメントする取り組み 取り組み 主体 対象 目的 授業評価アンケート (選択式) 児童生徒,保護者 教師の行動 授業の質のチェック 授業チェックリスト 授業参観者 教師の行動 授業の質のチェック 研究授業,授業検討 会 同僚や他校の教員・専門家などからな る授業参観者 教師の行動・意図・子どもたちの発言等に対する対応・意 思決定,子どもたち が達成した学習や 獲得した力 授業の質の吟味 ストップモーション 方式による授業検討 会 授業者,同僚や他校の教員,専門家 撮影された授業に おけ
図 2.1 接合アプローチによる分析手順の段階1の概略。樋口( 2014 )を基に筆者作成。 段階2では,まず段階1の量的分析で得られた知見と,分析者の観点・問題意識・理論仮 説といった質的知見を組み合わせ,文書分類のためのルール,すなわちコーディングルー ルを作成する。なお KH Coder は,機械学習によって分類を行う機能も備えている。した がって,コーディングルールが作成できない場合には,分類見本を示すことで教師ありの機 械学習を実行することも可能である。コーディングルールが作成できた場合は,テキス
図 2.2 接合アプローチによる分析手順の段階2の概略。樋口( 2014 )を基に筆者作成。 図 2.3 接合アプローチによる分析において随時行われる取り組み。樋口( 2014 )を基に筆者 作成。 発されたツールである。コンピュータを活用したアプローチにより,大量の質的データを分 析することが可能となる。第 I 部で述べたように,今後の高等学校では質的データである学 習者による学びの記録が蓄積されていくことが見込まれる。コンピュータを活用することに よって,蓄積する学びの記録を効率よく要約し,そこから教育
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参照

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