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内部障害における理学療法の基礎理論

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はじめに  呼吸器は外界から肺を通じて血管内に酸素を取りこみ,循環 器は酸素が十分に満ちた血液を必要臓器や組織に送り,そこで 有酸素代謝により ATP を産生し,組織の活動および運動のエ ネルギーとして供給している。つまり,内部(呼吸・循環・代 謝*1)障害は,大きく捉えるとエネルギー供給系の問題であり, 運動の実施機関(器官)や制御機関(器官)は正常であっても, エネルギーが足りないために運動が障害されていると考えられ る。一方,内部障害の評価,病態の解釈,治療には生理学や物 理学の基本的な法則が利用されていることが多く,これらを理 解して診療にあたることは理学療法を行う上で有用であると考 える。  そこで本稿では,主にエネルギー供給系の面から関連する生 理学・物理学の理論を交えながら,内部障害の病態や理学療法 のアプローチのあり方について解説する。 エネルギー供給と決定要因1) 1.有酸素能力を決定する要因  身体運動のエネルギーのほとんどは有酸素代謝により得られ るため,酸素摂取量はエネルギー供給量を意味しており,一般 的に下記の式で表される。

V̇O2= SV × HR ×(CaO2− Cv-O2) 式 1    V̇O2: 酸 素 摂 取 量,SV:1 回 心 拍 出 量,HR: 心 拍 数,

CaO2:動脈血酸素含有量,Cv-O2:混合静脈血酸素含有量  さらに CaO2と Cv-O2を変形すると次のように整理できる。 V̇O2≒ SV × HR × 1.34 × Hb ×(SaO2− Sv-O2) 式 2*2    SaO2:動脈血酸素飽和度,Sv-O2:混合静脈血酸素飽和度, Hb:ヘモグロビン量 有酸素能力のもっともよい指標は最大酸素摂取量(V̇O2max) であり,有酸素による最大のエネルギー供給量を示している。 この Fick の式を基に V̇O2maxに影響する因子について考える と,下記のように整理できる。 ・SV × HR:十分に血液を送ることができるか(心臓因子) ・SaO2:動脈血の酸素を濃くできるか(呼吸因子) ・Hb:酸素を運ぶための血液は十分にあるか(血液因子) ・Sv-O2:組織(主に筋)で十分に酸素を利用できるか(骨格 筋因子)*3 この式を基に酸素供給・利用の面から呼吸・循環器疾患の運動 制限因子および主な病態との関連について表 1 にまとめた。 2.呼吸生理の公式からみた低酸素血症の原因  いくつかの呼吸生理の公式を整理すると下記の式が導出さ れる。 式 3*4    PaO2:動脈血酸素分圧,FIO2:吸入気酸素濃度,K:定数 (0.863),V̇E:分時換気量,VD:死腔量,VT:1 回換気量, VD/VT:死腔換気率,A-aDO2:肺胞気−動脈血酸素較差  この式から低酸素血症の原因について考えると,酸素が薄い (FIO2の低下),運動,発熱,呼吸仕事量の増加など酸素消費 量の増加(V̇O2の上昇),換気量の低下(V̇Eの低下),浅い呼 吸(VD/VTの上昇),肺の障害(A-aDO2の開大)などによっ て低酸素血症が生じることが理解できる。健常者では運動時に 必要な換気量が得られ,肺の障害もないため高強度の運動をし ても低酸素になることはないが,呼吸不全患者では肺自体の障 害(A-aDO2の開大)に加え,十分な換気が得られないために 容易に低酸素血症をきたしてしまう。呼吸不全患者の低酸素血 症の対策として下記のように考えることができる。 ・FIO2を上昇させる :酸素の吸入 ・V̇O2を増加させない : 運動強度を低下させる,動作要領の 指導など ・V̇Eを増加する : 換気を増やす(呼吸筋力の増強,胸 郭の柔軟性の改善,機械的補助換気 など) ・VD/VTを低下させる :ゆっくりとした大きい呼吸の指導   腹式呼吸,口すぼめ呼吸(残気量 が減少し VT上昇)など ・A-aDO2を減少させる : 各々の原因(拡散障害,換気−血流 比不均等分布,右左シャント)の 治療   薬物治療(気管支拡張剤,利尿薬, 抗生剤など),気道クリーニングなど

内部障害における理学療法の基礎理論

田 平 一 行

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ベーシックセミナー

Basic Theory of Physical Therapy in Patients with Cardiovascular, Pulmonary and Metabolic Disease

**

畿央大学健康科学部理学療法学科

(〒 635‒0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中 4‒2‒2)

Kazuyuki Tabira, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, Kio University

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理学療法学 第 41 巻第 4 号 194 3.内部障害患者の運動耐容能の低下の原因(表 1 参照)  運動耐容能のもっともよい指標は V̇O2maxであり,これには 心臓,肺,血液,骨格筋が影響している。V̇O2maxの低下は, この要因のいずれかに問題があることを意味している。  呼吸器疾患の場合は,基本的には SaO2の低下(低酸素血症), または SaO2を維持するために換気が亢進し,息切れが生じる ことによって V̇O2maxが低下している。低酸素血症のおもな要 因としては,換気障害,拡散障害,換気−血流比不均等分布, 右左シャントが挙げられる。換気障害は,大きく 1 回換気量と 呼吸数の増加制限に分けられる。1 回換気量の増加制限は,肺 実質の減少(肺結核後遺症など)や呼吸筋力の低下(神経筋疾 患など),動的肺過膨張による予備吸気量の低下(COPD など) 等によって生じる。呼吸数の増加制限は,気道閉塞(COPD, 喘息など)や呼吸筋力の低下(神経筋疾患など)等によって生 じる。また,浅速呼吸などで見られる換気効率の低下も肺胞換 気量を低下させることとなり,換気障害に繋がる。拡散障害は, 表 1 呼吸循環器障害における運動制限因子と主な病態 呼吸因子 心臓因子 SaO2,PaO2が低下する a.換気障害(肺胞低換気)  ガス交換に関与するのは,肺胞換気量(V̇A)であり,下 記の式で表される.  V̇A = (VT ‒ VD) × RR = V̇E (1 ‒ VD/VT) ①1回換気量(VT)を上げられない ・肺実質が少ない:肺結核後遺症,肺外科後など ・呼吸筋力が弱い:神経筋疾患をはじめ,多くの呼吸器疾患 ・肺実質が硬い :間質性肺炎,ARDS など ・胸郭が硬い  :強直性脊椎炎,肺結核後遺症など ・予備吸気量が少ない:COPD,喘息(発作時)など   動的肺過膨張により運動時にさらに減少する ②呼吸数(RR)を上げられない ・気道の狭窄・閉塞:COPD,喘息など ・呼吸筋力低下:神経筋疾患をはじめ,多くの呼吸器疾患 ③換気の効率が悪い:ほとんどの呼吸器疾患 ・浅速呼吸: 死腔換気率(VD/VT)が上昇し肺胞換気量が 低下       呼吸仕事量の増加 ・換気当量(V̇E/V̇O2)の増加   酸素を得るために多くの換気が必要 ・呼吸筋疲労:

  呼吸筋疲労値(Tension Time Index: TTdi)の増加

b.拡散障害  肺胞から毛細血管への拡散過程での障害 ・肺間質の肥厚:間質性肺炎など ・肺間質の浮腫:ARDS,うっ血性心不全など c.換気−血流比の不均等分布  肺血流量と肺胞換気がうまくマッチングしていない状態 ・下側肺障害,肺外科後,COPD などほとんどの呼吸器疾患 d.右左シャント  血液が肺循環で直接ガス交換に関与することなく体循環に 移動した状態 ・肺内シャント:喀痰の多い疾患         気管支拡張症,下側肺障害,肺炎など ・心内シャント:心房中隔欠損,心室中隔欠損など(重症のみ) SV,HR を増やせない a.SV を増やせない  SV = 拡張末期容量−収縮末期容量 ①心室が十分に拡張しない(拡張末期容量が小さい) ・心筋の伸張性低下: 心筋の変性,線維化など(心筋梗塞後 など) ・拡張期が短い  :著明な頻脈 ・前負荷(容量負荷)が低い:脱水,肺性心(左室側)    脱水は前負荷が減少し心拍出量が低下する.肺高血圧や 肺性心(右心不全)は右室の拍出量が減少するため左室の 前負荷が低下し,十分な拡張が得られない. ②心室が十分に収縮しない(収縮末期容量が大きい) ・収縮力低下: 心筋の虚血・変性・線維化(狭心症,心筋梗 塞など) ・後負荷(圧負荷)が高い:高血圧(左室),肺高血圧(右室)    右室の後負荷は肺動脈圧であり,肺血管床の減少や低酸 素性の肺血管攣縮などにより上昇し,右室の拍出量が低下 する.左室の後負荷は動脈圧であり,高血圧は左室の拍出 量低下に繋がる.高血圧は心仕事量が増加するため左心不 全となり,肺静脈圧が上昇し,肺うっ血,肺水腫へと移行 しやすい. ・不整脈: 心室性期外収縮(VPC),心室頻拍(VT),心室 細動(Vf)など   不整脈により重要臓器への血流が減少する b.心拍数が上げられない ・年齢による制限:最大心拍数= 220 −年齢 ・洞結節機能障害:冠動脈疾患,心筋症など ・房室ブロック :2 度,3 度房室ブロック ・薬物     :β ブロッカーなど 血液因子 Hb(ヘモグロビン)が少ない a.酸素を運ぶ血液が足りない:貧血   喀血,手術後,栄養障害など ※ 多血症:多くの酸素を取りこむには有利であるが,血管 抵抗が増えて循環的には不利 骨格筋因子 SV-O2,StO2を下げられない a.酸素抽出能力が低い ・筋肉量,酸化酵素,筋毛細血管密度の減少,Type I 線維 の減少などで低下する ・廃用症候群,低酸素ストレス,炎症性サイトカインなどが 関与 VT:1回換気量,VD:死腔換気量,RR:呼吸数,VD/VT:死腔換気率,V̇E:分時換気量,V̇O2:酸素摂取量,SV:1 回心拍出 量,HR:心拍数,Sv-O2:混合静脈血酸素飽和度,StO2:骨格筋酸素飽和度,ARDS:急性呼吸窮迫症候群

※ 換気障害は PAO2の低下により PaO2が低下するため,A-aDO2の開大は認めない.その他は A-aDO2の開大がみられ,ほぼ 肺自体の障害と考えてよい.

※ PaCO2は肺胞換気量によって決定されるため,換気障害では PaCO2が上昇するⅡ型の呼吸不全となる.その他の原因では PaCO2の上昇は起こらない.実際は原因がひとつであることは少なく,他の原因に換気障害が加わりⅡ型呼吸不全になること が多い.

文献 1)より引用(一部改変)

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肺間質の肥厚(間質性肺炎など)や浮腫(うっ血性心不全,急 性呼吸窮迫症候群など)等が,右左シャントは,肺内シャント (喀痰の多い疾患,気管支拡張症,重症肺炎など)が主な原因 になる。換気−血流比不均等分布は,部分的にはほとんどの呼 吸器疾患で生じており,低酸素血症の原因となる。呼吸器疾患 の運動耐容能低下の主な原因は換気障害や低酸素血症ではある が,肺性心や肺高血圧のため心拍出量を増加できないという循 環器の問題や,骨格筋での酸素抽出能低下といった骨格筋の問 題も影響している。   循 環 器 疾 患 患 者 は, 基 本 的 に は 心 拍 出 量 の 低 下 に よ る V̇O2maxの低下が生じる。その原因は,1 回拍出量の低下(収 縮障害,拡張障害,不整脈など)や心拍数の増加制限(徐脈性 不整脈,β ブロッカーなど)である。循環器疾患であっても, 肺うっ血による拡散障害によって SaO2が低下したり,骨格筋 の酸素抽出能が低下することもあり,これらも V̇O2maxの低下 に影響している。  糖尿病患者(代謝疾患)の場合は,インスリンの分泌障害や インスリン抵抗性によって糖質が組織で十分に利用できないた め,酸素供給はあっても ATP の産生が不足することになる。 このとき,糖質の代わりに脂質代謝が亢進するとケトン体が増 加し,代謝性アシドーシスとなり運動を制限(病態が悪化)す ることになる。糖尿病患者では,糖代謝の問題だけでなく血管 障害や神経障害も合併しやすいため,これらによる循環障害や 骨格筋の酸素抽出能の低下も認められ,V̇O2maxの低下に影響 していると考えられる2)。  式 2,式 3 を基に酸素摂取量の面から,内部障害における運 動耐容能低下に対する理学療法アプローチについてまとめた (図 1)。 4.内部障害における骨格筋の機能異常  COPD では,筋肉量の減少,有酸素能力の高い Type Ⅰ線維 の割合の減少,酸化酵素の減少,筋毛細血管密度の減少など酸 素抽出能力の減少が報告されている3)。原因として,廃用症候 群,低酸素ストレス,炎症性サイトカイン,ステロイドホルモ ンなどの関与が考えられている。この骨格筋における酸素抽出 能の低下も,前述のごとく V̇O2maxが低下の要因となる。この ような筋肉量の減少,Type Ⅰ線維の割合の減少,筋毛細血管 密度の減少など酸素抽出能力の低下は,循環器疾患4)でも糖 尿病5)でも同様に報告されており,内部障害の多くは骨格筋 における有酸素能の低下が生じていると考えられる。  図 2 は運動中の HR,SpO2,筋酸素飽和度(StO2),筋酸素 抽出率の変化を示したものである6)。症例はいずれも 70 歳代 の男性 COPD 患者で,肺機能障害は同程度である。症例 1 に 比べて症例 2 は運動中に SpO2の低下が著しいにもかかわらず, V̇O2peak(運動耐容能)はあきらかに高い値を示している。その 原因は骨格筋の有酸素能の違いによるものと推察される。つま り,症例 1 はさほど低酸素血症は見られないが,筋の酸素抽出 能が低いため心拍数の上昇で代償して酸素供給をしている。一 方,症例 2 は低酸素血症をきたしているが,それ以上に筋の酸 素抽出能が高く酸素を利用できているため,心拍数の上昇も少 なく,運動に必要な酸素を摂取できていると考えられる。した がって,症例 1 では筋持久力トレーニングなど筋の有酸素能を 高めるトレーニングをすべきである。一方,症例 2 では呼吸練 習や呼吸筋トレーニング,胸郭可動域訓練,酸素吸入など低酸 素に対するトレーニングや対策が有効であると考えられる。 呼吸器系(換気系)に関する基礎理論  気道内の空気の移動(気流)は,基本的には電気分野におけ るオームの法則(気流の発生圧=気流量×気道抵抗)が成り立 つ。すなわち,呼吸筋力の弱化(神経筋疾患等),気道抵抗の 増加(喘息,COPD,喀痰の貯留等)では気流量が低下して痰 の喀出が困難になる。また排痰を考える際は,流体におけるエ 図 1 各種アプローチの作用部位 V̇O2:酸素摂取量,SV:1 回心拍出量,HR:心拍数,Hb:ヘモグロビン量,SaO2:動脈 血酸素飽和度,Sv-O2:混合静脈血酸素飽和度,PaO2:動脈血酸素分圧,FIO2:吸入気酸 素濃度,K:定数(0.863),V̇E:分時換気量,VD:死腔量,VT:1 回換気量,VD/VT:死 腔換気率,A-aDO2:肺胞気−動脈血酸素較差 文献 1)より引用

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理学療法学 第 41 巻第 4 号 196 ネルギー保存則であるベルヌーイの定理(式 4)が応用できる。 P + 1 2 ρν 2 + ρgh = const 式 4    P:圧力,ρ:密度,g:重力加速度,h:高さ,v:流速, const:一定  この各項は単位体積辺りのエネルギーを表しており,次元が 圧力と一致するため,第 1 項を静圧,第 2 項を動圧,第 3 項を 位置圧という。気流が物体に与える力(F)は,動圧と物体の 断面積(S)と,物体の形状によって決まる係数(抗力係数: CD)で決定され,下記の式で表すことができる7)。 F = 1 2 CDρν 2S 式 5  ここで気道断面積(A)の部分に喀痰が存在するときに,排 痰体位角度(θ)を取って,流速(v)の咳嗽をした場合の喀痰 が受ける力とそれに抵抗する力の関係を図 3 に示した。  痰が下流方向に動く力は,気流によって受ける力と重力に よって受ける力の和になり,それに抵抗する力は,気道壁と 物体の摩擦力[摩擦係数(μ)と抗力(N)の積]で表される。 体位を取ることは,重力によって動かす力(mg sinθ)が加わ り,抵抗する力(μmg cosθ)を弱める方向に作用することに なる。  また,気流によって受ける力は流速の 2 乗に比例するため, 流速を高めることは痰の喀出に効果的であると考えられる。流 速は気流量を断面積で除して算出*5されるため,痰のある部 分の気道は狭くなった方が痰の排出には有効である。強制呼出 時や咳嗽時は,気管支の第 5 分岐部より口側は,気道内圧より も胸腔内圧が高くなるため気道が狭窄する現象(動的気道狭 窄)が生じ,同じ流量であっても下流(口側)の方が流速は高 くなる。つまり,Huffi ng や咳嗽は,第 5 分岐部より中枢気道 の痰の排出に有効であることが理解できる8)。また,痰が少な い場合はなかなか喀出できないことを臨床上よく経験する。こ れは,式 5 の喀痰の断面積(S)が小さい場合は,受ける力も 少なく有効に作用しないことが予測される。この場合,剪断力 の影響が大きいと考えられるが,剪断力も流速が高いほど,気 道径が小さいほど強くなるため,この点からも動的気道狭窄は 痰の喀出に有効と思われる。また抵抗力に関係する摩擦係数 (μ)は,気道の状態や喀痰の性状と関連するため,去痰薬の使 用や加温・加湿療法によって減少させることができる。  以上,排痰法について力学的に解説したが,実際の気道内は 層流だけでなく乱流も発生し,気道抵抗は一定(層流)の成分 と流量に比例(乱流)する成分からなるとされ,オームの法則 がすべて適応できるのではない9)。また痰の移動には,線毛運 図 2 運動負荷試験中の V̇O2に影響する因子の変化

●症例 1:年齢 74 歳,% VC 65.5%,FEV1.0% 47.3%,V̇O2peak, 10.9 ml/kg/min ○症例 2:年齢 72 歳,% VC 69.3%,FEV1.0% 39.6%,V̇O2peak, 17.0 ml/kg/min

HR:心拍数,SpO2:経皮的動脈血酸素飽和度,StO2:骨格筋の酸素飽和度,% VC:対標準肺活量, FEV1.0%:1 秒率,V̇O2peak:最高酸素摂取量,筋酸素抽出率=(SpO2 ‒ StO2)/SpO2× 100(%)

図 3 排痰法実施中に喀痰が受ける力

CD:抗力係数,ρ:密度,ν:流速,m:喀痰の質量,g:重 力加速度,S:喀痰の断面積,θ:角度,A:気道の断面積

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動や側腹気道,critical opening pressure,二層流など他の要 因も多数関連する8)。これら制限はあるものの,基本的にはこ れら物理学的原則は成立するため,各要因を考慮してアプロー チすることは有用であると考える。 循環器系における基礎理論 1.血圧調節の考え方(図 4)  血液の流れ(循環)にもオームの法則が適応可能であり,平 均血圧=血流(心拍出量:心拍数× 1 回拍出量)×全末梢血管 抵抗で考えることができる。したがって血圧を上げるために は,血流の増加と末梢血管の収縮(ドーパミン,ノルアドレナ リン等)を図り,下げるためには,心拍出量の低下(β ブロッ カー等),末梢血管の拡張(Ca 拮抗薬,ACE 阻害薬,α ブロッ カー等)を図ればよい。なお,ドーパミン製剤は薬物の種類や 量によって心収縮力や血管への作用が異なるため,注意が必要 である。また水分量(循環血液量)も血圧に関与する。水分量 の増加(補液)は,心臓の拡張末期容量を増加させるため 1 回 心拍出量が増加し,心拍出量(血流)の増加,血圧の上昇に繋 がる。逆に利尿薬を用いると,1 回拍出量が減少し,血圧を低 下させる方向に作用する10)。 2.動脈のコンプライアンス(柔らかさ)の影響  動脈硬化は,動脈壁へのコレステロールの沈着,貪食したマ クロファージの浸潤・蓄積によってプラークの形成が進む粥状 硬化が主な原因である。粥状硬化による内腔の狭窄は血管抵抗 を上昇させ,内膜の硬化は動脈のコンプライアンスを低下させ る。血管抵抗の増加は,前述のごとくオームの法則より高血圧 に繋がるが,動脈のコンプライアンスも血圧に大きく影響す る。コンプライアンス(C)は,圧力の変化(ΔP)に対する容 量の変化(ΔV)で決定される。 C = ΔV/ΔP → ΔP = ΔV/C 式 6  この式から脈圧について解釈できる。すなわち 1 回拍出量 (ΔV)が多いと脈圧(ΔP)は高くなり,また,動脈のコンプラ イアンスが低下している場合は,同じ 1 回拍出量でも脈圧は大 きくなるのである。すなわち動脈硬化の見られる患者では,脈 圧が大きくなりやすいことに注意が必要である11)。このよう に,オームの法則やコンプライアンスの考え方は,患者の病態 や薬物のコントロール状況の把握に有用である。 代謝系における基礎理論 1.酸塩基平衡の考え方  糖尿病患者では高血糖による細胞内脱水や脂質代謝の亢進に 伴うケトン体の産生によってアシドーシスを起こすことがあ る。一方,呼吸器疾患患者などで肺胞低換気が生じると PaCO2 が増加してアシドーシスを呈する。これらは,ヘンダーソン・ ハッセルバルヒの式で解釈することができる。 pH = 6.1 + log HCO3 ‒ 0.03 × PaCO2 式 7  PaCO2は 肺 で,HCO3‒は 腎 臓 で 調 整 さ れ る た め,PaCO2 の上昇によって pH が低下する病態を呼吸性アシドーシス, HCO3‒の低下によって pH が低下する病態を代謝性アシドー シスと呼ぶ。糖尿病の場合は,ケトン体の増加により血液中の HCO3‒が消費されるため,HCO3‒が低下して代謝性アシドー シス(ケトアシドーシス)となる。このヘンダーソン・ハッセ ルバルヒの式は,模式的に図 5 のように表すことが可能で,病 態を理解するために有用である。ケトアシドーシスの治療は, インスリンによる血糖の調整や脱水の補正が中心であるが, pH < 7.0 の重症アシドーシスの場合は,重炭酸ナトリウム (メイロン ® 等)によってアシドーシスを補正することがあ る12)。式 7 や図 5 で理解できるように,薬剤によって HCO3‒ 図 4 血圧の調節 ACE:アンジオテンシン変換酵素,ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

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理学療法学 第 41 巻第 4 号 198 を上昇させて pH を上昇させているのである。また,ケトアシ ドーシスの際の症状としてクスマウル大呼吸が見られる。これ も式 7 や図 5 における PaCO2を過換気によって低下させて pH を補正していることがわかる。この酸塩基平衡の考え方は,呼 吸性アシドーシスにも適応することが可能であり,病態の把握 や治療の理解に繋がるものと思われる。  最後に,疾患毎の特徴やリスク,治療法を単に覚えるのでは なく,基本的な原理・原則を理解することは,患者の病態や治 療を深く理解することに繋がり,それによって適切なリスク管 理,理学療法アプローチなど臨床応用が可能になるものと感じ ている。読者の一部でも興味をもって実践していただければ幸 いである。なお,病態を解釈するための基礎理論は多数あるた め,本稿では代表的なものに限って解説し,病態に関連した症 状については誌幅の関係上割愛した。 *1 エネルギー供給と関係のない代謝も多数存在する。 *2 1 g の Hb は約 1.34 ml の酸素と結合するため,CaO2,Cv-O2は下 記のように表される。

CaO2 = 1.34 × Hb × SaO2 + 0.003 × PaO2,

Cv-O2 = 1.34 × Hb × Sv-O2 + 0.003 × Pv-O2 第 2 項は 1 項に比べてあきらかに小さいため,式 2 が成立する。 *3 最大運動中は全血流量の約 88%が骨格筋へ供給されるため,便宜 上骨格筋因子とした。 *4 PAO2=(760 ‒ 43)× FIO2− PaCO2/R 式① PaCO2= K × V̇CO2/V̇A 式②  (K:定数 0.863) R = V̇CO2/V̇O2 式③, V̇A = V̇E (1 ‒ VD/VT) 式④, PaO2 = PAO2− A-aDO2 式⑤ 式①に式②,式③を代入し,式②の V̇Aを式④で置き換える。最後 に式⑤を用いて PaO2を表す形に整理すると式 3 が導き出される。 *5 管内の流速は中央部がもっとも高く壁側は低く放物線状になり, 部位によって異なる。平均流速は v = fl ow/A で算出できる。 文  献 1) 田平一行:心肺機能障害の理学療法介入におけるクリニカルリー ズニング.理学療法ジャーナル.2009; 43: 115‒124. 2) 石黒友康:糖尿病は運動器の障害である.理学療法学.2013; 40: 297‒301.

3) Skeletal muscle dysfunction in chronic obstructive pulmonary disease: A statement of the American Thoracic Society and European Respiratory Society. Am J Respir Crit Care Med. 1999; 159: S1‒S40.

4) Duscha BD, Annex BH, et al.: Deconditioning fails to explain peripheral skeletal muscle alterations in men with chronic heart failure. J Am Coll Cardiol. 2002; 39: 1170‒1174.

5) 窪田哲也,原 一雄,他:インスリン抵抗性と骨格筋.Modern Physician.2011; 31: 1316‒1318.

6) Tabira K, Horie J, et al.: The relationship between skeletal muscle oxygenation and systemic oxygen uptake during exercise in subjects with COPD: a preliminary study. Respir Care. 2012; 57: 1602‒1610. 7) 戸田盛和:変形する物体の力学,物理学ハンドブック.戸田盛和, 他(編),朝倉書店,東京,1986,pp. 75‒140. 8) 宮川哲夫:気道クリアランス法,理学療法 MOOK 4 呼吸理学療 法(第 2 版).黒川幸雄,他(編),三輪書店,東京,2009,pp. 248‒267. 9) West JB:換気のメカニクス,ウエスト呼吸生理学入門 正常肺 編.桑平一郎(訳),メディカル・サイエンス・インターナショナ ル,東京,2010,pp. 103‒133. 10) 笠原酉介,伊澤和大,他:高血圧症合併者に対する理学療法.理 学療法学.2013; 40: 429‒437.

11) 小澤利男:脈圧測定の臨床.Arterial Stiff ness.2005; 8: 9‒15. 12) 宮崎博子:糖尿病の治療の原則と実際 高血糖・低血糖への緊急

対応.MEDICAL REHABILITATION.2010; 117: 59‒70.

図 5 酸塩基平衡の考え方

図 3 排痰法実施中に喀痰が受ける力

参照

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