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4. 事業プロフィールは 事業会社が事業を展開する市場における潜在的なリスクとリターン 競争環境 ( 産業リスク ) カントリーリスク 事業会社が有する競争上の強みと弱み( 競合的地位 ) で構成される 事業プロフィールは 事業会社が各々のスタンドアローン評価の水準で負うことのできる財務リスクの量に

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*本稿は、2013 年 11 月 19 日付英語版「Criteria | Corporates | General: Corporate Methodology」を翻訳し たものです。ただし、格付け規準リポートの和訳版では、付随的な情報で現行格付け規準の理解に直接影響 しない事項の一部(日本国外での問い合わせ先や当初公表後の沿革など)は、原則として訳出を省略してい ます。それらについては英語版でご覧になれます。 【訂正】本和訳版を2018 年 5 月 22 日に再公表した際、段落 93 から 251 がずれていたため、2018 年 10 月 30 日に訂正しました。 1. 本稿はスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(以下「S&P」)が一般事業 会社と公益企業に適用する格付け手法を示したものである。本格付け規準は共通の枠組みに 従って分析プロセスを体系化し、事業会社のスタンドアローン評価と発行体格付けを導出す る手順を解説するものである。

2. 本稿は、2011 年 2 月 16 日付「General Criteria: Principles Of Credit Ratings」(和訳版:2011 年 3 月 2 日付「一般格付け規準:信用格付けの原則」)に関連している。

格付け規準の要約

3. 本格付け規準では、S&P が一般事業会社と公益企業のスタンドアローン評価と発行体格付 けを決定するために用いる手法を説明している。S&P の評価は、各社の事業プロフィールと 財務プロフィール、およびその結果として導出されるスタンドアローン評価を変えうるその 他の要因を反映している〈スタンドアローン評価の定義は、2010 年 10 月 1 日付「General Criteria: Stand-Alone Credit Profiles: One Component Of A Rating」(和訳版 2011 年 2 月 15 日付 「一般格付け規準:スタンドアローン評価は格付けの一要素」)を参照〉。本格付け規準は、 事業会社のスタンドアローン評価と発行体格付けの決定方法を明確にするものであり、さま ざまな分析要因をより具体的に詳述している。また、本格付け規準は発行体格付けを決定す る一環として、これらの要因をどう用いるかについて明確な指針を示している。S&P は、本 格付け規準が事業会社の信用リスクの基礎的な分析に対する S&P のアプローチを明確にす る枠組みを市場に提供すると考えている。

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2013 年 12 月 20 日

格付け規準|事業会社|一般:

事業会社の格付け手法

日本における問い合わせ先: 柴田宏樹、東京 電話03-4550-8437 吉村真木子、東京 電話03-4550-8368

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 2 4. 事業プロフィールは、事業会社が事業を展開する市場における潜在的なリスクとリターン、 競争環境(産業リスク)、カントリーリスク、事業会社が有する競争上の強みと弱み(競合 的地位)で構成される。事業プロフィールは、事業会社が各々のスタンドアローン評価の水 準で負うことのできる財務リスクの量に影響を与えるとともに、当該事業会社の予想される 経済的成功の土台を形成するものである。S&P は、産業リスク、カントリーリスク、競合的 地位の評価を組み合わせて、事業プロフィールの評価を決める。 5. 財務プロフィールは、経営陣が自社の事業プロフィールと財務リスクの許容度に照らして 下す決定によってもたらされる結果である。これには、資金調達の方法やバランスシートを 維持・構築する方法に関する経営陣の意思決定が含まれる。また、事業会社が自社の事業プ ロフィールを踏まえて、実現できるキャッシュフローとその金融債務との関係性も反映して いる。本格付け規準では、キャッシュフロー/レバレッジの分析を用いて、事業会社の財務 プロフィールの評価を決定する。 6. 次に、事業プロフィールの評価と財務プロフィールの評価を組み合わせて、アンカー値を 決定する(表 3 参照)。追加的な格付け要因によって、アンカー値を調整することがある。 追加的な要因とは、多角化とポートフォリオ効果、資本構成、財務方針、流動性、経営陣と ガバナンスである。本格付け規準では、類似格付け分析を最後の分析要因として、最終的な スタンドアローン評価を決める。

7. 本格付け規準は、「Key Credit Factors (KCF)」と称する業界別の格付け規準によって補 足される。KCF では各業界に関連する産業リスクの評価を解説し、事業会社全体の格付け規 準に部分的に優先する、業界独自の規準を特定することがある。例として、流動性の規準で は、例外的に安定性または変動性の高い業界に属する会社を評価するために、KCF において、 流動性の規準で規定されたものとは異なる基準を特定することがあると言及している。また、 KCF では、分析における 1 つ以上の要因について、業界独自の規準を定義づけることがある。 例えば、規制対象の公益企業の競合的地位の分析は、一般事業会社の競合的地位の評価手法 とは異なる。規制対象の公益企業の KCF では、S&P が規制対象の公益企業の競合的地位の評 価に使用する規準を解説している(2013 年 11 月 19 日付「Criteria | Corporates | Utilities: Key Credit Factors For The Regulated Utilities Industry」を参照、和訳版は 2014 年 3 月 27 日付「格付 け規準|事業会社|公益企業:Key Credit Factors:規制対象の公益企業」)。

本格付け規準の適用範囲

8. 本手法は、一般事業会社の発行体格付けに世界的に適用される。個別債務格付けを決める 手法に関しての詳細な情報は、2016 年 12 月 7 日付「Criteria | Corporates | General: Recovery Rating Criteria For Speculative-Grade Corporate Issuers」と 2017 年 9 月 21 日付「Criteria | Corporates | General: Reflecting Subordination Risk In Corporate Issue Ratings」(和訳版:2017 年 12 月 22 日 付「格付け規準|事業会社|一般:事業会社の債務格付けに劣後リスクを反映させるための 規準」)(訳注:同格付け規準は 2018 年 3 月 29 日付「Criteria | Corporates | General: Reflecting Subordination Risk In Corporate Issue Ratings」に取って代わられている)を参照されたい。以下 に挙げる独特の特徴を持つセクターについては、異なる分析の枠組み、または分析要因の 1 つまたはそれ以上の大幅な変更が必要となるため、本手法は適用されない。そのセクターと は、プロジェクト・ファイナンスの事業体、プロジェクト開発主体、市況商品取引業者、投

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 3 資持ち株会社や保有する株式の売買から利益の最大化を目指す企業、日本の総合商社、企業 の証券化、非営利団体・協同組合組織(農業協同組合を除く)、部分的に保有する株式から 主にキャッシュフローを得ているその他の事業体である。 9. 本段落は削除された。 10. 本段落は削除された。

手法

A. 事業会社の格付けの枠組み

11. 事業会社の分析手法は、共通の枠組みに従って分析プロセスを体系化し、いくつかの要因 に分けて分析することで、すべての重要な問題を検討できるようにした。まず、事業会社の 事業プロフィールを分析し、次に財務プロフィールを評価し、2 つの評価を組み合わせてそ の事業会社のアンカー値を決める。さらに、アンカー値の結論を変える可能性のある 6 つの 要因を分析する。 12. 本格付け規準では、事業会社の事業プロフィールの評価を決めるために、産業リスク、カ ントリーリスク、競合的地位の評価を組み合わせる。キャッシュフロー/レバレッジの分析 によって、財務プロフィールの評価が決まる。次に事業プロフィールの評価と財務プロフィ ールの評価を組み合わせて、アンカー値を決める。一般に、「bbb 格」以上のアンカー値の場 合には、分析では事業プロフィールのウエートが高くなり、「bb 格」以下のアンカー値の場 合には、財務プロフィールのウエートが高くなる。 13. アンカー値が決まったら、追加的な要因を用いてアンカー値を調整する。その要因とは、 多角化とポートフォリオ効果、資本構成、財務方針、流動性、経営陣とガバナンスである。 各要因の評価によって、アンカー値は 1 ノッチ、またはそれ以上、引き上げられたり、引き 下げられることもあれば、全く影響を受けない場合もある。その結果は各要因の評価および 評価区分(ディスクリプター)の形で表され、それがアンカー値に適用するノッチ数を決め る。 14. 本格付け規準で求めている最後の分析要因は、類似格付け分析であり、ここで事業会社の 信用力の特性についての総合的な見解に基づき、場合によってはアンカー値を 1 ノッチ引き 上げたり引き下げたりする。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 4 事業会社の格付け規準の枠組み 15. 事業プロフィールの 3 つの分析要因は、通常、定性的評価と定量的情報を合わせたもので ある。定性的評価では、事業会社の競争優位性などの、競合的地位の評価に用いるリスク要 因を特定する。定量的情報には、例えば、産業リスクを評価する際に検討する過去の売上高 と利益の循環性などが含まれる。また、定量的情報には、競合的地位の評価で検討する収益 性・収益の変動性と水準も含まれることがある。事業プロフィールは、「1」「極めて強い (excellent)」、「2」「強い(strong)」、「3」「中位(satisfactory)」、「4」「やや弱い (fair)」、「5」「弱い(weak)」、「6」「非常に弱い(vulnerable)」――のいずれかに評 価される。 16. 財務プロフィールを決めるためにキャッシュフロー/レバレッジを評価する際には、分析 で定量的指標に注目する。財務プロフィールは、「1」「極めて強い(minimal)」、「2」「強 い(modest)」、「3」「中位(intermediate)」、「4」「やや非保守的(significant)」、「5」 「非保守的(aggressive)」、「6」「極めて非保守的(highly leveraged)」――のいずれかに 評価される。 17. グループや政府から影響を受ける場合には、スタンドアローン評価と、同評価と発行体格 付けとのノッチ差を決める支援の枠組みを組み合わせることで、発行体格付けが決まる。そ れにより特別な影響が発行体格付けに取り込まれる。グループや政府の影響に関する手法に ついては、2013 年 11 月 19 日付「General Criteria: Group Rating Methodology」(和訳版:2014 年 3 月 14 日付「一般格付け規準:グループ格付け手法」)と 2015 年 3 月 25 日付「General Criteria: Rating Government-Related Entities: Methodology And Assumptions」(和訳版:2015 年 11 月 12 日付「一般格付け規準:政府系機関の格付け:手法と想定」)を参照されたい。 18. 政府(政府系機関の場合)またはグループによる継続的な支援またはマイナス影響はスタ ンドアローン評価に織り込まれる(スタンドアローン評価の格付け規準参照)。こうした継 続的な支援またはマイナス影響は産業リスクやカントリーリスクの評価に影響を及ぼさない ものの、事業リスクや財務リスクのその他のいずれの要素にも影響を及ぼしうる。こうした 継続的な支援またはマイナス影響は、例えば、国特有の産業(national industry)の分析、競合

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 5 的地位のその他の要素、財務プロフィール、流動性評価、類似格付け分析に影響を及ぼす場 合がある。 19. 本格付け規準を適用する結果、スタンドアローン評価が導出されるが、このスタンドアロ ーン評価は、発行体格付けを決定する際、事業会社に影響を与えるソブリン格付けと外国為 替規制リスク評価(T&C 評価)の制約を受けることがある。最終的な発行体格付けが、該当 するソブリン格付けまたは T&C 評価より高くなるためには、会社は 2013 年 11 月 19 日付 「General Criteria: Ratings Above The Sovereign--Corporate And Government Ratings: Methodology And Assumptions」(和訳版:2014 年 4 月 28 日付「一般格付け規準:ソブリン格付けを上回 る格付けの手法と想定:事業法人・金融法人・公的部門」)で規定された条件を満たさなけ ればならない。 1. 事業プロフィールの評価の決定 20. 本格付け規準では、カントリーリスク、産業リスク、競合的地位の評価を組み合わせて、 事業会社の事業プロフィールの評価が決まる。事業会社の信用力の評価では、その市場にお ける強みと弱みを把握することが不可欠である。このような強みと弱みが、期日通りに債務 を履行するためにキャッシュフローを創出する事業会社の能力を決定づける。 21. 信用力分析において不可欠な産業リスクは、事業会社が事業展開する市場の相対的な健全 性と安定性に対処するものである。産業リスクは、「1」「リスクが非常に低い(very low risk)」、 「2」「リスクが低い(low risk)」、「3」「リスクは中程度(intermediate risk)」、「4」「リ スクがやや高い(moderately high risk)」、「5」「リスクが高い(high risk)」、「6」「リス クが非常に高い(very high risk)」――のいずれかに評価される。産業リスクの扱いは B 項で 述べる。

22. カントリーリスクは、事業会社が事業を展開する国の経済リスク、制度とガバナンスの有 効性リスク、金融システムリスク、支払いの文化と法の支配リスクに対処するものである。 カントリーリスクは、「1」「リスクが非常に低い(very low risk)」、「2」「リスクが低い (low risk)」、「3」「リスクは中程度(intermediate risk)」、「4」「リスクがやや高い(moderately high risk)」、「5」「リスクが高い(high risk)」、「6」「リスクが非常に高い(very high risk)」――のいずれかに評価される。カントリーリスクの扱いは C 項で解説する。 23. 競合的地位の評価では、業界を動かす主要な要素を利用したり、関連するリスクをより効 果的に軽減するのに最も有利な立場にある会社で、優れたバリュープロポジション(訳者注: 企業が顧客に提供する独自の価値)に欠けていたり、より産業リスクに脆弱な会社よりも、 競争優位性と高い事業プロフィール評価を達成している会社を特定する。競合的地位は、「1」 「極めて強い(excellent)」、「2」「強い(strong)」、「3」「中位(satisfactory)」、「4」 「やや弱い(fair)」、「5」「弱い(weak)」、「6」「非常に弱い(vulnerable)」――のい ずれかに評価される。競合的地位の扱いは D 項で解説する。 24. カントリーリスクと産業リスクを組み合わせた評価は、事業会社の産業別カントリーリス ク評価(Corporate Industry and Country Risk Assessment、CICRA)と称される。表 1 は、カン トリーリスクと産業リスクを組み合わせて同評価を決定する方法を示している。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 6 表1 CICRA の決定 カントリーリスクの評価 産業リスクの評価 1 リスクが 非常に低い (very low risk) 2 リスクが 低い (low risk) 3 リスクは 中程度 (intermediate risk) 4 リスクが やや高い (moderately high risk) 5 リスクが 高い (high risk) 6 リスクが 非常に高い (very high risk)

1 リスクが非常に低い(very low risk) 1 1 1 2 4 5

2 リスクが低い(low risk) 2 2 2 3 4 5

3 リスクは中程度(intermediate risk) 3 3 3 3 4 6

4 リスクがやや高い(moderately high risk) 4 4 4 4 5 6

5 リスクが高い(high risk) 5 5 5 5 5 6

6 リスクが非常に高い(very high risk) 6 6 6 6 6 6

25. CICRA を競合的地位の評価と組み合わせて、事業プロフィールの評価を導出する。表 2 は、 2 つの評価を組み合わせる方法を示している。 表2 事業プロフィールの決定 CICRA 競合的地位の評価 1 2 3 4 5 6 1 極めて強い(excellent) 1 1 1 2 3* 5 2 強い(strong) 1 2 2 3 4 5 3 中位(satisfactory) 2 3 3 3 4 6 4 やや弱い(fair) 3 4 4 4 5 6 5 弱い(weak) 4 5 5 5 5 6 6 非常に弱い(vulnerable) 5 6 6 6 6 6 注:段落 26 参照。 26. CICRA が「5」となる会社でも、以下の条件をすべて満たしていれば、事業プロフィールの 評価が「2」となる場合もある。  競合的地位の評価が「1」。  カントリーリスクの評価が「3」またはそれよりも上位。  収益性・収益の水準と変動性でみた収益性が業界平均より大幅に勝る。  顧客との関係における独特な競争優位性、業界の大多数が享受できていない高い経営効 率、または業界の大多数を大幅に上回る事業の規模・範囲・分散での優位性により、業 界内での当該事業会社の競合的地位が、業界の産業リスクに勝っている。 27. 複数の事業ラインを持つ事業会社の事業プロフィールの評価は、以下の通り、各要因(カ ントリーリスク、産業リスク、競合的地位)の評価に基づく。  カントリーリスク:売上高(販売額)または EBITDA の 5%超を生み出している国、ま たは固定資産の 5%超がある国のカントリーリスク評価の加重平均を使用する。  産業リスク:利益、売上高、または固定資産の予想額の 20%超を占める全事業ラインの 産業リスクの評価の加重平均を使用する。利益、売上高、または固定資産が業界へのエ

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 7 クスポージャーを正確に反映していない場合、他の適切な財務指標で 20%超を占める事 業の評価を用いる。  競合的地位:上記で特定した全事業ラインについて、構成要素である競争優位性、事業 の規模・範囲・分散、経営効率を評価する(D 項を参照)。次に、売上高、利益または 資産の加重平均を用いて合計し、競合的地位の予備評価を出す。収益性・収益の水準と 変動性を、当該会社の連結ベースの財務内容に基づいて評価する。さらに D.5 項にある 通り、競合的地位の予備評価を収益性の評価と組み合わせて、競合的地位を評価する。 2. 財務プロフィールの評価の決定 28. 本格付け規準では、キャッシュフロー/レバレッジの分析が、事業会社の財務プロフィー ルを評価する基礎である。キャッシュフロー/レバレッジは、「1」「極めて強い(minimal)」、 「2」「強い(modest)」、「3」「中位(intermediate)」、「4」「やや非保守的(significant)」、 「5」「非保守的(aggressive)」、「6」「極めて非保守的(highly leveraged)」――のいずれ かに評価される。キャッシュフロー/レバレッジの扱いについて詳しくは E 項で解説する。 3. 財務プロフィールの評価と事業プロフィールの評価の統合 29. 事業会社の事業プロフィールの評価と財務プロフィールの評価を組み合わせて、アンカー 値を決定する(表 3 参照)。S&P がその事業会社の資本構成は持続不可能とみている、また はその事業会社の債務が不履行となる蓋然性は現時点で高く、かつその債務の履行が良好な 事業環境、金融情勢、経済状況に依存している場合には、2012 年 10 月 1 日付「General Criteria: Criteria For Assigning 'CCC+', 'CCC', 'CCC-', And 'CC' Ratings」(和訳版:2012 年 11 月 2 日付 『一般格付け規準:「CCC+」「CCC」「CCC-」「CC」の付与の格付け規準』)を用いて、 そのスタンドアローン評価を決める。会社が「CCC+」「CCC」「CCC-」「CC」の格付け 付与の条件を満たす場合には、表 3 は適用しない。 表3 事業プロフィールと財務プロフィールを組み合わせてアンカー値を決定 財務プロフィール 事業プロフィール 1 極めて強い (minimal) 2 強い (modest) 3 中位 (intermediate) 4 やや非保守的 (significant) 5 非保守的 (aggressive) 6 極めて非保守的 (highly leveraged) 1 極めて強い(excellent) aaa/aa+ aa a+/a a- bbb bbb-/bb+ 2 強い(strong) aa/aa- a+/a a-/bbb+ bbb bb+ bb 3 中位(satisfactory) a/a- bbb+ bbb/bbb- bbb-/bb+ bb b+ 4 やや弱い(fair) bbb/bbb- bbb- bb+ bb bb- b 5 弱い(weak) bb+ bb+ bb bb- b+ b/b- 6 非常に弱い(vulnerable) bb- bb- bb-/b+ b+ b b- 30. 事業プロフィールと財務プロフィールの評価の組み合わせに 2 つのアンカー値が記載され ている場合、アンカー値は次のように決まる。  財務プロフィールが「4」またはそれより上位(すなわち「1」-「4」)の事業会社のア ンカー値は事業プロフィールの相対的な強さに基づく。事業会社の事業プロフィールの

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 8 評価は、そのカテゴリー(「強い」など)内で考えられるレンジ上の点と S&P は考えて いる。したがって、個々の会社の事業プロフィールを最終的に導き出す各評価は、それ ぞれ当該レンジの上限または下限に位置するかもしれない。事業プロフィールがそのア ンカー値のレンジ内で相対的に強い会社には、高い方のアンカー値が付与される。事業 プロフィールがそのアンカー値のレンジ内で相対的に弱い会社には、低い方のアンカー 値が付与される。  財務プロフィールが「5」または「6」の事業会社のアンカー値は財務プロフィールの相 対的な強さに基づく。キャッシュフロー/レバレッジ指標がそのアンカー値のレンジ内 でより強い会社には、高い方のアンカー値が付与される。キャッシュフロー/レバレッ ジ指標がそのアンカー値のレンジ内でより弱い会社には、低い方のアンカー値が付与さ れる。例えば、事業プロフィールの評価が「1」「極めて強い(excellent)」、財務プロ フィールの評価が「6」「極めて非保守的(highly leveraged)」の会社では一般に、有利 子負債/償却前営業利益(EBITDA)が 8 倍以上で、かつ、この高い負債水準を相殺する 要因がなければ、アンカー値が「bb+」となる。 4. アンカー値に加える調整 31. 前述の通り、本格付け規準では、多角化とポートフォリオ効果、資本構成、財務方針、流 動性、経営陣とガバナンスの分析によって、事業会社のアンカー値は上下することがある。 各調整要素の評価によって、アンカー値は 1 ノッチまたはそれ以上引き上げられたり、引き 下げられることもあれば、まったく影響のない場合もある(表 4、表 5 参照)。S&P はこれ らの評価の結論を、アンカー値に適用するノッチ数を決定する具体的な評価と評価区分(デ ィスクリプター)で表す。ただし、合計したノッチ数に基づくノッチングでもアンカー値が 「b-」より下位に引き下げられることはない〈発行体に「ccc/CCC 格」と「cc/CC 格」の スタンドアローン評価と発行体格付けを付与する際に用いる手法については、2012 年 10 月 1 日付「Criteria For Assigning 'CCC+', 'CCC', 'CCC-', And 'CC' Ratings」(和訳版:2012 年 11 月 2 日付『「CCC+」「CCC」「CCC-」「CC」の付与の格付け規準』)を参照〉。

32. 調整要素である多角化とポートフォリオ効果の分析では、事業ラインにまたがる多角化の メリットを特定する。多角化とポートフォリオ効果は、「1」「極めて多角化(significant diversification)」、「2」「ある程度の多角化(moderate diversification)」、「3」「中立的(neutral)」 ――のいずれかに評価される。本要素が事業会社のアンカー値に与える影響は、その事業プ ロフィールの評価に基づいており、表 4 に示した通りである。完全な相関関係のない複数の 収益源を持つことは(事業プロフィールの中で評価される)、事業会社のデフォルト(債務 不履行)リスクを低減する(付属資料 D 参照)。また、事業見通しが悪ければ多角化のメリ ットが大きく損なわれるため、本要素の影響は事業プロフィールの評価に基づき決定する。 多角化とポートフォリオ効果の扱いは F 項で解説する。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 9 表4 調整要素 手順 1:多角化とポートフォリオ効果がアンカー値に及ぼす影響 事業プロフィール 多角化とポートフォリオ効果 1 極めて強い (excellent) 2 強い (strong) 3 中位 (satisfactory) 4 やや弱い (fair) 5 弱い (weak) 6 非常に弱い (vulnerable) 1 極めて多角化 (significant diversification) +2 ノッチ +2 ノッチ +2 ノッチ +1 ノッチ +1 ノッチ 0 ノッチ 2 ある程度の多角化 (moderate diversification) +1 ノッチ +1 ノッチ +1 ノッチ +1 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 3 中立的 (neutral) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 33. 多角化とポートフォリオ効果の調整後に、その他の調整要素――資本構成、財務方針、流 動性、経営陣とガバナンス――の影響を決定する。表 5 に列挙した順序で、これら 4 つの調 整要素の評価を適用する。順に評価を適用する過程で、1 つの調整要素の評価によってアン カー値のレンジが変わる(または変わらない)ことがある(表中の右 4 列のなかの 1 レンジ)。 新レンジ、または列、から適切な値を選び、その次の調整要素の評価がアンカー値に及ぼす 影響を決める。この手順を最後の調整要素――経営陣とガバナンス――に辿り着くまで繰り 返す。例えば、仮に事業会社の、多角化とポートフォリオ効果の調整後でその他の要素の調 整前のアンカー値が「a」であるとしよう。資本構成の評価が「非常にネガティブ(very negative)」 であれば、アンカー値の評価は「bbb+」に 2 ノッチ下がる。次の調整要素である財務方針の 評価の影響を決めるには、アンカー値のレンジが『「bbb+」から「bbb-」』の列に移り、 適切な評価を探す。この例では「ポジティブ(positive)」とする。この評価を適用すること でアンカー値は 1 ノッチ上昇し、同レンジは『「a-」以上』に移る。流動性の評価が「高水 準(strong)」であるとすると、その評価の影響は 0 ノッチであるため、アンカー値に変化は ない。さらに経営陣とガバナンスの評価が「中位(satisfactory)」であるとすると、アンカー値 は変わらず「a-」となる(表 5 に続く例参照)。 表5 調整要素 手順 2:その他の調整要素がアンカー値に及ぼす影響 アンカー値のレンジ 調整要素/評価 a-」以上 bbb+」から「bbb-」 bb+」から「bb-」 b+」以下 資本構成(G 項参照) 1 非常にポジティブ(very positive) 2 ノッチ 2 ノッチ 2 ノッチ 2 ノッチ 2 ポジティブ(positive) 1 ノッチ 1 ノッチ 1 ノッチ 1 ノッチ 3 中立的(neutral) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 4 ネガティブ(negative) -1 ノッチ -1 ノッチ -1 ノッチ -1 ノッチ 5 非常にネガティブ(very negative) -2 ノッチ以上 -2 ノッチ以上 -2 ノッチ以上 -2 ノッチ 財務方針(H 項参照) 1 ポジティブ(positive) 経営陣とガバナンスが 「中位」以上の場合、 +1 ノッチ 経営陣とガバナンスが 「中位」以上の場合、 +1 ノッチ 流動性が「十分」以上で 経営陣とガバナンスが 「中位」以上の場合、 +1 ノッチ 流動性が「十分」以上で 経営陣とガバナンスが 「中位」以上の場合、 +1 ノッチ 2 中立的(neutral) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 3 ネガティブ(negative) -1 から-3 ノッチ(1) -1 から-3 ノッチ(1) -1 から-2 ノッチ(1) -1 ノッチ 4 FS-4、FS-5、FS-6、FS-6(マイナス) 該当せず(2) 該当せず(2) 該当せず(2) 該当せず(2) 流動性(I 項参照) 1 極めて高水準(exceptional) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 財務方針が「ポジティブ」、

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 10 「中立的」、「FS-4」、 「FS-5」の場合、 +1 ノッチ(3) 2 高水準(strong) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 財務方針が「ポジティブ」、 「中立的」、「FS-4」、 「FS-5」の場合、 +1 ノッチ(3) 3 十分(adequate) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ

4 やや低水準(less than adequate)(4) 該当せず 該当せず -1 ノッチ(5) 0 ノッチ

5 低水準(weak) 該当せず 該当せず 該当せず スタンドアローン評価の 上限「b-」 経営陣とガバナンス(J 項参照) 1 強い(strong) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 または+1 ノッチ(6) 0 または+1 ノッチ(6) 2 中位(satisfactory) 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 3 やや弱い(fair) -1 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 0 ノッチ 4 弱い(weak) -2 ノッチ以上(7) -2 ノッチ以上(7) -1 ノッチ以上(7) -1 ノッチ以上(7) 注:(1)ノッチ数はレバレッジの潜在的な増加によって決まる。(2)「H. 財務方針」(H.2 項)参照。(3)流動性が「極めて高水準」か 「高水準」を維持すると S&P が予想する場合のみ、追加的なノッチが加えられる。(4)2014 年 12 月 16 日付「Methodology And Assumptions: Liquidity Descriptors For Global Corporate Issuers」(和訳版は 2015 年 1 月 26 日付「格付け規準|事業会社|一 般:手法と想定:世界の事業会社の流動性の評価区分」)を参照。スタンドアローン評価の上限は「bb+」。(5)スタンドアローン評価 が、流動性の評価が課す上限によってキャップされ「bb+」となる場合、さらなるノッチングはない。(6)競合的地位の分析において、 強い経営陣とガバナンスのメリットを把握していない場合、この調整は 1 ノッチとなる。(7)ノッチ数は会社のリスクプロフィールに与 えるマイナス影響の大きさによって決まる。 34. 資本構成の分析では、キャッシュフロー/レバレッジの検証で対象とならない可能性のあ る事業会社の資本構成に内在するリスクを評価する。このリスクに含まれるのは、同内訳項 目の債務の為替リスク、債務の償還日構成(プロフィール)、債務の金利リスク、投資であ る。資本構成は、「1」「非常にポジティブ(very positive)」、「2」「ポジティブ(positive)」、 「3」「中立的(neutral)」、「4」「ネガティブ(negative)」、「5」「非常にネガティブ(very negative)」――のいずれかに評価される。資本構成の扱いについて詳しくは G 項で解説す る。 35. 財務方針は、キャッシュフロー/レバレッジ、資本構成、流動性の分析における標準的な 想定から得られる結論を超えるリスクに対する S&P の見方を精緻化する役割を果たす。これ らの想定は、事業会社の財務方針の長期的なリスクを、必ずしも反映しているとも、適切に 把握しているとも限らない。したがって、財務方針の評価は、所有者や経営陣の意思決定が、 事業会社の財務プロフィールの予測可能性に影響を及ぼす度合いの尺度である。財務方針は、

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 11 「1」「ポジティブ(positive)」、「2」「中立的(neutral)」、「3」「ネガティブ(negative)」、 ファイナンシャル・スポンサー所有――のいずれかに評価される。ファイナンシャル・スポ ンサー所有の会社はさらに、「FS-4」、「FS-5」、「FS-6」、または「FS-6(マイナス)」と 識別される。財務方針の扱いについて詳しくは H 項で解説する。 36. 流動性の評価では、事業会社の流動性のクッションの主な指標である資金の流れ――現金 の源泉と必要額――に注目する。また、事業会社が EBITDA に連動した財務制限条項(コベ ナンツ)に抵触する可能性を評価する。手法には、発生する蓋然性は低いが、実際に発生し た場合の影響が大きい事象を吸収する能力、銀行との関係、クレジット市場における地位、 財務リスク管理の慎重さの程度などの要因に対処する、定性分析が含まれる。流動性は、「1」 「極めて高水準(exceptional)」、「2」「高水準(strong)」、「3」「十分(adequate)」、 「4」「やや低水準(less than adequate)」、「5」「低水準(weak)」――のいずれかに評価 される。調整要素の評価や類似格付け分析にかかわらず、流動性が「やや低水準」であれば、 スタンドアローン評価は「bb+」が上限となり、流動性が「低水準」であれば、同評価は「b -」が上限となる。(事業会社の流動性の評価手法全体については、2014 年 12 月 16 日付 「Criteria | Corporates | General: Methodology And Assumptions: Liquidity Descriptors For Global Corporate Issuers」を参照、和訳版は 2015 年 1 月 26 日付「格付け規準|事業会社|一般:手 法と想定:世界の事業会社の流動性の評価区分」) 37. 経営陣とガバナンスの分析では、経営陣の戦略策定・遂行能力、組織運営能力、リスク管 理、ガバナンスの実践が、事業会社の市場競争力や財務リスク管理の厳格さ、ガバナンスの 健全性をいかに形成しているかに対処する。経営陣とガバナンスは、「1」「強い(strong)」、 「2」「中位(satisfactory)」、「3」「やや弱い(fair)」、「4」「弱い(weak)」――のい ずれかに評価される。通常、アンカー値が「bbb 格」以上であることは、経営陣とガバナンス が「強い」または「中位」であることを反映しているため、評価が追加的な影響を与えるこ とはない。反対に、経営陣とガバナンスの評価が「やや弱い」または「弱い」であれば、ア ンカー値は低くなりうる。また、本格付け規準では、より脆弱な会社の経営陣とガバナンス の評価が「強い」であることはプラス要因とみなし、それが最終的なスタンドアローン評価 にプラスの影響を与える場合がある。経営陣とガバナンスの扱いについて詳しくは、2012 年 11 月 13 日付「General Criteria: Methodology: Management And Governance Credit Factors For Corporate Entities And Insurers」(和訳版:2013 年 1 月 9 日付「一般格付け規準:手法:事業 会社と保険会社の経営陣とガバナンスに関する信用力評価要因」)を参照されたい。 5. 類似格付け分析 38. アンカー値を調整要素について調整した後、類似格付け分析に基づき、場合によっては 1 ノッチ引き上げたり引き下げて、スタンドアローン評価を導出する。類似格付け分析は事業 会社の信用リスクプロフィールを全体的に検証し、その中で、事業会社の信用力の特性を総 合的に評価するものである。「ポジティブ(positive)」と評価されれば 1 ノッチの引き上げ、 「ネガティブ(negative)」の評価ならば 1 ノッチの引き下げにつながる一方、「中立的(neutral)」 の評価はアンカー値に調整がないことを示唆する。類似格付け分析を適用することは、他の 各調整要素を用いて調整した後にも、それにより導出された格付けを微調整する必要がある ことを反映している。したがって、「ポジティブ(positive)」あるいは「ネガティブ(negative)」 と評価することは例外的ではなく、むしろ普通のこととなろう。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 12

B. 産業リスク

39. 産業リスクの分析では、事業会社がそれぞれの業界で直面するリスクに影響を与えると S&P が考える主な要因に対処する。〈2013 年 11 月 19 日付「General Criteria: Methodology: Industry Risk」(和訳版は 2014 年 1 月 30 日付「一般格付け規準:産業リスクの評価手法」) を参照〉

C. カントリーリスク

40. カントリーリスクの分析では、事業会社が事業を展開する国が影響を受けると S&P が考え る主な要因に注目する。カントリーリスクは、経済、制度とガバナンスの有効性、金融シス テム、支払いの文化と法の支配のリスクを含み、すべての格付け先事業会社の全体的な信用 リスクに影響を及ぼす。〈2013 年 11 月 19 日付「General Criteria: Country Risk Assessment Methodology And Assumptions」(和訳版:2014 年 2 月 5 日付「一般格付け規準:カントリー リスク評価の手法と想定」)を参照〉

1. 事業会社のカントリーリスクの評価

41. 以下の段落では、本格付け規準でどのように事業会社のカントリーリスクの評価が決めら れるかを説明する。カントリーリスクの評価が決まると、それを事業会社の産業リスクの評 価と組み合わせて、CICRA を導出する(A 項の表 1 を参照)。CICRA は事業会社の事業プロ フィールの 1 要因である。カントリーリスク評価が「1」「2」「3」のいずれかで表される通 り、カントリーリスクに対するエクスポージャーの水準が非常に低いから中程度であれば、 カントリーリスクは事業会社の CICRA に中立的である。しかし、カントリーリスク評価が 「4」「5」「6」のいずれかで表される通り、カントリーリスクに対するエクスポージャーの 水準がやや高いから非常に高いであれば、事業会社の CICRA はカントリーリスク評価の影 響を受ける可能性がある。 42. 1 国で事業活動を行う事業会社は、その国のカントリーリスクの評価を受ける。本格付け 規準では、複数の国にエクスポージャーのある事業会社については、EBITDA、売上高、固定 資産の予想値に基づいて、または EBITDA、売上高、固定資産が各国へのエクスポージャー を正確に反映していない場合には、他の適切な財務指標に基づいて、各国に対するエクスポ ージャーの比率を予め測定する。 43. このような会社のカントリーリスク評価を求めるには、各国に対するエクスポージャーに 基づくウエートに各国のリスク評価を乗じて、それらの数値を合計する。加重平均の計算に は、事業会社が売上高(販売額)の 5%超を生み出している国、または固定資産の 5%超があ る国を考慮し、ウエートはすべて 5%刻みに概算してから平均を出す。評価は整数で表すた め、加重平均評価が 2.2 であれば四捨五入して 2 となり、2.6 であれば 3 となる(表 6 参照)。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 13 表 6 事業会社の加重平均カントリーリスクの仮想事例 国 ウエート(%、 事業の比率*) カントリー リスク** ウエートをかけた カントリーリスク A 国 45 1 0.45 B 国 20 2 0.4 C 国 15 1 0.15 D 国 10 4 0.4 E 国 10 2 0.2 加重平均カントリーリスク評価 (整数値に四捨五入) -- -- 2 注:* EBITDA、売上高、固定資産、または他の適切な財務指標を使用。**「1」(最も低いリスク)から「6」 (最も高いリスク)までの 6 段階で表す。 44. 複数の国にエクスポージャーのある事業会社のカントリーリスク評価の計算の助けとなる ウィークリンク・アプローチは、以下の通り機能する――固定資産は高リスクの国にあるが、 製品は低リスクの国に輸出される場合、その会社は高リスクの国にエクスポージャーがある ことになる。同様に、固定資産は低リスクの国にあるが、輸出により高リスクの国で売上高 をあげており、輸出先を容易に他国に変更できない場合には、その高リスクの国に対するエ クスポージャーを測る。仕入先が高リスク国に所在し、仕入先を容易に他国に変更できない 場合、その高リスクの国に対すエクスポージャーを測る。一方、仕入先を容易に他国に変更 できる場合は、その高リスクの国に対するエクスポージャーを測らない。 45. 1 国に所在する事業会社は、次の限られた場合にカントリーリスクが軽減されることがあ る。製品の過半を輸出していて、資金調達、債務返済、流動性、または主なカウンターパー ティーとの送入金能力に影響を及ぼすその国の銀行システムに直接的なエクスポージャーが ない会社の場合、カントリーリスクの評価を 1 段階引き上げ(例えば、「5」を「4」に)、 調整後のカントリーリスク評価を決めることもある。ただし、これは内訳項目の金融システ ムリスクがその国の全体的なカントリーリスクの評価の制約要因であると S&P が考える国 にのみ適用される。このような会社では、他のカントリーリスクが軽減されることはなく、 1)経済リスクは、国内で販売する事業会社と比べて小さいものの、依然として適用される(輸 出企業では潜在的な為替変動はリスク要因である)、2)制度とガバナンスの有効性のリスク は依然として適用される(政治リスクが資産をリスクに晒しうる)、3)支払いの文化と法の 支配のリスクも依然として適用される(法的リスクが資産や国際的な契約をリスクに晒しう る)。 46. 事業会社は個々の国の情報を開示するのではなく、地域別に情報を開示することが多い。 すべての国のエクスポージャーを概算するための必要な情報を入手できない場合には、リー ジョナルリスクの評価を用いる。リージョナルリスクの評価は、カントリーリスクの調整前 評価の平均として計算され、定義された地域内の各国の国内総生産でウエートがかけられる。 本格付け規準ではリージョナルリスクを「1」〈最も高い評価(リスクは低い)〉から「6」 〈最も低い評価(リスクは高い)〉までの 6 段階で評価する。各地域に含まれる国について は、付属資料 A の表 26 を参照されたい。 47. 事業会社が国レベルでも地域レベルでもエクスポージャーを開示していない場合、各国ま たは地域についてのエクスポージャーを概算する。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 14 2. カントリーリスクの評価を分散の点から調整 48. S&P では複数の国や地域で事業を展開し、カントリーリスクへのエクスポージャーの分散 度が高い事業会社については、カントリーリスクの評価を調整する。分散により、カントリ ーリスクへのエクスポージャーは、四捨五入した加重平均値で示されるより低くなる場合が ある。事業会社が段落 49 に示す条件を満たす場合、カントリーリスク評価は調整されること がある。 49. 以下の 4 つの条件をすべて満たす場合、カントリーリスクの予備評価は分散を反映して 1 段階引き上げられる。  カントリーリスクの評価がカントリーリスクの予備評価より上位の国に本社(段落 51 で 定義)がある。  カントリーリスクの評価がカントリーリスクの予備評価と同水準あるいは下回る国に対 するエクスポージャーが、売上高、EBITDA、固定資産または他の適切な財務指標の 20% を超えていない、または超えないと予想される。  資金調達が主に持ち株会社レベルで、または持ち株会社と同程度かより良好なカントリ ーリスク環境に所在する金融子会社を通じて行われている、あるいは現地での資金調達 は非常に速やかに持ち株会社レベルで代替できる。  事業会社の産業リスクの評価が「4」かそれより上位である。 50. 1 つの国または地域に対するエクスポージャーが 75%以上ある事業会社については、カン トリーリスクの評価は強まることはなく、ほとんどの場合、その国または地域のカントリー リスクの評価と同等となる。ただし、1 つの国または地域に対するエクスポージャーが 75% 以上ある会社の残りのエクスポージャーがより高リスクの国や地域にあれば、カントリーリ スクの評価は弱まることがある。 51. 本社の所在地は会社に対する認知とその評判に影響し、ひいてはその会社の資本へのアク セスに影響する可能性があるため、全体的なリスク・エクスポージャーとの関連で考慮する。 S&P では、会社が設立された国や、上場会社については株式が上場されている国を考慮する だけではなく、「事実上」の本社の事業運営に基づき、その所在地を決める。事実上の本社 の事業運営とは、戦略的計画や資本調達など、経営管理が行われるとともに高水準の企業活 動が集中的に展開される国を指す。これらの活動が異なる国々で行われる場合、カントリー リスクの評価が最も低い国の評価を、これらの活動が行われる国々に適用する。

D. 競合的地位

52. 競合的地位は、事業会社の事業プロフィールの他の 2 つの主要な要因である産業リスクと カントリーリスクに追加したり、これらのリスクを部分的に相殺しうる会社固有の要因を包 含する。 53. 競合的地位は、事業会社の、1)競争優位性、2)事業の規模・範囲・分散、3)経営効率、 4)収益性――を考慮に入れる。1)から 3)までの要素は、事業会社の市場競争力と、収益の 持続可能性や脆弱性を形作る。収益性は、競合的地位の当初の評価を確認するか、あるいは

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 15 プラスまたはマイナスの方向に調整する。競合的地位を示す一連の特徴が業界平均より強け れば、その会社の事業プロフィールは強まる。反対に、競合的地位を示す特徴が業界平均よ り弱ければ、その会社の事業プロフィールは弱まる。 54. 本格付け規準では、競合的地位の評価方法を解説する。各構成要素を数多くの内訳項目に 基づいてどのように評価するかの指針を示す。本格付け規準では、競合的地位の予備評価を 求める際に適用するウエートの基準を定義するほか、予備評価が事業会社の収益性に基づき どのような場合に維持されたり、引き上げ、引き下げられるかについて概略を述べている。 S&P の競合的地位の分析は、定性的かつ定量的である。 1. 競合的地位の構成要素 55. 事業会社の競合的地位は、「1」「極めて強い(excellent)」、「2」「強い(strong)」、 「3」「中位(satisfactory)」、「4」「やや弱い(fair)」、「5」「弱い(weak)」、「6」 「非常に弱い(vulnerable)」――のいずれかに評価される。 56. 競合的地位の分析では、以下を検討する。  競争優位性  事業の規模・範囲・分散  経営効率  収益性 57. 競合的地位の分析では 4 つの手順を踏む。第一に、競争優位性、事業の規模・範囲・分散、 経営効率を個別に評価する(CICRA の評価で既に把握されたプラス要因やリスクは除く)。 第二に、これら 3 つの構成要素にウエートを適用して、競合的地位の予備評価となる加重平 均評価を導出する。第三に、収益性を評価する。最後に、競合的地位の予備評価と収益性の 評価を組み合わせて、競合的地位の最終的な評価を決定する。収益性は競合的地位の評価を 確認するか、プラスまたはマイナスに影響する。 58. 最初の 3 つの要素については、さまざまな内訳項目を検討することで、それぞれの相対的 な強さを評価する(表 7 参照)。定量的指標が適切でかつ入手できる場合には、それを利用 して内訳項目を評価する。しかし、各構成要素の全体的な評価は定性的である。S&P の評価 はフォワードルッキングなもので、過去のデータは、それが将来の傾向に知見を提供する範 囲内においてのみ利用する。 59. 収益性は、2 つの内訳項目を検討して評価する。すなわち、収益性・収益の水準(投下資本 利益率、EBITDA マージン、または業界固有の指標の名目上の水準の実績と予想で測定)と、 収益性・収益の変動性(EBITDA、投下資本利益率、EBITDA マージン、または業界固有の指 標の過去に観察された変動と変動の予想で測定)である。両方の内訳項目を事業会社が事業 を行う業界に照らして検討する。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 16 表 7 競合的地位の構成要素と内訳項目 要素 説明 内訳項目 1.競争優位性 (付属資料B.1 項参照) 製品やサービスの戦略 的ポジショニングと顧客 に対する魅力、ビジネス モデルの脆弱性または 持続性  戦略  差別化、独自性、製品のポジショニングとバンドリング  ブランドの評判とマーケティング  製品やサービスの質  参入障壁、顧客の切り替えコスト  技術優位性、技術力、技術の置き換えリスクへの脆弱 性、もしくは技術を置き換える能力  資産基盤の特徴 2.事業の規模・範囲・ 分散 (付属資料B.2 項参照) 事業活動の集中または 分散  製品またはサービスの分散  地理的分散  数量、市場規模と売り上げ規模、市場シェア  製品やサービスの成熟度 3.経営効率 (付属資料B.3 項参照) 資産基盤の質と柔軟 性、コスト管理とコスト構 造  コスト構造  生産プロセス  運転資本の管理  技術 4.収益性  収益性・収益の水準(投下資本利益率、EBITDA マー ジン、セクター関連指標の実績と予想値)  収益性・収益の変動性 2. 競争優位性、事業の規模・範囲・分散、経営効率の評価 60. 本格付け規準では、競争優位性と、事業の規模・範囲・分散、経営効率を、「1」「強い(strong)」、 「2」「強い/中程度(strong/adequate)」、「3」「中程度(adequate)」、「4」「中程度/ 弱い(adequate/weak)」、「5」「弱い(weak)」――のいずれかに評価する。表 8、9、10 に 各要素の評価の指針を示している。 61. 各要素の相対的な強さを評価するにあたっては、比較分析を非常に重視する。同業他社比 較は、内訳項目の評価と、それにより求められる要素の評価の背景を提供する。S&P では、 狭いサブセクターだけではなく、業界全体に照らして会社固有の特徴を検討する(付属資料 B 表 27 に列挙した業界とサブセクターを参照)。例えば、航空会社を評価する際には、他の 航空会社だけでなく、より広範な、シクリカルな運輸業界(海運やトラック運輸を含む)の 会社との比較評価を基準とする。同様に、家具製造業者であれば、家電やレジャー用品のメ ーカーを含む耐久消費財業界の会社と比較する。事業ラインが複数の業界にまたがる場合や、 業界、サブセクター、地域の格付け先企業の数が限られる場合には、比較対象を他の業界に も拡大することがある。 62. 「強い」の評価は、その要素での強さが弱さに勝っており、関連する内訳項目の評価を組 み合わせると、その事業会社の事業リスクがその業界の事業リスクの平均より低くなること を意味する。「中程度」の評価は、その要素での強さと弱さが均衡しており、関連の内訳項 目の評価を積み上げると、その会社の事業リスクがその業界の事業リスクの平均程度である ことを意味する。「弱い」の評価は、その要素での弱さが強さに勝っており、内訳項目全体 では、その事業会社の事業リスクがその業界の事業リスクの平均より高くなることを意味す る。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 17 63. 明らかに「強い」とも「中程度」ともならない要素は、「強い/中程度」と評価する場合 がある。明らかに「中程度」でも「弱い」でもない要素は、「中程度/弱い」とする場合が ある。 64. S&P は各内訳項目を検討するが、それぞれを単独に評価するのではなく、どのように相互 に強め合ったり、弱め合うのかを理解しようと努める。構成要素の評価は、その内訳項目の 相対的な強さと重要性を組み合わせたものである。どんな事業会社にとっても、1 つまたは それ以上の内訳項目が、たとえ業界内で一般的ではない項目であっても、極めて重要である 場合がある。各業界の KCF が、その業界で常に重要性の高い項目や、その業界に関係しない 項目を特定している。 65. すべての内訳項目が同程度重要であるとは限らず、ある 1 つの強みまたは弱みが、その他 すべてを上回る場合がある。例えば、新製品発売の優れた実績と高いブランドエクイティに もかかわらず、その会社の戦略が業界の変化しつつある競争環境に順応可能とみられなけれ ば、競争優位性を「強い」とは評価しないだろう。同様に、狭い製品ラインから偏って売上 高を得ている場合、S&P はそれを規模の小さい市場へのエクスポージャーのリスクを増幅す るものとみなし、したがって、構成要素である事業の規模・範囲・分散を「弱い」と評価す る。 66. 事業会社は時々、業界のダイナミクスの変化や自社の戦略の変更に伴い、製品やサービス の幅を拡大または縮小させたり、コスト構造を変更したり、新たな競争に直面したり、また は新しい規制環境に適応することが必要になる。その場合、S&P は関連するすべての内訳項 目(および要素の評価)を再評価する。 表 8 競争優位性の評価 評価 意味 指針 強い (strong)  収益の成長を下支えする要因を 1 つま たは複数有するのに加え、収益の変動 性が平均を下回ることにより、競争優 位性が高い。  長期にわたってこの優位性を維持でき る可能性が高い。  これにより、景気の悪化と、競争上の 脅威や技術的脅威に対する耐久力が 競合他社より高い。  1 つ以上の内訳項目に弱みがある場 合でも、持続的、かつ利益を伴う売上 高の伸びを生み出す他の内訳項目の 強みが、弱みを相殺して余りある。  事業戦略は、業界のトレンドや状況と極めて一致していると同時にそれらへの 順応性が高く、市場でのリーダーシップを支えている。  高度に差別化された製品やサービスを一貫して開発・提供し、製品を市場の 需要と一致させ、バンドリングによって自社のバリュープロポジションの魅力 や独自性を高めている。  製品開発、サービスの質、顧客の満足度と定着率での優れた実績が、市場シ ェアを維持または拡大する能力を支えている。  ブランドエクイティ、技術的リーダーシップ、サービスの質により、製品やサー ビスに競合他社に比べて明らかな価格プレミアムがついており、イノベーショ ンと効果的なマーケティングによって、この優位性を維持することができる。  規制や市場の特性、会社固有の強み(特許や技術、顧客との関係など)に起 因する参入障壁の恩恵を受けており、それが効果的に新たな競争上の脅威 を低減している。  新製品のパイプラインが途切れないこと、および/または従業員定着率、顧 客サービス、販売、仕入先との関係などの重要な能力の改善で裏付けられる ように、資産基盤に効果的に再投資する強い姿勢と能力を実証している。こ のような有形無形の資産が、持続的かつ利益を伴う成長の長期的な見通しを 支えている。 中程度 (adequate)  ある程度の競争優位性を有してはいる が、同業他社と比較して、優れたビジネ スモデルや永続的な恩恵を作り出すほ どではない。  競争力の牽引要因をある程度は持って いるが、すべてを兼ね備えてはいな  戦略は市場の状況にうまく適応しているが、必ずしも業界のトレンドを作るリー ダーではない。  製品・サービスの差別化とポジショニングの能力は、特段優れているわけでも 標準以下でもない。  ブランドエクイティまたは技術力のポジショニングにより、製品には競合ブラン ドと比較して、価格プレミアムまたは優位性がない。

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 18 い。一部の要因は事業の長期的な存 続可能性を支え、その結果、景気後退 期や競争激化時にも、収益性と収益の 変動性は平均的となるだろう。しかし、 このような牽引要因は、会社の弱みや 他の要因の持続性の欠如により、部分 的に相殺される。  ある程度の参入障壁の恩恵を受けており、競合他社に対するある程度の防衛 措置となっているかもしれないが、他社を圧倒するほどではない。長期的には 製品・サービスが置き換わるリスクにある程度、直面している。  製品・サービスの質の指標と、顧客の満足度または定着率の指標は、業界平 均程度である。業務運営上の失敗があれば、顧客を競合他社に奪われる可 能性がある。  資産プロフィールは、業界の他の参加者と比較して、特に優れたり劣ったりする 特徴を示さない。資産からは一貫して収益の伸びが創出されているが、長期 的な見通しはやや不透明である。 弱い (weak)  競争優位性がほとんどなく、競争上、 不利な要因を数多く抱えている。  競争優位性の多くを欠いているため に、長期的な見通しは不透明で、収益 の変動性は業界平均を上回る可能性 が高い。  競合他社に比べ、経済的、技術的脅威 や競争上の脅威に耐えられる可能性 が低い。  反対に、内訳項目の 1 つまたは複数で の弱みにより、景気後退期や競争激化 時には引き続き収益性は平均を下回 り、収益の変動性は平均を上回るだろ う。  戦略は市場の状況と一致していない、またはそれに適応していない。  イノベーションがほとんどないこと、新製品の開発・提供が遅いこと、価格引き 上げ力の欠如、および/または非効果的なバンドリングを裏付ける証左があ る。  製品には通常、競合ブランドに対する価格プレミアムがなく、多くの場合、同 業他社より低い価格で製品を販売しなければならない。  質の低下と、顧客が製品やサービスを競合他社の製品やサービスより価値 が劣るとみなすために、顧客離反に苦しんでいるか、苦しむ恐れがある。  売上高と市場シェアが、既存または新たな競合他社による強気の価格設定、 または技術の置き換えリスクに対して、短中期的に脆弱である。  製品・サービスの質の指標と、顧客の満足度または定着率の指標は、業界平 均より低い。  事業への再投資は同業他社より少なく、事業運営のための人材を保持する 能力は限られており、販売網は非効率的で、そのために売上高が低迷または 減少する可能性がある。 表 9 事業の規模・範囲・分散の評価 評価 意味 指針 強い (strong)  全体的な規模・範囲・分散により、不利 な要因や事象、傾向がすべて最も悪影 響の大きい形で組み合わされても、基 本的にその影響を受けることはなく、安 定的な収益が支えられている。  規模・範囲・分散における多大な優位性 により、経済、地域、技術的脅威、競争 上の脅威に対する耐久力が競合他社 より高い。  製品やサービスの範囲が、業界内で最も包括的な部類に入る。業界平均より 幅広い製品やサービスから、収益を得ている。  製品やサービスは、業界の他の参加者を上回る市場シェアを確保している。  特定の 1 社の顧客や少数の顧客グループに依存していない。もし依存してい る場合、その顧客は信用力が高い、その顧客の需要は持続性が高い、または 会社と顧客との間に多大な相互依存関係がある。  容易に切り替えられない特定の仕入先や関連の仕入先グループに依存して いない。もし依存している場合、その仕入先は信用力が高い、または会社と仕 入先間に多大な相互依存関係がある。  競合他社に比べて地理的により広く分散しており、1 つの地域や国内市場に 過度に依存していない。依存している場合、その市場は、多くの場合は国内市 場で、規制上の理由による。製品生産地やサービス・センターは、いくつかの 場所に分散している。  戦略的な投資を行っており、それが事業の分散に寄与している。 中程度 (adequate)  全体的な規模・範囲・分散は、同業他社 と同程度である。  経済的、技術的脅威、競争上の脅威に 対する耐久力は、業界内の他社と同程 度である。  競合他社と同程度、幅広い製品やサービスを手がけ、収益の大半を特定の1つ の製品やサービスに依存していない。  市場シェアは、競合他社と比較して平均的である。  主要顧客への依存度や集中度は業界平均を上回らず、最大顧客を失っても、 事業の安定性にとってのリスクとはならない可能性が高い。  容易に切り替えられない特定の仕入先や地域の仕入先グループに、過度に 依存していない。  国内あるいは 1 つの地域市場に過度に依存しておらず、生産拠点と売上高の 地理的分散度合いは、業界の他の参加者と同程度である。 弱い (weak)  規模・範囲・分散の欠如が、収益の安 定性と持続可能性を損ねている。  規模・範囲・分散のさまざまな要素にお ける脆弱性や依存性により、経済的、 技術的脅威、競争上の脅威に対する耐 久力が競合他社より低い。  製品やサービスの構成が、同業他社と比較してやや限られている。狭い範囲 の製品やサービスから収益を上げており、同業他社と比較して大きな市場シェ アを確保していない。  製品やサービスへの需要が、競合他社のものより少なく、その傾向が改善し ていない。  特定の顧客や少数の顧客グループに大きく依存しており、顧客基盤の特徴が このリスクを緩和していない。  高い切り替え費用を負担せずには容易に切り替えられない特定の仕入先や 仕入先グループに依存している。  グローバルな業界で事業を行っているが、その製品やサービスの販売・提供 先は、国内市場または 1 つの地域に偏っている。  主要な生産設備の資産が地理的に集中しており、自社の利益に対して高いコ

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格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 19 ストを負担せずに、迅速に他の生産設備資産に置き換える能力が限られてい る。 表 10 経営効率の評価 評価 意味 指針 強い (strong)  資産の知的利用を通じて、ま た、費用の最小化と効率向上に よって、収益を最大化している。  コスト構造は、同業他社よりも 景気悪化に耐えられるものとな っている。  コスト構造が同業他社より優れているために、稼働率や需要が理想的な水準よりかな り低い場合でも、また、景気や業界のサイクルの下降局面でも、利益が高水準、または 利益率が高い。  サイクルの下降局面でも固定費と変動費を効率的に管理する能力を実証しているとと もに、コスト削減策を成功させた実績があり、しばしば現在も継続している。  稼働率は、業界のサイクルのピーク時には最適に近い水準にあり、サイクルを通じて 業界平均を上回っている。  投入コストの増加を転嫁できることを実証しており、それが続くと思われる。  製品の質に影響を与えずに、需要の変化に対応して製造費と人件費を調整する能力 が高い、またはコストが高く柔軟性の低い労働市場においても、高い収益性を上げる能 力を実証している。  仕入先が、ボトルネックや質の問題を引き起こさずに需要の増減に対応する能力を実 証しており、会社はほとんどの最も深刻なサプライチェーンの混乱を吸収できる。  常に平均より優れたキャッシュ・コンバージョン・サイクル(現金循環化日数)とその他の 運転資本指標で裏付けられる通り、運転資本の管理に優れており、それが高水準のキ ャッシュフローと低い資金調達コストを支えている。  技術への投資が売上高の伸びを増大させる可能性が高い、かつ/または同投資がコ スト構造と経営効率を改善させる可能性が高い。 中程度 (adequate)  コスト構造が効率性と組み合わ さることで、持続的な収益を支 えており、収益の変動性は同業 他社との比較で平均的である。 コスト構造は、同業他社のそれ と類似している。  需要が極めて弱い時を除き、固定費の一部と変動費のほとんどを管理する能力を実 証しており、好調および不調時にコストを削減した何らかの実績がある。  コスト構造は、稼働率や顧客の需要が理想的な水準をかなり下回る時でも、ある程度 の収益性を上げることが可能なものとなっている。業界のサイクルまたは需要のサイク ルのほとんどで、少なくとも収支を均衡させることができる。  コスト構造は、同業他社と比肩する水準にある。例えば、売上高販売管理費率は同業 他社と同程度の水準にあり、安定的に推移する可能性が高い。  ほとんどのシナリオにおいて、生産高と品質を損なわずに人件費を調整する能力を実 証してきた、またはコストが高いあるいは柔軟性が低い労働市場でも利益を上げること ができる。投入コスト増の転嫁にある程度成功しているが、一部のみである、または時 間的に遅れている。  仕入先は幅広いボトルネックや質の問題を引き起こさずに、標準的な需要の増減に対 応しており、会社はサプライチェーンのわずかな混乱に耐えるいくらかの能力がある。  キャッシュ・コンバージョン・サイクルとその他の運転資本指標が同業他社と同程度で あることに裏付けられるように、運転資本の管理は良好である。  技術への投資が、少なくとも、コスト構造と現水準の経営効率を維持するのに役立つ 可能性が高い。 弱い (weak)  経営効率面で、資産稼働率が 低い、および/または高コスト 構造で、コスト構造の柔軟性も 低いために、同業他社より収益 性が低い。  コスト構造は、稼働率がサイクルの山にある時のみ、または需要が強い時にのみ、最 低限度を上回る収益性を上げることを可能にしている。ある程度の収益性を上げるた めには、業界の状況が良好で持続的である必要がある。  固定費管理での成功やその能力が限られており、最も典型的な変動費でさえ、今後 2 -3 年は固定的である。  需要の増減に直面したなかでの人件費削減といったコスト削減策に成功した実績が限 られている、または投入コストの増加を転嫁する能力が限られている。  コストが同業他社よりも高い。例えば、売上高販売管理費率は同業他社より高く、そう した状況が続く可能性が高い。  仕入先は、需要の小幅な増減にもボトルネックや質の問題に直面する可能性がある、 またはその技術的対応力は限られている。サプライチェーンがわずかに混乱しただけ でも、仕入先の会社との契約の履行が困難となる証左が存在する。  運転資本指標が同業他社より大幅に劣り、そのためにキャッシュフローが低水準で資 金調達コストが高いことで裏付けられるように、運転資本の管理が脆弱である。  技術への投資が足りないために、売上高の伸びが損なわれる可能性がある、かつ/また はコスト構造が同業他社に劣り、経営効率が同業他社より低くなる可能性がある。

参照

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