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136. 資本構成に関するS&Pの評価規準を用いて、キャッシュフロー/レバレッジについての標

準的な分析では捉えきれない可能性がある事業会社の資本構成に内在するリスクを評価する。

これらのリスクは、事業会社の負債と、資産またはキャッシュフローとの間の返済期限や通 貨のミスマッチが原因で発生しうる。こうしたリスクは、金利や為替レートの変動といった 外的リスクによってさらに増幅することもある。

1. 資本構成の評価

137. 資本構成は、事業会社の当初のアンカー値を、多角化とポートフォリオ効果の調整後に調

整を加える「調整要素」のカテゴリーに属する。S&Pでは、いくつかの内訳項目を評価して 資本構成の評価を決定し、その結果次第で、当初のアンカー値に1ノッチあるいはそれ以上 の上方あるいは下方の修正を加えることもあるが、まったく影響がない場合もある。資本構 成は、「1」「非常にポジティブ(very positive)」、「2」「ポジティブ(positive)、「3」「中 立的(neutral)」、「4」「ネガティブ(negative)」、「5」「非常にネガティブ(very negative)」

――の5段階で評価される。事業会社の資本構成は、ほとんどのケースで「中立的」と評価

されるとS&Pはみている。事業会社の資本構成の評価では、以下の内訳項目を分析する。

 債務の為替リスク

 債務の償還プロフィール(つまり、スケジュール)

 債務の金利リスク

格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 38

 投資

138. これらの内訳項目のいずれも事業会社の資本構成の評価に影響を及ぼしうるが、以下の段

階的アプローチに基づいて、一部の内訳項目には他の内訳項目より大きなウエートが置かれ る。

 Tier 1 リスク内訳項目:債務の為替リスクと債務の償還プロフィール

 Tier 2 リスク内訳項目:債務の金利リスク

139. 資本構成の当初の評価は、1番目から3番目までの3つの内訳項目に基づく(表21参照)。

次に、この予備評価に、4 番目の内訳項目である投資の評価に基づき調整を加えることがあ る。

表 21 資本構成の予備評価

資本構成の予備評価 内訳項目の評価

中立的(neutral) Tier 1内訳項目に「ネガティブ」の評価はない。

ネガティブ(negative) Tier 1内訳項目の1つが「ネガティブ」で、Tier 2内訳項目は「中立的」。

非常にネガティブ(very negative) Tier 1内訳項目の両方が「ネガティブ」、またはTier 1内訳項目の1つが

「ネガティブ」でTier 2内訳項目が「ネガティブ」。

140. S&Pでは、Tier 1 内訳項目のリスクは相対的に大きいとみており、したがって、資本構成

の評価に及ぼす影響も大きくなりうる。なぜなら、Tier 1 内訳項目が信用力指標に影響を及 ぼす可能性は相対的に高く、その結果、潜在的に流動性リスクや借り換えリスクを誘発する と考えるからである。Tier 2内訳項目は、それ自体は重要だが、Tier 1内訳項目ほど重要では ない。大部分のケースにおいて、Tier 2内訳項目が単独で、流動性リスクやデフォルトリスク を誘発する可能性はTier 1内訳項目より低いとS&Pは考えている。

141. 4番目の内訳項目であり、段落 153で定義された投資は、事業会社の投資が全般的な財務

プロフィールに及ぼす影響を定量化する。特定の投資は、事業会社の資本構成についての決 定に直接には関係していないものの、それが売却された場合には、一定程度の資産の保全と 財務の柔軟性を提供しうる。したがって、4 番目の内訳項目は資本構成の予備評価を調整す る可能性がある(表22参照)。同内訳項目が「中立的」と評価されれば、資本構成の予備評 価がそのまま有効となる。仮に、投資が「ポジティブ」または「非常にポジティブ」と評価 された場合、資本構成の予備評価を上方に調整して最終的な評価を導出する(表22参照)。

表 22 資本構成の最終評価

投資(内訳項目)の評価 資本構成の予備評価

中立的

(neutral)

ポジティブ

(positive)

非常にポジティブ

(very positive)

中立的

(neutral)

中立的

(neutral)

ポジティブ

(positive)

非常にポジティブ

(very positive)

ネガティブ

(negative)

ネガティブ

(negative)

中立的

(neutral)

ポジティブ

(positive)

非常にネガティブ

(very negative)

非常にネガティブ

(very negative)

ネガティブ

(negative)

ネガティブ

(negative)

格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 39 2. 資本構成の分析: 内訳項目の評価

a) 内訳項目 1: 債務の為替リスク

142. 為替リスクは、事業会社が収益を生んでいる通貨以外の通貨で借り入れを行い、それに伴

うリスク回避の措置(ヘッジ)を講じていない場合に発生する。こうした未ヘッジのポジシ ョンは、軽減要因がなければ、事業会社を2通貨間の為替レートの変動リスクに晒させる可 能性がある。S&Pは、為替相場の不利な動きが事業会社のキャッシュフロー指標および/あ るいはレバレッジ指標を弱める状況を特定して、ミスマッチがあればその重大性を判断する。

以下のシナリオでは通貨のミスマッチを考慮しない。

 事業会社のキャッシュフローが創出されている国の通貨が、当該事業会社が借り入れを 行っている国の通貨に連動し(ペッグされ)ている、または逆の場合(またはキャッシ ュフローの通貨は借り入れの通貨に対し安定しているという強固な実績と政府の政策が ある)。その例として、米ドルペッグ制の香港ドル、米ドルに対して狭いレンジに管理 されている中国元(加えて、中国の外貨準備高は主に米ドル建てである)。さらに、こ のシナリオが当面続くとS&Pが予想する。

 事業会社は債務返済コストの変動を規制や契約を通じて顧客に転嫁する能力を実証して いる。

 事業会社がナチュラル・ヘッジを行っている。例えば、外貨建てで製品を販売しており、

同じ外貨で借り入れを行っている。

143. S&Pでは、仮に事業会社が創出する外貨によるキャッシュフローが、その通貨建ての債務

を履行するのに不十分だったとしても、交換すれば、それらの債務の履行に十分な額のキャ ッシュフローを別の通貨で保有している可能性も認識している。このため、有利子負債総額 に占める外貨建て債務の相対的な額が、S&Pの分析における重要な要素となる。仮に、完全 にヘッジされた債務の元本部分を除く外貨建て債務が有利子負債総額の 15%以下であれば、

当該事業会社の債務の為替リスクは「中立的」と評価される。一方、完全にヘッジされた債 務の元本部分を除く外貨建て債務が有利子負債総額の 15%を上回り、かつ、有利子負債/

EBITDAが3.0倍を上回っていれば、さらなる分析を通じて為替リスクを評価する。

144. 事業会社の有利子負債総額に占める特定の外貨建ての債務が15%を上回り、有利子負債/

EBITDA が 3.0倍を上回っている場合には、通貨固有のインタレスト・カバレッジ・レシオ

が、潜在的な為替リスクを示唆しているかどうかを特定する。同インタレスト・カバレッジ・

レシオは、各通貨の予想オペレーティングキャッシュフロー(OCF)を、同じ通貨による今 後 12カ月間の支払利息で除したものである。OCF ではなく、EBITDA の地域別内訳を確認 した方がより簡単である場合が多い。したがって、十分なキャッシュフロー情報がないよう な状況においては、該当する通貨の EBITDA/支払利息のカバレッジ指標を計算することも ある。キャッシュフローの情報もEBITDAの情報も開示されていない場合、入手可能な情報 に基づいて該当するエクスポージャーを見積もる。

145. そのような場合には、妥当なインタレスト・カバレッジ・レシオが今後12か月間1.2倍を

下回るとS&Pが考える場合、本内訳項目の評価は「ネガティブ」となる。

b) 内訳項目 2: 債務の償還プロフィール

格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 40

146. 事業会社の債務の償還プロフィールは、債務を返済すべき期限、または可能な場合の借り

換えの時期を示すほか、借り換えリスクを判断するうえでも役に立つ。債務の償還スケジュ ールは、償還日までの期間がより長く、各債務の償還日が均等に分散している方が、短期間 に集中した償還スケジュールより、借り換えリスクは低くなる。前者の場合、事業や金融市 場関連の障害が発生しても、それに対処するための時間的余裕がより長いからである。

147. 債務の償還プロフィールの評価では、資本構成に含まれている銀行借り入れと社債(ハイ

ブリッド資本証券を含む)の加重平均年限(weighted average maturity、WAM)を測定し、償 還期限が5年を超える債務は、6年目に償還されるという簡素化した想定を立てる。

WAM = (Maturity1/Total Debt)*tenor1 + (Maturity2/Total Debt)* tenor2 +… (Thereafter/Total Debt)* tenor6

148. 借り換えリスクの評価では、流動性についての格付け規準(2014 年 12 月 16 日付

「Methodology And Assumptions: Liquidity Descriptors For Global Corporate Issuers」を参照、和 訳版は2015年1月26日付「手法と想定:世界の事業会社の流動性の評価区分」)で織り込 んだ今後12カ月から24カ月間のリスクに加える形で、これらのリスクを検討する。S&Pで は、格付けが「BBB格」以上の事業会社は「BB格」以下の会社に比べて、より確実性の高い 事業見通しを持ち、資本調達もより容易である点は認識しているが、他の条件がすべて同じ なら、借り換えリスクは、債務の償還スケジュールが短い会社の方が長い会社より高いと考 えている。S&Pはいかなる場合も、事業会社の債務の償還プロフィールを、流動性と将来の 資金の調達可能性に鑑み評価する。したがって、事業会社が近い将来に期限を迎える債務の 返済に充てる十分な流動性を維持できるとS&Pが考える場合、償還スケジュールが短いだけ で「ネガティブ」と評価することはない。

149. 仮に、WAM が2年以下で、これらの短期的な返済額が、当該事業会社の流動性に照らし

てかなり多額であるため、S&Pのベースケース予想で、当該事業会社の今後2年間の流動性 の評価が「やや低水準」もしくは「低水準」となると予想される場合、本内訳項目は「ネガ ティブ」と評価される。しかし、特定の事例では、事業会社が上述したテストにパスするか 否かにかかわらず、債務の償還プロフィールを「ネガティブ」と評価することもある。ただ、

そのような事例は稀と予想しており、これには債務の償還期限が5年以内に集中しているこ とで多大な借り換えリスクが生じた――原因は、事業会社の流動性の源泉に照らした償還の 規模、事業会社のレバレッジ・プロフィール、事業動向、金融機関との関係、および/また は、クレジット市場における地位など――とS&Pが考えるシナリオが含まれる。

c) 内訳項目 3: 債務の金利リスク

150. 内訳項目の債務の金利リスクでは、事業会社が保有する固定金利債務と変動金利債務の構

成を分析する。一般に、固定金利債務の割合が高ければ高いほど、支払利息の予測可能性と 安定性は高くなり、したがって、キャッシュフローの予測可能性と安定性も高くなる。例外 は、OCFが金利動向と一定程度の相関関係にある事業会社――例えば、売上高がインフレ率 と連動している規制対象の公益企業など――であり、これは名目金利とインフレ率との間の 典型的な相関が背景にある。

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