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1. 支配株主

254. 支配株主(存在する場合)は、事業会社の財務方針に直接または間接的な支配力を自己の

利益のために行使できることを踏まえると、事業会社の財務プロフィールに大きな影響を及 ぼす。本格付け規準では、支配株主の存在を、予め定義したマイナスあるいはプラスの影響 と関連づけることはしないものの、支配株主の戦略が中長期的に事業会社の信用力に与える 潜在的な影響を評価する。同族会社の多くに存在するような長期保有には、財務規律と、非 保守的なレバレッジに対する消極的な姿勢が伴うことが多い。一方、プライベートエクイテ ィ・スポンサーなどに存在する短期保有には、大抵、非保守的な債務レバレッジを通じた、

株主への速やかな利益還元の達成を目指す財務方針が伴うことが多い。

255. 本格付け規準では、支配株主を以下のように定義する。

 非上場事業会社の株式の過半数を所有、または取締役会の過半数を支配している単独の 株主(個人または同族)。

 株主間契約を通じて、事業会社の取締役会の共同支配権を有する株主グループ。株主間 契約は範囲が包括的である場合も、または、特定の財務的側面だけに限定されている場 合もある。

 事業会社の株式の40%以上を保有、または取締役会の過半数を支配している単独のプラ イベートエクイティ会社もしくはプライベートエクイティ会社グループ。

256. 上場事業会社で同社の議決権の50%超が上場している場合、特定の単独の株主または株主

グループが「事実上」支配権を行使している証左がない事業会社の場合、支配株主は存在し ないとみなされる。

257. 支配株主が、政府または政府系機関、インフラファンド、資産運用ファンド、多角経営事

業会社の持ち株会社、コングロマリットである場合は、他の格付け規準で別途評価する。

2. 財務規律

a) 買収がレバレッジに及ぼす影響

格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 70

258. 事業会社は、業界のダイナミクス、規制変更、市場機会、その他の要因に基づいて、多か

れ少なかれ買収を通じた成長戦略を取る可能性がある。自社の財務方針の枠組みに沿った規 律ある透明性の高い買収戦略を持つ経営陣は、将来のキャッシュフローや信用力指標の変化 について高い視認性を提供しているとS&Pはみなす。本評価には、買収戦略の観点からみた 経営陣の実績と、それが事業会社の財務プロフィールに及ぼす影響を考慮に入れる。多額の 有利子負債による買収資金の調達について、経営陣の許容度が限定的なことを裏付ける歴史 的証左は、買収に関する方針が原因で信用力指標予想が大きく弱まることはないという見方 を支える有意な情報となる。一方、明確に定義されたパラメータもないまま便宜主義的な買 収戦略を追求する経営陣は、事業会社の財務プロフィールがS&Pの予測を超えて大きく悪化 するリスクを高める。

259. 買収のための資金調達の方針と、その分野における経営陣の実績も、事業会社の信用力指

標の安定性について有意の識見を提供する。本格付け規準では、大型買収が信用力指標に及 ぼす影響を緩和するため、株式発行や資産売却などのすべての資金調達源を結集して信用力 を回復させようとする経営陣の意思と能力も考慮に入れる。財務方針の枠組みとそれに関連 する歴史的証左はS&Pの評価における主要な検討要因である。

b) 株主還元方針がレバレッジに及ぼす影響

260. 事業会社の株主に報いる手法は、当該事業会社が、さまざまな利害関係者の利益間のバラ

ンスをどう取っていくかを示す。透明性の高い株主還元方針が首尾一貫しており、業況の悪 化に応じて株主還元を調整する意思を示している事業会社の長期信用力は、そうでない会社 と比べてより強く支えられている。一方、経済情勢の悪化、業績の悪化、または株価低迷の 時期に配当金支払いを優先させる事業会社は、長期信用力を大幅に損ないかねず、さらに業 況の悪化による影響を増幅させる可能性がある。事業会社の株主還元方針を評価するにあた り、本格付け規準では、事業会社がどのように株主の期待を構築しているか、株主還元方針 を実行してきた実績、当該事業会社の株主還元と同業他社との比較などを含む、株主還元計 画の予測可能性に重点を置く。

261. 本格付け規準では、株主還元方針が透明性を欠いていたり、同業他社の方針から有意の乖

離が見られる場合には、より高いイベントリスクと変動性をもたらし、予測可能性は低いと 評価される。透明で安定した配当性向――事業会社のすべての資本要件とレバレッジ目標を 満たした後に行う、レバレッジ・レシオの安定や改善に寄与するもの――に基づき、主に剰 余金を株主に分配する手段としての役割を担う配当・株主還元方針は、長期信用力の最大の 支援要因とみなされる。

c) 投資決定に関する計画や自律的成長戦略がレバレッジに及ぼす影響

262. 新製品への事業拡大や新規市場への参入を含む自律的成長を特定し、必要資金を調達し、

実行に移すまでのプロセスは、事業会社の長期信用力に大きな影響を及ぼしうる。規律ある 首尾一貫した管理可能な自律的成長戦略を掲げ、その実行に成功している事業会社は、引き 続き第三者の資本を惹きつけ、長期信用力を維持するうえで有利にある。一方、お互いに関 係のない多数の大型かつ/あるいは複雑なプロジェクトに多額の資本を配分し、支出額が当 初予算を大幅にしかも頻繁に超過している事業会社は、自社の信用リスクを大きく増幅させ うる。

格付け規準|事業会社|一般:事業会社の格付け手法|S&P Global Ratings 71

263. 本格付け規準では、経営陣の自律的成長戦略が透明で包括的、かつ測定可能かどうかを評

価する。S&Pは、事業会社の中長期的な成長目標――戦略的な根拠や戦略の実行リスクを含

む――の評価に加え、資本配分に用いている基準の評価もする。効果的な資本配分には、ハ ードルレート、同業他社の分析、需要予測を含む資本分散の指針が含まれる可能性が高い。

大型かつ/あるいは複雑なプロジェクトを、当初予算、予算超過、期限といった諸条件を踏 まえながら、いかに首尾よく実行したかといった事業会社の実績が本評価に主要なデータを 提供する。

3. 財務方針の枠組み a) 財務方針の枠組みの包括性

264. 明確に定義され、曖昧ではなく、経営陣の行動を厳しく律する枠組みを提供する財務方針

が、事業会社の将来の財務プロフィールを判断するうえで最も信頼できる。明確かつ測定可 能で、すべての主要な利害関係者によく理解されている方針は、「サポーティブ」の評価に 合致するとみなす。したがって、財務方針の枠組みには、事業会社がキャッシュフロー戦略 と債務レバレッジ・プロフィールをどのように管理するかについて、明確に定義したパラメ ータが含まれていなければならない。これには、主要財務指標に対する制約要素(有利子負

債/EBITDAの最大閾値など)が最低1つ、または複数含まれ、後者については、当該事業

会社の業界および/あるいは資本構成の特性に該当するものでなければならない。

265. これに対し、定着した財務方針がない、方針が曖昧または定量化できない、あるいは、経

営陣の長期的な財務目標に予想外の大きなばらつきがあった歴史的証左が認められる場合は、

財務方針の枠組みの全体的な評価が「ノン・サポーティブ」となる一因になりうる。

b) 財務方針の透明性

266. 透明性が高く、すべての利害関係者に十分に理解されている財務方針の目標は「サポーテ

ィブ」と評価し、そうした財務方針目標は経時的に事業会社の財務プロフィールに影響を及 ぼす可能性が高いとみなす。一方、存在しているとしても、財務方針が主要な利害関係者に 伝達されていない、かつ/あるいは、これらの方針を順守する事業会社の強い姿勢を裏付け る歴史的な証左が限定的な場合には、「ノン・サポーティブ」とみなす。S&Pでは、開示情 報、投資家向けのプレゼンテーション資料、あるいは意見募集(public commentary)など、事 業会社がこれらの財務方針目標を伝達するさまざまな方法を考察する。

267. しかし、一部の事例では、事業会社が財務方針の目標を、主な債権者などの限られた主要

利害関係者や信用格付け会社だけに明示していることもある。こうした状況においても、財 務方針の目標を達成する強い姿勢を示す十分な実績(3 年超)があると S&P が判断すれば、

当該事業会社はなお「サポーティブ」と分類されうる。

c) 財務方針の達成可能性と持続性

268. 事業会社の財務方針の達成可能性と持続可能性を評価するにあたり、本格付け規準では、

評価対象の事業会社の現在および過去の財務プロフィール、主要な利害関係者の要求(配当 や株主還元に関する株主の期待を含む)、S&Pが長期にわたり観察してきた事業会社の財務 方針の安定性などを含むさまざまな要因を検討する。経営状況の悪化や成長機会(M&Aを含 む)が原因で、事業会社に財務方針の枠組みを変更する意思があることを裏付ける証左があ れば、「ノン・サポーティブ」の評価を支える可能性がある。

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