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市場経済の展開と発生主義会計の変容

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(1)

滋賀大学経済学部研究叢書第

2

6

市場経済の展開と発生主義会計の変容

久 保 田 秀 樹 著

(2)

市場経済の展開と発生主義会計の変容

久 保 田 秀 樹 著

(3)

略語一覧

目 次

I

「第

1

次ノfラ夕、イム・チェンジ」としての収益・…...・H ・...1 費用アプローチの成立 第1章変貌する経済と企業会計・…...・H・...……..,・H・..……...・H・...・H・..……3

1

市場情報指向生産段階の到来…...・H・-…....・H・..,…H・H・....・H・....・H ・

.

3

2 経済のルールの変化と会計のルール...・H・..…………..,・H・...・H・..…5 3 企業会計における「パラ夕、イム・チェンジ」 ……...・H・H・H ・...・H・..6 4 金融イノベーションによる「新しい現実」 …………..,・H ・..…………9

5

I

ドイツ型j会計の変貌一「生産指向」からの離脱と損益法原理の 受容・・・・・・・・

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1

2

第2章発生主義会計の成立と産業化および証券投資の大衆化……… 15 1 製造業の利益計算としての発生主義会計………...・H ・.15

2

I

証券投資の大衆化」現象としての南海バブル…...・H・-…H・H・...・H・

1

8

3 1

9

2

9

年大恐慌と財務公開制度の確立・…...・H・...・H・-…...・H・-…・

1

9

4

I

疑似仕入値」計算のための概念装置としての[対応・凝着」……24 5 発生主義会計の「生産指向性

J

…...・H・...・H・...・H・...・H・...・H・

.

.

2

9

第3章計算技法の集積としての発生主義会計…....・H・...・H・...・H・...・H・.35 1 半発生主義会計の成立と発生主義会計への移行…...・H・....・H・....…35 2

I

修正収支計算

J

としての発生主義会計…...・H ・...・H・...・H・..…..37 3 純収益説(所得源泉説)とへルマンの所得概念……....・H ・...・H ・...41 4 シャンツ純財産増加説………・…...・H ・...・H ・..…..43 5 損益計算書における所得源泉的区分の限界……..,・H ・...……..,・H ・....47

(4)

1

はじめに………...・H ・-…...・H ・..……...・H ・..…...・H ・...・H・

5

1

2 rASOBAT

.lの「意思決定有用性一多元的規準アプローチ」と多 元的評価・・・・・・

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5

3

3 アメリカにおけるインフレーション会計の経緯...・H・..…...・H・..……56 4 時価情報の強制開示から任意開示への移行…・…....・H ・...・H ・H ・H ・...59 5 結び……...・H ・..……...・H ・..…………...・H ・..………...・H ・..61 第II

「第2次パラダイム・チェンジ」としての資産・・………・…65

負債アプローチへの移行

第5章 資産・負債アプローチへの移行と企業会計におけるストック中心 思考・・・・・・・・...・・・・・・・・・

6

7

1 AAA

会計原則における連続性としての「利用者指向」…...・H ・..…

6

7

2 r

概念的基礎」としての

WASOBAT

l .. ..・H ・...・H ・H ・H ・..…………

7

1

3

r

対応・凝着パラダイム」からのパラダイム・チェンジと概念ス テートメント・フ。ロジェクト…...・H・..…...・H ・..…...・H ・...・H ・..……

7

3

4 FASB

概念フレームワークにおける二つの概念的利益観…………

7

7

5 二つの概念的利益観の貸借対照表および損益計算書に係る相違点…80 第6章 資産・負債アプローチと金融資産の評価問題………...・H ・..…

8

7

1 AAA

報告書における実現概念の変遷……...・H ・..…...・H ・..…...・H ・

.

.

8

7

2 収益認識基準としての実現概念と「市場テスト」としての実現概 念...・・・・・・・・91 3 資産の認識・評価基準としての実現概念と金融資産……...・H ・...94

4

収益・費用アプローチにおける「原価・実現」の意味………99 5 資産・負債アプローチと有価証券の時価評価………102 第7章金融イノベーションと財務会計………・…...・H・...・H・...・H ・...109 1 はじめに...・H ・..……...・H ・..…...・H ・...・H ・..…...・H ・..………109

(5)

2 新金融商品とリスク評価...・H ・H ・H ・...…・…....・H ・...・H ・-…....・H ・110 3

r

新しい現実」としてのリスク管理...・H ・...・H ・H ・H ・..……...・H ・..112

4

結ぴ ...117 第8章発生主義会計の「変則性」としての土地の会計処理………....・H ・.121 1 はじめに………...・H ・...・H・H ・H ・..………...・H ・...・H ・..121 2 インフレーション会計と土地評価....・H ・....・H ・-…・・H ・H ・...・H ・..122 3 土地評価と取得原価主義の実体維持効果…・…………...・H ・-…124 4

r

金融資産」としての土地…...・H ・..…………...・H・...・H ・..………126 5 土地の会計処理の「変則性j と時価情報開示...・H・..………...・H・..128 第9章 経済のグローパル化と連結会計制度…....・H ・-…...・H ・-…....・H・.135 1 はじめに …・・……・…・・・・・・…・・・…・・・・・…・・・・…・…・……・・・・・・…・…・・….135 2 オフバランス金融と連結会計制度……… 138 3 連結会計制度の目的………...・H・-…....・H ・...・H ・...・H・.140

4

関連当事者に係る情報開示・H ・H ・..…...・H ・..………...・H ・..……

1

4

3

5 日本における関連当事者に係る情報開示に関する実態調査結果…149 第四部 「ドイツ型」会計にみられる企業会計の変貌……H ・H ・-一…153 第10章 会計類型としての「アメリカ型」及び「ドイツ型」の特色...・H ・..155 1

r

製造企業一株式会社会計」としての近代会計の成立...・H・...・H・.155

2

r

英米モデル

J

と「大陸モデル」 ………...・H ・...・H ・H ・H ・..………157 3

r

市場中心経済」と「共同体中心経済」 ……....・H ・..……....・H ・...160 4 結び…・…・……...162 第11章 ドイツ実体維持論の転向一生産から分配へ …...・H ・....・H ・....・H・.165 1 生産指向的実体維持概念における理論的ジレンマ...・H ・..…...・H・..165 2 生産指向的実体維持概念の実際的適用に係る問題点…....・H・H・H ・.170

(6)

4

純額実体維持概念と年度利益の分配との関係....・H ・-…....・H ・-……

1

8

3

5 純額実体維持計算と帰属割当…・……・・…H ・H ・..……...・H ・....・H ・....189 6 インフレーションによる資本需要填補に関する前提………

1

9

3

第12章 「ドイツ型」会計の変容一継続性原則の明文規定化 ………199 1 はじめに………...・H ・H ・H ・..…………...・H ・..………199

2

ドイツ商法における継続性原則の明文規定化までの経緯...・H・..…

2

0

0

3

実質的継続性原則としての評価継続性...・H ・..………

2

0

4

4 形式的継続性に関わる問題点……...・H ・...・H ・...・H ・...・H ・..……212 5 結び……...・H ・H ・H ・...・H ・..……....・H ・..…...・H ・..……...・H ・H ・H ・....214

参考文献

初出一覧

(7)

[略語一覧]

AAA American A

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(アメリカ会計学会)

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(オーストラリア会計研 究財団)

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(会計原則審議会[米])

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(アメリカ会計士協会)

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(アメリカ公認会計 士協会)

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(会計調査公報[米])

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(会計調査研究[米])

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(会計基準委員会[英])

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(会計連続通牒[米])

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(国際決済銀行)

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(会計手続委員会[米])

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(カナダ勅許会計士協会)

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(財務会計基準審議会[米])

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(連邦準備理事会[米])

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(国際会計基準委員会)

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(ドイツ経営監査士協会)

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(日本公認会計士協 会)

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(証券取引委員会[米])

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(財務会計基準書[米])

(8)

1966年 の ASOBAT (“A Statement of Basic Accounting Theory" (AAA [1966J))の公表から30年が経過しようとしている。 ASOBATよって提示され た会計の将来像の一部は、今日では当たり前のこととして現実化している。その ことを思うと、 30年前に既に今日の状況が描き出されていることに驚かざるをえ ない。しかし、その将来像の他の一部は今日の状況と一致していない。例えば当 時は、情報処理技術や統計的手法の開発によって経営管理の合理性が向上し、よ り効率的な世界が可能となるという、今日からみると直線的、かっ楽観的な予測 が行われている。だが現実には、コンビュータ技師たちによって操作きれるメイ ン・フレーム中心のコンビュータ・システムは、多数のワークステーションから なるコンビュータ・ネットワークに取って代わられつつあり、コンビュータの発 展は、経営管理の合理性を直線的に向上させるよりも、むしろ経営管理そのもの を変えてしまうという、当時、予測すらできなかった変化をもたらしている。 また、「原価・実現アプローチ」としての動態論に代わる「大きな理論」を提示 しようという ASOBATの意図は、「情報会計論」という新しい理論領域をもた らし、今日、尚、輝きを失っていない。しかし、 ASOBATから約10年後に公表 された、 AAAの『会計理論および理論承認に関するステートメント

J

(AAA [1977J)が、 ASOBATのようなステートメントの作成を命じられていたにもか かわらず、その作成を断念したことに象徴されるように、その後、動態論ないし ASOBATのような「大きな理論」は現れていない。代わりに、個々の「小きな 理論」に甘んじているのが現状である。 「大きな理論

J

の不在という会計学の現状は、時代の大きなうねりの反映でも ある。時代の変革期にあって様々な領域で、旧来のパラダイムでは解決しえない 問題としての「変則性

J

“a(nomaly")が生じ、新しいパラダイムの模索が続けら れているのが現代であろう。その模索のためには、旧来のパラダイムにおける「変 則性」の認識と、それを通じてのパラダイムの相対化が前提となると考えられる。 本書で試みたのは、発生主義会計の成立とその変容を市場経済の高度化、すなわ ち市場経済の展開との関わりから解明することによって、新たなパラダイム模索

(9)

の出発点に立とうとすることである。 市場経済の展開として重要な側面は、まず第一に、市場情報指向の生産への移 行を意味する。つまり「作れば売れる」時代から「売れるものを作る」時代への 移行である。そして、市場経済の展開のもう一つの意味は、マネー市場のグロー パル化である。すなわち、本来の営業活動に対して、規模の点でも重要性の点で も、副次的なものと位置づけられてきたマネー経済が、マクロ・レベルでもミク ロ・レベルでも「モノ

J

の経済を規定してしまうほど拡大したことを意味する。 第

I

部では、発生主義会計の成立を[第

1

次ノfラダイム・チェンジ」として位置 づけ、その歴史的経緯を概観する。そして、発生主義会計の説明理論としてペイ トン=リトルトンの『会社会計基準序説.!(Paton and Littleton [1940J)で展開 された「対応・凝着アプローチ」や財務会計基準審議会 (FASB)の概念ステート メント・プロジェクトにおける概念的利益観である「収益・費用アプローチj を 検討することによって発生主義会計の特徴を明らかにする。 続いて、第

I

I

部では、「資産・負債アブローチ」への移行を「第

2

次パラダイム・ チェンジ」として位置づけ、「収益・費用アプローチ」に生じている「変則性j に ついて、先の市場経済の高度化という問題との関わりにおいて明らかにする。 以上の考察の対象は、専らアメリカにおいて発展した企業会計および会計理論 であった。第凹部では、こうした「アメリカ型」会計とは別の独自の企業会計お よび会計理論を展開してきた「ドイツ型」会計に生じた変化について考察する。 書物としてこれまでの研究をまとめることができたのは、多くの方々の御蔭で あり、この場であらためて感謝したい。 神戸大学名誉教授、現大阪学院大学流通科学部長の武田隆二先生には、大学院 時代から今日まで公私共に親身に勝る御指導を賜り、いかなる言葉によっても感 謝の気持ちを表しきれない。御恩lこ報うべく今後の一層の精進を誓うのみである。 先輩をはじめとする武田先生一門の方々にも、大学院の学生の頃より様々な御 指導を頂いている。心からお礼を申し上げ、武田先生門下のまさに研究者共同体 の一員として研究生活を送ってこれたことに感謝したい。 研究者としての人生を聞いて下さったのは、故小島男佐夫先生である。一生涯

(10)

告申し上げ、御冥福を心よりお祈りする。 刈山和俊先生をはじめとする尾道短期大学の方々、そして滋賀大学経済学部の 方々にも様々な御指導を頂いてきた。心からお礼を申し上げたい。また、

1

9

9

2

年 にはドイツでの在外研究の機会を与えていただき、さらに今回、本書の刊行の機 会を得ることができたことに感謝している。 最後に、研究者としての道を見守ってくれている両親、蔭で支えてくれている 妻典子に感謝する。

(11)

I

1

次パラダイム・チェンジ」としての

収益・費用アプローチの成立

(12)

1

章 変 貌 す る 経 済 と 企 業 会 計

l

市 場 情 報 指 向 生 産 段 階 の 到 来 今日の企業社会、つまり多くの人々が企業で働くことによって生活の資を得、 また衣食住の隅々に至るまで企業の提供する有形・無形のモノに取り固まれて生 活する社会が現れたのはそれほど古いことではない。アメリカにおいてもせいぜ い

1

9

3

0

年代以降、日本では第二次大戦後の

1

9

5

0

年代以降である。我々が一般に思 い描く企業のイメージはその頃生み出されたものに近い。端的にいうと、ピラミッ ド型ヒエラルキーによる大規模組織によって運営され、大量生産・大量流通を行 う企業である。こうした企業を大規模製造企業と呼ぽう。大規模製造企業につい ては、従来、企業会計を始めとする近代的経営管理手法は、専ら「生産」にのみ 向けられていた。 ドラッカー

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はいう。 「しかし、われわれが市場からの情報をもたなかったころは、意思決定とくに 日々の意思決定は、『生産』をどつするかといっ決定に終始せざるをえなかった。 すなわち意思決定は、工場内の状況によって左右きれていた。われわれは、もっ ている情報、あるいはもっていると信じている情報、すなわち『生産』のコスト に関する情報に頼らざるをえなかった。

J

(上回他訳

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1

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J 1

9

1

頁)。 現在、対応、・凝着アフ。ローチの確立の前提となった大量生産・大量流通システ ム、ピラミッド型大規模企業組織、テイラー・システムといった管理手法等様々 な側面で、大きな変化が生じている。いわゆる脱産業化時代の到来である。その 結果、生産自体の性格にも大きな変化が生じている。ドラッカーによれば、

1

1

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0

年代の代表的工業製品だった自動車の場合、総コストに占める原材料とエネル ギーの割合は、

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0

パーセントだった。しかるに

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0

年代の代表的工業製品たる半 導体マイクロチップの場合、 2パーセント以下である。…(中略)…そして最後 に、最新のエネルギーともいうべき『情報』は、原料やエネルギーを一切使わな い。『情報』は完全に知識集約的である。

J

(上回他訳

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1

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J 1

7

4

頁)。 脱産業化経済も、結局、新しい製造業中心の経済であることには変わりはない。

(13)

4 第I部 「第I次パラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立 すなわち、コーエンニザイスマン (Cohenand Zysman [1987J)が指摘するよう に「われわれの経験しつつある変化は、工業からサービス業への変化ではなく、 ある一つの工業社会からもう一つの工業社会への変化で、ある。

J

(大岡・岩田訳 [1990J 359頁)しかし、今日、大規模製造企業を中心とした大量生産・大量流通 の経済は変化しはじめ、製造のみを指向した段階から、より広範な市場情報を指 向する段階へと移行つつある。 アメリカ会計学会 (AAA)の『会計理論および理論承認に関するステートメン トj(AAA [1977J、以下では

W

1

9

7

7

年報告書』と略す)は、「アメリカ会計文献の なかでおそらく最も強い影響力をもった著作J(染谷訳 [1980J20頁)と評するベ イトンニリトルトンの『会社会計基準序説j(Paton and

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eton [1940J、以下 では『序説』と略す)で展開された学説に対して、[対応・凝着アフーローチ

J

“m(atch -ing and attaching aproach")と名付けている。「現代の大部分の会計理論家に共 通してみられる態度というものは多くないが、そのうちのひとつは、広〈認めら れている対応一付着パラダイムに対する不満で、ある。J(染谷訳口980J 95-96頁) という記述からすると、当報告書ではペイトン=リトルトンの理論は一つのパラ ダイムとみなされている。

W

1

9

7

7

年報告書』は、パラダイム・チェンジ後の新たなパラダイムを明示する ことはなしえなかったが、近代会計学において少なくともパラダイムに類似した 役割を担ってきた「対応・凝着アフ。ローチ

J

に、それによって解決しえない問題、 つまり「変則性J“(anomaly")が生じていることを指摘した。 1940年の『序説』 の公表から数えても半世紀を越える今日、脱産業化の波に伴い、その「一般性」 が希薄化しつつあるのは、ある意味で当然と言わねばならない。 対応・凝着アフ。ローチにとっての変則性を考える際、経済自体の変化に着目す る必要がある。従来の原価会計の限界のーっとして、ドラッカーはいう。「原価会 計は、原材料を除く総製造コストのうち、ブルーカラーの労働コストが80パーセ ントを占めていた1920年代の現実に基づいている。J(上回他訳 [1992J 377頁)。 原価計算を組み込んだ製造業の利益計算としての対応・凝着アプローチは、生 産指向的な装いにより、大規模製造企業の利益計算として成立した。とすれば、 ドラッカーの言葉は単に原価会計についてのみ妥当するのではなく、それを組み

(14)

込んで成立した対応・凝着アプローチ自体についても妥当するように思われる。

2

経 済 の ル ー ル の 変 化 と 会 計 の ル ー ル 経済の変化は、企業会計にも重大な影響を及ぼさずにはいない。 「棚却資産にせよ、有価証券概念にせよ、実物財が中心であった。現在は棚却 資産の概念にソフトが加わり、有価証券概念にデリパティブといわれるコン ビュータ・マネーが加わってきた。…このような巨大な金融市場を支配するルー ルは、製品を作り、それを売買の対象とする実物経済のルールとはまったく違っ たものである。 経済のルールが異なってくると、そこには会計のルールも異なってくることに なろう。

J

(武田

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1

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4

頁)。 まず、経済のルールの変化による会計上の問題をみていくことにしよう。対応・ 凝着アプローチの中心は、棚却資産や減価償却資産に対する「将来の費用」とし ての位置づけにある。商業中心の時代には、「流動・固定j という資産分類が確立 された。もちろんその分類は今日なお連綿と引き継がれているが、今日の企業会 計におけるより本質的な費用性資産分類の基本は、「棚却資産

J

、「償却資産」とい う原価配分方法による分類である。しかし、経済ないしは社会の情報化によって、 コンビューターのソフトウェアといった、従来の原価配分方法による資産分類が 妥当しないケースが生じ、また、経済の金融化によって、例えば資産の費用化計 算自体を不要とするリース契約が普及しているo そして、そもそも対応・凝着ア ブローチの説明能力の将外にあった貨幣性資産に属する新金融商品の問題がある。 「情報jが取引の対象となることによって生じる会計上の問題のーっとして、 棚却資産概念の拡大という問題がある。つまり、「ソフトウェアのような無形財も また棚却資産であり、ビデオカセットに含まれた情報もまた棚却資産であるとい うように、その概念が拡大した。それと同時に、棚却計算で原価配分するという 点で、棚却資産が固定資産と区別される基本的なメルクマールであったものが、 棚却資産についても償却法が適切な原価配分法となってきた。

J

(武田

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2

J3

6

頁)。 「棚卸資産」、「償却資産」という名称自体が計算方法を表しているにもかかわ

(15)

6 第I部 「第I次パラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立 らず、棚却資産に対する償却法による原価配分というのは、単なる形容矛盾に留 まらない重要な問題である。 次にリース契約についてであるが、近代会計の成立にとって固定資産の会計処 理は最大の問題であり、減価償却の確立は、即、近代会計の確立ということもで きる。しかし、脱産業化の中で、例えば固定資産についても、企業の関わり方が 大きく変化してきた。リース契約普及の根本には、製造設備の所有がかつてのよ うに利益の源泉の所有ではなく、資金の長期的拘束によって利益の源泉を脅かし かねなくなったという経済自体の変化がある。ライシュ(R.B.Reich)は次のよう にいう。「古い大量生産方式の企業では、工場、設備、商品、それに巨額の従業員 給与のような固定費は、適切な管理と予測を実現するために必要で、あった。高付 加価値型製造企業においては、そんなものは必要のない負担である。

J

(中谷訳 [199

1

]

121-122頁)。 その結果、金融的観点から製造設備等の固定資産が扱われることになる。資産 の価値は、その所有に基づくのではなく、その利用に基づくものであるというの は、まさに減価償却計算の根底にある思考ないし擬制であったはずである。すな わち、減価償却という計算手続きは、資産というストック量を費用としてフロー 化することによって計算に取り込む計算技法であるo リース契約は、その擁制を まさに具現化したものと言えよう。その結果、その擬制を基礎にした減価償却と いう計算手続が不要となる。逆に、費用というフローをストック化(資産化)と いう擬制によって計算に取り込むことになった。近代会計における減価償却計算 の重要性からすると、この問題も極めて重要である。対応・凝着アプローチの根 幹ともいえる、原価配分法による資産分類が妥当しないケース、あるいは原価配 分法による費用認識を必要としないケースが生じているのである。

3

企 業 会 計 に お け る 「 パ ラ ダ イ ム ・ チ ェ ン ジ

J

アメリカ会計学

(AAA)

においては、伝統的に「時価」対「原価」という対立 軸で議論が展開きれてきた。すなわち、ある意味でアメリカ会計理論の多くは時 価主義擁護論ともいうべき傾向を持ち、例えば

ASOBAT

も多元的評価という形 で「時価」対「原価」という対立を回避し、時価の導入を第ーの目的としたとい

(16)

う見方も可能で、ある(本書第

4

章参照)。しかし、企業会計における原理的対立 は、元来、「財産法」対「損益法

J

ないしは「貸借対照表的アフ。ローチ」対「損益 計算書的アプローチ」との間で繰り広げられてきた。近代会計の成立は、前者か ら後者への重点移動として特徴づけられる。同ーの対象が、依拠する思想、によっ て全く違って見えてくるという点で、静態論から動態論への移行は、少なくとも パラダイム・チェンジになぞらえることのできる大変化であった。そこで、本書 では、近代会計の成立を「第

1

次パラダイム・チェンジ j と位置づけたい。 n977年報告書

J

ヵマ旨摘した「対応・礎着パラダイム」の「変則性」、およびそ の拡大の結果としてのパラダイム・チェンジは、財務会計基準審議会 (FASB)の 概念フレームワーク・プロジェクトにおける“therevenue and expense view" から“theasset and liability view"への概念的利益観の移行として顕現した(本 書では、前者を「収益・費用アプローチ」、後者を「資産・負債アプローチ」と呼 ぶことにする。両者の訳語については藤井 [1992Jに詳しい。)。この「収益・費 用アプローチ

J

から「資産・負債アプローチjへの移行は、上記の原理的対立聞 の再重点移動ということができょう。 資産・負債を収益・費用の観点から説明しようとする「対応・凝着アプローチ

J

が、繰延資産といったいわゆる計算擬制資産だけでなく、棚卸資産や設備資産に 対しでも「将来の費用」として新たな定義を行ったのと同じく、リスク管理シス テムの構築と拡大は、既存の金融資産・負債についても「リスク」という観点か ら新たな再定義を求めているという点で動態論の成立に匹敵する「第2次ノfラ夕、 イム・チェンジ」ともいうべき変化ということができる。すなわち、「第

1

次ノfラ ダイム・チェンジ」が、上述のように営業資産中心の変化であったのに対して、 「第

2

次パラダイム・チェンジ j は、金融資産・負債および資本中心に生じつつ ある変化なのである。但し、現実には、営業資産の「金融資産化j ともいうべき リース契約に見られるように単純に営業資産と金融資産とを区別するのが困難な 境界領域の問題もあるため、以上はあくまでも理念的なレベルでの整理である。 第1次および第2次の「パラダイム・チェンジ」を対比する形で表したのが「図 1 -1

J

である。 静態論のもとでは、債権担保力を体現する会社財産であった建物や設備が、動

(17)

8 第I部 「第1次ノマラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立 図1-1 第l次および第2次パラダイム・チェンジの対比 第

1

次パラダイム・チェンジ (収益・費用という観点から の資産・負債の再定義)

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負 債 資 産 トー一一一一一一一→ 一 資 本 第2次ノfラダイム・チェンジ (リスクという観点からの金 融資産・負債の再定義) 一一歩 態論のもとでは、企業の将来の収益稼得の源泉とみられることになる。例えば、 メイ

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は、

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年のいわゆる「メイ書簡」において次のようにいう。 「会計の立場からすれば、今日の企業の著しい特徴は、将来の利益をうみ出す 手段となるであろうという明確な目的と期待をもって、ある期間になされる支出 の大きさであります。そして、そのような支出が財務諸表上どのように扱われる べきかということが財務会計の中心問題であります。

J

(加藤他訳

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]6

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頁)。 しかし、パラダイム・チェンジとして動態論の成立を理解しようとするとき見 過ごしてはならないのは、それが貸借対照表全体で生じたのではなく、金融資産・ 負債および資本を除く営業資産についての変化であったという点である。この意 味で、動態論の成立は「部分パラダイム

J

(武田

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]

参照)の変革であった といえよう。この観点からすると、貸借対照表における「流動・固定」区分は、 必ずしも静態論の残宰ではない。例えば、貸借対照表が提供する重要な情報の一 つである流動比率の算定には、棚却資産と固定資産との区別が必要となる。この ことは、単に流動比率の算定に不可欠といった単純なことではなく、市場と直接 関連する資産と企業内部での利用を前提とした資産との区分として、いわば本質 的な分類なのである。したがって、いわゆる動態論のもとでは、貸借対照表は、 損益計算という観点からは連結環として副次的な役割を果たすにすぎないが、流 動・固定区分を採る限り、貸借対照表独自の情報提供能力も温存きれているので

(18)

ある。 また、原価評価は、インフレ傾向にある経済においては、債権者保護という商 法の要請に抵触しないが故に貸借対照表の評価原則として許容されたのであり、 それ以前の時価評価から断絶的に、貸借対照表全体についてパラダイム・チェン ジが生じたわけではない。そのことは、今日なお、開業費、開発費および試験研 究費の繰延資産に係る配当制限の規定や、株式分割において一株当たり純資産額 が

5

万円以上という制限が設けられている規定において明かなように、貸借対照 表上のストック量としての純資産額を利用した債権者保護の要請は、今日も商法 計算規定に引き継がれていることによっても明らかである。

4

金融イノベーションによる「新しい現実」 「モノ」の世界の変化に加えて、貨幣の世界にも大きな変化が生じている。国 際決済銀行

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により行われた調査によると、

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月における

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日当りの 世界の外為市場出来高総額は、 6,

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億ドル近くになると推計しており、これを基 に年換算すると、世界全体の外為市場の取引高総計は、

1

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兆ドルになるという。 一方、世界全体の財・サービスの貿易取引(および貿易外取引)の実需取引合計 額は、

5

兆ドル程度であり、外国為替取引額が実需取引の

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倍に達していたとい う (宮崎

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頁)。 「すなわち

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年代以降、世界経済を動かす力が、もはや財・サービスの取引 (実需取引)ではなく、金融面の取引に大きく移行したこと、換言するとモノの 経済にとってかわって、おカネの経済が世界経済のリーデイング・ファクターと なってきたことを有力に物語っている。

J

(宮崎

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頁)。 もちろん、こうした傾向は、ク、、ローパル企業に最も影響を及ぽすものであり、 企業会計の対象がこうしたクゃローパル企業に限定されるわけではない。きらに、 「モノ」の経済と「カネ」の経済との分離、あるいは、金融活動の比重が増した からといって、経済活動の中で生産活動が持つ重要性が減じたわけではない。し かし、労働集約的生産ないし資本集約的生産のウエイトが減り、知識集約型経済 の重要性が増したという事実を無視するわけにはいかない。こうした変化は、対 応・凝着アプローチによる利益計算成立の時代には存在しなかった未曾有の現象

(19)

10 第I部 「第1次パラダイム・チェンジj としての収益・費用アプローチの成立 であり、対応・凝着アプローチによる利益計算の一般性の限定をもたらすには十 分な変化といえるだろう。 金融イノベーションにおいて、単にデリパティブとも呼ばれる派生金融商品

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は、重要な位置を占める。デリパティブと は、広義には、その価値が一つ以上の原資産価格(ないし原資産のインテ府ックス) に依存している金融取引契約を意味する。そして、その本質は、様々な金融リス クを、リスクを負う意志と能力を有する主体に移転することにある。すなわち、 デリノ〈ティブの特徴は、資産・負債の元本とそこから生じるリスクとを分離した 点にある。例えば、自社運用の債券に対しては金利スワップによって金利リスク をへッジできる。また輸出入業者の外貨資産に対しては先物為替予約ないしは通 貨オプションを利用することによって通貨リスクをへッジすることができる。こ のようにリスク管理の観点からみると、企業は、デリパティブを利用することに よって、金融取引や商品取引に伴うマーケット・リスクを特定化し、個別に管理 することができる。デリパティブは、慎重に利用される限り、財務に対し効率的 かっ効果的なリスクへッジの手段を提供し、また、金融コストの削減、運用利回 りの向上のためにも利用きれている。 米国の会計検査院

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の推計によると、

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年末の 先物為替予約等を含む、世界のデリパティプ残高は、想定元本ベースで17兆ドル に達し、それは米国の国内総生産の約3倍近い規模に相当する。デリパティブに対 する一般の関心も近年高くなっているが、その最大の契機は、やはり国内外のデ リパティブ取引による多額の損失計上である。

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年 代 に 入 札 内 外 の 銀 行 、 証 券会社だけでなく事業法人の損失が報じられている。本来、リスク回避の手段と して登場したデリパティブが、今やそれ自体が多大なリスクを負うものになると いう皮肉な現象が進行する中、デリパティプに対する規制

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が大きな問題となって いる。財務会計は文字どおり「金融の

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J

会計である以上、金融イノベー ションは、財務会計に重大な影響を及ぽす。 デリパティブ取引は、今や金融機関のみならず、多くの事業法人にとって既に 「経常的な取引」としてリスク管理されねばならないのである。また、「取締役が 回避することが可能なリスクを回避しないで損害を与えた場合には、取締役の責

(20)

任が生じることになる

J

(岸田 [1994]17頁)というように「何もしないことによ るリスク」が許きれない時代が到来している。そして「将来の利益を生み出す手 段」たる資産については原価評価が必然であったように、 ALM (Assets and Liabilities Management、総合的資産・負債管理)の対象としての資産・負債に ついては時価評価が求められる。 デリパティブをパラダイム・チェンジの契機として取り扱うことの可能性は、 まさにデリパティブの問題が、「経済のルール」の変化を意味するからである。「第

1

次パラダイム・チェンジ」も大量生産・大量流通に基礎を置く産業経済の確立と いう「経済のルール」の変化に対応したものであった。今日、経済に生じている のは、産業経済の確立にも匹敵する大きな変化である。 対応、・凝着アプローチ確立は、計算書の観点から見るなら、損益計算書への重 点移行であり、それは従来の貸借対照表からは漏れてしまう変化、つまり「オフ バランス化

J

してしまう変化を損益計算書という新たな計算書を公表計算書類の 体系に組み込むというイノベーションによって「オンバランス化」することであっ た。このように対応・凝着アプローチも結局、オフバランスとなる大きな変化を 「損益計算書」の導入という形で貸借対照表以外のところで「オンバランス化」 させたと理解すれば、新金融商品の開示場所としての注記が、実は当座の開示場 所ではなく本来の開示場所としての認識されてもよいのかもしれない。この点に 関する根拠のーっとして、有価証券の時価情報の開示は、「取得原価」を基礎とす る対応・凝着アフ。ローチからの離脱なり修正ではないことが、『序説jの記述の中 に見ることができる。すなわち、損益計算書上での原価の修正は無意味ときれて いるが、貸借対照表上での、特に貨幣性資産に関する時価情報の補足的提供につ いてはむしろ積極的に勧められている。有価証券の時価情報の開示について以下 のように述べられている。 「損益計算書の問題は別として、当面の財政状態の報告に関連して見積時価が 相当の重要性を持つことが多い。このことは『貨幣』資産、たとえば運転資本の 予備として保有きれている市場性ある有価証券 (marketablesecurities)のごと き、についてとくに真実である。記録された数字を市場の変動に応じて間断なく 改訂しようと試みることはあまりすすめられないが、毎期の貸借対照表中に所有

(21)

12 第I部 「第1次パラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立 証券類の市場価値を括弧を付して示すことは、その市場価値の決定が信頼しうる ものである限り何ら不当で、はない。

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、中島訳

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頁より引用)。 これは、貨幣性資産に関わる問題が対応・碓着アプローチ外の問題であること の表明と理解することもできる。その意味で貨幣性資産の時価の開示は、本来、 対応・凝着アプローチと対立的なものではないという見方もできょう。このよう に『序説』おいても、当該アプローチの貨幣性資産に対する説明力の限界が明ら かにされているo 企業会計の変容は、今に始まったことではない。

ASOBAT

が公表された時代 も確かに企業会計の変化が声高に叫ばれた。しかし、大規模製造企業中心の経済 という点では当時はそれ以前の時代と何も変わっていなかった。現在進行してい るのは、そうした大規模製造企業という前提が覆るという想像もしえなかった変 化なのである。 脱産業化の時代にあっても、生産が経済の重要な問題であることには変わりな いが、情報集約的な生産は、労働集約的ないし資本集約的な従来の生産とは異質 の会計問題をもたらしている。また、金融活動も脱産業化の中で、単に生産とい う主たる活動に付随する活動といった位置づけでは済まなくなっている。これら の変化は、大規模製造企業の時代に成立した従来の対応・凝着アプローチが適用 しうる範囲の相対化ないし「一般性jの喪失を招来しているという認識から、新 たな[パラダイム jの模索が始められねばならない。

5

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ドイツ型j会計の変貌ー「生産指向」からの離脱と損益法原理の受容 「ドイツ型」会計は、従来の会計の類型化においても「大陸モテソレjのーっと して、「英米モデルjとは区別きれてきた。このことは、近年盛んに論じられてい るアメリカ経済とドイツや日本の経済との異質性に着目する見方と通ずるもので ある。端的にいえば、「アメリカ型」会計の特徴が「市場規制型j会計であるのに 対して、「ドイツ型」会計は「有限責任会社規制型」会計として特徴づけられる。 会計理論においても「ドイツ型」会計は、「アメリカ型j会計とは異なるユニー クな展開を遂げてきた。その一つが、実体維持論である。その特徴は、生産単位

(22)

としての企業の給付能力維持を貨幣計算としての会計の領域で図ろうとする点に ある。これは、外部金融に依存することなく、内部金融によって生産力維持を篠 保しようとするものであるo しかし、この「生産指向的」実体維持概念は、維持 尺度についての理論上のジレンマ、そして仮にその点を度外視して適用しでも時 価の継続的上昇による償却不足に対する「取戻し償却」の問題等により、ある種 の行き詰まりをみせてたいた。 「生産指向的」であるが故にないがしろにされていた利害関係者の利害に係る 問題と、当時の西ドイツ企業が総体として他人資本金融によって実体維持を確保 していたという事実等から、利害関係者指向の純額実体維持概念が、 1970年代に 展開きれる。これは、 ドイツ実体維持論の生産指向から分配指向への移行として、 その転向ともいうべき大きな変化であった。 また、会計規制の面でも、 EUの市場統合策の一環としての会計規制の調和化 の中で、従来、異質とされてきた「大陸モデル」と「英米モデル」との間で相互 浸透が生じているo その具体的事例として、「アメリカ型」の損益法中心会計にお いて重視される[継続性原則」が、 EUの会社法指令第4号、第7号および第8 号の国内化を果たした1985年のドイツの会計基準法に導入された。 以上の二つの変化のうち、会計理論における「生産指向jから「利害関係者指 向」への転向は、生産のみに関心が向けられていた段階からの離脱として理解す ることができる。そして「ドイツ型」会計規制における損益法原理の導入は、一 国の範囲内における経済の中で、「アメリカ型」ないし「ドイツ型

J

等独自の展開 を遂げてきた会計が、より広域な市場での活動を前提とした高度な市場経済への 移行に伴って、相互浸透を余儀なくされていることの反映として位置づけること カずできるだろう。

(23)

第2章 発生主義会計の成立と産業化および証券投資の大衆化 15

2章 発 生 主 義 会 計 の 成 立 と 産 業 化 お よ び

証券投資の大衆化

1

製 造 業 の 利 益 計 算 と し て の 発 生 主 義 会 計 簿記から会計への「拡大」についてリトルトン(A.

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は次のように 述べている。 f19世紀は会計史上重要な世紀である。…(中略)…この世紀は大英帝国およ び合衆国の両国において事業会社の広範な発展があったために、会計にとって重 要な時期となったのである。このような発展は産業上の生産を急速に増し、大衆 の投資証券の保有を著しく増加するに至り、この二つの理由によって会社は簿記 を会計にまで拡大させるための重要な刺激を与えたのである。

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(大塚訳

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8頁)。 ここで、リトルトンは、簿記から会計への「拡大」の契機として、「産業上の生 産の急速な増大」すなわち「経済の産業化」と「大衆の投資証券の保有の増大

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つまり「証券投資の大衆化j とを挙げている。リトルトンは f19世紀

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,こ焦点を 当てているが、いずれの要因も18世紀に英国においてその萌芽が見られ、 19世紀 にはアメリカにもそれが伝わり、花開くことになる。以下では、「経済の産業化」 と「証券投資の大衆化」という二点を手がかりに歴史的な経緯から、発生主義会 計の成立について考察してみたい。 まず、「経済の産業化j という点について見てみよう。「経済の産業化」とは、 端的に言えば「モノ

J

の生産中心の経済成立の時代、つまり産業化経済の時代で あった。産業化経済の時代は、会計レベルの問題として、膨大な固定資産の会計 処理、つまり、資金を長期間固定化する機械や工場を会計上どのように処理する かという問題をもたらした。その意味で、近代会計を「固定資産処理会計」とし て特徴付けることができょう。しかし、この「固定資産処理会計

J

が一朝一夕に 確立したわけではなく、その事は、会計史や経営史の研究によって明らかにされ ている。産業化によってもたらされた新たな経済は、すべて人類にとっては未知

(24)

のものであり、その対処の方法の確立が試行錯誤によらねばならなかったことは、 ある意味で当然といえよう。 1920年代のアメリカでは、豊富な天然資源、フォードの新しい生産技術等、そ してテイラーの科学的管理法とが相侠って企業の生産力が飛躍的に高まりはじめ た。それは、端的に言えば大規模製造企業による「モノ」の生産中心の経済成立 の 時 代 で あ っ た 。 ベ イ ト ン ニ リ ト ル ト ン の 『 会 社 会 計 基 準 序 説j(Paton and Littleton [1941J、以下では『序説』と略す)が公表された1940年は、ブラウンに よれば、貸借対照表から損益計算書への、利益計算の重点のシフトが完了した年 だという。すなわち、「貸借対照表から損益計算書への移行の証拠として、その他 にも数多くの著書があげられよう。しかし移行のための基盤は、 1920年代に敷か れ、 1930年代に加速され、 1940年までに完了したという点は明かである。J(田中・ 井原訳 [1978J 46頁)。 AAAの『会計理論および理論承認に関するステートメント.1(AAA [1977J以 下ではH977年報告書Jと略す)もベイトン=リトルトンの理論を「対応J“(match -ing")と「凝着J“(attaching")という用語に光を当てて説明し (AAA[1977J p.9 -10、染谷訳[1980J20頁)、「対応・凝着アプローチ」と呼んで、いる(AAA[197

7

]

p.41、 染 谷 訳 口980J 90頁)。対応・凝着アプローチによる利益計算の適用は大規 模製造企業中心に想定きれている。経済を支えているのは何も「モノ」の生産だ けでなく、流通や金融・財務も不可欠な活動であることはいうまでもない。しか し産業社会の成立以来、現在の物的「豊かさ」を実現した最大の要因は生産の 拡大であったことは否めない。そのため、少なくとも対応・凝着アプローチによ る利益計算の適用が想定される典型例が製造企業であることは当然の成りゆきと O A ノ ト 品 、 ぇ一一=口 『序説』における会社会計の対象は、一貫して「生産的経済単位」としての企 業である。それは次のように述べられる。「企業実体および事業活動の継続性の基 礎概念は、企業的または制度的な観点を前提とするがゆえに、会計理論も同様に、 第一に生産的経済単位としての企業を対象としており、第二義的にのみ、資産に たいする法的な有権者としての出資者を問題とするのである。

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(Paton and

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ttleton [1941J p.ll、中島訳 [1958J 17-18頁より引用)。

(25)

第2章 発生主義会計の成立と産業化および証券投資の大衆化 17 このように「対応・凝着アプローチj とは、大量生産と大量流通とを統合した 産業化経済という当時の新たな現実を写し取るべく開発された概念装置であった。 収益・費用は、発生主義会計全体を構成する要素とされるが、その概念の説明 にとって最も重要なのは、製造業における売上高と売上原価である。すなわち、 対応原則が完全な形で適応される対象である。ここでは確かに収益は価値増殖で あり、費用はそのための価値費消であるという仮定が成立しうる。その差額は、 文字どおりの価値の正味の増殖分であるとの説明は説得力を有する。ベイトン= リトルトンの費用・収益に対する「努力」と「成果」という形容

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[1941J p.14、中島訳 [1958J 23頁)は、このことを最も端的に表している。 「対応jについては、発生主義会計の根幹をなす計算手続きの説明概念として 知られているが、 11.疑着」については余り積極的に取り上げられてこなかった。し かしこの「凝着」も大規模製造企業の時代の会計にとっては極めて重要な概念で ある。すなわち、製造企業の利益計算にとっては、原価計算を組み込むことが不 可欠の意味を持つ。「凝着」は、原価要素のうち、棚卸資産の発想の延長で説明で きる材料費や労務費とは異なる、生産設備の減価償却費を始めとする製造業特有 の「経費」の原価性を主張するための論拠を構成する。他方、「対応jとは、大規 模な修繕を始めとして、大規模製造企業に不可欠の多額の支出への備えを組み込 むための論拠となった。この意味で「対応、・凝着アプローチj は、大規模製造企 業という現実に却したものとなっている。さらに、原価計算によって算定される 収 益 費用 (売上高) (売上原価) 商 業 売 値 仕入値 製造業 売 値 疑似仕入値(製造原価) ↑ 「対応・凝着」

(26)

製造原価は、新たに生み出される価値のための犠牲が次に新たに生み出きれる価 値により補償されるべきものという仮定の上に成り立っている。そして、利益と はまさに新たに生み出された価値から失われた価値を補償した後の剰余というこ とになる。 以上のように、原価計算は、製造業における「仕入値」を創り出すための計算 技法であり、「対応・凝着」はそれを説明するための概念装置として理解すること ができる。いわば、「商人的利益計算」に「技術者的原価計算」を接合して、近代 会計は生まれたともいえよう。

2

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証 券 投 資 の 大 衆 化

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現 象 と し て の 南 海 バ ブ ル 次に「証券投資の大衆化j について見ていこう。日本経済がつい最近経験した 「 ノfフソレの崩壊

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に先だ‘って、過去三世紀において大がかりな投機及びその結末 としての「パフや/レの崩壊

J

が何度か生じている。 17世紀のオランダのチューリッ プ投機ノ〈フ、、ル、 18世紀のイギリスの南海バブル (SouthSea Bubble)、そして20 世紀のアメリカにおけるフロリダの不動産バブルとニューヨーク証券取引所の株 式投機バブルといった歴史的なバブルとその崩壊である。「証券投資の大衆化jと いうと比較的最近の現象のように思えるが、 18世紀のイギリスにおいて既に生じ ており、バブルの崩壊によって投資大衆が多大な被害を被る事態まで起こってい る。 まず、事件を概観してみよう。当時のイギリスは大英帝国の繁栄が長〈続いた ため、市民は裕福になっていたのに対して、投資機会が不足していた。投資対象 を生み出すために1711年に設立された南海会社 (Governorand Company of the Merchants of Great Britain trading to the South-Sea and Other Parts of America and for encouraging the Fishery)は、政府の国債の元利払い能力に対 する信頼回復のため、

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万ポンド近い国の債務を肩代わりし、その見返りに南 米貿易権を独占的に与えられた。南米貿易は大いなる富の源泉と考えていた大衆 は、南海会社の株を熱狂的に買い求めた。その後、第二、第三の南海会社を求め る大衆に、プロモーター達は市場で新規公開株を次々と発行した。こうしたバブ ル会社は投機熱に水をさすことなく潰れたが、

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年ついに南海会社の株価が暴

(27)

第2章 発生主義会計の成立と産業化および証券投資の大衆化 19 落し、パニック状態に陥った。この南海泡沫投機では、アイザック・ニュートン も多大な損失を被ったという。この投機熱の原因についてガルプレイス(J.K.Gal. braith)は次のように説明しているo 「このブームを正当化したのは株式会社というものの発見であった。これは発 見とういより再発見という方が当を得ているだろう。株式会社はイギリスではそ れより百年以上も前からあった。それにもかかわらず、今や突然、それが金融界 および経済界全体の新しい驚異として登場したのである。

J

(鈴木訳

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頁)。 イギリスにおいて公共会計士が最初にその重要性を認識きれるのは、

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世紀の 南海泡沫事件という文字どおりの「バブル」の崩壊後に、チャールズ・スネル (Charles Snel!)という会計士が南海会社の従属会社の一つを検査し、報告書を 提出した時に始まるという(中野

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。したがって、会計ないし会計士の社 会化は、「証券投資の大衆化」が前提であるとはいえ、むしろその後の「バブルの 崩壊」という消極的要素こそが直接的契機といえるのかもしれない。 こうした傾向は、その後のイギリスの会計士の活躍にも一貫して見られる。例 えば、「イギリスの会計士は、たとえ経済恐慌の時代を通じてその有用性を確立し たにせよ、彼ら自身、悲運の産物ではなかった

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(小津・佐々木訳

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頁) と語るジンマーマン (V.K.Zimmerman)ではあるが、続いて次のように述べてい る。 「企業社会の不安定性は、

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年から

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年までの期間を通じて記録されたイ ングランドの企業倒産に関する

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件の訴訟事件によって具体的に証明された。 この時代のイギリスの会計士が清算と破産という会計局面を強調したことは異常 ではない。つまり、破産訴訟事件に公平な結論をもたらすよう要求された適正か っ迅速な会計処理に精通した人びとを求める膨大な国家的要請があったからであ る。

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(小津・佐々木訳

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頁)。

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年 大 恐 慌 と 財 務 公 開 制 度 の 確 立 イギリスにおいて大衆投資家の保護のために破産法の整備によって社会的役割 を担うようになった会計士は、イギリスの資本と共にアメリカにやってきた。し

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かし、大衆投資家の保護をきっかけに発達したイギリスの会計士制度も、アメリ カにおける投機熱および、パフボル崩壊に伴う大衆投資家の損害の防止には役立たな かった。歴史的バブル現象を振り返って、その渦中にある人々の投機熱を「ユー フオリア (Euphoria、陶酔的熱病)Jと呼ぶカソレプレイスは次のように言う。 「陶酔的熱病が生じると、人々は、価値と富が増えるすばらしさに見ほれ、自 分もその流れに加わろうと躍起になり、それが価格をさらに押し上げ、そしてつ いには破局が来て、暗〈苦しい結末となるのであるが、こうした陶酔的熱病が再 び起こったときに、規制であるとか、正統的経済学の知識のようなものは、個人 や金融機関を守る働きはしない。J(鈴木訳 [1991J 18頁)。 アメリカでは、 19世紀後半に企業の合同・合併の進展によって、大衆所有によ る製造企業が多数出現した。その結果として、いわゆる「所有と支配の分離」が 進展する。すなわち、「企業の大衆による所有」は「所有と支配の分離」と同義で もある。ホーキンス (D.F.Hawkins)によれば、特に1920年代を通じて、それま での閉鎖的な私的所有企業が、次々に大衆所有企業へと移り変わり、アメリカに おける株主の数は、 1900年の約50万人から1920年の約200万人、そして1930年には 推 定1000万人へと増加したという(山口訳 [1972J 161頁)。 株式会社は、「所有と支配の分離」を招来した。しかし、それがすぐさま財務公 開につながったわけではない。企業家は、主に競争者を援助することをおそれで、 なお財務を秘密にしたがる傾向にあった(山口訳 [1972J 175頁)。結局、財務公 聞が制度化されるのは「バブルの崩壊」によって投資大衆が損害を被った後のこ とで、あった。 1920年代のアメリカでは、楽観主義が支配し、ビジネスへの信頼が強かった。 第30代大統領クーリッジ(在任1923年 1929年)は、「アメリカのビジネス(やる べき仕事)は、ビジネス(事業)である。」という言葉を残している。その中で不 動産と株式市場への関心が急速に高まった。 1920年代半ばにはフロリダで土地投 機が始まる。投機が本格化した1924年一1925年には、地価が数週間で倍加すると期 待されたという(鈴木訳 [1993J 102頁)。しかし、やがて1926年には完全な暴落 に終わった。 それから間もない1928年に株式投機がアメリカあげてのブームとなる。そして

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第2章 発生主義会計の成立と産業化および証券投資の大衆化 21

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年の

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月の始めには市場平均はピークに達する。

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月始 めまでのI年半の株価の上昇率は、それまでの5年間のそれに匹敵したという(井 手訳

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頁)。しかし、

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日月曜日に、市場は当時の標準を上回る出来 高を伴う安値で始まり、水曜日に状況は一層悪化した。木曜日の午前中の株価は 底なしと思われるほど下落した。いわゆる「暗黒の木曜日」である。だが、人々 に安心感を与えるための大銀行家等による声明や行動によって、事態は一時的に 好転した。しかし、週明けの月曜日には大量の売りが出て、翌

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日はニューヨー ク証券取引所の歴史上最も破滅的な日となり、その後も株価は続落した。そして、 この株式市場の暴落がやがて世界的な大不況へとつながっていく。 「陶酔的熱病」に対して、どのような制度も無力であるとする先のカソレプレイ スの言葉は、プレヴ、イッツ=メリノ

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によっても 裏付けられる。

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(アメリカ会計士協会)が全株式会社の監査実施を計画しようとしたと き、証券取引所の反応は冷たかった。誰も『当時の繁栄』に手を加えたくなかっ たのである。会計専門業へのその後の批判のなかでは、会計士にはもっと多くの ことができたはずで、あるという指摘がしばしばなされている。しかし、政府と金 融の両部門が投資家保護にほとんど関心がなかったことを前提とすると、その批 判は不当のようである。

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(大野他訳

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頁)。 「陶酔的熱病」が去り、人々が多くの損失を被った時、「次に来たものは怒りで あり、また非難すべき個人または機関を探し出すことであった。

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(鈴木訳

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頁)というガルプレイスの言葉はこの場合にも見事に当てはまる。井尻教授は、 そのことについて次のように語っておられる。 「ここで話がとびますが、

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年(昭和

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年)の株式大暴落から証券取引委員会 の設置ならびに財務公開制度の確立に至った当時の事情を、少し知る必要が数年 前に起こりました。それで、ヴ、ァージニア州の山中まで車をとばし、証券取引委員 会の第

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回の会計局長をされたカーマン・ブラウ氏にお話を伺いに行ったことが あります。ここで彼がいうのに財務公表制度は株式大暴落の罪を負ういけにえの 生まれかわったものである、暴落前の市場の熱狂ぶりはとても筆紙に尽くしがた いほどで、財務諸表の数字など誰も見向きもしなかった、それが暴落後急にみな

図 1 1 ‑4  し一名目 利益 資産に係る実現¥ した価額上昇分/ 取 得 原 価 再調達価額 実現収益 投下貨幣資本の回収部分 」 一 一 、 F 一 一J 、一一一一一一~一一一一一一~ 販売時点調達時点 意味する。つまり、実体維持に必要な資金の源泉を収益にのみ求めようとする点 に特色がある。以上の過程を示したのが「図 1 1 ‑ 4  J である。 これに対して、純額実体維持概念では資産に係る実現した価額上昇分のうち、 自己資本で調達きれた資産については収益から控除されるが、他人資本で調達さ れた

参照

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