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インフレーション会計の展開における rASOBATj の意義

ドキュメント内 市場経済の展開と発生主義会計の変容 (ページ 58-72)

l はじめに

AAA(アメリカ会計学会)によって1966年に公表された AStatement 01 Basic  Accounting  Theoη "、いわゆる ASOBAT(AAA [1966])で展開された会計 は、利用者指向型として特徴づけられるが、利用者指向の傾向は、アメリカ会計 ではそれ以前から存在した。例えば、 AAAの1936年 の 会 計 原 則 試 案 (AAA

[1936] )において次のようにうたわれる。

「会計原則の適用の最も重要な事例は会社会計の領域、特に損益並ぴに財政状 態を外部へ報告する諸表の作成のうちに存する。企業および行政機関の重要な諸 決定の中で、これらの報告諸表に依存するものは非常に多いので、これらの報告 諸表はその経済的並びに社会的重要性を著しく増大した。

J

(中島訳 [1964]87  頁)。

しかし、 AAAの『会計理論および理論承認に関するステートメント.1(AAA  [1977]、以下では D977年報告書』と略す)も指摘するように、それに基づいて 会計原則試案が構築きれていたわけではなかった (AAA[1977]  P.ll、染谷訳

[1980]  23‑24頁)。

一方、ペイトン=リトルトン (W.A.Patonand A.C.Littleton)も次のようにい 7

「会計の目的は、企業に関する財務上の資料を経営者、出資者および公衆の要 請にかなうように蒐集編成して提示することにある。

J

(Paton and Littleton 

[1940]  P.1、中島訳 [1958] 1頁よりヲ│用)。

ペイトン=リトルトンについては、 D977年報告書』は、それが演鐸的な議論を 示すかぎりでは、われわれは意思決定モデル接近法とみなすとしている (AAA

[1977]  P.28、染谷訳 [1980]62頁)。

しかし、実際の会計自体は、およそ意思決定指向的に発展してきたわけではな

52  I 1次パラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立 い。すなわち、「現在の会計実務は、目的の一貫した説明をなすこともなく、異なっ た目的を満たすことを試みることによって、時間の経過とともに、展開してきて」

(法政大学会計学研究室訳 [1973J 163頁)おり、 11950年代以前においては、会 計理論について綿密に作成きれた多数の研究書は会計のアウトフ。ットの利用者に はふれてはいたけれども、それらの研究書の理論構造がいわゆる利用者の情報『要 求』にもとづいていなかったことは、はっきりしている。J(AAA [1977J  p.ll、 染谷訳 [1980J 23頁より引用)からである。

経済学は未来を取扱い、未来に関する意思決定を取り扱うのに対し、会計学は 主として過去的な記述にたずさわるもの(伏見・藤森訳 [1964J 1頁)という理 解を前提に、利益算定に関する経済学的概念と会計学的概念とを調和させる努力 が な さ れ るo す な わ ち 、 ペ イ ト ン (Paton[1922J)、 キ ャ ニ ン グ (Canning

[1929J)、スウィーニー (Sweeney [1936J)、マクニール (MacNeal [1939])、 エ ド ワ ー ズ = ベ ル (Edwardsand Bell  [1961J)、ムーニッツ (Moonitz

961J)、スプローズ=ムーニッツ (Sprouseand Moonitz [1962J)等の「真実 利益」理論( trueincome" theory)の唱道者は、新古典派経済理論及び経済行 動の観察に基づいて、それまで歴史的記録及び保守的計算に専念してきた会計を、

カレン卜・コストもしくはカレント・バリューを表すように再構築しなければな らないと提案したのである (AAA[1977J  p. 6、染谷訳 [1980J 14頁)。

n977年報告書』がいう「真実利益j理論とは、要するに時価擁護論であった ということができる。その意味で、アメリカ会計理論の歴史を振り返ると、イン フレーション会計理論史が、そのままアメリカ会計理論史といってもよいほど重 要な意味を持ってきたことが分かる。

「意思決定有用性アフ。ロームチj と呼ばれる ASOBATは、「時価」と「原価」

のいずれが「真実な利益」かという観点とは別の観点から、時価情報の問題を取 り上げるo

1

真実利益」理論においても、明示的でないにせよ、少なくともインプ リシットには「真実な利益」は情報利用者にとっても最も有用であるということ が仮定きれていたはずで、ある。しかし、「真実か否か」という形で問題を設定する 限りは、例えば「時価」と「原価」のうち、いずれが真実か、あるいは「一般物 価変動修正'情報」と「個別物価変動修正情報」のうち、いずれが真実かという問

題に決着をつけざるをえない。それは、一方で、、手書ベースの複式簿記システム を前提とした限られた情報処理能力という条件からの要請にもマッチしたアプ ローチであったと言えよう。

これに対して、意思決定有用性アプローチは、会計システムを「経済的意思決 定のために情報を提供する特殊な応用情報システム

J(AAA [ 1 9 6 6 J  p . 6 4

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J  9 3

頁より引用)として解釈することによって、「真実な利益」とは何かと いう問題を棚上げし、会計ないし会計理論の新たな展開を可能にした。本章では、

インフレ会計の経緯の中での

ASOBAT

の意義に限定し、

ASOBAT

が果たした 役割、およびその後のインフレ会計への影響を取り上げてみたい。

2  WASOBAT

.lの「意思決定有用性一多元的規準アプローチjと多元的評価 会計システムを応用情報システムとして位置づけることは同時に、情報利用者 にとっての有用性、すなわち意思決定有用性をシステムの頂点に据えることを意 味する。その背景には、コンビュータ・テクノロジーの発達の他、統計技法等を 駆使して目ざましい発展を遂げつつあった他の管理技術が、企業の唯一の情報シ ステムとしての会計システムの位置を脅かしつつあったという事情も存在した。

意思決定有用性を掲げる会計システムは具体的にはどのように構築されるので あろうか。

ASOBAT

は、利用者のニーズが利用者自身にとっても必ずしも明確 でないと言う。そして、明確な論拠が示きれないまま、情報基準の問題へと話題 が転換きれる。

ASOBAT

は、いわば理念として、意思決定有用性を掲げるが、

その下に具体的な会計システムを展開するために多元的基準アプローチを採用す る。

「有用性は必然的に利用者の観点から決められる。ところが、とりわけ会計情 報の場合には、利用者は、しばしばどのような会計情報が自分たちにとってもっ

とも有用であるかを決める資格をもちあわせてはいないか、さもなければ、すく なくとも、自分たちの必要性を明確に表現することができないことがある。幸い にも、この有用性の規準は、さらに測定と実行とをもっとしやすくする諸基準に わけることができる。

J(AAA [ 1 9 6 6 J   p .   3

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J 4

頁より引用)。

多元的基準アフ。ローチは、意思決定 有用性アフ。ローチを前提として初めて成

54  I 「第1次パラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立 立する。後に H977年報告書

J

は次のようにいうo

f

意思決定 有用性目的が認め

られなければ、多元的規準接近法はこれほどまでに発展しなかったと思われる。」

(AAA [ 1 9 7 7 J   p

.l

6

、染谷訳

[ 1 9 8 0 J3 5

頁より引用)

「潜在的な会計情報を評価するにあたって使用すべき規準を提供するものとし て

J(AAA [ 1 9 6 6 J  p .  7

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J1 1

頁より引用)勧告された

4

つの情報基 準のうち、「目的適合性

J

、「検証可能性j、「不偏性jはいずれも時価情報開示の正 当化に援用きれている。

順を追って、それぞれの記述を見てみよう。まず、「目的適合性の基準jの箇所 で、

2 0

年前の原始記録原価が

2 0 0

0 0 0

ドル、現在の原価が

4 0 0

0 0 0

ドルの建物の例 が挙げられる。前者が、所得税目的の減価償却の計算に適しているのに対して、

後者は、建物を購入しようとする者にとっては高度の適合性を持っとする。そし て、建物を売ろうとする所有者にとっては、

f 2

つの情報はそれぞれ適合性をもっ ているが、両方いっしょのはつがどちらか一方だけの場合よりも高度の適合性を もってくる。

J(AAA [ 1 9 6 6 J   p . 9

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J1 5

頁より引用)とする。時価 情報開示の積極的支持ではないにせよ、多元的評価の勧告につながる例示である ことは間違いない。

次に、「検証可能性の基準

J

ついては、「時価についてのいくつかの見積が検証 不能で、あるという理由で会計目的のために資産を『時価

J

で評価することは承認

できないとする考え方は支持しがたい。

J(AAA [ 1 9 6 6 J   p . 2 8

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J4 2  

頁よりヲ│用)という立場から、原価情報にも、例えば減価償却計算における耐周 年数の見積といった不確定要素が混入し、決してすべてがリジットな要素から構 成されているわけではないことが指摘される。こうして原価情報の検証可能性を

「相対化」した上で、「歴史的取引にもとづく評価の検証可能性の程度はきわめて 高い。しかし目的適合性を増加きせるために検証可能性を多少犠牲にすることが、

情報の有用性を増加させることもありうる。

J(AAA [ 1 9 6 6 J  p . 2 8

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J 4 3

頁より引用)とする。

そして、「不偏性」についても、原価情報に有利な属性ではあるが、会社の経営 障が、外部者に対して会社をできるだけよく見せようとして、外部者への財務報 告に対する経営陣の意向に偏向が生じることがあるとして、いったん相対化きれ

る。その上で、そうした偏向を排除するのに時価評価が貢献することができると する

(AAA[ 1 9 6 6 J   p . 2 9

、 飯 野 訳 口

9 6 9 J4 3

頁)。

利用者指向を標携する以上、時価情報開示についても、本来、利用者の情報ニー ズを根拠に勧告きれるべきである。勿論、将来の研究によるその可能性ないし必 要性も示唆きれてはいる。しかし、当時は実証研究の蓄積もまだ存在していない。

また、時価が予測に対して目的適合的であるという論拠は何等示きれていない。

そこで、歴史的原価の欠点の指摘と共に多元的評価が導入される。

「そのおもな批判は、歴史的原価が将来の利益、支払能力または全般的経営効 率の予測の基礎としては不十分なことに関係をもっ。われわれは、歴史的原価に よる情報はある目的には適合するとしても、あらゆる目的には十分で、ない、とい うことをみとめなければならない。したがって、われわれは歴史的原価による情 報とともに時価による情報をも報告することを勧告する。

J(AAA [ 1 9 6 6 J   p

.l

9

、 飯野訳

[ 1 9 6 9 J2 9

頁より引用)。

また、

ASOBAT

では、将来指向性が強調きれるが、何がどのように将来の予 測に役立つかの具体的論証はなされていない。すなわち、過去の利益と将来利益 の予測については「企業の過去の利益は将来の利益を予測するのに適合したもっ とも重要で、あり、かっただ

1

つの情報であると考えられる。

J(AAA [ 1 9 6 6 J   p p .   2 3 ‑ 2 4

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J3 6

頁より引用)とし、時価と将来予測との関連については 次のように、時価の正当化につなげられるにすぎない。

「他方、時価は企業の取引のみならず、完了した取引をこえて環境が企業に及 ぼした影響をも反映している。したがって時価は予測が重要で、ある多くの用途に 対して高度の目的適合性をもっている。

J(AAA [ 1 9 6 6 J   p . 3 0

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J4 6  

頁より引用)。

このように、時価情報開示の必要性が情報基準との関わりで強調されるが、同 時に原価情報も情報基準の観点からその必要性を説明される。すなわち、「しかし ながら歴史的原価による情報は完了した市場取引から得られるので、歴史的原価 にもとづく記録には高度の検証可能性があり、個人的偏向がない。そのうえ量的 表現は通常たいていの取引条件によって簡単かつ直接に行なわれる。

J (AAA 

9 6 6 Jp . 3 2

、飯野訳

[ 1 9 6 9 J4 8

頁より引用)として、原価情報が、「検証可能

ドキュメント内 市場経済の展開と発生主義会計の変容 (ページ 58-72)