l 半 発 生 主 義 会 計 の 成 立 と 発 生 主 義 会 計 へ の 移 行
発生主義会計の説明は現金主義会計との対比で行われることが多い。歴史的に も現金主義会計が発生主義会計に先行したと考えられる。現金主義会計とは「現 金収入一現金支出」という極めて明確な利益計算方式であり、その差額がプラス の場合、つまり「正味現金収入」が存在すれば、それが利益ということになる。
計算方式と共にその利益概念も極めて明確で、ある。
この現金主義会計に続いて成立したとされる半発生主義会計は、信用制度の発 展により現金収入に加えて「将来の収入(債権)
J
、現金支出に加えて「将来の支 出(債務)J
が計算に含められ、次のような算式による利益計算方式であると説明 される(黒津 [1977J 72頁)。r (
現金収入+将来の収入)‑ (現金支出+将来の支出)J一見、現金主義会計の算式と比べて債権と債務が加わったにすぎず、発生主義 会計の重要な計算技法である減価償却がまだ現れてないことから、単に過渡的な 計算方式と評価されることがあるが、半発生主義会計は次の2点において正に現 金主義会計とは全く異なり、近代会計としての発生主義会計の萌芽であるとみな すことができる。
(イ) 現金主義会計の下では具体的貨幣としての「現金」が計算の基礎になって いるのに対し、半発生主義会計には「将来の現金収支」すなわち、将来現金 を受け取る権利(債権)及び支払う義務(債務)という具体的貨幣以外の要 素が利益計算に混入することになった。
(ロ) 利益計算に具体的貨幣以外の要素が混入した結果、算出される利益も具体 的貨幣量、すなわち現金有高と黍離することとなった。
上記の2点は、端的にいえば、計算基礎について具体的貨幣からの離脱であり、
抽象的利益概念につながる発生主義会計へのいわば橋渡しとなる変革であったと 考えられる。
36 第I部 「第l次パラダイム・チェンジ」としての収益・費用アプローチの成立
この具体的貨幣からの離脱は、いわゆる利益計算と資金繰りとの分離といった それまで存在しなかった問題を企業に新たにもたらしたという点でも大きな変革 であったと思われ、「半発生主義会計」という名称、(黒津 [1977J 72‑73頁)は極 めて重要な意味を持つ。
利益計算において売掛債権と買掛債務が組み入れられる契機となったのは、信 用取引の存在自体ではなく、信用取引のウエイトが無視できないものになったと いう事実であると考えられる。すなわち、信用取引自体は、何もこの時代に初め て登場したわけではなく、それ以前に存在したと考えられるが、その規模が比較 的小さい段階では利益計算の枠内に取り込まなくとも影響は少ない。しかし、半 発生主義会計の成立した時代には、利益計算から信用取引を排除することは、そ の利益計算そのものを無意味化してしまうほど、信用経済が発達していたという 理解が可能で、あろう。それは第一に量的な増加であり、第二には、信用取引を保 証する社会経済システムの成立という質的な問題である。
現金主義会計より半発生主義会計を経て、発生主義会計が成立する。現金主義 会計から発生主義会計への移行は、一般に、発生主義会計の成立要件として挙げ られる固定資産の増大、棚卸資産の恒常有高の増大等が、現金支出に基づく計算 が意味をなさなくなるほど顕在化したためと考えられる。また、成立の背景とし て、ブラウン(C.D.Brown)は、株式会社という企業組織形態の登場、投資家的 観点の出現、連邦所得税制すなわち、実現概念にもとづく所得決定への取引的ア プローチの登場等を挙げている(田中・井原訳[1978J 85‑87頁参照)。
発生主義会計は、「キャッシュ・フローを変換もしくは集計する一方法
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(伊藤訳 [1986J 10頁)であり、修正収入支出計算として特徴づけられる。ビーバー(W.H.Beaver)は「発生主義会計のフ。ロセス」を次のように表している(伊藤訳 [1986J 11頁)。
図3‑1 発生主義会計のプロセス 変 換
孟 支 出 ; 子 │発生主義会計
アウトプット 純利益 収益 費用
非貨幣性資産 負債
純 資 産 繰延利益
そして、発生主義会計は、将来キャッシュ・フローや配当支払能力について、
現在キャッシュ・フローよりも望ましい指標を提供するためにキャッシュ・フロー を変換しているといってもよいと説明している(伊藤訳 [1986J 11頁)。
FASBよって1978年に公表された概念ステートメント第 l号(FASB [1978aJ) では、発生主義会計について次のように説明されている。
「発生主義会計に基づく企業の稼得利益に関する情報のほうが、一般に、現金 収支の財務的影響に限定した情報よりも、良好なキャッシュ・フローを生み出す 企業の現在および将来の能力をあらわすすぐれた指標となる。
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(平松・広瀬訳[1994J 8頁)。
発生主義会計を修正キャッシュ・フロー計算として把握し、それがキャッシュ・
フロー計算より有用であるという説明は近年の研究に始まったことではない。例 えば、発生主義会計についてペイトン=リトルトンは次のように説明している。
「…会計は支出と収入とを対応するのではなくて、努力と成果、取得された用 役と供与された用役、取得の価額総計と処分の価額総計とを対応する。これらは すべて『費用と収益Jまた『発生主義会計J (accrual accounting)という言葉の なかで理解されているところである。J (Paton and Littleton [1940J p.16、中島 訳 口958J 26頁より引用)。
2 r
修 正 収 支 計 算J
としての発生主義会計今日、発生主義会計として統一的に説明されている計算システムは、実際には いくつもの計算技法の積み重ねとして成立してきたものであるo 前述のビーバー の図において「発生主義会計」として示されている箇所は、より具体的には個々
38 第I部 「第1次パラダイム・チェンジ j としての収益・費用アプローチの成立
表3‑1 発生主義会計の適用類型
項 目 数割当基準
ガス・電気等の役務の
当期消費量に対する 支出基準 支払事象等
経過勘定項目 時間基準
棚却資産の原価配分 継続記録法 配分法 棚却計算法 有形償却資産、繰延 時間基準
資産の償却 逓減基準
生産高基準
引当金 見積法
の計算技法の組み合わせから成り立っている。発生主義会計を個々の数割当基準 別に示したものが「表3‑1 Jである(武田 [1991aJ 147頁「表1Jに 加 筆 修 正)。
この表で明かなことは、各項目ごとにそれぞれそれを計算処理するための計算 技法が発生主義会計の中に組み込まれているという点である。まさに今日の企業 会計は、会計実務が問題解決型の接近法を採ってきた結果、成立したものであり、
企業の計算をめぐる新たな様々な問題に対処すべ〈新たな計算技法が計算システ ムに組み入れられることになる。発生原則の具体的適用である「支出基準」、「配 分法」、「見積法」は、計算技法としてはそれぞれ別個のものである。
このうち「支出基準」については、金額も期間も共に確定しており、また外部 取引であるので、比較的計算手続きは単純である。それに対して「配分法」の場 合は、内部取引を対象とするため予測要素や仮定を含む比較的複雑な計算手続き
を必要とする。
企業の事業活動を貨幣と「モノ」との対流関係として考えた場合、発生主義会 計は、概して言うと貨幣と「モノ jの対流にズレが生じる時、貨幣の流れ、つま り収入・支出を「モノ
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の流れによって修正するという構造を持っている。具体 的には原価配分と呼ばれる手続きによって、期末決算整理の際に収入・支出が修 正きれる。すなわち、内部取引については、貨幣事象、つまり支出が「モノjの 費消に直接リンクしていないので、貨幣事象としての原価支出を費消という「モ ノJ
の側面から資産と費用とに配分するのである。但し、ここでの「モノ」とは 単に有形財だけではなく、無形財をも含むものであるが、特に無形財については、従来の会計技法では対処できない問題が生じている(武田口992J 32‑33頁参 照)。また、「配分法」の中でも、例えば、棚却計算法と減価償却計算とは、原価 配分という点で戸は類似した構造を採るものの、計算技法としては全く異質である。
費用計算における現金支出との恭離は、さらに次の段階では「対応
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なる概念の下に未支出の費用認識にまで拡大することになる。それは、「見積法」による引 当経理として今日の発生主義会計に継承きれている。つまり、一旦費用が現金支 出から離れることによって、費用が具体的現金支出を上回る結果となったのであ る。
修正収支計算である以上、費用が「修正支出」である一方で、収益は「修正収 入」となるはずであるが、発生主義会計の主たる関心は、「修正支出」としての費 用の精轍化にのみ向けられていた。リトルトン (A.C.Littleton)は、『会計発達史』
の中で次のようにいう。
「工業においては、原料と労働が製品に変わっていく過程が経営の焦点をなし ているが、商業においては、すでにあるところの商品を交換することにその重点 がある。…だが、工業の出現すると同時に、労働や用役に対する支出は、原料の 場合と同じく、やがてきたるべき変化を待機しつつあるところの資産項目とみな
ければならなくなってきた。J (片野訳[1952J 476頁、下線は引用者による)。
巨大な生産設備を駆使する大規模製造企業においては、過去の支出のうち過去 の損益計算に対応しなかったものが資産として繰延べられ、当期の損益計算に関 与することになる。いわゆる「配分法」適用のケースである。代表的なものは設 備資産の当期の減価償却分であるが、製造業の場合、機械設備の減価償却費が当